長い階段を降る1人の影
白銀色のふわりとしたショートボブ
白い生地のロングドレスに青のマントを羽織った王の娘
『イディナ・ローク・アルトラン』は
王宮の地下にある修練場へと足を運ぶと
先客の金髪ツインテールの少女が黒く輝くレイピアを華麗に振り回していた
「ティオルーク、不服そうね」
金髪少女はレイピアを下げた瞬間
瞬きの間にイディナの後ろに移動した
「ドラゴン退治に行くんでしょ?」
イディナは深くため息を吐き首を横に振る
「どこで情報が漏れたのやら...龍は5年前に沢山倒して満足したでしょう」
「
「
「直ぐに帰ってくるから!大丈夫だって!」
「過去に王都が魔人に侵略され大陸の中心部が魔国と化した...もしもがあってはダメなの」
「じゃ
「戦うポーズだけ見せて
「デカい龍を飛び去るまで放っておくわけ?」
「
「性格悪いなぁ〜、みんな仲良くやればいいのに」
「
「そんな事してる暇ないよねぇ」
「魔国を取り返せれば全て解決、失敗すれば国は滅びる、リスクより安全な目先の利益を取りたいって事」
「魔国かぁ...」
子供がおもちゃを欲しがるような顔のティオルークにイディナは目頭を押さえた
「まさか行きたいなんて思ってないでしょうね?」
「でもいつかは取り返さないとダメでしょ?」
ティオルークは手をひらひらとわざとらしく上げその場から姿を消した
『失ってからじゃないと人は成長しない生き物です』
糸目の顔が頭をよぎる
「この国は何を失うのかしら...」
__
メルとセラフィはいつもの酒場で夜食を摂っていた
「金髪の女騎士がドラゴンの群れをほとんど1人で狩ってしまって討伐に参加した冒険者は参加報酬の金貨をタダ同然で貰ったってわけ」
セラフィはサラダをフォークでつつきながらメルに過去のSSランク討伐依頼の話を聞かせる
「セラフィは行かなかったの?」
「その時の私はまだDランクの新米だったからね、行った冒険者達がずっと自慢してたから羨ましかったなぁ」
メルは味付けの濃い肉を頬張りながら
ぶどうジュースで流し込む
「今回も英雄さんが来て楽勝だったらつまんないね」
「騒いでたほとんどの冒険者はまた英雄騎士のお溢れ狙いだと思うよ、私も楽したいし」
「えぇー!?ここで頑張ったらSランクに昇格するかもじゃん!!」
「まぁ...様子を見て私達でも大丈夫そうならね?」
「余裕!余裕!場所はここからどれくらい?」
「草原を超えたハルリーニ湖って場所だから馬車で1日くらいかな?」
__
翌朝
800名を超える冒険者達は街の広場に集まり
今回の黒龍討伐作戦を指揮する騎士団の部隊長
バックス・オーランが高台に登り注目を集めていた
プラチナメイルの隙間から見える
褐色の肌に筋骨隆々とした逞しい巨漢は
広場全体にもよく通る声で告げる
「今回の
【ティオルーク・レイ・フィスタは参加しない】
広場がざわつくがバックスは表情を変えず言葉を続けた
「今回はSSランク以上の戦いになるやもしれん、自分の命も惜しく無いという気骨のある冒険者だけ参加して欲しい」
静まり返る広場にバックスは最後に報酬を語る
「討伐に貢献した冒険者は金貨70枚が報酬に追加され、黒龍に致命傷を与えた者には金貨500枚が譲渡される」
...
....
.....
日が高く昇った頃、団体移動を開始するべく
国から手配されたハルリーニ湖行きへの送迎馬車に次々と冒険者達が乗り込んでいく
バックスは横にズラりと並ぶ馬車を険しい目で眺めていた
「冒険者120人と言ったところか」
「はい、そこに騎士団20名が加わります」
武勲を挙げようと自由意思で討伐に参加した騎士団員達も馬車に乗り込んでいた
「あの、1つ宜しいですか?」
「なんだ?」
「スキュア隊長やマリオン隊長は何故参加されなかったのでしょうか?」
「他国から来た盗賊団の処理だ、騎士団は国民を守るのが優先、冒険者の様に魔物だけと戦う訳にはいかん」
「それにしても騎士団の参加人数は少ないですが...」
「こういう大物を狩るのが好きな奴は騎士団では無く冒険者をやっているだろう」
「確かに...言われてみればそうです」
「お前も気を抜くなよ勘だが嫌な予感がする」
「了解です隊長」
__
メルとセラフィは女冒険者しか乗っていない馬車を見つけ乗り込んだ
「ちっこい亜人だなぁ!飼い主よぉ、連れて行って大丈夫なのか?」
女とはいえない肩幅と身長に
厳つい顔立ちの女冒険者は陽気に笑う
「メルはAランクの実力はあるので大丈夫ですよ、ね?メル」
「ど、どうも...」
馬車内の異様な張り詰めた雰囲気にメルは呑まれていた
セラフィの様に線が細く華のある女冒険者は居らず
歴戦の戦士を思わせるような年配のベテラン女冒険者しか居ない為セラフィも若干緊張しているようだった
「飼い主、引き返すなら今のうちだぜ?ここにいる女共は全員死地に行くつもりだ」
「私達もSランク冒険者を目指してます、ここで退いたら次のチャンスがいつ来るか分かりませんので」
「Sランク冒険者ねぇ...そこいる女がSランクだから顔くらい合わせとけ」
馬車の隅に座っている女性
黄緑の髪を目元まで隠したおかっぱだが
体は鍛えておらず
お世辞にもSランク冒険者には見えない彼女にセラフィは違和感を感じる
(この人は魔法職なのかな?)
「初めまして私達Aランク冒険者で私はセラフィ、こっちの亜人の子がメルと言います」
「.........」
黙っている女冒険者を見て
メルはセラフィに耳打ちをする
「どうみてもこの人、陰キャだよ」
「いんきゃ?」
「人と話すのが得意じゃない人、こういう人は意外と寂しがりなんだよなぁ」
メルは緑のおかっぱ冒険者にニパッと微笑んだ
「よろしくー!冒険者同士よかったら仲良くしてね♪」
「!」
フンスッと言い切ったメルにおかっぱは初めて反応した
「カワイイ...」
「ん?何か言った?」
「ネコノアジンザッショクセイデコウブツハマタタビコドモニミエルガセイジンノネンレイハハヤカッタハズネコゾクハケイカイシンガツヨクテボウケンシャノパートナートシテツレテイクヒトハスクナイケドコノコハヒトナレシテイル ハァモフモフシタイイイカナ イイナァアジンワタシモホシインダケドドウブツカラキラワレルタイシツナンダヨネ」
ぶつぶつ言い始めたSランク冒険者にセラフィはメルに耳打ちを返す
「この人ちょっと怖くない?一応離れて座ろうか」
「大丈夫、大丈夫、僕の友達にもこういう人いたから」
「本当に?私初めて見たよ...」
「そうやって初めて見たものを嫌ったらダメ、大丈夫だから見てて?」
メルはおかっぱで隠れた目元を見てSランク冒険者にゆっくり近づき握手を求めた
「先輩!お互い助け合おーね♪」
愛嬌のあるいつもより高い声を出すメルに
セラフィは若干呆れて見守る
「アコとよんで...」
「アコだね、分かった!...フニャッ!?」
握手では無く急に抱きしめられたメルは狼狽えるがアコの腕の力は強く抜ける気配が無い
「ちょ!?ちょっとやめてください!!」
セラフィがアコの腕を外そうとすると
耳元でささやかれる
「この子頂戴...お金ならいくらでも出す...」
「ハァ!?無理ですよ!!」
「こんなに人馴れした子めったに居ない...」
「メル!離れ...てっ何リラックスしてるのぉ!!」
メルは脱力しアコに体を預けていた
「スンスン...違うメスの匂いもたまには悪くない...」
メルはアコの太ももに顔を埋めてTS転生者としての使命を全うしているがセラフィは知る由もない
「はぁ...まぁいいですけど、ちゃんと返してくださいね」
「耳...モフモフ...良い匂い...」
「亜人たるもの、毛感触と臭いには気を使ってるよぉ」
アコはメルの耳をモミモミし
メルも膝の上で丸くなっていた
セラフィは寂しくなった膝の上を眺める
(たらしネコ...)
__
1日を費やしハルリーニ湖に到着した一行は
バックスの周りで作戦会議を行った
「各々自分の持ち味を活かして戦え」
バックスの隣にいた騎士が作戦を告げる
「タンクを前衛に中衛は遊撃を、後衛は回復やサポートに回ってください」
数日そこらで集まった複数の冒険者達が連携をとれるわけもなく
あくまで意識付けとして基礎の確認を行う
「全員武器は持ったな?では行くぞ」
見上げる程高い木に囲まれた深い森に
足を進める冒険者達
この先に美しく広がる湖があるのだが
「瘴気が伝染して葉や木が黒く変色している」
森の奥に進むにつれて霧が濃くなっていき
周りの景色はいつの間にか緑から黒一辺倒になっていた
森の中に入ってから30分
到着した黒く濁った湖の中で20mの黒龍が身体を水面から出していた
「魔法をありったけ打ちこめぇぇぇ!!」
開戦の合図に無数の魔法が黒龍に降り注ぐと水の柱が何本も噴き上がり霧が更に広がった
「やったか!?」
「僕そのセリフで仕留めた事がある作品を見たことがないよ」
メルの声に反応するように
陸地に黒龍が降り立った
グルガアァァァァァァァァァォ!!
湖に幾つもの小波が出来るほどの咆哮に魔力が宿る
【
【
黒い瘴気が辺り一帯を包み込み冒険者達の動揺が広がる
「あまり黒い霧を吸い込むな...力が抜ける」
「クソッ...回復は!?」
【
回復担当の後衛23名が冒険者達に回復魔法をかけて回る
「ダメだ!回復した瞬間に霧を吸い込んで意味が無い!」
「撤退は...無理だな」
既に黒龍に気圧され逃げ出そうとした冒険者7人が怒号をあげながらも見えない壁が阻害し湖から出られないでいた
「狼狽えるな!短期決戦で行くぞ」
バックスが1人で黒龍の前に出ると
両腕の拳に魔力を込める
【
2つの拳が一点集中で龍の腹に食い込むと勢いそのまま上空へと吹き飛んだ
「黒龍が落ちてきた所を一斉に狙え!!」
「おぉぉぉぉぉぉ!!」
体制を立て直した冒険者達は地上で待ち構えるが
黒龍は羽を広げ落ちてくる事はない
グルゥゥゥゥゥ...
「ブレスだ!!ここから離れろッ!!」
黒龍の歯茎から青黒く光る瘴気が漏れた所で轟音が鳴り響き空から雷が黒龍を襲った
【
ドッフゥゥゥゥ...
ガァァァァァァ!!
黒龍が地面に墜落した瞬間
青い高熱ブレスが広範囲に放たれるが
【
ブレスの3分の1の範囲をセラフィが魔法で相殺させ冒険者達も素早く斬りかかった
ガキィィィッ
ガチガチガチガチッ
厚く硬い黒鱗は剣では傷一つ付かない
「鱗に斬撃はダメだ!!目玉か鱗が無い場所を斬り付けろ!!」
冒険者達も臨機応変に立ち回るが
【
【
土が高く盛り上がると黒龍と同じ大きさのゴーレムが出現し黒龍の激しく動く頭を掴み抑える
「タイタン...そのまま...」
「アコ!!ナイスだぁ!!いっちょ喰らいなぁァァァァ!!」
ガタイの良い女冒険者は
大人1人と同じ大きさの鋼の大槌で黒龍の頭に一撃を与える
ゴンッ!!
グルゥゥゥゥゥ!!
流石に効いたのか黒龍は羽をバタつかせるが
【
叩きつけられたハンマーの上からバックスの強力な右拳の一打が追い討ちを掛けた
ドッ...
黒龍の頭部が地面に深くめり込み
頭は完全に砕け割れる
「また騎士団の奴がやっちまったぞ!!」
「いいじゃねぇか!!俺達も足止めはやったんだ金貨100枚だ!!」
騒ぎ立てる冒険者達だが
バックスは警戒を解かない
「何故、黒龍の瘴気と結界が消えない?」
黒龍の方を振り返ると腹部が破裂しそうな程膨張していた
「何だこれは...」
「嫌な感じ...タイタン...戻って...」
「おい、隊長!あたいの武器をよくも殴ってくれたねッ!!」
「メル...なにか来る...」
「あれ自爆じゃないよねッ!?爆発しないよね!?」
1人の変哲も無い冒険者が抜け出し
黒龍のサイズより一回り大きい魔法陣が即座に展開されるが
パキィッパキィッ
魔法陣にはヒビが入り不発に終わり
周囲も何をしていたか問う暇もなかった
ピキギギギッ
膨らんだ黒龍の腹に亀裂が入り
割れた腹部から1人の少女が立って姿を表した
顔は人間の少女だが角が生え肌には所々に赤い鱗に
手と足は完全に龍と同じ鋭い爪と鱗に覆われている
「竜人...」
アコの額から一筋の汗が流れた
「ラーメン食べたい」
『ラーメン食べたい』
龍の少女が発した言葉
周りで聞いていた者全員が理解できない
メル以外は
「は?ラーメン?」
アコも反応を示す
「聞いた事ない...古代語...?...」
セラフィはメルの方を向く
(メルと鈴木君が話していた時の言葉に似てる...)
竜人は1番近くに居た
「ぶりぶりのチャーシュー」
『ぶりぶりのチャーシュー』
「超級魔法を編み込んだレジェンドアイテムだぞ...」
突如冒険者の視界が暗転すると反対側の結界に衝突するまで吹き飛ばされた
すかさず竜人が両手を広げると
今度は赤いオーラが辺りを覆う
【
領域内の格下の生物の意識を刈り取り
バタバタと次々に倒れていく冒険者
「ぼ...僕は...」
「ニンニクマシマシ」
『ニンニクマシマシ』
【インスタントラーメンしか作った事ないけど...】
日本語で返答するメルに
竜人はメルを見つめ首を傾げる
「...」
シュバッ!!
メルは反射で反応し顔を避けると
鋭い爪が頬を掠め通り過ぎた
「危なっッ!?」
「ラーメン食べたい」
『ラーメン食べたい』
「この龍!ラーメンが食べたいらしいよッ!!」
「「「ラーメン?」」」
バックス、アコ、セラフィ、ガタイの良い女冒険者、他合わせて10人程しかこの場に立っている者はいない
「メルどういうこと!?」
「この龍がラーメンを食べたいって言ってるのッ!!」
「ラーメンって...というかメルはその子と話せるの!?」
メルは全力で湖の周りを走り回り
その後ろを龍人がふわふわと浮遊しついて回っている
「黒龍の様な殺意を感じないが無差別に力を振りかざす脅威なのは変わらない、ラーメンを食わせたら正気に戻るかもしれんが」
バックスは竜人が遥か高みの存在だと肌で感じとっていた
「あの竜人を足止めして誰かラーメンをここに持ってくる」
「...むり...全員死ぬ...」
「メルなら出来るかもしれません」
セラフィはバックスに詰め寄る
「どういう事だ女?」
「馬車で街まで1日かかりますがメルなら...」
__
「メルお願い、そういう事なの」
メルは険しい顔をしながらも
渋々と了解した
「一週間毛が逆立ってブサイクになる...」
「メルはいつでも可愛いでしょ?」
メルは真剣な目でセラフィに問いかけた
「僕が居なくて本当に大丈夫?あの龍の攻撃を受けたら本気で死ぬよ」
セラフィはメルを強く抱きしめる
「メルが直ぐにラーメンを持ってきてくれるって信じてる」
ポンポンと頭を撫でられたメルはコクリと頷き
森の中へと消えていった
メルはセラフィ達と距離が離れた事を確認し
ありったけの魔力を体内から放出すると
全身の毛が逆立ちメルの周囲が白く輝きだす
バチバチバチバチバチバチバチッ...ヒュッ
一筋の閃光が一瞬で森を駆け抜けた
__
「はいラーメン一丁!!」
屋台に並ぶ行列に鈴木は並んでおり
前の客が退席しようやく鈴木の番が回ってきた
「豚骨チャーシューメン、ニンニク増しで」
すぐに出来上がった熱々のラーメンを前に手を合わせた瞬間
「鈴木ー!!ごめんねぇ〜〜!!」
卓上のラーメンの器ごと消え鈴木は困惑する
「ちょっとお客さん、器は?」
「え...無い...です」
「困るよぉウチは器にもこだわってんだからさぁ」
器の弁償代と何故かラーメンも食べれずに立ち去る鈴木
(これも神託なのかッ...!?)