「はあ〜、いいなあ……」
「どうしたファイン。そんな恍惚とした顔して。またラーメン絡みか?」
「うん、だけど今回はお店のこと。見てこれ。夫婦で話し合いを重ねながらメニューもレイアウトも決めていったんだって。素敵でしょ。あー私も一度でいいから自分の店を持ってみたいなあ」
「まあ実現可能かはともかく、夢を持つこと自体はいいよな。せっかくだし、ちょっと一緒に店を持ったときのシミュレーションでもやってみるか?」
「わあーいいね! じゃあキミがお客様の役を演じて下さるかしら?」
「ああわかった。じゃあいくぞ……おーここが新しく開店したラーメン屋か。ちょっと入ってみるかな。ガラガラガラガラ」
「あ、だめだよいきなり入っちゃ。射殺されちゃうから入口でボディチェックを受けないと」
「店入るまでの敷居高過ぎるだろ。いやでも王族が店長だからやむを得ないのか……? まあいいや、とりあえずボディチェックを受けて店に入ったぞ」
「いらっしゃいませ。まずは履物を脱いで下さるかしら?」
「高級料亭かよ。土足じゃないラーメン店とか初めてなんだけど」
「ではお席にご案内します。当店は初めてのようですね。高層ビルの夜景がきれいでしょう」
「どこに連れていかれるんだよ俺は。てかいつの間にエレベーターに乗ったんだ」
「チーン、到着しました」
「そこは言うのか。まあビルの最上階ってんなら流石に眺めはいいんだろうな。窓からは閑静なオーシャンビューが見えたりするんだろ?」
「うんうん。オーシャンビューは当たってるよ。でも閑静ではないかな。多分ローター音が凄いから」
「最上階じゃなくヘリポートかよ。しかも裸足だし。いやもうそろそろ注文したいんだけど」
「まあまあお客様。いいからヘリに乗って下さる? 機内にメニューがありますから」
「まあそういうなら……てかまさか空を遊覧しながらラーメン食べるのか?」
「ううん、流石にそれだとゆっくり味わえないからね。ラーメンができるまでの間クルージングを楽しんでもらおうってことだよ」
「まあ斬新ではあるか。絶対元とれないような気がするけど。とりあえずようやく注文だな。ラーメンの種類は何があるんだ」
「一通りは用意してるよ。醤油に味噌、塩に豚骨、魚介にトマトにチキンも」
「最後のは市販のやつだろ。匂いはマジ最高だけどな。ええと、とりあえずここは醤油で」
「承りました。あっさりとこってりはどちらになさいますか?」
「それも選べるのか。ならこってりで」
「畏まりました。では体脂肪率30%を超えたこのシェフがお作りいたしますね」
「いやスープの話じゃないのかよ! 嫌な前情報聞いちまったな。それより、いつまでクルージングするんだ?」
「それについてですが、当店は材料の新鮮さをウリにしておりまして」
「まあ、ラーメン屋ならよくあるセールスポイントだよな」
「なのでいち早く新鮮な小麦粉を受け取れるよう空港に向かっています」
「いやおかしいわ。何でラーメン食べに来たら空港まで輸送されてるんだよ。あーもういいや。それで、空港行けばようやく食べられるんだよな?」
「もちろん。ところでお客様、当店にはもう一つ他店には無いポイントがありまして」
「今までの流れが他店に無い事だらけだったけどな。で、どんなポイントだ?」
「はい。こちらのラーメンは全てチャーシューではなく羊の肉を使っております」
「ああ母国の名物を活かしたのか。それは中々いいアイデアなんじゃないか?」
「ふふ、ありがとう。だけど当店は材料の新鮮さをウリにしているわけでしょ。だから食べられるのはアイルランドの空港になっちゃうかな〜。で、せっかくの里帰りだからその後はお父様たちと面会して、お許しを貰ったらキミと結婚して、数十年ほど王族の務めを果たしたら譲位してトレセン学園の近くで小さなラーメン屋を開くの。どう? 素敵でしょ?」
「いやもう色々と先走り過ぎだろ。けどまあ……悪くない夢なんじゃないか?」
そう言ってやると、ファインがふふっと笑みを浮かべる。
まるでその内本当に実現してやるぞ、と言わんばかりの挑戦的な表情に、少しだけたじろぐのだった。