世はまさに大海賊時代。
ゴール・D・ロジャーの死と共に始まったこの時代は多くの者にとっては正に夢の時代。
だが、その輝かしい時代は同時に争いと血の時代でもある。
海賊と呼ばれる者すべてが発見や冒険に喜びを見出すわけではない。
賊と呼ばれるように略奪や無法にだけに歓びを見出す者達も多くいる。
そしてそれは、力を持たない人々にとっては耐え難い苦痛の日々が続く事を意味している。
世界の治安を守る海軍も全ての無辜の民を守れるほどの力は無く。
また守るべき民を傷つける矛盾の部分もその巨大な組織の陰で存在していた。
暴虐の時代、暗い日々に希望を見失い、先の見えない霧の中に生きている人々。
そんな日々の中。
一人の少女のウタが世界に映され響き渡った。
◆
暗い部屋、映像伝電虫が放つ光がプロジェクターのように壁に投影されていた。
その光の画面の中に荒らされた畑の前に立ち尽くす二人の女性が映る。
『皆、傷ついている。どこも酷いよ』
『私達みたいなのには皆興味がないんだ』
画面が移り変わり、暗い部屋の中で俯いた男性が映る。
『私の息子は海賊に殺された』
『海軍も頑張ってくれてはいるが…どうしようもないんだ』
『あんたは、分かってくれるのかい…?』
更に画面が移り変わり、力なく階段に座り込む子供達が映る。
『お腹減った…』
『皆そうだよ。でもあいつらが、海賊が全部持ってっちまった』
『そうよ!全部海賊が悪いんだ!海軍が悪いなんて言う人もいるけどあいつらが一番悪い!』
ボロボロの服をまとった女の子が、画面に映る。
『ウタちゃん。毎日がつらいよ…』
『ずっとウタちゃんの歌だけ聞いて過ごせるような世界に行けないのかな…』
机の上で映像を投影している映像電伝虫を軽く叩いて、少女は席を立つ。
「皆、分かってる」
赤と白の髪を持つ少女‐ウタ‐は誰かに宣言するように、
「私が皆が笑顔で平和に暮らせる世界を。新時代を作ってみせる」
映像伝電虫の映像がまた移り変わり、
『その意~気さ、ウタぁ!お前ならできる!お前のウタウタの実にはあたらすぃ世~界を!』
つばの広い黒い帽子を斜めにかぶり白い毛むくじゃらの髪を伸びるままにして左目に傷を負った男が映る。
その男は笑いながらくるくると踊り回りながら言い、ぴたりと止まって一息溜め、
『しぃん!!時代を!!作る力があるのさぁぁ!』
「カジム」
映像伝電虫の向こうで大げさに身振りを示して歓びを全身で発しながらおどけた調子で男‐カジム‐は続ける。
『準備万~端さぁ!見ぃ~てくれよこのエレジアの美しさを!
これなら多くの人が納~得する!受け入れてくれるぅ!』
画面の向こうには日に照らされた美しい街並みが並ぶ島が映っている。
島の中心の山。その麓のレンガの台地に立つお城、城下町。数々の装飾に色どられた港。
町から海へ向けて立派な尖塔が橋で繋がりその先の島には虹色に輝く羽のような屋根を備えた豪華な広場。
「わぁ…!」
その光景に感嘆のため息を漏らすウタ。
「ありがとう、カジム。大変だったでしょ?」
『いいさぁ!そしてぇ、その言~葉はまだ早いのさぁ!
世界が、ウタに夢ぅちゅぅうになったその後にこそさぁ!」
感極まったように、しかし、吐き捨てるように。
「そして、思いぃ知らせてやれぇい!あの赤髪にぃ!シャぁン…』
「やめて」
ウタの小さな、それでも確固とした否定の言葉。
カジムはそれを聞いてウタに気づかれないように小さく舌打ち。
だがすぐ陽気な調子に戻って、
『おおっと悪いなぁ!そうだな!気ぃ~が悪くなる!』
「これで、始められるんだね?」
『そう!そうさぁ!ウタ!だが、本当にいいのかぁ!?』
「今更、それを言うの?私は…」
『いいのさぁ!』
迷うようなそれを聞いて、カジムは断ち切るように言葉を続ける。
『お前の気持ちは、よぉくわかるさぁ。だが、俺ぇの故~郷はここにある』
強がる調子でおどけたように。
『俺ぇはお前の歌に惚~れ込んだんだぁ!
この小さな世界に収まっているのは勿~体ない!お前の歌は世界中に響かせるべぇきなんだよぉ!』
「そっか、そうだよね」
頷き、ウタは部屋の外へと向かう。
「じゃあ私、ゴードンとの練習に行ってくる」
『ああ。決行の日はもうすぐさぁ。ちゃあんと体調は整えてくれよ?
踊りのキレが悪くちゃ、観客もノリきれないんだ~ぜぇ?』
「分かってるって」
背中を向けひらひらと手を振り出ていくウタを見送りながら暗い部屋の画面の中でカジムは歌って踊る。
『そうさぁ!お前は世界が注~目する歌~姫ぇ!』
道化は回る。
『歌って!躍って!唄って!踊って!謡って!謳うがいいのさぁ!』
道化はうたう。
『そしてぇ!お前の歌は世~界を酔わせてぇ夢~中ぅぅぅに堕とすんだぁ!』
道化は嗤う。
『…そう、俺ぇの為にねぇ』
腹の中に邪悪を隠しながら。
◆
「懸賞金15億ベリー…。海賊に、なっちゃったんだね。ルフィ」
手の中。海軍に発行された手配書を弄びながらウタはボロボロの廊下を歩く。
かつての日々。懐かしい歌を口ずさみながら。
その歌声は波紋のように響き、光の波が広がると共に変化が起こる。
ウタが口ずさむ度、何もない空間に光が音符のように生まれ、形作られ、ウタの周りをプカプカとリズムを刻むように躍り、回る。
そして廊下の空いた窓から宙を流れる川のように光の音符達が連なり輝きながら外へ空へと飛び出していく。
快晴。いい陽気だ。このまま太陽の下に走り出して大声で歌ったらどんなに気持ちがいいだろうか。
唐突に誰にも聞かせられない歌を声を上げ心のままに歌いたくなった。
でも。
「海賊嫌いのウタ、かぁ」
良い気分でピンと立っていた髪留め兼ヘッドホンから飛び出していた髪が心なしかへたれる。
そんなつもりは、なかったのに。
筆が滑った。とげとげしたどうしようもない気分を歌に叩きつけた。
それが、共感を生んだ。多くの人の心を救った。
海賊が嫌いだって。苦しい今はすべて海賊のせいだって。
多くの人が苦しんでいるんだ。この世界から逃げ出したい、って。
だけど、私は。
そこまで思って首を振る。そんなの許さない。
いい。
「それでいい。新時代になれば、海賊も海軍も世界政府も争いも全部なくなるんだから」
左手の甲にプリントされたパット見るとひょうたんのような「UTA」と刻まれたマークを見る。
自身の願いとかつての約束の両方を誓い象ったトレードマークだ。
ウタの口元にクスリと笑みがこぼれる。
今は歌えなくともその時は笑いながら歌うのだとウタは前を向いて、育ての親であり音楽の師匠の待つ部屋へと急ぐ。
その想いの行く先は、結末はまだ誰にもわからない。
◆
「た、た、大変だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
大海原を行く、柔らかい笑顔を湛えた獅子と麦わらを被ったドクロが描かれた帆を張った船‐サウザンドサニー号‐から声が上がる。
日和の良い、のんびりと時間が流れている昼時を乱すような大声。
「なんだぁ…?」
「ど、どうしたチョッパー!?敵か!?」
「何々どうしたの?」
何事かと船内から甲板から集まってくる麦わらの一味達。
小さい人型の影が船の甲板を走り回る音の元。
帽子をかぶった二足歩行のトナカイ‐チョッパー‐は今しがた届いたチラシを振り回しながら、
「ら、ら、ら…」
「ら?」
「フェスだって!ウタの!初めてのライヴフェス!」
その叫びの意味を一瞬吟味、分かった者とそうでない者がいた。
「はぁ…?」
「ウタってあのウタ!?」
「マジかよぉ!?いつだ!?どこだ!?」
「あのウぅタちゃんの声が生で聞けるのかぁぁぁぁ!?」
何言ってんだ?という顔の緑髪の三本の刀を腰に差した男・剣士‐ゾロ‐。
驚いた顔のオレンジ髪でスタイルの良い女・航海士‐ナミ‐と長い鼻の男・狙撃手‐ウソップ‐。
目をハートにして興奮する金髪でお洒落な眉毛の男・コック‐サンジ‐。
「誰だ?ウタって?」
「ヨホホホホホ!この二年で一気にスターダムを駆け上った歌手ですよ!
その歌声はソウルキングと言われた私でも唸らずにはいられないほどです」
「へぇー!そんな奴がいたのか?
そういえば俺の幼馴染にも歌がうまいウタって奴がいたなぁ!」
「あら、もしかしたら本人かしら」
「んん~スーパぁぁぁー!そーんな偶然!素敵だぜ!」
麦わらを被った頬に傷のある男・船長‐ルフィ‐はマイペースに。
愛用のヴァイオリンを片手に少々興奮気味の動く白骨アフロ・音楽家‐ブルック‐。
頬に手を当て微笑む女・考古学者‐ロビン‐。
くるくると鋼鉄生身半々ボディで回っていつもの両手を体の斜め上で揃えるポージング。そしてサムズアップでにやりと笑う男・船大工‐フランキー‐。
「ああ!今も思い出すぜ…。カマバッカ王国での地獄に舞い降りた一時のオアシス…!
あの天使の歌声が流れている時だけはオカマ達の襲撃がやんでいた…!」
「テメェがずいぶん軟弱だってのはよくわかったぜ」
「うるせぇ…それだけウタちゃんの歌は素晴らしいんだ」
サンジが涙を流しながら語るのをいつものようにゾロはからかう。
だがサンジはいつものように売り言葉を買うことはなく、
静かに煙草の煙を吐き出す様子にゾロは少し肩透かしを食らったような顔になる。
「私もウェザリアで何度か聞いた事あるけどあの歌声は格別ね。
聞いているだけで引き込まれるような、全てを巻き込むような力強い歌」
「俺も俺も!修行以外の楽しみがあんまなかったから音貝で録音して何度も聞いてるうちにさ、ファンになっちまってよぅ!
まあ合流やその後の騒動なんやかんやでなくしちまってずっと聞けてねぇんだけど…」
各々があれやこれと話す中、チョッパーは、
「なあなあ、ルフィ!俺!これに行きたい!おれ、ウタの歌を生で聞きたいんだ!」
「ちょーっと待ったチョッパー!私達は
そうホイホイ行きたい場所にはいけないわ。…で、どこなの?」
「お前も行きたい気持ち抑えられてないじゃねーか」
「開催場所は…エレジアね。音楽の都と言われた…でも確か…」
「エレジア!私も聞いた事があります!平和と音楽の都!
死ぬまでには一度は行ってみたいと思っていたんですよ!」
ブルックはおどけるようにその場で横に一回転し、
「って!私一回死んでるんですけどねぇ!ヨホホホホホ!」
「はいはい」
「ところでよ、フェスってなんだ?」
「祭りさぁ!多くのファンを一か所に集めて歌姫の歌を聴いて盛り上がるんだ!」
「歌う祭り!?」
「興味ねぇな」
フランキーの説明に目を輝かせるルフィと眠たげな眼で欠伸をするゾロ。
「これを機に芸術を理解しろクソマリモ!」
「あぁん!?」
「チラシによると入場無料でご飯食べ放題だって!お酒も飲めるらしいぞ!」
「はぁ!?えぇ!?」
喧嘩をはじめた2人をよそにチョッパーの言葉に皆、チラシをのぞき込む。
「…本当に書いてある…玩具も娯楽も全部タダ…うっそでしょ…?」
「肉も酒も飲み放題祭り!?スッゲェぇぇ!!」
「ヨホホ!さっすが世界の歌姫!太っ腹ですね!私もそこまで太ってみたいものです!」
「映像電伝虫による映像の生中継?全世界規模で?
1対1の通信ならまだしも不特定多数に発信できる映像電伝虫なんて聞いた事がないわ」
「案外ベガバンクの試作品とかかもな。そういう意味わかんねぇ発明品なら大体そうさ」
「ウタの今までの映像はそうやって発信されてたらしいぞ!おれもトリノ王国で見た!」
「ボーイン列島みたいな辺鄙な島になんで映像が来てるかとは思ってたけど…そういう事かぁ」
ナミは現在位置とエレジアとのおおよその距離を考え、
「…行こうと思えば行けるわね。映像電伝虫で見る事も出来るだろうけど…」
ナミの呟きを聞き、皆がルフィへ視線を向ける。
ルフィはいつものように全身から号令を発した。
「よぉし!野郎どもぉ!次の行き先はエレジア!祭りだぁ!」
「船長が言うんじゃ仕方ねぇな」
「こうしちゃいられねぇ!ライヴにふさわしい衣装つくらねぇと!」
「んん~オッケェイ!指示を頼むぜぇナミィ!」
「まっかせなさい!そらそら皆動け動けぇ!」
「待っててねウぅタちゃぁん!」
「私もできるならセッション等もしてみたいですね!」
「あらあら」
皆が船長の号令を受け、動き出す。
「ルフィ!ありがとな!」
「いいって!」
ニシシと輝く笑顔でルフィはチョッパーに答える。
そしてふと思い出したような顔になり、
「それより、なあそいつって海賊ナンバーは歌うのか?」
「海賊ナンバーってなんだ?」
「また懐かしい!東海の伝説の歌集ですね!」
「プリンセス・ウタは海賊嫌いで有名だから歌わねぇよ!」
「ちぇ!じゃあ俺の知ってるウタじゃねぇな。待ってろよ!肉ぅー!」
「目的ィ!」
麦わら一行は一路音楽の都エレジアへと向かう。
「で?どう思います?」
「怪し過ぎるわ。もう海賊万博みたいなのはこりごりよ?」
「でもあそこまで乗り気のルフィを止めるのはもう無理ね」
「ま、警戒はするとしても。我らが船長ならどうにかするだろ」
◆
「シャンクス!大変だ!これ見たか!?」
「どうした、そんなに慌てて」
どこかの海、愛しの船-レッドフォース号-の上。
赤髪隻腕の男・船長‐シャンクス‐が慌てた仲間から一枚のチラシを受け取る。
「…ウタか」
「そうだよ!ウタだ!どうする!?まだ…」
「ちょうどいい機会だ」
甲板の風を切り船の端へ。遠くを見つめるシャンクス。
「12年か。ずいぶんかかっちまったな」
「…恨んでるだろうさ」
「あの子の事だけ、って訳にもいかなかったからな。俺達は」
「言い訳だぜ、シャンクス。少なくともあの子にとっては」
「分かっているさ。…ビル!」
信頼する航海士に声を飛ばす。
「もう、エレジアに向かってる」
「おいおい船長に一言くらい断ってくれよ」
「皆、心は同じさ。あの夜から」
「ロックスターは違うだろ?」
「いえ。俺はお頭が行く所についていくだけです」
「真面目だなぁ、お前は」
シャンクスと仲間達は笑う。
進む先、暗雲が遠くに見える。いつもは避けて行く雲行きだ。
だが進み行く。行かなければならない。
シャンクスの右腕、煙草を咥えた物静かな男・参謀‐ベックマン‐は
「どういうプランで行く?」
「ウタを助ける」
「どうやって」
「これから考える」
「いつもの無茶か。歳を重ねても変わらねぇな」
「そういうなよベックマン。皆には悪いとは思うが、俺達は行かなくちゃならない」
船長として有無は言わせないと皆に聞かせる強い言葉。
だが、とシャンクスはふっと表情を緩ませて、
「流れを感じるだろう?懐かしい匂いのする風だ」
言葉の真意を幹部を除いて皆理解出来ず顔を見合わせる。
鼻の長い、赤髪海賊団の頼れる男・狙撃手‐ヤソップ‐は一言だけ船長であるシャンクスに問うた。
「…来るか?」
「来るさ」
見えない何かを感じるがままにシャンクスは短く答えた。
赤髪海賊団は海を進み行く。
こうして序幕は閉じる。
舞台は再び幕が開くのを待ち、演者は海を行く。
one picecがある種完成された未完成な物語なのは分かっているけれど
俺の中のロックオンに「よお、お前、満足か……こんな世界で?」と言われたので
原作映画が納得のいかない流れだったので拙い描写力で自分の思い描く話を書く
おおよそ原作通りの流れにはなると思いますがお暇な方の暇つぶしにでもなれば幸い