ダイレクト・アタッキュア・ショー   作:川崎三文

6 / 6
五話【Direct Attack 後編】

 千束は腰のホルスターからゆっくりと『きょむきょむエナジー』を抜いて胸の前でクロスさせた。

 

フキ「ハッ、生クリームであたし達と戦うつもりか?」

 

 言いながら、フキは焦っていた。

 

 フキの握っているショーのために用意された12㎜のペイント銃は、DAの模擬戦で使われるペイント銃よりも遙かに性能が低い。当然、弾速も遅く、本物の銃とは比べるまでもない。

 

 実弾や、模擬戦で使われているペイント弾でも仕留められない千束を、この玩具でどうやって仕留めろというのだろうか。

 

 フキはペイント弾を一発、千束の足元に撃って威嚇した。もちろん千束は動じない。当たらないと予測できていたのだろう。いや、予測どころか、化け物じみた動体視力で弾を視認しているかもしれない。

 

 焦燥を振り払うようにフキは首を左右に振った。

 

フキ(ビビってどうする。マジになる必要ねーだろ。相手の武器は生クリームだぞ。子供向けのショーの敵役だぞ)

 

 フキが正面に銃を構えて、本格的な銃撃をはじめようと千束を睨み付けたその時、突如ジンからアナウンスが入った。

 

ジン「今更ですが、ここで戦いのルールを説明します。アタッキュアの皆さんはこれよりペイント弾を六発、もしくはきょむきょむエナジー(生クリーム)を三本浴びると、目のハイライトが消えて、ついでに命の灯火も消えます。行動不能です。ただし、五代目はすでに許容量ギリギリまできょむきょむエナジーを浴びているので、ペイント弾、もしくはきょむきょむエナジーを一発でも食らえばアウトです。ガンバナヒーは五人分の体力を持つ設定なので、ペイント弾三十発、もしくはきょむきょむエナジー十五本を浴びればアウトとなります。ワンダフル千束に関しては、きょむきょむ団なのできょむきょむエナジーによる攻撃は無効。ペイント弾十二発を打ち込まれた時点で死亡となります」

 

ワンダフル千束(ガンバナヒー硬っっっ!! 私が今持ってる生クリームは十二本。あの四人を倒すためには合計二十二本の生クリームが必要になる。つまり・・・・・・十本足りないじゃん!!)

 

フキ(子供向けの着ぐるみショーだと思って甘く見てた。確定した訳じゃないが、絶滅エンドもありうるってことか。・・・・・・こんなの猛獣相手のデスマッチと変わらねーじゃねーか)

 

サクラ(クソッ、あの化け物相手に十二発もペイント弾打ち込めるヤツなんているかよ)

 

エリカ(あと一発食らったら死ぬ・・・・・・あと一発食らったら死ぬ・・・・・・)

 

ガンバナヒー(なるほど、現役の主人公である私に皆の盾になって、子供たちにいいとこ見せろってことだね!)

 

男の子「ガンバナヒーってタイラントみたいだよなー」

 

ガンバナヒー「・・・・・・・・・・・・」

 

ワンダフル千束(まずはエリカを倒して敵の数を減らそう)

 

 ワンダフル千束は生クリームを持って駆けだした。

 

 フキとサクラとヒバナはエリカを庇うように立ち塞がって、千束に向けてペイント弾を連射する。

 

 ペイント弾とはいえ、アタッキュア達の射撃は構えも狙いも演技とは思えないほど正確で洗練されていた。

 

 その銃撃のただ中に飛び込んで、正確無比の小さな動きで次々と弾を避ける千束の姿に、子供も大人も興奮して声を上げた。

 

男の子「ワンダフル千束の回避力すげー!」

 

女の子「かっこいいー」 

 

 千束が弾を避けると同時に、パンッ、パンッとステージの壁に咲くペイントは、パーフェクトなタイミングで叩いた音ゲーの判定を見ているようで、観客の脳にはどんどんアドレナリンが溢れていく。

 

 熱を帯びて盛り上がる会場。千束の回避劇に対して、拍手が起こる。反対に、その空気に煽られたフキ達は焦りを募らせていく。

 

 千束本人も、会場の熱気に乗せられていた。『板』と書かれたマスクの下で思わず微笑む。

 

 その勢いのままフキとサクラに接近した千束は、二人に向って両手の生クリームをギュッと絞った。

 

 フキとサクラに向けられた絞り袋から、ブリュッという感触と共に、生クリームもとい『きょむきょむエナジー』が飛び出した。決まった。千束はニヤリと笑みを浮かべた。

 

 しかし、フキとサクラは余裕で避けた。決め顔の千束とは対照的に、なんだこれ、といった表情で、ぼとりと落下する生クリームを見つめた。

 

 真っ白いステージの床に、生クリームが茶色い一本筋を描いた。

 

 その長さは生クリームの射程の短さを表しており、避けなくてもどの道命中しなかったのではないか、とフキとサクラは顔を見合わせた。

 

 絶好調だった千束の表情が一瞬で曇る。

 

ワンダフル千束(射程短っ!! 弾速遅っっっ!!)

 

ワンダフル千束(・・・・・・当たり前か)

 

 千束、フキ、サクラの三人は、床の生クリームを見て数秒間沈黙した。

 

 千束の左右の手から放たれた二本分の筋を合せる見ると、寂しくVの字を描いているように見えた。

 

 プッと吹き出して、フキとサクラは笑い始めた。

 

 エリカとヒバナはショーのことを考えたのか、手の平で口を抑えて必死に笑いを堪えている。

 

ワンダフル千束『え~、ゼロ距離じゃないとだめなの~。・・・・・・きょむきょむエナジー使えねぇ!!』

 

サクラ「いや~、恐ろしい武器っすね~。あーしも次の任務で使いたいくらいっすよ」

 

ワンダフル千束『使えよ! 絶対使えよ!!』

 

サクラ「はははははは。是非、射撃場で扱い方をご教授願いたいっすね。でもそれ、的まで届くんすか? あははははは」

 

ワンダフル千束『こんにゃろう!!』

 

サクラ「ぶはぁっ!?」

 

 腹を抱えて笑うサクラの顔面に千束が生クリームをぶちまけた。ぶちまけただけでなく、手を伸ばして、素早く顔面にグチャグチャと塗り込んだ。

 

フキ「馬鹿! なに油断して――オヴォァ!?」

 

 ついでにフキにも同じことをして、ワンダフル千束はアタッキュア達から距離を取った。エリカとヒバナが追撃するがワンダフル千束は華麗に避ける。フキとサクラは駆け足で舞台の隅に退避した。スタッフが持ってきた濡れタオルで必死に顔を拭っている。

 

エリカ(いいなー、私もタオル欲しい。・・・・・・どうして私だけこのままなの?)

 

 千束は下唇を噛んだ。

 

ワンダフル千束(今ので四本消費した。残りのう○こは後八本、それなら・・・・・・)

 

 ワンダフル千束はステージの上で死んだふりを続ける五代目の着ぐるみおじさんの元に向った。

 

 ステージの上には生クリームを装着したまま死んだふりを続ける三体の着ぐるみおじさんが居る。上手く立ち回れば、一人六本、合計十八本の生クリームを回収することができる、と千束は考えた。

 

 エリカとヒバナは千束の狙いに気付いたのか、ペイント弾を連射しながら、徐々に千束との距離を詰めていく。

 

 千束は着ぐるみおじさんの上体を起こして、後に隠れ、そして叫んだ。

 

ワンダフル千束『ワンダフルシールド!』

 

ヒバナ「おい、仲間の死体を盾にするなよ!」

 

エリカ「あなたに力を与えてくれた人たちでしょ!!」

 

ワンダフル千束『ここは戦場だよ、アタッキュア諸君。だから君達は十年経って我々に勝てぬのだ』

 

ヒバナ「チッ」

 

 ヒバナとエリカの射撃をやり過ごしながら、千束は着ぐるみおじさんからホルスターの付いたベルトごと生クリームを回収して腰に巻き付けた。元々自分が装備していた分も合わせると、これで三本目だ。ついでにペイント銃も一丁奪った。

 

ヒバナ(しまった、千束が銃を手に入れた!)

 

 ペイント銃でヒバナとエリカを牽制しながら、千束はガンバナヒーの着ぐるみおじさんの元に向う。

 

 同じように着ぐるみおじさんを盾にして無事に生クリームを回収し終えた頃、ステージの隅で顔を拭っていたフキとサクラがようやく戻ってきた。

 

フキ「待たせたな。・・・・・・悪かった。二人して油断した」

 

サクラ「面目無いっす」

 

ヒバナ「いいよ。任務だったらキレてたけどな。で、どうするの? これでワンダフル千束の持つきょむきょむエナジーは合計二十本になった。フキとサクラが一発ずつ食らってるから、丁度あたしら全員を倒せる数だ」

 

エリカ「おまけに、ペイント銃まで手に入れちゃったよ」

 

サクラ「あーしらも敵を見習って、ガンバナヒーを盾にしてワンダフル千束に近づけばいいんじゃないっすか?」

 

フキ「お前なぁ・・・・・いや、二代目はそういうキャラだったな」

 

ヒバナ(自分から仲間の盾になりたいって思うのはいいけど、サクラから盾になれ言われると、ちょっと腹立つ)

 

フキ「ん? ・・・・・・おい、気を引き締めろ。敵が動き出した」

 

 ガンバナヒーの着ぐるみの背後から千束が出てきた。千束は両手に持ったペイント銃をチラチラと見せつけながら、楽しそうに宣言した。

 

ワンダフル千束『これで条件は対等になった』

 

フキ「四対一なことに変わりはねーだろ。調子に乗ってんじゃねーぞ」

 

ワンダフル千束『遠慮はいらん。四人同時に掛かって来なさい』

 

サクラ「野郎!」

 

フキ「乗せられるな、エリカを守りながら冷静に――」

 

 フキが言い終わる前に、千束はペイント弾を連射した。ペイント弾を避けるために一歩踏み出した刹那、フキは気付いた。

 

フキ(状況が変わった。最初とまるで条件が違う)

 

 生クリームしか武器を持たない千束相手だから、エリカの前に壁を作って弾幕を張れた。しかし、今は違う。千束にペイント弾を撃たれたら、ガードするものを持っていない自分たちは避けるしかない。動かざる得ない。

 

 エリカを守る陣形が崩れた。

 

 考える暇を与えまいと、両手に持ったペイント弾を撃ちまくる千束。

 

 時間にして数十秒ほどだった。

 

 フキ、サクラ、ヒバナ、エリカの統制が乱れ、バラバラになった。

 

 自分の身を優先して守るべきか、ダメージ覚悟で千束への攻撃を優先するべきか、エリカを守るべきか。

 

 千束は四人をさらにバラバラに混乱させるように、常に動き回りながらペイント銃を連射した。フキやサクラも、銃撃をかわしてペイント弾で応戦する。

 

 ステージの上で、ワンダフル千束とアタッキュア達の視線と射線が乱れ、ぶつかって、火花を散らした。発砲音と炸裂音で、あちこちの空気が小さく爆ぜる。

 

 フキ達の焦りとは反対に、その数十秒の乱戦に対して、客席からはステージを震わせるような歓声が上がった。

 

 フキ達は混乱していたが、観客達の眼にはそうは映らなかったのだ。凡人が半狂乱になって闇雲に引き金を引いているわけではない。

 

 チームとしての動きは失われていたが、個々の動きと判断はこれ以上無いほど的確で、訓練で繰り返し体に染みこませた技術と、実戦によって裏打ちされた反応が、アルゴリズムで制御されているような乱戦の光景を生み出したのだ。

 

 このあたりまではカッコ良かった。ここが最後の見せ場だった。

 

 撃ち合いの中、千束はヒバナとエリカに撃たれても反撃しなかった。フキとサクラに意識を向けていまーす、という千束の演技だった。

 

 ヒバナはまんまと騙された。一番近い、初代の着ぐるみおじさんの裏に隠れるよう、エリカに指示を出した。

 

 エリカは初代着ぐるみおじさんの裏に立って、ほっと一息ついた。

 

 千束はその瞬間を見逃さなかった。エリカに向って、猛然と駆けだした。

 

 気を抜いた瞬間を狙われ、エリカは焦ってペイント銃を乱射した。

 

 狙いに気付いたフキ達も、千束に銃口を向けて、引き金を引く。

 

 打ち出されたペイント弾は、何発か千束の髪をかすったものの、彼女の体をすり抜けるように、パチャパチャとステージの壁に当たって不揃いな花を描いた。

 

 千束は走りながら、右手のペイント銃を左脇に挟んで、左手のペイント銃を右手に持つと、大きく振りかぶってエリカに投げつけるフリをした。

 

エリカは「ひっ」と短い叫び声をあげて射撃を止めると、両腕で顔ガードするした。千束がエリカの懐に入る。狙い通り。千束はガードの隙間に生クリームの絞り袋を差し込むと、エリカの顔面にきょむきょむエナジーを盛大にぶちまけた。

 

エリカ「ほぎゃああああああああああ」

 

フキ&サクラ「「五代目ぇえええええええ!!」」

 

ヒバナ「エリカあああああああああ!」

 

 エリカはよろよろと初代の着ぐるみにもたれかかった。

 

エリカ「みんな・・・・・・今までありがとう。裏切り者の私と仲良くしてくれて・・・・・・後は・・・・・・まかせた・・・・・・よ」カクン。

 

ジン「五代目、アウト」

 

 黒いブレードを持ったスタッフがステージに上がってエリカの尻をパンッと叩いた。

 

「ひゃん!」というエリカの叫び声がマイクに乗って木霊した。

 

 そして訪れる沈黙。

 

フキ&サクラ&千束(((死ぬ間際にケツ叩かれるなんて聞いてない)))

 

ヒバナ「・・・・・・・・・・・・」

 

 千束は気を取り直して演技を続ける。

 

ワンダフル千束『残るは三人だな。さぁ、次にきょむきょむされたいのは誰・・・・・・ん?』

 

 千束はガンバナヒーの異変に気付いた。自分に向けてただならぬ殺気を放っている。

 

ヒバナ「・・・・・・ごめんね、五代目。私が守るって誓ったのに」

 

サクラ「あんたら、今日初対面っすよね?」

 

 ヒバナはキッとサクラを睨んだ。

 

サクラ「いえ、冗談っす。ガンバナヒーさん」

 

フキ「落ち着けガンバナヒー。相手がワンダフル千束じゃ仕方ないさ」

 

ヒバナ「初代、二代目、あたしがアイツの動きを止める。あたしもろとも倒せ」

 

フキ「え?」

 

ガンバナヒー「おおおおおおおおおお!!」

 

 千束に向って突進するガンバナヒー。走るフォームが陸上の短距離選手のそれである。千束はペイント弾をパンパンと発射しながら逃げようとするが、狭いステージの上、命中するペイント弾を気にもとめずにアメフト選手のように全力疾走で迫ってくるガンバナヒーからは逃れることができなかった。

 

 ガンバナヒーが目前に迫る。千束は両手を広げて、速やかに体の向きを変え、ガンバヒーの突進をかわそうとするが、腰に抱きつかれるような形で捕まり、ロックされてしまった。

 

ガンバナヒー「捕まえたぞ、ワンダフル千束」

 

 ガンバナヒーは千束を抱きしめたまま持ち上げた。ガンバナヒーの腕の位置にあった生クリームが三本弾けて床を汚した。千束の足がステージから離れ、顔に焦りの色が浮かぶ。

 

ワンダフル千束『ちょちょちょちょ、待って待って、えぇっ?』

 

ヒバナ「これでもう逃げられないよ」

 

ワンダフル千束(くっ、どうする!? 逃げたいけど、流石にこの距離でペイント銃の連射はマズい気が・・・・・・)

 

 千束はペイント銃を捨て、自由になった両手で、腰から生クリームを抜いてヒバナに浴びせる。ヒバナは気にせず、勝ち誇った顔でセイフを続けた。

 

ヒバナ「五代目を倒したのが徒になったね。あんたが五代目を倒した瞬間、あたし達の中の『四人で一緒にハッピーエンド』という未来が消えた。誰かの犠牲を前提にしていいなら、あんたなんか怖くないんだよ」

 

フキ&サクラ((悪いヒバナ、そんなこと考えてなかった))

 

ワンダフル千束『そんなの、最初からあたしに勝ち目ないじゃん!!』

 

ヒバナ「当たり前だろ。悪役だぞ、お前」

 

ワンダフル千束「・・・・・・・・・・・・」

 

フキ「ま、そういうことだな」

 

サクラ「あんたは最初から詰んでたってことっすよ」

 

 無様だな、千束、と言わんばかりの笑みを貼り付けて、フキとサクラがペイント銃を構えた。

 

 銃口をむけられた千束は全身をぐねぐねと動かしてガンバナヒーの腕から抜け出そうと足掻く。三本目、四本目の生クリームを抜いてヒバナに浴びせる。しかし、  腕の力が緩む気配はない。千束の足がジタバタと虚しく空を掻く。

 

 フキとサクラがペイント弾を発射する。一発、二発、三発と、ワンダフル千束の  衣装が緑の花に汚される。千束の顔が悔しさと焦りで歪んでいく。額から頬に一筋の汗が流れた。

 

 銃撃は続く。四発、五発、六発。七発目の攻撃を受けた時、千束はギュッと目を閉じて歯を噛み締めた。

 

ワンダフル千束(あと五発でワンダフルライフがゼロになる。ごめんなさい。最後の切り札、使わせてもらいます、ジンさん)

 

ワンダフル千束『ニコ様ー!! どうかお力を!』

 

フキ「あ? 何言ってんだお前?」

 

ワンダフル千束『ニコ様ぁあああああああっ!』

 

 千束は観客席に向って絶叫した。

 

 フキとサクラは射撃の手を止め、煩わしそうな表情で客席の方へ目を凝らした。

 

 観客達も、なんだなんだ、自分たちの中にニコが居るのかと、前後左右に首を巡らせた。

 

男の子「あ、ニコ様だ!」

 

 振り向いた子供の一人が、たきなを見て驚きの声を上げた。それを歯切に、観客達の間にどよめきが広がっていく。

 

たきな「ニコ様?」

 

 たきなは首を傾げた。頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいる。

 

大きなおな達「なんと、本物のニコ様がいるでゴザル!」

 

大きなお友達「ニコ様は実在しておったのか!」

 

大きなお友達「この超絶美少女っぷり、紛れもなくニコ様だ。ニコ様が二次元からご光臨なされた!!」

 

ミズキ「なになに? 『きょむきょむ団』のボスの外見って、たきなにそっくりなの?」

 

クルミ『そうらしいぞ。ホレ』

 

 ミズキとミカはたきなが持っているクルミのタブレットを覗き込んだ。たきなも目を落とす。画面には大きく維持神ニコのイラストが表示されていた。

 

ミズキ「めちゃ美人ヤンケ」

 

ミカ「確かに、たきなと似てるな」

 

たきな「髪型が同じだけではないでしょうか」

 

ミズキ「そりゃ人気出るわー、シリーズ通して敵組織を固定してるの納得だわ」

 

クルミ『こいつシリーズの最終回で絶対魔法銃士に変身するだろ。そんで創造神と破壊神の二人と戦うだろ』

 

ミズキ「キャラデザで展開が読めるな」

 

たきな「・・・・・・・・・・・・」

 

ミカ「おい、呼ばれてるぞ」

 

たきな「?」

 

 ミカが指差した方を見ると、ジンがたきなに向ってちょいちょいと手招きしている。

 

 たきなはジンの元に向った。司会席でジンから最低限のセイフと演技について書かれた小さなメモを見せられると、納得したようにこくりと頷き、そのメモを受け取ってステージに向った。

 

 ステージに上がる途中、たきなは倒れていたボイド将軍の軍帽を奪った。

 

 ローファーの音をコツコツと響かせながら、たきなは悠然とステージの上に姿を現した。

 

 千束やフキ達の視線が一斉にたきなに注がれる。

 

たきな「情けないですね、ワンダフル千束。こんな連中に苦戦するなんて」

 

サクラ「あ? こんな連中だと?」

 

フキ「おい、どういうつもりだ! テメーが参加するなんて聞いてねーぞ」

 

 フキとサクラは苛立ちをあらわにした。

 

ワンダフル千束『頭が高い。このお方こそが、スペース虚無虚無ワゴン団首領、ニコ様だ!』

 

フキ「オメーの頭が一番高いんだよ」

 

 ワンダフル千束はガンバナヒーに持ち上げられたままだった。

 

 たきなは周囲に目を配って、死んだふりを続けている着ぐるみおじさんズや、ボイド将軍の姿を二三秒ずつ、目に焼き付けるように眺めると、一呼吸置いて、平淡な口調で言った。

 

たきな「随分と仲間がやられてしまったようですね。これ以上の犠牲は許容できません」

 

サクラ「残念、あんたもこれから同じ目に会うんすよ」

 

たきな「いいえ、それはあなた方です。ここからは私も、私の仲間も死にません」

 

たきな「維持神ニコの名にかけて」

 

たきな「現状を維持します」

 

 本場のう○こ使い、参戦。

 

???「・・・・・・うぅ、た・・・きな」

 

サクラ「ん?」

 

エリカ「うううっ・・・・・・」

 

 ちょうどサクラが立っている位置の背後から、絞り出すような声が聞こえた。

 

 振り向くと、うめき声を上げながらエリカがのそりと起き上がるところだった。

 

 ふらふらと立ち上がったエリカは、先程まで寄りかかっていた初代の着ぐるみの腰に手を伸ばした。そして生クリームを千束がしたようにベルトごと奪うと、おぼつかない足取りでたきなの元に向った。

 

 ガンバナヒーは生クリーム持って徘徊する五代目を見て、思わず千束から手を離した。口を開けて呆然と立ち尽くすガンバナヒー。自由になった千束はスタタタっとたきなの元に駆け寄った。

 

サクラ「ちょっ、お前、さっき死んだはずじゃ」

 

エリカ「あ~、きょむきょむエナジーを大量に浴びたわたしは~、闇のエネルギーに浸食されて~、ダークアタッキュアとして復活いたしました~」

 

サクラ「だーっ、そんな設定初めて聞いたぞ!」

 

エリカ「あ、あ・・・・・・アドリブぅぅぅ~~」

 

フキ「馬鹿野郎! アドリブで蘇生すんじゃねーよ! 脚本家まで裏切ってどうする五代目!」

 

 百合ゾンビ、爆誕。

 

 たきな参戦により、死んだはずのエリカがアドリブで復活してしまった。

 

エリカ「たきなぁ・・・・・・」

 

フキ(ニコ様だろ)

 

エリカ「たきなぁあああああああああ」

 

 エリカはたきなの胸にべちゃっと飛び込んだ。

 

 たきな(えぇ、あぁ・・・・・・制服が)

 

 たきなは生クリームまみれになった。設定上ダメージはないが、たきなの目のハイライトは明らかに薄くなった。

 

ヒバナ「エリカぁあああああああああ!!!!」

 

 たきなに抱きついたエリカを見て、我に返ったガンバナヒーが雄叫びを上げる。魂が血の涙を流している。

 

サクラ(あいつら、なにフツーに本名で叫び合ってるんすか)

 

フキ(もう勝手にやってくれ)

 

 ニコの右側にワンダフル千束が、左側に五代目が並ぶ。ニコは無表情で、両腕を組んだワンダフル千束は自信に満ちあふれており、なぜかゾンビ五代目も新たなチーム結成ですと言わんばかりに胸を張って立っていた。

 

女の子「あーー! 五代目がまた裏切った!!」

 

男の子「蘇生してまで裏切りたいのか、五代目は」

 

女の子「成長してなーい」

 

男の子「自己蘇生ってチートじゃね?」

 

 子供たちからも批判の声が上がる。だが、ゾンビ五代目は気にしない。その瞳に映るのはたきなのみである。

 

エリカ「あ~あ~ たきな~~ たきな~~」

 

エリカ「話したいこと~ 一杯あるの~~」

 

エリカ「でも今は~~とりあずこれあげるぅ~~」

 

たきな「ありがとう、良い子ね」

 

 エリカは初代の着ぐるみおじさんから奪ったきょむきょむエナジーをたきなに渡した。

 

ヒバナ「裏切りものぉおおおおおおおお、裏切りものぉおおおおおおおお」

 

たきな「これで三対三ですね」

 

 すかさずジンが補足を入れた。

 

ジン「えー、ゾンビとして復活した五代目は、敵味方、誰に対するいかなる攻撃も不可とします。体を張って攻撃の盾となる行動のみ許されます。蘇生に関してはニコの特殊能力の一種と解釈してください。続いて、ニコのライフはペイント弾十二発とします。ワンダフル千束同様、きょむきょむエナジーによる攻撃は無効です」

 

フキ「チッ、公式が五代目の復活を認めやがった」

 

 ジンが説明している間、たきなはエリカからもらった生クリーム六本と、千束のホルスターから抜いた生クリーム五本をせっせとボイド将軍から奪った軍帽にう○こ状に盛り付けていた。

 

 千束はそれを引きつった表情で眺めていた。

 

 ジンの説明が終わった直後、千束はたきなの肩をポンと叩いて、優しく訪ねた。

 

ワンダフル千束『ニコ様、さっきから何してるんですか・・・・・・それってうん・・・』

 

たきな「敵の中で一番厄介なのがガンバナヒーです。いくら何でも硬すぎます。そこでこの十一本分のきょむきょむエナジーで作った『ニコ様スペシャルホットボム』の出番です」

 

 たきなは自慢げな表情で軍帽にモリモリと注がれた焦げ茶色の生クリームを見せた。

 

たきな「これをぶつければ、一撃でガンバナヒーを仕留められます」

 

ワンダフル千束『おおーっ、さすがニコ様』

 

フキ「ふざけんな!!!! 卑怯だろ!!!!」

 

たきな「何か問題でも?」

 

 フキはジンを睨み付けた。

 

ジン「時間が押しているので、認めます」

 

フキ「クソォオオオオオ!!」

 

サクラ「先輩、もう諦めましょ。あーしらの命はここまでっす」

 

 サクラはフキの肩に手を置いた。

 

 ワンダフル千束は『ふははははははははは』と笑いながら特性ボムを持ってガンバナヒーに突撃した。ガンバナヒーは友に裏切られたショックで、抵抗する気力を失っていた。

 

 べちゃぁああああんと、特性ボムを正面から胸にぶつけられ、大の字になって沈むガンバナヒー。仰向けに倒れれば良かったのだが、何を思ったのか、ガンバナヒーはうつ伏せに倒れたので、特性ボムが胸に押しつぶされて、白い床に焦げ茶色の汚い沼ができた。

 

 まさかの現役世代撃沈である。子供たちの間にも衝撃が走る。

 

男の子「やられたー 死ぬは二代目だと思ってたのにー」

 

男の子「どうすんだよコレ。ピンチだぞ。唯一の十代だったのに」

 

女の子「もう、大人のアタッキュアしかいないんだね・・・・・・」

 

女の子「二十七歳と二十四歳に頼るしかないのかー」

 

女の子「ママ、子供向けアニメにまで高齢化の波が押し寄せてるの?」

 

 クッ、と顔を歪めるフキとサクラ。

 

 前に立ち塞がる敵は、千束とたきなのコンビに、ライフ無限の百合ゾンビこと不滅のエリカ、もはや抗う術は無い。

 

 二人が絶滅エンドを覚悟したその時、

 

たきな「ここまでにしましょう」

 

フキ「は?」

 

 ニコが突然、戦いの終わりを宣言した。

 

たきな「現役の魔法銃士であり、一番やっかいなガンバナヒーの撃退に達成しました。加えてゾンビ化した五代目も仲間に引き込むことができました。着ぐるみを着たイタバサ民四人とボイド将軍は失いましたが、代わりにワンダフル千束の覚醒という成果も得ました。十分と言えます」

 

エリカ「あーうー」

 

たきな「追い詰められた相手は何をしてくるかわかりません。ワンダフル千束のライフも半分以上削られています。彼女をここで失うのはあまりにも惜しいです」

 

フキ「・・・・・・・・・・・・」

 

男の子「えー最後まで闘えよー」

 

男の子「つまんねーの」

 

たきな「それに、私達には戦いよりも優先してやるべきことがあるはずです」

 

フキ「・・・・・・なんだよ?」

 

 たきなは優しい笑顔を作った。客席の方に体を向けると、両手を広げて子供たちに問いかけた。

 

たきな「みなさん、何か忘れていませんか? 今日は?」

 

女の子「あ!」

 

子供達「「「初代のお誕生日だー!!」」」

 

フキ「嬉しくねーよ!!!! 仲間が死んだ直後にお誕生日会開かれても全っ然嬉しくねーよ!!!!」

 

ワンダフル千束「ワンダフルサプライズパーティー」

 

フキ「黙ってろ」

 

サクラ(どんなサプライズだよ)

 

 陽気なBGMが流れはじめた。遠くでパーンという音がした。ジンさんが司会席でクラッカーを鳴らしたのだ。サイレントジンの二つ名が霞む。

 

 たきなが客席に向って「さぁ、お友達の皆も一緒に歌いましょう」と呼びかける。音楽に合わせて、有無を言わさぬ合唱がはじまった。

 

 ジンさん、ワンダフル千束、ゾンビ五代目も合唱に加わる。死んだはずの着ぐるみ達の中からも、くぐもった歌声が聞こえた。

 

子供達&きょむきょむ団「「「ハッピーバースデートゥーユー♪」」」

 

フキ「お前ら宇宙を滅ぼすんだろ!!!! 敵の誕生日祝ってる暇なんかねーだろ!!!!」

 

サクラ(マジでこの流れから誕生日パーティーに移行するんすか!?)

 

子供達&きょむきょむ団「「「ハッピーバースデートゥーユー♪」」」

 

フキ「周りを見ろよ! 死体だらけじゃねーか!! これまでの戦いは何だったんだよ!!!! 脚本家呼べ!」

 

サクラ(・・・・・・ってことは、パフェとか食べられるんすかね?)

 

「「「ハッピーバースデーディア、春川フキ~♪」」」

 

フキ「初代を祝え」

 

 スイーツを食べられる嬉しさで、最後はサクラも合唱に加わる。

 

「「「ハッピーバースデートゥーユー♪」」」

 

 合唱が終わると、ニコがパンッと手を叩いた。魔法の効果が発動して、着ぐるみおじさんズやボイド将軍の死体達が起き上がり、舞台から出て行く。

 

 代わりに、陽気な音楽と共にケーキが運ばれてきた。

 

 たきなは胸をごそごそと漁り、クラッカーを一本取り出すと、フキに向けてパンッとならした。頭からざる蕎麦を被るように、クラッカーの中身がフキにかかった。

 

ニコ「ハッピーバースデー」無表情。

 

フキ「馬鹿にしてんのか?」

 

サクラ「まぁまぁ。ケーキ食えるんだからいいじゃないっすか」

 

 大きなチョコレートがフキの目の前にセットされ、そこには二七本の蝋燭が差してあった。

 

 たきな「ではこれより、ハッピーきょむきょむバースデーパーティーを開きます」

 

フキ「何だそれ」

 

たきな「では、フキ先輩。ふーってしてください」

 

フキ「私は二十七じゃないからな」

 

ワンダフル千束『分かってますって』

 

 フキが蝋燭を消すと、その場でケーキが切り分けられ、舞台の上のみんなに配られた。

 

 指示がないので、取りあえずガンバナヒーも起き上がって誕生日パーティーに参加することにした。

 

フキ「ったく無茶苦茶なショーだったぜ」モグモグ。

 

サクラ「そもそもの発端はフキ先輩がボイド将軍撃っちゃったからじゃないっすか」モグモグ

 

フキ「うっ・・・・・・あたしのせいでガンバナヒーは死んだのか?」

 

ヒバナ「もういいよ。終わったことは仕方ない。リアルではこんなミスしないでよ」

 

 ヒバナはフキとサクラの間に入って、ポンポンと二人の背中を叩いた。

 

フキ&サクラ「「え? なんで居るの?」」

 

ヒバナ「そんなことより、問題はあの裏切り者だろ」 

 

 ヒバナはエリカの方をギロリと睨んだ。

 

たきな「はい、ゾンビ。あーん」

 

エリカ「あー・・・・・・///」

 

エリカ「うーあー おいーしー・・・・・・」

 

千束「もうゾンビの演技しなくていいんじゃない?」

 

 観客席の子供たちや親御さん達も、ケーキを頬張っていた。

 

ミズキ「しかし、見事にぶん投げたな」モグモグ。

 

ミカ「・・・・・・流石のジンもお手上げだったっぽいな」モグモグ。

 

クルミ『僕の分は?』

 

 ショーの内容はぐちゃぐちゃになったが、観客に甘いものを配ったら、ぜんぶ丸く収まった。買いに行ったのは、ワゴンの中で事切れていたリーダーである。ボイド将軍が撃たれた時点で、ジンがショーの崩壊を見越して買いに行かせたのである。

 

 後日、アニメ本編でもガンバナヒーが死亡。次の週より、初代と二代目のペアに交代して物語が続くことになった。

 

 初代と二代目は歳を取っていたこともあり、キャラデザが若干、フキとサクラに寄せて変更された。

 

 今回のショーの内容は、楠木司令の粋な計らいで模擬戦同様、本店のなかで放送されており、AD内でエリカのあだ名が『五代目』になった。

 

 了

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。