同盟男爵伝説   作:sunplane

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いくつかオリジナルな機関、組織が出てきます。

原作でもどこから来たのか明示されていない(はずの)帝国艦隊なので思い切って捏造してる部分多々あります。

一人称の方が書きやすかったかも。



前日譚1-1 エル・ファシルにて

 宇宙歴788年 (帝国歴479年)6月15日 

 

 エル・ファシル星系本星衛星軌道 艦隊旗艦《グメイヤ》

 

 

 この日、エル・ファシル星域艦隊司令官アーサー・リンチ少将は、近隣星系から相次いで入ってくる通報に接し、急遽幕僚たちを引き連れて宇宙の人となっていた。オペレーターたちからの報告は多岐に及んでいたが、すべてを聞かずとも状況が極めて危ういことは誰しも理解できた。

 

 

  

 「ティアマト星系哨戒部隊、襲撃され壊滅判定!エル・ファシル方向に抜けられた模様。」

 

 

 

 「アスターテ星域方向からエル・ファシルへ敵正規艦隊約1000隻の浸透あり!船体に正規艦隊以外の貴族家紋と思しきマークを確認!」

 

 

 

 「アレスハイム独立艦隊より打電!我らの眼前より一部部隊が撤退を装い転進!エル・ファシル方向に向かわれた。注意されたし!」

 

 

 

 

 「くそったれが!帝国軍はイゼルローン要塞で同盟艦隊を待ち受けてるんじゃなかったのか」

 

 

 

リンチが着任してからも散発的な襲撃はあったものの、ここまで同時多発的な来寇はなく。己の不運に悪態をついていた。古参の幕僚たちも動揺を抑えるのに必死な様子である。

 

 

 

 ほどなくオペレーターたちの報告を集約し、リンチの副官が報告した。

 

 

 

 「閣下、敵はエル・ファシル星系外縁部にて合流後、こちらに進軍する構えです。総数は推定で2500隻から3000隻前後。このままでは我々駐在艦隊およそ1000隻の手におえる範囲を逸脱します」

 

 

 

「援軍を要請できる最も近い正規艦隊は?敵の合流までに間に合うか」

 

 

 リンチもなすべきことを始めた。状況を把握し、可能なら敵艦隊を撃退しなければならない。しかし幕僚長の大佐が述べたのは悲観的な見通しだった。

 

 

「シヴァ星域に駐留している第五艦隊に救援を要請しましたが、到着予定は10日後。敵艦隊は遅くとも5日後には合流する見込みです。正面からの戦いでは援軍が到着する前に我々が敗退するでしょう」

 

 

「他星系の守備部隊から援軍は……、いやイゼルローン要塞攻略作戦の動員で星系間移動能力のある戦艦はかなりの数が遠征軍に組み込まれてしまった。今回の複数経路からの侵入もその間隙を突かれたということか」

 

 

 

司令官はベレー帽の埃をはたき、被りなおしながら言った。艦橋は重苦しい雰囲気であった。ただ一人の、帝国風の中佐はさっと手元の端末に目を走らせ、なにやら指を走らせていた。

 

 

 

 「何やら腹案があるようだなダル中佐。言ってみろ」

 

 

 “ダル”と呼ばれた中佐は頭を上げ、端末を大スクリーンに接続した。

 

 

 

 

 「はい、救援の到着を待つにせよ、住民ともども非難するにせよ、どこかで敵艦隊を足止めする必要があります。そのためには合流される前に各個に叩かなければなりません。幸いここは我々に地の利があり、進軍ルートは容易に推測できます」

 

 

 画面にはエル・ファシルへ三方向から迫る敵艦隊が映し出された。ティアマト星系からの軍をA、ヴァンフリートからの敵をB、アレスハイムからの敵をCとしている。

 

 

 「敵三艦隊の内、A艦隊は数は敵正規軍の艦艇およそ700隻。目的は威力偵察と仮定します。哨戒部隊を排撃したことから一定の戦術能力が有ると考えてよいでしょう。進軍スピードも速く、一番最初にエル・ファシル外縁部のワープポイントに到着すると見られます。この艦隊についてはこちらの全兵力をもって強襲し、確実に撤退に追い込む必要があります」

 

 

 「次にB艦隊、およそ1000隻と最多ですが2世代前の旧式艦艇が多く、紋章からして貴族軍の私兵と見て間違いないでしょう。旗艦ばかりが立派でも進軍スピードはありません。他の艦隊との合流は1日程度遅れるとみています」

 

 

 

 「最後にC艦隊およそ800隻、こちらも正規軍ではなく貴族軍の暴走でしょう。おそらくは人狩り(マンハント)目的でしょうが勇み足のせいで脱落艦艇が出たのか、アレスハイムでの報告よりも数が減っています。ただ拙速の分、A艦隊と早期に合流されると厄介です」

 

 

 

リンチはそこまで聴いたところで疑問点を口にした。

 

 

 

 「要するに貴官はA艦隊を全力で叩くべきというわけだが、C艦隊との合流についてはどうするのだ。練度が低く、疲弊しているといっても背後を突かれればこちらが瓦解する」

 

 

 

 

「その場合はこちらも二手に分かれ、エル・ファシル市民が脱出するまでの遅滞戦術を図るしかありません。が、もし許されるのでしたらC艦隊については小官が小細工を仕掛けたいと思います」

 

 

 

 その小細工の内容を聞いてリンチはなんとも言い難い顔をしたが、ほかの幕僚たちがこれ以上の提案をしてくることもなさそうであった。

 

 

 

 「よろしい。全士官に告ぐ。休憩、休暇中の人員を含め、駐留部隊全体配置に着け。武装はありったけ補充しておくよう命令。星系住民には万が一のため、避難準備をさせろ。あの新人中尉が作ったマニュアルがあったはずだ。中佐、奴の尻を叩いて住民連絡会との折衝を担当させろ。」

 

 

 

リンチは部下たちに命じた。中佐は取りあえず、自分が指導に当たっていた件の新人中尉、即ちヤン・ウェンリーの恨みがましい視線を想像し、どうしたものかと心の中で頭を抱えた。

 

 

 

 

 

  宇宙歴788年 (帝国歴479年) 3月1日 エル・ファシル星系司令部

 

 

 

 アーサー・リンチが執務室にて手持ち無沙汰に地元の新聞を読んでいたところ、備え付けのインターホンが来客を告げた。画面を見ると中佐の階級章をつけたゲルマン風、というにはやや日焼けしたような印象の男が立っていた。そういえばそんな通知があった、とリンチは思い出しながら彼に入室を促した。

 

 

 

 「申告します。イスカンダル・R・V・R・ダルウィーシュ中佐、只今よりエル=ファシル星域駐在部隊に着任いたします」

 

 

 「司令官のリンチだ。ダルウィーシュ中佐、貴官の着任を歓迎する。ま、楽にしろ」

 

 

 敬礼に答礼で答え、リンチはデスクに腰を下ろす。

 

 

 「ここは前線ではあるが、帝国軍の主力はほとんどアスターテ方面で正規艦隊とやりあってばかりだ。ここの艦隊は迷い込んできた奴らを撃退するか、海賊相手の哨戒任務以外やることがない。若い貴官にとっては腕の振るいどころがなく退屈かもしれんが、まあ我慢してくれ」

 

 

 皮肉か、揶揄いか、何らかの成分をこめてリンチは現状を説明した。これに対し、中佐は一先ず謝辞と原則論に頼ることにした。

 

 

「ご説明ありがとうございます。確かにここに襲来する敵は正規艦隊に及ぶべくもありません。しかし閣下、何処に赴任しましても小官の役割は変わることはありません。すなわち同盟市民の生命と、可能な限りの権利と財産を守ることであります」

 

 

「噂通り生真面目なことだ。いや、そうならざるを得なかったか」

 

 

 中佐はやや返答に困ったように眉根を下げた。リンチはそれ以上揶揄うことはなく、任務を告げた。

 

 

「さしあたって貴官には地域住民との折衝の部署に入ってもらう。そうそう、ついでにだが、近日中にもう一人、新人士官がここに来るから、そいつの教育係も頼もう」

 

 

中佐ははわずかに目を見開いたが、努めて平静を保ちながら疑問点を口にした。

 

 

 

「小官でよろしいのですか?地域住民との折衝にせよ、教育係にせよ、エル・ファシルにはエル・ファシルのやり方がありましょう」

 

 

「折衝係に関しては前任者が地域の顔役の不興を買ってしまったのでな。女性看護師にセクハラをした疑いがかかってしまって人を変えざるを得ない。どうせ担当変更するなら転属したての貴官の方が向こうも今までとは違うと思ってもらえるだろう。新人の方は君に着ける助手替わりだ。他に適当な置き所も思いつかないのでな」

 

 

 上官の答えになるほど、と中佐は頷いた。それにしても、とリンチは呟いた。

 

 

 

 「貴官の名前は長いうえになじみのない響きだな。普段から呼んでいたら皆の舌がミンチになってしまいそうだ。そうだな、ダル中佐と呼ぶが構わんな?」

 

 

 ダル、と呼ばれた中佐はすんなりと了承した。少々無神経な発言ではあるが、呼ばれた側はあえて目くじらを立てようとは思わなかった。彼自身が銀河の回廊の向こう側で生まれ育っていれば憤慨していたかもしれないが、それはあり得たかもしれない仮定の一つに過ぎなかった。

 

 

 「ではダル中佐には改めて住民の自治組織にあいさつに行ってもらう。主なメンバーのリストは端末に送っておくから、明日の1900の定例合同会議までに目を通すように。以上、下がってよろしい」

 

 

 

 「承知いたしました。失礼します」

 

 

 

ダル中佐はそう言って退出した。

 

 

 

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