「読書感想文を手伝ってほしい?」
「はい……夏休みの宿題なんですが、毎年何も書くことがなくて。今年こそは提出するようにと先生に言われてしまいました」
「まあ学生の頃は中々書けないよな。自分も散々苦労した覚えがあるよ。わかった、協力する」
「ありがとうございます。すみませんがよろしくお願いします」
「それで一体、何の感想文を書くつもりなんだ?」
「『走れメロス』です。先生から勧められたので」
「まあ妥当だな。短い、読みやすい、メッセージ性がわかりやすい、といいことずくめだ。中身はもう読んだのか?」
「はい。なので早速進めていきたいんですが」
「わかった。じゃあまずは読み終えたときの気持ちを好きに書いていってくれ。箇条書きで構わないから」
「わかりました―――できました、トレーナーさん」
「お、早いな。この調子ならすぐに終われるかもな。どれどれ……」
『ずっと走っているメロスは、凄く気持ちがいいんだろうなって思いました』
「ええと……これだけかな?」
「はい。さすが先生が勧めてくれただけあって、すごく共感できる話でした。何も気にせず三日間好きに走っていられるなんて本当に羨ましいです」
「ええ……」
「あの……駄目でしょうか?」
「いや、あくまで本人の感想だし、これはこれで……ただもう少し状況別に見ていきたいかな。例えばこの中盤のシーン。トラブルが重なったことでメロスの体力が限界に近付いてるんだけどここはどう思う?」
「頑張れ、って思いました」
「お、いいぞ。その理由は?」
「はい、レースだとそこを我慢した先に先頭の景色が見えてきます。なのにそこに至るまでに倒れてしまうのはちょっと残念だなと思いました」
「つまり応援とかじゃなくて、『もうちょい頑張れよだらしねえな』って意味かな?」
「そんな感じですね」
「……うん、落ち着いて対処していこう。何もメロスに焦点をあてるだけが感想じゃない。メロスの代理で人質になった友人のセリヌンティウスや無礼をはたらきかけたメロスに死刑を命じた王様もいるんだ。スズカ、今いったその二人の心境を想像してここに書いてくれ」
「わかりました―――できました」
「今度も早かったな。よし、見ていくか」
・セリヌンティウスの心境……ずっと縛りつけられたままなので、走れなくて悲しい
・王様の心境……仕事が多忙なので走れなくてイライラしている
「どうでしょうか?」
「うん……まず登場人物全員とも走るの大好きっていう固定観念を捨てようか。これじゃ王様、自分が走れないからメロスを死刑宣告したみたいだ」
「でもメロスのせいで仕事が遅れてしまいますから……死刑は妥当では?」
「ちょっと死刑の基準軽すぎないかな? もしくは人の命より走ることの方が重要とか?」
「………まあ、人命の方が大事、ですよね。ハナ差くらい?」
「マジでギリギリだったよ怖いよ……よしわかった。残念だが自由に感想を書いていくのはハードルが高そうだ。僕がお題を作るからそれに回答していく形式にしよう。答えを繋ぎ合わせたものを感想文として仕上げることにする」
「なるほど……わかりました、やってみます」
――10分後――
「よしできた。じゃあちょっとこれに回答していってくれ」
「わかりました。ではいきます」
(とりあえずこれで何とかなるかな。仮に自分が回答したとすれば――)
問① 『走れメロス』の簡単なあらすじを書きなさい(長くて三行くらい)
・自身の身代りになってくれた友人のため、色々なトラブルや感情に振り回されながらも、最後まで諦めず走り抜く話
問② この話の中で一番印象的な場面はどこでしたか? またそう思う理由はなんですか?
・体力の限界を迎え、ついに倒れてしまうものの、自らの使命を思い出して再び立ち上がる場面。例え命と引き換えにしても信条を守り抜こうとする姿に心打たれた
問③ この話の登場人物たちの行動で一番印象的なものはなんでしたか? またそれを選んだ理由はなんですか?
・メロスが途中で何度も諦めそうになったところ。常に完璧ではなく、弱いところもある人間としての一面が良く表現されている
問④ 問③の登場人物の行動で、もし自分だったらどう行動するか、理由も添えて記入下さい
・同じく何度も諦めそうになるとは思うが、そうなる前にタイムスケジュールを練って計画的に行動することを心掛けるだろう
問⑤ この話を読んで自分はこれからどういう風になりたいかを記入下さい
・信念を持ちつつも、冷静沈着に行動できるようになりたい
(こんな感じかな。とはいえ果たしてどうなるやら)
――9月1日――
「先生、読書感想文を完成させました」
「まあ、ついに……成長したわねスズカさん」
「はい、トレーナーさんに手伝ってもらって。自分でいうのもなんですが、今回は上手く書けたと思います」
「そうなのね、楽しみだわ。早速拝見させてもらってもいいかしら?」
「はい、ぜひ!」
「ありがとう、どれどれ――」
私はこの夏休みに『走れメロス』を読みました。これはメロスが一人で超長距離に挑む話です。
私がこの話を読んで一番印象的だったところは、メロスが一睡もせずに十里の路を急ぐ場面です。トレセン学園は門限があるため、人気のない夜道を一人走り続けられるメロスが羨ましいと思いました。
ただ、友人のセリヌンティウスと王様の行動は私にはいまいち納得が行きませんでした。メロスの代わりに縛られて三日もじっとしているくらいなら一緒に併走するべきだと思いますし、王様もイライラしているなら二人の後を追いかけてスカッとするべきだと思います。
もし私がどちらか二人であれば、皆で一緒に走るように誘いかけたことでしょう。メロスは一人で先頭の景色を見たのかもしれませんが、あれほどの長距離は苦手のようで、途中で倒れてしまいました。
独りで走ることはとても気持ちがいいものの、やはりいざという時に自分を鼓舞してくれるのはライバルの存在であることを私は今までのレースを通じて知りました。
この話を読んで、私はあらためて走ることは気持ちがいいものだと実感しました。長距離はあまり得意じゃありませんが、これを機に挑戦してみるのも悪くはなさそうです。
「どうでしたか? 先生」
「ええ、頑張りましたね。スズカさん」
「はい!」
「でもやり直しで」
「うそでしょ……」