ようこそ負完全がいる教室へ 作:てぶらじーんず
ある空間にて。
一人の男と神が居た。
「うおおおお!! 好きな能力を何でもくれるってマジか?」
「無論だ。どのような力でも与えよう」
「よっしゃあ! えーとでも何にしよう。【王の財宝】は定番だけど踏み台の能力だし、【無限の剣製】とかは戦闘以外に使い道が思い浮かばねえ……そうだ! おい決まったぞ!」
「なんだ?」
「【球磨川 禊】! 俺を週間少年ジャンプに出てきた【球磨川 禊】にしてくれ! 地味に顔も可愛いとか言われてたし能力も最強でカッケェじゃん!」
「良かろう。汝を【球磨川 禊】にしてやろう」
「やったぜ! ありがとよ、来世ではチートを使ってハーレムを築いてやる!」
「では汝に与えよう」
神は手を男の頭に手をかざし、光を放ち男に力を与えた。
「うはははは……ああああああああぁぁぁ!! なんだこれ!? 気持ち悪い! くそくそくそくそ何しやがったァ!? だめだとまらね、嫌だいやだたすけておれがおれじゃなくなる!!」
「良かったな。これで汝は【球磨川 禊】とやらになる。では産まれ直してこい」
「騙したのか! おれを!! ゆるさねえ!!! しねしねしねしねしねぇ! あ、だめだめむりむりむりきえたくない! きえたくない! やめてやめて…………『あッ』」
こうして男は転生した。
望んだ通り、【球磨川 禊】として。
最低最悪の
★ ★ ★
ーー神は忠実に願いを叶えた。
彼は球磨川 禊として名前を与えられた。
最初は両親も愛情を持って接していた。しかし、愛情が嫌悪へと移り変わるのにさして時間はかからなかった。我が子が放つ不気味さに、気持ち悪さに恐怖し、躾と称した暴力を振るった。
日に日に球磨川は身体に青アザを増やしていくが、それでも彼はへらへら笑っていた。
それも当然。彼の性質は過負荷だ。
例え庇護して然るべき、幼児へ向ける暴力さえも、長年連れ添った恋人のようにーー親愛なる友人のようにも許容する。
人間として“終わって”いる。
それこそが過負荷。
例え泥臭い靴を食わされても、グツグツに煮えたガソリンを飲まされても彼の表情が曇る事はなかった。
薄気味悪く感じた両親はより一層痛めつけ、泣き喚かない彼をまた不気味に思う悪循環。事態が動いたのは、両親の態度を不審に思った近隣にすむ住民の通報だった。
両親は児童虐待の容疑で逮捕され、彼は児童養護施設へと送られた。
20××年×月×日。
児童養護施設、はなぞの園
職員三十八名
及び児童四百八十名が精神疾患を起こし閉鎖。
更に一人の男児が行方不明となる結果になり、多いに世間を賑わせた。
ーーその男児の名前は【球磨川 禊】
職員及び児童は彼の名前を出すと、異常なまでに怯え、周囲に当たり散らすか蹲り、まともな答えは返って来なかった。
警察は何らかの事件性があるとして男児の捜査を開始したが、成果はゼロ。まるで彼の痕跡すら掴めなかった。
結局、捜査は何も進展を得ず打ち切りとなった。
★ ★ ★
さて、ここで男が神より授かった特典の話をしよう。
【球磨川 禊】には、いくつか習得、または喪失したスキルがある。
例を上げると、以下の通りだ。
【却本作り】
自分と同じ存在へ堕とすスキル
【手のひら孵し】
因果逆流のスキル
【実力勝負】
三分間あらゆるスキルを使用不可にするスキル
【大嘘憑き】
全てを無かった事にするスキル
【劣化大嘘憑き】
想いの篭った現象以外を無かった事にするスキル
【安心大嘘憑き】
三分間だけ全てを無かった事にするスキル
【虚数大嘘憑き】
無かった事にした事を無かった事に出来るスキル
これらは殆ど球磨川自身のスキルではない。
借り受け、譲り受け、組み合わせて構築したスキルが大半を占めている。
しかし、これらは作中登場した球磨川禊という存在にとって、男が想像していた必要不可欠なピースである。
故に【球磨川 禊】となった彼には全てのスキルがそのまま使用出来るし、劣化したりもしない。
ただ、彼にとってそれが嬉しいかと尋ねれば
ーー別に、どうでもいい
と答えることだろう。
何故ならば、彼にとって、こんな
これは男がチート転生でハーレムを作る英雄譚では無い。
ただの歩く
★ ★ ★
綾小路 清隆はホワイトルーム出身である。
ホワイトルームとは人工的に天才を作り出す、という目的の為に設立された施設だ。
綾小路はそこで地獄というのも生ぬるい教育を施され育って来た。他に同期が何人も居たが誰も彼もが試練に耐えられず脱落して行った。
彼は脱落者が出るのを尻目に、易々と試練を乗り越えていった。特別、気にすることも無かった。
ホワイトルーム唯一の成功作。
綾小路を知る者は畏怖と敬意と憐憫の感情を込めて最高傑作と呼ぶ。
そんな彼は今現在、ホワイトルームの裏切者の手引きにより高度育成高等学校に入学した。
進学率および就職率百パーセントを謳うマンモス校。夢見る若者達の憧れ、希望ーー綾小路にとっては、全部どうでもいい事だ。
肝心なのは入学してから卒業するまでの三年間、あらゆる外部との接触を一切断つ事。
この条件こそが綾小路にとっては重要だった。
何せ綾小路はホワイトルームでの唯一無二の成功作。まず間違いなく追っ手が仕掛けられるだろう。
だが、この学校であれば。
外部と一切連絡を取れない場所であれば、追っ手が綾小路を捕らえる事は出来ないだろう。
綾小路にとってこの学校は安全地帯。
気兼ねなく羽を伸ばせる絶好の土地である。
そして、順調に高校生活が幕を開けるーーと、思いきやそうでも無かった。
パチパチと、まばらに上がる拍手を背に、椅子へ座り直しながら、失敗したと悟った。
やはり、自己紹介が簡潔過ぎたのがダメだったのだろうか。いささか、公開する情報が足りなかったらしい。
人間関係は、苦手だ。
完璧な教育を施された綾小路にも欠点はある。
それはコミュニケーション能力の欠如。
ずっと一人で育成された為、同年代と会話をして来なかったので要領が掴めない。
こればかりは周囲を観察しながら、地道に上げていくしかない。内心ため息を吐きながら、後続の自己紹介に耳を傾ける。
ぞくり、と悪寒がした。
背筋に走る妙な違和感。
後方を振り返れば黒髪黒目の童顔気味の男子が立っていた。
『どうも、皆さん初めまして!』
その笑顔は爽やかだ。と、誰しもが表面状は思うだろう。
『週間少年ジャンプで連載が終わったので、MF文庫Jへ電撃移籍しました!』
だが、なんだろうか。
彼の奥底から滲み出てくるこの気持ち悪さは。
『球磨川 禊です。どうぞ仲良くしてください』
ーー生理的に受け付けない、という感情を抱いたのは初めてだ。
彼と、生涯相容れることは絶対にない。
不思議と、そう直感的に確信した。
綾小路清隆と球磨川禊。
ホワイトルーム史上最高傑作と、人類史上最低な過負荷。
二人の出会いはここから始まった。