幸せという名の自殺未遂   作:ROCKSTAR

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終わりへの始まり

 

 年数万人に上る自殺者。自殺者は自分の命がこの世から消え失せるまで、何を考えていたのだろうか。この世に対する恨み節? それとも、来世への期待だろうか? まあ、想像したところでそんなことは本人に聞かないと分からないだろう。しかし、それはどうあがいても無理な話だが。『死人に口なし』とはよく言ったものだ。

 

 ただひとつ言えるのは、俺はこの世の恨み節も、来世への期待も考えはしないということだ。俺が自殺を実行する時は、くたばる直前まで歓喜の言葉を連呼し続ける。薬物で頭がいかれた人間のように。

 『死』こそが、最低最悪の人生を過ごしてきた俺にとって、唯一の楽しみなのだから。

 

 

 

                                                              

 

 

 

 キーンコーンカーンコーンと鳴り響くチャイムの音を皮切りに、教室内は喧騒に包まれる。本日4月上旬、新年度の始まり。高校生活の折り返し地点、2年生へと進級した。

 今日は始業式なので午前中で終わる。そのため喧騒の内容は午後からどこへ行くか、何をするかの話が大半を占めている。俺はそれに混じることなく、机に乗っていた筆記用具などを鞄に放り込み、教室を出る。食堂にある自販機で炭酸飲料を購入し、飲みながら図書室へと向かった。

 

 入学してから今に至るまで、放課後は図書室で本を最終下校時刻になるまで読むのが俺の日課となっていた。ただ、図書室にある本はほぼ全て読みつくしてしまっていたので、今後は放課後に何をすればいいか悩む。それでも、新学期ということで新しい本が入っている可能性はあるので、とりあえず行くだけ行くことにした。

 

 

                     

 

 

 

 図書室には司書の人だけではなく、図書委員の姿も見受けられた。今日は午前中で終わりだというのに委員会の仕事があるとは、ご苦労なことだ。その中には見知った顔がふたり――女子生徒と男子生徒がひとりずつ――いた。

 

「あっ、二階堂(にかいどう)君……」

 

 女子生徒の名前は、村上文緒(むらかみふみお)。おとなしくて目立たないが、容姿は良く、性格も優しく礼儀正しいので男子生徒からの人気は高い……らしい。1年生の頃に同じクラスの男子生徒が噂していたのを耳にしただけなので、本当のところは分からない。まあ、悪い噂は聞いたことがないので、多分本当なのだろう。

 俺が彼女について知っているのは、成績が良いということと、1年生の頃から顔なじみであるということだけだ。前者に関しては、試験の成績優秀者が校内の掲示板に載るのだが、それに彼女の名前が載っていたことで知った。また彼女は、1年生から図書委員をしているので、入学してから図書室を利用している俺とは必然的に顔なじみになった。これが、後者の理由だ。クラスも2年になってから同じになったので、顔を合わせる機会も増えるだろう。

 しかし顔なじみとは言っても、俺は彼女とはほとんど話をしたことがない。精々貸出しの手続きをする際に二言三言交わす程度だ。彼女の性格がどのようなものかはっきり分からないのも、そういった理由からだった。

 

「どうも……」

 

 俺に気付いて声を上げた村上さんだったが、俺は適当に返事をして鞄を机に乗せる。その直後、もうひとりの知った顔である男子生徒が近づいてきた。

 

「ちょうどよかった。今日、二階堂くんが探していた本が入ったよ」

 

 その男子生徒の名前は、黒川将平(くろかわしょうへい)。あまり口数は多くないが交友関係は広く、性格も真面目で『お人好し』と形容してもいいほど他人に優しい。村上さんと同じように、表立って目立つことはないが、クラスメイトからの評価は高い。いわば縁の下の力持ち的な存在と言える。

 

「……よく入ったね。あの時は完全に駄目もとで聞いたんだけど」

 

「終業式のちょっと前に、4月から新しく入れる本について会議があったんだけど、俺がその本を候補に挙げたら今日運よく通ってくれててね。高い本だからちょっと厳しいかなとも思ったけど、よかったよ。もし読むなら持ってこようか?」

 

「あ、ああ……悪いね」

 

 彼とは1年、2年と連続して同じクラスで、特に俺にはおせっかいと言っても過言ではないほど積極的に構っている。それも入学して間もないころからだ。行事の時にはいつも班を組まないかと持ちかけてくるし、昼には俺の机に椅子を持ってきて飯を食べる。

 他人と関わりを出来る限り持ちたくない俺にとって、それはうっとうしい行為なのだが、今のように俺にとって有益な事物をもたらしてくれることがあるので、口出しするのも憚られた。

 

「ほい。それにしても、かなりでかい本だよね。余計なお世話だけど、貸し出し期限までに読み終わるかな? まあ、延長すればいい話だけど」

 

「……ここまででかい本を読むのは初めてだけど、多分大丈夫。5日もあれば読み終わると思う」

 

「マジか……俺じゃ1か月でも読み終わらないだろうな……」

 

 黒川くんの嘆きを聞き流しつつ、俺は渡された本を早速開く。

 自慢ではないが、俺は本を読む速度がかなり速いと思う。今までにかなりの冊数を読んだことによる賜物かもしれない。

 

「……」

 

 ――とりあえず、続きは家で読むか。

 ある程度はここで読んでもよかったのかもしれないが、図書委員が忙しなく動いている様を見て、俺の存在は邪魔になると判断し、すぐに読む手を止めて借りるための手続きを取ることにした。

 

「これ以上ここにいても邪魔になりそうだから、そろそろ行くことにするよ。とりあえずこの本借りたいんだけど、いいかな?」

 

「りょ~かい。今二階堂くんのカード取ってくるから、ちょっと待ってて」

 

 貸出カードのあるカウンターへ黒川くんが向かって行く。俺も椅子を戻して鞄を持ち、彼の後を追った。

 

 

 

                                                   

 

 本を借り終えた俺は、そのまますぐに帰宅した。着替えを済ますと、すぐに借りた本を読む。今日は今までで一番本を読むのが捗り、夕飯を食べるために一度席を立ったことを考えても、かなりの速度で読み進めることができた。結局、寝る前には3分の1まで読んでしまった。黒川くんには5日もあれば大丈夫、などと言ったが、これなら3日で読み終わるだろう。

 

 

 

 

 いつか来る自分の『死』がどういうものになるか、期待と想像を膨らませながら、俺こと二階堂正美(にかいどうまさみ)の今日が終わりを迎えた。

 ――明日も今日のように何事もなく終わりますように。あいつらの目の前で自分の腹をかっさばける日が来る、その時まで。

 

 

 

 




しばらくはオリキャラ同士のやり取りが多くなってしまうかもしれませんが、ご勘弁ください。
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