銀の死神   作:日彗

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第十三話 クラスメイトside3

 

 ハイリヒ王国の訓練場で相対する二人。

 

 片やハイリヒ王国の同盟国、ヘルシャー帝国の使者の護衛。

 

 片や……

 

(どうしてこうなったんだっけ……)

 

 勇者一行、八重樫雫だ。

 

 

 

 

 時間は少し戻る。

 

 ハジメがヒュドラとの死闘を制し倒れた頃、勇者一行は、一時迷宮攻略を中断しハイリヒ王国に戻っていた。

 

 道順のわかっている今までの階層と異なり、完全な探索攻略であることから、その攻略速度は一気に落ちたこと、また、魔物の強さも一筋縄では行かなくなって来た為、メンバーの疲労が激しいことから一度中断して休養を取るべきという結論に至ったのだ。

 

 もっとも、休養だけなら宿場町ホルアドでもよかった。王宮まで戻る必要があったのは、迎えが来たからである。何でも、ヘルシャー帝国から勇者一行に会いに使者が来るのだという。

 

 何故、このタイミングなのか。

 

 元々、エヒト神による〝神託〟がなされてから光輝達が召喚されるまでほとんど間がなかった。そのため、同盟国である帝国に知らせが行く前に勇者召喚が行われてしまい、召喚直後の顔合わせができなかったのだ。

 

 もっとも、仮に勇者召喚の知らせがあっても帝国は動かなかったと考えられる。なぜなら、帝国は三百年前にとある名を馳せた傭兵が建国した国であり、冒険者や傭兵の聖地とも言うべき完全実力主義の国だからである。

 

 突然現れ、人間族を率いる勇者と言われても納得はできないだろう。聖教教会は帝国にもあり、帝国民も例外なく信徒であるが、王国民に比べれば信仰度は低い。大多数の民が傭兵か傭兵業からの成り上がり者で占められていることから信仰よりも実益を取りたがる者が多いのだ。もっとも、あくまでどちらかといえばという話であり、熱心な信者であることに変わりはないのだが。

 

 そんな訳で、召喚されたばかりの頃の光輝達と顔合わせをしても軽んじられる可能性があった。もちろん、教会を前に、神の使徒に対してあからさまな態度は取らないだろうが。王国が顔合わせを引き伸ばすのを幸いに、帝国側、特に皇帝陛下は興味を持っていなかったので、今まで関わることがなかったのである。

 

 しかし、今回の【オルクス大迷宮】攻略で、歴史上の最高記録である六十五層が突破されたという事実をもって帝国側も光輝達に興味を持つに至った。帝国側から是非会ってみたいという知らせが来たのだ。王国側も聖教教会も、いい時期だと了承したのである。

 

 そんな説明を思い出し、前を向いた。

 

 現在、雫を含め、迷宮攻略に赴いたメンバーと王国の重鎮達、そしてイシュタル率いる司祭数人が謁見の間に勢ぞろいし、レッドカーペットの中央に帝国の使者が五人ほど立ったままエリヒド陛下と向かい合っていた。

 

「使者殿、よく参られた。勇者方の至上の武勇、存分に確かめられるがよかろう」

「陛下、この度は急な訪問の願い、聞き入れて下さり誠に感謝いたします。して、どなたが勇者様なのでしょう?」

「うむ、まずは紹介させて頂こうか。光輝殿、前へ出てくれるか?」

「はい」

 

 陛下と使者の定型的な挨拶のあと、早速、光輝達のお披露目となった。陛下に促され前にでる光輝。 そして、次々と迷宮攻略のメンバーが紹介された。

 

「ほぅ、貴方が勇者様ですか。随分とお若いですな。失礼ですが、本当に六十五層を突破したので? 確か、あそこにはベヒモスという化物が出ると記憶しておりますが……」

 

 使者は、光輝を観察するように見やると、イシュタルの手前露骨な態度は取らないものの、若干、疑わしそうな眼差しを向けた。使者の護衛の一人は、値踏みするように上から下までジロジロと眺めている。

 

 その視線に居心地悪そうに身じろぎしながら、光輝が答える。

 

「えっと、ではお話しましょうか? どのように倒したかとか、あっ、六十六層のマップを見せるとかどうでしょう?」

 

 光輝は信じてもらおうと色々提案するが使者はあっさり首を振りニヤッと不敵な笑みを浮かべた。

 

「いえ、お話は結構。それよりも手っ取り早い方法があります。私の護衛一人と模擬戦でもしてもらえませんか? それで、勇者殿の実力も一目瞭然でしょう」

「えっと、俺は構いませんが……」

「待ってください!」

 

 ザワッ、と驚く声が聞こえる。待ったをかけ前へと出てきたのはまさかの雫だった。

 

「光輝……勇者は私達のリーダーです。実力を測るのが目的であれば勇者自ら戦う必要はないかと。代わりに私が出ます」

「ええ!?」

「……私どもは構いませんよ」

 

 光輝は若干戸惑ったようにエリヒド陛下を振り返る。エリヒド陛下は光輝の視線を受けてイシュタルに確認を取る。イシュタルは頷いた。雫は今、光輝に次ぐ実力を持っている。それにもし仮にも勇者が傷を負うなどという事態は避けたい。

 

「構わんよ。雫殿、その実力、存分に示されよ」

「決まりですな、では場所の用意をお願いします」

 

 こうして急遽、勇者(代理)対帝国使者の護衛という模擬戦の開催が決定したのだった。

 

 

 

 

 

 

 対戦相手は、なんとも平凡そうな男だった。高すぎず低すぎない身長、特徴という特徴がなく、人ごみに紛れたらすぐ見失ってしまいそうな平凡な顔。一見すると全く強そうに見えない。

 

 刃引きした大型の剣をだらんと無造作にぶら下げており。構えらしい構えもとっていなかった。

 

(けど強い。メルド団長クラスか下手したら……)

 

 油断はしない。この相手が強者だと感じたから手合わせを申し出たのだ。すべては強くなるために。

 

「いきます」

 

 〝縮地〟により高速で踏み込み剣を振るう。それはまるで一迅の風。並みの戦士なら視認することも難しかったかもしれない。そう、()()()()()()()

 

ガキィ!!

 

「───っ!」

 

 咄嗟に剣の向きを変えて大剣を弾く。護衛の方は剣を掲げるように振り抜いたまま雫を睥睨していた。

 

「へぇ~、なかなかやるじゃねぇか嬢ちゃん。期待以上だ」

 

 平凡な顔に似合わない乱暴な口調で呆れた視線を送る護衛。その表情には笑みが浮かんでいた。

 力を抜いた自然な構え。そのあまりにも自然すぎる動きに反応が一瞬遅れた。

 

(やっぱり強い。特に経験値が違いすぎる)

 

「一介の護衛が皆あなたレベルだとしたら……恐ろしい国ね帝国は」

「嬢ちゃんこそその年でそれだけ戦えりゃ十分だろ。……名はなんて言ったか」

「八重樫、雫」

「そうか雫。お前も帝国に来ないか? すぐに上へ登り詰められるぜ」

「結構です」

 

 再び踏み込む雫。唐竹、袈裟斬り、切り上げ、突き、と〝縮地〟を使いこなしながら超高速の剣撃を振るう。

 しかし、そんな嵐のような剣撃を護衛は最小限の動きでかわし捌き、隙あらば反撃に転じている。その反撃を捌き、さらに反撃へ――

 

「ふん、確かに並の人間じゃ相手にならん程の身体能力だ。しかし、動きが少々ぎこちない。元は違う得物を使っていたのか?」

「この世界には故郷の武器がないようなので」

「……なるほど」

 

 チラッとイシュタル達聖教教会関係者を見ると護衛は不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「しっかり構えてろ。今度はこちらから行くぞ。気を抜くなよ? うっかり殺したくはないからな」

 

 護衛はそう宣言するやいなや一気に踏み込んだ。雫程の高速移動ではない。むしろ遅く感じるほどだ。だというのに、

 

「ッ!?」

 

 気がつけば目の前に護衛が迫っており剣が下方より跳ね上がってきていた。

 雫は咄嗟に飛び退る。しかし、まるで磁石が引き合うかのようにピッタリと間合いを一定に保ちながら鞭のような剣撃が雫を襲った。

 

「───ふう」

 

 一呼吸。焦りを捨てる。心が波立てば捌けるものも捌けない。

 護衛の振るった大剣の側面に自身の剣を当てる。弾く必要はない。ようは自分に当たらなければいいのだ。

 少しずつ、少しずつ逸れていく大剣は雫の髪数本を掠って大地を砕いた。

 

「シッ!」

 

 雫の動きは止まらない。地面に刺さった護衛の大剣が抜けないように足で踏み、剣を振り下ろす。

 取った。誰もがそう思った。

 だが……。

 

「穿て──〝風撃〟」

 

 呟くような声で唱えられた詠唱は小さな風の礫を発生させ、雫の片足を打ち据えた。

 

「っ!?」

 

 態勢がくずれる。これでは先ほどの護衛と同じく大きな隙になる。それはマズイと判断した雫はわざと姿勢を崩して転がった。

 

ズドンッ!

 

 刹那、雫がいた所に護衛の大剣が途轍もない圧力を持って振り下ろされた。

 雫は悟る。彼は自分を殺すつもりだと。

 恐怖が体を蝕む。迷宮で嫌と言うほど魔物と戦ってきたはずなのに、人から向けられる本気の殺意がここまで恐いものなのか。

 

(……もっと、静かに)

 

 この程度で音を上げていては強くなれない。恐怖も怒りも悲しみも、剣を振るうときは邪魔だ。

 脱力。そして邪念を捨てて構えを取る。その構えは日本人なら皆知っているだろう、居合のそれだ。

 現在の雫が出せる最高の一刀。それをもってこの戦いを終わらせる。先へと進むために。

 

「……いい顔だ」

 

 護衛が再び尋常でない殺気を放ちながら雫に迫ろう脚に力を溜める。それを雫は静かに見つめていた。

 しかし、護衛が実際に踏み込むことはなかった。なぜなら、護衛と雫の間に光の障壁がそそり立ったからだ。

 

「それくらいにしましょうか。これ以上は、模擬戦ではなく殺し合いになってしまいますのでな。……ガハルド殿もお戯れが過ぎますぞ?」

「……チッ、バレていたか。相変わらず食えない爺さんだ」

 

 イシュタルが発動した光り輝く障壁で水を差された〝ガハルド殿〟と呼ばれた護衛が、周囲に聞こえないくらいの声量で悪態をつく。そして、興が削がれたように肩を竦め剣を納めると、右の耳にしていたイヤリングを取った。

 

 すると、まるで霧がかかったように護衛の周囲の空気が白くボヤけ始め、それが晴れる頃には、全くの別人が現れた。

 

 四十代位の野性味溢れる男だ。短く切り上げた銀髪に狼を連想させる鋭い碧眼、スマートでありながらその体は極限まで引き絞られたかのように筋肉がミッシリと詰まっているのが服越しでもわかる。

 

 その姿を見た瞬間、周囲が一斉に喧騒に包まれた。

 

「ガ、ガハルド殿!?」

「皇帝陛下!?」

 

 そう、この男、何を隠そうヘルシャー帝国現皇帝ガハルド・D・ヘルシャーその人である。まさかの事態にエリヒド陛下が眉間を揉みほぐしながら尋ねた。

 

「どういうおつもりですかな、ガハルド殿」

「これはこれはエリヒド殿。ろくな挨拶もせず済まなかった。ただな、どうせなら自分で確認した方が早いだろうと一芝居打たせてもらったのよ。今後の戦争に関わる重要なことだ。無礼は許して頂きたい」

 

 謝罪すると言いながら、全く反省の色がないガハルド皇帝。それに溜息を吐きながら「もう良い」とかぶりを振るエリヒド陛下。

 

 光輝達は完全に置いてきぼりだ。なんでも、この皇帝陛下、フットワークが物凄く軽いらしく、このようなサプライズは日常茶飯事なのだとか。

 

「それはそれとして、どうだ雫。俺の愛人になる気はないか?」

「「「「「え、えええええええええええ!?」」」」」

「丁重にお断りします」

「「「「「え、えええええええええええ!?」」」」」

「ハッハハハハ! まぁ、焦らんさ」

 

 不敵に笑い引き下がる皇帝陛下。なし崩しで模擬戦も終わってしまい、その後に予定されていた晩餐で帝国からも勇者を認めるとの言質をとることができ、一応、今回の訪問の目的は達成されたようだ。

 

 雫の溜息が増えたことは言うまでもないが。

 

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