TS僧侶ちゃん、パーティから追放される。   作:WhatSoon

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2話

「なぁ、カティア……アイツ、ちゃんと反省すると思うか?」

 

 

俺、ケンジは『赤き爪』のパーティメンバーであるカティアに話し掛ける。

 

彼女は眉を顰めた。

 

 

「思わん」

 

「だよなぁ……」

 

 

今日の昼の話だ。

パーティメンバーである僧侶のソーニャを追放した。

 

……パーティの共有財産に手を出したのだから当然だ。

 

俺は額を揉む。

頭の痛い話だ。

 

魔法使いのエリザが口を開いた。

 

 

「でもでも……追放って一時的なモノなんですよねー?」

 

「何?ケンジ、そうなのか?」

 

 

カティアが驚いたような顔で俺を問い詰める。

 

 

「いや、だって……何だかんだソーニャの治癒魔法は凄いし……あんな奴だけど、仲間だろ?」

 

「そうですよ、カティアさん……ソーニャちゃんは、その、性格が終わってますけど、良い所だって……探せば、ありますし」

 

「……だが」

 

 

カティアが渋い顔をする。

 

 

「アイツ、日頃何をやってるか知っているか?スラムの子供にクッキーを配ってるんだぞ。それも安価で」

 

「何……?エリザ、その話は本当か?」

 

「えぇ、はい。そうですよ……お金にがめついのに不思議ですよね」

 

「む……」

 

 

カティアが自身の顎を撫でた。

 

 

「後は病人の居る家に回って、治療してたりするしな。これも格安で」

 

 

俺が後押しするとカティアが首を捻った。

 

 

「……金は取るんだな」

 

「それはそうですけど、別に良いじゃないですか。医者に見捨てられた可哀想な人を助けてるんですから……ソーニャちゃんが下町で何て言われているか知ってますか?」

 

「何だ?」

 

 

ニックネームみたいな話は初耳で、俺も耳を傾けた。

 

 

「麗しの『聖女』様ですよ」

 

「ぶふっ」

 

 

思わず俺は咽せてしまった。

 

聖女?

聖女って柄ではないだろ。

どちらかと言うと屑だ。

「女」しか合ってない……「聖」という文字に謝って欲しい。

 

 

「あ、ケンジさん酷いです!」

 

「で、でも、仕方ないだろ……せ、聖女って……」

 

性女(せいじょ)の間違いだろ」

 

「うぶふっ」

 

 

カティアの言葉がツボに入って咽せる。

やばい、笑い殺される。

 

 

「みんなしてソーニャちゃんを虐めるんですから……まぁ、身から出た錆ですけど」

 

 

エリザも呆れながら、納得したように頷いた。

 

そう、ソーニャは屑だ。

とんでもない奴だ。

 

居酒屋で鳥のフライに勝手に果物を搾るし、ワンドリンク制の店で酒を二つ頼もうとする。

ジャンケンで勝ったら奢れ!負けたら奢るから!なんて言いつつ、実際にジャンケンで負けたら号泣して泣き落とししてくる。

貸した金は催促しないと返ってこない。

割り勘する時に自分だけ払う金が少なくなるように端数を切り上げる。

寝相が悪いからテントを二人分使う。

山登りで人の水筒から水をガブ飲みする。

受付嬢の尻を触ろうとする。

コップを割ると直ぐに「グレムリンの仕業だ!」と罪をなすり付ける。

 

言い出したらキリが無い。

最悪だ。

 

だが、まぁ……

 

 

「ソーニャにも、良いところはある」

 

 

俺はそう断言する。

 

そんな俺にカティアが白けた目を向けていた。

 

 

「普段悪い事してる奴が良い事をすると、凄く良い奴に見えるだけだ」

 

「う、あ、まぁ、そう、かも、知れない、が?」

 

「ケンジさん、もうちょっと意志を強く持って下さい。ソーニャちゃんが救われないですよー」

 

 

思わず吃った俺に、エリザがダメ出しをした。

 

 

「ソーニャちゃん、凄い可愛いじゃないですか。そこ、良い所じゃないですか?」

 

「容姿しか褒められんのなら、内面に褒められる所が無いと言ってるような物じゃないか」

 

「そんな事ないですよー!例えば……ほら、その……えっと……上昇志向が強い所とか!」

 

「大分、無理矢理捻り出したな」

 

 

カティアが呆れた所で、俺は席を立った。

 

 

「ん?どうした、ケンジ」

 

「どうしましたか?」

 

「あぁ、いや……今、ソーニャがどうしてるか心配で」

 

 

そう返すとカティアがため息を吐いた。

エリザは……何か、凄くニチャっとした顔で笑った。

 

俺が訝しんでいると、カティアが口を開いた。

 

 

「まだ追放してから半日だぞ?そんな直ぐにトラブルに巻き込まれる訳がないだろうが、バカめ」

 

「いえいえーカティアさん。違いますよ、ケンジさんはソーニャちゃんが恋しくなってるんですよ?」

 

 

エリザの言葉に思わず顔が赤くなった。

 

 

「は?はぁ?そんな事はないぞ。全然、全く!」

 

 

否定をするが……既に、少しあの騒がしさが恋しくなっているのは事実だった。

 

 

「だってケンジさんと、ソーニャちゃんは幼馴染ですもんね。以心伝心、相思相愛です。王道のカップリングです」

 

「そうだったな」

 

「違う、断じて違う!俺がアイツに惚れる訳ないだろうが!ソーニャも俺に興味なんて──

 

 

思わず怒鳴ると、エリザが耳を押さえた。

 

 

「怒鳴らなくても聞こえてますよー」

 

「す、すまん」

 

「フン、ケンジはソーニャに惚れているからな」

 

「い、いや」

 

 

否定するが声は小さくなってしまう。

惚れている?

俺が?

あの……クソ女に?

 

確かに見た目は可愛い。

 

俺達が田舎の村にいた頃から、ずっと可愛かった。

 

だが、本当に性格が終わっている。

だから、あり得ない。

 

そう断言できる。

 

うん。

 

俺はアイツに惚れてなど居ない。

 

それに──

 

 

「ソーニャは女にしか興味ないだろ」

 

「あー、うん、そうですねー」

 

 

エリザが頷く。

 

アイツはイケメンを見ると途端に不機嫌になる。

可愛い女の子を見ると鼻の下を伸ばして、ふらふらと近寄る。

 

そう言う奴だ。

 

だから……ソーニャが俺の事を意識している訳がない。

 

 

「うーん、でも確かに?やっぱり何だか、物足りないですね」

 

「……そうだな」

 

 

カティアが渋々、と言った顔で肯定する。

 

 

「三日ぐらい経ったら、ソーニャちゃんをパーティに戻しましょうよ」

 

「もう少し延ばせ」

 

「えー、カティアさんも、ソーニャちゃんが居ないと寂しくないですか?」

 

「……いや、そんな事はない」

 

「悩んでるじゃないですかー!それが答えですよー!」

 

 

俺の事を無視して、二人が騒いでいる。

 

ため息を吐いて、俺は個室の外に出る。

Aランク以上にのみ許されたギルド内の個室……そこを出れば、夜なのに騒がしかった。

 

ギルドはクエストを受託する場所でもあるが、酒場としての一面もある。

彼らは仕事終わりに酒を飲んでいる冒険者達だ。

 

 

「あ、ケンジさん、いらしてたんですか?」

 

「え、あ、はい」

 

 

話し掛けてきたのは受付嬢のマリシアだ。

 

 

「あの、先程ですね……ソーニャさんがですね」

 

「ソーニャがまた何かやらかしたんですか?」

 

 

思わず渋い顔をする。

やれ新人の女の子にセクハラしただの、やれ酒屋コーナーでタダ酒をせびっただの、ツケを払わないなど、クレームはいつもオレに飛んで来る。

俺はアイツの保護者ではない。

 

 

「いえ、違いま……いえ、そうですね」

 

「そうっすか……で?何をやらかしたんですか?」

 

 

マリシアが頬に手を乗せた。

 

 

「一人でクエストを受けに来ようとしてたんですよ」

 

「あー、そうか……で、草むしりでも行ったんですか?」

 

「いえ、凄く嫌がって……他のパーティの討伐について行きました」

 

「……へぇ、そうですか」

 

 

思わず眉を顰めた。

パーティから追放されて、こんな直ぐに別のチームに行くとは。

彼女の悪名は正直、このギルドに広まり切っている。

まともにパーティを組んでくれる奴は居ないと思っていたが……うーん。

 

 

「それでですね、ソーニャさんが参加したパーティの『蛇の……何でしたっけ?あー、そうそう、Cランクパーティの『蛇の牙』なんですけど──

 

「Cランク?それなら大丈夫ですよ。ああ見えて、そこそこ護身出来るので」

 

 

そう、ソーニャはそこそこ近接戦闘が出来る。

と言ってもモンスターから逃げて、メイスで雑魚を殴るぐらいだが。

回復魔法に才能を全振りしているので、攻撃力は無いに等しいのだ。

 

 

「いえ、モンスターではなくて……『蛇の牙』のパーティメンバーって、全員男なんですよ」

 

「あ?」

 

 

自分でもビックリするぐらい低い声が出た。

慌てて取り繕って、笑顔を作る。

 

マリシアが少し引いたような顔をして、口を開いた。

 

 

「え、えと、それでですね。気になって調べたんですけど……何度か女性メンバーが参加してるんですけど、すぐに脱退していて」

 

「どう、なってるんですか?」

 

「……廃業してるんですよね」

 

「…………」

 

 

息を呑んだ。

 

ソーニャが、冒険者をやめる?

故郷に帰る?

 

俺の想像通りなら……心と、体に傷を負わされて。

 

 

「ソーニャさんも、そうなったら心配だと──

 

「何処に行きましたか?彼等と、ソーニャは」

 

 

笑顔、笑顔、笑顔を作って、マリシアに質問する。

思わずカウンターに置いた手を強く握ってしまって……ミシリ、と音をたてた。

 

 

「ゴブリンの討伐です……夜間のクエストなのですが、ヨヨマヨの森まで──

 

「すみません、失礼します……出来れば、ウチのパーティメンバーにも言っておいて下さい」

 

 

俺はカウンターから離れて、走り出す。

ドアを開けて走る。

 

後ろで呼ばれた気がするが、気にしない。

 

太陽は落ちて、空も暗い。

出歩いている人間も殆ど居ない……安心して走る事が出来る。

 

強化魔法を活用すれば、常人の何倍もの速度で走る事が出来る。

 

この胸に感じている不安と焦りを払うように、全力で俺は走った。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

夜。

何か良く覚えてないけど変な名前してた森。

 

マ、ママヨマ、マヨネーズだっけ?

違う、それは前世の調味料だ。

 

この世界で再現しようと作ったら、生卵で腹をぶっ壊して死にかけた。

その時に≪超位解毒≫を始めて使った。

あれはトラウマだ。

以降、卵は火を通した物しか食べないと決心したのだ。

 

それはさておき。

 

俺は今、『蛇の牙』のパーティメンバーと野営の準備をしていた。

普段ならテント張りの準備をする所だが──

 

 

「ソーニャさんは休んでて良いですよ」

 

 

と言われたので、お言葉に甘えて休んでいる。

コイツら、良い奴だ。

 

鼻歌混じりに干し肉を齧りながら、野営の様子を見る。

 

えーっと、テントを張ってるのが、ヤー、ヤヤ、えーっと……何だっけ?

ヤリ、ヤリチ……あ、ヤリジンだ。

OK、OK、思い出した。

 

んで、料理してんのがチャラ男Bだ。

名前は覚えてない。

自己紹介された気がするけど。

 

で、間伐して薪とか用意してるのがチャラ男Cだ。

 

なるほど、働き者だ。

 

……あれ?テントが一つしかないが。

 

 

「なぁ、ヤリジン?テントが一つしかねーみたいだけど」

 

「あぁ、これはですね……ソーニャさんが急に来て用意できなかったので……」

 

「ほーん?」

 

 

いや、でも男と女が同じテントはヤベーだろ。

ケンジはいつも、一人外で座って寝てたぞ。

アイツ、くそ童貞だからハーレムみてぇなパーティ組んでるのに、その辺引け腰なんだよな。

 

 

「心配しなくても大丈夫ですよ。僕達は外で寝るので……ソーニャさん一人で使って下さい」

 

「え?マジ?こんなに広い奴を?」

 

 

元々が三人の男が寝るようだったのだろう、テントはかなり大きい。

普段、『赤き爪』で使ってるテントの二倍ぐらいの大きさだ。

 

 

「いやー、マジでお前ら良い奴だな!」

 

「いえいえ」

 

 

腰も低いし……女たらしっぽい見た目してるけど、意外と良い奴だ!

世の中、良いイケメンもいるんだなぁ!

それともアレか?

俺が可愛いから役得って奴?

いやー、照れちまうなぁ!

 

 

「おーい、料理出来たぞ」

 

 

チャラ男Bの声に、俺はフラフラと近付いた。

 

火にかけられていたのは鍋だ。

グツグツと煮立って良い匂いが……ん?なんかちょと、凄い濃い匂いがするな。

 

全員が集まり、用意してあった皿に盛り付けられる。

俺が一番最初に配膳された。

ふーん、なるほどな、気が利くじゃないか。

 

深めの皿に入れられたのは……シチューだ。

シチュー……何だが。

 

俺はスプーンで肉のようなものを拾い上げた。

 

 

「これは?」

 

「亀です」

 

 

亀?

亀って……いや、良いか。

俺もカエルぐらいなら食った事がある。

 

パーティの食料を食い尽くした時に泣く泣く食べた。

ちなみに美味かった。

 

 

更にスプーンで白いカケラを拾う

 

 

「これは?」

 

「鱗茎です」

 

 

りんけい?

何だそれ。

良く分からないが入ってると言う事は食えるのだろう。

 

 

もう一つ、スプーンで拾う。

ぶよぶよとした何かだ。

 

 

「……これは?」

 

「干貝です」

 

 

貝、貝か!

なら全然分かる。

 

あー良かった。

食べ慣れてるものが入ってるってだけで、途端に食い物として安心できる気がしてきた。

 

 

「じゃあ頂きまーす」

 

 

ぱくり。

 

……うお、臭っ!

エグい!

 

鱗茎ってニンニクの事かよ!

凄ぇ臭いだ!

 

亀も生臭いし、貝も中々キツい!

 

 

「美味しいですか?」

 

 

ニッコリと笑顔でチャラ男Bが聞いてくる。

俺は顔を縦に振る。

 

今、言葉を交わしたら二度と飲み込めなくなる。

そんな気がしていた。

 

必死にスプーンを動かし、無理やり流し込む。

うお、まっず……でも食わなきゃ、明日の俺が苦しむ羽目になる。

 

あー、くそ。

そう考えるとエリザの料理は美味かった。

アイツ、商人家の出身だからか、舌が肥えてるんだよな。

で、自分で食えるモンを作っていたら、料理が上手くなったタイプの奴だ。

 

……クソ、何で俺を追放したパーティの事ばかり気になっちまうんだ。

口にクソ不味いシチューを流し込む。

 

うっぷ、やば、吐きそう。

 

水で流し込み、事なきを得る。

 

他の奴らは大丈夫なのか?

そう思って見渡すと……三人とも大丈夫そうだ。

え?マジで?正気か?

 

カチャカチャと皿にスプーンを当ててると……何だか猛烈に眠くなってきた。

腹が膨れた、から、だろうか。

 

目を閉じたり、開いたりしているとヤリジンが声を掛けてきた。

 

 

「もしかして眠いのですか?」

 

「あ……あー、うん」

 

「でしたら、お先にテントで寝ていて良いですよ」

 

「あー、うん、あぁ、お先に……」

 

 

皿を置いて立ち上がる。

……やば、足元が覚束ない。

 

 

「おっと、大丈夫ですか?」

 

 

ヤリジンが肩を貸してくる。

……あー、やっぱ良い奴だわ、コイツ。

 

そのままテントに運び込まれ……あれ?

他の奴らも来てる……。

 

テントの中心には大きいマットレス、みたいなのが置いてあって……。

掛け布団もなくて……。

 

俺はそこに寝かされる。

 

すげー頭がフワフワする。

何だこれ……。

 

身体が、熱いし……。

 

汗がメチャクチャ出てくるし……。

 

 

「暑そうですね、脱がせますよ」

 

 

あ……?

手が俺の来てるナンチャッテ修道服に伸びてくる。

 

やめ、そこはそんな風に外す、場所じゃ……。

 

あ。

 

 

「≪超位解毒≫……」

 

 

咄嗟に解毒魔法を自分に掛ける。

頭が、冴えてくる。

 

と、言う事は。

 

 

「……お、あー?て、てめぇら……!俺に毒を盛りやがったな!」

 

 

慌ててヤリジンを蹴り飛ばし、テントの端まで逃げる。

恐らく、シチューではなく容器側に毒を塗っていたな。

だが、毒なんて俺には効かねぇ!

 

このスーパーチート僧侶ちゃんに効くわけが──

 

 

バチン!

 

 

「う、え……?」

 

 

頬に痛みが走る。

何で?

あれ、叩かれたんだ、俺?

 

 

「あんまり抵抗しないで下さいね」

 

「え?……え?」

 

 

ヤリジンの手が伸びて、俺の腕が押さえられる。

身、身動きが取れない。

 

そりゃそうだ。

俺は回復チートを持ってようが僧侶で……今は、ただの女だ。

身体強化の魔法や、攻撃魔法の才能は無くて……回復魔法が使えないと、ただの女なんだ。

 

それで、目の前にいるのは戦士職の男で……例え、格下だろうと力の差は歴然で……。

 

や、やばい。

 

やばい。

 

 

「は、はなせっ!」

 

 

俺は身体を捩るが……ピクリとも動かねぇ。

万力で締め付けられてるかのように全く、敵わない。

 

チャラ男BとCが俺の服に手を伸ばす。

 

 

「や、やめっ!いだっ!」

 

 

また頬を殴られる。

今度は平手じゃなくて、グーで殴られた。

 

口の中が切れて、血の味が滲む。

 

 

「お、おい、ヤリジン。ヤる前に顔を殴るなよ。折角の上物なんだぞ」

 

「ははは、彼女は回復魔法の使い手ですよ。どうせ治せますから」

 

 

ヤリジンが笑いながら返した。

 

こ、こいつら、頭おかしいだろ!

 

と、とにかく逃げないと、ヤバい!

お、お、俺の貞操が!

男に抱かれる何て嫌だ!

それも無理矢理なんて、最悪だ!

 

身を捩って逃げようとして……腹に膝を乗せられた。

 

 

「う、おえっ」

 

 

胃が圧迫されて、さっき食べた物を吐きそうになる。

グリグリと押し込まれて内臓が痛む。

 

 

「暴れると怪我しますよ?もしかしたら手が滑って──

 

 

ヤリジンが、俺の臍の下に指を置いた。

 

 

「こことか切っちゃうかも知れませんし」

 

「ひ、ひぃっ」

 

 

俺は顔を青ざめた。

死にたくない!

でも犯されたくもない!

でもやっぱり死にたくはない!

 

 

「わ、わがっだよ、金……金ならある!俺を解放したら金をやる!だから、やめ──

 

 

また頬を叩かれた。

 

 

「本当に……性格が悪いとは聞いてましたけど、惨めったらしいですね」

 

 

髪を掴まれ、引き寄せられる。

 

 

「い、いだっ、痛いって!」

 

「でも、まぁ……顔と──

 

 

修道服のボタンが弾け飛ぶ。

し、下着が露わになって、夜風で冷える。

 

 

「身体は極上なので、我慢しますか」

 

「ひっ……嫌っ」

 

 

息を呑む。

 

俺は今、蛇に絡まれてる蛙だ。

命乞いしても意味はない。

 

だが、命の代わりに貞操を散らされるだけだ。

し、死ぬ訳じゃない。

大丈夫、大丈夫だ。

 

……うん。

 

うん。

 

 

うぅ。

 

 

嫌だ。

 

 

「嫌だぁ……!嫌だ……!」

 

「嫌と言っても、今からする事は変わりませんよ」

 

 

涙と一緒に、恐怖で色々漏れてくる。

声とか、声とか……いや、声だ。

パンツが滲んでるのは気のせいだ。

 

また抵抗すれば殴られる。

大声なんて出したら……絶対に殴られる。

 

い、痛いのは嫌だ。

だが、それ以上に、どうにかなって欲しい。

一抹の望みに賭けて、俺は声を振り絞った。

 

 

「た、たすけて!誰か!誰っ、うぶっ!」

 

 

頬を殴られた。

口を押さえられて、黙らされる。

 

ヤリジンの顔が近付く。

 

 

「……優しくしてあげようと思いましたが……少し、乱暴なのがお好みのようですね」

 

「んー、んぐ、んー!」

 

 

声が出ない。

そのまま、手が、下着に伸びて──

 

 

ズパン。

 

 

と音がした。

 

 

切断された音だ。

 

何処かで聞いた覚えのある音……あぁ、そうだ。

精肉店で肉がスライサーで斬られた音……。

 

 

テントが裂けて……それと同時に、ごとり、と何かが落ちた。

 

裂け目の向こう側には……ケンジが剣を抜いて立っていた。

でも、見た事のない顔だ。

 

凄く……怒ってる。

俺が金を盗った時よりも。

新人冒険者がケンジに告白しようとしてたのを、面白がって台無しにした時よりも。

勝手に剣を使ってタマネギを切ってた時よりも。

 

今まで見た、どんな時よりも怒ってた。

正直、怖い。

 

でも今は……凄く、頼もしかった。

 

それで──

 

 

何か温かい物が手についていた。

 

 

「……あぇ?」

 

 

それは液体で……そう言えば、さっき膝に何か落ちて……。

 

それは生首だ。

お、俺を犯そうとしていたクソ野郎の頭だ。

 

 

「「「ぎゃーーーーーーーーー!!!!」」」

 

 

三人が同時に悲鳴を上げた。

そう、『三人』だ。

 

チンピラB、チンピラC……そして俺だった。

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