落ち目のアプリ版をサ終の危機から救ってくれてありがとうリコリス・リコイル 作:こういうのは言ったもん勝ち
199隊 VS ちさたき in 延空木
リメイン*1、セルラン一位おめでとぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!!!!!!!
もっと199隊*2をすこれ。
リコイル*3イベも始まりましたね。…………千束は天井しました。
みんなもハイパーマキシマムメカロボ太*4周回しましょうねぇ。
「えぇ!? シミュレーター訓練ですかぁ!?」
愛*5が悲鳴を上げた。声に出したのは彼女だけだったが、それ以外のメンバーも露骨に嫌そうな表情を晒している。止めなさいと言いたいところだが、ここで表情を取り繕えるなら私達の制服は今頃
私達のリアクションが予想外だったのか、それを見た訓練官は眉をひそめた。どうやら彼女は私達のことを知らないらしい。
「何か不満でも?」
「いや、不満って言いますか。……あのね、そもそも私達じゃ訓練にならないんですよ、アレ」
周囲を見渡してひそひそ話をするように訓練官に近付いた奈央*6が言葉を引き継いだ。悲しいことだが、まったくもってその通りだった。
「ほら、シミュレーターって装備が決まってるじゃないですか」
「そんなことはありません。実は、今回カスタム画面で──」
「──違う違う! サプレッサー付けるとか、医療品増やすとか、プロテクター追加しようとか。そんなちゃちな修正なんざいらないんですよ、こっちは」
標準のリコリス支給装備は当たり前だけど、統一規格品だ。多少の拡張性を有しているとはいえ、その装備のラインナップは大きく変更できるものでもない。普通はそれだけカスタムさせてもらえるなら問題なく任務も訓練も行えるのだが、こと私達においてはそれが通用しない。本当に困ったことだけど。
「まあ、私は標準装備にナイフあるし、別にいいですけど。それこそ愛とか、瑠樺さん*7とか、使い物にならないんですよ」
「おいおいおいおいおい! 使い物にならないってのァ、随分な言い草じゃァないかい?」
奈央の発言で瑠樺さんが飛び出した。最近読んだらしい漫画のせいで口調がいつも以上におかしい。
友梨佳*8が止めようとあたふたしているが、彼女では止められないだろう。
「標準装備じゃ、二人の仕事する場面って本当にないですからね?」
「ははァ。なるほど。さては奈央。君という奴は、このボクが特殊グレネードでは戦えないと思っているね?」
「実際、殺傷力ないでしょ」
「ふふふふ、そこはボクの実力の見せどころさ。ボクは優秀なリコリスだからね、派手にやってみせるよ」
「派手にはやらないでくださいよ、リコリスなんだから」
二人が口論を始めて訓練官が置いてけぼりにされる。愛は「やれやれ~~!」って言いながらスマホで録画しているし、銃を握っていない友梨佳なんて猫よりも無力だ。
本当はぼうっと話が終わるのを待っていたかったのだけど、こうなっては隊長である私*9が出るしかない。やはり隊長というのは辛い仕事だ。手当出ないかな。
「ちょっとちょっと、二人とも落ち着いて。……本当にお騒がせしてすみません」
そうやって訓練官の前に出るだけで二人の口が止まる。流石カリスマ隊長。最初は問題児班なんて無理だと思ってたけど、私にかかれば彼女達なんて年頃の少女と同じだった。
「いろいろ騒ぎましたが、内容自体は実際そうなんです。私達……いや、正確には私以外ですけど、装備が一般リコリスに支給される品だと不足なんですよ」
愛は長距離狙撃以外仕事ができない。だから、彼女には狙撃銃や観測用のゴーグル。後は高速で狙撃ポイントへ行くための移動手段がいる。
奈央はナイフを使った
瑠樺さんは改造したグレネードを使用する。バックのマガジンケースはグレネードか工具ケースにすり替えられており、作戦中の特殊な任務はだいたい瑠樺さん任せになる。
友梨佳は銃を握ると「引き金を引く」「マガジンを交換する」以外のアクションが不可能な狂戦士になるので、逆に医療品やナイフの類が全てマガジンに変更されている。
先述の都合、全員がそれぞれの好みで装備を勝手にカスタムしているので、シミュレーターでの統一装備は実践訓練として意味をなさない。
こうして改めて列挙していくと、本当に救いようがない問題児ばかりだなこいつら。
訓練官は困ったように笑った。一日に五回くらい見る顔だ。隊の外の人はいつもこういう顔をする。流行ってるのかな。
「今回はその装備の件でアップデートが入ったので、皆さんへの参加を指示しに来たのです」
「アップデート?」
「はい。今回、様々な特殊な作戦をシミュレートするため様々な装備を追加しました。一部は皆さんが通常の作戦で使用しているものがあります」
それを聞いて、全員の顔色が変わる。まったく、現金な連中だ。
「先日、カスタム画面で皆さん好みの装備も設定できるようになりました。全体にも各隊の隊長経由で連絡を出したはずですが、把握されていないようですね?」
………………視線が痛覚を刺激できるとは知らなかったな。
定期ミーティングの際に何か書類をもらった記憶は全くないが、そういうのなら多分貰ってて、私はその書類を忘れるなり捨てるなりしたんだろう。私のことだからなんとなく分かる。
訓練官は事情を把握したように冷たい目を私に向けた後、静かに他の面子を見渡した。
「ともかく、そういう事情ですが、やっていただけますね?」
今度は全員が首がもげそうな勢いで振っている。
これは別に私達の為でもないし、なんなら私達はデータ収集のモルモットにされているわけだが、それを加味したって実際ありがたい話だった。
シミュレーター訓練は怪我せず実践級の戦闘を体験できる人気のメニューだ。特に普通なら無茶な戦術を試みたり、初めての作戦をテストするのにも使える。正直なところ、通常の戦術論が使えない私達にこそ必要な訓練だったともいえる。
「今回は、リコリスとの模擬戦闘形式で行います」
「模擬戦ですか? 対戦相手は?」
「過去に所属していたリコリスですね。資料見ますか?」
「お願いします」
訓練官はタブレットを操作して、私達のスマホにデータを送信した。
スマホを除くと、そこには二人のリコリスの写真が載っていた。
「今回の相手は、ファースト・錦木千束とセカンド・井ノ上たきなの二名。場所は延空木及び、その近隣です。相手勢力を全員無力化した時点で終了とします」
私達が歴代の先輩とシミュレーターで模擬戦するのは何も初めてではない。サードはもちろん、セカンドの先輩達だってのしたことがある。
だけど、そこに書いてある二人の来歴は、そんじょそこらのリコリスでは束になっても勝てない相手だった。
錦木先輩は旧電波塔事件を一人で解決した、誰もが認める正真正銘の化け物だ。複数人を一人で始末できる時点で人間ではないし、ほとんど怪我らしい怪我を負ったこともないという。この人に銃弾を当てる方法があるのかと思わずにはいられない。
最初の資料を見て諦めた気持ちになりながら、今度は井ノ上先輩の資料に目を通す。セカンドだからまだ勝てそうかと思えば、こちらもかなりの実力を有しているらしい。射撃精度やクレバーな立ち回りを見れば見るほど、井ノ上先輩一人と試合するだけでも十二分な難易度を有しているような気がしてくる。
というか、資料上のスペックデータの内容が異常なんだけど。これ捏造されてない?
「あの……ちなみに、対戦相手はどうしてこの二人に……?」
「実装以来、誰も挑もうとしないのでデータが不足しているんです。装備関係のデータ収集ができれば何でもいいのだから、ついでにそちらの記録も収集すればいいと司令が」
「は?」
あのババァ、何ほざいてんだ風穴開けるぞ。
「む~り~で~す~! そんなの絶対勝てないですって~~!!」
「そ、そうですよ! 私達、みんなサードなのに……」
「いやいや何言ってんの。こんなヤバい戦い、熱くなってくるじゃん!」
「これはどうやら、ボク達の実力をDA本部中に知らしめる時が来てしまったのかもしれないね」
メンバーの反応は完全に二分していた。
こういう状況ではいつも見る光景だ。もう慣れたので特に何かを言う気にもならない。
そっと目をそらして訓練官の方を見る。こういう時に頼りになるのはやはり隊長である私だけだった。この指揮能力だけでファーストになれるまでありそうなんだが、上層部はいつになったら私を評価するんだろう。
「ブリーフィングとかはいつも通りですか?」
「はい」
「了解です」
私の頭は既に活動を開始していた。彼我の戦力差は歴然で勝ちの目など万に一つもない。それどころか武器性能の確認をする暇があるかすら分からない有様だ。
だけど、それでも私はシミュレーターの中ですら死ぬつもりはない。何とかして戦闘を終わらせる方法を考える必要がある。
「……みんな、今日も楽しい殺し合いの時間だよ」
「「「「「……………………」」」」」
場が静まり返る、という言葉の意味がようやく分かった気がした。
シミュレーターにダイブして早速ブリーフィングを始めた私達は、先輩達の作戦記録を確認していた。ただ、正直なところ見ない方が良かったような気もしている。
「これ本当に人間なんですかぁ? 絶対にヤバいですって。今からでも靴舐めたら許されませんか?」
「シミュレーションの再現体なんだから無理に決まってるでしょ。これ、避けてるのよね?」
「見た通りだろう。相手の弾丸の軌道を予測して避けている。明らかに目線が発砲する相手の動きを見ているそれだ」
「なら、近付いて組み伏せたりしたら、いいのかな? 奈央ちゃんならもしかして」
「無理無理。銃避けられる反応速度と予測力があるなら、それより遅い体術なんて止まってる的みたいなもんでしょ。ほらここ、体術も一級品。後隙無し、当たり判定謎のボスより終わってるから」
錦木先輩は、これどうやって勝つんだろうと思わされるほどの強さだった。元よりファーストというのは、そういう理不尽が少女の姿をしたようなものであることは理解しているが、それにしたってこの化け物は論外だった。
弾丸は全て避け、接近した後は至近距離からの射撃でねじ伏せている。あれなら敵は全員即死…………あれ?
「ちょっと待って」
「どうしたの? 柚香ちゃん」
「錦木先輩に撃たれた相手を見て」
先輩に撃たれた相手は、血しぶきが
だけど、よく見るとそれは私達の思い込みだったことに気付いた。
「出血してない?」
「なるほど、非殺傷弾か。赤い煙で敵からだと仲間を殺されたようにしか見えないだろう。落ち着いて考えれば、拳銃であんな血の吹き方をすることもないと分かるが」
「先輩は全ての作戦のこの弾丸を使ってる。理由は分からないけど、錦木先輩は人を殺さない。たぶん倒れている敵も至近距離で弾丸を打ち込まれて気絶しているだけなんだと思う」
「ってことは、タスキを持てばミリ残しで戦える!?」
「奈央さんががんじょうだったとしても意味ないです! 射撃は連続技ですぅ!!」
その点を踏まえて今度は井ノ上先輩のデータも確認するが、錦木先輩と一緒の戦闘では実弾を使いつつも、最後は捕縛したりと怪我で済ませているようだった。
「この先輩達は捕獲する任務ばかり受けてたんですかね?」
「殺すより難しいから、どうしても実力のある人しか受けられないのは事実だしね」
先輩達の実力であれば大したことない相手の暗殺任務を命じられることもないだろう。アイテム一覧を確認すると、非殺傷弾はリストにないものの、捕縛用装備は存在していた。錦木先輩の弾丸は特注品なのか? わざわざ用意している辺り、信条的な問題なのかもしれない。目的がよく分からないけど。
「ともかく、これなら光明が見えてきたね」
「気絶しても気合で起きればいいってことでしょ?」
「根性育成やめてくれませんか? 私達、もっと賢さ上げてるんで」
「根性育成じゃん」
根性で起きるかはともかく、無力化されてもそれが死を意味するわけではないのは確かだ。他のメンバーが耐久出来れば再び戦闘に参加することも可能になる。
それに先輩の回避が目によるものなら、私達にはまだ勝ちの目がある。
「そろそろ十分経つね。作戦は大丈夫?」
「隊長。あんたが作戦を指示したことないでしょ」
「そんなことないって」
私はいつだって完璧な指示を出してきたはずだ。私ほどの優秀な隊長がそれを怠るはずがない。記憶はないけど間違いはないはずだ。
「じゃあ、作戦言ってくださいよ」
「各自装備を整えて私の近くで戦う。以上!」
それで私はそれぞれのエキスパートが使う最上級の装備を利用できるようになるのだ。合理的な作戦だと言わざるを得ない。
私は冷たいみんなの視線を黙殺して手を叩いた。
「それじゃ、そろそろ始めるよ」
ブリーフィング終了時間にはまだ少し早いが、私達の周囲の景色が街中のそれに変化した。私はさっきまでと同じように手ぶらだったけど、他のみんなはそれぞれの装備が既に出現していた。
私達は延空木の入り口にスポーンしたらしかった。視線を上に向ければひっくり返りそうなほどに高い延空木の姿がある。ほとんど現実と遜色ない光景だったが、自動ドアに表示されたホログラフのカウントだけがここを電脳空間であると証明していた。
私はそっと端末でエリアマップを確認する。延空木とその近隣とのことだが、具体的にはどこまでなんだろうか。
「周囲は1.5㎞まで含んでるみたいだけど?」
「近隣って何だっけな」
「走っていける距離だし、近隣なんじゃないかな?」
「そうかな? そうかも」
そこまで含んでくれているなら、最初に言うべきことは簡単だ。
航空写真で表示された壊れた塔の姿を確認して口を開いた。
「じゃあ、愛」
「なんですか? 私もう延空木昇る準備できてますけど」
「旧電波塔まで走って」
「え!?」
当然だった。
「今回、先輩達を延空木から出す気はない。別に出てもいいんだけど、それは愛が旧電波塔に着いてからね」
「もしかして、私……」
「うん」
苦々しい顔をする愛に、できるだけ優しい微笑みを向けた。
「錦木先輩の狙撃、できるよね?」
「む~り~で~す~!!!!!!!」
「無理じゃないよ、できるから」
「いやいや、弾丸避ける化け物ですよ!? 当たりませんって。それに旧電波塔から延空木って1㎞以上あるし、その上狙撃するなら展望エリアですよね? 風強すぎて当たりませんよ~~~!!!!」
旧電波塔以外は何も言ってないのにそこまで理解してくれるなら上々だ。
それに愛は狙撃の腕だけなら超一級品だ。確かに完璧に命中させるのは現実的ではないかもしれないが、それでもかなりの精度は出してくれるに違いない。
正直なところ、先輩の意識や視線を外に向けさせることができればそれだけで勝率は格段に跳ね上がるのだ。たとえそれが、一パーセント以下の範囲の変化だったとしても。
「
「
「言葉にさせると本当に最悪ね」
だけど、一方的で確実な殺しを求めるのはリコリスとして真っ当な感情だった。言い方が最悪なだけだ。
私は愛から離れて瑠樺さんの方に近付きつつ、指で作った銃を愛に向けた。
「錦木先輩は目で見て避けてる。だから、少なくとも遠距離からの狙撃は避けられない。向こうも狙撃で展望エリアを撃つのが困難なのは気付くだろうけど、それでも構わない」
チャンスは少ないだろうけど、もとより勝ち目などないのだ。ギリギリのワンチャンに賭けたっていいに決まってる。少なくともきっちり作戦を立てる時間もない。
ホログラフのカウントを見れば、ブリーフィングの時間も終わりそうだった。まもなく戦闘開始だ。先輩達は建物内にいるはずだから何がともあれ突撃しよう。
「じゃあ、みんなは愛がポイントに到着するまで遅滞戦術かな?」
「そうね。できれば井ノ上先輩はどうにかして落としてしまいたいけど」
まあ難しいだろう。
錦木先輩が規格外な化け物なので薄れがちだが、井ノ上先輩だってめちゃくちゃ優秀なリコリスだ。簡単に倒せるのなら私達はとっくにファーストになっている。
「五対二っていう数の有利を使ってキッチリ勝つ」
カウントが十秒を切った。
「用意はいい?」
全員が頷いたのを確認して、私は瑠樺さんからスったグレネードのピンを抜いた。
カウントがゼロになって自動ドアが開きそうになる前にガラスを蹴破って、それを思いっ切り放り込んだ。
「散開!」
合図はやっぱり開幕グレネードに限るわね!
屋内でドォンと爆発音がして、そのまま中に突入する。奈央と友梨佳がそれに追従してくる。ちょっと銃が欲しいから友梨佳から銃を拝借しておこうかな。一旦いいや。
愛は既に移動用のローラースケートをオンにして旧電波塔の方へと向かい、瑠樺さんは早速姿を消していた。やってほしいこと的には間違ってないのだけど、本人の好みや趣味とは違い、黒子の似合う人だなと思う。
「私達はまず先輩達の発見と戦闘よ。見つけ次第注意を引き付ける」
「突っ込んだりは、しないんだよね?」
「もちろん。奈央も気を付けてね」
「分かってる。私だって意味もなく突撃する趣味はないし」
一応確認しておくが、まあ無駄だろうなとも思う。
奈央はともかく友梨佳は確実に今さっきの作戦の内容を忘れるから。友梨佳自身もそれを理解しているから銃に手を伸ばそうとしていないのだろう。抜くギリギリの状態を維持している。
「まずは下のクリアリングを済ませて第一展望台を制圧する」
陣形は装備のない私と、狂わないよう銃を抜かない友梨佳が後ろ。先頭は既にナイフと拳銃を構えて戦闘準備を整えている奈央。
話をする空気で奈央に接近しつつ、バックの中に仕込まれているナイフを抜き取る。後ろから見ている友梨佳の死角から抜くようにしているので、友梨佳も気付いていないと思う。特に意味はない。日ごろからの練習みたいなものだ。
「地上から第一展望台へのアクセスは四つの支柱に設けられた屋内の非常階段とエレベーター。第一展望台から第二展望台へも同様だけど、エレベーターも階段も続いてないから注意ね」
「その辺覚えてて、どうして日頃はなんでも忘れていくのかねこの隊長は……」
「覚えてるっていうか、思い出してるって感じだよね」
「そこ、やかましいぞ」
戦闘の時だけは頭がよく回るのだ。忘れていたいろんなことを思い出せる。
多分すごく頭が活性化しているんだと思う。特殊能力みたいなレベルで理不尽なわけではないけど、上がるのならそれに越したことはない。
「ってか、八つもルートあったら抑えられないんじゃない?」
「そう。だから、非常階段に先輩達の仕掛けや待ち伏せがないかだけ確認したら、そのまま第一展望台へ突撃する」
「放置すると、瑠樺さんが危ないもんね」
瑠樺さんには愛と同じように別で立ち回ってもらわないといけない。仕掛けはともかく待ち伏せは危険だ。瑠樺さんが抑え込まれたら本当に勝ちの目がなくなってしまう。
綺麗に回り込まれていたら大変だが、おそらくないと思う。
先輩達の動きを見ている辺り戦術的には待ちより攻めの方が上手い印象だったし、先輩達は戦闘後の被害を少なめにすることを好む。
向こうはこちらの戦力を把握していない。私達が派手に暴れて被害を出しつつ注意を引けば、先輩達は確実に私達の方に釣られる。問題は先輩達が私達を容易に制圧できる能力があることと、私達がそれに対抗する手段を持たないことだ。
「人権キャラの持ち物チェックされてる気分」
「そうなんだけどね。やらないと本当にどうにもならないから」
だからこの戦いは、私達三人が作戦準備を整えるまでに耐久出来るかどうかの戦いになるのだ。
「最終的には、第二展望台で戦うんだよね?」
「そのつもりだけど、最悪第一展望台で戦闘になっても構わないとは思ってる」
第一展望台だと多分高さと見晴らしが足りない気がする。だからこそ、第二展望台まで誘導したいんだけど、第二展望台はほとんど物がない場所なせいで弾を避けられる錦木先輩の方が圧倒的に有利な状況だ。
できれば第一展望台で何とかして井ノ上先輩を無力化をしたい。孤立しているのなら各個撃破を狙えるし、セットだとしても一人が注意を引いて無力化される間に二人で抑え込みたい。流石に私達が万年サードとはいえ、実力はセカンドクラスだ。二人で詰めれば勝つ道があるはずだ。
クリアリングは順調に行われていた。上の方までチェックしている余裕まではないから、瑠樺さんの準備に影響がなさそうな範囲まで突っ込んで様子を見る。それより上は戦闘中に射撃しない奈央が発砲して釣ってみる。しばらく待機して動く様子がないなら、次の通路に行く。
周囲警戒を怠らないが、それにしたって相手からのリアクションがないのが不安だった。
「誰もいないね」
「もしかして、展望台にいるのかな?」
「かもしれない」
かといってクリアリングをおろそかにしておくわけにもいかないので、一通りは済ませておく。最後の階段のクリアリングを済ませたら、適当な階段から突撃だ。
私はインカムをオンにした。
「こちらα-1。一階のクリアリング完了。これから東階段で第一展望台へ向かう」
『α-5、了解です。こちらはまもなく現着です』
『α-2も了解だ。ボクの方は仕込みを始めているよ。できれば最上階の中央制御室まで行きたいけど、その様子だと難しそうかな』
「おそらくね。ターゲットは展望エリアにいる。α-5、その場からでいいから敵を観測できるか確認してほしい」
『さっきから確認してますけど、見えないですよ。随分と臆病な人達なんですね~。プークスクス』
元よりあまり期待していなかったが、やはり姿は確認できないらしい。
いつもの調子が戻ってきた愛の声を聞きながら、少し考える。ずっと攻め込ませることを意識していたが、向こうはこちらが来るのを待つつもりらしい。瑠樺さんを落とすように動かれていなければどちらでもいいが、それならそれで対応を考える必要がある。
先輩達が私達を待つとして、どこに陣取るのが適切だろうか。シミュレーターの設定を考えれば先輩達は私達の戦力を把握していないはずだ。なら先輩達は相手のことより自分の強みを活かせる場所を選ぶのが適切なはず。
錦木先輩の強みは圧倒的なタイマン性能だ。
相手の射撃を見て避ける。圧倒的な大人数での掃射の類は苦手だろうから、その点で考えると突入箇所が多く複数の射角をを取られかねない展望台は可能性が薄いだろう。中央制御室へと続く最上階の可能性が高いか。
逆に言えば、井ノ上先輩やトラップによってそれを解決できるのであれば、お互いに遮蔽が限りなく少なくなる展望台の方が有利を取れる。お互いに遮蔽がないなら、回避できる錦木先輩に圧倒的アドバンテージが存在するからだ。それに最上階と違って外の明かりを取り込める展望台は暗所という不利を作られにくい。
第一展望台と第二展望台なら、選ぶのはおそらく第二。第一への階段は屋内にあるが、第二への屋外だ。登ってくる姿が有れば事前に確認できる。エレベーターも階表示でタイミングが測れるから、かなり戦いやすいだろう。
最初から突っ込んでくれればこんなこと考える必要もなかったのに。もしや物凄く頭を使わせてくるのは私達の疲労すら織り込んだ作戦ということだろうか。
私は息を吐いて全員に向かって指示を出すことにした。
「先輩達は第一展望台にはいないと思う。簡単なクリアリングだけして、エレベーターで第二展望台へ突入する」
「了解」
「分かった」
私の推測は概ね当たっていた。
第一展望台はもぬけの空だった。その上、第一展望台から第二展望台へ向かうエレベーターは三基が動かなかった。多分ドアの入り口に物を挟むなりして動けなくしているんだと思う。先輩達が工作活動を得意としていたというデータはない。
これは完全にルートの封鎖だ。全てを潰すのではなく、侵入口を限定しようとする辺り、こちらを誘っているように見えた。
「行く?」
奈央が私に尋ねる。
エレベーター一基で向かうのはいささか無謀に思えた。グレネードでも放り込まれたら一撃だ。いや、そもそもリコリスに支給されているグレネードは特殊型で殺傷力はないものばかりだから、それだけで死ぬわけではないか?
とはいえ非常階段を選んでも、エレベーターと同じような仕掛けがなされていることは予想がつく。後に引けないのは変わらないし、愛の援護がなければ一方的に井ノ上先輩の攻撃に晒される可能性がある。あの射撃精度の相手に打ち下ろされるというのはかなりまずい。
「……行こう」
状況も見えない相手と戦うことはいくらでもあった。でも、状況が分かっているにも関わらず展開が読めない相手はなかなかいない。
リコリスは確かに暗殺者であるが、それは戦略に卓越していることを意味しない。私達の持つ殺しの技術は、あくまで不意打ちとタイマンに特化している。策は弄さない。リコリスは相手を詰める最後の一手でしかない。私達がするのは戦闘中の駆け引きだけ。
今回のようなレベルの話なら、明らかにファーストが主導しセカンドが固めて実行される作戦だろう。明らかにサードにやらせる戦いではない。シミュレーター訓練終わったらマジで文句言おう。
一基だけ残されたエレベーターに乗り込んで第二展望台を選ぶ。ドアが閉まり、エレベーターがゆっくりと登り始める。
「こちらα-1。エレベーターに乗って第二展望台へ移動中」
『α-2了解。こちらの進捗は半分程だ。下に敵がいないなら、地下の電気制御室を抑えようと思うけど構わないね? 錦木先輩相手なら照明を抑えられた方が都合もいいだろう』
「お願い」
中央制御室は電波塔としての仕事がメインで、ブレーカーや非常電源を持つ電気制御室は地上の方にある。無理に上を押さえなくてもできることは多い。おそらく最上階へ向かう場面はないだろうが、それでもできる方がいいに決まっている。
『α-5、狙撃ポイントに着きましたので、これから準備します。風も弱いですし、相手をしばらく足止めできるなら撃てますよ』
「了解。特に合図はしないから、そっちのタイミングでよろしく」
錦木先輩の目敏さの前では下手な合図はミスを生みかねない。それなら愛のタイミングに任せた方がいい。
「……着くよ。準備して」
エレベーターは順調に動き、ようやく第二展望台へ着こうとしていた。私達はボタンが用意されている僅かな遮蔽に身を隠してドアが開くのを待つ。
奈央は既にナイフを抜いて飛び出す準備をしている。友梨佳もバッグを開けてもう発狂寸前だ。私はそっと友梨佳が手を添えている反対側から銃を引き抜いて袖口にしまう。
やがて静かな重みを感じてエレベーターが止まった。ごくりと唾を飲み込みながらドアが開くのを待つ。
先制はなんだ? グレネードか? それとも本人が突っ込んでくるか?
チン、と音を立てたエレベーターは滑らかにドアを開いた。攻撃は──
「…………」
──来ない?
奥から人が動く様子は感じられなかった。向こうも待っている?
膠着状態が二十秒ほどしたところで、奈央から借りたナイフで仕掛けるかと手を動かそうとすると、「あー、あー」と声が聞こえた。
「きみたちー。君達は完全にほーいされているー。大人しく出てきなさーい」
「は?」
思わず声が漏れた。仕方がないと言わせてほしかった。
声の主は少し離れた場所にいるようで、私達のことは見えていないようだった。
「……あ、あれ? おーい! もしもーし! いないの? あれ、本当にいない感じ!? いたら出てきてー! 撃たないから! ほらー! ほら手ぶらだよー! ほらー!!!」
「……なにあれ?」
「知らない。どこのアホが入り込んだの?」
錦木先輩にしろ井ノ上先輩にしろ、あれが全リコリスの憧れである真島事件の功労者の言葉とは思いたくなかった。
「どうする? 出てみる?」
友梨佳が私の方に尋ねる。
本当は見なかったことにして今からでも最上階に行くか、第一展望台に戻るかしたいところだが、そういうわけにもいくまい。
私はナイフを出すのをやめ、第二展望台の方へ転がり込むことにした。
エレベーターの壁を蹴って宙に身を躍らせ、そのままそばの壁を続け様に蹴って軌道を変えて様子を確認する。
第二展望台の向こう側には赤い制服を着た少女が楽しげな笑みを浮かべて手を振っていた。ガラスフェンスに体を預けている。明らかに戦う体勢ではなかった。
着地して銃口を彼女へと向けながら反対のエレベーターや階段を確認すると、案内板やベンチが挟まれているようだった。時折ドアを閉めようと動いては、挟んでいる物にぶつかって開く動作を繰り返している。非常階段の方もドアを塞ぐように置かれた観葉植物にグレネードを使ったブービートラップが仕掛けられている。
周囲には錦木先輩の姿しか確認できなかった。ガラス張りで見通しがいいとはいえ、上にもエリアがあるので井ノ上先輩が隠れている可能性は考えられるが、少なくとも今はなんとも言えなかった。
「錦木先輩ですね」
「錦木先輩って固いなぁ。千束でいいよ。貴方の名前は?」
「武見柚香です」
「柚香ね。うん、覚えた。他の子もいるんだよね? 出ておいで、自己紹介しよ」
錦木先輩は銃を構えるそぶりもなかった。なんならずっとホールドアップしていて、明らかに戦う意志を見せていない。
だが、先輩の実力ならこの距離で一方的に撃たれたところで当たらないだろう。あの体勢から避けながら接近して私を撃ち抜くなんて造作もないはず。そういう意味では、先輩はいつだって臨戦体勢だった。
二人は先輩の声を聞いても出てくるそぶりを見せなかったので、しばらくしてから「出ていいよ」というと奈央と友梨佳が出てきた。
「信頼されてるんだね」
「隊長なので」
「おお、武見隊だ」
千束先輩は嬉しそうに笑っていた。
この人はいったい何を考えているのだろう。戦闘スタイルといい、模擬戦での立ち回りといい、読めないことばかりだった。そもそもなぜ私達と話すのだろう。井ノ上先輩が何かするための時間稼ぎか?
視線を外さないように周囲を伺うと、先輩は困った顔をした。
「そんなに怪しまないでよ。確かにたきなの姿が見えないから疑っちゃうのは仕方ないけど、別に時間稼ぎとかじゃない。単に私がみんなと話してみたかっただけ」
「話してみたかった、ですか?」
「うん。だってこれ終わった後じゃ私達はリコリコに帰っちゃうし、話すタイミングないからさぁ」
シミュレーターで再現された先輩達は自分が再現体であると認識していない。その辺りは何やら都合のいい理由付けがされているらしいがよく知らない。そもそもシミュレーターの再現体とまともに会話をするのはこれが初めてだった。
そんな面倒なこと考えるくらいなら自我とか渡さなければいいと思うのだけど、それだと性格や思考による傾向などが出ないから云々と技術系の人に反論された覚えがある。まあ、そう言うならそうなのだろう。
「そっちの二人の名前は?」
「栟木奈央です」
「喜多見、友梨佳、です。よろしくお願いします」
「奈央と友梨佳ね。よろしく~」
『こちらα-5。狙撃準備終わりました。射角の都合で見えないので、いい感じに誘導してください。制服だけじゃなくて、顔まで真っ赤にしてあげますよ~』
愛から連絡が入る。
瑠樺さんからの報告はないのでそちらはまだなのだろう。狙撃も急ぐ内容ではないし、少し会話を続けるのもいいだろう。
「それで、千束先輩は何を話したいんですか?」
「そうだなぁ。みんなこといろいろ聞いてみたいけど……そうだ。みんなは同じチームになって長いの? ちなみに私はたきなとコンビ組んで一年くらい経ってるよ! もうバッチリ仲良し!」
千束先輩の人柄はなんというか明るくて、人を愛し人に愛されるタイプという感じだった。リコリスにしては珍しいほどに人当たりのいい性格だなと思う。
楽し気な先輩から視線は決して外さないようにしつつ、私達は……と軽く後ろと視線を合わせる。
「半年くらい、ですね」
「結構仲良しになってる頃だ」
「どう、でしょうか?」
その言葉には首をかしげるしかなかった。
そもそも私達は正式な部隊ではない。私達は各隊から問題児としてはじき出されたメンバーが仕方なく同じ任務に突っ込まれ続け、やがてなんとなくひとまとめにされた存在だ。私が隊長になったのもくじ引きの結果だし、メンバーにそう扱われるようになったのもここ一ヶ月の話だ。
そんな事情もあり、私達はたまり場になっている第三倉庫の一角をブリーフィングルームとして占拠しているに過ぎないし、部隊番号や名前もつかないから、いつの間にか置かれていた内線の番号である199隊やら問題児隊としか言われない。
先輩は私達を信頼できる仲間同士みたいに扱っているけれど、本当にそうかはかなり怪しかった。私達は独りぼっちが五人一緒にいるだけに過ぎない。おかしいと後ろ指を指されながら、それでも自分の掲げた戦いや生き方を変えることができないだけの五人だ。おまけに、私達はお互いにそれを選んだ理由を知らないし、知ろうとしたこともない。
私はただ何もかもを覚え続けられないし、私の物なんて必要ないと思ってるからに過ぎないけど、たぶんみんなはそれだけじゃない。何かしら理由があるのは聞かなくても分かる。
「だけど、そもそもリコリスで仲良くなる必要とかありますか? 明日のことも分からないのに」
別に関係が悪くてもいいとは言わないけど、それでも仲良くなる必要はない気がする。普通に話せればそれでいいじゃないか。問題児扱いされて実質左遷扱いの私達が言えることではないが。
いついなくなってもおかしくない隣人達だ。余計な情なんてない方が幸せなことも多い。
「それなら、何も背負っている必要なんてない。覚えている必要もない。そもそも、知る必要すらないかもしれない」
「…………」
「…………」
『…………』
『…………』
私達は眼下に広がる街には暮らせない存在だ。
人に知られることなく生きて、殺める。機械的にある方が幸せになれる。殺すこと以外にリソースを割けば、それはただでさえ息苦しいこの場所ですら居場所を失うことにつながるのではないか?
後ろから否定は飛んでこない。私達は結局どれほど仲良くなったような空気を出したところで、根っこの部分は何一つ変わっていない。変われているのなら、こんな場所にはいないのだから。
「違いますか?」
「それって、悲しい想いをするくらいなら、最初から何もない方がいいってこと?」
「そうですね」
「私はそうは思わないかな」
「そうですか」
間違っているだろうか。少なくとも正しくはないだろうとは思う。だけど、私達は自分を押し通せるほど強くはなかった。
「私はもっと好きに、自分のやりたいこといっぱいやりたい派なんだ」
「やりたいこと?」
「うん。例えば、リコリコもそう。みんなはリコリコ知ってる?」
「いえ」
先輩が支部の所属であることは知っているが、逆にそれがどういう場所かまでは知らない。
「先生のコーヒーと和菓子、すっごくおいしいんだよ」
「コーヒーと和菓子? え? 支部の話じゃないんですか?」
「そうだよ。リコリコは喫茶もやってるんだ」
「リコリス相手に?」
「ううん。街の人相手に」
それは……いいのか?
おそらく情報の流出には気を付けているんだろうが、それにしたって表向きにでも喫茶を経営しているというのはあり得ない。
「確かに変な場所化もだけど、常連さん達もいい人ですごく楽しいよ。千束特製パフェ、ごちそうするからさ!」
「でも、そんなの、本部になんて言われるか──」
「──関係ないよ」
思わず友梨佳が反論しようとしたところを先輩が強く否定した。
この短い時間でもらしくないと思うほどの語調だったが、私はそれをなんだかよく知っているような気がした。いや、ずっと気付いていたものが顕在化したような──
「リコリスだからとか、本部がとか。そんなのは関係ないよ。やりたいことがあるんだったらさ、もっと好き勝手に生きちゃおうぜ? 絶対そっちの方が楽しいし、上手くいくと思うんだ」
先輩には深い意味はなかっただろうし、私達の境遇なんて知らないはずだけど、それでもその言葉は甘言のようだった。
背中を指されながら生きていることを気にしているのに、それを曲げられない。そんな私達のことを正面から肯定してくれるかのような優しさがそこにはあった。
「確かに反対されることも多いだろうし、正反対の考えを掲げている人もいるんだと思う。どうしても分かり合えない人はいなくならない。だけど、まずは自分の好きを掲げなきゃ居場所もできないよ」
居場所があるから自分を出せるのではない。自分を出して生きるから、そこが居場所となっていく。
「居場所なんて、できるんですか?」
奈央が恐る恐る尋ねた。
そうだ。私達に居場所はない。生き方と居場所は共存できないと、これまでの経験が語っている。
「できるよ、絶対に」
根拠もない発言のはずなのに、妙な頼もしさがこもっていた。少なくともそれを信じてみたいと思わせるだけの強さがあった。
「だけど、もしダメだったら、その時はリコリコにおいで。うちがみんなの居場所になってあげるよ」
それを言われて、私はようやく何かを理解した気がした。
それはたくさんの謎であったし、既視感の正体だった。
私は武器を下ろしながら先輩と相対した。
「それは、先輩が人を殺さないと決めたようにですか?」
返事は帰ってこなかった。先ほどと変わらない、少し変わった笑みを浮かべたままだったが、目だけは冷静にこちらを覗いていた。
「作戦記録を見させていただいて、ずっと疑問でした。先輩達みたいに優秀なリコリスがなぜ支部にいるのかと」
そこには、多くの謎があった。
なぜ支部の所属なのか。
なぜ非殺傷弾を使うのか。
なぜ私達と仲良くなろうとするのか。
でも話しながら考えてようやく答えのようなものにたどりつけた気がする。
「先輩は殺したくない。誰もが幸せになれるようにありたいんですね?」
「うん、そうだよ」
ある意味で、先輩は私達と同じ問題児だった。問題児としても先輩だった。
おかしいと言われ続け、しかし自分の信じた道を曲げることは許せない。先輩は私達以上にリコリスに向いていない人だった。でも私達よりもはるかにリコリスに向いていた。
私達以上に可哀そうな人だと思った。
「私はみんなを助けるリコリスになりたい」
「私達の殺しは、国民の平和な生活を守っています。立派な人を助ける仕事です」
「違うよ。どんな理屈や理由があったとしても、それは人を殺す理由になっちゃいけないんだ。この命は、誰かの命を守るために、人を生かすために使うって、私がそう決めたんだ」
私はゆっくりと右回りで歩き始めた。
千束先輩もそれにつられて右回りに動き出す。お互いの位置関係が変わらないように、時計回りに動いていく。視線を時折上の方に向けるが、井ノ上先輩の足音は聞こえない。
「みんなも、そういう本部で生きにくい理由があるんでしょ?」
「まあ、そうですね」
私達は似ている。
万年サードがファーストに似ているなんておこがましい話かもしれないが、たぶんそこらの優秀なセカンドやファーストなんかよりも、私達の方がよっぽど千束先輩に似ているというだけの自信はあった。
「なら大丈夫だよ」
「なんでですか?」
「簡単なことだもん」
先輩は銃を取り出した。私達も応戦の用意を取る。
「私にはリコリコがあった。同じように、みんなにはみんながいる」
「みんな?」
「そう。柚香には、奈央には、友梨佳も、私みたいにいろいろあるんだろうけど、でもみんなにはお互いがいる。お互いにそれを理解して寄り添える」
「でも、私達はそんなのじゃないですよ」
「今はね。でも、この戦いが終わったら? 明日は? 一ヶ月後は? 一年後は? いきなり気持ちが切り替わるわけじゃない。少しずつ時間をかけて、いろんなことを知って。長い時間の中で私達は居場所を作って、仲間を作るんだ」
私達は半周ほど回っていた。
そこで私は足を止め、千束先輩も足を止めた。
『対象、補足しました』
愛の声が聞こえる。狙撃直前まで来ているので、一気に落ち着いている。
先輩は中央のガラスフェンスのそばにいる。私達の背後には旧電波塔。この位置なら、下から見上げる構図で先輩を撃つこともできる。
「だから、言葉の次は、模擬戦で私に教えて? 私も──」
そして、千束先輩は斜め下に視線と銃を向けた。その方向は!
『っ!?』
「──本気出すから」
次の瞬間、先輩の発砲音と共に、先輩の後方のガラスが割れて飛び散った。愛の狙撃だ。
大きな音を立ててガラスが崩れ、一度だけ大きな風が吹いた。通信機からは『え? 嘘だ……』と戸惑ったような愛の声が聞こえてくる。
『今、どうして目が……』
「今のでこれだけしかズレなかったんだ? ひゃー、怖い!」
千束先輩は何でもないかのように乱れた髪を整えていた。ガラスフェンスから少し離れて、射角に入らないようにしている。
愛の狙撃に気づいていた?
「み、見えてたんですか……?」
「ううん。見えてなかったよ」
先輩はなんてことないように答えた。見えてないのに避けたといわれる方が信じられなかった。
「柚香が話に乗ってくれたのは嬉しかったけど、理由もなく乗ってくれる性格じゃないのは分かるよ」
「はい」
「だから、何かしら仕込みををしているんだろうなって思ったんだ。私を倒すために人がやることってだいたい決まってるから」
目を潰すか、奇襲するか。
「でもなぜ今回は奇襲、それも狙撃だと?」
「今、歩いたでしょう? たきなのことを警戒しているのかなって思ったけど、それだけじゃ理由が少し足りない。他の二人を自分から離してお互いの死角を潰せばいいだけだもん。ってことはつまり、私を任意の場所に動かす必要があったってことだよね。ぐるぐる回り続けるならもう少し理由を考えたかもしれないけど、半分動いて止まったからこの場所ならいいんだなって思った。おまけに止まってる必要がある奇襲でもあるのも察せるよね」
これは私のミス。明らかに読み負けだ。
人柄で戦い向きの人ではないと舐めた結果だ。この人はファーストなのだからそれくらいの場数は踏んでいると考えてしかるべきだった。
「狙撃のタイミングも場所も知らないけど、第二展望台を狙撃できる場所なんてそう多くない。高さの問題をギリギリまで潰せて、人目につかない。そんな場所は一つしかないよね?」
「旧電波塔、ですね?」
「正解。後はおおよその位置に目と銃を向けて動揺させてズラすだけだったわけなんだけど、あの近さは正直予想外。たぶん、もう一秒くらい遅かったら綺麗に頭に当たって負けてたと思う。狙撃の子、すごい腕だね。たきなみたいな正確性」
最初の天真爛漫なそれとは違う不敵な笑みを見ながら、千束先輩にとってこの模擬戦は単なる
私達に攻め込ませているのも、会話をして人柄を知ろうとしたのも、狙撃をあえて待って撃たせたのも、その考えをすべて解説しているのも。
どれもこれも私達の実力を把握して、その上で授業をしているに過ぎない。勝ち負けなんて次元に立っていない。そもそもこれは勝負の体裁すら保てていないのだから。
銃を構えなかったのは、私達が撃つ相手ではないからだ。
「友梨佳」
「……いいの?」
「いいよ。奈央もいくよ」
「ははっ、そうこなくっちゃ……!」
正直、少しだけ頭にキていた。
私達はしょせんサードに過ぎないが、それでも自分達の得意分野についてはそれ相応のプライドというものがある。それをここまで刺激されたのだから、何とか一矢報いるまでは負けるわけにいかない。
「おおー、いいね。その負けん気は嫌いじゃないぞ」
先輩はそう言って銃を構える。
C.A.R.システム。明らかな近距離戦を目的とした立ち回り。殺生を好まないにしてひどく好戦的なスタイルだと思うが、本人もそれを得意としているのだからそう立ち回るしかない。
友梨佳は既に銃を引き抜いて左回りに駆け始めていた。
「ッッシャァ!!!!!」
待てが長すぎたせいでもはや言語機能を喪失しているらしい友梨佳は、二丁の拳銃を引き抜いて発砲していた。友梨佳は両手ほどではないが、片手でもそれなりの精度が出せる。こういう状況でひたすらに撃たせるだけなら適任な人材だ。
しかし、先輩はそれを軽く体をひねるだけで避けていく。明らかに点単位で弾丸が来る場所を把握しているが故の反応だ。
それを確認しながら、私は奈央と一緒に左回りで走っていた。
奈央が一緒に牽制射撃を行いつつ接近するが、そちらも当たる様子がない。私は奈央を遮蔽にしつつ攻撃を仕掛けるが、そもそも回避に専念して動き回っている先輩を相手に走りながらで正確な狙いをつけられない。やはり、無理を承知で接近するしかない。
「……こっち!」
先輩は両サイドをさっと確認してから、友梨佳の方に接近した。
友梨佳は既に両方のマガジンを使い切っていた。持っている銃のマガジンをその場に外して捨てた。空になった銃をバックの下に動かし、バックの下から滑り降りてきた新しいマガジンを重力だけで装填する。友梨佳はあのアクションを可能にするため、銃とカバンの両方を改造している。
「ハハハハハハッ! たくさん助けましょうねぇ!」
碌に照準も合わせてないはずだが、放たれた弾丸は先輩の顔と胸を狙っている。それらを半身にしながら避け、獲物へと食いつく肉食獣のように先輩が身をかがめた。もう五メートルもない。
「私が楽にしてあげる!」
ほぼ先輩の目の前で友梨佳が発砲する。流石にこれは、と思う時には先輩の体は既に射線を切るように動いていて、それを理解した友梨佳の目が大きく見開かれる。
「ごめんね。私、別にそういうの貰うまでもないから」
抱き合うことすらできそうな距離で、先輩が銃口を腹部に押し付けた。
「ファイト!」
引き金が引かれ、友梨佳の体がびくりと跳ねて苦しそうに息を吐く。体勢を崩して倒れこむようになった彼女を先輩はそのまま抱きかかえ、両手の拳銃をさっとはじいて蹴飛ばした。
「っ! まだ!」
「ううん、終わりだよ」
気合で一発を耐え、銃を失って正気に返った友梨佳はそのまま体術で押さえ込もうと襟元を掴むが、先輩はそれを無視して胸元に銃口を突き付けた。
「いっぱーつ!」
一瞬の静寂の後、もう一度発砲。友梨佳はそれ以上耐えられなかった。
そういう倒し方に慣れているのか、先輩は意識を失って倒れこんだ友梨佳を寝かせるように転がした。それも友梨佳を盾にするような動きだったから、こちらから隙をつくことも許されない。
「さて、後二人」
友梨佳は近距離戦では無類の強さを発揮するタイプだ。
射撃精度は良く、二丁使いというメリットを生かした避けにくい、あるいは隙を作らない戦いをするのが上手い。マガジンの交換もかなり早く、実際の隙として付ける相手はほとんどいないと言ってもいい。
それがどうしてこうも一瞬で沈んだんだろうか。
「強すぎる」
思わず声が漏れる。
意味もなく二人で突っ込んだところで起きる結果は目に見えていた。
十メートル以上離れたところで、私と奈央は立ち止まった。何かこれといった策があるわけでもなかった。
「どうしたの? 来ないの?」
「むやみに突っ込んでも避けられるだけですしね」
両手、つまり二手で止められないのなら、四手で詰めに行くしかないのだろうか。
だけど私と奈央まで落ちてしまえば、本当に先輩とを落とす手段が存在しなくなってしまう。
先輩は既に狙撃される位置を意識しながら立ち回っているようだった。おそらく愛にはもう私達の戦っている様子はもう見えていないことだろう。狙撃位置がばれているうえ、旧電波塔からなら別の場所へ移動するのも難しい。そもそも他の狙撃ポイントなどまともに撃てる場所とは思えない。
「クソ、どうすりゃいいんだよ」
「でもこういうオワタ式好きでしょ?」
「ははっ、大好き」
奈央は拳銃を捨てて両手でナイフを構えた。もとより当たるはずもない銃だ。そんなもの持っているくらいなら、得意なナイフを使った方がいいに決まっていた。
「へぇ、みんな面白いね」
先輩の弱点を改めて思い出す。
あの圧倒的強さを生み出しているのは先輩自身の反射神経と目の良さだ。逆に言えば視覚に干渉できるタイプの手段であれば効果が出る。
視界の外からの奇襲はもう使えない。明かりを消そうにも、おそらく中央制御室を押さえない限りはどうしようもないが、この状況で瑠樺さんが押さえに行くのは無理だ。
というか、この状況ですら井ノ上先輩が出てこないということは、おそらく先輩が上にいるのだろうか。どちらにしろ工作する時間まで含めても現実的な択じゃない。
とすれば、後はもうこの戦いの中での小細工くらいしかない。
「……通るかな?」
「策がある?」
「思い当たることがね」
千束先輩にも通用しそうな手が一つ思いついているが、それが本当に有効なのかは分からない。でも、通用するならおそらくこれが一番有効な手段だとも思う。
「作戦名は?」
「
「了解」
説明はしない。もとより意味がない。張り付くように立ち回ってもらった方が都合がいい。
私は先輩に銃を向ける。
「行け!」
一発撃って、奈央の後ろを走る。ピッタリ後ろを張り付いて、先輩から見えないように調整。すかさず奈央からマガジンを抜いてリロード。意味がないかもしれないけど、残弾数のごまかしを図る。手が前からほとんど動かないから、これで相当の相手は騙しとおせるはずだが。
残りが三メートルを切った辺りで奈央が銃を持つ腕に向かってナイフを振るおうとする。先輩は冷静に引き金を引──
「ッ!」
──くのを止め、一度バックステップを取って私の方に発砲した。
来るのが分かっている射撃なら、目なんて関係ない。引き金を引かれる前から体を捻って回避し奈央に並ぶ。
そして一瞬だけ耳元と後方を気にする素振りだけ見せながら、先輩に向かって二度発砲。
先輩は踊るように銃弾を避けて、ナイフを持った奈央の腕を掴んで私に向かって投げた。
「きゃっ!」
奈央が可愛い悲鳴を上げてぶつかり、私達と先輩はまた距離を開ける様に離れていた。
千束先輩はちょっと戸惑った様子で私達の方を見ている。
「ねぇ、さっきの何?」
「何のことですか?」
とりあえず息を整えながらすっとぼけておく。
「さっきの、無理やり柚香に反応させられたよね? アレどうやったの?」
「それ、解説が欲しいですか?」
煽りながら再び体勢を整える。
私の最後の策というのは、
先輩は反応がいい。それは逆に言えば他者のあらゆる行動に気が付いてしまう、ということでもある。ならば後は道具を拝借する際に使うこの技術を使って、先輩の視線をすべて動かしてしまえばいい。これは人間の反射や無意識に類する部分を狙う戦術だから、事前に対策されていなければ模擬戦中に抜けることはできない。
先輩だって視界のすべてを把握しているわけではないはずだ。その取捨選択の捨に入り込めばいいだけ。自分にやるべきことを言い聞かせる。
これが、視界に映りながら視覚を奪う私の最後の手段。一人であればできないことも多いが、二人いるのであればある程度バレたところで通用させ続けられるメリットもある。
先輩も流石に反応速度が高すぎて誘導されつつも対応するくらいはできているみたいだが。
「でも、有効そうで良かったです」
「その手品、絶対にタネ見つけるから」
「じゃあ分かるまでやってあげましょう」
奈央も体勢を整えたようなので再び二人で突貫する。
時折姿を隠しながら何かする素振りを見せ、実際に発砲も織り交ぜていく。とりあえず接近しないことには何も始まらない。
「よしキタ!」
奈央が間合いを詰めると、そのままスパイク付きのシューズで右から蹴りを放つ。先輩はそれを銃を持たない左腕で受け止めようと受け身を取る。そこに下からスライディングで滑り込みながら二発撃つ。
千束先輩は顔を逸らすだけで避け、そのまま脚を押さえ込んだ奈央に向かって一発発砲する。
「んっ!」
奈央はそれくらいでは落ちない。
私はそのまま先輩の足を掴んで立ち上がり様にマガジンを一本抜きとりながら立ち上がる。ナイフを取り出しながら右腕を刺そうと動きながら二本目を抜き取る。
愛を動揺させるのに一発。友梨佳を落とすのに二発。私のミスディレクションで一発。そして今ので五発。先輩の銃の相談数は最初のブリーフィングのタイミングで確認済みだ。後二発をどうにかして撃たせ、その前に予備のマガジンを奪い取る。
先輩は体を屈めつつ、右腕を巻き付けて私のナイフを押さえ込むと、そのままこちらに向いた銃の引き金を無感情に引く。が、私はその射線上にいない。ナイフを動かして視線を惹きつける。
そして、一瞬だけ飛びそうだった意識を取り返した奈央が押さえ込まれた足を軸にして左足も使って先輩の首を足で締め上げようと試みる。
緊急性が高いと判断したのか、そのまま先輩は完全に離れられなくなった奈央の内ももに無理やり一発撃った。
私達全員のバランスが崩れたところでしゃがみながら奈央の拘束から逃れ、追撃とばかりに腹部にトドメの一発叩き込んで奈央を完全に沈めた。
私は先輩が完全に私と奈央の間から離れる前に後ろからとびかかって、三つ目のマガジンを抜き取る。後いくつ残っている? そこまでは把握しきれない。
でも今向こうは完全に弾切れだ。先輩が体を起こすタイミングに合わせて銃口を頭のあたりに突き付けた。この距離なら絶対に当てられる。
「これで!」
「た──」
顔をこちらに向けて何とかよけようとする先輩をどうにか押さえこみながら引き金を引こうとしたところで、私が引き金を引くよりも早く発砲音がした。
「──千束!」
放たれた弾丸は私の銃を綺麗に撃ち抜いて、持っていた銃は後方へと跳ね飛ばされた。何が起こった?
直接ではないものの撃たれて腕がはねた衝撃で先輩に張り付いていられず、後方に倒れこんだ。強い衝撃に一度視界がくらむが、すぐに後転しながら銃を構える。
「たきな!」
「千束、大丈夫ですか?」
そこにいたのは井ノ上先輩だった。いつの間に?
私の動揺を察したように井ノ上先輩は「最初からいました」と答えた。
二人は倒れている奈央や友梨佳からも離れる様に下がり始めた。
「私は最初から、動かないようにしていたエレベーターの中で身を潜めていました」
「いやでも、ドアは開閉してたし、ベンチや看板も倒れてて遮蔽には……」
「貴方達もしていたじゃないですか。ボタンの脇です。ずっとあそこにこもっていました」
パッと見えないうえ、戦闘が始まっても介入するそぶりが見えなかったから完全に意識から消え去っていた。
「もともと私達の戦闘は、千束が詰めて私が後ろからの援護です。今回千束がここがいいと言い出したので、基本的には千束に戦わせ、私は緊急時に援護をするだけの予定でした。正直相手が三人だったので出る幕はないかと思っていましたが」
結局、私が全部詰め切れていなかったのが原因だった。いや、仮に井ノ上先輩が隠れているのが分かっていたとしても、だからと言って千束先輩を落とせたかと言われればノーだった。
もともと勝ちの目なんてどこにもなかったのかもしれない。
「サードにしてはかなり連携の取れた立ち回りでした。互いの戦い方を把握したうえで、それを一つの作戦、戦術として盛り込めていたと思います。私達も一人では貴方達には勝てなかったでしょう」
「……この模擬戦はそもそも複数前提です。井ノ上先輩が出てこないのをいいことに千束先輩に集中しすぎた私達の負けです」
友梨佳も奈央も倒れ伏している。まだ起き上がれる状態ではないか?
「それ、人にもよるけど、早い人ならもうすぐ起きると思うよ。とはいえ、その前に貴方を落とすけど」
「狙撃手がいるので模擬戦自体は終了しませんが、意味もない継続は望むところではないでしょう。三人を捕縛して通信越しに説得します」
井ノ上先輩がそう言っている横で千束先輩はマガジンをリロードしようとバックに手を伸ばした。
「……あれ? マガジンは?」
井ノ上先輩が目を細めて銃を私の方に突き付けた。
私は両手を挙げながら、先ほどスったマガジンをその場に落とす。
「え!? いつの間に取ったの!?」
「立ち上がるときと、ナイフで刺すときと、最後に撃とうとしたときですね……」
「恐ろしい手口ですね」
「本当だよ。今すっごいびっくりしたー。……あ、最後の一個あった」
「まだ残ってたか……」
「惜しかったねー。もうちょっとだったんだけどね」
先輩は残った分をリロードした。
二人が健在な上に私の方は武器を吹き飛ばされた状態だ。ここからかつ手段などないに等しい。
井ノ上先輩は捕縛用の装備を取り出して私に向けた。
「さて、投降してください。これで私達の勝ちです」
絵になるような構図で並んだ二人から、改めて突き付けられた銃口を見ながら両手を上げて口を開こうとすると、イヤホンの向こうから音声が聞こえてきた。
『と、思うじゃないか』
「……瑠樺さん」
『準備完了だ。いつでも行けるよ』
二人は近づこうとした足を止めた。
「先輩」
「どうしたの?」
「私達って、五人組なんですよね」
「え?」
「最後の仕込みが終わったらしいです」
瑠樺さんは派手好きだ。後、爆発も好きだ。
『では、派手に行こうじゃないか』
ちなみに、趣味は爆破解体動画を見ることだ。
『シミュレーターとはいえ、延空木を破壊できるなんて最高だ!!!』
つまり、私達の最後の作戦はとってもシンプルだった。
ズドンと超大きな音と衝撃が走って、足元がぐらりと揺れた。
「え!? 嘘でしょ!? リコリスなのにそれはないでしょ!? え、本当に!?」
『ハーッハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!! 芸術は! 爆発だ!』
延空木の隣り合った二つの支柱が破壊された。
四方から支えられていた塔の半分が壊された以上、そちらに向かって倒れるのは当然のことだった。
「今回の勝利条件は部隊全員の無力化です。ここで私達が巻き込まれたところで、旧電波塔にいる愛がいれば負けはありません。でも、先輩達は違いますよね」
これで確定だ。
リコリスとしては落第だが、試合には勝てる。
ゆっくりと傾いて、重力にひかれて宙に投げ出される友梨佳と奈央を見送りながら私もあれに続くんだなぁとため息をつく。
千束先輩は泣きそうな顔で叫んだ。
「ふっざけんなーーー!!!!!」
サービス終了が危ぶまれていたが、リコリス・リコイルの放送によって新規ユーザーが激増。ついに始まったリコイルイベントによって売り上げも上がった。
リコリス・リメインの主人公チーム。メインストーリーは彼女達がそれぞれに因縁にある事件を経ながら、互いの傷を知り絆を深めていくという内容。
四作目で言及された真島事件や、存在を示唆されていたアラン機関にまつわる物語。DA支部・リコリコを中心に、シリーズを知らない層にも楽しめるよう作られている。