銀の死神   作:日彗

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第十七話 長老会議

 

 翼の血族。

 

 異なる世界よりやってきた侵略者。太陽に弱く銀を嫌う、人に害なす竜。竜の神を頂点に「翼」、「鱗」、「爪牙」、「咆哮」、「眼」、「骨」の合計6つの血族があるがそれはまた別の機会に。

 

 竜には知能が低く魔法も使えないが数だけは多い下位竜。高い知性を持ち人語を操る下位竜の約10倍の魔力を持つ中位竜。経験を積み魔法が使えるようになった成竜がいる。

 

 だがこれらは全て、第一位階から第十三位階までの上位竜の血から生まれた獣に過ぎない。

 

 上位竜。完全な知性を持ち、普段は人間と同じ姿をしている竜。だが出逢えば死は確定と言われているほど強大な存在。彼らはそれぞれ固有の魔法を持ち、血脈の流れが魔法発動に必要な表現方法になっており、イメージするだけで強力な魔法を使用できる。

 

 例えば黒魔竜(グリュムウェルテ)の強化魔法。

 

 例えば肥満竜(メルグブデ)の捕食魔法。

 

 例えば風獄竜(ディザス・トロワ)の風魔法。

 

 その膨大な魔力と強力な魔法、そして首を切り落としても死なない不死性にかつてエヒト神の送り込んだ数千を優に超える〝神の使徒〟の大群が為すすべなく皆殺しにされたこともある。それもまたエヒト神が神域の奥に引きこもることとなった要因の一つだろう。

 

 ……血族は位階が上がるほど強くなると考えていい。現状のハジメではどうあがいても第三位階(ディザス・トロワ)には勝てない。だがそのディザス・トロワですら三位なのだ。

 

 決して戦ってはならない。翼の血族、第一位階、翼の王は───

 

 

()()()()に、手をかけているのだから。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 カムとシアを先頭に樹海を進む一行。

 

 しばらく、道ならぬ道を突き進む。直ぐに濃い霧が発生し視界を塞いでくる。しかし、カムの足取りに迷いは全くなかった。現在位置も方角も完全に把握しているようだ。理由は分かっていないが、亜人族は、亜人族であるというだけで、樹海の中でも正確に現在地も方角も把握できるらしい。

 

 道中、ちょくちょく魔物に襲われたが静かに片づけていく。樹海の魔物は、一般的には相当厄介なものとして認識されているのだが、何の問題もない。

 

 その後も歩き続けて数時間、周囲を数十人の亜人族に包囲され、兎人族に危害を加えられそうになるもハジメのドンナーによる威嚇で戦意を消失。リーダーと思われる虎の亜人とハジメが交渉し、国からの指示を仰ぐまで待機することとなった。

 

 そこから待つこと一時間。霧の奥からは、数人の新たな亜人達が現れた。彼等の中央にいる初老の男が特に目を引く。流れる美しい金髪に深い知性を備える碧眼、その身は細く、吹けば飛んで行きそうな軽さを感じさせる。威厳に満ちた容貌は、幾分シワが刻まれているものの、逆にそれがアクセントとなって美しさを引き上げていた。何より特徴的なのが、その尖った長耳だ。彼は森人族、いわゆるエルフなのだろう。恐らく彼が〝長老〟と呼ばれる存在だと推測する。

 

「私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。さて、お前さんの要求は聞いているのだが……その前に聞かせてもらいたい。〝解放者〟とは何処で知った?」

「オルクス大迷宮の奈落の底、解放者の一人、オスカー・オルクスの隠れ家だ」

 

 目的などではなく、解放者の単語に興味を示すアルフレリックに訝しみながら返答する。一方、アルフレリックの方も表情には出さないものの内心は驚愕していた。

 

「ふむ、奈落の底か……聞いたことがないがな……証明できるか?」

「ハジメ、オルクスの指輪を見せればいい。長老なら見せれば伝わるはずだ」

 

 紅の助言にハジメはオルクスの指輪を取り出して渡す。

 

「なるほど……確かに、お前さんはオスカー・オルクスの隠れ家にたどり着いたようだ。他にも色々気になるところはあるが……よかろう。取り敢えずフェアベルゲンに来るがいい。私の名で滞在を許そう。ああ、もちろんハウリアも一緒にな」

 

 アルフレリックの言葉に、周囲の亜人族達だけでなく、カム達ハウリアも驚愕の表情を浮かべた。虎の亜人を筆頭に、猛烈に抗議の声があがる。それも当然だろう。かつて、フェアベルゲンに人間族が招かれたことなど無かったのだから。

 

「待て。何勝手に俺の予定を決めてるんだ? 俺は大樹に用があるのであって、フェアベルゲンに興味はない。問題ないなら、このまま大樹に向かわせてもらう」

「いや好意に甘えよう。今だと大樹まで辿り着けない可能性がある」

「……なんだと?」

 

 紅の言葉に困惑するハジメだが、それ以上に困惑しているアルフレリックが返した。

 

「大樹の周囲は特に霧が濃くてな、亜人族でも方角を見失う。一定周期で、霧が弱まるから、大樹の下へ行くにはその時でなければならん。次に行けるようになるのは十日後だ。……亜人族なら誰でも知っているはずだが……」

「あっ」

 

 まさに、今思い出したという表情をしているカム。どうやら忘れていたらしい。

 

「カム?」

「あっ、いや、その何といいますか……ほら、色々ありましたから、つい忘れていたといいますか……私も小さい時に行ったことがあるだけで、周期のことは意識してなかったといいますか……」

 

 しどろもどろになって必死に言い訳するカムだったが、ハジメとユエのジト目に耐えられなくなったのか逆ギレしだした。

 

「ええい、シア、それにお前達も! なぜ、途中で教えてくれなかったのだ! お前達も周期のことは知っているだろ!」

「なっ、父様、逆ギレですかっ! 私は、父様が自信たっぷりに請け負うから、てっきりちょうど周期だったのかと思って……つまり、父様が悪いですぅ!」

「そうですよ、僕たちも、あれ? おかしいな? とは思ったけど、族長があまりに自信たっぷりだったから、僕たちの勘違いかなって……」

「族長、何かやたら張り切ってたから……」

 

 逆ギレするカムに、シアが更に逆ギレし、他の兎人族達も目を逸らしながら、さり気なく責任を擦り付ける。

 

「お、お前達! それでも家族か! これは、あれだ、そう! 連帯責任だ! 連帯責任! ハジメ殿、罰するなら私だけでなく一族皆にお願いします!」

「あっ、汚い! 父様汚いですよぉ! 一人でお仕置きされるのが怖いからって、道連れなんてぇ!」

「族長! 私達まで巻き込まないで下さい!」

「バカモン! 道中の、ハジメ殿の容赦のなさを見ていただろう! 一人でバツを受けるなんて絶対に嫌だ!」

「あんた、それでも族長ですか!」

 

 亜人族の中でも情の深さは随一の種族といわれる兎人族。彼等は、ぎゃあぎゃあと騒ぎながら互いに責任を擦り付け合っていた。情の深さは何処に行ったのか……流石、シアの家族である。総じて、残念なウサギばかりだった。

 

 喧々囂々と騒ぐハウリア達に薄く笑い、ユエは静かに近づく。

 

「いや待ってください! 紅さんならもしかしたら助けてくれるかも!」

「おおそうだ! 紅殿、どうか我らをお救い下さい!」

「紅さん! 僕は悪くないんですぅ!」

「では長老殿、フェアベルゲンまで案内をお願いします」

「「「紅(殿)さーーん!!」」」

「〝嵐帝〟」

 

─── アッーーーー!!!

 

 高く、高く舞い上がるウサミミ。同胞が攻撃を受けたはずなのに、アルフレリックを含む周囲の亜人達の表情に敵意はなかった。むしろ、呆れた表情で天を仰いでいる。

 

 今回ばかりは紅も少し呆れていた。

 

 

 

 

 濃霧の中を虎の亜人ギルの先導で進む一行。行き先はフェアベルゲンだ。

 

 しばらく歩いていると、突如、霧が晴れた場所に出た。晴れたといっても全ての霧が無くなったのではなく、一本真っ直ぐな道が出来ているだけで、まるで霧のトンネルのような場所だ。よく見れば、道の端に誘導灯のように青い光を放つ拳大の結晶が地面に半分埋められている。そこを境界線に霧の侵入を防いでいるようだ。

 

 アルフレリックの話によるとあの青い結晶はフェアドレン水晶といい、霧や魔物が寄り付かなくなる性質があるらしい。

 

 一行はアルフレリックに促されるまま門をくぐる。するとそこは別世界だった。直径数十メートル級の巨大な樹が乱立しており、その樹の中に住居があるようで、ランプの明かりが樹の幹に空いた窓と思しき場所から溢れている。人が優に数十人規模で渡れるであろう極太の樹の枝が絡み合い空中回廊を形成している。樹の蔓と重なり、滑車を利用したエレベーターのような物や樹と樹の間を縫う様に設置された木製の巨大な空中水路まであるようだ。樹の高さはどれも二十階くらいありそうである。

 

「ふふ、どうやら我らの故郷、フェアベルゲンを気に入ってくれたようだな」

 

 アルフレリックの表情が嬉しげに緩んでいる。周囲の亜人達やハウリア族の者達も、どこか得意げな表情だ。

 

「ああ、こんな綺麗な街を見たのは始めてだ。空気も美味い。自然と調和した見事な街だな」

「ん……綺麗」

「いい所だ。……リューの奴も、さぞ鼻が高いだろうな」

 

 掛け値なしのストレートな称賛に、流石に、そこまで褒められるとは思っていなかったのか少し驚いた様子の亜人達。だが、やはり故郷を褒められたのが嬉しいのか、皆、ふんっとそっぽを向きながらもケモミミや尻尾を勢いよくふりふりしている。

 

 紅達は、フェアベルゲンの住人に好奇と忌避、あるいは困惑と憎悪といった様々な視線を向けられながら、アルフレリックが用意した場所に向かった。

 

 

 

 

「……なるほど。試練に神代魔法、それに神の盤上か……」

 

 現在、ハジメと紅、ユエの三人はアルフレリックと向かい合って話をしていた。内容は、ハジメがオスカー・オルクスに聞いた〝解放者〟のことや神代魔法のこと、自分が異世界の人間であり七大迷宮を攻略すれば故郷へ帰るための神代魔法が手に入るかもしれないこと等だ。

 

 アルフレリックは、この世界の神の話を聞いても顔色を変えたりはしなかった。不思議に思ったハジメが尋ねると、「この世界は亜人族に優しくはない、今更だ」という答えが返ってきた。神が狂っていようがいまいが、亜人族の現状は変わらないということらしい。聖教教会の権威もないこの場所では信仰心もないようだ。

 

「リューティリスは……【ハルツィナ樹海】の大迷宮の創始者、リューティリス・ハルツィナは自身が〝解放者〟という存在である事と仲間の名前、そしてこの地に七大迷宮を示す紋章を持つ者が現れたらそれがどのような者であれ敵対しないこと、その者を気に入ったのなら望む場所に連れて行くこと、と言い伝えているはずだ。そうだろ、長老殿」

「……ああ、その通りだ。その情報もオスカー・オルクスの試練を乗り越えた時に教えられたのか?」

「いや、だが解放者については他の奴よりも詳しいとは思う」

 

 また、オルクスの指輪の紋章にアルフレリックが反応したのは、大樹の根元に七つの紋章が刻まれた石碑があり、その内の一つと同じだったからだそうだ。

 

「それで、俺達は資格を持っているというわけか……」

 

 どうして人間を亜人族の本拠地に招き入れたのか理由はわかった。しかし、全ての亜人族がそんな事情を知っているわけではないはずなので、今後の話をする必要がある。

 

 もう少し話を詰めようとしたその時、何やら階下が騒がしくなった。現在、紅達のいる場所は最上階にあたり、階下にはシア達ハウリア族が待機している。どうやら、彼女達が誰かと争っているようだ。

 

 階下では、大柄な熊の亜人族や虎の亜人族、狐の亜人族、背中から羽を生やした亜人族、小さく毛むくじゃらのドワーフらしき亜人族が剣呑な眼差しで、ハウリア族を睨みつけていた。部屋の隅で縮こまり、カムが必死にシアを庇っている。シアもカムも頬が腫れている事から既に殴られた後のようだ。

 

「アルフレリック……貴様、どういうつもりだ。なぜ人間を招き入れた? こいつら兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなど……返答によっては、長老会議にて貴様に処分を下すことになるぞ」

 

 必死に激情を抑えているのだろう熊の亜人。拳を握りわなわなと震えている。やはり、亜人族にとって人間族は不倶戴天の敵なのだ。しかも、忌み子と彼女を匿った罪があるハウリア族まで招き入れた。

 

 フェアベルゲンには、種族的に能力の高い幾つかの各種族を代表する者が長老となり、長老会議という合議制の集会で国の方針などを決めるらしい。裁判的な判断も長老衆が行う。今、この場に集まっている亜人達が、どうやら当代の長老達らしい。だが、口伝に対する認識には差があるようだ。

 

 その後も熊の亜人とアルフレリックの話し合いは平行線をたどり、とうとう我慢の限界がきた。

 

「……ならば、今、この場で試してやろう!」

 

 いきり立った熊の亜人が突如、ハジメに向かって突進する。そして、一瞬で間合いを詰め、身長二メートル半はある脂肪と筋肉の塊の様な男の豪腕が、ハジメに向かって振り下ろされた。

 

 だがその間に紅が滑り込み振り下ろされる拳に優しく触れる。

 

「かっは!」

 

 次の瞬間、熊の亜人は背中から地面に叩きつけられていた。誰もが拳に触れた所までしか見えなかっただろう。紅は触れた拳を起点に男の力を利用して投げたのだ。

 

「……加減はした。これでどうか勘弁してほしい。あなた方をあまり傷つけたくない」

 

 亜人の中でも、熊人族は特に耐久力と腕力に優れた種族だ。その豪腕は、一撃で野太い樹をへし折る程で、種族代表ともなれば他と一線を画す破壊力を持っている。それを正面から圧倒する想像を超えた絶技を前に、誰もが口を閉ざした。

 

 

 

 

 

 紅が熊人族の男を投げ飛ばした後、アルフレリックが何とか執り成すことでなんとか話し合いの場を設けることができた。

 

 現在、当代の長老衆である虎人族のゼル、翼人族のマオ、狐人族のルア、土人族(俗に言うドワーフ)のグゼ、そして森人族のアルフレリックが、紅達と向かい合って座っている。

 

「で? あんた達は俺等をどうしたいんだ? 俺は大樹の下へ行きたいだけで、邪魔しなければ敵対することもないんだが……亜人族としての意思を統一してくれないと、いざって時、何処までやっていいかわからないのは不味いだろう? あんた達的に。殺し合いの最中、敵味方の区別に配慮する程、俺はお人好しじゃないぞ」

 

 ハジメの言葉に、身を強ばらせる長老衆。言外に、亜人族全体との戦争も辞さないという意志が込められていることに気がついたのだろう。

 

「お前はどうしてそういう言い方をするんだ。……オレ達の要求は大したものではありません。先ほどから言っている通りオレ達の目的は大樹にあります。そこに行けさえすれば敵対しない限りこちらからは一切手は出さないと誓います」

 

「……確かに、紋章の一つを所持しているし、その実力も大迷宮を突破したと言うだけのことはあるね。僕は、彼を口伝の資格者と認めるよ」

 

 そう言ったのは狐人族の長老ルアだ。糸のように細めた目でハジメを見た後、他の長老はどうするのかと周囲を見渡す。

 

 その視線を受けて、翼人族のマオ、虎人族のゼルも相当思うところはあるようだが、同意を示した。代表して、アルフレリックが伝える。

 

「南雲ハジメ、西村紅。我らフェアベルゲンの長老衆は、お前さん等を口伝の資格者として認める。故に、お前さん等と敵対はしないというのが総意だ……可能な限り、末端の者にも手を出さないように伝える。……しかし……」

「絶対じゃない……か?」

「ああ。知っての通り、亜人族は人間族をよく思っていない。正直、憎んでいるとも言える。血気盛んな者達は、長老会議の通達を無視する可能性を否定できない。特に、今回再起不能にされたジンの種族、熊人族の怒りは抑えきれない可能性が高い。アイツは人望があったからな……」

「それで?」

 

 アルフレリックの話しを聞いてもハジメの顔色は変わらない。すべきことをしただけであり、すべきことをするだけだという意志が、その瞳から見て取れる。アルフレリックは、その意志を理解した上で、長老として同じく意志の宿った瞳を向ける。

 

「お前さんを襲った者達を殺さないで欲しい」

「……殺意を向けてくる相手に手加減しろと? あの熊野郎が手練だというなら、可能か否かで言えば可能だ。だが、殺し合いで手加減をするつもりはない。あんたの気持ちはわかるけどな、そちらの事情は俺にとって関係のないものだ。同胞を死なせたくないなら死ぬ気で止めてやれ」

「だから、どうしてそういう言い方をするんだ……」

 

 奈落の底で培った、敵対者は殺すという価値観は根強くハジメの心に染み付いている。殺し合いでは何が起こるかわからないのだ。手加減などして、窮鼠猫を噛むように致命傷を喰らわないとは限らない。その為、ハジメがアルフレリックの頼みを聞くことはなかった。

 

 しかし、そこで虎人族のゼルが口を挟んだ。

 

「ならば、我々は、大樹の下への案内を拒否させてもらう。口伝にも気に入らない相手を案内する必要はないとあるからな」

 

 その言葉に、ハジメは訝しそうな表情をした。もとより、案内はハウリア族に任せるつもりで、フェアベルゲンの者の手を借りるつもりはなかった。そのことは、彼等も知っているはずである。だが、ゼルの次の言葉で彼の真意が明らかになった。

 

「ハウリア族に案内してもらえるとは思わないことだ。そいつらは罪人。フェアベルゲンの掟に基づいて裁きを与える。何があって同道していたのか知らんが、ここでお別れだ。忌まわしき魔物の性質を持つ子とそれを匿った罪。フェアベルゲンを危険に晒したも同然なのだ。既に長老会議で処刑処分が下っている」

 

 ゼルの言葉に、シアは泣きそうな表情で震え、カム達は一様に諦めたような表情をしている。この期に及んで、誰もシアを責めないのだから情の深さは折紙付きだ。

 

「長老様方! どうか、どうか一族だけはご寛恕を! どうか!」

「シア! 止めなさい! 皆、覚悟は出来ている。お前には何の落ち度もないのだ。そんな家族を見捨ててまで生きたいとは思わない。ハウリア族の皆で何度も何度も話し合って決めたことなのだ。お前が気に病む必要はない」

「でも、父様!」

 

 土下座しながら必死に寛恕を請うシアだったが、ゼルの言葉に容赦はなかった。

 

「既に決定したことだ。ハウリア族は全員処刑する。フェアベルゲンを謀らなければ忌み子の追放だけで済んだかもしれんのにな」

「一つ聞きたいんだが」

 

 先ほどから何か考え込んでいた紅が話を繰り出す。

 

「なぜ彼等が処刑されることになったんだ? 生憎頭のできが良くなくてイマイチ理解できないんだが」

「は、はあ?」

 

 まさかの言葉に亜人族だけにとどまらず、シア達ハウリア族やハジメ達まで口を開けて紅を見つめる。

 

「そ、それは忌み子という危険因子をフェアベルゲンの傍に隠し続けたということが───」

「それだ。魔力を持たない筈の亜人に生まれながら魔力を持ち、なおかつ直接操作と固有魔法を使うまるで魔物のような存在。だがそれを言ったら今ここにいるハジメとユエも、そして他でもない創始者リューティリスもそうだった。〝それがどのような者であれ敵対するな〟が掟ならいずれにしろ化物を見逃さなければならない。ならば彼女一人見逃すくらい今更だろう」

「………」

 

 開いた口が塞がらない。亜人族の様子を表すならばそれだろう。

 

「それに、オレ達はハウリア族の命を保証する代わりに大樹まで案内してもらうと約束ししている。それでもなお彼らを殺すというのなら、あまり気は乗らないが相手になります。殺したりはしません。どんな手を使って来ようともそのこと如くを打ち砕きましょう、ハジメが」

「え、俺?」

 

 急に雰囲気が変わり始めた紅に息を吞んでいた長老たちだが、それが一気に弛緩した。

 

「なんで俺なんだ。お前がやれよ」

「いや約束したのハジメだろ。それにお前がリーダーだし」

 

 しばらく硬直していた長老衆だが、やがて顔を見合わせヒソヒソと話し始めた。そして、結論が出たのか、代表してアルフレリックが、それはもう深々と溜息を吐きながら長老会議の決定を告げる。

 

「はぁ~わかった、ハウリア族は忌み子シア・ハウリアを筆頭に、同じく忌み子である南雲ハジメの身内と見なす。そして、資格者に対しては、敵対はしないがフェアベルゲンや周辺の集落への立ち入りを禁ずる。以降、一族に手を出した場合は全て自己責任とする……以上だ。何かあるか?」

「いいえ、それで結構。寛大な処置に感謝します」

「ならば、早々に立ち去ってくれるか。ようやく現れた口伝の資格者を歓迎できないのは心苦しいが……」

「気にしないでくれ。全部譲れないこととは言え、相当無茶言ってるからな。むしろ理性的な判断をしてくれて有り難いくらいだよ」

「お前すげぇ上から目線だな……」

 

 そんなやり取りをする目の前の怪物達に苦笑いするアルフレリック。他の長老達は渋い表情か疲れたような表情だ。恨み辛みというより、さっさとどっか行ってくれ! という雰囲気である。その様子に肩を竦めるハジメはユエやシア達を促して立ち上がった。

 

 しかし、シア達ハウリア族は、未だ現実を認識しきれていないのか呆然としたまま立ち上がる気配がない。ついさっきまで死を覚悟していたのに、気がつけば追放で済んでいるという不思議。「えっ、このまま本当に行っちゃっていいの?」という感じで内心動揺しまくっていた。

 

「おい、何時まで呆けているんだ? さっさと行くぞ」

 

 ハジメの言葉に、ようやく我を取り戻したのかあたふたと立ち上がり、さっさと出て行くハジメの後を追うシア達。アルフレリック達も、門まで送ってくれるようだ。

 

 シアが、オロオロしながら尋ねてくる。

 

「あ、あの、私達……死ななくていいんですか?」

「当然。あんな理由で人が殺されるなんてあってはならない。第一、リューティリスだってそんな事望んでない」

「……その、何だかトントン拍子で窮地を脱してしまったので実感が湧かないといいますか……信じられない状況といいますか……」

 

 周りのハウリア族も同様なのか困惑したような表情だ。それだけ、長老会議の決定というのは亜人にとって絶対的なものなのだろう。どう処理していいのか分からず困惑するシアにユエが呟くように話しかけた。

 

「……素直に喜べばいい」

「ユエさん?」

「……ハジメに救われた。それが事実。受け入れて喜べばいい」

「流石だなリーダー?」

「勝手に人の名前を使いやがって……にしても紅があそこまで言うなんて珍しいよな」

「……境遇が似てたからついな。ちょっと自己投影してた」

 

 その言葉に首をかしげるハウリア族と長老達。事情を知っているハジメとユエはなんとなく察したらしい。

 

「紅殿、境遇が似てるとはどういう……?」

「あれ、ハジメ説明してないのか? オレは人間族だけど魔力を持たない、シア・ハウリアとは逆の意味での忌み子だ」

「ま、魔力を持ってない!? そんなはずありません! だって紅さん、氷の魔法を使ってましたよね!?」

「あれは魔法じゃない。……なんか説明するの面倒くさくなってきた。とにかく『本来魔力を持たない亜人族でありながら魔力を持っている』シア・ハウリアと『魔力を持って生まれる人間族でありながら魔力を一切持たない』オレ。似てるだろ?」

 

 納得ができないという表情のハウリア族に苦笑する。無理もないだろう、魔力もなしにどうやって魔物を凍らせるというのだ。銀気という存在が周知されていないこの世界で。

 

「同族から迫害される辛さは理解できる。ただほんの少し周りと違うだけでってな。だから口を挟んでしまった。……全部ハジメに押し付けようと思ってたのに……」

「待て。最後小声でなんて言った?」

 

 聞き捨てならない言葉に思わず振り返るハジメ。その様子に思わず笑みが零れる。

 

「何はともあれハウリア族の処刑はなくなり、オレ達も大樹まで行ける。よかったじゃないか、家族を守ることができて。ハジメに感謝だ」

 

 その言葉にようやく命拾いしたという実感が沸いてきたのか、隣同士で喜びを分かち合っているハウリア族。

 

 その空気につられ、シアはユエの言う通り素直に喜び、今の気持ちを衝動に任せて全力で表してみることにした。すなわち、全力で抱きつく!

 

「うわあぁ~ん! ありがどうございま―――アバババババババ!」

 

 だがそれを紅はヒョイッと横にずれることで躱し、狙いすませていたかのようにハジメが顔を鷲掴み、纏雷を発動する。

 

 無駄な所で発揮する無駄なコンビネーション。だが息はピッタリだ。

 

 そんな彼らを何とも複雑そうな表情で見つめている長老衆。そして、更に遠巻きに不快感や憎悪の視線を向けている者達も多くいる。

 

 差別種族と被差別種族が急に仲良くなるのは実に厳しいと、そう思った。

 

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