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あるシャケが、新しいオオモノシャケ用の兵装を開発するお話です。
「もしかしてモンスター物語とか好きですか?」「大好物です!」
薄暗い部屋。
年老いたシャケ達が、何やら話し合っている。
「『略奪者』共…好き放題しよってからに!」
「我らの金イクラを片っ端から略奪しておる…全く忌々しい限りじゃ!」
どうやら『略奪者』とは、クマサン商会のバイト達の事らしい。
「我らの縄張りに、厚かましくも大砲まで据え付けておると聞く」
「ドスコイを一撃で食卓送りにするアレか」
「どうにも厄介じゃのう…」
「ふむ…その大砲とやらを破壊する事は出来ぬのか?」
「非戦闘時は地面に格納されておる。手出しが出来んわい」
唸り、考え込む一同。
「こちらも大砲で対抗…というわけにはいかんのかのう?」
「前衛を支援する火力支援兵装はあるが…大砲は無いな」
「火力支援兵装を並べて、奴等の大砲を黙らせられぬものか…」
「我らの火力支援兵装は優秀なんじゃが、数を揃えるのは難しいわい」
勇ましきシャケの歩兵部隊を支援する、オオモノ級火力支援兵装…
長射程固定砲台『タワー』と、機動火力支援機『カタパッド』である。
性能は折り紙付きで、幾多の『略奪者』達を浮き輪に変えている。
しかし…
『タワー』は繰り手の育成に特殊な訓練が必要な為、数が揃えられない。
『カタパッド』に至っては、更に厳しい。
ペイロードの都合でコジャケしか搭乗出来ないので、操り手が限られる。
そのコジャケの中でも、操縦技術を体得出来るのはほんの一握りだ。
問題は操り手の数だけではない。
『カタパッド』兵装は高コストで、そうそう数を用意出来ないのだ。
どちらの火力支援兵装も、手軽に運用するには難がある。
「…一度、各工房に話を持ち掛けてみるか」
「うむ。何ぞ良い考えが出て来るやもしれん」
「若い連中に期待するか…本日の会合は、これまでとする」
年老いたシャケ…各部族の代表者達は、薄暗い部屋を後にした。
「数を揃えられて、手軽に運用出来る『大砲』…ね」
作業台をコツコツと叩きながら、呟くシャケが居た。
彼は、オオモノ級兵装の製作を行う工房の責任者…『工房長』である。
「ウチで造れたら…工房の名声は不動の物になるかもな」
オオモノ級兵装を扱う工房は幾つかあるのだが、彼の工房は最近まで無名であった。
先々代の工房長、つまり彼の祖父が『バクダン』兵装を造り上げるまでは。
『バクダン』…歩兵部隊を従える、攻防の要である。
頑強な鱗はインク攻撃を受け付けず、味方のシャケを守る盾となる。
爆発性の液体を蓄えたボムバルーンは、着弾地点周囲を更地に変える。
今や歩兵部隊の代表的な兵装であり、主力である。
先々代は『バクダン』を造り上げた事で、この工房の名をシャケ達に知らしめた。
歴史を重んじるシャケ達ですら、名も無き工房の若い技術者を認めざるを得なかった。
祖父は、工房界隈の有名鮭となった。
しかし、『バクダン』も繰り手を選ぶ。
インクを弾く強固な鱗を纏い、工房謹製の装備一式の重量に耐える様な、恵まれた体躯が必要だからだ。
この操り手不足の問題を解決したのは、先代である。
先代は、体躯に恵まれたシャケの氏族と交渉を行った。
氏族に『バクダン』兵装の繰り手として専属契約を行い、操り手の安定補充を可能にしたのだ。
現在、『バクダン』がどの部隊にも配備されているのは、先々代と先代の功績である。
そんな二人から工房を引き継いで工房長に就任した当代は、いまだ実績ゼロだ。
「私も何か『結果』を残さないと、先鮭に申し訳ないとは思うんだがなあ…」
族長達から話を聞き、『大砲』について色々考えてはみた。
だが…長距離を飛翔して破壊力もある大砲となると、この工房には設計ノウハウが無い。
使えそうな技術は爆発物の技術位だ。
確かに『バクダン』兵装のボムバルーンは爆発物ではあるのだが…
内部に蓄積された爆発性の液体と、繰り手の唾液を混合させて爆発させる仕組みである。
砲弾に搭載しても、射出後の起爆は難しいだろう。
…考えれば考える程『手軽に運用出来る低コストな大砲』とはかけ離れて行く。
「…現場を見れば、何か思い浮かぶかもしれんな」
彼は、工房へと向かった。
カァアーン…カァアーン…
ギュイイィィィイン!!
工房では、技師達が兵装造りに精を出していた。
現在の生産ラインは、ほぼ『バクダン』兵装のみである。
兵装が重い為、技師にはサポートとして『バクダン』繰り手の氏族が出向していた。
「おーい、ヨワムシ! そこの鍋を持ち上げてくれ!」
「…リョウカイ」
重い鍋は、『ヨワムシ』と呼ばれた巨漢によって軽々と持ち上げられる。
技師が透かさず鍋の下部に潜り込み、連結部分のチェックを行う。
シャケは種族全体の傾向として、獰猛で好戦的だ。
それでも、例外と言うモノは存在する。
『ヨワムシ』…恵まれた体躯を持ちながら、臆病で非戦闘的なシャケ達もその例外の一つである。
以前は氏族から爪弾きにされ、日陰の存在であった。
そんな連中を、専属契約の一環として工房で引き取っている。
他にも、戦場に赴くには若い者、負傷や体力の限界で操り手を引退した者。
そういった鮭材を採用し、工房と氏族は相互に恩恵を得ているのだ。
「素材は無駄なく美味しく、か」
『ヨワムシ』達の膂力は、工房には欠かせない。
改めて、先代の手腕に感心する。
工房長は、協力しながら作業を行う彼らを見て、満足気であった。
「次は外装部だ!重いから気を付けろよ!」
「…リョウカ……ハ…ハ……」
「…は?」
「…ハックション!」
工房に大きなクシャミの音が響き渡る。
そして、ヨワムシが持ち上げていた重い『バクダン』兵装外装部が…落下した。
よりにもよって、作業を見守っていた工房長の真横に…である。
ズシィィン!!…グワアアァァン……
床に叩き付けられた外装部が、凄まじい衝撃を発生させる。
工房長の下半身の自由は奪われ、痺れて立って居られなくなった。
「工房長! 無事ですかい!? 何やってんだヨワムシ!」
「コウボウチョウ…スマナイ…オデ……」
「一応無事だが…今後は気を付けてくれ。直撃したら『つみれ』だったぞ」
直撃は避けられ、無事ではあったが…まだ痺れが抜けない。
(外装の一部が床に落ちただけで、これだけの衝撃が起きるのか…)
『バクダン』兵装は、硬くて丈夫だ。
操り手の頭部や脊髄を保護し、ボムバルーン起爆用の唾液の腐食に耐えなければならない。
そうして硬くて丈夫な外装を突き詰めた結果…重くなってしまった。
兵装の一部である外装部のサイズの金属塊が、『バクダン』辺りの高さから落ちてこの衝撃なのだ。
(もしも…もっと高い上空から、もっと質量のある金属塊を叩き付けたら……)
強い衝撃に『略奪者』共の足は取られ、機動力を失うのではないか。
そこに『バクダン』のボムバルーンを投げ込めば…
(これは…試してみる価値がありそうだな!)
「おい!手の空いている技師はいるか!急ぎ会議室まで来い!」
「へぇ…何をするんで?」
「新兵器を思い付いた。設計を詰めるぞ!」
後始末を行っていた『ヨワムシ』が、不思議そうな顔で見つめていた。
会議室に数名の技師を集めると、工房長は新兵器のコンセプトを説明し始めた。
「我が工房謹製の『バクダン』兵装の外装部分、コイツで金属球を造る」
「それを上空に射出し、地面に叩き付ける事で衝撃波を起こす」
「衝撃波に足を取られて動けなくなった『略奪者』共は取るに足らん…一網打尽だ」
「…以上、コレが新兵器の概要だ。問題点があれば遠慮なく言ってくれ」
技師達は少し考え込み、その内の一匹が挙手する。
「工房長、そんな重いモンを射出する装置が思い付きませんぜ?」
「うむ…最悪他の工房を頼るしかないな。癪ではあるが」
本当は全て我が工房で揃えたいが…打倒『略奪者』は全てに優先される。
「…取り敢えず現時点での問題点はその位か。一度試作して検証してみよう。」
まずは試作して運用実験を行えば、問題点と改善策も見えて来るだろう。
(金属球を撃ち出せる砲を造れる様な工房…あったか?)
工房長が自分の記憶を辿っていると…
「コウボウチョウ、タマヲウチダセレバイイノカ?」
「あぁ、そうだが…何か思い当たるモノがあるのか?」
末席で縮こまっていた『ヨワムシ』に目をやる。
「オデタチガ、ハナビヲウチアゲルタメノキカイガ…アル」
「花火の射出機、か」
「ハナビノオモサナラ、ソラノカナタマデトンデイク。オモイタマデモ…ソレナリニトブカモ」
「ふむ…試してみるか。その射出機のサイズに合わせて金属球を数発分造ってくれ」
「分かりやした!」
「ヨワムシ、花火の射出機と…そうだな、金属球を運ぶカーゴも用意しろ」
「リョウカイ」
「フフフ…久々に面白くなって来たぞ!実験が楽しみだ!」
数日後、『バクダン』兵装を鋳潰して、六個の金属球が完成した。
金属球と射出機をカーゴに積載し、実験場まで移動する。
「ヨワムシ、砲弾と射出機の重量はどうだ?行軍速度に着いて行けそうか?」
「…スコシ、オモイ。イッショニアルクノハ、ムズカシイ」
「そうか。まぁ火力支援用だし、個鮭で持ち運べるだけマシだな」
実験場に到着すると、技師達が『略奪者』に見立てたターゲットを設置し始めた。
「ヨワムシ、撃ってみろ。直撃させる必要は無い、狙いは大雑把でいいぞ」
「…リョウカイ」
ドォン! …ひゅるるるる……ガキィィン!
射出された金属球は放物線を描いて、ターゲット傍に落下した。
目論見通り、衝撃波がターゲットを襲う。
「これで『略奪者』共の動きを…うん?」
そこで、想定外の出来事が発生する。
当初の予定では、強烈な衝撃で『略奪者』の動きを封じる算段であった。
しかし、『略奪者』に見立てたターゲットは…衝撃波により半壊してしまったのだ。
「これは…予想以上に攻撃的な支援が出来るかもしれんな」
その後も、何度か射出実験を行う。
流用品の花火射出機は、問題無く金属球を撃ち出した。
射出する際の仰角を調整すると、金属球が二回バウンドする事も発見出来た。
無論、衝撃波も二回発生して、時間差でターゲットにダメージを与える。
複数立てたターゲットの中には、二回の衝撃波で全壊する物もあった。
「ふむ…コレは思いの外使えるぞ!」
実験は、当初の予定を上回る大成功であった。
一同は工房に戻り、会議室へと雪崩れ込んだ。
「工房長! コレはイケるんじゃないですかい!?」
「あぁ! 我が工房の新しい看板になりそうだ!」
技師達と共に興奮する工房長。
「コストも格安、射手も特別な訓練は要らないな!」
自分の発言に対し、考え込む。
(射手…射手か。……そうだ!)
「…ヨワムシ。お前、コレの射手にならないか?」
「オデ…?」
「あぁ。撃つのに特別な技術は要らないし、『バクダン』兵装の様に先頭を切って戦う必要もない」
「ソレハ…ソウダケド」
「こいつの移動や設置には力が必要なんだよ。それに…氏族の連中を見返せるかもしれんぞ」
「ミカエ…ス?」
「あぁ。火力支援とは言え、前線の戦闘部隊には変わりないからな」
「オデ…ヤル! コイツデリャクダツシャ…タオス!」
「よし、良く言った!」
現在は工房勤めという役割が出来たが、それでも戦闘に参加しない臆病なシャケへの風当たりは強い。
恵まれた体躯で戦場に赴く氏族であれば、猶更の事だ。
だが、兵科はどうであれ前線に赴くのだ、氏族からの陰口も減るだろう。
もしかしたらこの新兵器は、臆病なシャケ達が自発的に戦闘部隊入りを志望する切っ掛けになるかもしれない。
有り合わせの流用品を使用するので、低コストで済む。
射手の育成に特殊な訓練が必要無いので、操り手が足りないと言う事も無い。
数を揃えられて、手軽に運用出来る『大砲』…一丁上がり、である。
「工房長、コイツを兵装と呼んでいいのか怪しいですけど…何て名前にしやす?」
「そうだな…金属球を撃ち出すんだ、『テッキュウ』でいいだろ」
「テッキュウ…?」
「あぁ。ヨワムシ、お前は今日から『テッキュウ』兵装の操り手だ」
「オデガ…ヘイソウノ…クリテ!」
(どうやら私も、『結果』を残せそうだな。族長達の反応が…楽しみだ)
後にバイト達を大いに苦しめ、怨敵として名を轟かせる『テッキュウ』の誕生であった。