喫茶店を出た三人は、たわいもない話をしながら目的地へと向かって歩いていた。
「千束さんは何故DAに所属していないのですか? 優秀なリコリスだと聞きましたが……」
「そりゃあ、まあ…… 問題児だからだよ。ていうか、優秀って誰から聞いた!? もしかして楠木さん?」
千束は淡い期待を抱き目を輝かせた。
「はい。あれも千束さんの仕事だと」
たきなは、街の中心にある旧電波塔へと視線を向けた。
旧電波塔は旧とつくだけあって、今は一般人の立ち入りも許されず、使われていない。実際、旧電波塔は斜めに傾いており、とてもではないが電波塔として使えるようには見えなかった。
「あー、あれか…… って! 壊したの私じゃないからね!?」
「そうか、たきな…… お前も知っちまったか。怪物千束の起こした、あの惨劇の事件を…… そうさ、こいつは血も涙もねぇ、白い悪魔の異名を持つ女」
「そこ、嘘つくな! それと白いのは銀さんも同じでしょーが!」
まさか自分が塔を使えなくした犯人と思われたのかと千束は訂正した。
しかしそれに対し、銀時はたきなに誤情報を吹き込もうとする。
「…… いえ。塔を壊したのはテロリストだと聞いています。千束さんは、そのテロリストからたった一人で旧電波塔を守ったと。地方のリコリスですら知ってる有名な話です」
「そ、そうなんだ…… まあ、でも結局壊れちゃったし、完全には守りきれなかったんだけどね」
本人の知らぬ所で有名人になっていたことに対し、嬉しくは思うが、旧電波塔の惨状を思い出し、千束は顔を俯かせる。
すると後ろを歩いていた銀時は鼻をほじりながら、
「そーそー。結局結果が全てなんだよ、この世の中は。いくら努力してもねぇ、結果がついてこなきゃ意味ないの。人間、勝者こそが全てってことだ」
「そう、私は負け組です…… って、銀さんにだけは言われたくないわ! 結果どころか努力の過程も見せない奴が何を言うか!!」
数秒前まで俯いていた千束だったが、見事なノリツッコミをしてみせた。
しかしそんな姿を見た、たきなはこの人は本当に優秀なリコリスなのかと、益々思ってしまう。
「まあ、とにかくさ。私は優秀なんかじゃないよ。優秀なリコリスっていうのはDAにいるような人のこと」
「私もそのはずでした…… ですが私はあの場でのことを理由に……」
「あのときの銃取引? でも事前情報から阻止はできたんだし、商品の銃も押さえられたんでしょ? お手柄じゃん」
「いえ…… なかったんです。銃が全て。それも千丁も」
千丁。あり得ない数字に千束は一瞬、口を半開きにしてしまう。
千丁の銃ってアホか。軍隊なのか。戦争でも起こす気かと千束は呆れてしまう。
「取引事態がなかったって線は?」
「そんなことあるのでしょうか……」
「取引が嘘だってなら、なんの為にそいつらは集まってたんだよ? UNO大会でもしてたってのか?」
銀時か茶化すように言う。
それにしてもこの男は、ここまで重要な話を聞いていていい立場なのだろうかと、たきなは疑問に感じる。
「そういえば、坂田銀時さんでしたよね? 貴方は何者なんです? 一応前にいた支部でも存在事態は有名でしたが、そもそもDAやリコリスと、どういった関係なのかは不明でしたし」
「俺? 俺は、あれだ。平和の象徴的な」
「オールマイトに謝れ! このニートが」
たきなは銀時についても聞いたが、どうやらさらりと流されたようだ。
適当なボケをし、千束にツッコマれる。
これがこの二人のお決まりの流れなのだろう。たきなは少し呆れてしまうのだった。
そうして歩いている内に三人はようやく仕事場へと辿り着いた。
そこは、
「うわ~。銀さんの頭やっぱりクルクルだ~」
「このガキっ! だから髪を引っ張るんじゃねーっての! あ、こら! 勝手にポケットいじんな! それは俺のチョコだ、くそガキ!」
保育園だった。それも極々普通の。
保育園につくなり銀時に子供たちが一斉に群がってきた。そしてよじ登られたり、くっつかれたり、つっつかれたりと揉みくちゃにされている。
本人の口は悪いが、子供たちは気にした様子もない。かなり人気があるのだろう。
「あはは~。銀さん、やっぱり好かれてんねー」
「千束お姉ちゃん! 今日も来てくれたの!」
「お、そうだぞ、由利ちゃん。千束が来ましたー! なんてね~」
そして千束も子供に好かれているらしい。子供たちが集まってくる。
「あの仕事は……」
「あ、みんな~! 今日は紹介があるの。新しいお友達のたきなお姉ちゃんだよぉ! 女の子を見て目を逸らしちゃうような銀さんとは違って、中身は大人だから安心して!」
「誰が中二男子だァァァ!!」
シャウトする銀時のことは放っとかれ、今度子供たちはたきなへと集まっていく。
「たきなお姉ちゃん!」
「どこからきたの?」
「何が好き?」
「仮面サバイバー見てる?」
「今週のギンタマン見た?」
しかし、呆気にとられ、たきなは何も答えられない。
それを見た千束は、
「たきな! この子たちの相手するのが、今日の仕事だよ」
「っ! わ、わかりました! では皆さん、私の愛読書を読んであげますので集まってください」
「ほんと~!」
たきなは鞄から本を取り出し、広い所へと移る。
子供たちもそれに続いて行った。
千束はそれを見て、任せても大丈夫だろうと自分も他の子供の遊びを始める。
しかしそれは間違いだった──
「ねえ…… 千束。あなたが連れてきてくれた子なんだけど……」
この保育園の先生であるおばさんが困ったような顔で千束に言う。
千束は子供たちの相手をしながら首をかしげた。
「たきながどうかしました?」
「そ、それが」
子供たちと共に場所を移したたきなは、
「いいですか、皆さん。社会を乱すものに情けは無用です。効率よく仕留めるためには急所を狙うのが基本です。部位ごとに骨や筋肉の厚みも──」
「たきなあァァァァ!! 何してんの!?」
ホワイトボードに態々絵まで描きながら、子供たちに物騒なことを教えていた。
当然、千束は慌ててたきなを止める。
「な、なにか不手際が?」
「オール不手際だわ! 子供たちになんつーこと教えてんの! もーう、銀さんも何か言ってよ!」
そう言って千束は銀時の方へと振り向く。
そこには、
「いいかお前らー。そいつは見えない鎧の様に防御し、攻撃にも転じる強力な力…… 拳を構えて、前につき出せ!!」
「はっ!!」
覇気の使い方を伝授し、子供たちに木への向かって突きの練習をさせる銀時がいた。
「この力を…… 覇気と呼ぶ!!」
ドンッ!!!
「ドンッ!! じゃねーわあァァァァ!!」
「ヒルルクッ!」
千束からドロップキック付きのツッコミをくらい、銀時は顔面から吹っ飛んだ。
「いたた!! ちょっ、お前、いきなり何すんだよ!」
「銀さんこそ、子供たちに何教えてんのよ!? 海賊王にでもする気か!」
「わーった、わーった。騒ぐなよ、たく。海賊王はダメなのな、はいはい。んじゃあ……」
銀時は頭をボリボリとかきながら、子供たちに向き直り、
「お前らー。今度は六式について教えていく」
「サイファーポールだったら、良いわけじゃねーから!?」
その後、有無曲折あったが、無事に保育園での活動は終了。
たきなは何故リコリスが保育園で子供の相手など訝しむが、千束は気にせずに様々な仕事場へと移動する。
「エクササイズワ~ン!! 戸惑っています!」
日本語学校だったり。
「こりゃまたぎょうさん珈琲豆、感謝するで~。千束はん! この仮はきっちり返させて貰いますわ。七借りたら三返すが、ワシのモットーやさかい」
ヤクザの事務所だったり。
「いつもゴリラの後処理ありがとうね、千束ちゃん。これお礼のバーゲンダッシュ百個」
「ふふ、お妙さん。例え俺を檻に閉じ込めても俺の愛が閉じ込められることはありませんよ。俺が動けなくとも、この愛の心はあなたの元へと向かってい走り続けるのです」
「じゃあ、檻ごと、東京湾に沈めてくるね~。あ、あとバーゲンダッシュどうも!」
「あれ!? これ、パターン的に動物園とかじゃないの!? 行き先、水の中なの、これ!? スカスカだよ、檻だから水で溢れかえるよ! オッドタクシーならぬゴリラタクシーが始まるよ!」
キャバクラだったり。
「あ、やあ、千束ちゃん…… 銀さん…… 丁度今、金が……」
「銀さん、次の行き先、何処だっけ?」
「あー、ホスト高天ヶ原」
ホームレスの溜まり場── には寄らなかった。
「あれ!? 俺の所、こねーの!? てか無視ぃ?」
といったように、ある程度の仕事を終えた銀時たちは、一息つくため、公園のベンチに座っていた。
「あー、疲れた。千束、ちょっと金貸してくんね? 近場の店で錬金術してくっから」
「パチンコなら仕事終わってからにしてよね。これから警察署に行くんだから」
「あの……」
「ん? なに、たきな?」
ジュースを飲みだらける二人に、たきなは困ったように聞く。
「この部署はいったいなにをするところなのでしょうか?」
「…… あり? 先生から何も聞いてない?」
「はい」
「あー…… そっかゴメン。何をする部署かっていうと……」
千束は改めて何を目的とした部署なのかを答えられずに困っていた。
しばらく考え込み唸っていると銀時が代わりに答える。
「要は何でも屋だよ。ババアの介護だろーが、犬の散歩だろーがなんでもやる、な」
「なんでも…… それも普通の、一個人の為のリコリスであるということですか? わたしたちは……」
「そそ。銀さんの言い方はちょっとアレだけどね」
たきなの疑問に今度は千束が答えた。
しかしそれにたきなは納得がいかないといった様子だ。
「私たちリコリスは国を守る公的機密組織のエージェントですよ?」
「…… けど凶悪犯を処刑して回ってる殺し屋って言われたりも…… ねえ?」
「俺、見て言うんじゃねーよ。少なくとも、俺はお前らより温厚だよ」
千束は銀時を見てニヤリと笑うが、本人はたまったもんじゃないと嫌そうな顔をする。
「しかし、ああいうことが起きる時代ですから、私たちは必要な存在です」
たきなは傾いた旧電波塔を見て言った。
千束も頬杖をつき、旧電波塔を見つめる。
「そうねえ…… そうなんかもねぇ……」
「しかし何故残してるんですかね、アレ」
「壊れて出来た意味もあるんじゃない?」
「そんなものありますか?」
壊れたものに意味などない。少なくともたきなはそう思う。
電波塔だって電波も飛ばせず傾いているだけでは、ただの廃墟と変わらないはずだ。
ならば新しい物を作り、不要な物は廃棄して有効活用すべきだ。
だが、それに意味もあるかもしれないと千束は言う。
「さあ…… どうかな。でもそういう意味不明なところ、私は好き。銀さんも意味不明だし、ね」
「はっ。俺程、ミステリアスなイケメンはいねーからな」
「……… だから、意味不明なことをしているんですね。お二人とも」
やはり訳がわからない。
たきなの感想はそれだけだった。しかし、どうしてか、そこまで不満を感じることが出来なかった。
その心情を知ってか知らずか、千束は笑う。
「うっひっひ。言うね~。んまぁ、とにかく。DAが興味を持たなくても困っている人はいっぱい、いてさ。助けを求めてる」
千束は手をたきなへと向ける。
「だから、たきな。力を貸して」
「……… 今はそれが私への指令ですからね」
「頼りにしてるよぉ。勿論、銀さんもね!」
たきなは相変わらず表情を変えず、銀時はうへーと不満そうにしているが、とにもかくにも三人は再び動き出した。
押上警察署
警察署に入った三人は癖っ毛頭の刑事、阿部に出迎えられていた。
「いや~、こりゃリコリコに行く楽しみが増えちゃったなぁ」
「お店の常連さんなの」
「よろしく。警視庁の阿部です」
「井ノ上たきなです」
たきなと挨拶を交わすと、阿部は、あ、そうだと銀時の方を向き、
「そういえば銀さん、近藤さん見てない? またキャバクラに行ったかと思ってお妙さんに電話したんだけど、いないようだし」
「あー、あいつなら多分、鮪でも食べてるよ。下手したら食べられてるかもだけど」
「え、寿司屋にいんの? まあ、いいや…… 千束ちゃん、本題のストーカー被害についてなんだけど、女の子同士、話もしやすいと思うから詳しく聞き出してほしいんだ。バイト代も弾むから」
警察署に来たのは女性のストーカー被害解決の為だった。
これまでの案件に比べれば、まだ仕事っぽい内容である。
警察はストーカー被害だけでは動きが鈍い。その為、早期解決の為にも阿部自ら、千束に協力を願い出たのだ。
「お、言ってる側から来た来た。篠原さん、こっち!」
丁度警察署に入ってきたのは、眼鏡をかけた女性、篠原沙保里だった。
阿部は千束たちに任せると、その場を後にする。
残った四人もファミレスへと移り、ストーカーについての話を始めた。
「この写真をSNSに上げてからつきまとわれ始めたの。脅迫リプが来たから画像は直ぐに消したけど…… 私も彼も変な奴にずっとストーカーされてて」
見せられたスマホの画面には、ビルを背に、沙保里とその彼氏が写ったツーショットが一枚。
何の変哲もない写真ではあるが、これを上げた途端、何故か脅迫されたのだという。
「前の交際相手とかは?」
「それはないのよ。だって私は前に付き合った人いないし…… 心当たりなんてないし」
「うーん。何処で恨みを買うかわからないですからねぇ」
「男の方の前の彼女とかじゃねーのか?」
怯え話す沙保里に千束と銀時は各々の考えを出すが、どれも違うようだ。
三人が何故と考え込んでいると、じっと写真を見ていた、たきながふと声を出す。
「このうしろのビル…… !」
「そうそう! ガス爆発事件のビル。窓ガラスが割れて大変だったとかいう。偶然、同じ日だったのよ」
「ガス爆発…… ?」
うしろのビルは、たきながDAから異動になった原因の場。
そう。あの取引現場のビルだったのだ。
どうやら事件でおった被害はガス爆発として処理していたらしい。
しかし問題はそれではない。
「千束さん。銀時さん。これを!!」
「うげっ!?」
「あん? あ……」
ビルの窓部分を拡大していく。するとそこには怪しげな荷物を囲む男たちの姿が写っていた。
衝撃の一枚に千束は、驚きむせてしまう。
「な、なにかわかったの?」
「ケホっ、ケホっ! あ、いや。この写真、もらえます?」
「? ええ……」
取引現場が写り込んだ写真。恐らく沙保里を狙っているのは取引相手の方だろう。
つまり、銃は消えたのではなく、既に引き渡された後ということ。
そして、その相手が写真を見て証拠隠滅の為、沙保里を追っていたのだ。
「めちゃヤバい奴に狙われてるよ、沙保里さん……」
これはただのストーカー案件ではない。それどころか、本当にリコリスが出張る必要になる案件だ。
千束はこれは危険だと今夜は沙保里の家で共に過ごすことを提案する。
銀時は除いて。
「え、俺は?」
「流石に銀さんまで、女性の家には入れられないでしょー。悪いけど、喫茶リコリコで待機してて」
「んだよ、帰れる訳じゃねーのかよ」
「文句言わない。取り敢えず私も行ってお泊まりの支度するから。じゃあ、たきな。その間、沙保里さん、任せたよ」
千束はそう言って、たきなの肩に手を置く。
「でも無茶はしないでね。「いのちだいじに」だからね」
「そうそう。あと薬草はラスボス戦までためとけよ。間違っても「ガンガン行こうぜ」はなしな」
薬草なんてねーわ、というツッコミを受ける銀時を横目にたきなは静かに拳を握りしめていた。
これはDAに返り咲く、絶好のチャンスだと──