TS僧侶ちゃん、パーティから追放される。   作:WhatSoon

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1話

俺、ソーニャ・ルペペギウスは転生者である。

 

チートを貰って女神に転生させられた、スーパー僧侶ウーマンだ。

そう、ウーマン……使った事もなかった陰茎が消滅してしまった所謂、TS転生者だ。

転生して数年間は本当に憂鬱だった……だが、今はもう立ち直っている。

グッバイ、俺の陰茎……実家の裏に、木材の切れ端で墓を建てておいた。

 

さて、現状なのだが俺は冒険者と言う日雇いの仕事をしている。

モンスターをブチ殺したり、ブチ殺したり、ブチ殺したりする仕事だ。

 

自慢ではないが……いや、自慢だが、俺の所属する冒険者パーティ『赤き爪』はAランクである。

S、A、B、C、D、E……の上から二番目だ。

 

この国でも両手で数えられる程しか居ない。

凄いパーティなのだ。

崇めろ。

 

そんなパーティのリーダー、魔法剣士のケンジに俺は呼びされていた。

ここはギルドの端っこ、個室を借りて卓越しに俺は座っていた。

 

 

「今日を以って……ソーニャ、お前をパーティから追放する」

 

「え?」

 

 

目の前の……赤い髪の男、ケンジにそう言われた。

 

 

「な、なんでっ……!?」

 

 

思わず驚愕した。

 

 

「考えたら分かるだろ?」

 

「そんなっ……俺、ちゃんとヒーラーとして活躍してたじゃないか!?」

 

 

そう、俺は僧侶だ。

 

回復チートとか言う物を女神から貰っていて……腕がなくなろうが、足がなくなろうが、一発で治癒できる最高の治癒魔法使いだ。

 

何度もパーティメンバーを助けて来た。

それなのに……。

 

 

「…………」

 

 

ちら、とケンジが自身の横に立っている女に目を移した。

部屋の中なのにアーマーを着てるのは、カティア……大盾と手斧を武器にする戦士だ。

所謂、盾役(タンク)って奴で……俺のような接近戦に弱い魔法職を守る防御の要だ。

あと乳がデカい。

 

彼女は俺を一瞥し……軽蔑するような目を向けた後、首を横に振った。

 

な、なんだよっ、その態度は!

 

 

「本当に分からないのか?」

 

「分かるわけないだろ!」

 

 

思わず怒鳴り返すと、ケンジがため息を吐いた。

 

 

 

 

 

「パーティの共有財産」

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 

共有財産……ギルドの金庫サービスに預けているパーティの運用資金だ。

クエストを遂行した後、パーティメンバーの取り分けは半分から更に分割……残りの半分はパーティの装備を整えたり、入り用の時に使えるよう保管しているのだ。

 

それが一体、どうしたと言うのだろう?

 

 

「……何故か、減ってたんだよ。帳簿を付けているエリザが気付いた」

 

「え!?」

 

 

エリザ……視線を横にずらせば魔法使いのエリザが俺を見ていた。

何というか……凄い、痛々しい者を見るような目で、だ。

 

 

「ま、まさか……俺を疑ってるのか!?」

 

「…………」

 

 

俺はメイスを持つ手を震わせた。

 

 

「俺達、仲間だろ!」

 

 

慟哭する。

 

一緒に釜の飯を食って来た仲間を疑うのか!?

辛い時を沢山一緒に過ごして来ただろ!?

ドラゴン討伐で黒焦げになったり、ダンジョンで迷子になって餓死しそうになったり、山で遭難したり……いつだって絆で乗り越えて来ただろ!

 

 

「……お触りOK、エルフの酒場」

 

「え?」

 

 

突如、出された言葉に思わず耳を疑った。

 

 

「にゃんにゃんランド……ドワーフガーデン……」

 

 

汗が出て来た。

冷や汗だ。

 

体の温度が急激に冷えていくのを感じた。

 

 

「な、なんだよ、それ……ケンジ、お前、どうかしたのか?」

 

 

声が、震える。

 

 

「これは……あまり言いたくないが、いかがわしい店の名前だ。覚えは?」

 

「あ、あるわけっ、な、ないだろ?」

 

 

正直に言うと覚えてる。

お金を払って高い酒を買い、女の子を侍らせるタイプの店だ。

 

じゃあ、何故、覚えているのか?

 

 

「……お前の目撃情報があった」

 

「はぁ!?誰だよ!そんな嘘吐いた奴は!」

 

「店員だ」

 

「……ぐ、げ、幻覚だ!」

 

 

そう、俺はそこの常連だ。

陰茎を失ったが心は男のままである俺は、美女の尻を揉むのが大好きだ。

あと乳も。

 

だから通っていた……いや、通っている。

今日も夜になったら行こうとしていた。

 

 

「領収書を見せて貰ったんだ」

 

「お、ひょっ」

 

 

思わず変な声が出た。

 

 

「よくもまぁ、こんな高い酒を頼めるな」

 

「そ、そうっすね……」

 

 

紙に書かれた領収書が机に並べられる。

そこには金貨数枚の酒の名前……と、ソーニャ・ルペペギウスの名前があった。

 

 

「なぁ、ソーニャ?」

 

「はひ」

 

「美味かったか?」

 

「……お、ごっ──

 

 

俺は両手を地面に突いた。

 

 

「ご、ごめんなさいぃっ!」

 

 

これが土下座。

ジャパニーズ・土下座だ。

 

この世界に土下座の文化は無いが……それでも最大限の謝罪だとは伝わるだろう。

 

三つの視線が俺に降り注ぐ。

 

呆れてる目。

軽蔑する目。

憐れんでいる目。

 

心がすり鉢にでも入れられたかのように、ゴリゴリと削られている。

 

ちら、と顔を上げてケンジを見る。

 

 

「……お前、謝れば許されると思ってるだろ」

 

 

ぎくっ。

 

 

「そ、そんな事はない!ちゃんと反省してる!」

 

「何だかんだ、大事にはならないし……謝れば何とかなる……と思ってるだろ」

 

 

ぎく、ぎくっ。

 

 

「へ、えへへへ、つい出来心だったんスよ……ちゃんと返すんで許して下さい、ケンジくん……あ!靴でも舐めましょうか?」

 

「…………もう、返さなくて良い」

 

「え?マジで!?」

 

 

俺の媚びが通用したのだろうか?

そんな言葉が返ってきて思わず立ち上がった。

 

いやー、良かった良かった。

今度はもっとバレないように──

 

 

「ソーニャ、お前はパーティから追放だ。二度と『赤き爪』を名乗るな」

 

「えへへ、へ、へ……え?」

 

 

結局、判決は覆らなかったらしい。

 

 

「盗んだ金は手切金にしてやる。だから返さなくて良い」

 

「そ、そんなっ!俺の治癒魔法が無くなったら、パーティが成り立たなくなるぞ!なぁ、カティア!」

 

 

俺は全身鎧のカティアに目を向ける。

 

 

「いや、別に……それよりも、回復する度にボディタッチして来るのキモかったし」

 

「え!?」

 

 

バレていたのか!?

女同士だから、これぐらい普通だと思ってくれていると……てっきり!

 

 

「じゃ、じゃあエリザ!エリザはどうなんだよ!」

 

「えーっと、あの……盗みは良くないかなって思いますよー。犯罪ですし」

 

 

うぐっ。

思わず息を呑んだ。

 

 

「ば、ば、バカやろー!俺達は仲間だろうが!」

 

「仲間だからこそ、越えてはならないラインってのがあるだろうが」

 

「うへっ、ごもっともです……」

 

 

俺はケンジに擦り寄る。

 

 

「な、なぁ、ケンジくぅん。もうしないから、本当に。お金盗んだりしないから、さ……心入れ替えるから!」

 

「……お、おい、やめろ」

 

 

ケンジがたじろぐ。

……こいつ童貞だから、俺に擦り寄られて照れてるんだな。

 

自慢じゃないが、俺の容姿はそこそこ良い。

女神に転生させられた時に可愛く作って貰ったからってのもあるが……肌の保湿、髪の手入れ、美容目的で治癒魔法をフル活用しているからだ。

見よ、この輝くキューティクルを。

 

あと一歩、押し込めば勝てる!

そう確信した俺はケンジに胸を押し当て──

 

 

「ほげゃっ!?」

 

 

頭を殴られた。

 

だ、誰だ!?

俺を殴ったのは……戦士のカティアだ。

 

 

「良い加減にしろ、ソーニャ……そこから直ぐに離れろ」

 

「う、ぐぅ……」

 

 

こいつ金属を纏った拳で殴りやがった!

治癒魔法を掛けるが痛みはある。

目から塩水が出てきた。

 

 

「す、すまん、助かったよ……カティア」

 

「礼は良いが……本当に見下げた屑だな、コイツ」

 

 

カティアに見下される。

 

俺はMではないので気持ち良くない。

 

……コイツ、ケンジに惚れてるから殴ったんだ。

くそ!男勝りの喪女だからパーティメンバーに直ぐ惚れるんだ、バカが。

ちょっと見た目が良くて、乳がデカくて、ケツが柔らかいからって調子乗るなよ!

アホ!

 

 

「う、うぐ、うぅ……うぅ……ぐずっ!」

 

 

涙と同時に鼻水を出す。

 

 

「お、おい、ソーニャ……」

 

「嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だー!」

 

 

地面に転がり、手足をジタバタさせる。

これが……前世と合わせて40歳オーバーが繰り出す駄々捏ねだ!

 

 

「お、おでっ、まだ皆と冒険しでだい!」

 

 

鼻水をカーペットに擦り付ける。

 

……あ、エリザが一歩下がった。

汚いものを見るような目で見るな!

 

俺は今、真剣に駄々を捏ねてるんだぞ!

同情しろ!

 

あまりにも情けない姿にケンジがカティアに話しかける。

 

 

「な、なぁカティア……」

 

「騙されるな!この性根の腐ったバカは、打算で行動している!反省など無い!」

 

「ぞんなごどないもんっ!」

 

 

反省?

反省ならしてる!

帳簿取られてる事に気付かなかった自分に反省している!

 

エリザがしゃがんで、地べたに寝ている俺へ話しかける。

 

 

「ソーニャちゃん……もう、やめましょうよ。何をしたって結果は変わらないですから、これ以上、恥を晒さないで……」

 

 

懇願するような言葉に……恐ろしく馬鹿にされた気持ちになった。

 

み、惨めだ。

鼻水を垂らし、涙を流し、修道服をシワシワにし、地べたに寝転がる。

これがAランク冒険者の姿か?

 

……生き恥。

 

そんな言葉が脳裏に過ぎった。

 

 

……恥ずかしくなって、俺はスッと立ち上がった。

俺の、負けだ。

 

カティアが「それ見た事か」とか何とか言ってる。

泣き真似じゃなくてガチで泣いていたが、俺のプライドのために敢えて言う必要はないだろう。

 

 

「……世話になったな、ケンジ」

 

「あ、あぁ……その、大丈夫か?」

 

 

顔面をぐちゃぐちゃにしてる俺は、思わずケンジに心配されてしまった。

 

 

「同情するなら……金を──

 

「大丈夫そうだな。あと、金はやらん」

 

 

ダメらしい。

 

とぼとぼと個室のドアへと歩きながら振り返る。

視線は冷たい。

 

 

ドアに手を掛けて……後ろを振り返る。

引き止めるなら今だぞ?

 

……誰も反応しない。

 

ドアノブを捻り……後ろを振り返る。

マジで引き止める気もないのか?

 

……誰も反応しない。

 

ドアを引いて……後ろを振りっ──

 

 

「早く出ていけ!未練がましい!」

 

 

カティアにケツを蹴られた。

 

 

「ぎゃっ!」

 

 

めちゃくちゃ痛い。

尾てい骨が砕け散るかと思った。

 

外に放り出され、ギルド内に居た人達の視線が俺に集まる。

と、言っても昼過ぎだ……皆、仕事に出払って居て人は少ない。

 

だが、少なくない人の目が俺に集まる。

 

こんな情けない姿を見られたくない。

俺は個室のドア前に立って、俺を見下しているカティアを睨みつけた。

 

 

「お、俺をパーティから追放した事を後悔させてやる!俺一人でSランクになって見下してやるからな!そん時に後悔したって遅いかんな!バカ!バーカ!アホ!間抜け!」

 

 

俺は決心した。

必ず、この邪智暴虐なパーティメンバーを後悔させてやろうと。

 

怒りに任せてギルドを飛び出し──

 

 

「いだっ!?」

 

 

引き戸に頭をぶつける。

治癒魔法で傷を治しつつ、辺りを見渡す。

 

ギルド内の奴らが生暖かい目で俺を見ていた。

笑いを堪えている奴もいる。

 

 

「あ!?何だ、何だよ!見せモンじゃねーぞ!散れ!散れ!こっち見んな!」

 

 

そう怒鳴っても逆効果だったようで、笑いを堪えていた男が吹き出した。

 

く、くそっ!

屈辱だ!

許せない!

 

 

「覚えてろよ!あとケンジはハゲろ!一生童貞貫いとけ!バーカ!」

 

 

捨て台詞を吐きながら、今度こそギルドを飛び出した。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「く、くそ!絶対許さない!例え土下座されたってパーティに戻ってやるもんか!」

 

 

俺は顔を赤く染めながら、自分の部屋に転がり込む。

賃貸、その名も「メゾン・ド・マイマイ」。

そこそこ大きい部屋が沢山ある貸しアパートだ。

ちなみに女性しか住めない。

防犯意識バッチリの住宅だ。

 

……そう言えば、家賃……あれ?

パーティを追放されたから収入源が無くなるのか?

 

部屋の隅にあるオーク型の貯金箱(陶器製)を手に取り、蓋を開ける。

 

内容物は、

金貨が2枚。

銀貨が5枚。

銅貨が6枚。

銭貨が36枚。

 

計算すると……

25636ゴールドだ。

 

ゴールドはこの世界の通貨で……まぁ、大体日本円と同じぐらい。

 

金貨が、10,000

銀貨が、1,000

銅貨が、100

銭貨が、1

 

って感じだ。

あ、あと100,000ゴールドに相当する白金貨もあるが……まぁ、あまり見ないな。

パーティの共有財産に入っていたような気もするが……流石に盗ったらバレそうでビビって手を出さなかった。

 

それはともかく。

 

この俺の根城……ここの家賃は月に金貨3枚だ。

つまり、全然足りない。

まだ月初だから問題ないが、今月までに金を用意できなければ追い出されてしまう。

 

 

「く、くそ!何で、こんなに金が無いんだ!」

 

 

俺は冷蔵庫……冷やす魔法を込められた魔道具から酒瓶を取り出す。

コップに氷を入れて、酒瓶の蓋を開ける。

 

 

「何故だ……?全く身に覚えがない」

 

 

注ぐ。

しゅわしゅわとした音と共に泡立つ。

麦で作った酒なのだが、俺はこれが大好きだ。

 

キンキンに冷えた酒を喉に流し込み、飲み込む。

 

 

「かーっ……この為に生きてる……!」

 

 

頭にアルコールが回って、思考力が落ちてくる。

 

将来の不安、家賃、パーティから追放された事、全てが「なんとかなる!」気がして来た。

よしよし、ポジティブシンキングだ。

前向きに考えて行こう。

 

乾燥した豆を棚から出して、食べながら考える。

 

さて、どうやって金を集める?

 

石に魔法を掛けて「お守りです!」とか言って売ってたアコギな商売は、衛兵にバレてもう出来ない。

次やったら逮捕らしい。

前科持ちは流石にヤバい。

 

洗濯するたびに「穴が空いたので捨てておいたよ!」と、くすねていたカティアのパンツも在庫切れだ。

闇市で売る事はもう出来ない。

つか、こっちバレてたらカティアに斧で斬られてたんじゃないか?俺。

 

ガキんちょに原材料がクソ安いクッキーを割高で売る商売も無理だ。

得られる金額もたかが知れてる。

 

……と、なるとやはり。

 

 

「地道に冒険者活動するしかないかー……」

 

 

面倒だが、それしかない。

 

まぁ、これでも俺は?

Aランクの?

治癒魔術師ですし?

 

余裕でクエストもバンバン熟せちゃうって訳よ。

 

よし、そうと決まればギルドに戻るか。

 

酒を喉に流し込む。

 

 

「くぅ、キくぜ……!」

 

 

顔が熱くなってくる。

グラスを机に置いて……酒瓶を傾ける。

……空だ。

 

ふらふらと立って冷蔵庫から、もう一本取り出す。

 

よし、これ飲んだら行こう。

これ飲んだらね。

 

うん。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「えーっと、現在、ソーニャさんが受けられるクエストはコレぐらいですねー」

 

 

ギルドに戻った俺は、受付嬢から提示された資料を見て憤った。

 

 

「なんだよこれ!草むしりとかしか無いじゃん!」

 

「えーっと、ですからパーティではなくて一人となるとどうしても、うわ酒臭っ」

 

 

……顔を顰めた受付嬢を見て、俺は慌てて魔法を使う。

 

 

「あ、やべ、≪超位解毒≫」

 

 

≪超位解毒≫はあらゆる毒素を無効化する解毒魔法だ。

毒草、毒キノコ、コカトリスの毒だって無効化出来る最強の解毒魔法だ。

ちなみにアルコールも毒判定だ。

 

なので身体からアルコールが抜けて……これで酒臭くないだろう。

 

そんな俺の動きを見て、受付嬢が何か言いたげな顔をしている。

 

 

「な、なんだよ……?」

 

「いえ、ソーニャさん……治癒術師としては優秀なのに」

 

「へ、へへ照れる」

 

「本当にダメ人間だなぁって」

 

「あ?」

 

 

思わず眉を顰めて、受付嬢を睨む。

 

だが、受付嬢は笑顔のままだ。

……普段からエグい強面野蛮人どもと会話してるのだから、俺程度では怯まないか。

 

 

「く、こんなプリティーフェイスに生まれた自分を恨むぜ」

 

「あはは……まぁ、それはともかく」

 

 

どうでも良いような感じで話を戻されてしまう。

 

 

「ギルドの規定としては、一人でクエストには行けないんです。普通は。しかも、僧侶であれば尚更……治癒魔法は得意かも知れませんが、討伐任務は無理でしょう?」

 

「そ、そんな事ないし。見て、ほらコレ」

 

 

俺は手元のメイスを指差す。

魔法を強化する魔石が組み込まれた鈍器だ。

ブン殴れば強化魔法なしの動物ぐらいブチ殺せるぞ。

 

 

「はいはい、そうですね」

 

 

しれーっとどうでも良さそうな顔で頷かれる。

何だか当たりが厳しい。

何故だろう?

 

……あ、昼の騒ぎを見られていたのだろうか?

 

受付嬢が呆れた顔で口を開いた。

 

 

「とにかく、ソーニャさんは一人なんですから……危ない事はしたらダメですよ。素直に草むしりをしたり、迷子のペットを探したりして下さい」

 

「ぐぬぬ……」

 

 

唸りながら俺は一歩下がった。

 

どん、と背中が誰かにぶつかった。

後ろで並んでいた奴だ。

 

 

「あ、わるい……」

 

 

金髪の……冒険者らしく肌が浅黒いイケメンだ。

チッ、イケメンかよ。

謝るんじゃなかった……死ね!

 

 

「あ、ソーニャさんじゃないですか。どうかしたんですか?」

 

「え、俺のこと知ってんのか?」

 

「それはもう……あのAランクパーティ『赤き爪』の僧侶じゃないですか。僕、憧れてるんですよね」

 

「へ、へへ、そうか?」

 

 

え?そう?

そっかー、じゃあ許すわ。

イケメンでも無罪な。

死ななくて良いよ。

 

 

「ところで……どうかしたんですか?」

 

「それは──

 

 

()()然然(しかじか)

 

説明すると、金髪褐色イケメン野郎が頷いた。

 

 

「それは酷いですねー」

 

「だろ?ちょっと怒るぐらいで良いよな?パーティを追放なんかしなくたってよぉ……」

 

「うんうん、それはパーティメンバーが悪いですね。僕達なら、そんな酷い事はしませんよ」

 

 

金髪褐色イケメン野郎が頷いた。

……あ、良い事考えた。

 

 

「お前、これからクエスト受けるつもりだったんだよな?ここに並んでるし」

 

「はい、そうですよ?」

 

「なら、俺を臨時でパーティメンバーにしないか?」

 

 

そう、これが名案だ。

一人で無理なら誰かのチームに紛れ込めば良い。

 

 

「良いですよ」

 

「よっし……!ほら、聞いたか?」

 

 

受付嬢に振り返り、話しかける。

何だか凄い嫌そうな顔をしていた。

 

 

「えーっと、でも、ですねぇ……」

 

「あん?ちゃんと一人じゃないんだから規則違反じゃないだろ?」

 

「でも、そのぉー」

 

「ほら、お前からも何か言ってやれ!……えーっと、そう言えば名前は?」

 

 

名前を聞いていなかった事を思い出し、聞き出す。

後ろで受付嬢がため息を吐いていた。

 

 

「ヤリジンです」

 

「ふーん、なんか見た目に似合わず厳つい名前してんな」

 

 

結局、無理矢理意見を押し通してパーティ……『蛇の牙』に参加する事になった。

他に二人メンバーが居たが……ヤリジン含めて全員、褐色で金髪のムキムキだった。

何だよ、このチーム……バランス悪い。

戦士しかいねーじゃん。

 

何か金髪のキノコっぽい髪型してるし。

いや、コレは偏見だし、悪口か?

 

そう思いながら、夜間クエストであるゴブリン討伐へ向かうのだった。


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