「転属…… ですか。楠木司令」
「指令を無視して作戦を台無しにした罪は重い。我々DAの存在が世間に知られる危険性もあった」
ダイレクトアタック。通称DA。日本政府とは協力関係にある独立治安維持組織。
その組織の東京支部、指令室にて。DAに所属し、エージェント、リコリスとして働いてきた井ノ上たきなは、司令官楠木からお叱りを受けていた。
銃千丁の取引。目的は不明だが、武器商人とテロリストの取引についての情報を得たDAは、リコリス四名を現場に派遣。
その中には、たきなもいた。
テロリストを何人か銃殺することはできたが、リコリスの一人が失敗し、人質に取られてしまった。
司令からは待機命令が出されていたのだが、たきなはそれを無視。
恐らく敵の武器であらう機銃を勝手に拝借し、生きて捕らえる筈だった武器商人へと発砲してしまった。
結果。人質になったリコリスは怪我もなく救われたが、目的や依頼主についての情報は得られず。更には千丁の銃も行方がわからなくなってしまう。
今回の転属指示は、命令違反に加えて仲間のリコリスを危険な目に合わせた為の罰だった。
「転属先にもリコリスが一人いる。優秀な奴だ、生意気だがな。何か学べることもあるはずだ」
たきなからしてみれば正直、異議はあった。
しかし司令官からの命令に逆らう訳にはいかない。
表向きは素直に了承し、たきなは司令官室を後にするのだった。
下町にひっそりとただすむ喫茶店、リコリコ。
アットホームな雰囲気と独創性のある料理が売りの知る人ぞ知る人気店だ。
「うぃ~。どーして私の前にはいい男が現れないのよ~」
のはずなのだが、この店のカウンター前に座る店員、中原ミズキは真っ昼間から酒を呑み、近寄りがたい雰囲気を作り出していた。
「ミズキ。飲み過ぎだぞ」
そう窘めるのは喫茶リコリコ店長であるミカだ。
「だって~。この間の合コンでも録な目に合わなかったのよ!? なんか変なモジャモジャ頭のグラサンに滅茶苦茶されて」
「いつものことじゃないか」
「いつものことだから悲しいのよ!!」
ついには机に突っ伏して涙するミズキに店長はため息をはく。
「全くうちの店員は呑んだくれが多いもんだな……」
「うーん…… ああ銀のことぉ? そういやあいつ何処行ったの?」
「絶賛戻し中だ」
ミカは視線を奥の廊下へと向ける。その先にはトイレがあった。
「あー、成る程。でもあいつ金ない癖に、よく出す程飲んだわね」
「いや、お前の隠してた酒を盗んで飲んでいたようだぞ」
「あのヤロウ、殺す!」
「あの」
「うひゃおっ!?」
ミズキが勢いよく立ち上がると同時。
いつの間にか背後に立っていた少女に声をかけられ、ミズキは変な声で叫んだ。
「び…… びっくりした。あんた誰よ!?」
「本日配属になりました。井ノ上たきなです」
「来たか、たきな」
井ノ上たきなと名乗った少女はよく見るとリコリスの制服を着ていた。
それにミカの反応からミズキは以前聞いていた新人ことを思い出す。
「たきな…… あ~、DAをクビに──」
「クビじゃないです」
「あ、はい。なんかすみません」
たきなの強い威圧感にミズキは思わず謝ってしまう。
「あなたから学べ…… との命令です。千束さん。東京一のリコリスから学べる機会を得られて光栄です」
たきなはミズキの方を見て千束と言った。
一瞬、頭に疑問符が浮かびミズキは固まってしまう。
が、直ぐにたきなの勘違いを理解し、手を左右にふる。
「いやいや、私は千束じゃないから」
「…… っ!」
勘違いを指摘され、たきなはまさかとミカの方へと視線を向ける。
「いや、そのオッサンでもねーよ!」
「俺はここの管理者をやってる。ミカだ。よろしく頼む。そして彼女はミズキだ。元DAで、かつては情報部の職員をしていた」
「もと…… ?」
「嫌気がさしたのよ。あんたらみたいな孤児を集めて殺し屋紛いのことをさせるキモい組織にね」
ミズキは現リコリスであるたきなを前にして、はっきり本音を言うが、本人は特に気にした様子を見せない。
「あなた方が千束さんでないのなら、一体どこに……」
「うぷっ。気持ちわりー……」
奥から銀髪の男、銀時が顔を青ざめながら出てきた。
たきなはそれを見て、
「…… っ! まさかあなたが、千束さん! そういえば千束さんの特徴は、『なーんか、髪が白い奴』だったはず」
「なにその適当な情報!? 誰から聞いたわけ? ていうかそんな訳ないし! こんな死んだ魚の目をしたオッサンのリコリスなんて嫌だし!」
「あれ何これ? 何もしてないのに何故か俺、めっちゃディスられてるんですけど、これ」
「たっだいまーっ!! 頼まれてたもの買ってきた…… よって誰? あ、もしかして前に言ってた新人の子!?」
銀時がミズキのあんまりな物言いに少し傷ついていると、ようやく千束本人が現れた。
たきなに気づいた千束は目をキラキラと輝かせる。
「もしかしてあなたが千束さん……」
「はいはい! そーです、私が千束です! 名前は確かたきなって言うんだよね! ねえねえ、年は? いくつ!?」
「あ、16です。去年京都支部から転属になりました」
千束のテンションにたきなは、たじろぐ。
「私の一個下か! あ、でもさん付けじゃなくていいから。千束って呼び捨てにして。そこでノイローゼになってる人は坂田銀時っていうんだけど、その人も呼び捨てでいいから」
「おーい、なに雑に俺の紹介済ませてんの? つーか勝手に呼び捨てさせんなや。どーでもいいけど」
勝手に話を進めていく千束に銀時は抗議する。
「別にいーじゃん。ぶっちゃけ銀さんの呼び方って安定しないしさ」
「坂田銀時…… あなたが噂の?」
「あん? おいおい。俺っていつの間に、そんな有名人になってんの?」
「はい。子供を誑かす、妖怪白モジャモジャの異名で名が通っています」
「店長ォ!! 準備しろォォ!! 戦争じゃあァァァ」
「行くなら一人でな」
自分の知らぬ所でとんでもないあだ名をつけられたことを知り銀時は叫ぶが、ミカは適当に流した。
「あーもう、落ち着いてよ銀さん。先生、銀さんにお茶漬けでも出しといて。いつも通り、小豆トッピングで」
「あ、私にもおねがーい。勿論、私は小豆抜きで」
「お前らな…… まあ別にいいが」
怒れる銀時とついでにミズキの対応はミカに任せ、千束はたきなへと向き直る。
「そういえばさ、たきな。ちょっと気になったんだけど、その頬の傷どうしたの?」
「あー。これは……」
たきなの話を聞くとこうだった。
彼女は命令違反をし、人質に取られていた仲間がいたにも関わらず機銃を乱射。
結果的に助かったとはいえ、危うく仲間を殺しかけたことから、相棒であったリコリスに一発殴られたのである。
頬の傷はその時、出来たものだった。
そんな話を聞いた千束は、
「だーかーらさ! 何も殴ることはないでしょ!」
電話越しにたきなの元相棒であるリコリスと口論になっていた。
「想像と違ったか?」
「いえ、そんなことは……」
千束が電話をしている間、ミカは珈琲を入れ、たきなに振る舞う。
たきなは最初は遠慮するが、ミカに勧められると素直に頷き珈琲を口にする。
その隣では銀時が小豆お茶漬けという異物を食べていた。
「それは…… 食べ物なんですか?」
「あん? お前も食うか? 特性宇治茶漬けミカスペシャル。うめーぞ」
「いえ、遠慮しておきます。珈琲をいただいているので。うぷ」
「──うっせーわ、アホ!!」
込み上げている吐き気を誤魔化す為、たきなは珈琲を一気に飲み干した。
それと同時、話しが終わった千束の捨て台詞と共に受話器を戻す音が鳴り響く。
「よし! 言ってやったわ。あ、たきな! 私着替えてくるから。これから初仕事だぞ~」
「仕事…… ! わかりました!」
「おいおい、ヤル気満々かよ。若いっての良いね~。ゲフッ」
「お前も少しはヤル気を出してほしいもんだがな。というかさりげなくゲップをするな。甘い香りがキツイ」
仕事と聞いて勢いよく立ち上がるたきな。
それを見て相変わらずだらしない様子の銀時にミカは冷めた目でツッコミを入れた。
「お待たせ~、こっちは準備完了! たきな?」
「いつでも出れます!」
リコリスの指定制服に着替えた千束が最後の確認をし、たきなもそれに勢いよく答えた。
それを相変わらず、ヤル気のない目で銀時は見ている。
「大変だねぇ、リコリスってのも。ま、俺も草葉の陰から見守ってるよ」
「なーに言ってんの? 銀さんも来るんだよ」
「…… え、マジで?」
「あったり前でしょーが。ほら早くする!」
「ばっ! 引っ張んな!」
半場無理矢理連れていかれる銀時を含めた、三人組は喫茶リコリコを後にするのだった。
今回あんまり話が進んでなくてすいません!