エレジアの目と鼻の先の沖。
既に船から目視でエレジアの島が見えている場所。
海軍の船が五隻、停泊している。
「敵襲!敵襲!赤髪海賊団です!至急、応援を…!くそッエレジアはもう目の前なのに…!」
そして、その船のうち一つにレッドフォース号が接舷している。
「悪いな。ちょっとエレジアまで道案内をしてもらおうか」
カラカラと、悪びれないで笑うシャンクスが海兵の使う電伝虫の通信遮断ボタンを押しながら言う。
「赤髪…!」
「おっと、まだ意識があったか」
消耗したモモンガ中将が剣を構え叫ぶ。
四皇の覇王色の覇気。それは鍛え上げられた海兵であっても意識を失うほどの威圧だ。
海軍の戦艦5隻をあっという間に制圧。
それも船の片隅に隠れていた通信員だけがギリギリ意識を保てる程度に加減されて、だ。
そうであってもそれを目の前で浴びたモモンガは危うく意識を飛ばされかけた。
「どういうつもりだ貴様!」
「娘が殺されかけて黙っている父親がいるか?」
「エレジアだけでなく世界を滅ぼすつもりか!」
「デッケェ事をやる娘の手伝いならするさ」
明るくと飄々と笑うシャンクス。
シャンクスの後ろには赤髪海賊団の幹部も控えている。
モモンガにはこの状況をどうにかする手立てが思いつかなかった。
「ちょうどいい。お前も来るといいさ」
◆
「ウタではない。トットムジカ…」
「俺達が聞けたのはそれくらいだな」
ウソップはコビー達と合流し、壊れた民家の一角で情報交換をしていた。
フランキーの風来砲でトットムジカから逃げ飛んだ時に起きた空間の歪み。
それはブルーノの使うドアドアの実の「空気開扉」だ。
ブルーノの顔を見た時に一悶着起きかけたが今はそんな場合ではないと矛を収めている。
「やはり、ウタだけではなかったのか…」
「強引過ぎるとは思ってたけどそんな企みがあったのね…」
「…っていうか急がねぇとプリンセス・ウタが死んじまうのか!?」
コビー達はトットムジカの存在に納得し、
ナミはウタの突然の凶行の訳を知り、ウソップは時間に追われる現状に慌てる。
「トットムジカ…聞いた事がある気がするけれど…ごめんなさい思い出せないわ」
「…確かに。エレジアに関わる名前で見た気がするのですが…」
引っかかるが思い出せない事に頭を抱えるロビンとコビー。
「…!?」
「…ルフィ?」
ウソップとコビーの二人がハッと会場の方を見る。
2人の見聞色がルフィが戦い始めた気配を感じたからだ。
そしてその視線の先、
「皆さーん!どこですかー!」
幽体モードのブルックが空を飛び、叫びながらウソップ達を探していた。
「おーい!こっちだ!」
フランキーが手を振り、アピールするのをブルックが見つけた。
「こちらに居ましたか!」
「ブルック!?なんでお前その姿で?」
「あ、はい。いえそれどころじゃないんです!大変なんですよ!
会場にトットムジカと名乗る敵が現れて、ユメユメの能力者がどうとか!」
「あーもう!状況が動きすぎだ!」
「落ち着いて説明して!」
あまりにも状況が見えないウソップ達は激動する状況の動きに混乱していた。
気を落ち着け、状況をまとめる。
「ユメユメの実…」
「ブルック、あなた、トットムジカという名前に心当たりはある?」
「あの男がどうかは分かりませんが確か何代か前のエレジアの国王の名前ですね。有名な作曲家ですよ!」
「元凶が現れたんなら今すぐルフィに加勢しに行くべきじゃねぇのか!?」
ウソップが気炎を吐く。
「いえ、それはまだ止めた方がいいでしょう。この状況に計画的に落としこんだ敵です。
それが姿を現したという事はおおよそ計画が最終段階にあるという事」
「ウタにすら手こずった私達がそれを越えるであろう敵に策もなく飛び込んでもいい的になるだけか」
「…情報が欲しいわね」
「情報、たって!そんな悠長な事言ってる暇あるのか!?というかそんなもんあるのか!?」
「ルフィとゾロとサンジがいりゃそう簡単には負けねぇだろ」
「あのぉ…」
恐る恐るといった感じでブルック。
「どうしたブルック」
「確証はありませんが…多分あのトットムジカという男、私と同じですね」
「…同じ?」
ブルックが幽体になった時、何故か自分の体の存在しない夢の世界に紛れ込めた時点から、
この世界は魂のエネルギーに近しい性質を持っているのではないかと感じていた。
そしてそれが何を意味するかと言えば。
「何と言いますか…この世界やあの男自体が私と近しい感じがします。
あのトットムジカと名乗った敵は多分もう現実には体が無いんじゃないかと…」
「はぁ?そんな事…あり得るか…」
ブルックはヨミヨミの実の能力者。
一度死んでも、二度目の生が約束されている復活人間だ。
だが、ブルックが死んでから肉体を一度見失い、発見するまでに長い時を経て、本来の肉体が白骨化していた。
それでもなおブルックは復活した。世にも不思議な動く白骨死体として。
ブルックは常識など関係なく能力を成立させる悪魔の実の恐ろしさを正しく身をもって証明していた。
ここは夢だとゴードンは叫んでいた事をウソップ達は知っている。
そしてブルックはユメユメの実の能力者だと聞いた。
その事からトットムジカは意識だけの存在でこの世界にいるのではないかという仮説だ。
「つまり、あのトットムジカは昔エレジアの王であったトットムジカかもしれない、と?」
「聞く限り少なくともウタさんとゴードンさんの2人と面識があったならエレジアにいたのは確実ではないかと」
「そして、王であったのなら…」
コビーが2人が言わんとしていることを引き継ぎ、その言葉に合わせこの場にいる皆は城を見る。
「薄い線だな…」
「…一切手掛かりのない現状だ。薄くとも探すべきだろう」
言い、ブルーノは空気開扉を開く。
皆それに続くように扉をくぐりながらロビンはもう一つ、ブルックに聞く。
「…ブルック、あなたの知ってるエレジアの「魔王」の話、教えてくれない?」
「ええ、かまいませんが…」
「私が知っている話は「魔王」と呼ばれる何かがエレジアに封じられており、
それを呼び起こしてはいけない、といったポピュラーな話ね」
ブルックはおや、という顔をする。
「私の知っている話と違いますね」
「どんな話なの?」
「譜面です。エレジアに伝わる禁断の楽曲「魔王」の譜面。
一度それを演奏した者は「魔王」に取り殺されてしまう、そのような…」
ブルックはあ、という顔になった。
かつてのエレジア王トットムジカは王であり、作曲家。
エレジアに封じられた禁断の楽曲「魔王」。
そしてエレジア事件の「魔王」の夢。
示すのは奇妙な繋がり。
「…先にそれを話してほしかったわ」
「ヨホホ!これは失敬!」
「エレジア事件の話と併せて考えると希望が少しは見えてきたかしら」
一団はかすかな希望を求めて城へと急いだ。
◆
「ゴムゴムのJET銃!!」
音を貫く勢いで放たれたルフィの拳が黒い音符戦士達の一団を吹き飛ばす。
「三刀流 黒縄・大龍巻!!」
ゾロに鋭く振るわれた三刀が竜巻を巻き起こし、進路上の敵を切り刻みながら吹き飛ばしていく。
「悪魔風脚
サンジの赤く輝く足が閃いたかと思うと一瞬の間に蹴りつけられた敵達は後続を巻き込み、吹き飛ばしながら飛んでいく。
三者三様に黒い戦士達を嵐のように軽々と薙ぎ飛ばす。
だが黒い戦士達は雲霞の如く後から後から押し寄せて終わりは見えない。
ウタの歌を聞きに集まった会場の観客全てが支配され、黒い音符の戦士に変えられてしまったのだ。
文字通りに万軍を相手にするルフィ・ゾロ・サンジ。
それをにやにやと笑いながら眺めるトットムジカ。
「許さねぇ~、ね!どう許さねぇ~んだ!
トットムジカが叫び、腕を振るうと数えきれない程の火の雨が空から降り注ぐ。
その炎は黒い戦士達をも巻き込みながら燃え盛るがルフィ達はひるまない。
それらを容易く避け、撃ち落としながらルフィ達は黒の戦士の軍を吹き飛ばし続けていた。
トットムジカはこれだけの物量差があれば即座に鎮圧できるだろうと思っていたが未だにルフィ達に疲れは見えない。
憶を超える懸賞金を懸けられた海賊達を甘く見ていたと考えを改めなければならなかった。
だとしても、トットムジカに焦りは一切なかったが。
ウタがいない今、ここはトットムジカが支配する夢の世界。
ルフィが黒い戦士達を突破してトットムジカに拳を放っても、
「音符…!ウタのと同じか!?」
漆黒に輝く音符の群れがその拳をはじき返す。
驚いて固まったルフィをトットムジカの鍵盤の腕が薙ぎ払い吹き飛ばした。
「ルフィ!」
「問題ない!」
殴られ、吹き飛ばされた感覚はある。痛みもある。
ルフィはここが夢の世界だとは信じられてはいなかった。
だが、ウタは消えた。それこそ、夢のように。
どっちだってどうでもいい事か、と怒りを燃やして再びルフィは飛ぶ。
「わからねぇ~のか!?」
「なにが!」
「無駄だっ~て事さぁ!寝色ぉ!」
受けたトットムジカの拳から衝撃波が放たれ、再びルフィが吹き飛ばされ瓦礫に埋まる。
「フンが!」
まだまだ元気いっぱいと瓦礫を吹き飛ばしながらルフィは立ち上がる。
ルフィに目を向けたトットムジカに
「悪魔風脚
サンジが赤く燃え上がる足で強烈な一撃を。
「三刀流 夜叉鴉!」
ゾロが咥えた刀の前で2刀を重ねた多重斬撃を、それぞれ意図もせずにトットムジカを挟みように攻撃を加えるが、
「むぅ~ださぁ!」
同じく漆黒の音符の壁が攻撃を阻んだ。
お返しとばかりにその場で一回転。羽にも見える鍵盤のような白黒の腕から莫大な量の音符を出して一帯を薙ぎ払う。
トットムジカの追撃の音符をそれぞれ躱しながら、再び黒の軍団へ飛び込んでいくゾロとサンジ。
「もぉう諦めたらぁどぉうだ!?」
「知るか!俺は諦めねぇ!」
ゴムゴムのJET鞭!と足で鞭のように黒の戦士の一団を一瞬で薙ぎ払い。
続け様に拳で雨霰と乱打するがトットムジカには通用しない。
トットムジカの力は強大だ。
だが幾多の戦いを潜り抜けたルフィ達と戦う事が少なかったトットムジカでは経験の差は大きい。
ルフィ達の動きにトットムジカはついていけていない。
だが、ルフィ達の攻撃はトットムジカを傷つける事は出来ない。
負けは見えない。だが、じりじりと消耗を強いられる息苦しい戦いが続く。
◆
ウタと同じように夢から弾きだされたゴードンは現実のエレジアの森を必死に走っていた。
自分が犯した罪を悔いながら、老いた自分の体に無理を押し通して自分を叱咤しながら会場がある小島へと。
水道橋を抜け、痛む腹を押さえながら急ぐ。
息が切れる。足が痛む。
限界がきて、走れなくなっても、壁に手を突きながら歩いていく。
謝罪しなければならない。
自分の罪を。
謝罪してどうなるものでなかったとしても伝えなくてはならないのだと。
『全ぇ部、お前ぇのせいだろぉぅ?』
そうだ。その通りだと、うちから出る罪悪感に押しつぶされそうになりながら進んでいく。
そして、
「シャンブルズ」
ローの能力によって移動させられ、ゴードンの見える景色が急に変わり、倒れ込む。
「だ、大丈夫か?」
チョッパーが心配そうに覗き込む。
ゴードンの見える景色には、チョッパーとローとそして。
「久しぶりだな、ゴードン」
「シャンクス…」
赤髪海賊団の幹部達と眠るウタに膝を貸したシャンクスがそこにいた。
映画の納得いかない点その8・ビックマム海賊団
手を貸すのはまだ納得できる。海軍の指示で戦ったりもまだギリギリ。
だけど観客の避難手伝ったりは絶対しないだろうと。