ハジメは、体全体が何か温かで柔らかな物に包まれているのを感じた。随分と懐かしい感触だ。これは、そうベッドの感触である。頭と背中を優しく受け止めるクッションと、体を包む羽毛の柔らかさを感じ、ハジメのまどろむ意識は混乱する。
(何だ? ここは迷宮のはずじゃ……何でベッドに……)
慌てて体を起こすと、ハジメは自分が本当にベッドで寝ていることに気がついた。純白のシーツに豪奢な天蓋付きの高級感溢れるベッドである。場所は、吹き抜けのテラスのような場所で一段高い石畳の上にいるようだ。爽やかな風が天蓋とハジメの頬を撫でる。周りは太い柱と薄いカーテンに囲まれている。建物が併設されたパルテノン神殿の中央にベッドがあるといえばイメージできるだろうか? 空間全体が久しく見なかった暖かな光で満たされている。
さっきまで暗い迷宮の中で死闘を演じていたはずなのに、とハジメは混乱する。
(どこだ、ここは……まさかあの世とか言うんじゃないだろうな……)
どこか荘厳さすら感じさせる場所に、ハジメの脳裏に不吉な考えが過ぎるが、その考えは隣から聞こえた艶かしい声に中断された。
「……んぁ……ハジメ……ぁう……」
「!?」
ハジメは慌ててシーツを捲ると隣には一糸纏わないユエがハジメの右手に抱きつきながら眠っていた。そして、今更ながらに気がつくがハジメ自身も素っ裸だった。
「なるほど……これが朝チュンってやつか……ってそうじゃない!」
混乱して思わず阿呆な事をいい自分でツッコミを入れるハジメ。若干、虚しくなりながらユエを起こす。
「ユエ、起きてくれ。ユエ」
「んぅ~……」
声をかけるが愚図るようにイヤイヤをしながら丸くなるユエ。ついでにハジメの右手はユエの太ももに挟まれており、丸くなったことで危険な場所に接近しつつある。
右手を引き抜くことは諦めて、ハジメは何とか呼び掛けで起こそうと声をかけるが一向に起きる気配はなかった。
その内、段々と苛立ってきたハジメ。ただでさえ状況を飲み込めず混乱しているというのに何をのんびり寝ていやがるのかと額に青筋を浮かべる。
そして、イライラが頂点に達し……
「いい加減に起きやがれ! この天然エ「そっとしておいてやれ。お前を看病して疲れてるんだ」 ッ!? 誰だ!」
突如聞こえた声に警戒するハジメ。声の主はいつからいたのか、扉の前で壁によしかかっていた。
「まだ無理はするな。いかに神水といえどダメージが大きすぎた。完治はしていない」
「誰だって聞いてんだ! 答えろ!」
疑問に答えようとしない声の主に苛立ちを隠さないハジメ。ただでさえ情報不足で混乱しているのだ。無理もない。
「……んぅ~……ハジメ?」
「っ…ユエ! やっと起きたか。悪いが現状の……」
「ハジメ!」
「!?」
目を覚ましたユエは茫洋とした目でハジメを見ると、次の瞬間にはカッと目を見開きハジメに飛びついた。
しかし、ユエがハジメの首筋に顔を埋めながら、ぐすっと鼻を鳴らしていることに気が付くと、仕方ないなと苦笑いして頭を撫でた。
「わりぃ、随分心配かけたみたいだな」
「んっ……心配した……」
しばらくしがみついたまま離れそうになかったし、倒れた後面倒を見てくれたのはユエなので気が済むまでこうしていようと、ハジメは優しくユエの頭を撫で続けた。
「……ん、イヤちょっと待て! 危うく流されかけたがここはどこでアイツは誰なんだ!? ヒュドラを倒した後なにがあった!?」
「……ハジメ落ち着いて。あの人は敵じゃない。私とハジメを助けてくれた。ここに運んでくれたのも、あの人」
ユエ曰く、あの後、突然扉が独りでに開き、ぶっ倒れたハジメを抱え、ユエを連れてこの場所まで運んでくれたのだそうだ。
そして、踏み込んだ扉の奥は、
「……反逆者の住処」
中は広大な空間に住み心地の良さそうな住居があったというのだ。そのあと、ベッドルームへと真っ直ぐ進む男の後ろをついて行き、抱えていたハジメをベッドに寝かせ看病していたのだという。最初は警戒していたユエだが途中からは警戒心も薄まっていたように思う。ハジメを運ぶ様子から敵意がないことを感じ取ったのかもしれない。
「とはいえ極光の毒素は消えても破壊された細胞すべてが治ったわけじゃない。そこの吸血姫に感謝するんだな。自分の身を顧みず、寝る間も惜しんで看病し続けていた。それが無駄だったとはオレは思えない」
「……そうだったのか。ありがとな、ユエ。世話になった」
「んっ!」
ハジメが感謝の言葉を伝えると、ユエは心底嬉しそうに瞳を輝かせる。無表情ではあるが、その分瞳は雄弁だ。
「それはそれとして……アンタは誰なんだ? ユエの話通りならアンタは俺達の恩人だ。だがここは強力な魔物が跋扈する奈落の底。地上で認知されている【オルクス大迷宮】のさらに地下だ。俺達以外の人間がいるなんて到底考えられない」
警戒心を一段階引き上げる。この男からは他の魔物どもから感じるような〝強さ〟を一切感じない。それがより一層不自然に感じる。
「本当に分からないのか……?」
「ああ?」
問い返され不機嫌そうに男を睨むハジメ。面識などないはずだ。銀色の髪に170半ばの身長。細身だがしっかりとついている筋肉。……だが腰に挿している銀の剣と羽織っているコートには見覚えがある。
「……まったく。オレはすぐに気付いたのにお前は気が付かないんだな、ハジメ。魔物を喰ったショックで記憶も飛んだか?」
「なんで、俺の名前を……」
「とりあえず服を着ろ。話はそれからだ。外で待ってる」
背後から呼び止められるが無視して部屋を出ていく。扉を閉める瞬間「なんで俺は裸なんだ!?」と聞こえたがこれだけ元気なら問題なさそうだとホッと息を吐いた。
「───で? アンタは誰で、何の理由があって俺達を助けた? ここは一体何なんだ?」
「……驚いた、まさか素直に来るとは。てっきり住処を調べ尽くしてから忘れた頃に来るものだと……」
住処をでてすぐの場所にある小さな庭。そこで椅子と机を並べて水を飲んでいた紅は予想より早く来たハジメ達に驚く。昔のハジメなら確かにすぐ来ただろうが今のハジメだと……と考えていたのだ。予想が外れた。
「部屋を出たら偶然アンタが見えたから先に来ただけだ。今度こそ質問に答えてもらうぜ」
「んっ!」
これが助けられた者の態度なのか。だがハジメの目はチラチラとあちこちへと向いている。どうやらここの環境がよほど気になるようだ。
「気になるか? 〝太陽〟が」
「ぐっ、気にならないと言えば嘘になるが……それよりアンタの話が先だ!」
「………夜になると月みたいになる」
「マジかよ……」
もちろんここは地下迷宮であり本物ではない。頭上には円錐状の物体が天井高く浮いており、その底面に煌々と輝く球体が浮いていたのである。僅かに温かみを感じる上、蛍光灯のような無機質さを感じないため、思わず〝太陽〟と称したのである。
「まあ座って水でも飲むといい。あいにくジュースもお茶もないんでね。ただの水で勘弁してもらいたい」
「「………」」
「飲まないのか? 美味いのに」
〝はやく話せ〟という圧を受け流しながら水を一口、喉を潤す。
「じゃあどこから話そうか。まずここは何かという質問については後で住処を探索すれば答えが出る。試練を越えたお前達にはその権利があるからな」
オレから話すよりもそっちの方がいいだろう、と紅は言う。
「あとオレについてだっけ……本当に分からないか?」
「だから知らねえって言ってんだろうが」
ふむ、と考え込む紅。まさか本当に分からないとは薄情な奴だ。素直に教えてもいいのだが遊びがないのもつまらない。
「南雲ハジメ。17歳。高校2年生」
「は?」
「父はゲームクリエイター、母は少女漫画家でよく母親の作業現場でバイトをしている。徹夜でゲームをしては学校ではいつも居眠りをしているせいで周りからは不真面目な生徒だと思われている」
「ちょっと待て!」
「天職は錬成師。トータスに来たばかりの時はステータスは平均値の技能は錬成だけ。いわゆる〝無能〟だった」
「……お前、まさか……」
「この薄情者め」
「? ……ハジメ?」
瞳孔が開き、開いた口が塞がらない。かと思えば涙が滝の様に流れ出す。
死んだと思っていた。生きていると、探して見せると言いながらも心のどこかで既に死んでいるのだと諦めていた。
「紅、なのか? ……お前ッ…生きてッ……!」
「〝生きて〟はこっちのセリフだ。下の階層にいるのかと思えばいつの間にか追い抜いちまってた」
「ッ……俺は……俺は! ……ずっとお前に謝りたくてッ!」
「なんでお前が謝るんだよ。お前の方がずっと重症だぞ」
それでも泣き続けるハジメを、紅は落ち着くまで静かに待ち続けた。
「落ち着いたか? ほら水飲めよ。吸血姫、君も飲みな」
「……吸血姫じゃない。ちゃんと名前がある」
「そうだな。名前は確かアレーティア……いや今はユエだったか。月という名は君によく合う。相変わらずセンスはいいなハジメ」
「……うるせぇ」
涙を流したのが恥ずかしいのか不機嫌そうにそっぽを向くハジメ。目の前に置かれた水を一気に呷り、勢いよく机に叩きつける。
「まだ疑問が消えたわけじゃねぇぞ。お前が本当に西村紅だとして、どうしてここにいる? その髪はなんだ? 雰囲気もまるで別人だ」
「お前にだけは言われたくなかったが、どうしてここにっていうのなら答えられる。ハジメ、お前を探していたからだ」
紅は最下層に来た経緯を説明する。銃と思わしき残骸を見つけたこと。恐らく下の階層に行ったのだろうと追いかけたこと。未来の話や
「けど俺も聞きたいことがある。なんで先に降りて行ったはずのお前が後から来るんだ?」
「それは俺のセリフだ……」
少し間が空き、そろって吹き出す。この奈落でいろいろあったがやはり根本的なところは変わっていない。それにすこし安堵する。
「さて、話も大方は終えたし移動するぞ。付いてきてくれ」
そう言って紅は立ち上がり、ハジメを寝かしていたベッドルームに隣接した建築物の方へ歩を勧めた。建築したというより岩壁をそのまま加工して住居にした感じだ。
「? ここになにかあるのか?」
「お前達はこの【オルクス大迷宮】の試練を突破した。そのお前達には〝真実〟を知る資格と更なる〝力〟を手にする権利がある」
「真実? 力? 何の話だ」
石造りの住居は全体的に白く石灰のような手触りだ。全体的に清潔感があり、エントランスには、温かみのある光球が天井から突き出す台座の先端に灯っていた。薄暗いところに長くいたハジメ達には少し眩しいくらいだ。どうやら三階建てであり、上まで吹き抜けになっている。
他には目もくれず真っ直ぐ三階へと向かう紅。それにハジメとユエも急いで追いつく。探索するのは後にしろ、という意味だろう。
「おい紅。いったいどこまで行くんだ?」
「すぐだそこだ。この住処には一階にリビングや風呂、二階にはこの迷宮の創設者の工房と書斎がある。かつて神童とまで呼ばれた世界トップクラスの錬成師だった男だ。……ハジメ、お前の力になるかもしれない。あとで見ておけよ」
「……でもこの建物は三階建て。三階にはなにがある?」
その問いには答えず紅は三階の奥の部屋に向かった。三階は一部屋しかないようだ。奥の扉を開けると、そこには直径七、八メートルの今まで見たこともないほど精緻で繊細な魔法陣が部屋の中央の床に刻まれていた。いっそ一つの芸術といってもいいほど見事な幾何学模様である。
しかし、それよりも注目すべきなのは、その魔法陣の向こう側、豪奢な椅子に座った人影である。人影は骸だった。既に白骨化しており黒に金の刺繍が施された見事なローブを羽織っている。薄汚れた印象はなく、お化け屋敷などにあるそういうオブジェと言われれば納得してしまいそうだ。
その骸は椅子にもたれかかりながら俯いている。その姿勢のまま朽ちて白骨化したのだろう。魔法陣しかないこの部屋で骸は何を思っていたのか。寝室やリビングではなく、この場所を選んで果てた意図はなんなのか……。
「……怪しい……ハジメ、どうする?」
ユエもこの骸に疑問を抱いたようだ。おそらく反逆者と言われる者達の一人なのだろうが、苦しんだ様子もなく座ったまま果てたその姿は、まるで誰かを待っているようである。
「どうするもこうするもない。さっさと入れ」
「うおっ!?」「んっ!?」
警戒して立ち止まったハジメとユエを魔法陣めがけて蹴り飛ばす。
「痛っ~何を───」
ハジメ達が魔法陣の中央に足を踏み込んだ瞬間、カッと純白の光が爆ぜ部屋を真っ白に染め上げる。
まぶしさに目を閉じるハジメ。直後、何かが頭の中に侵入し、まるで走馬灯のように奈落に落ちてからのことが駆け巡った。
やがて光が収まり、目を開けると目の前には黒衣の青年が立っていた。
ハジメとユエの眼前に立つその青年は、よく見れば後ろの骸と同じローブを着ている。
「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?」
話し始めた彼はオスカー・オルクス。【オルクス大迷宮】の創設者だ。
その様子を見届けた紅はどこからか椅子を持ってきて座った。
「ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。……我々は反逆者であって反逆者ではないということを」
そうして始まったオスカーの話は、聖教教会で教わった歴史やユエに聞かされた反逆者の話とは大きく異なった驚愕すべきものだった。
それは狂った神とその子孫達の戦いの物語。
神代の少し後の時代、世界は争いで満たされていた。人間と魔人、様々な亜人達が絶えず戦争を続けていた。争う理由は様々だ。領土拡大、種族的価値観、支配欲、他にも色々あるが、その一番は〝神敵〟だから。今よりずっと種族も国も細かく分かれていた時代、それぞれの種族、国がそれぞれに神を祭っていた。その神からの神託で人々は争い続けていたのだ。
だが、そんな何百年と続く争いに終止符を討たんとする者達が現れた。それが当時、〝解放者〟と呼ばれた集団である。
彼らには共通する繋がりがあった。それは全員が神代から続く神々の直系の子孫であったということだ。そのためか〝解放者〟のリーダーは、ある時偶然にも神々の真意を知ってしまった。何と神々は、人々を駒に遊戯のつもりで戦争を促していたのだ。〝解放者〟のリーダーは、神々が裏で人々を巧みに操り戦争へと駆り立てていることに耐えられなくなり志を同じくするものを集めたのだ。
彼等は、〝神域〟と呼ばれる神々がいると言われている場所を突き止めた。〝解放者〟のメンバーでも先祖返りと言われる強力な力を持った七人を中心に、彼等は神々に戦いを挑んだ。
しかし、その目論見は戦う前に破綻してしまう。何と、神は人々を巧みに操り、〝解放者〟達を世界に破滅をもたらそうとする神敵であると認識させて人々自身に相手をさせたのである。その過程にも紆余曲折はあったのだが、結局、守るべき人々に力を振るう訳にもいかず、神の恩恵も忘れて世界を滅ぼさんと神に仇なした〝反逆者〟のレッテルを貼られ〝解放者〟達は討たれていった。
最後まで残ったのは中心の七人だけだった。世界を敵に回し、彼等は、もはや自分達では神を討つことはできないと判断した。そして、バラバラに大陸の果てに迷宮を創り潜伏することにしたのだ。試練を用意し、それを突破した強者に自分達の力を譲り、いつの日か神の遊戯を終わらせる者が現れることを願って。
長い話が終わり、オスカーは穏やかに微笑む。
「君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか。……君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを」
そう話を締めくくり、オスカーの記録映像はスっと消えた。同時に、ハジメ達の脳裏に何かが侵入してくる。ズキズキと痛むが、それがとある魔法を刷り込んでいたためと理解できたので大人しく耐えた。
やがて、痛みも収まり魔法陣の光も収まる。ハジメはゆっくり息を吐いた。
「ハジメ……大丈夫?」
「ああ、平気だ……にしても、何かどえらいこと聞いちまったな。これがお前の言ってた〝真実〟か?」
「ああ。それでどうする?」
紅がオスカーの話を聞いてどうするのかと尋ねる。
「……別にどうもしないさ。元々、勝手に召喚して戦争しろとかいう神なんて迷惑としか思ってないからな。この世界がどうなろうと知ったことじゃないし。地上に出て帰る方法探して、故郷に帰る。それだけだ。……ユエは気になるか?」
「……私の居場所はここ……他は知らない」
一昔前のハジメなら何とかしようと奮起したかもしれない。しかし、変心した価値観がオスカーの話を切って捨てた。お前たちの世界のことはお前達の世界の住人が何とかしろと。
そう言って、ハジメに寄り添いその手を取る。ギュッと握られた手が本心であることを如実に語る。ユエは、過去、自分の国のために己の全てを捧げてきた。それを信頼していた者たちに裏切られ、誰も助けてはくれなかった。ユエにとって、長い幽閉の中で既にこの世界は牢獄だったのだ
その牢獄から救い出してくれたのはハジメだ。だからこそハジメの隣こそがユエの全てなのである。
「今はそれでもいいさ。だがハジメ、お前はいずれ神殺しを為す。お前がお前である限り、必ず」
意味深なことを言う紅に首をかしげる。だがそんなことよりも重大で優先すべきことがある。
「あ~、あと何か新しい魔法……神代魔法っての覚えたみたいなんだが」
「……ん」
神代魔法。文字通り神代に使われていた現代では失伝した魔法である。ハジメ達をこの世界に召喚した転移魔法も同じ神代魔法だ。そして今回ハジメとユエが手に入れたのは〝生成魔法〟。魔法を鉱物に付加し、特殊な性質を持った鉱物を生成する魔法である。
生成魔法は神代においてアーティファクトを作るための魔法だったのだ。まさに〝錬成師〟のためにある魔法である。
「これが〝真実〟と更なる〝力〟ってか?」
「ああ。その魔法はこれから先の戦いで必ず必要になってくる。魔法適正のないハジメが使える数少ない魔法だからな」
「でも……私は使えない」
「う~ん、やっぱり神代魔法も相性とか適性とかあるのかもな」
だが取り合えず先にすべきことは終えた。
「あ~、取り敢えず、ここはもう俺等のもんだし、あの死体片付けるか」
ハジメに慈悲はなかった。
「ん……畑の肥料……」
ユエにも慈悲はなかった。
「いや埋葬はオレがしておく。それよりも二階の書斎に行ってこい。知りたいことがあるんだろ?」
そう言って紅は懐から指輪を取り出し、ハジメに渡す。
「なんだこれ」
「それはオスカーの持っていた指輪、攻略の証だ。お前に渡しておく」
それを最後に紅はオスカーの屍を抱えて部屋を後にした。後には呆然としているハジメ達だけが取り残されていた。
「───おっとすまない、もう一つ言い忘れていたことがあった」
「……うん? なんかまた映像が流れだしたぞ?」
「……ん、でもさっきまでとは違うみたい」
一度消えたはずがまた流れ始めるオスカーの記録映像。とにかく話に耳を傾ける。
「我々は確かに神を倒すために戦った。だがこの世界には
消えた記録映像。どうやらこれで本当に終わりのようだ。
「……〝翼〟?なんのことだ……?」
紅は一人、オスカーの骸を畑の端に埋め、墓石を立てる。
「オスカー、お前の魔法はハジメに必ず必要なものだ。ありがとう。……何も心配はいらない。ハジメは必ず神を殺す。神殺しはハジメに任せるつもりだ。オレには他に、どうしても殺さなければならない奴等がいる……」
墓石の前で手を合わせる紅。〝解放者〟オスカー・オルクスの前で己の覚悟を口にする。
「〝翼の王〟を狩る。もう一度、あいつが何かをする前に。この先失われるはずのものを守る。それが最強の力を与えられたオレの使命だ」
立ち上がり、踵を返す。その目の見据える先に地獄しかないとしても、立ち止まるわけにはいかないのだ。