ダイレクト・アタッキュア・ショー   作:川崎三文

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四話【Direct Attack 前編】

ジン「お集まりの皆様にお知らせいたします。時間となりましたので、これより第一回『魔法銃士プリズムアタッキュア オールスターズ ドキドキ☆世代を超えたはじめてのオフ会&お誕生日会 奪われたプリティフェイス 私達、お友達になれるかな?』の上映を開始いたします」 

 

 ジンのアナウンスが会場に響いた。その淡々とした口調からは子供達を楽しませようという気持がこれっぽっちも伝わってこなかった。もちろんドキドキもしない。

 

 千束とミズキは、頬杖を付いてジト目になった。

 

千束「ジンさん、テンション低いな~」

 

ミズキ「タイトルなげーよ」

 

たきな「ジンはどこから喋ってるのしょうか」

 

 たきなの持っているタブレットからクルミの声がした。

 

クルミ『子供達をライフルで狙ってたりしてな』

 

千束「やめい」

 

ミズキ「いた、あそこだ、あそこ・・・・・・っておい」

 

 メインの舞台から少し離れたところにバラエティ番組の司会者席のようなものが設置されていた。フルフェイスのヘルメットつけたジンがそこに立っていた。

 

千束「ちょちょ、ジンさんヘルメット被って司会してるよ」

 

ミカ「顔を見られたくないのだろう」

 

ミズキ「じゃあ舞台裏から声だけ流せよ」

 

 ジンの姿に気付いた子供たちがざわめき始めた。

 

男の子「なんか怪しいヤツがいるぞー」

 

女の子「ねーパパ、あの人誰? どうしてお顔を隠してるの?」

 

ジン「えー、私は怪しい者ではありません。ショーのシナリオを担当した脚本家の『ジンジン』です。十周年にして、初のオールスターズということで、今回は特別に司会という形でショー参加させていただきました」

 

 今度は大きなお友達が騒ぎ始めた。

 

「本物か!?」

 

「インタビューすら滅多に受けないって話だぞ」

 

「覆面作家だからな。流石に顔までは見せないか」

 

「俺、十年前に放送された初代のリアルな奮闘に憧れて自衛隊に入ったんだよ」

 

「終わったらTシャツにサイン貰おう」

 

クルミ『ちなみに、ジンジンというのは奴のペンネームだ』

 

たきな「説明しなくても分かります」

 

クルミ『ジンジンの正体がサイレントジンだったとはな』

 

ジン「私の紹介はこれくらいにして、ショーを始めたいと思います。アタッキュアの皆さん、時間が押しているのでとっとと舞台に上がってください」

 

 明るいテーマソングが流れて、フキ、サクラ、エリカ、ヒバナの順でステージに入場してきた。

 

 わちゃわちゃとお喋りしながら、子供たちに手を振って楽しそうに入場してくる、なんてことは無かった。

 

 四人はキビキビとした軍人のような動きでサッと舞台の中央に移動すると、寸分のズレもなく横並びになった。全員ヘッドマイクを装着している。

 

 BGMの尺が余ったので、四人そのまま直立で待機した。口角は上がっているが、目は笑っていない。

 

 サクラが手を振りながら一歩前に出た。

 

サクラ「お友達のみんなー、こんにちはー」

 

男の子「誰?」

 

女の子「なにあの刈り上げー」

 

 千束は下を向いて笑いを堪えた。

 

 子共たちの乾いた反応を受けて、フキとサクラは一瞬、真顔になった。

 

 四人の顔の造形は、女児向けアニメのアタッキュアとは似ても似つかないし、髪型も一切変えていない。子供たちの反応は当然のものだし、むしろ泣き出す子がいないのが不思議なくらいだった。

 

 困惑する子供たちを無視して、とびきりの笑顔を貼り付けたエリカが一歩前に出ると、指をピンと立てて言った。

 

エリカ「まずは、お友達のみんなに自己紹介しないとね!」

 

フキ「私が初代アタッキュアだ。今年で二七歳になる。皆からは『初代』と呼ばれている」

 

サクラ「あたしが二代目だ。今年で二四歳。『二代目』って呼ばれてるよ」

 

エリカ「私は五代目。今年で二一歳だよ。『五代目』って呼んでね!」

 

ヒバナ「そして私が『十代目』。十四歳。皆からは『ガンバナヒー』と呼ばれてるんだ」

 

「「「「よろしく」」」」 

 

 男っぽい自己紹介だった。エリカ以外、仏頂面である。

 

千束「ガラ悪っ」

 

ちさと「ずいぶんと簡潔な自己紹介ですね」

 

ミズキ「魔法少女なら決めセイフとか可愛い決めポーズくらい取れや!」

 

ちさと「あのお互いの呼び方。初代、二代目、五代目、現役って、公式なんですか?」

 

クルミ『公式だ』

 

 今度はガンバナヒーが一歩前に出る。

 

ヒバナ「良い子のみんなには内緒にしてたけど、実は私達、インターネットの世界ではお友達だったんだ」

 

フキ「SNSのことだ」

 

エリカ「今日は世代を超えた初めてのオフ会の日。素敵な一日になるといいな! でも、それとは別にもう一つ、今日は特別なことがあるんだ。お友達のみんなは、何のことだかわかるかなー?」

 

 エリカは耳に手をあてて、わざとらしく観客席の方にむけた。

 

男の子「知らないよ、ねぇ、誰なの」

 

女の子「ママー、アタッキュアのお洋服きてるけど皆お顔も声もちがうよー」

 

男の子「偽物だー」

 

 本来のターゲットである女児達よりも、一緒についてきたその兄や弟達の方が面白がって騒いでいた。

 

 千束とミズキは必死に笑いをこらえた。クルミは画面越しに爆笑している。

 

 たきなだけが背筋を伸ばし、真顔で彼女たちを見つめていた。

 

フキ(クソッ、そんな目で見るんじゃねーよ。・・・・・・ああっ、先生がいる!!)

 

 フキはミカの方をチラッと見た後、すぐに視線を逸らして恥ずかしそうに斜め下を向いた。

 

フキ(テロリスト共は何してやがるんだ。とっとと銃乱射しろよ)

 

サクラ(フッ、笑いたければ笑うがいいっす)

 

 サクラはすべてを諦めていた。

 

 エリカは再度子供たちに問いかけた。

 

エリカ「誰かー、今日が何の日か分かるお友達は居ないかなー」

 

 気の弱そうな女の子が、少しおびえながら手を挙げた。

 

女の子「もしかして、初代の誕生日……?」

 

エリカ「その通り! 今日は初代の二七歳の誕生日なの!」

 

女の子「ママより年上だー」

 

ヒバナ「これからみんなで初代のお誕生日パーティーを開くんだ。お友達のみんなも一緒にお祝いしてくれるかなー?」

 

男の子「知らないおばさん達がアタッキュアのコスプレして何か言ってるー」

 

ヒバナ(まだ言うか)

 

フキ(全員十代だよ。顔見りゃわかんだろ)イラッ。

 

フキ「撃つぞクソガキ」

 

男の子「え!?」

 

サクラ「フキ先輩!!」

 

フキ「悪りぃ、つい……」

 

男の子「フキ先輩?」

 

 フキはすぐに笑顔を作った。ついでに、ようやくキャラも作った。

 

フキ「わ、わぁ~、二代目も五代目もガンバナヒーも、そしてお友達の皆も、私のためにお誕生日パーティーを開いてくれるなんて、どうもありがとう! 私うれしいっ」

 

ヒバナ「ブーーーッwww」

 

フキ「ヒバナ、テメェ・・・・・・」プルプル。

 

女の子「あの大きなお姉ちゃんはヒバナって言うんだ!」

 

サクラ「……」

 

サクラ「ところでさー、さっきからお友達の方から『顔が違う』『顔が違う』って声が聞こえてくるんだけど、どういうことかな?」

 

 サクラはわざとらしく首を傾げた。

 

千束「いや聞こえてるかよ!」

 

ミズキ「いやな設定だな」

 

クルミ『斬新だな』

 

フキ(オメーらはツッコむなよ。ガキじゃあるまいし)

 

 たきな達を睨み付けて顔でそう訴えると、フキは気を取り直して演技を続けた。

 

フキ「えー? 顔が違う? 本当に?」

 

男の子「うん、声も違う」

 

エリカ「私たち実際に会うのは今日が初めてだから、お互いの本当の顔なんて分からないよ」

 

ヒバナ「よし、ちゃんと確かめてみようよ!」

 

エリカ「お友達のみんなー、私達の声や顔が違うと思う人は拍手してー」

 

 パチパチパチパチパチパチパチパチ

 

サクラ「どういうことなの? みんな私達の顔が違うって言ってるよ」

 

フキ&エリカ&ヒバナ(((一番違うのはお前だよ)))

 

サクラ(・・・・・・なんなんすか、今の間は)

 

フキ「みんな、あそこに止まっている黒いワゴンのバックミラーで自分の顔を確かめよう!」

 

 フキが舞台の左側に停車している黒いワゴンを指差した。

 

謎の声「オキョキョキョキョキョキョwwwww」

 

フキ「この笑い声は」

 

「「「スペース虚無虚無ワゴン団」」」

 

千束(展開、ごり押しだな)

 

 敵キャラクターに扮した六人の元テロリスト達が、フキの指差した黒いワゴンから降りてきた。

 

 最初に姿を見せた二人は、きょむきょむ団の幹部ボイド将軍と雑魚戦闘員のイタバサ民、の着ぐるみを着た男達だった。続いて現れた四人は、本来のショーで使われているアタッキュア達の着ぐるみに身を包んでいた。合計六人、例の天使達である。

 

フキ「その姿、どうしてあなた達が!?」

 

男の子「本物だ!」

 

 ようやく、初代、二代目、五代目、ガンバナヒーの着ぐるみを目にすることができた子供たちが嬉しそうに叫ぶ。

 

女の子「本物のアタッキュアはきょむきょむ団に捕まってたんだ!」

 

フキ「みんな騙されないで、あいつらは偽物よ!」

 

男の子「うるせーババァ! フキ先輩!」

 

男の子「さっきの聞こえてたんだぞ! みんな、あの初代の偽物、フキ先輩っていうんだぞ!」

 

フキ「おい、サクラァァァ、テメーのせいだぞ!」

 

サクラ「落ち着いてください初代、敵の思うツボっす」

 

男の子「あの刈り上げのお姉ちゃん、サクラっていうんだ」

 

女の子「二代目の偽物はサクラだ」

 

ボイド将軍「オキョキョキョキョ、混乱しているようですねーアタッキュアの皆さん」

 

 ボイド将軍が肩をふるわせながら笑った。

 

 ボイド将軍は、カラフルな銀河がちりばめられた黒いタイツのような衣装で、その上から軍服をアレンジしたようなデザインのジャケットと帽子を被っている。顔はシンプルに白い丸三つで表現されているが、バランスが悪く、目だけが異様に大きなハニワといった感じだ。

 

ヒバナ「お前達がやったのか?」

 

ボイド将軍「その通り。この『変顔マカロフ』でお前たちの姿をその辺の一般人に変えて、私の部下達をアタッキュアの姿に変えたのです」

 

サクラ「でも、銃で撃たれた覚えなんてないよ」

 

ボイド将軍「この銃は音も出ないし、撃たれても痛みを感じません。ここに集まるまでの間に、こっそり背後から撃って差し上げたのですよ。オキョキョキョキョ」

 

イタバサ民「せっかくのショーで二十代のおばさんばかりだと見苦しいから、十代のJKに変えてやったんだタミー。感謝するタミ」

 

 イタバサ民は押しつけがましい口調で言った。

 

 イタバサ民はボイド将軍とお揃いの黒い衣装に身を包んでいるが、あしらわれた銀河はひとつで、でかでかと胸にプリントされてる。軍服も軍帽も着ておらず、顔面には大きく赤い文字で『板』と描かれていた。

 

サクラ「くっ、相変わらず陰湿なやつらだ」

 

男の子「『変顔マカロフ』じゃなくてただのマカロフで撃ってたら今頃全員倒せてたのに」

 

フキ「それな」

 

ボイド将軍「………………」

 

ボイド将軍「さぁ、お前達、本物のアタッキュアを倒して、アタッキュアの姿で悪事の限りを尽くしてやるのです」

 

男の子「アタッキュアを倒した後にアタッキュアに変装して悪さしても意味ないじゃん」

 

イタバサ民「アタッキュア達を倒した後は、子供達をワゴンでさらってやるタミー! ・・・・・・特に今ツッコんだお前な。絶対拉致する」

 

男の子「え?」

 

イタバサ民「絶対拉致する」

 

男の子「・・・・・・・・・・・・」

 

男の子「助けてー! フキお姉ちゃーん! サクラお姉ちゃーん!」

 

 ボイド将軍、イタバサ民、アタッキュアの着ぐるみを着た四人は戦闘態勢を取りポーズを決めた。拉致を宣言された子供たちがギャーギャー騒ぎ始める。

 

 フキは一瞬ヘッドマイクをオフにしてサクラたちに目配せした。サクラ、エリカ、ヒバナもそれを見てマイクをオフにする。四人は顔を寄せ合った。

 

ボイド将軍(・・・・・・どうした、何をコソコソ話している?)

 

フキ「おい、サクラ。ボイド将軍が持ってる『変顔マカロフ』」ヒソヒソ

 

サクラ「本物っすね。やっぱ面倒な騒ぎ起こすつもりなんすかね」ヒソヒソ

 

エリカ「こりゃ、他の着ぐるみ野郎たちも武装してるね」ヒソヒソ

 

ヒバナ「観客を人質に取られてるようなもんじゃん」ヒソヒソ

 

フキ「取りあえず今は演技を続けるぞ。大丈夫、もしもの時は千束とたきなもいるからな」

 

 フキ達は演技を再開した。

 

 すぐにマイクのスイッチを入れて、フキ、サクラ、ヒバナは互いの背中を預けるように一カ所に固まった。しかし、エリカだけは距離を取って、三人から二三歩離れた位置に立っている。

 

フキ「どうしよう、今日はオフ会だからアジトに武器(エモノ)を置いてきちゃったよ」

 

サクラ&ヒバナ「「私たちも」」

 

ボイド将軍「オキョキョキョキョ。どうやらアタッキュアはこの十年で馬鹿な戦士だけが生残ってしまったようですねぇ!」

 

エリカ「・・・・・・・・・・・・」

 

エリカ「ねえ、あなた達って本当にアタッキュアなの? 『変顔マカロフ』で化けたきょむきょむ団なんじゃ」

 

サクラ「ちょっと、五代目がなんか面倒くさいこといいだしたよ!」

 

 ヒバナがエリカの肩を掴んで揺さぶった。

 

ヒバナ「どうしたんだよ五代目!」

 

エリカ「触らないで! 仲間のフリして近づいて、後ろから刺すつもりね!」

 

サクラ「落ち着け五代目。SNSで『私、もう仲間を裏切らない』って宣言してたじゃないか」

 

エリカ「先に裏切ったのはみんなじゃない!!」

 

サクラ「違う! この顔は敵が」

 

ボイド将軍「ほう。これは面白いことになってきましたね。オキョキョキョキョ」

 

フキ「どうしうよう。どうすれば五代目にみんなが本物だって信じてもらえるんだろう?」

 

ヒバナ「そうだ! 名乗りを上げながら変身ポーズを決めればいいんだよ! その辺の二十代歳なら恥ずかしくてとてもできないだろうけど、本物のアタッキュアならできるはず」

 

サクラ「でも、全員がやる時間は無いよ」

 

ヒバナ「ここは一番年上の初代に任せよう。五代目もそれでいいな?」

 

エリカ「うん、わかった。二十七歳の初代の名乗りが完璧にだったら、みんなが本物だって信じる」ケロッ。

 

フキ「何だコイツ」

 

サクラ(疑り深い上に馬鹿とか、キャラ設定最悪すっね)

 

ヒバナ(真っ先に殺すべきは無能な味方。きっとジンさんが作品に込めたメッセージだな)

 

フキ(クソッ、演技だって分かってても、こいつら全員一斉掃射で駆逐してぇ、特に五代目)

 

サクラ「では初代、お願いします」

 

フキ「・・・・・・・・・うん。じゃあいくよ?」

 

 ステージの中央に移動するフキ。そのまま顔を赤くして十秒ほど固まってしまった。

 

 すかさず、ジンが助け船をだした。

 

ジン「良い子のみんなー! 初代が勇気を出せるように応援しよう!!」

 

子ども達「「「がんばれがんばれ、フキ先輩ー! 負けるな負けるな、フキ先輩ー!」」」  

 

フキ「・・・・・・・・・・・・」

 

フキ「オメーもやれよ、サクラ」真顔。

 

サクラ「ちょっ、何言ってんすか、フキ先輩」  

 

フキ「『初代』じゃなくて『フキ先輩』で名前が定着してるの誰のせいだ? 責任とれ」

 

 フキは自分の隣をちょいちょいと指差した。サクラは諦めたように肩を落として、しょぼしょぼとフキの隣に移動した。

 

 ヒバナは訴えかけるようにじっと千束をみつめた。千束はヒバナの視線に気付いた。

 

 ヒバナは声を出さずに口だけを動かして「み な い で」と伝えた。

 

 観客席の千束が頷く。

 

千束「たきな」

 

たきな「わかりました」

 

千束「ほら、先生も」

 

ミカ「ん? ああ、まぁ知り合いには見られたくないか」

 

ミズキ「あたしは見るから」

 

クルミ『僕も見るぞ。バッチリ記録も残すからな』

 

千束「・・・・・・」

 

クルミ『後で見たくなったら言えよ』

 

千束「・・・・・・・・・・・・うん」

 

たきな「・・・・・・何かしらの任務上、確認が必要になることもあるかもしれませんからね。何かしらの任務上」

 

ミズキ「どんな任務だよ」

 

 千束、たきな、ミカは耳を塞いで、ステージから背を向けた。三人の行動に気付いたフキは一瞬優しい目つきになって、ありがとう、と小さく呟いた。

 

サクラ「先輩、初代なんで一歩前へ。メインは先輩で、自分はあくまでオマケなんで」

 

 サクラはサッと両手を返してフキの方に向けて、自分は遠慮するように斜め後ろに移動した。

 

フキ「ん? ああ、そうだな」

 

サクラ「準備はいいっすか?」

 

 サクラがフキの背に問いかける。サクラの瞳には、声を出さずに小さく頷くフキの横顔が映った。

 

フキ「行くぞテメェら、その目に焼き付けろ!」

 

エリカ&ヒバナ「「うっす!」」

 

 フキはカッと目を見開くと、ニコッととびきりのスマイルを作った。サクラは面倒臭そうに溜息をついた。

 

 フキは宙に文字を描くように、流れるような動きで大きく両腕を動かす。

 

 サクラは片膝を突いてしゃがむと、変身を頑張るフキに向って両腕を伸ばし、手をパーにする。

 

 フキの演技は忙しなく続いた。鋭い目つきでシャドウボクシングをした後、胸の前にハートを作って笑顔で決めたかと思えば、回し蹴りを披露し、最後は指で銃の形を作って会場のあちこちにむけて撃つマネをした。

 

 その間サクラはずっと「じゃじゃーん」「どうぞご覧下さい」といった具合で、膝をついたまま、パーにした両手をひらひらとフキに向って振り続けた。つまり、何もしていない。

 

 エリカとヒバナは「バレたらマジで殺されるぞ」と思った。

 

 会場にフキの「当たって砕けろ、アタッキュア」という口上が響いて、やや詰め込みすぎな初代の変身バングが終わった。はじめから変身後の衣装を身につけた状態で登場しているので、姿は変わっていない。しかし、会場からは盛大な拍手が送られた。

 

 ボクシングや回し蹴り、射撃の演技がキレッキレで、真に迫りすぎていたのだ。

 

サクラ「先輩、お疲れ様ッス」

 

 サクラはフキの背を叩いてねぎらいの言葉をかけると、右手を額にあてて、あざとく汗を拭うような仕草を見せながら「一山越えたっすね」と笑顔を言った。

 

フキ「サクラ、・・・・・・付き合わせて悪かったな」

 

サクラ「いいっすよ、これくらい。自分は先輩のパートナーっすから」

 

 フッと口元に笑みを浮かべると、フキは五代目の方に体を向けた。

 

フキ「どう? これで信じてくれた?」

 

エリカ「うん! 疑ってごめんね、みんな!」

 

「そんなことで本物か偽物かわかるもんか、騙されるな五代目!」

 

 初代の着ぐるみを着た敵の一人がドスの利いた声で叫んだ。

 

男の子「あ、男の声だ」

 

 すかさず子どもがツッコミを入れた。

 

「馬鹿野郎! もっと女みたいな声出せよ!!」

 

 二代目の着ぐるみを着た男が叫ぶ。

 

「だけどよーボス。俺たち女の声出す訓練なんて受けてねーよ」

 

「だから女みたいな声出せって言ってるだろ!!!!」

 

 初代の着ぐるみ男に、二代目の着ぐるみ男が浣腸した。

 

「アーーン イヤーーン ボスのエッチ――」

 

「着ぐるみショーを舐めてんのかこの野郎!!」

 

 五代目の着ぐるみ男が、初代の着ぐるみ男の胸ぐらを掴んだ。

 

「おい、仲間割れするな。雌ガキ共が逃げちまう」

 

「でかい女以外は二十代って設定だろうが! 役を忘れんじゃねー!」

 

「いつものボスじゃねぇ・・・・・・」

 

 演技なのか素なのか、アタッキュアの着ぐるみをきた男達が野太い声で言い争いを続ける。子供たち、特に男の子たちには好評のようで、喧嘩する着ぐるみ男達を見てキャッキャとはしゃいでいた。

 

 フキ達は目配せしてマイクのスイッチをオフにした。

 

サクラ「・・・・・・あたしの着ぐるみ着てるヤツが敵チームのボスっらしいす」

 

フキ「・・・・・・あいつらホントにショーを成功させたいだけなのかもしれないな。もう少し様子を見てみるか?」

 

サクラ「そっすね、テロ起こしたいなら、もう仕掛けてきてるはずっすよね」

 

ヒバナ「あたしさー『もっと女みたいな声出せよ!!』なんて怒鳴り散らすテロリスト初めてみたよ」

 

 フキ達は同時に溜息をついて、マイクをオンにする。気を取り直して演技を再開した。

 

 エリカが敵を指差して叫ぶ。

 

エリカ「さぁ、私たちのフェイスを返して!」

 

ボイド将軍「ふん、茶番は終わりましたか。ちょっと面白いから見入ってしまいましたが、遊びはここまでです」

 

 ボイド将軍はその場の騒ぎを収めるように手を高くあげて、パンッ、パンッと二回叩いた。

 

 再度、臨戦態勢に入るきょむきょむ団。腰のホルスターに手を伸ばす。

 

 きょむきょむ団の六人は全員、腰のベルトに茶色のホルスターをぶら下げていた。右と左に三つずつ、合計六つ。ホルスターに刺さっているのは銃ではなく、生クリームの絞り袋だった。ケーキのデコレーションに使う、生クリームをちょんちょんと乗せる三角形のアレである。絞り袋の中には、『きょむきょむエナジー』という名の、焦げ茶色のクリームがたっぷりと詰っていた。

 

イタバサ民「きょむきょむエナジーでお前達の目のハイライトを消してやるタミー」

 

ボイド将軍「オキョキョキョキョ、今日こそ全身の穴という穴にきょむきょむエナジーをぶち込んでさしあげますよ」

 

 ボイド将軍とイタバサ民は両手に持った絞り袋を構えて言った。

 

 フキ、サクラ、エリカ、ヒバナは一カ所に固まった。

 

サクラ「チッ、五代目が正気に戻っても武器がない状況に変わりはねーか」

 

ヒバナ「マイナスだった状況がゼロに戻っただけだからね」

 

エリカ「みんな聞いて、私にいい考えがあるの!!」

 

サクラ「話してくれ、五代目(マイナス)

 

エリカ「私以外の皆で敵を引きつけて欲しいの。その隙に私が敵のワゴンに忍び込んで武器が無いか探してみる」

 

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

フキ「お前あのワゴンに乗って一人だけ逃げるつもりだろ」

 

エリカ「違うよ!」

 

サクラ「絶対裏切るんじゃねーぞ、五代目」

 

エリカ「五年前の私と一緒にしないで!!」

 

サクラ「!?」

 

エリカ「最初はそうしようかと思った」

 

ヒバナ「思ってんじゃねーか」

 

エリカ「でも今は違う。みんなを疑ったお詫びがしたいの。今度は私が証明する番だから。私は変わったって、皆を信じてるって、もう仲間を裏切ったりしないって!」

 

サクラ「五年前に死んだお仲間に聞かせてやりたいよ、そのセイフ」

 

ヒバナ「フッ、わかったよ。みんな、今は五代目を信じよう」

 

ボイド将軍「オキョキョキョキョ、お別れの挨拶は済みましたか?」

 

 ボイド将軍が生クリームを構えたままアタッキュア達ににじり寄っていく。フキはサクラ達を庇うように前に出た。

 

フキ「丸腰の女相手に、六人掛かりで武器まで持ち出して情けねぇ。お前らまとめて私が相手してやる」

 

ボイド将軍「オキョキョキョキョ。いいでしょう。あなたの相手は私とイタバサ民がして差し上げましょう。残りの三人は任せましたよ、着ぐるみおじさんズ」

 

フキ「そこは一体一で勝負しろよ」

 

 言い終わるなり、フキはステージから飛び降りた。ボイド将軍とイタバサ民も後を追って、仲良くステージからジャンプする。フキは楽しそうに敵を挑発しながら走り続けた。

 

 フキがステージから飛び降りた後、エリカも一度ステージから降りて黒いワゴンに向って走り出した。二代目の着ぐるみを着た男が、エリカの後を追いかけた。

 

 ステージから飛び降りたアタッキュアときょむきょむ団のメンバーが罵り合いながら、客席の周りで追いかけっこを始める。子供たちは手を叩いて喜び、大きなお友達はスマホのビデオを起動してその様子を記録した。

 

 ステージに残った三人の着ぐるみおじさんはサクラとヒバナに向って銃口を構えた。『きょむきょむエナジー』の詰った絞り袋ではなく、肩に担いでいたペイント銃である。

 

 設定上は、ペイント銃よりも『きょむきょむエナジー』の方が強力な攻撃手段とされているが、丸腰のサクラ達にとっては、ペイント弾の方が遙かに厄介だった。

 

サクラ「現役、盾になれ」

 

ヒバナ「え?」

 

 サクラはガンバナヒーの衣装を引っ張って、強引に自分の前に立たせた。背後に隠れて頭を低くするサクラ。着ぐるみおじさんズは容赦なくペイント銃の引き金を引く。

 

 ガンバナヒーは三発のペイント弾を浴びるが、動じることなく腕を組んで敵を睨み付けた。

 

ガンバナヒー「どうした? お終いか?」

 

「クソ、アイツに銃は通じなのか!?」

 

 一方、エリカが黒いワゴンに突入した。少し遅れて、追いかけていた着ぐるみ男もワゴンに乗り込み、ドアが乱暴に閉められた。

 

 バタン、という重苦しい音が会場に響く。

 

 追いかけっこをしていたフキとボイド将軍や、ステージの上で攻防を繰り広げていた着ぐるみおじさんズとサクラ達も動きをとめて、観客と一緒に黒いワゴンを注視した。

 

 会場のすべての視線がワゴンに集まる中、突如、「いやあああああああああああ」というエリカの悲鳴が、稲妻のように響いた。

 

 黒い車体が遠目にも分かるほどグラグラ揺れて、車内で繰り広げられる熾烈な攻防を連想させた。揺れすぎだろ、とフキは思った。

 

「大人しくしなさい」

「おい馬鹿、マジになるな、肩はやめろ肩は」

「では、いざ」

「クソッ、マジで穴に入れる気か」

 

 ワゴンから漏れるのはくぐもった声だが、装着したマイクはしっかりとオンになっているので、二人のやり取りはハッキリと観客席に届けられた。

 

ジン「大変だ、このままでは五代目がきょむきょむされてしまう。お友達のみんな、五代目を応援しよう」

 

ヒバナ(ピンチなのは敵の方なんじゃ・・・・・・)

 

子供達「「がんばれーごだいめーうらぎるなー。がんばれーごだいめーうらぎるなー」」

 

 子供たちの熱い声援がワゴンを包む。

 

「うおあああああああああああァアアアア♂」

 

 今度は男の叫び声が響いた。

 

「・・・・・・・・・・・・あ、冷たいっ」

 

 男のその言葉を最後に、ワゴンの揺れが収まった。

 

 シーン。

 

 静寂の中、ワゴンのドアがガチャリと開いた。ごろんと、男が被っていた二代目の着ぐるみの首が転がってきた。

 

 着ぐるみおじさんズの間に動揺が走る。

 

(((ボスがやられた!)))

 

サクラ(あぁ、あーしの首が・・・・・・)

 

 転がり落ちた首の後から、奪った武器を胸に抱えた五代目が出てきた。全身焦げ茶色いクリームまみれで、目のハイライトを失いかけている。

 

 設定上瀕死のはずのエリカは、無言で、修羅のような圧をともなってフラフラとサクラとヒバナの元に歩を進めた。ボトボトと足元に焦げ茶色の生クリームが落ちる。

 

 フキもボイド将軍も着ぐるみおじさんズも皆、動きを止めてその様子を見守った。

 

サクラ「エリカ、大丈夫か。ビジュアル的に」

 

エリカ「うん、ギリ大丈夫。でも、あと一回う○こぶつけられたら死ぬかも」

 

サクラ「ダイレクトな表現はやめろ」

 

ヒバナ「ダイレクトアタックされちまったな」

 

エリカ「ヒバナ、下らない冗談言うのやめて」

 

ヒバナ「悪い・・・・・・」

 

エリカ「ほら、武器あったよ」

 

 エリカはガチャガチャっと胸に抱えていた武器をサクラの足元に落とした。ペイント銃四丁と、AKMS四丁だ。

 

ヒバナ(・・・・・・しれっとAKMSまで持ってきてやがる。流石、五代目だ)

 

 そこへ、観客席を一周してステージに戻ってきたフキが合流した。ボイド将軍とイタバサ民は引き離されていて、ステージまでまだ距離がある。

 

フキ「ハァハァ、成功したんだね、五代目」

 

エリカ「あと、二代目に化けてたヤツ倒したよ。首、ちぎっといたから」

 

サクラ「お、おう、サンキュー」

 

 四人はペイント弾とAKMSをそれぞれ一丁ずつ手に取り武装した。

 

ヒバナ「じゃあ敵はあと五人だね」

 

フキ「いや、四人だよ」

 

 そう言うと、フキは一瞬だけ首を捻って背後を確認した。そしてすぐに視線を戻し、得意げな表情でサクラ達の方を見ながら、肩越しに、自分を追いかけてステージに上がってきた敵めがけてペイント弾を発射した。

 

 パンという射撃音。フッと口元を歪めるフキ。

 

サクラ「あ、ちょ。あーあ、やっちゃた」

 

フキ「え?」

 

 フキは後を振り返った。

 

フキ「あ、ヤベ」

 

 予定では雑魚のイタバサ民の方を殺すはずだった。しかし、ペイント弾はばっちりボイド将軍の胸に命中していた。仕方なく倒れるボイド将軍。

 

 イタバサ民が、ボイド将軍にすがりついて、アドリブで大声をあげて泣き叫ぶ演技をはじめた。

 

 その泣き声に紛れて、アタッキュアときぐるみおじさんズ達はヘッドマイクを切りコソコソと話し合いを開始する。

 

「おい、なんでボイド将軍を撃ってんだよ」

 

「ていうか、なにちゃっかりAKMS持ってきてるんだよ。着ぐるみショーだぞ!」

 

フキ「うるせー! お前達が妙な真似しなければ、あたしらもこの銃は抜かねーよ。保険だ保険! 先にマカロフチラつかせたのはそっちだろーが!」

 

「マカロフじゃねぇ! 『変顔マカロフ』だ!」

 

フキ「本物には変わりねーだろ。弾抜いてんだろうな?」

 

「抜いてねぇよ」

 

フキ&サクラ「「抜けよ!」」

 

フキ「元の姿に戻るシーンで殺る気満々じゃねーか」

 

サクラ「ハッピーエンドが大惨事になるっす」

 

「違う、誤解だ! 元の姿に戻るシーンのことまで考えてなかったんだ」

 

フキ&サクラ「「考えろよ!」」

 

サクラ「うっかりミスで殺される方はたまったもんじゃないっす」

 

「悪いが、どの道お前達は元の姿には戻れない。『変顔マカロフ』のエネルギー源はボイド将軍の『なにこの手抜き顔。俺、顔変えたい』という精神エネルギーなんだ。将軍が死んだ以上、お前達の姿は一生そのままだ」

 

フキ「それ、結構重いな」

 

「とにかくAKMSに関しちゃ窃盗だ! 警察呼べ警察! 魔法銃士の衣装で元テロリスト油断させやがって、斬新だなオイ!」

 

ヒバナ「捕まるのはマカロフとAKMS所持してるお前らだろ!」

 

エリカ「多分、『元』テロリストだと認識してるのもあなた達だけだと思う」

 

「マジ? 俺たち逃げなきゃヤベーじゃん」

 

「てゆーか、お前見た目ヤベェな う○こまみれ」

 

エリカ「あ?」

 

「・・・・・・すいません」

 

「それよりこれからどうすんだよ。ボイド将軍が死んじまったんだぞ」

 

「こいつの言う通りだ。まずはそっちの問題からだろ」

 

フキ&サクラ&ヒバナ(((ショーの方を優先した!?)))

 

フキ「ふぅ・・・・・・これ以上このままじっとしてるのは不自然だ」

 

サクラ「戦いながら考えるしかないっすね。ま、どうせ全員倒しちゃうんだし。ちょっと順番が入れ替わっただけっすよ」

 

 マイクのスイッチを入れて戦闘を再開しようと立ち上がるアタッキュアと着ぐるみおじさんズ。そこへ、ヘッドマイク越しにジンからのメッセージが届いた。

 

ジン「ボイド将軍のことは気にせず、そのまま戦いを続けてくれ。着ぐるみおじさんズの三人は倒して構わない。おじさんズの方は適当に戦って負けてくれ。その間にこちらで新しい展開を用意する」

 

おじさんズ「「「わかりました、ジンジンさん」」」

 

フキ「了解」

 

 アタッキュアとおじさんズは、思い思いに舞台に散らばって、それぞれ戦闘を開始した。

 

サクラ「これで四対四だな、偽物共!」

 

 アタッキュア達は時々ガンカタっぽい動きを混ぜながら、接近してパンチや蹴りを繰り出したり、距離を取ってペイント弾を連射したりして、次々と着ぐるみおじさんズ達を倒していく。

 

 その傍らで、倒れたはずのボイド将軍とイタバサ民がこっそりとどこかに消えて、またすぐに戻ってきた。

 

 殺陣のシーンは三分ほど続いた。

 

 ステージの隅や中央にペイント弾を受けた着ぐるみおじさん達が倒れている。

 

サクラ「よし。これで全員倒したな!」

 

 サクラは汗を拭いながらぐるりと辺りを見回した。

 

フキ「あと一人残ってるよ」

 

フキはボイド将軍のお腹に突っ伏して、泣きの演技を続けているイタバサ民を指差した。

 

エリカ「すっかり忘れてたよ。・・・・・・アイツがラスボスなの?」

 

 死んだと思われていたボイド将軍の手がピクリと動いた。

 

ヒバナ「生きてるのか!?」

 

ボイド将軍の震える手が、イタバサ民の頭に伸びる。

 

ボイド将軍「私の力を・・・・・・お前に託す・・・・・・」

 

 おどろおどろしいBGMが流れる。ステージの上で倒れていた着ぐるみおじさんズ達も、最後の力を振り絞って、イタバサ民に向けて手を伸ばす。おじさん達の演技はアドリブだった。

 

「俺たちの力も使ってくれ」

 

「どうか仇を」

 

「お前は独りじゃないぞ。独りじゃない・・・・・・」

 

 イタバサ民が頭を抱えて「うおおおおおおおおお」と唸り声を上げた。

 

 ボイスチェンジャーで変化させられた不気味な叫び声がスピーカーに乗って、会場を震わせた。

 

 スタッフらしき人が駆けてきて、唸り続けるイタバサ民の横に、赤いマントと犬耳をおいた。

 

「おおおおおおお」と叫びながら、赤いマントと犬耳をテキパキと装着するイタバサ民。ついでに、ボイド将軍が腰につけていた焦げ茶色の生クリームを、ホルダー付きのベルトごと外して、自らの腰に装着した。

 

 赤いマントにも、犬耳にも統一性がなく、もろに間に合わせといった感じだ。

 

フキ(このパターンか)

 

サクラ(てきとうに苦戦するフリしながら相手すりゃいいんすかね)

 

 フキとサクラはイタバサ民の中の人の大袈裟な演技を、面倒くさそうな目で眺めた。

 

 イタバサ民がマントを装着し終えると、ドーンと雷鳴のような音が会場に響いた。

 

 イタバサ民は叫ぶのをやめる。

 

 会場が静寂に満ちた。

 

 生まれ変わった敵はゆっくりと立ち上がり、フキ達の方を向いた。

 

『ごきげんよう、弱者諸君』

 

 不気味な声が再び会場を包む。静寂に怨嗟を投げ込むような、周囲の空気を黒々とした紫に染め上げていくような、異質で、しかし良く通る声だった。

 

サクラ(声のせいっすかね・・・・・・雑魚のくせに強キャラ感が)

 

 イタバサ民はゆらゆらと不自然に体を揺らしながら、フキ達の方へ歩み寄っていく。

 

フキ「・・・・・・往生際の悪い奴だな」

 

 フキは吐き捨てるように言った。

 

サクラ「とりあえず跪くっす」

 

サクラはヘラヘラした調子で言った。

 

 フキとサクラはペイント銃を構えた。エリカとヒバナも釣られて構える。

 

『そんな玩具が私に通用すると思っているのか?』

 

フキ「あ?」

 

『銃を向けられて跪くのは、撃たれる恐怖を抱く者だけだ』

 

『私に弾は当たらない。故に私は恐れない』

 

『覚えておきたまえ、弱者諸君』

 

フキ「言いたいことはそれだけか、とっとと退場しな! イタバサ民」

 

サクラ「え、ちょっ、マジで、ここで撃っちゃうんすか?」

 

フキ「もういいだろ、とっとと終わらせるぞ」

 

 フキは構わず引き金を引いた。すこし遅れて、サクラも渋々引き金を引き、一秒ほど間をおいてエリカとヒバナも発砲する。

 

 生まれ変わった敵は、四人の弾を、最小限の動きでかわす。弾が銃口から放たれる前に、着弾点を予知するかのように。

 

 会場からおおーと驚きの声が上がる。

 

 その動きを見た瞬間、フキは察した。すぐに観客席の方に目をやる。千束の姿がない。たきなの隣は空席だ。

 

 フキは叫ぶ。

 

フキ「サクラ、エリカ、ヒバナ! マジでやるぞ! 実戦だと思え!」

 

 フキの剣幕に三人が冷や汗を垂らす。

 

『私はイタバサ民ではない』

 

『千の思いを束ねて爆誕、赤いマントが復讐に燃える。ニコ様のイッヌにして、最強の幹部』

 

『ワンダフル千束様だ』

 

フキ「そいつの中身は千束だ!!」

 

 サクラ達は、銃を構えたままワンダフル千束から距離を取る。たじたじとした足運びから、焦りの色が見て取れた。

 

ワンダフル千束『これより復讐を開始する』

 

 

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