公式設定と齟齬があった場合は、生暖かくスルーして下さい。
あるオクトリングが、地上に出て初めてバイトを行うお話です。
私は、長らく…迷っていた。
タコワサ将軍の補給部隊の一人が、軍務を放棄して姿を消した。
その理由は…多分私と同じだろう。
私も同じ様に…と思いはしたが、軍務を放棄し一人逃げ出す勇気が無かった。
地上への亡命ルートがいまだハッキリせず、逃げ切れる確証が…無かったのだ。
しかし…
ある日、そんな私に逃亡を決意させる決定的な報告を…聞いてしまった。
『一年程前に深海メトロを抜けて、地上へ脱出したオクトリングがいる』
つまり、深海メトロルートなら…地上へ行ける!
私は軍務を捨て、深海メトロを辿る。
インクリング達の音楽を再び聴く為に…地上へ……!
インクリング達の街、ハイカラスクエアに辿り着く。
我らの故郷とは違い、音楽が溢れている。
「コレガ…モトメテイタ、オンガク……」
ぐううぅぅう…
「…ム?」
そう言えば、地上に出るまで何も食べていなかった。
空腹に耐えかねた私が周囲を見回すと、屋台が見える。
確か…食料を提供する移動施設のはずだ。
事前にインクリングが用いる貨幣は用意してある。
これで空腹を凌ぐとしよう。
「タベモノ…ホシイ、クレ。カネナラ、モッテル」
「あー…ウチはおカネじゃダメなんだよね。チケットある?」
「…チケット?モッテナイ」
「そっかぁ。ん~…そうだ、お兄さんバイトしなよ!報酬でチケット貰えるからさ!」
「ソウナノカ?」
(インクリングの世界は、食料調達も一大事なのだな…)
「あの奥まったトコにさ、怪しい建物があるでしょ?あそこで募集してるから」
「…レイヲイウ」
「頑張るんだよ~」
私は、空腹を堪えながら『クマサン商会』へと向かう。
♪アーアーアーアアアアッアーアア アーアーアーアアアアッアー
(…今迄聞いた音楽よりも、身体に馴染む気がするな…この曲は)
そんな事を考えながら、『バイト』とやらを行う方法を探していると…突然声を掛けられた。
『やぁ、いらっしゃい。君もバイト志望かね?』
(木彫りの熊が…喋っているのか?)
「ソウダ…バイト、シタイ」
『ふむ、君は…皆とは少し違うようだね。いや、バイト志望者なら誰でも構わない。いいタイミングで来てくれた』
「…ドウイウコトダ?」
『バイトの現場行きの船が出る。その中で話を聞いてくれたまえ』
私は、有無を言わずに小型作業艇へと押し込まれた。
「おう、そいつでラストか。しかし緊急とは言え…未経験者二人は厳くね?」
「…そこはあたし達でどうにかしよう」
船内奥に陣取る『バイトリーダー』と呼ばれる、作戦指揮官であろうインクリング。
そしてその横にいるのは…まさか……!?
間違いない、オクトリングの女だ。
そんな…何時の間に地上へ…?
訝しむ私の肩を、何者かが叩く。
「アンタも新人?よかった~!新人は俺だけかと思ってヒヤヒヤしたよ!」
このインクリングも私と同じく、『バイト』における新兵の様だ。
「俺の名前はサキ。よろしくぅ!」
「No.5600023ダ」
「なんばーごーろく…何だって?」
「…No.5600023、ダ」
「あーもー長ぇよ!じゃあお前はゴローな。よろしく、ゴロー!」
「…ゴロー?ソレハワタシノナマエカ?……ヨロシク」
ぐううぅぅう…
「何だ、腹減ってんのかよゴロー。コレやるよ、ウメチョコバー!」
「…カタジケナイ」
サキから貰った食料は、味はともかく…カロリー豊富で私の空腹感を紛れさせてくれた。
「あー…よく聞け新人ども。今回のバイトは少し特別だ。」
「え?あの…俺達バイト未経験なんスけど…大丈夫なんスか?」
「分からん。何せ今回の主目的は調査だからな。危険か安全かを調べる為に行くんだ」
「新人がやる仕事じゃないッスよね!?」
「誰もが最初は新人なんだよ。なーに死にゃしねぇよ……多分」
「今『多分』って言った!無理だよ!降ろしてくれよ!!」
全く…新兵はオクトリングもインクリングも変わらんな。
「バイトリーダー、ヨウスルニ…シャケヲタオセバヨイノカ?」
「お前さんはもしかして…まぁいいや。そうだ、シャケを倒して金イクラを確保すりゃあいい」
「…今回は金イクラの回収は最低限でいいらしい。新しい狩場の視察が、主目的」
「…リョウカイシタ」
このオクトリングの女、インクリングの言葉をかなり流暢に話す。
…地上に出て長いのか?
「狩場が見えたぞ!総員戦闘準備!」
「リョウカイ」
「だだだ大丈夫なのか…?」
「…スーパージャンプ用意!…ドライ!ツヴァイ!アインス!……ヌル!!」
私達は狩場を目指し、空を駆ける。
『一応イクラコンテナは設置するが、君達の派遣費がペイ出来ればいい』
「りょーかい!…サキ!お前はゴローから離れるな!」
「はいッス!」
「サポートは…任せるぜ、相棒」
「…了解」
水位:通常
「うえ…チャージャーかよ。苦手なんだよなぁ俺」
そう言いながらもバイトリーダーは、的確にバクダンを撃ち抜いてゆく。
「いや…リーダーメッチャ上手いじゃないスか!」
「まぁバイトで使う分には、な。バトルじゃ無理だっつーの」
ザバァ…!
「ひいいぃぃ!この!このっ!!」
サキの銃撃は、モグラに当たりはすれども全くダメージを与えられない。
「サキ、サガレ」
スプラッシュボム…インクリング製のグレネードか…こいつなら!
コロロ……バクッ!
(食らい付いたな!)
モグラの目の前に転がしたスプラッシュボムが、体内で爆発し、金イクラを吐き出した。
「フム…コレヲカイシュウスレナイイノダナ?」
「サキ!こっちの金イクラを回収してくれ。それで回収は切り上げる!」
「うっス!…って!来んな!来んなぁ!!」
サキがコジャケの群れに集られて…やられた。
しかし…その瞬間にスプラッシュボムが投擲されて、サキが蘇る。
「…周囲をよく見る事」
「あざッス!」
あのオクトリングの女も、随分手慣れている様だ。
水位:満潮(夜)
私に支給されていたブキが、別の物に変更された。
これは…タコゾネスの連中が愛用していたローラー…より更に大型だな。
試しに振ってみる。
ぶうぅぅん!!
「オ…オモイ…」
(不味いな…私では扱いかねるやもしれん)
その時、急にサキの身体が輝き始める。
「ヒカリバエかよ!サキ!そこを動くな!」
「ははははいぃ!!」
「ゴロー!ダイナモを振り下ろして…構えろ!シャケが来たら微速前進!」
「…リョウカイシタ」
「いいか!金イクラは無視でいい!とにかく生き残れ!」
バイトリーダーの指示通り、シャケが迫れば大型のローラーで微速前進を行う。
「シャケガカッテニトケテユクナ…」
「慣れりゃあ難しくは無ぇよ」
「ひぃー!来んなぁ!!」
「…サキ、そんなに無駄撃ちしなくても、いい」
シャケが溶け、金シャケはバイトリーダーとオクトリングの女に正確に撃ち抜かれる。
終わってみれば、あっけなかった。
そして…夜が明ける。
水位:干潮
「よーし!全員移動だ!俺に着いて来い!」
バイトリーダーに引率されて、干潮によって現れた大地を目指す。
「フム…カッテガワカッテキタナ」
タワーやカタパッドと呼ばれる個体は優先的に…叩く!
カーン!
心地良い音を響かせて、鍋が空中を舞う。
「コチラノタワーハ…ショリシタ」
「よし!コイツでラストだ!サキ!後ろから撃て!」
「はいッス!」
後方からのサキのインク掃射で、テッパンは倒れた。
「…シャケの姿見えず。バイト終了。」
「ふぃー!生き延びれたぁ!」
「俺らが居るんだ、楽勝よ!」
成程、これが『バイト』なるモノか。
…これなら、私でもどうにかなりそうだな。
その時…
『戦闘を終了した直後、絶対に油断をするな』
上官の教えを、私はすっかり忘れていた…。
『君達の元にかなり大型のシャケが近付いている、用心したまえ』
…その警告は、少し遅かった様だ。
「ななな何だよアレ!?あんなデッカいシャケと戦うんスか?バイトって!?」
「いや…俺も初めて見た。デケぇ……!」
腹を揺らしながら、超大型のシャケがのっしのっしと近付いて来る。
「クマサンの旦那!アイツは普通のブキじゃ無理そうだ!撤退許可かクマサンブキか、どっちか通して貰うぜ!」
『そうだねぇ…仕方ない。私の秘蔵コレクションを用意しよう。出来れば…仕留めてくれたまえ』
「気軽に言ってくれるぜ…しゃあねぇ、本気出すか!!お前ら、クマサンブキは持ったな!?」
本来は、ホットブラスターであったと思われる改造ブキを握る。
「ゴロー!あのデカブツの周りにいるオオモノシャケを潰して回れ!デカブツには構うな!」
「…リョウカイシタ」
「サキ!ゴローのサポートだ!絶対に死ぬんじゃねぇぞ!!」
「うッス!」
「ハチ!俺のサポートを頼む!…頼りにしてっかんな!!」
「…任せて」
「へへ…ずっとバイト漬けの日々だったが…俺だって一応、ハイカラスクエアを救った英雄なんだぜ!」
『頼んだよ、4号君』
「任された!いくぞお前ら!!」
バイトリーダーの指示通り、オオモノシャケを潰して回る。
ドパパパパパパパ!!
「…ナンダコノカリョクハ!?」
クマサンブラスターとやらの連射能力は凄まじい。
これなら…!
「危ねぇ!」
ジャババババババ!!
私の後ろに迫っていたコジャケの群れが、インクの雨で溶けてしまった。
「この傘…?すんゲー!」
「タスカッタ、レイヲイウ」
「お互い様だろ…まだまだシャケは一杯いるぜ!」
「ソウダナ…サポートヲタノム」
「OK!」
「さて…コイツを使うの苦手なんだよなぁ…ま、この火力がねーと話にならなさそうだ。」
シュッ…ズババッ!
「的がデカいから、クマスロでも楽に当たるぜ!」
バイトリーダーの左側からヘビが迫る。
…が、バイトリーダーはそちらは全く見ずに、超大型のシャケのみ見据えている。
何故なら…
ピッ!…バシュッ!
バイトリーダーに近付くオオモノシャケは、オクトリングの女の狙撃により全て撃ち抜かれるからだ。
戦いは…長引いた。
クマサンブキとやらの火力は絶大だが、何せ超大型のシャケが堅過ぎる。
少しずつ弱ってはいるものの…止めを刺すにはまだまだ時間が掛かりそうだ。
すり潰される前に倒せればよいのだが。
超大型のシャケの体力を削れるだけ削る。
パウチに詰めてあるSPとやらも全て使用した。
が、超大型のシャケはいまだ健在。
壊滅が脳裏に過った…その時
ガオオオォォォン!!
超大型のシャケは咆哮を上げると、のそりのそりと撤退し始める。
オオモノシャケ達も、付き従う様に撤退した。
「…ふぅ、逃げられたか…いや、見逃して貰った、のかもな……」
『お疲れ様、4号君。ふむ…クマサンブキもほぼ通じない相手だったね…何らかの対策が必要だ』
「おいおい…あのデカブツを狩るつもりかよ?」
『あらゆる可能性を想定しておかないとね…海は優しくも厳しいのだよ』
「…大丈夫?ゴロー?」
「アア、ダイジョウブダ。…オマエハオクトリング、ダナ?」
「…そう。深海メトロを通って、地上まで出て来た」
「シンカイメトロ…マサカオマエガサイショニアノルートヲ…」
「…多分そう。今はお爺ちゃんの紹介で4号…バイトリーダーのお世話になってる」
「インクリングトクラシテイルノカ…スコシマエマデハカンガエラレナカッタ」
「…でもあなたも…そのつもりで地上に出て来たんでしょう?」
「…ソウ…カモナ」
「いちちち…あー死ぬかと思ったぜ。ゴローは無事か?」
「…ダイジョウブダ」
「へへっ…今日はありがとな!また一緒にバイトしようぜ!」
「…アァ、ソ…ソウダナ……」
(あれだけ船から降ろせだの死にたくないだの喚いていたのに…またバイトをする、だと…?)
「…インクリングは物事を深く考えない。あなたも付き合ってみれば…分かる」
「ソウイウモノ…ナノカ」
バイトを終えて、念願のチケットを手に入れる。
「ゴロー!折角チケットあるんだし、ロブサンド食おうぜ!」
「ウム…コレガクイタカッタ」
ロブズ・10・プラーの前のベンチに並んで、二人でロブサンドを頬張る。
「なぁゴロー、お前結構強いな。俺と一緒にナワバリバトルしないか?」
「ナワバリバトル?タタカイカ?」
「そこからかよ…いいか、ナワバリバトルってのはなぁ…」
初めて親しくなったインクリング、サキ。
サキは私の知らない事を色々知っている。
私はサキに、サキが知らない事を教えよう。
そんな間柄を「トモダチ」と言うらしい。
インクリングの世界は、刺激に満ちている。
音楽を求めて地上に出て来て…本当に良かった。
「トモダチ」と共に、もっと色んな物を見て…色んな音楽を……