ONE PIECE FILM:DREAM   作:霧乃

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第七幕

 

 

 

「あああああああああああああああああああああ!」

「やめろ!それ以上は駄目だ!」

 

 

チョッパーの目の前でウタが暴れている。

 

現実のウタは無敵ではない。

チョッパーの獣人モードで簡単に取り押さえられるほどに貧弱だった。

 

だが、全力で暴れている。

 

擦り減った体力の体で無理を重ねれば命を削ってしまう。

 

 

「いいんだ!もう!終わったんだよ!全部!裏切られた!」

「終わってない!ウタはまだ生きてる!」

「いらない!終われ!終わっちゃえ!私なんか!」

 

 

ブルックは未だ帰ってこないのかブルックの体は物言わぬ髪の生えた白骨死体そのものになっている。

 

チョッパーは一か八か、手を離し叫ぶ。

 

 

「私なんかって言うなぁ!」

「ルフィにも裏切られた!」

「裏切ってねぇ!裏切ったのはウタの方だろ!」

 

 

その一言にウタがひるんだ。

 

チョッパーには何となくわかった。

ウタが許せないのは自分自身なのだろうと。

 

何か大きな、それこそ自身にとって取り返しのつかないような大きな失敗をしたのだ。

チョッパーと同じように。

 

 

「ルフィはやけっぱちになって逃げたがるような奴は助けねぇ!知ってるだろ!?」

「知らないよ!12年もこんな小さな島に居たんだ!そうだよ」

 

 

そうだよ、と繰り返しウタは呟いて。

 

 

「私は、誰にも期待されてなかったんだ。それなのに新時代を作るなんて」

「ちゃんと!前を!見ろよウタぁ!」

 

 

ネズキノコの影響でウタの感情の揺れ幅は自身にもコントロールが出来ない。

簡単に昂ぶり、沈む。

 

だから、その思考を止めるぐらいの大声でチョッパーは叫ぶ。

 

 

「見ろ!この会場を!」

「私が、眠らせた人しか、いないじゃん…」

「馬鹿!この会場を埋め尽くすほどの人が集まってるんだぞ!海は危険だ!

 海賊だって、海王類だっている!それなのにこれだけの人がウタの歌を聞きに集まったんだぞ!」

「―――」

 

 

ウタの胸に嬉しさがあふれる。

トットムジカが騙ったファンは確かに居たがウタの歌が心を震わせた人は確かに居たのだと。

 

 

「世界中が夢中だ!それだけの期待をウタは寄せられてたんだぞ!」

「…でも、それを利用された!トットムジカに眠っている人すべて支配された!」

「え」

 

 

チョッパーは素の声が出た。

 

 

「そうだよ…世界中を私がウタウタの力で眠らせちゃったんだ…

 でも…私が…最初に…やろうとした事…」

 

 

今の状況はウタ自身の行い、目指していた新時代の形そのものだ。

 

ウタが選ばれなかった側になっただけで。

 

ガタガタと震えだす体をウタは止められない。

自身が夢見ていた夢のカタチの歪さにやっと理解が追いついたのだ。

 

そして、ウタは自分がネズキノコを食べた事を思い出した。

 

食べたら死ぬ毒キノコ。

 

カジムの甘言を聞き入れて、眠らずに世界を閉じ込めて逃げる為の。

 

最初から、全部操られていたのだとウタは絶望する。

 

 

「もう、全部手遅れなのかァ…」

 

 

エレジアの滅亡。世界中を眠りに落とし、トットムジカの野望に加担した事。

それどころか自分自身が世界を滅ぼそうとしていた事。

そして、ネズキノコにより限られた自分の命の時間。

 

 

「手遅れじゃねぇ!ネズキノコはなんとかなる!俺が何とかする!」

「もういいでしょ…?こんな苦しくてどうしようもない世界から逃げたっていいでしょ!?」

「良くない!」

 

 

チョッパーは叫ぶ。飾らない言葉を。

 

 

「おれは!ウタに生きててほじぃ!!」

 

 

チョッパーは涙が出た。悲しかった。

自ら死を望むような人間が目の前にいることが悔しかった。

 

 

「俺は医者だ!目の前にいる患者を見捨てられるわげないだろぉぉ!」

 

 

チョッパーは泣きながら叫ぶ。

 

ウタは病気だ。「諦め」という名の病気。

それくらい治せないのに万能薬などとは名乗れない。

 

だが、自分が特攻薬になれない事をチョッパーは理解している。

心の病は、その原因が取り除けなければいくらでも再発する。

 

 

「だからごべぇん!」

「え?」

 

 

チョッパーはもう一度ウタを取り押さえた。

 

ウタの背後のグリルセットが消え、代わりに人が音もなく現れる。

 

 

「トラ男!患者はネズキノコを摂取!意識を落とせるか!?」

「ROOM」

 

 

ウタの背後に現れた目つきの悪いアロハシャツのラフな格好をした男‐トラファルガー・ロー‐は

オペオペの能力を使い丸い手術室を展開する。

 

そしてウタの背中に親指を当て、

 

 

「カウンターショック」

 

 

バチィッとウタの体に電撃が走る。

 

ローにとっては不本意だがドフラミンゴの教育の中には薬物を使った拷問などもあった。

ネズキノコなどは何度か「教材」として対処法を学ばされた経験があった。

 

その適度に加減された電撃は問答無用にウタの意識を落とした。

 

ローが出来なかった時でも一応サニー号にネズキノコに効く薬がある。

出来るならすぐにウタを安静にさせる方が先だとチョッパーは考えた。

 

 

「…どういう状況だトニー屋?」

 

 

寝ぐせを手櫛で直しながらローはチョッパーに状況を聞くのだった。

 

 

 

 

 

 

エレジアが滅びた夜の事をウタはあまり覚えてはいない。

 

覚えているのは、燃えている町と遠ざかっていく見慣れた、シャンクス達の船。

宝物を山のように積み、祝杯を挙げるようにジョッキを掲げた見慣れた背中。

 

振り返りもしなかったその背中に裏切られたのだ、と幼いウタの心は感じた。

そんな事ありえない。何かあったのだとそう感じる心も確かにあった。

 

そんな心の板挟みがずっとウタの心を蝕んだ。

 

カジム、と名乗った男とウタが出会ったのは10年前。

 

旅人やかつての音楽の都を訪れようとする人間は多くはないがいた。

カジムはそんな時折エレジアを訪れる人間の一人だとウタは認識していた。

 

時折、ふらっと現れてはゴードンと話をしている。ウタにとってはそんな認識の相手だ。

 

ウタは町に行く事を避けた。

 

それが何故かは分からないがウタには見たくないモノを見るような気分だったからだ。

 

だが、それが何故かをウタは知る。

 

それは1年前、何故か避けていたはずの廃墟となったエレジアの街の外れを歩いていた時の事。

打ち捨てられていた映像電伝虫を拾った。

 

娯楽に飢えていたウタは、興味本位でそれに記録されていた映像を見たのだ。

 

そこには、

 

 

「誰か!?聞いてくれ!記録を残す!トットムジカの…「魔王」の話は本当だった!

 「魔王」が町を…エレジアを破壊している!」

 

 

エレジアが滅びた日の記録が入っていた。

 

映像の中のエレジアは、夜だというのに薄い明かりがひろがっている。

家々が煌々と燃え、その明かりで真っ暗な空に浮かぶ「魔王」の影が不気味に照らし出されている。

 

 

「あ…!あれは…あの赤髪の男は…それに赤髪海賊団!?戦ってくれてるのか!?」

 

 

魔王に立ち向かい、空を駆けるシャンクス達の後ろ姿が映る。

映像を記録している男性は必死に現在の状況を残す為の言葉を吐いた。

 

 

「この映像を見た人!気をつけてくれ!知らせてくれ!ウタという少女は危険だ!

 あの子の歌はエレジアを滅ぼした!世界を、滅ぼしてしまう!」

 

 

ウタは、映像を見るのをやめた。現実を直視したくなかった。

 

エレジアを滅ぼしたのは「魔王」であり、その「魔王」を呼び起こしてしまったのはウタだった。

シャンクス達はエレジアを滅ぼしたのではなく、人々の為に魔王に立ち向かった。

 

そして、その罪を全て背負って立ち去る事でウタをかばい守っていた。

 

 

『知らねぇ!だけど、シャンクスはそんな事しねぇ!お前が一番知ってんだろ!』

(そうだよルフィ。知ってたんだ。知ってたんだよ)

 

 

ウタは、真実を知って納得した。

シャンクスは、自分が知り、慕ったシャンクスのままであった事。

 

ウタは、もうどうしようもないのだと絶望した。

シャンクスを信じ切れず恨み憎み、海賊は嫌いと公言して憚らなかった自分が無実の罪をシャンクス達に背負わせた。

そして自分がエレジアを滅ぼし、人々を虐殺した原因である事は、受け入れたくとも出来ない事だった。

 

 

「俺ぇは知ってるぜ。ウタ。あの夜の事を。

 ああ、ああ、気ぃを悪くしないでくれ!俺ぇはお前のファ~ンなんだ!

 あれは、お前さぁんは悪くない。ぜぇ~んぶトットムジカのせいさ」

 

 

だから、エレジアの元住人だと名乗るカジムに付け込まれたのだろう。

 

逃げ道が欲しかったウタは、ファンの為と理由を付けた。

 

自分の歌を待つ多くの人がいる。

ウタは海賊が嫌い。

 

歌い続けた。偽り続けた。逃げ続けた。

 

そこにある過去という現実を見ない振り。

 

もはやあの歌を、赤髪海賊団との日々を思い出す歌は歌えない。

ウタにはもう歌う資格がないのだ。

 

 

(新時代からいなくなるべき悪者は誰だ?)

 

 

ウタは歌に脅され続ける。

 

 

 

 

 

 

雲は一つもない空は濁った汚いまだらの虹に薄く輝き揺らめく。

未だ天にある太陽は不安になるくらい黄土色の日差し。

 

 

「…ウタ?」

 

 

ルフィは今服を引っ張る力が抜けた事を不思議に思い、振り向くがそこにはウタはいない。

 

 

「ウタが消えた!?」

「…そうか、お前知らねぇのか」

「おいルフィ!ウタちゃんの必死の頼みを断るとはどういう了見だ!ええ!?」

 

 

ゾロは状況を全く知らないルフィに呆れ、サンジが飛んでくる勢いでルフィに詰め寄る。

 

 

「んな事言われてもなぁ」

 

 

ポリポリとバツの悪い顔で顔をかくルフィ。

 

 

「あれじゃ、のれねぇよ。これはアイツの戦いだろ?

 さっきも私のステージだから手を出すなって言われたし。それなのに俺に助けてはズリィだろ?」

 

 

これはウタの“新時代”をかけた戦いだとルフィは思っている。

 

それはかつて語り合ったウタの夢だ。

そして今日ルフィの夢とも競い合い、ぶつかり合っている最中。

 

それなのに勝てなさそうな相手が出てきたからって掌返しして助けてくれはなんか違うだろうと。

 

 

「で、ここはなんなんだ?空がスッゲェ事になってるぞ」

「夢の世界らしいぜ。俺らは全員同じ夢を見てるらしい」

「…寝ぼけてんのか?」

「こっちもそうとしか説明できねぇんだよアホ!」

「俺らにもよくわかってねぇが…まああれは敵でいいだろ」

 

 

サンジが示す先にはニヤニヤと不愉快な嗤い顔のトットムジカ。

異常な体色と不自然な体躯をしたゴードン。観客席にひしめき合うように立ち並んだ真っ黒な音符の戦士達。

 

 

「これだからかぁい族って奴は。あれだけ夢に浸ればどいつもこいつも支配できるはずなのによう」

「お前がウタのライブを邪魔したのか」

「あぁ?ああ!そうさ!ウタはもう俺ぇの目的を果たしてくれたからなぁ!」

 

 

ケタケタと上機嫌に笑いながらトットムジカは言う。

 

 

「お前ぇさんらもうどうだい、夢に浸らねぇか?」

「断る!さっさとウタとライブ会場を元に戻せ!」

「ウタはお前ぇがとどめを刺したようなも~んだろぉ?…おっと」

「ぅタァァァァ!」

 

 

一時落ち着き黙って動かなくなっていたゴードンが突如トットムジカに襲い掛かる。

 

 

「さぁて、お前ぇは用済みだぜ、ゴォドォォォン…」

 

 

そう呟き、パンパンッと2つ手を叩くと、ゴードンが縮んでいく。

ゴードンはみるみる縮んで縮んで、最後には消えてしまった。

 

元々ウタを追い詰める為だけに連れてきただけだ。

もう一つの役目に戻ってもらうとしようとトットムジカは内心笑った。

 

 

「お前!仲間を!」

「仲間ぁ?あののぉろ間でとぉん馬な男が仲間だなんて吐き気がする!

 駒は駒として働いてもらうだけさぁ、ウタと同じようにな…!」

 

 

ルフィが地面に拳を付け構える。ギア2の構えだ。

 

それを見て流石のトットムジカも顔色を変える。

 

 

「…ウタは助けねぇ~んじゃなかったのか?」

「関係ねぇ。俺がお前が気に入らねぇからぶっ飛ばす」

 

 

それに、とニヤリとルフィは不敵に笑う。

 

 

「ウタは俺の友達だぞ。聞いただろ?新時代を作るって世界に啖呵切ったんだ。

 あんなのでへこたれるような奴じゃねぇって信じてんだ、俺!」

 

 

ゾロもそれでこそ、と笑う。

サンジもやれやれ、と笑った。

 

それはそれとして、

 

 

「アイツの夢を利用して笑ったお前は許さねぇぞ!トットムジカァッ!」

 

 

体から蒸気を燻らせルフィは弾丸のようにトットムジカへと飛び出した。

 

それに応じるように黒い音符の戦士達が雲霞の如く押し寄せてくる。

 

ゾロは刀を咥えなおし、3刀流の構えで迎え撃つ。

サンジは空中を駆け、戦士達の先方を蹴散らす。

 

夢の中で戦いが始まった。

 

 

 

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