「では今日はここまで。だいぶ寒くなってきましたのでインフルエンザ感染防止のためにも手洗いやうがい、またワクチンの摂取など自衛手段をしっかりと行ってくださいね。以上です、解散」
「うーんワクチンかあ……まあボクには関係ないけど」
「ありゃ、テイオーは受けないんだ? ワクチン」
「そりゃそうだよ、インフルエンザなんかにこのテイオーさまがやられるわけないじゃん」
「とか何とか言って、実は注射が怖かったりして」
「そ、そんなわけないだろ。やだなーもうネイチャってば」
「ふふ、それもそっか。あ、でも気を付けた方がいいよ。何でもこの学園、ワクチンを摂取しない不届きな輩の前にはワクチンお化けが現れるって噂があるから」
「何それ? そんな話聞いたことないんだけど。マヤノじゃないんだからボクにそんなウソは通用しないよ」
「いやいやこれが本当なんだって。聞けばインフルエンザでレースに出場できなかったウマ娘たちの怨念が寄り集まってるらしくてね、目撃したが最期、凄い速さでどこまでも追い掛けてきて最終的には呪い殺すとかなんとか」
「そんなので呪い殺されるとかワケ分かんないよ。ほんと、いっつもいっつも適当なことばかり言うんだからさ、ネイチャは」
「あはは、ごめんごめん」
――放課後、美術室――
「ありがとうございますバクシンオー先輩。まさか特殊メイクの実験台になってもらえるなんて」
「いえいえ、後輩の皆さんのお役に立つことも学級委員長の役目ですから! どうぞご自由にメイクを試してみて下さい!」
「わかりました。完成までかなり時間が掛かると思いますので、一眠りしてもらっても大丈夫ですよ」
「おお! それは助かります! 実は今日はテストがあったため、昨夜はひたすら勉強をしていたのです! それではバクスイバクスーイ!」
――二時間後――
「――できたあ! うん、我ながらいい感じ。バクシンオー先輩、完成しました。起きて下さい」
「う……ん。バク……スイ……むにゃ……」
「どうしよう……全然起きないや。これから用事があるのに…………仕方無い。すみません先輩、メモ書きとメイク落としの道具を置いとくので後は自身でお願いします。また明日お礼に伺いますから。では――」
――更に一時間後――
「バク……スイ…バク……シーーン! ややっ! いつの間にか眠ってしまっていたようですね。辺りが真っ暗です。はっはっは!」
「しかし何だか頭が重いような? いつもより声も籠もっているようですし……おお! そういえば特殊メイクの途中でしたね。変に見えにくいのもどうやらこれが原因のようです! とはいえどうすれば落とせるのでしょうか? 辺りには誰もいないようですし」
「うう、流石にこんな時間だともう誰もいないや。こんな時は――はっちみー、はっちみー♪」
「おお! あの声はトウカイテイオーさんですね? ちょうどいいところに来て下さいました。早速声を掛けて二人でバクシン的に解決いたしましょう! そこのテイオーさん!」
「うん? 誰か呼ん……ひっ……! だ、誰……?」
「ハイ! 私です。バクシーン!」
「わ、ワクチーン? それって……ま、まさかネイチャが言ってたあのお化けの……?」
「おお! これですね。確かにお化けに違いありません! そういうことなので、ちょっとこちらに来ていただけますか?」
「えっ? い、いや……」
「うん? 聞こえませんでしたか? さあ早く! こっちへ来るのです!」
「い、嫌だあああああ!」
「え、ええ!? 何故逃げるのです? 待って下さいテイオーさん! 貴方が協力してくれないと私は帰れないのですよ!」
「帰るってどこにだよーー! 地獄なんかに帰りたくないよーーー!」
「むむっ! よくわかりませんが仕方ありません、こうなったら追いかけるのみですね! 行きますよ。バクシンバクシーン!」
「う、うわあああ……何だよワクチンワクチーンって! 何でそんなに早いんだよおおお!」
「はっはっは、学級委員長ですから当然――ぶべっ!?」
「――こ、コケた……? ふ、ふふーん、どうだ! これ以上痛い目に遭いたくなかったら追いかけるのを止め……て…!?」
「いたた……まさかペンキ缶に転ぶとは。ですが、このまま逃しはしませんよ!」
「う、嘘……な、何で急にそんな血まみれに……」
「これですか? はっはっは、お気になさらず! テイオーさんを捕まえて帰ればすぐに元の姿に戻りますから!」
「う、うわああああ! ボ、ボクが悪かったからあああ。来るな、来ないでよおおおお―――ぶっ!」
「きゃっ! 痛たた……いきなり何、ってテイオーじゃん、どしたの? そんな慌てて」
「えっ……? ネ、ネイチャ!? な、何でここに?」
「ん? いやー資料室でビデオ見てたらつい遅くなっちゃってさ。で、帰ろうと思ったらちょうど叫び声が聞こえたもんで……で、どったの?」
「あ、あれを」
「うん……? うわっ! 何あれゾンビ?」
「違う。ネイチャが言ってたワクチンお化けだよ! 僕を地獄へ引きずり込みに来たんだ」
「へ? あ……そ、そうなの?」
「うん、ワクチンワクチン言いながら凄い速さで追い掛けてくるんだ。だから早く逃げて。このままじゃネイチャまで巻き込まれちゃうよ!」
「――おお! ここにいたのですねテイオーさん! もう暗くて周りがさっぱりわかりません! ですので一刻も早く! 私と一緒に参りましょう! バックシーン!」
「ひ、ひいいっ! い、嫌だよおお!」
「あー、うん……何となく理解したわ……なるほどね。よっしゃテイオー、ここはあたしに任せて」
「な、何言ってんだよネイチャ……あ、あんな化物かないっこないよ……」
「んー? いやいや、スナック生まれ舐めんなっての。さあ行くよ、ワクチンお化けさん」
「やや、その声はネイチャさんですね? テイオーさんが逃げるので助かりました!」
「だ、ダメだよネイチャ、ネイチャあああ!」
「にゃあーーーー!!」
「――それでそれで? どうなったの?」
「うん、お化けに近づいたその瞬間、ネイチャの掌がパーッと光ってお化けを転ばしたんだ。ほっとしたけど安心したせいか気を失っちゃってさ。気がついたときにはネイチャと何故かバクシンオー先輩におんぶされて寮に戻ってたよ」
「そうなんだ。凄いんだねネイチャって」
「あ、あはは……いやまあ、単にスマホのライト光らせて目をくらせただけなんだけどね……」
「え? 何か言った?」
「ううん、何でもない。で、あの後テイオーはすぐワクチンを受けたんだっけ」
「うん、もうあんな怖い思いするのはこりごりだからね。注射はまあ……ちょっと痛かったけど」
「あはは、やっぱ注射怖かったんじゃん」
「う、うるさいなあ。とにかく、これでもうあんな怪物には襲われないから」
「いやーどうかな? そのうちまた何か変なのに襲われちゃうかもよ?」
「ならその時はまた助けてもらっちゃおうかな……とっても頼りになる、スナック生まれのNさんに」