銀の死神   作:日彗

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第二十三話 ミレディ・ライセン

 

 ライセン大迷宮に潜り始めてちょうど一週間。その間も数々のトラップとウザイ文に体よりも精神を削られ続けた。スタート地点に戻されること七回、致死性のトラップに襲われること四十八回、全く意味のない唯の嫌がらせ百六十九回。最初こそ、心の内をミレディ・ライセンへの怒りで満たしていたハジメ達だが、四日を過ぎた辺りから何かもうどうでもいいやぁ~みたいな投げやりな心境になっていた。

 

 今度こそは、スタート地点に戻されないことを祈って、三人は迷宮攻略を再開した。

 

 再び嫌らしい数々のトラップとウザイ文を菩薩の心境でクリアしていく。

 

 そして、ハジメ達は、一週間前に訪れてから一度も遭遇することのなかった部屋に出くわした。最初にスタート地点に戻して天元突破な怒りを覚えさせてくれたゴーレム騎士の部屋だ。ただし、今度は封印の扉は最初から開いており、向こう側は部屋ではなく大きな通路になっていた。

 

「また包囲されても面倒だ。扉は開いてるんだし一気に行くぞ!」

 

 ハジメ達はゴーレム騎士の部屋に一気に踏み込んだ。部屋の中央に差し掛かると案の定、ガシャンガシャンと音を立ててゴーレム騎士達が両サイドの窪みから飛び出してくる。出鼻を抉いて前方のゴーレム騎士達を銃撃し蹴散らしておく。そうやって稼いだ時間で、ハジメ達は更に加速し包囲される前に祭壇の傍まで到達した。ゴーレム騎士達が猛然と追いかけるが、ハジメ達が扉をくぐるまでには追いつけそうにない。

 

 だがここは解放者達のリーダー、ミレディ・ライセンの造った大迷宮。そう簡単にいくはずがなく……。

 

「はあ!?」

 

 追いかけてきたゴーレム騎士達は、まるで重力など知らんとばかり壁やら天井やらをガシャンガシャンと重そうな全身甲冑の音を響かせながら走っているのである。

 

 これには、流石のハジメ達も度肝を抜かれた。ハジメは、咄嗟に通路に対して〝鉱物系鑑定〟を使うが、材質は既知のものばかり。重力を中和したり、吸着の性質を持った鉱物等は一切検知できなかった。

 

「どうなってやがる……」

「しゃがめ」

 

 紅がハジメの頭を掴み、身を低くする。突然の行動に疑問の声を上げようとした所でそれは起きた。

 

ドガッシャァァン!!

 

「……え?」

 

 先程まで自身の頭部があった位置に、砲弾のような凄まじい勢いの何かが飛んできた。

 

 思わず後ろを確認する。そこにあった光景は天井を走っていたゴーレム騎士の一体が、走りながらピョンとジャンプすると頭を進行方向に向けたまま宙を飛んでくる、というものだった。

 

「んなっ!? くそったれ!」

 

 ハジメは驚愕の声を漏らしながらドンナーを連続して発砲する。放たれた弾丸は閃光となって飛んできたゴーレム騎士の兜と肩を破壊した。ゴーレム騎士は頭部と胴体が別れ、更に大剣と盾を手放す。しかし、それらは地面に落ちることなく、そのままハジメ達に向かって突っ込んできた。

 

「回避だ!」

「んっ」

「わきゃ!」

 

 猛烈な勢いで迫ってきたゴーレム騎士の頭部、胴体、大剣、盾を屈んだり跳躍したりして躱していく。ハジメ達を通り過ぎたゴーレム騎士の残骸は、そのまま勢いを減じることなく壁や天井、床に激突しながら前方へと転がっていった。

 

「おいおい、あれじゃまるで……」

「ん……〝落ちた〟みたい」

「重力さんが適当な仕事してるのですね、わかります」

 

 まさしくユエやシアの言葉が一番しっくりくる表現だった。

 

 どうやらゴーレム騎士達は重力を操作できるらしい。なぜ、前回は使わなかったのかはわからないが、もしかすると部屋から先の、この通路以降でなければならなかったのかもしれない。

 

 そんな推測も、ゴーレム騎士達がこぞってハジメ達に〝落下〟してきたことで中断された。中には大剣を風車のように回転させながら迫ってくる猛者もいる。ハジメ達は、銃撃や〝破断〟で遠距離攻撃しつつ、接近してきたものは紅とシアが打ち払い、足を止めることなく先へ進んでいった。

 

「ハジメ、挟まれるぞ」

「チッ、わかってる!」

 

 先へと落ちていったゴーレム騎士達が、落下先で再構築したようだ。隊列を組んでハジメ達を待ち構えていた。盾を前面に押し出し腰をどっしりと据えて壁を作っている。ご丁寧に二列目のゴーレム騎士達は盾役の騎士達を後ろから支えていた。おそらく、一列だけではパワーで粉砕されると学習したのだろう。

 

 ならばその防御力を超える攻撃を与えればいい。

 

 ハジメは〝宝物庫〟から一つの兵器を取り出す。

 

 手元に十二連式の回転弾倉が取り付けられた長方形型のロケット&ミサイルランチャー:オルカンである。ロケット弾は長さ三十センチ近くあり、その分破壊力は通常の手榴弾より高くなっている。弾頭には生成魔法で〝纏雷〟を付与した鉱石が設置されており、この石は常に静電気を帯びているので、着弾時弾頭が破壊されることで燃焼粉に着火する仕組みだ。

 

「全員! 耳を塞げ! ぶっぱなすぞ!」

「えぇ~何ですかそれ!?」

 

 初めて見るオルカンの異様にシアが目を見張る。ユエと紅は、走りながら人差し指を耳に突っ込んだ。

 

バシュウウ!

 

 そんな音と共に、後方に火花の尾を引きながらロケット弾が発射され、狙い違わず隊列を組んで待ち構えるゴーレム騎士に直撃した。

 

 次の瞬間、轟音、そして大爆発が発生する。通路全体を激震させながら大量に圧縮された燃焼粉が凄絶な衝撃を撒き散らした。ゴーレム騎士達は、直撃を受けた場所を中心に両サイドの壁や天井に激しく叩きつけられ、原型をとどめないほどに破壊されている。再構築にもしばらく時間がかかるだろう。

 

 一気にゴーレム騎士達の残骸を飛び越え、先に進む。

 

「ウサミミがぁ~、私のウサミミがぁ~!!」

「耳を塞げって言ってただろ」

 

 併走しながら、ウサミミをペタンと折りたたみ両手で押さえながら涙目になって悶えているシア。兎人族……それは亜人族で一番聴覚に優れた種族である。

 

 再び落ちて来たゴーレム騎士達に対処しながら、駆け抜けること五分。遂に、通路の終わりが見えた。通路の先は巨大な空間が広がっているようだ。道自体は途切れており、十メートルほど先に正方形の足場が見える。

 

「跳べ!」

 

 依然、背後からゴーレム騎士達が落下してくる。それらを迎撃し、躱しながらハジメ達は通路端から勢いよく飛び出した。

 

 身体強化されたハジメ達の跳躍力はオリンピック選手のそれを遥かに凌ぐ。世界記録を軽々と超えてハジメ達は眼下の正方形に飛び移ろうとした。

 

 が、思った通りにいかないのがこの大迷宮の特徴。何と、放物線を描いて跳んだハジメ達の目の前で正方形のブロックがスィーと移動し始めたのだ。

 

「なにぃ!?」

 

 この迷宮に来てから何度目かの叫びを上げるハジメ。目測が狂いこのままでは落下する。チラリと見た下は相当深い。咄嗟にアンカーを撃ち込もうと左手を掲げた直後、ユエの声が響いた。

 

「〝来翔〟!」

 

 発動した風系統の魔法により上昇気流が発生しハジメ達の跳躍距離を延ばす。一瞬の効果しかなかったが十分だった。未だに離れていこうとするブロックに追いつき何とか端に手を掛けてしがみつくことに成功する。義手のスパイクで固定し、ぶら下がったハジメにユエとシアもしがみついた。

 

「ナ、ナイスだ、ユエ」

「ユエさん、流石ですぅ!」

「……もっと褒めて」

「跳ぶのが遅い。あんなゆっくりと跳べば邪魔されるに決まってる」

 

 上から声が聞こえてくる。声のする方へ見上げると、しがみついているブロックの上に紅が立っていた。

 

「お前いつからそこに……」

「ハジメが跳べって言った後」

 

 ハジメ達がブロックめがけて高く、放物線を描くように飛んだのに対し、紅は直線状に跳んだ。その瞬間移動と見まがう速さで。

 

「飛距離を伸ばそうと高く飛ぶのはわかる。けど空中で攻撃されることだってあるんだ。そこをもっと意識して……」

「それは分かったから早く引き上げてくれ」

 

 だが、そんな和やかな雰囲気は空飛ぶゴーレム騎士達によって遮られた。そう、ゴーレム騎士達は宙を飛んでいるのである。おそらく重力を制御して落下方向を決めているのだろう。凄まじい勢いで未だぶら下がったままのハジメ達に急速接近する。

 

 それを横目にハジメ達を一気に引き上げる。直後、ハジメがぶら下がっていた場所にゴーレム騎士が凄まじい勢いで大剣を突き刺す。一瞬、技後の影響で硬直するゴーレム騎士を剣の鞘で小突いて下に落とした。

 

「くそっ、こいつら、重力操作かなんか知らんが動きがどんどん巧みになってきてるぞ」

「……たぶん、原因はここ?」

「あはは、常識って何でしょうね。全部()()()ますよ?」

 

 シアの言う通り、ハジメ達の周囲の全ては浮遊していた。

 

 ハジメ達が入ったこの場所は超巨大な球状の空間だった。直径二キロメートル以上ありそうである。そんな空間には、様々な形、大きさの鉱石で出来たブロックが浮遊してスィーと不規則に移動をしているのだ。完全に重力を無視した空間である。だが、不思議なことにハジメ達はしっかりと重力を感じている。おそらく、この部屋の特定の物質だけが重力の制限を受けないのだろう。

 

 そんな空間をゴーレム騎士達が縦横無尽に飛び回っていた。やはり、落下方向を調節しているのか、方向転換が急激である。生物なら凄まじいGで死んでいてもおかしくないだろう。この空間に近づくにつれて細やかな動きが可能になっていった事を考えると、おそらく……

 

「ここに、ゴーレムを操っているヤツがいるってことか?」

 

 ゴーレム騎士達は何故か、ハジメ達の周囲を旋回するだけで襲っては来ない。取り敢えず、何処かに横道でもないかと周囲を見渡す。ここが終着点なのか、まだ続きがあるのか分からない。だが、間違いなく深奥に近い場所ではあるはずだ。ゴーレム騎士達の能力上昇と、この特異な空間がその推測に説得力を持たせる。

 

 ハジメは〝遠見〟で、この巨大な球状空間を調べようと目を凝らした。と、次の瞬間、シアの焦燥に満ちた声が響く。

 

「逃げてぇ!」

「「!?」」

 

 ハジメとユエは、何が? と問い返すこともなく、シアの警告に瞬時に反応し弾かれた様に飛び退いた。運良く、ちょうど数メートル先に他のブロックが通りかかったので、それを目指して現在立っているブロックを離脱する。

 

 直後、

 

ズゥガガガン!!

 

 隕石が落下してきたのかと錯覚するような衝撃が今の今までハジメ達がいたブロックを直撃し木っ端微塵に爆砕した。隕石というのはあながち間違った表現ではないだろう。赤熱化する巨大な何かが落下してきて、ブロックを破壊すると勢いそのままに通り過ぎていったのだ。

 

「なっ……!」

 

 破壊されたブロックが落ちていく。その光景に思わず冷や汗が流れた。シアが警告を発してくれなければ確実に直撃を受けていた。〝金剛〟が使えない今、もしかしたら即死していたかもしれない。

 

 だがそれよりも……

 

「紅さん! ハジメさん、紅さんが私をかばって下に……!」

 

 シアの叫びが響き渡る。それを聞いたハジメが周囲を見渡すが紅の姿はどこにも見当たらない。

 

「クソッ、ユエとシアはここで待機! 俺が下に降りて探す!」

 

 ハジメは通過していった隕石モドキの方を見やった。ブロックの淵から下を覗く。と、下の方で何かが動いたかと思うと猛烈な勢いで上昇してきた。それは瞬く間にハジメ達の頭上に出ると、その場に留まりギンッと光る眼光をもってハジメ達を睥睨した。

 

「お、おおう、マジかよ」

「……すごく……大きい」

「お、親玉って感じですね」

 

 ハジメ達の目の前に現れたのは、宙に浮く超巨大なゴーレム騎士だった。全身甲冑はそのままだが、全長が二十メートル弱はある。右手はヒートナックルとでも言うのか赤熱化しており、先ほどブロックを爆砕したのはこれが原因かもしれない。左手には鎖がジャラジャラと巻きついていて、フレイル型のモーニングスターを装備している。

 

 ハジメ達が、巨体ゴーレムに身構えていると、周囲のゴーレム騎士達がヒュンヒュンと音を立てながら飛来し、ハジメ達の周囲を囲むように並びだした。整列したゴーレム騎士達は胸の前で大剣を立てて構える。まるで王を前にして敬礼しているようだ。

 

 すっかり包囲されハジメ達の間にも緊張感が高まる。辺りに静寂が満ち、まさに一触即発の状況。動いた瞬間、命をベットしてゲーム殺し合いが始まる。そんな予感をさせるほど張り詰めた空気を破ったのは……

 

「やほ~、はじめまして~、みんな大好きミレディ・ライセンだよぉ~」

「「「……は?」」」

 

 ……巨体ゴーレムのふざけた挨拶だった。

 

 

 

 

 凶悪な装備と全身甲冑に身を固めた眼光鋭い巨体ゴーレムから、やたらと軽い挨拶をされた。何を言っているか分からないだろうが、ハジメにもわからない。頭がどうにかなる前に現実逃避しそうだった。ユエとシアも、包囲されているということも忘れてポカンと口を開けている。

 

 そんな硬直する三人に、巨体ゴーレムは不機嫌そうな声を出した。声質は女性のものだ。

 

「あのねぇ~、挨拶したんだから何か返そうよ。最低限の礼儀だよ? 全く、これだから最近の若者は……もっと常識的になりたまえよ」

「挨拶する前に攻撃することが礼儀なのか? いつからそんな常識が出来たんだミレディ」

「……うっっっわ、直撃したはずなのになんで生きてるの。ていうか私の頭上に立つのやめてくれない? 人として最低だと思うよ」

「ゴーレムのくせに何言ってんだ」

 

 実にイラっとする話し方である。しかも、巨体ゴーレムは、燃え盛る右手と刺付き鉄球を付けた左手を肩まで待ち上げると、やたらと人間臭い動きで「やれやれだぜ」と言う様に肩を竦める仕草までした。道中散々見てきたウザイ文を彷彿とさせる。〝ミレディ・ライセン〟と名乗っていることから本人である可能性もあるが、彼女は既に死んでいるはずであるし、人間だったはずだ。

 

 だがそんな事はどうでもいい。

 

「紅! 無事だったのか!」

「当然。このバカが突っ込んで来たから迎撃しただけだ。足場の方がもたなかったが……」

「ちょっとぉ~、人の頭を蹴らないでよ~」

「だからゴーレムだろ」

 

 ミレディを名乗る巨大ゴーレムの頭上からハジメ達の方へ飛び移る。見たところ服は少々汚れているが怪我らしい怪我は見当たらない。紅の状態を確認したハジメは再度、目の前の巨大ゴーレムに視線を移す。

 

「……それで? ミレディ・ライセンは人間で故人のはずだろ? まして、自我を持つゴーレム何て聞いたことないんでな……目論見通り驚いてやったんだから許せ。そして、お前が何者か説明しろ。簡潔にな」

「ええぇ~、こんな状況なのに物凄く偉そうなんですけど、こいつぅ」

 

 流石にこの反応は予想外だったのか、ミレディを名乗る巨体ゴーレムは若干戸惑ったような様子を見せる。が、直ぐに持ち直して、人間なら絶対にニヤニヤしているであろうと容易に想像付くような声音でハジメ達に話しかけた。

 

「ん~? ミレディさんは初めからゴーレムさんですよぉ~何を持って人間だなんて……」

「オスカーの手記にお前のことも少し書いてあった。きちんと人間の女として出てきてたぞ? というか阿呆な問答をする気はない。簡潔にと言っただろう。どうせ立ち塞がる気なんだろうから、やることは変わらん。お前をスクラップにして先に進む。だから、その前にガタガタ騒いでないで、吐くもん吐け」

「お、おおう。久しぶりの会話に内心、狂喜乱舞している私に何たる言い様。っていうかオスカーって言った? もしかして、オーちゃんの迷宮の攻略者?」

「ああ、オスカー・オルクスの迷宮なら攻略した。というか質問しているのはこちらだ。答える気がないなら、戦闘に入るぞ? 別にどうしても知りたい事ってわけじゃない。俺達の目的は神代魔法だけだからな」

 

 ハジメがドンナーを巨体ゴーレムに向ける。ユエはすまし顔だが、シアの方は「うわ~、ブレないなぁ~」と感心半分呆れ半分でハジメを見ていた。

 

「……神代魔法ねぇ、それは神殺しのためかな? あのクソ野郎共を滅殺してくれるのかな? あ、でも()()()()は違うか。昔から神殺しには興味なかったしねぇ~?」

「(死神くん?)……質問しているのはこちらだと言ったはずだ。答えて欲しけりゃ、先にこちらの質問に答えろ」

「こいつぅ~ホントに偉そうだなぁ~、まぁ、いいけどぉ~、えっと何だっけ……ああ、私の正体だったね。うぅ~ん」

「簡潔にな。オスカーみたいにダラダラした説明はいらないぞ」

「あはは、確かに、オーちゃんは話が長かったねぇ~、理屈屋だったしねぇ~」

 

 巨体ゴーレムは懐かしんでいるのか遠い目をするかのように天を仰いだ。本当に人間臭い動きをするゴーレムである。

 

「うん、要望通りに簡潔に言うとね。私は、確かにミレディ・ライセンだよ。ゴーレムの不思議は全て神代魔法で解決! もっと詳しく知りたければ見事、私を倒してみよ! って感じかな」

「結局、説明になってねぇ……」

「ははは、そりゃ、攻略する前に情報なんて貰えるわけないじゃん? 迷宮の意味ないでしょ?」

「身体はオスカーの〝錬成〟と〝生成魔法〟。中身はラウスの————」

「こ、こらー! 何ネタバレしようとしてんの!? 迷宮の意味ないって言ったでしょうが!?」

「うるさい。どうせいつかは知るんだ。それが遅いか早いかの違いだろ」

「かぁーーーッ! 男のロマンがわっかんないかなぁ!」

「いや、お前は女……」

 

 まるで旧知の間柄のように接しているミレディと紅の会話に違和感を感じるも、何も言わず黙って思考を巡らすハジメ。ミレディ本人だというなら、残留思念などを定着させたものなのかもしれないと推測する。確かクラスメイトの中村恵里が降霊術という残留思念を扱う天職を持っていたっけと朧げな記憶を掘り起こす。しかし、彼女の降霊術は、こんなにはっきりと意思を持った残留思念を残せるようなものではなかったはずだ。つまり、その辺とその故人の意思? なんかをゴーレムに定着させたのが神代魔法ということだろう。

 

 いずれにしろ、自分が探す世界を超える魔法ではなさそうだと、ハジメは少し落胆した様子で巨体ゴーレム改めミレディ・ゴーレムに問い掛けた。

 

「お前の神代魔法は、残留思念に関わるものなのか? だとしたら、ここには用がないんだがなぁ」

「ん~? その様子じゃ、何か目当ての神代魔法があるのかな? ちなみに、私の神代魔法は別物だよぉ~」

 

 ハジメの目当てはあくまで世界を超えて故郷に帰ること。魂だか思念だか知らないが、それを操れる神代魔法を手に入れても意味はない。

 

「じゃあ、お前の神代魔法は何なんだ? 返答次第では、このまま帰ることになるが……」

「ん~ん~、知りたい? そんなに知りたいのかなぁ?」

 

 再びニヤついた声音で話しかけるミレディに、イラっとしつつ返答を待つハジメ。

 

「知りたいならぁ~、その前に今度はこっちの質問に答えなよ」

 

 最後の言葉だけ、いきなり声音が変わった。今までの軽薄な雰囲気がなりを潜め真剣さを帯びる。その雰囲気の変化に少し驚くハジメ達。表情には出さずにハジメが問い返す。

 

「なんだ?」

「目的は何? 何のために神代魔法を求める?」

 

 嘘偽りは許さないという意思が込められた声音で、ふざけた雰囲気など微塵もなく問いかけるミレディ。もしかすると、本来の彼女はこちらの方なのかもしれない。思えば、彼女も大衆のために神に挑んだ者。自らが託した魔法で何を為す気なのか知らないわけにはいかないのだろう。オスカーが記録映像を遺言として残したのと違い、何百年、あるいは何千年もの間、意思を持った状態で迷宮の奥深くで挑戦者を待ち続けるというのは、ある意味拷問ではないだろうか。軽薄な態度はブラフで、本当の彼女は凄まじい程の忍耐と意志、そして責任感を持っている人なのかもしれない。

 

「考えすぎだからな。こいつは素でうざい」

「君には聞いてないよ。私には確かめなければならない義務があるの。……たとえ君の推薦だとしても、ね」

 

 ハジメは、ミレディ・ゴーレムの眼光を真っ直ぐに見返しながら嘘偽りない言葉を返した。

 

「俺の目的は故郷に帰ることだ。お前等のいう狂った神とやらに無理やりこの世界に連れてこられたんでな。世界を超えて転移できる神代魔法を探している……お前等の代わりに神の討伐を目的としているわけじゃない。この世界のために命を賭けるつもりは毛頭ない」

「………」

 

 ミレディ・ゴーレムはしばらく、ジッとハジメを見つめた後、何かに納得したのか小さく頷いた。そして、ただ一言「そっか」とだけ呟いた。と、次の瞬間には、真剣な雰囲気が幻のように霧散し、軽薄な雰囲気が戻る。

 

「ん~、そっかそっか。なるほどねぇ~、別の世界からねぇ~。うんうん。それは大変だよねぇ~よし、ならば戦争だ! 見事、この私を打ち破って、神代魔法を手にするがいい!」

「脈絡なさすぎて意味不明なんだが……何が『ならば』何だよ。っていうか話し聞いてたか? お前の神代魔法が転移系でないなら意味ないんだが? それとも転移系なのか?」

 

 ミレディは、「んふふ~」と嫌らしい笑い声を上げると、「それはね……」と物凄く勿体付けた雰囲気で返答を先延ばす。

 

 いい加減、イラつきが頂点に達し、こっちから戦争を始めてやるとオルカンを取り出したハジメの機先を制するようにミレディが答えを叫ぶ。

 

「教えてあ~げない!」

「死ね」

 

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