銀の死神   作:日彗

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第二十二話 楽あれば、苦あり

 

 サソリ部屋の横穴からしばらく迷宮を彷徨よい、そしてたどり着いた部屋で天井がまるごと落ちてくるという悪辣で定番なトラップが発動し潰されかけた。

 

 逃げ場はなく、奥の通路までは距離がありすぎて間に合いそうにない。咄嗟に、ハジメと紅とシアが膂力で天井を支え、その隙にハジメが天井を錬成し穴を開けたのだ。もっとも、強力な魔法分解作用のせいで錬成がやりにくい事この上なく、錬成速度は普段の四分の一、範囲は一メートル強で、数十倍の魔力をごっそりと持っていかれることになった。そうやって、なんとか小さな空間で四人密着しながらハジメの錬成で穴を掘りつつ、出口に向かったのである。

 

「ぜはっーぜはっー、ちょ、ちょっと焦ったぜ」

「……ん、潰されるのは困る」

「いやいや、困るとかそんなレベルの話じゃないですからね? 普通に死ぬところでしたからね?」

「学習能力のないお前達にキレていいか?」

 

 ハジメはポーチから取り出した回復薬を一気に飲み干す。味は、まさしくリポビタンDである。魔晶石から魔力を取り出すのに比べれば回復速度も回復量も微々たるものだが随分活力が戻ったような気がするハジメ。「うし!」と気合を入れ直し立ち上がった。

 

 そして再び、というか何時ものウザイ文を発見した。

 

〝ぷぷー、焦ってやんの~、ダサ~い〟

 

 どうやらこのウザイ文は、全てのトラップの場所に設置されているらしい。ミレディ・ライセン……嫌がらせに努力を惜しまないヤツである。

 

「あ、焦ってませんよ! 断じて焦ってなどいません! ださくないですぅ!」

 

 視線を辿り、ウザイ文を見つけたシアが「ガルルゥ!」という唸り声が聞こえそうな様子で文字に向かって反論する。シアのミレディに対する敵愾心は天元突破しているらしい。ウザイ文が見つかる度にいちいち反応している。

 

「いいから、行くぞ。いちいち気にするな」

「……思うツボ」

「それだけ元気なら問題なさそうだな」

「うぅ、はいですぅ」

 

 その後も、進む通路、たどり着く部屋の尽くで罠が待ち受けていた。突如、全方位から飛来する毒矢、硫酸らしき、物を溶かす液体がたっぷり入った落とし穴、アリジゴクのように床が砂状化し、その中央にワーム型の魔物が待ち受ける部屋、そしてウザイ文。

 

 それでも全てのトラップを突破し、この迷宮に入って一番大きな通路に出た。幅は六、七メートルといったところだろう。結構急なスロープ状の通路で緩やかに右に曲がっている。おそらく螺旋状に下っていく通路なのだろう。

 

 ハジメ達は警戒する。こんな如何にもな通路で何のトラップも作動しないなど有り得ない。

 

 そして、その考えは正しかった。もう嫌というほど聞いてきた「ガコンッ!」という何かが作動する音が響く。

 

 今度はどんなトラップだ? と周囲を警戒するハジメ達の耳にそれは聞こえてきた。

 

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

 

 明らかに何か重たいものが転がってくる音である。

 

「「「「……」」」」

 

 四人が無言で顔を見合わせ、同時に頭上を見上げた。スロープの上方はカーブになっているため見えない。異音は次第に大きくなり、そして……カーブの奥から通路と同じ大きさの巨大な大岩が転がって来た。岩で出来た大玉である。

 

 紅とユエとシアが踵を返し脱兎のごとく逃げ出そうとする。しかし、少し進んで直ぐに立ち止まった。ハジメが付いて来ないからだ。

 

「……ん、ハジメ?」

「ハジメさん!? 早くしないと潰されますよ!」

 

 二人の呼びかけに、しかしハジメは答えず、それどころかその場で腰を深く落として右手を真っ直ぐに前方に伸ばした。掌は大玉を照準するように掲げられている。そして、左腕はググッと限界まで引き絞られた状態で「キィイイイ!!」という機械音を響かせている。

 

 ハジメは、轟音を響かせながら迫ってくる大玉を真っ直ぐに見つめ、獰猛な笑みを口元に浮かべた。

 

「いつもいつも、やられっぱなしじゃあなぁ! 性に合わねぇんだよぉ!」

「バカ! ミレディを舐めすぎだ!」

 

 だが紅の言葉は届かない。義手から発せられる「キィイイイイ!!」という機械音が、ハジメの言葉と共に一層激しさを増す。

 

 そして……

 

ゴガァアアン!!!

 

 凄まじい破壊音を響かせながら大玉とハジメの義手による一撃が激突した。ハジメは、大玉の圧力によって足が地面を滑り少し後退させられたがスパイクを錬成して踏ん張る、そして、ハジメの一撃は衝突点を中心に大玉を破砕していき、全体に亀裂を生じさせた。大玉の勢いが目に見えて減衰する。

 

「ラァアアア!!」

 

 ハジメが裂帛の気合と共に左の拳を一気に振り抜いた。辛うじて拮抗していた大玉の耐久力とハジメの拳の威力は、この瞬間崩れさり、ハジメの拳に軍配が上がった。そして、大玉は轟音を響かせながら木っ端微塵に砕け散った。

 

 ハジメは、拳を振り抜いた状態で残心し、やがてフッと気を抜くと体勢を立て直した。義手からは、もう、あの独特の機械音は聞こえない。ハジメは、義手を握ったり開いたりして異常がないことを確かめると実に清々しい笑顔で振り返る。ハジメ自身も相当、感知できない上に作動させなくても作動するトラップとその後のウザイ文にストレスが溜まっていたようだ。

 

「……あれ?」

 

 だが振り向いた先には誰もいない。いやよく見るとユエとシアを抱えた紅が遠くへ走って行くのが見えた。

 

「ア、アイツら俺を置いて行きや……」

 

 しかし、その言葉は途中で遮られる。

 

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

 

 という聞き覚えのある音によって。笑顔のまま固まるハジメ。ギギギと油を差し忘れた機械のようにぎこちなく背後を振り向いたハジメの目に映ったのは……

 

─── 黒光りする金属製の大玉だった。

 

「うそん」

 

 ハジメが思わず笑顔を引き攣らせながら呟く。

 

 それもあろうことに金属製の大玉は表面に空いた無数の小さな穴から液体を撒き散らしながら迫ってきており、その液体が付着した場所がシュワーという実にヤバイ音を響かせながら溶けていた。

 

 ハジメは、それを確認し一度「ふぅ~」と息を吐くと、笑顔のまま再度紅達が走り去った方に顔を向けた。そして笑顔がスっと消えたかと思うと、「ちくしょう!」と叫び、いきなりスプリンターも真っ青な見事な踏切でスロープを駆け下りていった。

 

「待てお前等ァーー! 頼む待ってくれェーー! 俺達仲間じゃなかったのかァァァ!?」

「やかましい! オレは忠告しただろうが! この辺りで反撃するだろうことなんて見透かされてるに決まってるだろ!」

「いやぁあああ!! 轢かれた上に溶けるなんて絶対に嫌ですぅ~!」

「……ん、ファイト」

 

 そうこうしている内に通路の終わりが見えた。どうやら相当大きな空間が広がっているようだ。だが見える範囲が少しおかしい。部屋の床がずっと遠くの部分しか見えないのだ。おそらく、部屋の天井付近に走っている通路の出口があるのだろう。

 

「ハジメ、ユエを頼む! 真下に降りるぞ!」

「おう!」

 

 紅達は、スライディングするように通路の先の部屋に飛び込み、出口の真下へと落下した。

 

 そして、

 

「げっ!?」

「んっ!?」

「ひんっ!?」

 

 三者三様の呻き声を上げた。出口の真下が明らかにヤバそうな液体で満たされてプールになっていたからだ。

 

「んのやろうぉ!」

 

 紅はまたしても壁に剣を突き刺すことで制止し、ハジメは、咄嗟に義手からナイフを射出、同時に壁にアンカーを撃ち込み右手でユエを捕まえ落下を防いだ。

 直後、頭上を溶解液を撒き散らしながら金属球が飛び出していき、眼下のプールへと落下した。そのままズブズブと煙を吹き上げながら沈んでいく。

 

「〝風壁〟」

 

 ユエの魔法で飛び散った溶解液が吹き散らさられる。しばらく、周囲を警戒したが特に何も起こらないので、ようやく肩から力を抜いた。

 

「ふう……全員無事か?」

「無事なわけあるか! あと一歩で死ぬところだったわ!」

「だからお前はミレディ・ライセンを舐めすぎなんだって。仮にも解放者達のリーダー。強力な神代魔法使い、先祖返り達をまとめていた存在だぞ」

「ならせめて何か言えよ!」

「うぅ~、死ぬかと思いましたぁ~」

「……その割には結構元気」

 

 下にある溶解液のプールを飛び越えて今度こそ部屋の地面に着地する。

 

 その部屋は長方形型の奥行きがある大きな部屋だった。壁の両サイドには無数の窪みがあり騎士甲冑を纏い大剣と盾を装備した身長二メートルほどの像が並び立っている。部屋の一番奥には大きな階段があり、その先には祭壇のような場所と奥の壁に荘厳な扉があった。祭壇の上には菱形の黄色い水晶のようなものが設置されている。

 

「いかにもな扉だな。ミレディの住処に到着か? それなら万々歳なんだが……この周りの騎士甲冑に嫌な予感がするのは俺だけか?」

「……大丈夫、お約束は守られる」

「それって襲われるってことですよね? 全然大丈夫じゃないですよね?」

「なら襲われる前にあの扉を抜けよう」

 

 そんなことを話しながらハジメ達が部屋の中央まで進んだとき、確かにお約束は守られた。

 

 毎度お馴染みのあの音である。

 

ガコン!

 

 ピタリと立ち止まり内心「やっぱりなぁ~」と思いつつ周囲を見ると、騎士達の兜の隙間から見えている眼の部分がギンッと光り輝いた。そして、ガシャガシャと金属の擦れ合う音を立てながら窪みから騎士達が抜け出てきた。その数、総勢五十体。

 

「ははっ、ホントにお約束だな。動く前に壊しておけばよかったか。まぁ、今更の話か……紅、ユエ、シア、やるぞ」

「んっ」

「か、数多くないですか? いや、やりますけども……」

「……シア」

「は、はいぃ! な、何でしょう、紅さん」

 

 緊張で声が裏返っている。もともとハウリア族という温厚な部族出身だったことからも、戦闘に対して及び腰になるのも無理はない。むしろ、気丈にドリュッケンを構えて立ち向かおうと踏ん張っている時点でかなり根性があると言えるだろう。

 

「援護はする。だから好きに暴れろ。ヤバくなったら助ける」

 

 それだけ。たったそれだけの言葉に、されどシアは思わず涙目になった。単純に嬉しかったのだ。あまり役に立てておらず、ひょっとして付いて来た事も迷惑に思っているんじゃと、ちょっぴり不安になったりもしたのだが……杞憂だったようだ。ならば、未熟者は未熟者なりに出来ることを精一杯やらねばならない。シアは、全身に身体強化を施し、力強く地面を踏みしめた。

 

「ふふ、見ましたかハジメさん。紅さんが少しデレてくれました。やる気が湧いてきましたよ!」

「えっ? オレ今デレてた?」

「知らん」

 

 呆れた眼差しを向けられるも、テンションの上がってきたシアは聞いていない。真っ直ぐ前に顔を向けて騎士達を睨みつける。

 

「かかってこいやぁ! ですぅ!」

「……だぁ~」

「つっこまないぞ。絶対つっこまないからな!」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 ゴーレム騎士達の動きは、その巨体に似合わず俊敏だった。ガシャンガシャンと騒音を立てながら急速に迫るその姿は、装備している武器や眼光と相まって凄まじい迫力である。まるで四方八方から壁が迫って来たと錯覚すらしそうだ。

 

 そんな騎士達に向けて走る銀閃。次の瞬間には粉々に切り刻まれていた。それを援護するように

 

ドパン! ドパン!

 

 二条の閃光が狙い違わず二体のゴーレム騎士の頭部、正確には目の部分を撃ち抜く。衝撃で頭部が仰け反り後方へ倒れる騎士達。それを軽やかに飛び越えて後続の騎士達がハジメ達へと迫る。ハジメは、再度連続して発砲し、致命的な包囲をされまいと隊列を乱していく。

 

 そんなハジメの嵐のような銃撃を盾と大剣と仲間の体で凌ぎながら、遂にハジメ達の目前へと迫った数体の騎士。

 

 だがそこは、青みがかった白髪をなびかせ、超重量の大槌を大上段に構えたまま飛び上がっていたシア・ハウリアのキルゾーンだ。限界まで強化したその身体能力を以て遠慮容赦の一切を排した問答無用の一撃を繰り出す。

 

「でぇやぁああ!!」

 

ドォガアアア!!

 

 打ち下ろされた大槌ドリュッケンは、凄まじい衝撃音を響かせながら一体のゴーレム騎士をペシャンコに押しつぶした。一応、騎士も頭上に盾を構えていたのだが、その防御ごと押しつぶされたのだ。

 

 地面にまで亀裂を生じさせめり込んでいるドリュッケン。渾身の一撃を放ち、死に体となっていると判断したのか、盾を構えて衝撃に耐えていた傍らの騎士が大きく大剣を振りかぶりシアを両断せんと踏み込む。

 

 シアはそれをしっかり横目で確認していた。柄を捻り、ドリュッケンの頭の角度を調整すると、柄に付いているトリガーを引く。

 

ドガンッ!!

 

 そんな破裂音を響かせながら地面にめり込んでいたドリュッケンが跳ね上がった。シアの脇を排莢されたショットシェルが舞う。跳ね上がったドリュッケンの勢いを殺さず、シアはその場で一回転すると遠心力をたっぷり乗せた一撃を、今まさに大剣を振り下ろそうとしている騎士の脇腹部分に叩きつけた。

 

「りゃぁあ!!」

 

 そのまま気迫を込めて一気に振り抜く。直撃を受けた騎士は、体をくの字に折り曲げて、まるで高速で突っ込んできたトラックに轢かれたかのようにぶっ飛んでいき、後ろから迫って来ていた騎士達を盛大に巻き込んで地面に叩きつけられた。騎士の胴体は、原型を止めないほどひしゃげており身動きが取れなくなっているようだ。

 

 シアの口元に笑みが浮かぶ。戦いに快楽を覚えたからではない。自分がきちんと戦えていることに喜びを覚えているのだ。自分はちゃんと紅達の旅に付いて行けるのだと実感しているのだ。その瞬間、ほんの少しだけ気が抜ける。

 

 戦場で、その緩みは致命的だった。気がつけば視界いっぱいに騎士の盾が迫っていた。何と、ゴーレム騎士の一体が自分の盾をシアに向かって投げつけたのである。流石ゴーレムというべきか。途轍もない勢いで飛ばされたそれは、身体強化中のシアにとって致命傷になるようなものではないが、脳震盪くらいは確実に起こす威力だ。そうなれば、一気に畳み込まれるだろうことは容易に想像できる。

 

 しまった! と思う余裕もない。せめて襲い来るであろう衝撃に耐えるべく覚悟を決める。と、盾がシアに衝突する寸前でレーザーの如き水流が飛来し盾に衝突。その軌道を捻じ曲げた。盾はシアの頭部のすぐ脇を通過し、背後のゴーレム騎士に激突して転倒させる。

 

「……油断大敵。お仕置き三倍」

「ふぇ!? 今のユエさんが? す、すみません、ありがとうございます! ってお仕置き三倍!?」

「ん……気を抜いちゃダメ」

「うっ、はい! 頑張りますぅ!」

 

 ユエに「メッ!」という感じで叱られてしまい、自分が少し浮かれて油断してしまったことを自覚するシア。反省しながら気を引き締めなおす。改めて、迫って来たゴーレム騎士を倒そうとして、後方から飛んできた細いレーザーのような水流が、密かにシアの背後を取ろうとしていたゴーレム騎士をスッパリと両断したのを確認した。

 

 ユエが、自分の背中を守ってくれていると理解し心の内が温かくなるシア。師匠の前で無様は見せられないと、より一層気合を入れた。

 

 その後も、暴れるシアの死角に回ろうとする騎士がいれば同じように水流が飛び、その辺の刃物よりよほど鋭利に切断していく。ユエが行使しているのは水系の中級魔法〝破断〟である。空気中の水分を超圧縮して撃ち放つウォーターカッターだ。

 

 ユエは両手に金属で出来た大型の水筒を持っていた。肩紐で更に二つ同じ水筒を下げている。これらは、ハジメの〝宝物庫〟から取り出してもらった物だ。ユエが、その水筒をかざして魔法名を呟く度にウォーターカッターが水筒より飛び出し敵を切り裂いていく。

 

 ユエは、魔法で空気中の水分を集めるよりも、最初からある水分を圧縮してやる方が魔力消費が少なくて済むと考えたのだ、また、照準は水筒の出口を向けることで付けており、飛び出たウォーターカッター自体は魔力を含まないものなので分解作用により消されることもない。

 

 シアの爆発的な近接攻撃力と、その死角を補うように放たれるユエの水刃。騎士達は、二人のコンビネーションを破ることができず、いいように翻弄されながら次々と駆逐されていった。

 

「おいおい、やけるじゃねぇの。いいとこ見せとかないと愛想尽かされちまうかな?」

「そう思うならもっと気合を入れろ。敵の数が減ってないぞ」

 

 背中を合わせるように立つ、紅とハジメ。先ほどから相当な数のゴーレム騎士を破壊したはずなのだが、迫り来る彼等の密度が全く変わらないのだ。

 

「……もしかして、再生してる?」

「みたいだな」

「そんな!? キリがないですよぉ!」

 

 そう、ゴーレム騎士達は破壊された後も眼光と同じ光を一瞬全身に宿すと瞬く間に再生して再び戦列に加わっていたのである。

 

「……ハジメ、ゴーレムなら核があるはず」

 

 ユエの言う通り、ゴーレムは体内に核を持っているのが通常であり、その核が動力源となる。核は魔物の魔石を加工して作られている。オスカーのお掃除ゴーレムの設計書にもそう記されてあった。ユエは、その核を壊そうと言っているのだ。

 

 だが、そのユエの提案にハジメは渋い表情をした。

 

「それがな、こいつら核を持っていやがらねぇんだよ」

「……確か?」

「ああ、魔眼石でも確認しているが、そんな反応はない。ゴーレム自体から微量の魔力は感知できるんだがな……」

「け、結局どうするんですかぁ! このままじゃジリ貧ですよぉ!」

「修行にはもってこいじゃないか。ちょうどいい、もう少しここに留まるのもアリだな」

「絶対にイヤですぅ!」

 

 シアの叫びを無視して〝鉱物系鑑定〟を使うハジメ。核という動力なくして作動するゴーレムは、もしかしたら特殊な鉱石で作られているのでは? と考えたからだ。

 

 そしてそれは正解だった。

 

「っ! こいつらを操っている奴がいる。マジでキリがないから、強行突破するぞ!」

 

 ハジメの合図と共に、ユエとシアが一気に踵を返し祭壇へ向かって突進する。紅が銀剣を進行方向の騎士達めがけて投擲。着弾した際の衝撃波で蹴散らされていく。

 

 ハジメは殿を務めつつ、後方から迫るゴーレム騎士達にレールガンを連射した。その隙に一気に包囲網を突破したシアが祭壇の前に陣取る。続いてユエが、祭壇を飛び越えて扉の前に到着した。

 

「ユエさん! 扉は!?」

「ん……やっぱり封印されてる」

「あぅ、やっぱりですかっ!」

 

 見るからに怪しい祭壇と扉なのだ。封印は想定内。だからこそ、最初は面倒な殲滅戦を選択したのだ。扉の封印を落ち着いて解くために。シアは、案の定の結果に文句を垂れつつも、階段を上ってきた騎士を弾き飛ばす。

 

「封印の解除はユエに任せればいい。オレ達の仕事は封印が解けるまでユエを守り切ることだ」

「紅さんならこの扉、破壊できたりとか……」

「しないからな。それじゃお前達の修行にならんだろ」

「ですよねぇ~……」

 

 その後も雑談を交わしながらゴーレム騎士達を弾き飛ばしていく。最初は、際限の無さに焦りを浮かべていたシアもハジメ達が余裕を失わず冷静である様子を見て、落ち着きを取り戻したようだ。

 

「でも、ちょっと嬉しいです」

「ん?」

 

 また一体、ゴーレム騎士を叩き潰し蹴り飛ばしながら、シアがポツリとこぼした。

 

「ほんの少し前まで、逃げる事しか出来なかった私が、こうして紅さんと肩を並べて戦えていることが……とても嬉しいです」

「……ホント物好きだな。ハジメにしておけと言ってんのに」

「えへへ、私、この迷宮を攻略したら紅さんといちゃいちゃするんだ! ですぅ」

「オレにそういう(NTR)趣味はない」

「お前等、意外と余裕だな?」

 

 そんな雑談をしながら騎士達を退け続けて数分。少し得意気な表情のユエが任務達成を伝えた。

 

「……開いた」

「早かったな、流石ユエ!」

 

 ハジメが、チラリと後ろを振り返ると、ユエの言った通り封印が解かれて扉が開いているのが確認できた。奥は特になにもない部屋になっているようだ。

 

 シアに撤退を呼びかけ、自らも奥の部屋に向かって後退する。封印の扉を閉めればゴーレム騎士達の襲撃も阻めるだろう。最初にユエが、続いて紅とシアが扉の向こうへ飛び込み、両開きの扉の両サイドを持っていつでも閉められるようにスタンバイする。

 

 ハジメは、置き土産にと手榴弾を数個放り投げると、自らも奥の部屋へと飛び込んだ。ゴーレム騎士達が逃がすものかと殺到するが、手榴弾が爆発し強烈な衝撃を撒き散らす。バランスを崩したたらを踏むゴーレム騎士達。その隙に、紅とシアが扉を閉めた。

 

 部屋の中は、遠目に確認した通り何もない四角い部屋だった。てっきり、ミレディ・ライセンの部屋とまではいかなくとも、何かしらの手掛かりがあるのでは? と考えていたので少し拍子抜けする。

 

「これは、あれか? これみよがしに封印しておいて、実は何もありませんでしたっていうオチか?」

「……ありえる」

「うぅ、ミレディめぇ。何処までもバカにしてぇ!」

「………」

 

 一番あり得る可能性にガックリしていると、突如、もううんざりする程聞いているあの音が響き渡った。

 

ガコン!

 

「「「!?」」」

 

 仕掛けが作動する音と共に部屋全体がガタンッと揺れ動いた。そして、ハジメ達の体に横向きのGがかかる。

 

「っ!? 何だ!? この部屋自体が移動してるのか!?」

「……そうみたッ!?」

「うきゃ!?」

「大丈夫か?」

 

 ハジメが推測を口にすると同時に、今度は真上からGがかかる。急激な変化に、ユエが舌を噛んだのか涙目で口を抑えてぷるぷるしている。シアは、転倒してカエルのようなポーズで這いつくばっている。

 

 部屋は、その後も何度か方向を変えて移動しているようで、約四十秒程してから慣性の法則を完全に無視するようにピタリと止まった。ハジメは途中からスパイクを地面に立てて体を固定していたので急停止による衝撃にも耐えたが、シアは耐えられずゴロゴロと転がり部屋の壁に後頭部を強打した。方向転換する度に、あっちへゴロゴロ、そっちへゴロゴロと悲鳴を上げながら転がり続けていたので顔色が悪い。相当酔ったようだ。後頭部の激痛と酔いで完全にダウンしている。ちなみに紅は最初から平然と立っていた。それでも助けようとしないあたり、これも修行の内という事だろう。

 

「ふぅ~、ようやく止まったか……ユエ、大丈夫か?」

「……ん、平気」

「シア、お前もハジメ達を見習いなさい」

「それだけ!? 私にかける言葉はそれだけですか!? うっぷ……」

「ああもういいから、少し休んでな」

「うぅ。うっぷ」

 

 今にも吐きそうな様子で四つん這い状態のシアを放置して、ハジメとユエは周囲を確認していった。そして、やっぱり何もないようなので扉へと向かう。

 

「さて、何が出るかな?」

「……操ってたヤツ?」

「その可能性もあるな。ミレディは死んでいるはずだし……一体誰が、あのゴーレム騎士を動かしていたんだか」

「……何が出ても大丈夫。ハジメは私が守る……ついでにシアも」

「聞こえてますよぉ~うっぷ」

「ほら無理するな。それとハジメ、ミレディ・ライセンは狂った神から人々を救おうとした解放者達のリーダーだ。それがどういう意味かわかるか?」

 

 シアの背中を擦りながらハジメに問いかける紅。それに対して「ああ?」と返した。

 

「性格が最悪な腐った神を倒そうとした集団の頭だぞ。そうなると必然的に───」

 

 紅の話を聞きながら扉を開ける。そこには……

 

「……何か見覚えないか? この部屋。」

「……物凄くある。特にあの石板」

 

 扉を開けた先は、別の部屋に繋がっていた。その部屋は中央に石板が立っており左側に通路がある。見覚えがあるはずだ。なぜなら、その部屋は、

 

「最初の部屋……みたいですね?」

 

 シアが、思っていても口に出したくなかった事を言ってしまう。だが、確かに、シアの言う通り最初に入ったウザイ文が彫り込まれた石板のある部屋だった。よく似た部屋ではない。それは、扉を開いて数秒後に元の部屋の床に浮き出た文字が証明していた。

 

〝ねぇ、今、どんな気持ち?〟

〝苦労して進んだのに、行き着いた先がスタート地点と知った時って、どんな気持ち?〟

〝ねぇ、ねぇ、どんな気持ち? どんな気持ちなの? ねぇ、ねぇ〟

 

「「「………」」」

「───それ相応の性格の悪さが必要になる」

 

 ハジメ達の顔から表情がストンと抜け落ちる。能面という言葉がピッタリと当てはまる表情だ。紅を除く三人が微動だにせず無言で文字を見つめている。すると、更に文字が浮き出始めた。

 

〝あっ、言い忘れてたけど、この迷宮は一定時間ごとに変化します〟

〝いつでも、新鮮な気持ちで迷宮を楽しんでもらおうというミレディちゃんの心遣いです〟

〝嬉しい? 嬉しいよね? お礼なんていいよぉ! 好きでやってるだけだからぁ!〟

〝ちなみに、常に変化するのでマッピングは無駄です〟

〝ひょっとして作っちゃった? 苦労しちゃった? 残念! プギャァー〟

 

「は、ははは」

「フフフフ」

「フヒ、フヒヒヒ」

 

 三者三様の壊れた笑い声が辺りに響く。その後、迷宮全体に届けと言わんばかりの絶叫が響き渡ったのは言うまでもない。最初の通路を抜けて、ミレディの言葉通り、前に見たのとは大幅に変わった階段や回廊の位置、構造に更に怨嗟の声を上げたのも言うまでもないことだ。

 

 その後、ハジメ達が精神を立て直すまで紅は気長に待ち続け、ようやく迷宮攻略に乗り出した。しかし、やはり順風満帆とは行かず、特にシアが地味なトラップ(金たらい、トリモチ、変な匂いのする液体ぶっかけetc)の尽くにはまり、精神的にヤバくない? というほどキレッキレッになったりと、厄介な事に変わりはなかった。

 

 そうして、冒頭の光景に到るのであった。

 

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