銀の死神   作:日彗

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第十二話 強さと旅立ち

 

「お、やっと戻ってきやがった。紅! ちょっと来てくれ!」

 

 オスカーの埋葬を終えた紅は住処へと戻ってきたのだがハジメの声が聞こえる。声の距離からしてまだ書斎にいるのだろうという考えに至り、歩を進めた。

 

「どうした? なにを興奮してるんだ?」

「興奮なんざしてねぇよ! それよりこれだ。元の世界に帰る手掛かりが見つかった」

「……【オルクス大迷宮】以外にもある解放者達の創った迷宮……攻略すると神代魔法が手に入る…かも」

 

 ハジメ達が読んでいたのはオスカーの手記。かつての仲間、特に中心の七人との何気ない日常について書いたもののようである。

 

 その内の一節に、他の六人の迷宮に関することが書かれていた。

 

「……帰る方法見つかるかも」

「だな。これで今後の指針ができた。地上に出たら七大迷宮攻略を目指そう。当然紅も手伝ってくれるよなあ?」

「ん? ……まあ、オレは別の用もあるが、それまでは同行してもいいぞ」

「別の用?」

「その件についてはおいおい……それで? 迷宮の場所はわかってるのか?」

「……いや、現在確認されている【グリューエン大砂漠の大火山】【ハルツィナ樹海】、目星をつけられている【ライセン大峡谷】【シュネー雪原の氷雪洞窟】辺りから調べるしかないだろうな」

 

 【オルクス大迷宮】を含めて五つ。残り二つの行方が分からないわけだ。

 

「あとの二つは目星がついている。問題ない。……工房の方は見てきたのか?」

「あ、ああ、さっきな……それで考えたんだがしばらくここに留まらないか? さっさと地上に出たいのは俺も山々なんだが……せっかく学べるものも多いし、ここは拠点としては最高だ。他の迷宮攻略のことを考えても、ここで可能な限り準備しておきたい。どうだ?」

「……私はハジメと一緒ならどこでもいい」

「本当は一秒でも早く外に出たいんだが……ハジメの傷も治ってないしな。いいよそれで」

「悪いな」

 

 そうしてここで可能な限りの鍛錬と装備の充実を図ることになった。これからの戦いのことを考えるとその方が良いだろう。丁度いい。その間に紅もやりたいことがあるのだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 その日の晩、天井の太陽が月に変わり淡い光を放つ様を、ハジメと紅は風呂に浸かりながら全身を弛緩させてぼんやりと眺めていた。奈落に落ちてから、ここまで緩んだのは初めてである。風呂は心の洗濯とはよく言ったものだ。

 

「はふぅ~、最高だぁ~」

「あ~、いい湯だぁ~」

 

 今のハジメ達からは考えられないほど気の抜けた声が風呂場に響く。全身をだらんとさせたままボーとしていると、ハジメは語り出した。

 

「……なあ紅。あまり聞かないようにしてたんだが、お前はどうやってここまで降りて来たんだ? 食う物なんてねぇし、魔力も技能も天職もないお前がこの奈落の怪物相手に生き残れるとは思えねぇ。第一、お前からは強そうな気配を全く感じない。不自然だ、なにもかも……」

 

 それは当然の疑問だ。もし仮にハジメと同じく魔物の肉を喰らったのなら神水がなければ死ぬだけだし、今も紅からは魔力は一切感じ取れない。だが()()()()()()()()のだ。ここは運良く、ラッキーで攻略できるほど甘い場所ではない。

 

「そんなに気になるなら見てみるか? ステータスプレート」

 

 そう言って自身のステータスプレートをハジメに渡す。なぜ浴場に持ってきているのかはツッコまなかった。

 

「……なんだこりゃ」

 

====================================

にんfしgh p?歳 男 レベル:ERROR

天職:

筋力:ERROR

体力:ERROR

耐性:ERROR

敏捷:ERROR

魔力:ERROR

魔耐:ERROR

技能:ERROR

====================================

 

 名前と年齢は文字化けを起こし、まともに読めるのは性別だけ。天職は元々空欄だったがレベル及びその他ステータスと技能欄がエラー表記になっている。

 

「おいこれ壊れてるぞ」

「アーティファクトだからな」

 

 アーティファクトは魔力を動力源として稼働する。そして紅はステータスプレートを常に懐にしまっていた。つまり紅が〝銀気闘法〟を使っているとき最も近くにあったのだ。

 気付いた時には氷漬けになっており何とか溶かしたが使い物にならなくなっていた。まあ、未来でも銀剣と融合してからの紅はステータスプレートは使えなかったのだが。

 

「じゃあ結局どうやって降りて来たんだ?」

「後で見せるよ……それより」

 

 紅は腕を伸ばして近くに置いてある桶を掴む。

 

「どうした?」

 

 突如、ヒタヒタと足音が聞こえ始めた。完全に油断していたハジメは戦慄する。まさか!

 

「ん……湯加減はど───」

「シッ!」

 

 浴場に入ってきたユエめがけて桶を投げる。それは美しく、まるで吸い込まれるかのようにユエの顔に直撃した。

 

「何考えてんだこの吸血姫。おいハジメしっかり手綱握らないとダメだろ」

「あ、ああ……」

 

 今回ばかりはユエをかばえないハジメ。あらためて友人の豹変ぶりに驚きを隠せなかった。

 

「キュゥ~……」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……ここでいいだろ」

 

 紅が風獄竜(トロワ)と戦い、ハジメ達がヒョドラと戦った空間。そこに三人はいた。

 

「傷はまだ全快とは言えないだろうが魔力の方は回復してるだろ」

「回復はしてるが……ここで何をするんだ?」

「ん……」

 

 疑問顔のハジメとユエ。それもそのはず、いきなり武器類を持ってついて来いと言われたのだ。それでも断らないあたり紅には甘いハジメ。

 

「オレがこの階層まで一人で来られた理由が知りたいんだろ? 教えてやる。二人同時に来い」

「……あ?」

 

 それでもこの言葉にはさすがに青筋を浮かべる。ユエも同等だった。

 

「ふざけてんのか。俺達二人掛かりだぁ? 舐めるのも大概にしろよ」

「んっ……」

「いいハンデだろ。傷も治ってない、隻腕隻眼のお前と天才魔法使いのユエ。もう少しハンデが欲しいか?」

「……死ぬぞお前」

「死なないから早く来い」

 

ドパンッ

 

 語り終えると同時にハジメのドンナーが火を噴き、弾丸が超速で紅へと放たれる。狙いは正確。このままでは紅の頭は吹き飛ばされるだろう。

 

 だが……

 

「ふう」

 

 弾丸が紅から逸れていく。弾くでも、ましてや斬るでもなく()()()。ありえない現象にハジメが固まり、ユエもまた動揺をあらわにする。

 ハジメには紅はただ腰に刺さっている銀剣を抜き、飛んできた弾丸に剣先で触れたようにしか見えなかった。紅は剣先で弾丸の力の向きを変えたのだ。恐ろしい程の神業に戦慄する。

 

(ありえねぇ……ドンナーの最大火力は対物ライフルの10倍! 触れるどころか認識すら不可能だ!)

 

 だが現実に起きた。人伝なら絶対に信じなかっただろうが自分の目で見てしまった以上これが現実だ。

 

「なんだ、一発だけか?」

「っ!〝緋槍〟!‟砲皇〟!〝凍雨〟!」

 

 矢継ぎ早に引かれた魔法のトリガー。凄まじい速度で魔法が構築され、炎の槍と螺旋に渦巻く真空刃を伴った竜巻と鋭い針のような氷の雨が一斉に紅を襲う。

 人間一人を殺すのに過剰すぎる力。流石のユエも「しまった…」という顔をしており、ハジメなどはジト目でユエを見つめる。自分だって頭めがけて撃ったはずなのに(手加減はした)

 

「いい魔法だ。威力、速度ともに申し分ない。ハジメ、お前も良かったぞ。正確にオレの眉間を狙っていた。手加減されていたのはいただけないが……」

「「ッ!?」」

 

 突如二人の背後から声がした。とっさに距離をとろうとするも肩を掴まれてしまった。

 

「ほら」

「があっ…!」

「痛っ~!」

 

 次の瞬間、背中を強打した。

 意味が分からない。気が付いたら世界が反転し、空を見上げるように地面に倒れていたのだ。背中の痛みから恐らく投げ飛ばされたのだと思う。

 

「くそがぁ!」

 

 ハジメもユエも油断を捨てる。殺す気でいかなければ殺されかねないと理解したのだ。彼らの目は完全に敵を見る目になっていた。

 

「ユエ!」

「んっ!」

 

 ただ一言。それだけでお互いの考えを理解する。ハジメは〝瞬光〟を発動し紅へと突撃。縮地、空力を使って翻弄しながらドンナーを打ち続ける。そしてユエは一歩下がり最大威力で魔法を放つため魔力を練り上げる。

 ハジメ達の狙いを正確に把握している紅はあえて乗ってみることにする。あらゆる方向から飛来する弾丸を涼しい顔で避け、受け流し、捌きながら。

 

「ハジメッ!」

「おう! ……チッ最後まで涼しい顔しやがって」

 

 ユエの合図に頷き閃光手榴弾を紅へと投げつけ離脱する。

 

「今だユエ!」

「んっ! 〝蒼天〟!」

 

 それはヒュドラを倒した最上級火属性魔法。紅の頭上に直径六、七メートルはありそうな青白い太陽が出現、尋常ではない熱に肌がチリチリと焼かれる。

 

 奈落の底の吸血姫、その最強の一撃がたった一人の人間めがけて落とされた。

 

 自然と笑みがこぼれる。このコンビは強い、並みの竜なら問題なく倒せるだろう。上位竜となるとわからないが。

 

「見事だった」

 

 だが相手が悪すぎた。未来において一度は〝翼の血族〟を滅ぼした死神の力は常人の理解の外にある。

 紅の伸ばした腕が〝蒼天〟に触れる。青白く、神秘的な、太陽を幻視するその魔法が───

 

「「…………は?」」

 

─── 一瞬で凍り付いた。

 

 ポカンと揃って口を開けるハジメとユエ。一瞬だ。先ほどまで万物を燃やし尽くさんとしていた蒼い太陽が、一瞬で凍りついてしまったのだ。ありえない。理解できない。どうやったらあの熱量の塊が一瞬で凍るのか。だがとにかく、今までのどんな敵も無事では済まなかったユエの最大火力の〝蒼天〟は目の前の理外の化物には通じなかった。

 

 ユエが膝から崩れ落ちる。それは魔力枯渇によるものか、あるいは自身の全力の魔法をマッチの火を消すかのように軽くあしらわれたことへのショックか。

 

 それはハジメも同様だった。ハジメはこれまでの戦いでユエの魔法の威力を嫌と言うほど知っている。喰らってなお耐え抜いた魔物はいた、だがこれまで正面から無力化されたことなどなかった。銃弾を捌ききる技術。一瞬で背後を取るほどの身体性能と肉体操作術。そしてユエの魔法を凍らせた異能。ありえないことが連続で起きすぎている。

 

「悪くなかった。それは本当だ。この迷宮の外でもお前達に敵う奴なんてそういない」

 

 凍らせた〝蒼天〟を破壊し、瞬間移動と見まがう速度で目の前に立った紅は静かにそう告げた。

 

「どうやって……そんな力を……」

「……まあ、いろいろとあったんだ。ハジメ、お前もそうだろ」

 

 戦いは終わった。元々聞かせるよりも体験してもらう方が早いと始めたものだ。そしてハジメ達は既に理解していた。否、強制的にさせられたと言うのが正しいだろうか。

 

「さて、疲れただろ。休憩にしよう。質問はそこで受け付けるよ」

 

 

 

 

 場所を移動して住処の中庭へと来た紅達。どうやらここが紅のお気に入りらしい。

 豪勢なコップに入ったただの水を飲みながら話し始める。

 

「毎度ここで申し訳ないが、何から聞きたい?」

「……あの身のこなしや技術。お前との戦いの中で身震いするほどの狂気を感じた。あれはなんだ? どうやってそれほどの強さを手に入れた? 俺の知らないところで、お前の身に何が起こったんだ?」

 

 それはまるで長い、途方もない程長い年月をそれだけに注ぎ込んだような、狂気。正気では絶対に辿り着けない境地。

 

─── 恐ろしい。

 

 どうすれば、そこまでたどり着けるのか。

 

─── 恐ろしい。

 

 どうすれば、才なき身でありながらそこまで身を捧げることができるのか。

 

─── 恐ろしい。

 

 どうすれば、お前の横に立てるのか。

 

「……ハジメ、お前の言うオレの〝強さ〟は所詮貰い物だ。その生涯の全てを戦い続ける地獄へ捧げた、哀れでどうしようもない愚かな男から託されたものだ。……すまない、これ以上のことは言えない」

 

 それは到底答えと呼べないもので、だが悲しそうな顔をする紅を見るとそれ以上踏み込むことはできなかった。

 

「……あの〝蒼天〟を凍らせたのは、なに? 魔力を一切感じなかった。最上級魔法を凍らせる魔法なんて聞いたことがない……」

 

 続いたのはユエ。枯渇していた魔力も多少は回復したのだろう。先ほどと比べて幾分か顔色もいい。

 

「オレの身体は銀剣と融合している。さっき魔法を凍らせたのは銀気によるものだ」

「……銀気?」

「銀気は銀が生成・放出する魔力を停止させる力。銀剣と融合したオレの身体は銀気を発する武器と化している」

 

 こんな風にな。そう言った直後紅の身体を銀色のオーラが纏う。このオーラが銀気だ。

 

「……魔力を停止させる力なんて聞いたことがない。それが本当だったらもっと研究がされてるはず……」

「この世界の銀が発する銀気なんて微々たるものだ。魔法を凍らせられるほどじゃない。オレは体内で銀気を増幅させているから実践でも使えているだけだ」

「……待ってくれ。理解が追い付かない。剣と融合? 魔力を停止? じゃあお前の腰に刺さってるその剣は何なんだ」

「これか? これはオレの銀気を圧縮して剣の形に練り上げたものだ。ハジメの〝錬成〟からヒントを貰った」

 

 触ってみるか? と剣を机の上に置く。

 

「……冷たッ! こんなもん触れるか!?」

 

 銀剣に触れようと手を伸ばし、寸前であまりの寒さに途中で止める。触れてすらいないのに凍てつきそうな程の冷気だった。

 

「ハハハ。本当に触っていたら指が凍って千切れてたかもな」

「!? んな危ない物触らせようとすんな!!」

 

 ハジメは手を服で擦って温め、ユエは恐ろしそうに震えながら銀剣を見つめる。

 

 銀剣の周りだけ気温が下がっている……という訳ではない。銀気に触れて凍るのはあくまで魔力だけだ。故に体内に魔力を宿す人間や魔物には害しかない。例外は魔力を持たない亜人族くらいだろう。

 

「……けど納得がいった。地上で魔物の血が凍ってたのはその銀気って奴のせいか」

「ああ。魔力を一切持たないオレだからこそ銀剣に触れてもなんともなかった。まあそのせいでいろんな目で見られてたけどな……」

 

 しんみりとした空気が流れる。だがそんな空気をハジメがぶち壊す。

 

「んな事はどうでもいい。俺は強くなりたい。今よりもっと、俺の邪魔をするもの全てを蹂躙できるほどの強さが」

「……そうか。いいんじゃないか? そのためにここに留まる決断をしたんだろ」

「ハッ! すぐにお前を超えてやるからな。それまでせいぜい涼しい顔してやがれ」

 

 その言葉を最後にハジメは去っていく。恐らく工房へ向かったのだろう。その足取りには迷いがない。

 

「……ハジメ、ここに来てからずっと楽しそう。多分あなたに会えたから」

「そうか? ……いや君がそう言うならそうなのかもな。ところでハジメについて行かなくていいのか?」

「ん……後で行く。その前に少し話をしたい」

 

 姿勢を直し正面から紅を見つめるユエ。その気品の高さはなるほど、確かに王族らしい。

 

「あなた……紅の話には意図的に隠してることがあった。ハジメはわかってて聞こうとしてない……だから私も聞かない。でもハジメはずっとあなたを探してた。あなたが奈落に落ちたのは自分のせいだって、自分のせいで友達が死んだって……毎日自分を責めてた」

「………」

「……だから、ありがとう」

「……は?」

 

 予想だにしていなかった言葉が飛び出す。

 

「生きていてくれて、ありがとう。紅はハジメにとって〝特別〟で〝大切〟な存在。だから……ありがとう」

 

 頭を下げるユエ。対して紅は固まったままだ。

 

「……ハジメが落ちたのはオレが守り切れなかったせいだ。だから礼はやめてくれ。むしろオレの方こそ礼を言いたい。ハジメが生きてここまでこれたのはユエのおかげだ。ありがとう」

「……ん、どういたしまして」

 

 クスクスと揃って笑い出す。なるほど、これが最年少で王位に就いた吸血姫。無駄に年は取っていないというわけだ。

 

「……なにか余計な事考えた?」

「いいや。それじゃハジメの所に向かおう。考えてみればあいつ病み上がりじゃないか」

「主に紅のせい……」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 そこからは速かった。

 

 目指すべき高みの一端を見たハジメは自分に必要なものを創り始める。

 

 まずは義手。工房の宝物庫にあったオスカー作の義手にハジメのオリジナル要素を加えて作り出したものだ。生成魔法により創り出した特殊な鉱石を山ほど使っており、世に出れば間違いなく国宝級のアーティファクトとして厳重に保管されるだろう逸品である。これは魔力の直接操作で本物の腕と同じように動かすことができる。擬似的な神経機構が備わっており、魔力を通すことで触った感触もきちんと脳に伝わる様に出来ている。また、銀色の光沢を放ち黒い線が幾本も走っており、所々に魔法陣や何らかの文様が刻まれている。

 

 そして〝宝物庫〟という便利道具を手に入れた。

 

 これはオスカーが保管していた指輪型アーティファクトで、指輪に取り付けられている一センチ程の紅い宝石の中に創られた空間に物を保管して置けるというものだ。要は、勇者の道具袋みたいなものである。空間の大きさは、正確には分からないが相当なものだと推測している。あらゆる装備や道具、素材を片っ端から詰め込んでも、まだまだ余裕がありそうだからだ。そして、この指輪に刻まれた魔法陣に魔力を流し込むだけで物の出し入れが可能だ。半径一メートル以内なら任意の場所に出すことができる。

 

 物凄く便利なアーティファクトなのだが、ハジメにとっては特に、武装の一つとして非常に役に立っている。というのも、任意の場所に任意の物を転送してくれるという点から、ハジメはリロードに使えないかと思案したのだ。結果としては半分成功といったところだ。流石に、直接弾丸を弾倉に転送するほど精密な操作は出来なかった。弾丸の向きを揃えて一定範囲に規則的に転送するので限界だった。

 

 結論から言うと一ヶ月間の猛特訓で見事、ハジメは空中リロードを会得した。たった一ヶ月の特訓でなぜ神業を会得できたのか。その秘密は〝瞬光〟である。〝瞬光〟は、使用者の知覚能力を引き上げる固有魔法だ。これにより、遅くなった世界で空中リロードが可能になったのである。〝瞬光〟は、体への負担が大きいので長時間使用は出来ないが、リロードに瞬間的に使用する分には問題なかった。

 

 次に、〝魔力駆動二輪と四輪〟を製造した。

 

 これは文字通り、魔力を動力とする二輪と四輪である。二輪の方はアメリカンタイプ、四輪は軍用車両のハマータイプを意識してデザインした。車輪には弾力性抜群のタールザメの革を用い、各パーツはタウル鉱石を基礎に、工房に保管されていたアザンチウム鉱石というオスカーの書物曰く、この世界最高硬度の鉱石で表面をコーティングしてある。おそらくドンナーの最大出力でも貫けないだろう耐久性だ。エンジンのような複雑な構造のものは一切なく、ハジメ自身の魔力か神結晶の欠片に蓄えられた魔力を直接操作して駆動する。速度は魔力量に比例する。

 

 〝魔眼石〟というものも開発した。

 

 ハジメはヒュドラとの戦いで右目を失っている。極光の熱で眼球の水分が蒸発していまい、神水を使う前に〝欠損〟してしまっていたので治癒しなかったのだ。そこで創られたのが〝魔眼石〟だ。

 

 生成魔法を使い、神結晶に、〝魔力感知〟〝先読〟を付与することで通常とは異なる特殊な視界を得ることができる魔眼を創ることに成功した。

 

 これに義手に使われていた擬似神経の仕組みを取り込むことで、魔眼が捉えた映像を脳に送ることができるようになったのだ。魔眼では、通常の視界を得ることはできない。その代わりに、魔力の流れや強弱、属性を色で認識できるようになった上、発動した魔法の核が見えるようにもなった。

 

 ちなみに、この魔眼、神結晶を使用しているだけあって常に薄ぼんやりとではあるが青白い光を放っている。ハジメの右目は常に光るのである。こればっかりはどうしようもなかったので、仕方なく、ハジメは薄い黒布を使った眼帯を着けている。

 

 白髪、義手、眼帯、ハジメは完全に厨二キャラとなった。その内、鎮まれ俺の左腕! とか言いそうな姿だ。鏡で自分の姿を見たハジメが絶望して膝から崩れ落ち四つん這い状態になり、それを紅が温かい目で見つめていた。

 

 新兵器について、ヒュドラの極光で破壊された対物ライフル:シュラーゲンも復活した。アザンチム鉱石を使い強度を増し、バレルの長さも持ち運びの心配がなくなったので三メートルに改良した。〝遠見〟の固有魔法を付加させた鉱石を生成し創作したスコープも取り付けられ、最大射程は十キロメートルとなっている。

 

 また、手数の足りなさに苦戦したことを思い出し、電磁加速式機関砲:メツェライを開発した。口径三十ミリ、回転式六砲身で毎分一万二千発という化物だ。銃身の素材には生成魔法で創作した冷却効果のある鉱石を使っているが、それでも連続で五分しか使用できない。再度使うには十分の冷却期間が必要になる。

 

 さらに、面制圧とハジメの純粋な趣味からロケット&ミサイルランチャー:オルカンも開発した。長方形の砲身を持ち、後方に十二連式回転弾倉が付いており連射可能。ロケット弾にも様々な種類がある。

 

 そしてドンナーの対となるリボルバー式電磁加速銃:シュラークも開発された。ハジメに義手ができたことで両手が使えるようになったからである。ハジメの基本戦術はドンナー・シュラークの二丁の電磁加速銃によるガン=カタに落ち着いた

 

 他にも様々な装備・道具を開発した。しかし、装備の充実に反して、神水だけは遂に神結晶が蓄えた魔力を枯渇させたため、試験管型保管容器十二本分でラストになってしまった。

 

 しかし、神結晶を捨てるには勿体無い。ハジメの命の恩人……ならぬ恩石なのだ。幸運に幸運が重なって、この結晶にたどり着かなければ確実に死んでいた。その為、ハジメには並々ならぬ愛着があった。それはもう、遭難者が孤独に耐え兼ねて持ち物に顔をペインティングし、名前とか付けちゃって愛でてしまうのと同じくらいに。というか本当に名前を付け始めて紅が全力で止めたが。

 

 そこで、ハジメは、神結晶の膨大な魔力を内包するという特性を利用し、一部を錬成でネックレスやイヤリング、指輪などのアクセサリーに加工した。そして、それをユエに贈ったのだ。ユエは強力な魔法を行使できるが、最上級魔法等は魔力消費が激しく、一発で魔力枯渇に追い込まれる。しかし、電池のように外部に魔力をストックしておけば、最上級魔法でも連発出来るし、魔力枯渇で動けなくなるということもなくなる。ハジメはこれらに〝魔晶石シリーズ〟と名付けた。

 

「まるでプロポーズだな」

「いや、違ぇから。ただの新装備だから」

「もう何個か作っておけよ。白崎さん喜ぶぞ」

「……なんで白崎が出てくるんだよ」

「いつだって愛は理論を超越するんだ……」

「……ハジメ、白崎って誰?」

 

 だが悲しきかな。ハジメの作ったアーティファクト、そのどれもが紅には使えないのだ。少し寂しそうな顔をしていたのは見間違いではないだろう。

 

 また、作ったアーティファクトを持ってハジメが紅へ挑んだこともあったが、自身が使えない事への腹いせか、秒で返り討ちにし男のロマンが詰まった武器の数々を破壊した。ハジメは泣いた。

 

 そんなこんながあり、あっという間に二ヶ月が過ぎた。遂に地上へと出る日である。

 三階の魔法陣を起動させながら、ハジメは静かな声で告げる。

 

「……俺の武器や俺達の力は、地上では異端だ。聖教教会や各国が黙っているということはないだろう」

「ん……」

「兵器類やアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性も極めて大きい」

「ん……」

「教会や国だけならまだしも、バックの神を自称する狂人共も敵対するかもしれん」

「ん……」

「世界を敵にまわすかもしれないヤバイ旅だ。命がいくつあっても足りないぐらいな」

「口上はいいからはやく行こう」

「頼むから空気読んでくれない!?」

 

 せっかくの雰囲気がぶち壊しである。二ヶ月一緒にいてわかったが変わったといっても紅は紅のままだ。

 

「……そういえばオスカーが言ってた〝翼〟に気を付けろって何のことだろうな」

「……さあ」

「〝翼〟? オスカーが言ってたってどういうことだ?」

「ああ、そういえばあの時紅はいなかったな」

 

 ハジメはオスカーの映像にタイムラグがあったことを説明する。魔法陣は起動したままで。

 

「……そうか。オスカーが……ハジメ、ユエ大事な話だ。外に出たら聞いてほしいことがある」

「今じゃ駄目なのか?」

「駄目じゃないけど魔法陣起動してるし……」

 

 どうも締まらないがそれも紅らしさだろう。

 はあ、と溜息を吐き足を踏み出す。

 

「全部なぎ倒して、世界を越えるぞ」

「んっ!」

「無理矢理締めたな」

 




 当然ですが紅は生成魔法を習得していません。攻略扱いされていないのではなく、魔法陣が紅に干渉しようとした場合体内にある膨大な銀気の影響で阻害、下手をすれば故障してしまうからです。銀気を閉じていれば転移などの恩恵は受けられますが肉体の内側への干渉となると尋常ではない魔力量と神業的な技術が必要になるでしょう。それでも本来の効果の十分の一にも及べませんし、あくまで魔法で干渉しようとした場合です。
 そもそも習得した所で使えないけど。
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