コス魂   作:天パ男

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プロローグ

 

 日本は平和な国である。

 例え何が起きようと、誰が何をしようとしても、それは全ては消される。なかったことになる。

 何故ならばこの国には裏から人々を守る少女たちと、侍魂を持った男がいるから。

 

 

 

 

  

 

 それは雪の降る日だった。

 静寂が支配する墓地。多数ある墓の前で男はたった一人で腰をつき白くなった息を何度も荒く吐き出していた。

 

 ぐぅ……

 

 腹の虫が鳴るが彼を笑うものはいない。当然だ。ただでさえ天気が悪い上にここは墓地だ。人気などあるはずがない。

 このままのたれ死ぬのか。墓地で行き倒れとか洒落にならねーな、等と男は諦めたように笑う。

 

「ねぇ。何してるの?」

 

 誰も来ない。

 そう思っていた矢先に声がかかった。俯いていた顔を上げるとそこには白髪に赤いルビーのような瞳をした小柄な少女が立っていた。

 手にはビニール袋が握られている。

 

「別に何でもねーよ…… つーか、逆にこっちが聞きてーくらいなんだがな。こんな日のこんな所に、お前みたいなガキが何で一人でいる。俺みたいな不審者に構ってねーでさっさと帰んな」

 

 腹が減ったとは正直には言わなかった。

 子供に頼りたくないという小さなプライド故か。こんな少女を己の人生の中に巻き込みたくないと思ってしまったからなのか。自分でもハッキリとした答えは出ないが、ともかく男は適当に少女をあしらう。

 

「私、救世主なんだ」

「は?」

「あ、正確に言えば救世主を目指している女の子、かな? だから放っておけないよ、お兄さんのこと」

「はっ。救世主とか、大層な夢を持ってんじゃねーか。最近のガキにしてはよ」

 

 思わぬ答えに男は笑ってしまう。

 少女は笑う頬を膨らました。

 

「あー、笑ったな」

「別にバカにしたわけじゃねーよ。んで、その救世主様はこんな所で一人で何してんだ」

「…… 私ね。一年前のことなんだけど、色々失敗しちゃったんだ。たくさん失って守れなくて…… だからさ、ここには罪滅ぼしってわけじゃないけど、墓参りに来たんだ」

 

 こんな少女から考えられないような言葉を聞き、男は笑みを消す。

 

「随分物騒な話じゃねーか」

「ごめん、こんな話して。まあそんなことよりさ、お兄さん。お腹空いてるんじゃない?」

「あ? 空いてねーよ」

 

 ぐぅ

 

「……」

「お腹は正直ですな~。はいこれ」

 

 少女は袋から透明なパックを取り出す。

 中には、団子が入っていた。

 

「そなえもんじゃねーのか、これ」

「いいの。だってお兄さんが食べなきゃ、今度はお兄さんが死んじゃうよ?」

「…… そりゃあ、笑えねぇな」

 

 男は苦笑いを浮かべ、手に取ったパックを開けた。

 中に入っていた団子はこし餡の団子だった。

 実を言うと男は甘いモノに目がない。それに加えて空腹もあったので一気に食べきってしまう。

 

「どう? 美味いでしょ」

「…… ゲフっ。まあまあだな」

「えー。素直じゃない」

「はっ。俺は甘味通なんだよ。こんなもんじゃ満足できねーな。ところでこの団子、どこの店の?」

「気に入ってんじゃん! …… ふふっ」

 

 少女は思わず笑ってしまう。

 男も彼女の笑顔を見て自然と頬が緩む。

 

「だがまあ、おかげで助かったよ。礼をしてーところだが生憎金もねえ」

「いいよ。お礼なんて」

「俺はお前みたいなガキに貸しは作りたくねーの。将来、とんでもない利子つけられて返せなんて言われたらたまったもんじゃねーからな」

「んなことせんわ! それに…… 私はそんな長い程生きられないよ」

「ガキがなに染みったれたこと言ってんだ。信長だって人間50年は生きたんだからよ。あれ? 47年だっけ?」

 

 男は団子がなくなった串をパックにしまい、立ち上がる。

 そして少女の頭に優しく手を置いた。

 

「ま、どっちでもいいわ。この先、お前がどんだけ生きるかなんざ、わかんねーけどよ。少なくとも、お前が救世主とやらになるまでは……」

「………… !」

「俺がお前を守ってやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ── 九年後

  

 

 東京都内の小さなアパート。その一室に暮らす男が一人。

 時刻は21時。男は冷蔵庫開き缶ビールを取り出す。

 

「あー、肩凝った~。たくっ。千束のやろう、相変わらずコキ使いやがって」

 

 銀色の天然パーマーが特徴的な男、坂田銀時はぶつくさと、とある人物についての文句を一人呟く。

 そしてビニール袋から酒とツマミを取り出し、テーブルに並べていった。

 ツマミはピーナッツと半額にまで値下げされた枝豆。

 大分質素なツマミだがビールさえあれば充分だ。

 金なし男にとっては最大の御馳走だ。銀時はようやく一息つけると缶ビールの蓋を開き口につける。その瞬間。

 

「千束が来ましたァァァ!!!!」

 

 バンッ!!

 

「ブフォ!?」

 

 突然の来訪者に銀時は口に含んだビールを吹き出した。

 何だ何だと玄関の方へと振り返るとそこには赤色の制服を着た白髪の美少女が立っていた。手にはスーパーのビニール袋が握られている。 

 

「千束! お前、まーた勝手に入ってきやがって!」

「銀さんさ~。家の鍵を開けっ放しにするの無用心だよって、いつも言ってるじゃん。ただでさえ人に狙われるような人生送ってるのに」

「お前にだけは言われたくねーよ! つーかお前以外にこんなボロアパートに侵入するような奴はいないっつーの」

 

 銀時はツッコミを入れるが少女、千束は意にも返さずドカドカと部屋へと入っていく。

 そして銀時が用意していたツマミを見ると顔をしかめた。

 

「うわっ…… まーたこんなモノばっか食べて。最早晩御飯とも呼べない代物だし。枝豆はともかくピーナツって。自炊くらいしろよなー。料理できない男はモテないぞ~」

「うるせーな。お前が俺をコキ使いまくるから飯作る暇もねーんだよ」

「だってそれが仕事じゃん。しっかり働け若人よ」

「お前の方がずっと年下のガキだろーが。つーかさっさと帰れ。ご近所迷惑だっつーの」

 

 銀時は最もな指摘をするが千束はフフンと不適に笑いビニール袋の中に手を入れる。

 

「いいのかな~、そんなことを言って。折角いいモノ買ってきたのに」

 

 そう言い袋から取り出したのはプリンだった。

 

「千束ちゃん。こんな時間だけど、ゆっくりしていってくれよな!」

「…… 自分でしておいて何だけど、ちょっとチョロすぎるだろ、おい。まあいいや、逆にゆっくり待っててよ。今からご飯作るから」

「ほん? ふぁたへひふくってくきかほめー(あん? また飯作ってく気かオメー)」

「って、もうプリン食べてんのかい! しょーがないでしょ。銀さん、放っておくと録なモノたべないんだから」

 

 千束は軽くツッコミを入れつつ台所に立つ。

 そして冷蔵庫の中の余り物等を確認しつつ、調理器具や調味料を取り出した。

 人の家でありながら何が何処にあるのかを把握している千束を見ても、銀時は特に驚きはしない。 

 彼女が自信の家で料理を作るなど珍しくもないからだ。

 

「まあ飯を作ってくれるのはぶっちゃけ良いんだけどよぉ。今日はもう21時だぜ。さっさと寝ないと明日に響くんじゃねーのか?」

「それ言うなら銀さんも一緒じゃん」

 

 千束はまな板にネギを乗せ、包丁で切りながら会話を続ける。  

 

「俺はガキのお前と違って大人だから問題ねーんだよ。それにお前、明日は新人の奴が来んだろ? 色々教えたりで忙しいんじゃねーのか」

「あれ意外。新人が来るとかしっかり覚えてるんだ」

「お前、俺を何だと思ってるわけ」

「リコリコがなきゃ、ニート一歩手前のモジャ男」

「よーし、表に出ろ」

 

 といった様な他愛のない会話を続けている内に炒飯とつけ添えのスープが完成した。

 二人はテーブル前に仲良く並んで座る。

 

「っておい。なんで隣に座る。フツーに向い合わせでいいだろうが」

「…… あ、ごめん。聞いてなかった」

「…… なんで隣に座る。フツーに向い合わせでいいだろうが」

「…… あ、ごめん、聞いてなかった」

「…… なんで隣に── ってもういいわ! テメーはどっかの村人か、コラ! たくっ…… もういい。飯食うぞ、飯」

 

 これ以上は疲れるだけ。何より腹も減ったと銀時は諦めて食事を始めることにした。

 千束もニヤリと笑い手を合わせる。

 

「そーそー。早く食べないと冷めちゃうし。いただきまーす。モグモグ。うん。美味しい! 銀さんはどーなの?」

「…… そーだな。味は、まあまあだな」

「うーわ、素直じゃない」

 

 そんな何気ないやり取りをし、二人は笑うのだった。

 九年前と何も変わらずに。

 




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