ONE PIECE FILM:DREAM   作:霧乃

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第十幕

 

 

 

「さて、ウタ。お前はどうする?」

 

 

ウタは顔をあげ、シャンクスを見る。

 

どうする?とはなんだろうかとウタは困惑した。

 

 

「俺達と一緒に来るか?今なら、何の問題もなくここを離れられる」

「お、おい!ルフィはどうするんだよ!ルフィは…」

「ルフィは、覚悟して海賊になったんだ」

 

 

シャンクスは視線を鋭くしてチョッパーを睨みながら言う。

 

 

「残念だが海賊はやられた方が悪い。こんな所にやってきて下手を打ったルフィが悪いのさ」

「そうだな」

 

 

ローもそれに同意する。それが海賊の流儀だと。

 

だがローもベポが覚めない眠りに落とされているのは確認していた。

 

 

「だがこっちも仲間が捕まってるんだ。はいそうですかとはいかねぇんだよ赤髪」

 

 

ローにとって四皇であるシャンクスはいずれ打倒すべき相手だ。

威嚇を込めて言葉を発し、愛刀に手をかける。

 

 

「やめておけ。船に乗っているならまだしも一人で俺達に勝とうなんざ100年早い」

「…船長同士のタイマンは受けねぇのか?」

「今日は娘を助けに来てるんでな」

 

 

笑い、余裕の表情のシャンクス。

 

ローとて赤髪海賊団幹部が後ろに控えているのは理解している。

流石に分が悪すぎるとは思うが引ける状況ではなかった。

 

 

「あんたの娘の解毒の分。それくらいの恩を返してくれてもバチは当たらねえんじゃねえか」

 

 

ウタの容態は急を要すると判断したチョッパーはローに頼み、

ウタの体からROOMによるネズキノコの毒の排除を依頼。

 

ベポの事もあり、麦わら海賊団とは同盟関係であるローはそれを了承し、実行していた。

 

シャンクスは笑み、その問いには答えない。

 

チョッパーは何かを決心したかのように一つ頷き、

 

 

「ウタ。頼みがあるんだ」

「…何?チョッパー?」

「もう、ウタは大丈夫だ!頼りになる人が来たんだから!

 だけど最後におれを夢の世界に送ってくれ!」

 

 

チョッパーがウタに出来る治療はもうない。

シャンクス達が支えてくれるだろう。

 

だから、

 

 

「おれは、ルフィを助けに行かなきゃいけないんだ!だから頼む!」

 

 

チョッパーは自ら戻れる保証のない世界へ行く事を望んだ。

 

 

「何もせずにここから離れるというなら一緒に行こうウタ。

 世界を敵に回したって、お前を守ってやる。今度こそ」

 

 

もう一度、シャンクスはウタに問いかけた。

 

逃げてもいい。俺達が守ってやると。そう伝えているのがウタには分かった。

 

 

 

「嫌だ」

 

 

 

だからウタは拒絶した。

 

 

「そ、そんなこと言わずに頼むよウタ!」

「あ、ごめん。チョッパーそっちの話じゃなくってね…」

 

 

少し涙目のチョッパーに弁解しながらウタは

 

 

「シャンクス。私、このまま、目を背けて逃げるなんてもう嫌だ」

 

 

その答えを聞いて、嬉しそうにシャンクスは笑う。

 

ウタは今度こそ決めた。

 

 

「私は逃げようとしてたんだ。でも理由がなくなって。理由が出来て…」

 

 

言いたいことがまとまらない、とウタは思う。

 

最初に新時代へ逃げる事を望んだ。

それは大切なモノを憎み偽り、過去に耐え切れなかったから。

それは嘘だったと分かった。

 

でも、騙されたとしても、今この瞬間世界中の人間を眠りに落とした罪はウタが犯したものだ。

 

 

『ウタ。お前、海賊ナンバーは歌わないのか』

 

 

ルフィの声と真っ直ぐな目をウタは思い出す。

 

 

『今の歌もお前の思いが乗ってる。だけど…自由じゃねぇ。お前、もっと歌いたい歌があるんじゃねぇのか』

 

 

真っ直ぐすぎて。偽ったウタは目を逸らした。

 

 

『知らねぇ!だけど、シャンクスはそんな事しねぇ!お前が一番知ってんだろ!』

 

 

だけどもう、

 

 

「ルフィの視線から目を逸らすなんて事したくない」

 

 

だってそれは負けだ。とウタは思う。

 

悔しいじゃないか。あのルフィがあんなに愚かで叶いっこない夢を笑いながら今も追いかけてるなんて。

悔しいじゃないか。世界を変えてみせると謳った自分が背を丸めていじけるしかできないなんて。

悔しいじゃないか。そんなルフィがいなくなる事から目を背けて逃げるなんて。

 

 

 

「シャンクス、私…世界を救いたい」

 

 

 

ウタは重ねて思う。

 

悔しいじゃないか。新時代を望んだ私がそんな程度の事も出来ないなんて!

 

 

「ぶ…ブハハハハハ!アハハハハハハハ!」

 

 

堪えきれず、といった感じにシャンクスは大笑いした。

赤髪海賊団の幹部も大笑いしている。

 

チョッパーとロー、ゴードンは唖然としていた。

 

 

「わ、笑う事ないでしょ!?」

「いや、いや、悪い悪い…イーヒッヒッヒッ!」

 

 

笑いすぎて、流れた涙を拭いながらシャンクスは、

 

 

「聞いたか野郎ども!うちの娘は世界救うってでっかい事やるらしいぞ!」

 

 

皆泣き笑いながら嬉しそうに鬨の声をあげる。

 

 

「娘がでっかい事やるってんなら手伝ってやるのが父親さ!」

「で、プランは?」

「これから考える!」

 

 

ベックマンの冷静な指摘にシャンクスは楽観の意見を返す。

 

 

「…あのぉ」

「おわぁ!?アフロのドクロがしゃべった!?」

 

 

ブルックは夢の世界から帰還していたが、何だか知らない一団が増えている現状に困惑していた。

 

 

 

「つまり、ウタが「魔王」を歌えばもう一度夢の世界とつながる事が出来る。そういう事か?」

「ええ、はいそんな感じです」

 

 

夢の世界で得た情報を説明するブルック。

 

 

「ただ…トットムジカの目的である夢と現実を一つにする。それも同時に叶えてしまう事になります」

 

 

城で得た情報はもう一つあった。

 

それはウタウタの力を使い「魔王」を歌った時に起こる現象。

かつての夢で起きたあり得ない事象。

 

ユメユメの世界では原則、トットムジカが故意にいじらなければ現実の法則に即した現象が起こる。

それが示すのは、エレジアの悪夢の再来。

 

 

「トットムジカが現実に「魔王」として降臨するって事か」

 

 

それはトットムジカの目的の最期のカギ。

 

夢と現実を一つにしようとしたときに足りないモノ。

それはトットムジカの現実の肉体だった。

 

ウタに「魔王」を歌わせる事でトットムジカは現実に侵食し実体化するつもりなのだ。

 

ただ、もう一度夢の世界にウタがつながる事が出来たのならば。

 

 

「ウタさんの能力は音楽。魂を震わせ、奮い立たせるものです。

 その本質は支配ではない。そして今捕らわれている人々は貴女の歌を求めて映像を見て聞いていた」

 

 

だからこそ。

 

 

「カギは貴女です、ウタさん。この状況を打開できる可能性を持つのは貴女しかいない」

「…だそうだぞ?」

「望むところだァ!」

 

 

ウタは気炎を吐く。

 

始めたのは自分だ。それを終わらせられる方法と可能性があるなら成し遂げてみせると。

 

 

「ただ「魔王」の楽譜は発見できず…」

 

 

いや、とゴードンが声をあげた。

 

 

「それは水道橋の小部屋に隠してある…」

 

 

肩を落としたゴードンが言う。

 

トットムジカについた嘘など何の意味もなかったのだと。

 

 

「ウタの目につかない所にと思い…私は結局、「魔王」の楽譜を処分する事も出来なかった」

「それが今、役に立っているんだゴードン」

 

 

その肩をシャンクスが叩きながら笑う。

 

 

「じゃあ、俺達が演奏するか!モンスター!」

 

 

赤髪海賊団の音楽家コンビであるボンク・パンチと猿のモンスターがここぞとばかりにアピール。

 

 

「ヨホホ!禁断の楽曲の演奏!不謹慎ですが胸が高鳴りますねぇ!

 ま、私高鳴る心臓がないんですけれども!」

 

 

ヨホホ!とブルックも音楽家コンビに対抗し自前のヴァイオリンを取り出す。

 

 

「私も、参加させてもらおう…」

 

 

音楽家としての血が騒いだのかゴードンも手をあげた。

 

戦いに向け、それぞれが動き出す。

 

 

ウタは、

 

 

「…ねぇ、シャンクス」

「ん?なんだ?」

「これからする事ちょっとだけ目をつむってくれる?」

 

 

シャンクスは、ウタがやろうとしている事に気づき、また笑う。

 

 

「ははは!いいさ。海賊に卑怯も何もない。とられた奴が間抜けなんだ」

 

 

ルフィから勇気をほんのちょっとだけ借りた。

 

 

 

 

 

 

それが鳴り出したのは、無敵のトットムジカ相手に流石のルフィも多少へばって、

それでも気合を入れなおしていた頃だった。

 

重く、それでも高く響く叫びのような意味のある、意味のない音の羅列の音。

スキャットと呼ばれる声を一つの楽器として響かせる即興的な音列。

 

不吉さを感じさせる重苦しい禍々しい音の交わりが響く。

 

 

「魔王」。トットムジカが作曲した演奏したモノを支配する禁断の魔曲。

 

 

それが夢の世界へと響いた。

 

 

「ウタ!」

 

 

そして、ルフィは見る。

 

ステージに、光と共にウタが現れたのを。

 

 

「来た」

 

 

トットムジカは呟く。

 

その呟きは狂喜を孕んで。

 

 

「キタキタキタ信じてたぜウタァァァァ!」

 

 

爆発したように弾けた黒の音符が空に昇っていく。

黒々としたガスのようなものが会場中を漂い、渦巻きうねる。

 

トットムジカは再び夢の世界へ繋がったウタウタの能力を介して、現実へと侵食を開始した。

 

もはや、ウタが「魔王」を歌うのを止めたとしてもそれは止められない。

 

トットムジカが歌っている。

 

意味無き音階を歌っている、

 

歓びを。野望を。夢を全てを塗りつぶすような欲望を歌いながら現実へと現出していく。

 

 

ウタは歌う。トットムジカと共に。

 

現実で、夢で。

 

その両方にウタとトットムジカは存在していた。

 

 

「皆に、謝らなきゃいけない事があります」

 

 

歌い終わってウタは語りだした。

 

未だに「魔王」の重低音は響いているがそれに遮られないような芯を持った声を響かせる。

 

現実で、夢で。

 

今日の始まりと同じように決意を灯した瞳で。

ウタが現れて動きを止めた黒い戦士達。集まってくれた観客に向けて。

映像電伝虫の先にいる全ての人に向けて。

 

 

「今日のライブはエンドレス。それはなくなりました。ごめんね」

 

 

謝罪する。昨日のウタが望んだ新時代はもう間違っているのだと分かってしまったから。

 

 

「私は海賊が嫌いなわけじゃない。海軍が嫌いなわけでもない。

 …皆を悲しませる、苦しませる何かを都合よく海賊と呼んでいただけ」

 

 

もう偽る事はしない。したくないからウタはウタの考えを話す。

納得してもらえないかもしれないけれど。

 

 

「私の始まり。誰かを歌で幸せにしたい」

 

 

―――お前の歌声だけは、世界中すべての人達を幸せにすることが出来る。

 

かつてのシャンクスの言葉がフラッシュバックする。

 

 

「みんなの希望になりたい。それだけは嘘じゃなかった」

 

 

ウタなりの言葉を紡いでいく。

 

 

「だから、私は言わなくちゃいけないんだ。もう逃げないために」

 

 

ウタの始まりを。

 

 

 

「私は赤髪海賊団 音楽家 ウタ!この夢を始めた大馬鹿で!」

 

 

 

袖にプリントされた約束の証を握りしめ、

 

 

 

「…この夢を終わらせる女だ!!」

 

 

 

麦わら帽子を被ったウタはこの夢を終わらせるための宣言をした。

 

 




この情景を書きたいが為にこの小説を書いたと言っても過言ではない。
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