ONE PIECE FILM:DREAM   作:霧乃

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第一幕

 

声が響いている。静かに伸びやかに音楽と平和の都、エレジアのある島。

 

その全てにその声を届かせるように人々の熱気のさざめきの間を透き通るように駆け抜けていく。

 

海上の小島に備えられたライブ会場は、開始を今か今かと待ちわびる人で溢れていた。

 

 

フランキーは客席の混雑具合をぐるりと見まわして、

 

 

「いーい声だ。…しかしすげぇ人数だな?」

「当然さ。今までウタは映像の発信でしか活動してなかったからな」

「そのウタが初めてファンの前で生で歌うんだもの」

 

 

運がいいわぁ。と警戒もそこそこに麦わらの一味が集まる特別席を見渡す。

会場に少数だけ存在するステージを見下ろす特別な升席。その一つを抽選で得た運を自画自賛するナミ。

 

 

「へへ、肉がこんなにたくさん…!これは俺んのだぞ!手出すなよ!」

「出さねーよ。こっちの酒は手ぇ出すなよ」

「出さねーって!よぉし今日は久しぶりに自分で焼くかぁ!」

「お前ら今日の趣旨分かってんのかぁ?」

 

 

ライブより目の前の肉に興味を取られているルフィに呆れ顔のウソップ。

 

 

「うー…眠い…」

「だから早く寝ろって言ったのにさ」

「楽しみすぎて寝付けなくて…」

「少し眠る?今日一日はライブだろうから勿体なくても楽しめないよりましでしょう?」

「いいや、こんな事もあろうかと!あらかじめ不眠薬作ってたんだ…」

 

 

心配そうに見守るロビンに答えながら、

二本の角と両手分のペンライトを準備してばっちりと応援衣装で決めたチョッパー。

 

ゆらゆらと揺れながら小さな錠剤を取り出す。

 

 

「それ、大丈夫か?」

「ドクターくれは謹製の薬だから大丈夫。これの原料は食べると死んじゃうけど」

「ヨホホホホホ!それは恐ろしい!」

 

 

ブルックはいつもの紳士服ではなくダボっとしたパーカー姿でちょっと考え、

 

 

「それ、私にも効きますかね?私も楽しみすぎて眠れていないので…」

「お前もかよ!」

「…骨に効くかわかんないけどブルックも飲んでみる?」

「一応いただきます」

「骨なのに寝るってよく分かんねぇな…」

「私もそう思いますが、眠れなかったらそれはそれは恐ろしい事になっていたでしょうね」

 

 

そういうとブルックとチョッパーはそれぞれ小さな錠剤を飲み干す。

 

 

「U・T・A!!U・T・A!!うたちゅぅぁぁぁん!」

 

 

サンジは体をくねらせながら応援のダンスの最後の確認に余念がない。

 

料理の下準備などは既に終わらせておりその優秀さは見て取れるのだが、

だらしなく顔を緩めながら踊る姿はゾロをして、

 

 

「気持ちわりぃ」

「んだとクソ剣士!テメェもジューシーにじっくり焼いてやろうか!?」

「おうやってみろよ、グルグルマーク」

 

 

額をぶつけるほどの近さで睨み合い。

 

―――不意に、薄暗い会場が更に暗くなる。

 

 

 

「おい、ルフィ!始まるみたいだぜ!」

「ん?」

 

 

ウタだ、と誰かの声が聞こえる。

 

一瞬の歓声が聞こえ、ルフィは骨付き肉を齧りながら目線だけそちらへと向けた。

 

紅白に別れた独特な髪色の少女がステージの頂点に立っている。

 

今日の主役は二コリと微笑み、息を吸う音がマイクを通し、小さなそれでも会場の誰もに聞こえる音として響いた。

 

ざわめいていた会場が水を打ったように静まって、

最初のフレーズが音吐朗々と響く。

 

そのフレーズだけでファンはピンとくる。ウタの代表曲の一つ『新時代』だ。

 

伸びやかな歌声と勢いのある声量。

キレのあるダンスを踊りながらもブレることなく美しさを保つ声。

 

それらがアニマルバンドの奏でるエレクトロ調の音楽と調和し、会場全体。

特別な電伝虫を通し、世界中の人々にその声が響いていく。

 

ファンだったウソップやサンジ、ナミは馴染みのあるその歌に聞き入り。

チョッパー、ブルックは両手に握ったペンライトをリズムに合わせ、体と共に大きく振る。

ロビンとフランキー、今回の主題に興味のなさそうであったゾロですら興味深げに耳を傾けていた。

 

音は巡る。

 

麦わらの一味がかつて辿った旅路のいくつもの町や人々を。これから巡るどこかの街を。

富んだ国を。貧しい国を。争いの絶えない国を。平和な国を。

 

電伝虫がその多くへと平等に音楽を響かせる。響かせていく。

 

 

会場から離れたエレジアの綺麗な、しかし無残に破壊された街並。

 

男が会場を見つめている。

 

禿頭に痛々しい傷跡を残し、サングラスをかけた老年の男。

悲しげに、諦観するように耳を澄ませ、じっと見つめている。

 

 

エレジアの過去の栄華を象徴する城の屋根の上。

会場から聞こえ響く歌に合わせるようにカジムが踊る。

楽しそうに、喜ぶように踊っていた。

 

 

 

 

 

 

「皆!やっと会えたね!ウタだよ!」

 

 

一曲目を歌い終えたウタはステージの頂点から飛び降り、

前に進み出て観客たちに手を振り笑顔でそう言うが、

 

 

「ごめん。なんかちょっと感動しちゃって…」

 

 

少し感極まったように言葉を途切れさせた。

 

会場が歓声に包まれ、ウソップやサンジ、ナミ、チョッパーなどは会場に負けじと声を上げ、盛り上がっている。

 

その盛り上がりの隅には場に相応しくない下卑た眼差しで行動する者達もいた。

 

ウタは軽く目元をぬぐい、きゅっと唇を引き締め、目線を前に。

決意と熱意の籠った目だ。

 

 

「みんな、今日は来てくれてありがとうー!」

 

 

ウオオオオオオオ!とウタの声に呼応する会場が一体になったような地鳴りのような歓声。

U・T・A!U・T・A!とウタ専用の特別な掛け声の声援。

 

そんな熱狂の中、動いた男がいた。

 

その男は会場を照らしまたある時は遮る、虹色に明滅する翼のような天蓋の一つに手を伸ばした。

 

ゴムのように。

 

そしてそのまま照明を掴み、足を踏み出す。

 

 

「…おい?ルフィ!?」

 

 

仲間の声をその背に聞きながら、ブランコのような軌道で宙を泳ぎ。誰が止める間もなく。

 

今日の主役の前へと降り立った。

 

困惑のざわめき、文句の野次、アニマルバンドも困っている。

 

ルフィは気にも留めない。

そんな事よりも気になる事があったからだ。

 

記憶の引っ掛かり。いつかどこかで聞いたような声。髪色。

 

 

「あ、やっぱりそうだ。ウタ!お前ウタだろ!?」

 

 

そして、今やっと合致した。

 

 

「…ルフィ?」

 

 

ウタは驚いた。

こんな所にいるはずないだろうと思っていた懸賞金のポスターそのままの人物が目の前に現れて。

 

 

「久しぶりだな!ウタ!」

「うん、本当に…久しぶりだルフィ!」

 

 

二人はどちらともなく握りこぶしを前に。

ちょこんとぶつけ合って屈託なく笑った。

 

 

「ぬが――――!?なぁんでお前!?」

「あら本当に幼馴染だったのね」

「嘘をつくような奴じゃねぇから疑ってはいなかったがまさかウタの方が本人だとはなぁ」

 

 

その様子に麦わらの一味は以前に話していた幼馴染のウタが当人だった事を察する。

 

会場の困惑がさらに広がっていく。

 

麦わら帽子の黒髪の男。ゴムのように伸びた腕。そしてマイクが拾ったルフィという名前。

 

その情報はとある海賊と合致していたから。

 

そして、ウタは海賊嫌いで有名だった。

 

本人が望まずとも。

 

 

「テメェ!だったら紹介くらいしやがれ!」

 

 

憤慨の感情そのままにサンジが叫び、

 

 

「なんでウタと知り合いなんだ!」

「なんだぁー!?」

 

 

ウソップとチョッパーが続けて叫び、

 

 

「だってこいつ、シャンクスの娘だもん」

「あ…」

 

 

ルフィが何の躊躇いもなくあっけらかんと言った。

声が会場に隅まで聞こえるようにとセットされたウタのマイクもその機能を十全に果たしてその言葉を拾った。

 

 

その言葉を飲み込むために会場は一度静けさに落ちて、

 

 

『えぇぇえええええええええぇぇっぇ!?』

 

 

蜂の巣を叩いたような声の洪水となった。

 

多少世界の事を知っている人間ならば常識のように知っている。

海賊頭目の最上位と恐れ語られる四皇のうちの一人。

 

赤髪海賊団の船長。赤髪のシャンクス。

 

その人がウタの父親。親子。誰もが度肝を抜かれる事実だ。

 

そして誰かがつぶやく。

 

 

「シャンクスってこのエレジアを襲って滅ぼした張本人じゃないか…」

 

 

その名前は、このエレジアにも因縁のある名前だった。

 

 

「会場がエレジアの時点で何かしらあるだろうとは思ってたけど、まさかそれ以上の事が出てくるなんてね」

「あの伝説の事ですか?」

「それもあるけど…エレジア事件はそれだけじゃなさそうだったのよね」

「それだけでない、とは?」

「それは…」

 

 

ロビンは言いかけた言葉を切る。

 

混乱の中、視界の端に動く何艘もの小船が見えたからだ。

 

 

不逞の輩の行動は素早かった。

 

 

「ひひひひひ!赤髪のシャンクスにまさか娘がいたなんてなぁ!俺達はついてるぜ!」

 

 

まとめ役らしき男がステージに上がり声をあげ、

ぞろぞろとそれに続きそれなりの人数がステージへ上がってウタとルフィを囲む。

 

 

「なんだ、お前ら?」

「それが本当なら、ますます攫うしかねぇな。お前は赤髪の最大の弱点って訳だ」

「そうじゃなくてもウタちゃんを攫って他の海賊団に売っぱらえば俺達はガッポガッポ大儲け」

「おら達はクラゲ海賊団。本当に残念だがライブは中止!ウタちゃんはいただいていくぜ」

 

 

その状況にルフィは口をへの字に曲げて不満顔。爆発しそうだがすんでのところでこらえた。

 

 

「海賊が出てきたぞ。どうする?」

「あの人なら大丈夫だ。それより今僕達があの人達と顔を合わせる方がまずい」

 

 

それを観客席から見守る桃色の髪を持つ青年と長い金髪と妙なバイザーを付けた青年。

海軍のコビーとヘルメッポのコンビだ。

 

コビー達の観客席からは升席より飛び出そうとしている麦わらの一味が見えている。

 

だが、ウタは思い切り、両の手を合わせ、パンッ!と音を鳴らした。

 

その音の響きは光の波紋となって一瞬の速さで広がって。

升席の麦わらの一味を、ステージ上の状況を止めた。

 

 

「はい、そこまで!」

 

 

ウタはルフィの横を抜け、海賊の前に立つ。

 

 

「ウタ」

「大丈夫」

 

 

何でもないようにウタは言い、笑顔で海賊へ言葉を放つ。

 

 

「君達!わざわざ来てくれてありがとう!でもステージ上は上がってきちゃダメだよ!」

 

 

ルフィもねと横目でウィンク。サンジは声にならない叫びをあげた。

 

 

「だけど、今日のライブはみんなが楽しむためのもの…っと」

「だからライブは中止だって言ってるだろ?おとなしく攫われてくれりゃ、俺らは楽しめるんだぜ」

 

 

海賊の頭目はウタの首元に剣を向け嗤う。

 

 

「ウタ!」

「…君達は私の歌を楽しみに来たんじゃないの?」

 

 

ウタはルフィを手で制しながら言葉を紡ぐ。

言葉に震えはない。

 

 

「おら達ぁ海賊だ。歌なんかより金が好きなのさ。

 ああ、ウタちゃんも好きだぜ!金になるからな!」

 

 

海賊達は嗤った。

 

彼らは略奪を楽しむ海賊だった。目の前にいる小娘なんてどうとでもなると。

 

彼らの在り方はごく普遍的なものだった。悲しい事に。

 

 

「海賊、か」

 

 

ウタは悲しそうに呟き、目を伏せ、それでももう一度顔をあげ、笑顔で。

 

 

「じゃあ、海賊は今日で廃業!今までやってきたことも私が許してあげる!」

 

 

は?と海賊達はポカンとして、

 

 

「みーんなおとなしく客席で待っててね!今日を楽しもーう!」

 

 

両手をあげて、笑顔で言うウタ。

 

海賊の一人が焦れて、棍棒を振り上げた。

 

 

「ウ…!」

「…残念」

 

 

呟きとは裏腹に起こった反応は劇的だった。

 

光の音符の洪水がウタの体から爆発する。

 

その劇的すぎる光景にルフィの体は反射的に動き出す。

 

 

「ダメだよルフィ。手を出しちゃ」

 

 

が、ウタの声がそれを止める。

 

音符の洪水が収まった先の海賊達は何が起きたか分からなかった。

 

一瞬の間にそれぞれ持っていた武器がなくなっていた。

目の前の獲物だと思っていた少女は。

 

 

「ここは私のステージ!指を鳴らせば、ホラ!」

 

 

続けてウタは指を鳴らし、その手から光の糸のようなものを生み出す。

 

 

「くそ!」

 

 

頭目が苦し紛れにウタを殴りつけようとするも、

どこからともなく現れた光の音符が壁となってその攻撃を阻んだ。

 

光の糸は踊るようにウタの頭上を泳いで四方へ散って、

ステージ上に居た海賊団全員に絡みついていく。

 

みな慌てて振り払おうとするがその手も絡めとられ皆抵抗もできずに中空へと一塊にされ上昇していく。

 

おおー、とルフィは声を漏らす。

 

一塊は一際強い閃光を放って、海賊の一団は粘着シートの上に張り付けられたような体勢でライブ会場の上空に描かれた五線譜の壁に磔になっていた。

 

 

「悪い海賊は特等席!後で降ろしてあげるからそこでおとなしく歌を聞いててね!」

 

 

笑顔で以ってウタはそう言って、

 

 

「みんなー!悪い海賊は楽しい歌になってもらったよ!これで平和になったから安心してね!」

 

 

会場が揺れる程の歓声。ウタの強さに会場中が歓びを表すようにペンライトを振っていた。

 

これでライブを再開できると。

 

 

「早く戻れ!ルフィ!」

 

 

升席からウソップが叫ぶ。

 

 

「じゃあまたあとでね、ルフィ」

「おう!」

 

 

ウタは走って升席へと戻っていくルフィを見送って、改めて客席へ向き直り、咳ばらいを一つ。

 

 

「ここで皆にお知らせがあります!いつもの映像電伝虫での配信ライブは私が疲れて眠っちゃって中断が多くてごめんね!でも!」

 

 

声を止め、決意をしたように一回軽く頷き。

 

 

「今回のライブはエンドレス!いつまでもず―――っと!続けちゃうよ!休憩は挟むけどね!」

 

 

アハハと軽く笑う。

 

 

「そう!みんなとずーっと一緒に居られるって事!配信で楽しんでいるみんなも!この会場のみんなも!もっともっと楽しんじゃおう!」

 

 

それとね、と世界中へ映像を飛ばしている映像伝電虫の前に進み出る。

両手で持ち上げて目線を合わせてキッと睨んだ。

 

映像を見ているだろう、その先の誰かに向けて。

 

 

「大事な話。海賊の皆、それに海軍、世界政府の人達。このライブの邪魔をしないで。

 皆、楽しい事、幸せな時間。希望を探してるんだ。それを邪魔するなら覚悟してもらうよ」

 

 

 

「私は新時代を作る女、ウタ!歌で皆を幸せにする!」

 

 

 

宣言が終わり、一瞬シンと沈黙が場を支配して。

 

次の瞬間、今日何度起きたかわからない会場を割るような大歓声。

 

 

「皆!ありがとう!じゃあ次の曲行くよ!」

 

 

ウタがバッと手を振れば歓声が波のように止み、

音楽が始まって、会場はその歌に耳を澄ませる。

 

 

「お前の幼馴染もなかなか言うじゃねぇか」

「まあ俺の幼馴染だからな!」

「…んん…?」

「どうしたサンジ?」

「いや、味付けが…おかしいな…?」

 

 

作った料理に何か違和感のようなものを感じたのか首をひねるサンジ。

 

 

「いつも通りにうまいぜ?」

「ええ、そこまで違和感は感じないわ」

「微妙な違いなんだがな。これはコックとしての意地の部分だ」

 

 

スープを飲むフランキーとロビンも首をひねる。

 

言い知れない違和感がひしひしと忍び寄って来ていた。

 

 




3人称視点の描写力が全然ないのが本当に悲しい
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