「死ね」
ミレディの返答に、ハジメは問答無用でオルカンからロケット弾をぶっぱなした。火花の尾を引く破壊の嵐が真っ直ぐにミレディ・ゴーレムへと突き進み直撃する。
ズガァアアアン!!
凄絶な爆音が空間全体を振動させながら響き渡る。もうもうとたつ爆煙。
「やりましたか!?」
「ダメだな。フラグが立った」
シアが先手必勝ですぅ! と喜色を浮かべ、紅がツッコミを入れる。結果、正しいのは紅だった。煙の中から赤熱化した右手がボバッと音を立てながら現れると横薙ぎに振るわれ煙が吹き散らされる。
煙の晴れた奥からは、両腕の前腕部の一部を砕かれながらも大して堪えた様子のないミレディ・ゴーレムが現れた。ミレディ・ゴーレムは、近くを通ったブロックを引き寄せると、それを砕きそのまま欠けた両腕の材料にして再構成する。
「ふふ、先制攻撃とはやってくれるねぇ~、さぁ、もしかしたら私の神代魔法が君のお目当てのものかもしれないよぉ~、私は強いけどぉ~、死なないように頑張ってねぇ~」
そう楽しそうに笑って、ミレディ・ゴーレムは左腕のフレイル型モーニングスターをハジメ達に向かって射出した。投げつけたのではない。予備動作なくいきなりモーニングスターが猛烈な勢いで飛び出したのだ。おそらく、ゴーレム達と同じく重力方向を調整して〝落下〟させたのだろう。
それを見たハジメ達は跳躍して躱し、紅は、まるで愛でる様にモーニングスターを
「アレッ!?」
超重量・超スピードで飛来してきたはずのモーニングスターが、ミレディの方へと跳ね返る。とっさに躱すも、理解できない現象に動きが一瞬止まった。
その隙を逃さず、ハジメはドンナーをミレディに向けて連射する。
ドパァァンッ!
銃声は一発。されど放たれた弾丸は六発。早打ちにより解き放たれた閃光は狙い違わずミレディの、人で言う所の心臓部に直撃する。
「うわっ! ちょちょちょっと待って、なに今の!?」
「チッ、無傷かよ」
本来の威力が出ていないとはいえ、六発の弾丸を一点に集中させても効かないほどの硬度。この試練もまた一筋縄ではいかないようだ。
「でりゃあああ!!」
ハジメが射撃すると同時に上方のブロックに跳躍していたシアがミレディの頭上を取り、飛び降りながらドリュッケンを打ち下ろした。
ズゥガガン!!
咄嗟に左腕でガードするミレディ・ゴーレム。凄まじい衝突音と共に左腕が大きくひしゃげる。しかし、ミレディ・ゴーレムはそれがどうしたと言わんばかりに、そのまま左腕を横薙ぎにした。
「きゃぁああ!!」
悲鳴を上げながらぶっ飛ぶシア。何とか空中でドリュッケンの引き金を引き爆発力で体勢を整えると、更に反動を利用して近くのブロックに不時着する。
「「おお~」」
「拍手なんかしてる場合ですか!?」
遠目にシアがピョンピョンと浮遊ブロックを飛び移りながら戻ってくるのを確認しつつ感心するハジメと紅。だがとうとうユエ一人では捌ききれない程のゴーレム騎士達が殺到する。
ハジメは、〝宝物庫〟からガトリング砲メツェライを取り出す。そして、ユエと背中合わせになり、毎分一万二千発の死を撒き散らす化物を解き放った。
ドゥルルルルル!!
六砲身のバレルが回転しながら掃射を開始する。独特な射撃音を響かせながら、真っ直ぐに伸びる数多の閃光は、縦横無尽に空間を舐め尽くし、宙にある敵の尽くをスクラップに変えて底面へと叩き落としていった。回避または死角からの攻撃のため反対側に回り込んだものは、ユエの放つ水のレーザーにより、やはり尽く両断されていく。
「ちょっ、なにそれぇ! そんなの見たことも聞いたこともないんですけどぉ!」
ミレディ・ゴーレムの驚愕の叫びを聞き流し、ハジメは、メツェライを〝宝物庫〟にしまうと、再びドンナーを抜きながら声を張り上げた。
「ミレディの核は、心臓と同じ位置だ! あれを破壊するぞ!」
「んなっ! 何で、わかったのぉ!」
再度、驚愕の声をあげるミレディ。まさか、ハジメが魔力そのものを見通す魔眼をもっているとは思わなかったらしい。
周囲を飛び交うゴーレム騎士も今は十体程度。三人で波状攻撃をかけて、ミレディの心臓に一撃を入れる。それで勝ちだ。
周囲の浮遊ブロックを足場に、ミレディ・ゴーレムに接近を試みる。だが、そう甘くはない。
ミレディ・ゴーレムの目が一瞬光ったかと思うと、彼女の頭上の浮遊ブロックが猛烈な勢いで宙を移動するハジメへと迫った。
「!?」
「操れるのが騎士だけとは一言も言ってないよぉ~」
だが浮遊ブロックがハジメまで届くことはなかった。ハジメの眼前で銀閃が煌めき、ブロックが斬り刻まれたのだ。
ブロックを刻んだ張本人である紅がハジメの横に降り立つ。
「オレが守りを受け持つ。攻撃は任せた」
「ハッ! 言われるまでもねぇ!」
いつの間にか背後から迫っていたシアが、強烈な一撃をミレディ・ゴーレムの頭部に叩き込もうと跳躍する。まずは事あるごとに怪しげな光を放つ目を頭部ごと潰そうという腹だ。
ミレディ・ゴーレムは、シアの接近に気がついていたのか跳躍中のシアを狙ってゴーレム騎士達を突撃させた。宙にあって無防備なシア。あわや大剣に両断されるかと思われた瞬間、
「……させない」
これまたいつの間にか移動していたユエが、〝破断〟によりシアを襲おうとしているゴーレム騎士達を細切れにしていく。
「流石、ユエさんです!」
そんなことを叫びながら、障害がいなくなった宙を進み、シアは極限まで強化した身体能力を以て大上段の一撃を繰り出した。
「パワーでゴーレムが負けるわけないよぉ~」
ミレディ・ゴーレムは自身の言葉を証明してやるとでも言う様に、振り返りながら燃え盛る右手をシアに目掛けて真っ直ぐに振るった。
ドォガガガン!!
シアのドリュッケンとミレディ・ゴーレムのヒートナックルが凄まじい轟音を響かせながら衝突する。発生した衝撃波が周囲を浮遊していたブロックのいくつかを放射状に吹き飛ばした。
「こぉののの!」
突破できないミレディ・ゴーレムの拳に、シアは雄叫びを上げて力を込める。しかし、ゴーレムの膂力にはやはり敵わず、振り切られた拳に吹き飛ばされた。
「きゃああ!!」
悲鳴を上げるシア。飛ばされた方向に浮遊ブロックはない。あわや、このまま墜落するかと思われたが、予想していたようにユエが横合いから飛び出しシアを抱きとめ、一瞬の〝来翔〟で軌道を修正しながら、眼下の浮遊ブロックに着地した。
「中々のコンビネーションだねぇ~」
「だろ?」
「!?」
驚愕し慌てて声のした方向に視線を転じるミレディ・ゴーレム。いつの間にか懐に潜り込み、アンカーと甲冑の隙間に足を入れることで体を固定しながら、シュラーゲンを心臓部に突き付けているハジメが其処にいた。シュラーゲンから紅いスパークが迸る。
「い、いつの間ッ!?」
ドォガン!!!
ミレディの驚愕の言葉はシュラーゲンの発する轟音に遮られた。ゼロ距離で放たれた殺意の塊は、ミレディ・ゴーレムを吹き飛ばすと共に胸部の装甲を木っ端微塵に破壊した。〝纏雷〟が十分に使えないため、現在のシュラーゲンは、通常空間でのドンナーの最大威力と同程度だ。だが、それでも金属鎧を破壊するには十分な威力がある。ゴーレム騎士達の装甲が、威力低下中のドンナーでも容易に貫けたので、同じ材質に見えるミレディ・ゴーレムの鎧も少し分厚くなっているだけなら、シュラーゲンで十分に破壊できると踏んだのだ。
「……いけた?」
「手応えはあったけどな……」
ユエが手応えを聞くもハジメの表情は微妙だ。案の定、胸部の装甲を破壊されたままのミレディ・ゴーレムが、何事もなかったように近くの浮遊ブロックを手元に移動させながら、感心したような声音で話しかけてきた。
「いやぁ~大したもんだねぇ、ちょっとヒヤっとしたよぉ。分解作用がなくて、そのアーティファクトが本来の力を発揮していたら危なかったかもねぇ~、うん、この場所に苦労して迷宮作ったミレディちゃん天才!!」
自画自賛するミレディ・ゴーレム。破壊された胸部の装甲の奥に漆黒の装甲があり、それには傷一つ付いていなかった。その装甲の材質は……
「……アザンチウムか、くそったれ」
アザンチウム鉱石は、ハジメの装備の幾つかにも使われている世界最高硬度を誇る鉱石だ。薄くコーティングする程度でもドンナーの最大威力を耐え凌ぐ。道理で、シュラーゲンの一撃に傷一つつかないわけである。あのアザンチウム装甲を破るのは至難の業だとハジメは眉間にシワを寄せた。
「おや? 知っていたんだねぇ~、ってそりゃそうか。オーくんの迷宮の攻略者だものねぇ、生成魔法の使い手が知らないわけないよねぇ~、さぁさぁ、程よく絶望したところで、第二ラウンド行ってみようかぁ!」
ミレディは、砕いた浮遊ブロックから素材を奪い、表面装甲を再構成するとモーニングスターを射出しながら自らも猛然と突撃を開始した。
「ど、どどどうするんですか!?」
「まだ手はある。何とかしてヤツの動きを封じるぞ!」
「了解」
紅以外の全員がその場を離脱。紅は先ほどと同じように迫りくるモーニングスターに手をかざした。
「その手はもう喰らわないよ~」
だが紅に直撃する寸前で、向きが変わる。標的を変更したモーニングスターはその場を離脱したハジメ達めがけて襲い掛かる。
「チッ」
ミレディの考えを悟った紅は腰に刺さった銀剣を引き抜き、ハジメ達に迫る凶器めがけて振りかぶる。
ヒュンッ
一筋の銀の閃光が飛翔し、目的へと着弾。モーニングスターを破壊することは叶わなかったが軌道を大きくずらすことに成功した。
「おお~やるねぇ。だけどよかったのかなぁ? たった一つの武器を投げ捨てちゃってさ~」
「………」
ミレディの問いかけに紅は答えない。その代わりという様に、ユエの放った〝破断〟がミレディ・ゴーレムの右腕の一部を切り裂く。だが切断とまではいかなかった。ユエは悔しげな表情で別の浮遊ブロックに着地する。
一方、ミレディ・ゴーレムの肩口に取り付いたシアは、そのまま左の肩から頭部目掛けてドリュッケンをフルスイングした。が、ミレディ・ゴーレムが急激に〝落ちた〟ことによりバランスを崩され宙に放り出された。
「きゃあ!」
悲鳴を上げるシア。そこへ、モーニングスターの鎖にしがみついていたハジメが、振るわれる鎖の遠心力を利用してシアのもとへ飛び出し空中でキャッチする。
「ハジメさん!」
喜色に満ちた声でハジメの名を呼ぶシアだが、そこはハジメクオリティー。かつて魔物の群れに放り投げた時のようにシアを振りかぶる。
「ハ、ハジメさん!?」
「もっかい逝って来い!」
義手に装填されたショットシェルがガシュンという音と共にリロードされ激発する。発生した衝撃の反動で回転するハジメは、その遠心力を利用してシアをミレディ・ゴーレムに向かって投げ飛ばした。
「こんちくしょうですぅー!」
ハジメの所業に、若干、ミレディも引いているような気がする。しかし、それでも迎撃はしっかりとするようで、ヒートナックルを放とうと拳をグッと後ろに引き絞る。と、その瞬間、手元に戻したモーニングスターに繋がっている鎖がいきなり大爆発を起こした。
「わわわっ、なにっ!?」
驚きの声を上げるミレディ。爆発の原因は、ハジメが鎖に仕掛けた大量の手榴弾である。凄まじい爆発力により鎖が半ばから弾け飛び、巻きつけていた左腕が大きく損傷する。衝撃により、ミレディ・ゴーレムの体勢も崩れた。
そこへ、ドリュッケンを振りかぶったシアが到達する。
「りゃぁあああ!!」
気合のこもった雄叫びと共に、手元の引き金が引かれ内蔵されたショットシェルが激発する。衝撃により一気に加速したドリュッケンが空気すら叩き潰す勢いでミレディ・ゴーレムに迫った。
ミレディ・ゴーレムは反射的に損傷の激しい左腕を掲げる。直後、ドリュッケンの一撃が左腕に直撃した。ドリュッケンは、脆くなった左腕を打ち砕き肩口から先を容赦なく粉砕した。
ドリュッケンを振り切り勢いそのままに宙を泳ぐシア。ミレディ・ゴーレムは、せめて、奪われた左腕の仕返しに一撃を入れてやると、死に体のシアにヒートナックルを放とうとする。
しかし、ミレディがシアに意識を集中した瞬間、下方から水のレーザーが迸り、先ほど入れられた切れ込みに寸分違わず命中した。そして、その傷口を更に抉り切り裂いて、遂にミレディ・ゴーレムの右腕を切断した。
「……してやったり」
そう言ってほくそ笑んだのは、もちろんユエである。
「っ、このぉ! 調子に乗ってぇ!」
ミレディが、イラついた様子で声を張り上げた。
「ふっふっふ、どうですか! このまま押せばいけるんじゃないですか!?」
シアの喜声が迷宮に響き渡る。だが何かがおかしい。
両腕を失ったミレディが何故か、周囲の浮遊ブロックを呼び寄せて両腕を再構成することもなく、天井を見つめたまま目を強く光らせていた。
猛烈に嫌な予感がして、表情を強ばらせるハジメ達。それを裏付けるようにシアの表情が一気に青ざめる。
「っ! 避けてぇ!
おそらくシアの固有魔法が発動したのだろうと推測する。そして、それはシアにとって死に繋がるほど危険性の高い何かが起こるということを示している。ハジメ達は何が起こっても対応できるように身構えた。
その直後、それは起こった。
空間全体が鳴動する。低い地鳴りのような音が響き、天井からパラパラと破片が落ちくる。いや、破片だけではない。天井そのものが落下しようとしているのだ。
「っ!? こいつぁ!」
「ふふふ、お返しだよぉ。騎士以外は同時に複数を操作することは出来ないけど、ただ一斉に〝落とす〟だけなら数百単位でいけるからねぇ~、見事凌いで見せてねぇ~」
のんきなミレディの言葉に苛立つが、そんな事に気を取られている余裕はない。この空間の壁には幾つものブロックが敷き詰められているのだが、天井に敷き詰められた数多のブロックが全て落下しようとしているのだ。一つ一つのブロックが、軽く十トン以上ありそうな巨石である。それらが豪雨のように降ってくるのだ。
「……ユエ、ハジメ達と合流する。嫌かもしれないが掴まってくれ」
「ん……!」
見るとハジメもまたシアを抱えてこちらへと向かってきていた。ミレディ・ゴーレムは、その間もずっと天井を見つめたままだ。おそらく、彼女の言葉通り、ゴーレム騎士以外の操作は一つ二つが限度なのだろう。落とすだけとは言え、数百単位の巨石を天井から外すのには集中がいるようだ。
何とか、ハジメ達と合流するのと天から巨石群が降り注ぐのは同時だった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!! ゴバッ!!
天井からブロックが外れ、地響きがなり止む代わりに轟音を立てながら自由落下する巨石群。しかもご丁寧に、ある程度軌道を調整するくらいは出来るのか、密集して落ちてくる。ミレディ・ゴーレムも心中するつもりはないだろうから、彼女のもとへ行けば安全かと視線を巡らせるが、ちょうど猛スピードで壁際に退避して行くところだった。今から追ったのでは間に合わない。
「……オレから離れてくれ」
「!? い、イヤです! そう言って自分だけ助かろうって魂胆なのでしょう!? そうはさせませんよ!」
「バカ。
次の瞬間、紅の身体から銀気が溢れ出し、紅の手元でその形を一本の剣へと変えていく。近くにいるだけで身が凍りそうになるほどの凍力に、ハジメ達は一歩身を引いた。
だがそれで終わりではない。生み出した銀剣がより一層強く輝きだす。それはまるで、夜空に輝く一筋の彗星の様にも見える。
「………」
静かに落下してくる巨石群を見つめる。焦りはない。この程度の苦難、未来の自分は幾度も踏み越えてきたはずなのだ。その力を託された自分がこの程度で負けるわけにはいかない。
剣を上段に構える。すると剣の輝きはより一層強くなった。
(未来のオレは考えた。様々な魔法を使う血族を相手に、
巨石群は既に目の前。紅はただ、それに向かって剣を振り下ろし───
ドガガガガガガアァン!!!
─── 巨石群に、飲み込まれた。
「………」
それを静かに見つめるミレディは落胆の意を込め溜息を吐いた。
「……やっぱり、無理だったかなぁ~、でもこれくらいは何とかできないと、あのクソ野郎共には勝てないしねぇ……」
なまじ期待していただけにショックも大きかったのだろう。僅かな落胆と共に巨石群にかけていた〝落下〟を解こうとして……。
閃光が、爆せた。
「ッ!?」
巨石群の中から膨大な銀光が噴出して巨石を粉砕し吹き飛ばす。それどころかその閃光を中心に周囲のものが凍っていき、世界が白銀に染まった。
「えっ、噓ナニコレ!?」
銀光の影響か、ミレディの支配から外れた浮遊ブロックが次々に落下していく。その光景に危険を感じたミレディはすぐさまその場を離れようとした。
「おいおい、どこに行こうってんだ?」
「えっ?」
聞き覚えのある声が響いた。不遜でマイペース、見たこともないアーティファクトを操る白髪眼帯の少年、そう、ハジメの声だ。驚愕と僅かな喜色を滲ませた声を上げて背後を振り返るミレディ。
「……もしかして、さっきの
否、答えなど分かり切っている。目の前の少年の仕業ではないと。何故ならあの光は───
「答えてやってもいいが……俺ばかり見ていていいのか?」
「えっ?」
先程と同じ口調で疑問の声を上げるミレディ。だが、その疑問は、直後、魔法の直撃という形で解消された。
「〝破断〟!」
凛とした詠唱が響き渡り、幾筋もの水のレーザーがミレディ・ゴーレムの背後から背中や足、頭部、肩口に殺到する。だが辺りに漂う銀気の影響か、ただでさえ普段以上に使いづらい魔法がさらに弱くなっている。着弾したウォーターカッターは各部位の表面装甲を薄く切り裂いた。
「こんなの何度やっても一緒だよぉ~、両腕再構成するついでに直しちゃうしぃ~」
「いいや、そんな暇は与えない」
振り向きもせず余裕の雰囲気でユエの魔法を受けきったミレディ・ゴーレムに、ハジメがアンカーを打ち込みながら一気に接近する。片手にはシュラーゲンを持っている。
「あはは、またそれ? それじゃあ、私のアザンチウム製の装甲は砕けないよぉ~」
ミレディはやはり余裕の態度だ。ハジメに取り付かれ、胸部にシュラーゲンを突きつけられても撃ちたきゃ撃てば? と言わんばかりだ。周囲の浮遊ブロックで妨害しようともしない。それも当然といえば当然だろう。何せ、ハジメの武器がミレディ・ゴーレムの装甲に歯が立たないことは実証済みである。その為、ミレディは、この段階で代わり映えしない攻撃手段を選んだということから、万策尽きて悪足掻きをしていると判断した。
だが、その余裕が命取りだ。
「知っている!」
ハジメの言葉と共にシュラーゲンからスパークが走り、電磁加速されたフルメタルジャケットモドキがミレディ・ゴーレムの胸部をゼロ距離から吹き飛ばす。轟音と衝撃にミレディ・ゴーレムが弾かれ吹き飛ぶ。
だが、ハジメは前回のように離脱したりはしなかった。アンカーを巻き上げると、そのまましがみつき、義手を砕けたミレディ・ゴーレムの胸部に押し当て、内蔵されているショットシェルの残弾が尽きるまで撃ち尽くす。激しい衝撃が更にミレディ・ゴーレムを吹き飛ばし、地面に叩きつけた。
「こ、こんなことしても結局は……」
「ユエ!」
ミレディの言葉を無視して、ハジメがユエの名を呼ぶ。すると、跳躍してきたユエが更に魔法を発動した。
「凍って! 〝凍柩〟!」
白銀に染まる世界で放たれた氷系統の魔法がミレディ・ゴーレムを拘束する。だが本来なら魔法を使用する事さえできない、魔法使い殺しの死の空間。代償に所持している魔晶石のストックを全て消費した。意識が飛びそうになるのをギリギリで堪えるユエを、すかさず紅が回収する。
「よくやったぞ、ユエ!」
体を固定されたミレディ・ゴーレムの胸部に立ち、ハジメは〝宝物庫〟から切り札を取り出す。虚空に現れたそれは全長二メートル半程の縦長の大筒だった。外部には幾つものゴツゴツした機械が取り付けられており、中には直径二十センチはある漆黒の杭が装填されている。下方は四本の頑丈そうなアームがつけられており、中程に空いている機構にハジメが義手をはめ込むと連動して動き出した。
ハジメはそのまま、直下の身動きが取れないミレディ・ゴーレムをアームで挟み込み、更に筒の外部に取り付けられたアンカーを射出した。合計六本のアームは周囲の地面に深々と突き刺さると大筒をしっかりと固定する。同時に、ハジメが魔力を注ぎ込んだ。すると、大筒が紅いスパークを放ち、中に装填されている漆黒の杭が猛烈と回転を始める。
キィイイイイイ!!!
高速回転が奏でる旋律が響き渡る。それを遠くから眺める紅と未だ肩で息をしているユエ。ユエは、なぜ戦場に戻らないのかと視線で問う。それを正しく読み取った紅は静かに言葉を紡いだ。
「今、オレが戻っても仕方ないだろ。あそこまでお膳立てすれば後はあの二人でどうにでもなる」
傍から見ればただ戦闘を放棄したようにしか見えないだろう。だが紅の目からは確かに二人への信頼が感じられた。
「喋れないほど疲れてるなら休め。そもそも、この空間で魔法を使えたことが異常なんだ」
ゴォガガガン!!!
凄まじい衝撃音が紅達の元まで轟く。見るとハジメのパイルバンカーから放たれた漆黒の杭がミレディの胸部を貫いていた。
それでも、ミレディ・ゴーレムの目から光は消えていない。だが見る限り四分の三くらいは貫いている。あと一押しだ。
「……今はまだ弱くてもいい。オレが守ってやれるから。けどいつまでもそうしてはいられない。お前達には、もっと強くなって貰わないと困る」
ハジメはミレディ・ゴーレムの胸部から勢いよく飛び退く。代わりに現れたのは、ウサミミをなびかせ、ドリュッケンを大上段に構えたまま、遥か上空から自由落下に任せて舞い降りるシアだった。
「ッ!?」
シアが何をしようとしているのか察したのだろう。焦ったようにその場から退避しようとするミレディ・ゴーレム。だが猛スピードで落下してくるシアに間に合わないと悟り……諦めたように動きを止めた。
「いやぁ、強いねぇ……」
シアは、そのままショットシェルを激発させ、その衝撃も利用して渾身の一撃を杭に打ち下ろした。
ドゴォオオ!!!
轟音と共に杭が更に沈み込む。だが、まだ貫通には至らない。シアは、内蔵されたショットシェルの残弾全てを撃ち尽くすつもりで、引き金を引き続ける。
ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ!
「あぁあああああ!!」
シアの絶叫が響き渡る。これで決めて見せると強烈な意志を全て相棒たる大槌に注ぎ込む。まさに全身全霊、全力全開。ミレディ・ゴーレムの身体が地面に埋まっていく程の威力。その衝撃で遂に漆黒の杭がアザンチウム製の絶対防御を貫き、ミレディ・ゴーレムの核に到達する。先端が僅かにめり込み、ビシッという音を響かせながら核に亀裂が入った。
「テェヤアアァァァ!!」
シアはドリュッケンを起点に倒立すると、くるりと宙返りをする。そして、身体強化の全てを脚力に注ぎ込み、遠心力をたっぷりと乗せた蹴りをダメ押しとばかりに杭に叩き込んだ。
シアの蹴りを受けて更にめり込んだ杭は、核の亀裂を押し広げ……遂に完全に粉砕した。
ミレディ・ゴーレムの目から光が消える。シアはそれを確認するとようやく全身から力を抜き安堵の溜息を吐いた。直後、背後から着地音が聞こえ振り向くシア。そこには予想通り紅とハジメとユエがいた。シアは、三人に向けて満面の笑みでサムズアップする。ハジメとユエは、それに応えるように笑みを浮かべながらサムズアップを返し、紅は拍手を送る。
七大迷宮が一つ、ライセン大迷宮の最後の試練が確かに攻略された瞬間だった。