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あるオクトリングが、仲間と共に新型オオモノシャケの調査を行うお話です。
一旦区切りを付けて、次に話を書くのはビッグラン実装後だと思っていたのですが…思い付いちゃったので。
「先日目撃された、未確認のオオモノ級シャケですが、データベースに存在しません。新型と思われます」
『やれやれ。新型とは…どうにもまいったね』
「現在のところ、ヨコスカ半島近海でのみ目撃されておりますが…」
『ふむ、他にも何か問題があるようだね?』
「我々の漁場の一つである、シェケナダム近海でも目撃報告があります」
『防鮭ダム…優秀な漁場であり、且つハイカラ湾防衛の要だね。そこで目撃されたとなると……』
「…何せデータが足りません。調査が必要です」
『そうだね。こういう事に向いているスタッフに心当たりがある。向かわせよう』
「よろしくお願いします」
『彼らはバイト待遇で、社員よりいい仕事をしてくれる。全く、ありがたい話だよね』
♪アーアーアーアアアアッアーアア アーアーアーアアアアッアー
(この社歌を、もう何度聴いたのだろうカ?)
クマサン商会の扉を開き、ふと思う。
最初に聴いた時から、妙に身体に馴染んでいたが…もうすっかり染み付いてしまった。
今思えば…身体に馴染んだのは、以前に何度も聞いた『あの曲』と似ているからかもしれない。
メロディが似ている、等の理由ではない。
聴いていると、ただただ前進を強要され続ける様な、あの感じが…
「おーい、なに突っ立ってんだよゴロー。入るぞー」
「…あぁ、すまなイ」
トモダチのサキに促され、私も社屋に入る。
音楽を求めて地上を目指し、ハイカラスクエアに辿り着き…それなりの月日が過ぎた。
もう私の事を『No.5600023』と呼ぶ者は居ない。
オクトリングのゴローとして、日々を生きている。
「ゴロー、どうしたんだ? ボーっとしてさ」
「いや、初めてバイトした頃を思い出しただけダ」
「…お互い災難だったよな。ド新人がいきなり最前線送りだったし」
「全くダ。私は地上に出たばかりで、何も分からなかったんだガ…」
「いきなりクマサンに『いいタイミングで来てくれた』って、なぁ?」
「フフ…懐かしいナ」
しかし…バイトを続けて行くと、思い知る事となった。
あの程度の事は日常茶飯事なのだ、と。
今回のクマサンからの緊急招集も、調査とは聞いているが…荒事無しとは考え辛い。
(軍属の頃よりも、前線に身を置いてる気がするナ…)
「うーす」
「…おつかれ様」
4号とハチが私達を迎える。
「ちッス! …4号さんとハチさんが出張るって事は、今回はキツそうッスね」
「調査は調査でも、強行偵察の類…カ?」
『それは私から説明しよう』
すっかり馴染みの声となったクマサンが、会話に割って入って来た。
『今回の君達の業務は…新種のシャケの調査だ』
「新種? …またクソデカいオカシラシャケとか言うヤツ?」
『いや、サイズで言うとオオモノ級のシャケだよ。ただ発見された場所に問題があってね…』
「…問題?」
『シェケナダムだ』
「ご近所じゃねーか!? …でも俺、バイト中に見た覚えは無いぜ?」
『あぁ。まだ頻繁に現れるわけではない。だから今の内に調査して欲しいのだよ』
「滅多に現れないのなら、調査が空振りに終わる可能性が高いのでハ?」
『その可能性はあるね…だけど……』
クマサンの発言を、緊急連絡のアラームが遮る。
『…私だ。…そうか。今、救援を向かわせる』
緊急連絡を終了すると、クマサンは再び我々に語り掛けた。
『諸君。新人バイトがシェケナダムにて、未確認のシャケに襲われていると連絡が入って来た』
「!?」
『自体は一刻を争う。対象が逃亡する前に補足、調査して欲しい』
「…『バイト仲間の救援の為に』急ぎたいのは山々だけど、小型艇の速度じゃ限度があるわよ?」
『いや、今回もヘリを用意する。それで急行してくれたまえ』
「おぉ!この前の空飛ぶデッカいのにまた乗れるッスよ!4号さん!」
「おーおー…急ぎ仕事とは言え、お高くつくだろうに」
『そうだね。ヘリボーンの有効性は承知しているが、輸送コストも相応に掛かる。コスト以上に価値のあるデータを…期待しているよ』
私達は急ぎヘリに乗り込み、席に着く。
『君達には特別に追加装備を支給してある。是非活用してくれたまえ』
ヘリのコンテナには、ヘルメットとボディアーマーが人数分用意されていた。
「へぇ、作業着の上に着こめるのか、いいじゃん」
「ヘルメットいいッスねぇ!カッケぇ!」
と、興味津々のインクリング組に対し、私とハチは顔を見合わせて小声で話す。
「…ねぇゴロー、コレってもしかして……」
「あァ。オクタリアン軍のオクトリングタイプ・タコトルーパー用の装備…だろうナ」
かつて、毎日身に纏っていた私が間違えるハズもない。
オクタリアン軍はシャケと取引をしているとは聞いていたが…どうやらクマサン商会とも何らかの取引をしている様だ。
ただ、装備にあるオクタリアン軍のシリアルナンバーを念入りに削り取り、クマサン商会のパッチで覆って隠蔽してあるのが気になる。
もしかしたら…軍も把握していない、横流し品かもしれない。
どちらにせよ、慣れ親しんだ上に信頼性の高い装備を使えるのは…私にとっては有難い限りである。
「ゴロー早いな!もう着こんだのかよ?」
「こいつには慣れているのでナ。…バイトリーダー、パウチが外れそうだゾ」
「マジか。…コレでいいか?」
「あぁ、大丈夫ダ」
そんなやり取りを見ながら、ハチが嘆く。
「…こんな装備を渡されるって事は、今回もやっぱり厳しい調査って事よね……はぁ…」
シェケナダムへと飛ぶヘリの中で、私はふと『あの曲』を口ずさむ。
久しぶりにタコトルーパー用のボディアーマーを身に纏ったからだろうか。
無意識に…口ずさんでいた。
「お、カッコいいじゃんその曲。どこのバンドのヤツ?」
「いや…これはオクタリアン軍の音楽ダ。強いて言えば…タコワサ将軍になるのカ」
「…あれ? 前に『地下』って音楽が無いって言ってなかったっけ?」
私も、以前はそう思い込んでいた。
音楽の無い地下から、音楽の溢れる地上へ…そう願い、逃げて来たのだ。
「軍に所属していた頃は、これが音楽だと認識していなかったのダ。戦意向上の為の喊声の様なモノだと思っていタ」
「いや、普通に音楽だと思うぜ?」
「私も、今となればそう思ウ。…一度離れて視点を変えないと、見えないモノもあるのだナ」
「ふーん? よく分かんねーや。お、そろそろシェケナダムが見えて来たぜ!」
「よーし!ゴローとサキは新人の保護。逃げる時間を稼げ! その後、俺達と合流だ」
「了解しタ」
「うッス!」
「俺とハチで新種を釘付けにする。行くぞ!」
「…スーパージャンプ用意! …ドライ! ツヴァイ! アインス! ……ヌル!!」
私達はインクの弾丸となり、空を往く。
シェケナダムに降り立ち、要救助者を発見した。
「おーい! 助けに来たぞ! こっちだ!」
「急いで小型艇に戻レ。後は我々が請け負ウ」
シャケの群れに囲まれていた新人バイト達を発見、サキと二人で突破口を確保する。
「た…助かった……!」
「逃げるぞ!」
新人バイトを保護し、小型艇が出立するのを見届けた。
「よし。急ぎバイトリーダーに合流すル」
「おぅよ!」
4号とハチの元に向かう途中…大きな影が横切った。
「…おい! ゴロー、上見ろ! 何か飛んで来たぞ!」
柱状の物体が、小型のシャケ達に空輸されていた。
私達の頭上で静止すると、鉄柱の最下部が開き、ドリルが展開する。
あれで地面を掘削して、鉄柱を固定するつもりらしい。
鉄柱は、シェケナダムにゆっくりと根を下ろす。
♪ミーミミッミッミッミッミッ
屹立した鉄柱の頂点を中心に、小型のシャケが高速旋回しながら歌っている。
その様子を眺めている最中、4号とハチから無線が入った。
『ゴロー! サキ! そっちは任せる! もし新型が居たら、一通り観察してから仕留めろ!』
『…無理はしないでね』
『了解しタ』
「…あー、そういや調査だったなぁ」
柱状のオオモノシャケは、高速旋回するシャケが周囲にインクを撒き散らしている。
近付いて観察するのは困難であり、少し距離を取って観察を行う。
♪ミーミミッミッミッミッミッ
戦場に響く歌声は、シャケ達を鼓舞しているのかもしれない。
それが原因かは分からないが、周囲にいるシャケやコジャケの動きが…鋭くなっている気がするのだ。
(シャケもオクタリアン軍の様に、音楽で戦意向上を図るのか…)
いつもならば余裕でかわせるシャケのフライパンを、紙一重で回避。
反転してシャケを仕留めると、再び観察を続けた。
新型を倒すだけなら、おそらくはあの小さなシャケを全て倒せばいいと思われる。
しかし、短射程ブキで近付くのは…困難である。
「ゴロー! 左!」
サキの声に反応し、左から迫るシャケを撃ち抜く。
「…ン?」
鉄柱には、私の撃ったインク痕が付いていた。
咄嗟にトリガーを引いたので、初弾のエイムがブレたが…それが着弾していた様だ。
「ふム。どうやらこの鉄柱、塗れる様だナ」
素材の質からして、インクは塗れないと思い込んでいた。
インクを塗れるなら…側面を塗って、鉄柱の頂上に登れるかもしれない。
(頂上から周囲を撃てば、射程距離の短いブキでモ…)
ただ、射程距離の短いブキでは、鉄柱の側面を全て塗り切れない。
長射程ブキならば、鉄柱を塗らずとも直接小さなシャケを狙えそうではある。
その代わり…射撃レートの関係上、小さなシャケを倒し切るのに時間が掛かるだろう。
つまり、長射程と短射程の連携が最適解。
次善に、スピナー系等の射撃レートの高い長射程ブキの使用。
他には…ブラスター系の爆風を使うと言う手もありそうだ。
ただ、ブキ選択はランダムなので、確実性に欠ける。
(今回は連携の方を試してみるカ…)
とりあえず観察終了と判断し、討伐を試みる。
「サキ、スプラチャージャーで鉄柱の側面の頂点部を狙えるカ?」
「楽勝! …でも何するんだ?」
「コイツを倒ス。その為の道を作ってくレ」
「りょーかい!」
ピッ!…バシュッ!
鉄柱の側面に、インクの道が出来た。
周囲に撒き散らされたインクを塗り返しながら接近し、一気に駆け上る。
「これで…一掃ダ!」
ドバパパパパパ…
鉄柱の頂上でわかばシューターを構え、撃つ。
小さなシャケが勝手に射線上に飛び込み、順番に倒れて行く。
全て倒し切った瞬間に、鉄柱の頂上に金イクラが現れた。
「これは…悩ましいナ」
金イクラの輸送の手間を考えると、頭を抱えざるを得ない。
降りて、登って…と三往復必要である。
しかし、この鉄柱に登ってみて…ここを制するメリットも発見出来た。
「サキ、ここまで登って来イ」
「面白そうだな! 今行く!」
サキが頂上に着くと、感嘆の声を上げた。
「おおおー! いい眺めじゃーん!」
「チャージャーがこの鉄柱を押さえたら…どうなると思ウ?」
「…狙いたい放題撃ち放題、だな!」
高台を制する。
長距離ブキの基本にして王道。
これなら高台が少ない狩場でも、長距離ブキが活きる。
「む…タワーが沸いたナ。処理して来るから、ここで周囲警戒を頼ム」
「おう! くたばるんじゃねーぞ、海岸まで助けに行くの、大変なんだぜ?」
「善処しよウ」
鉄柱から飛び降り、海岸へと向かう。
現れたばかりのタワーを処理し、戻ろうとした途端…足元にロックオンサークルが現れた。
「カタパッドか…厄介ナ」
「へ? …あっ!」
私はインクの海を泳ぎ、ミサイルを振り切る。
だが、狭い鉄柱の頂上に立って居たサキは…避け切れずにミサイルを食らってしまった。
「お~い、ゴロー…助けてくれー」
「…そこを動くな、サキ」
鉄柱から飛び降りようとする浮き輪を制止する。
「わかばじゃここまでインクが届かないじゃん…」
「あァ。だがその地の利は惜しイ。私はカタパッドを処理するまで戻らないから、そこで籠ってくれ」
いつ別の新型が現れるか分からない。
視界は常に、遠く広く確保しておきたいのだ。
「でも蘇生が…」
「安心しロ…こうするんダ」
スプラッシュボムを取り出し、身構えた。
集中すると、投擲軌道が見えて来る…気がする。
サキのチャージャー特訓以来、私も密かに特訓を行っていた。
スプラッシュボムの投擲技術を磨いていたのだ。
バイトでどのブキを渡されようが、腐らずに必ず活かせる技術。
火力と効果範囲で道を切り開くコイツは、実に頼りになる。
「こんな狭いトコに置くなんてムリだって!」
「まぁ見てロ」
スプラッシュボムを鉄柱の頂上に向けて、投擲する。
予め下方向にやや弱い回転を掛けてあるので、空気抵抗による回転は、ほぼゼロとなる。
重い三角錐の底辺部分が…頂上にピタリと吸い付く。
そして…インクが爆ぜた。
「…マジかよ。」
「後は頼む。いざとなったら、そこでハイパープレッサーを切ってくレ」
「おう!任せろ!」
カタパットを処理し、鉄柱に戻ると4号とハチも合流していた。
「何だよサキ!面白いトコに乗ってるじゃねーか!」
「…絶好の狙撃ポイントね」
「お二人共、大丈夫だったッスか!」
「あぁ、向こうにもこの柱のシャケが居たが…下から全部撃ち落とした」
「…成程、こういう方法もあるのね」
「おう、ゴローもお疲れ」
「バイトリーダー、そちらはどうだっタ?」
「新型はこの柱だけだったな。厄介ではあったが、苦戦はしてねぇよ」
「あ! お迎えが来たッスよ!」
バラバラバラバラバラ…
「よーし、引き上げるぞ! お疲れさん!」
帰路にて、今回の目的が新種の調査である事を思い出した。
「帰る間にレポートを書いておかねばナ。何か気付いた事があれば言ってくレ」
「バラ撒くインクの量がシャレになんねーな。出来れば早めに仕留めたいぜ」
「…空輸してる最中に飛んでるシャケを全部撃ち落としたら、柱が壊れた」
「あの歌が耳に残るッス…」
私自身が気付いた事と合わせて、箇条書きにする。
「…全く、バイトマニュアルがまた分厚くなるわね」
「あー…俺、マニュアル読んだ事ねーや」
「俺もッス…ノリと勢いで…」
「バイトマニュアルは先人の流したインクで書かれているのダ。読んでおケ」
一通り書き終わり、ペンを置く。
外の景色を眺めていると…私は、また無意識に曲を口ずさんでいた。
ただ、口ずさんだのは『あの曲』ではない。
私に理不尽と無慈悲と充実感、そして労働に到底釣り合わない給金を提供してくれる会社の…社歌であった。
『しかし…シェケナダムにも新型を投入してくるとは、ね』
…計画を変更せざるを得ない。
本来なら、ハイカラ地方の業務を部下に任せ、自分はバンカラ地方の支店運営に専念する予定であった。
悲願成就の為には、オルタナに近いバンカラ地方の足場固めは必要不可欠だ。
会社運営も金イクラ回収も、現地でじっくり腰を据えて対応するつもりだったのだが…
シェケナダムにまで新型を投入してくるとなると、そうもいかないだろう。
新型が、ハイカラ地方の他の漁場に現れないと言う保証は…無いのだ。
そうなると、ハイカラ・バンカラ両地方広域に目を光らせる必要がある。
問題はそれだけではない。
現場で実際に新型と対峙するのは、バイトである。
『従来のバイトの質で漁場を守り、稼ぎを出せるかどうか…』
シャケの脅威は何も新型のみではない。
通常のシャケ・コジャケ共に凶暴化しているという報告もある。
更に、オカシラシャケがシェケナダムに配備されたとしても、別段おかしな話では無い。
広域に対して迅速に、強化したシャケ達を相手取れるバイトを派遣しなければならなくなったのだ。
『4号君達のお陰で有効性が立証出来たヘリボーン、あとはボディアーマーやイクラキャノンも…標準装備にするしかない、か』
頭の中で算盤を弾くが、どうにも手厳しい。
イクラキャノンは構造を簡略化し、生産コストを見直しはしたが…標準装備となると配備数が膨大になる。
ボディアーマーは…オクタリアン軍の横流し品では、とてもではないが数が追い付かない。
少々の防御性能低下に目をつぶり、代用品を大量発注するしかないだろう。
…ヘリに至っては、数が全く足りていない。
イカ・モノ・カネ・情報…無い無い尽くしである。
『だが…金イクラの安定確保の為ならば、背に腹は変えられぬ……か。全く、困ったモノだよ…』
今後のバイトは、今迄よりも一層困難な業務になるだろう。
そして、我等クマサン商会の経営もまた…厳しいものとなる。
…それでも
『これも…世界と私……ついでに【新しい】君達の為だ。キリキリ働いてくれたまえ、バイト諸君』