銀の死神   作:日彗

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第三話 悪夢

 

『まだだ……』

 

 周りには数百万を超える魔物の群れ。それに挑むはボロボロの布を纏った銀髪の男が一人。本来であれば数であっという間に押しつぶされてしまうだろう。

 

 だがそんな常識はこの男に通じない。

 

 男の掌がゆっくりと、一匹の魔物に触れた。

 するとどうだろう。触れた魔物は一瞬で氷漬けになり、端から崩れていくではないか。

 そのありえざる光景に、他の魔物たちは固まる。本能でこの男の異常性を感じ取ったのだ。

 

『もっと強く……もっともっと……』

 

 次は腰に差していた、銀色に輝く美しい剣を一閃する。

 だが剣は魔物に当たらなかった。否、そもそも当てる必要などないのである。

 なぜなら次の瞬間には、周りにいた魔物のおよそ数十から数百という数が氷漬けにされ、斬り刻まれていたのだから。

 

『強く!!』

 

 人智を超えた強さ。それでもなお、男はさらなる高みへ───。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「また、変な夢見た……」

 

 紅が自分の最弱ぶりと役立たず具合を突きつけられた日から二週間が経った。

 最近見る変な夢についても気になるが、そろそろ訓練の時間だ。紅はベッドの横に置いていた、夢で見たものとそっくりな銀の剣を持って訓練施設へと向かう。

 

 この銀剣は二週間前、ステータスの確認を終えた後に宝物庫から頂いたものだ。当然他の生徒も剣や弓、杖に盾などの装備を貰っている。その中でもなぜこの剣を選んだのかというと……はっきり言って勘だった。

 魔力がないということは魔法が使えないということ。天職・技能がないということは才能がないと言うこと。だがそれでも紅は異世界を救うために呼ばれた勇者御一行の一人なのである。当然、「一人だけ戦争に参加しません」などと言えるはずもなく、こうして訓練を続けている。

 この銀剣はいわゆる〝アーティファクト〟ではない。本当にただの〝銀で出来た剣〟なのだ。変わったところというと、刀身だけでなく鍔や柄まで銀で出来ているということ。それとメルド団長曰く、

 

『その剣はなぜか異様に冷たい。手袋越しでも持ち続けたら手がかじかんでしまうという事で今まで誰も使わず飾られたものだ。本当にそれでいいのか?』

 

 らしい。

 

 別に持っていて冷たいとは一度も思わなかったのだが、この剣からは何かを感じる気がする。それこそ根拠はなく、直感としか言えないのだが。

 だが現状この直感に頼るしかないのも事実。そうこうしているうちに訓練施設に着いた。既に何人もの生徒達がやって来て談笑したり自主練したりしている。どうやら案外早く着いたようである。

 であればハジメが来るまで自分も自主練していよう、と腰にさしていた銀剣と支給された盾を構える。

 まだ見たこともない魔物の姿をイメージし、銀剣を振るう。右薙ぎ、左切上げ、袈裟切り、刺突───だが体はイメージの通りに動かない。そもそも筋力や体格が手本にしているメルド団長と違いすぎる。無駄の少ない肉体操作術は参考になるがそれも物にするには膨大な時間を有するだろう。

 集中が途切れたこともありどこからか自分を見つめる視線に気づく。とは言っても恋愛関係では断じてない。もっと暗く、重い、敵意のようなもの。辺りを見渡すと数人のメイドがこちらを見ながらヒソヒソと話していた。

 なぜ、紅が敵意を向けられているのか。ぶっちゃけると魔力を持っていないからである。

 まずこの世界には亜人族と呼ばれる種族がある、そしてこの亜人族は被差別種族であり、基本的に大陸東側に南北に渡って広がる【ハルツェナ樹海】の深部に引き篭っている。なぜ差別されているのかというと彼等が一切魔力を持っていないからだった。

 神話において、エヒト神を始めとする神々は神代魔法にてこの世界を創ったと言い伝えられている。そして、現在使用されている魔法は、その劣化版のようなものと認識されている。それ故、魔法は神からのギフトであるという価値観が強いのだ。もちろん、聖教教会がそう教えているのだが。

 

 そのような事情から魔力を一切持たず魔法が使えない種族である亜人族は神から見放された悪しき種族と考えられているのである。

 そして同じく魔力を持たず、どころか天職も技能もない紅はいくら勇者御一行といえど神に見放された存在として映っているのだろう。誰も好き好んでこの世界に来たわけでもないというのに。

 

(あぁホント嫌になる……)

 

 その時視界の端に友人の姿を捉えた。

 

「なんだ。ハジメ来てたのか」

 

 だがなぜあんな人目の少ない場所にいるのか。そのせいでいた事に気付かなかった。

 

「おーいハジメー」

「ぐぁ!?」

 

 聞こえてきたのは友人の悲鳴。そこには前のめりに倒れているハジメと、それを囲う檜山、中野、斎藤、近藤の四人がいた。

 否応なしに状況を理解させられる。近藤が剣の鞘で殴ったのだろう。

 

「ほら、なに寝てんだよ? 焦げるぞ~。ここに焼撃を望む───〝火球〟」

 

 中野が火属性魔法〝火球〟を放つ。倒れた直後であることと背中の痛みで直ぐに起き上がることができないハジメは、ゴロゴロと必死に転がりなんとか避ける。だがそれを見計らったように、今度は斎藤が魔法の詠唱を始める。

 

「ここに風撃を望む───〝風「お前らなにやってんだァ!」 !?」

 

 魔法を発動しようとした斎藤に殴りかかる紅。それに驚き魔法の制御が乱れ、不発する。

 

「に、西村!? なんでここに!?」

「バカかお前等。すぐそこに訓練施設あんだから気づくに決まってんだろボケ!」

「……ハッ! お前こそ無能のくせにしゃしゃり出てんじゃねぇよ!」

「おまっ人が気にしてることを! もういい。お前ら銀剣の錆にしてやる」

「ちょっ!? 西村くん、ダメだよ!」

 

 場が段々と混沌と化していく。だが仮に戦えば紅たちが負けるのは必然だ。だからと言って黙っていられるほど紅は大人ではない。

 

「ハジメ! お前も反撃しろ! 周りが許さなくてもオレが許す! やれ!」

「ええ!?」

 

 小さい頃から人と争う、誰かに敵意や悪意を持つということがどうにも苦手だったハジメは、誰かと喧嘩しそうになったときはいつも自分が折れていた。自分が我慢すれば話はそこで終わり。喧嘩するよりずっといい、そう思ってしまうのだ。

 そんなハジメを優しいという人もいれば、ただのヘタレという人もいる。ハジメ自身にもどちらかわからないことだ。

 それは紅もわかっている。それがハジメのいい所であるし、自分にはない強さだとも思う。だがたまには反撃してくれないと見ている側がハラハラするのだ。

 けれどそれももう終わりらしい。突然、怒りに満ちた女の子の声が響いた。

 

「何やってるの!?」

 

 その声に「やべっ」という顔をする檜山達。それはそうだろう。その女の子は檜山達が惚れている香織だったのだから。香織だけでなく雫や光輝、龍太郎もいる。

 

「いや、誤解しないで欲しいんだけど、俺達、南雲の特訓に付き合ってただけで……」

「南雲くん!」

「あ、オレの心配はないのね」

 

 檜山の弁解を無視して、香織は、ゲホッゲホッと咳き込み蹲るハジメに駆け寄る。ハジメの様子を見た瞬間、檜山達のことは頭から消えたようである。

 

「特訓ね。それにしては随分と一方的みたいだけど?」

「いや、それは……」

「言い訳はいい。いくら南雲が戦闘に向かないからって、同じクラスの仲間だ。二度とこういうことはするべきじゃない」

「くっだらねぇことする暇があるなら、自分を鍛えろっての」

「そうだそうだ~分をわきまえろ~」

「こら」

 

 三者三様に言い募られ、檜山達は誤魔化し笑いをしながらそそくさと立ち去った。香織の治癒魔法によりハジメが徐々に癒されていく。

 

「あ、ありがとう。白崎さん。助かったよ」

 

 苦笑いするハジメに香織は泣きそうな顔でブンブンと首を振る。

 

「いつもあんなことされてたの? それなら、私が……」

 

 何やら怒りの形相で檜山達が去った方を睨む香織を、ハジメは慌てて止める。

 

「いや、そんないつもってわけじゃないから! 大丈夫だから、ホント気にしないで!」

「でも……」

 

 それでも納得できなそうな香織に再度「大丈夫」と笑顔を見せるハジメ。渋々ながら、ようやく香織も引き下がる。

 

「南雲君、何かあれば遠慮なく言ってちょうだい。香織もその方が納得するわ」

 

 渋い表情をしている香織を横目に、苦笑いしながら雫が言う。それにも礼を言うハジメ。しかし、そこで水を差すのが勇者クオリティー。

 

「だが、南雲自身ももっと努力すべきだ。弱さを言い訳にしていては強くなれないだろう? 聞けば、訓練のないときは図書館で読書に耽っているそうじゃないか。俺なら少しでも強くなるために空いている時間も鍛錬にあてるよ。南雲も、もう少し真面目になった方がいい。檜山達も、南雲の不真面目さをどうにかしようとしたのかもしれないだろ?」

「こいつぶん殴っていい? いいよね?」

「ご、ごめんなさい! 光輝も悪気があるわけじゃないのよ!」

 

 悪気とか以前の問題だと思うが、それは紅とて理解している。光輝の言葉には本気で悪意がない。真剣にハジメを思って忠告しているのだ。

 

「ほ、ほら! もう訓練が始まるよ。行こう? 西村くん」

「……ああ、そうだな。その前にあの勇者一発殴らせてくれ」

「ほら行くよ!」

 

 ハジメに促され一行は訓練施設に戻る。紅は納得できていないのか不機嫌だし、光輝はなぜ不機嫌なのかわからず首をかしげている。

 訓練施設に戻りながら、ハジメは、本日何度目かの深い溜息を吐いた。本当に前途は多難である。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 訓練が終了した後、いつもなら夕食の時間まで自由時間となるのだが、今回はメルド団長から伝えることがあると引き止められた。何事かと注目する生徒達に、メルド団長は野太い声で告げる。

 

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」

 

 そう言って伝えることだけ伝えるとさっさと行ってしまった。ざわざわと喧騒に包まれる生徒達の最後尾でハジメは天を仰ぐ。

 

「おいおい聞いたか。ダンジョンだってよ。ダンジョンに出会いを求めるのは間違いだと思うか? なぁハジメ」

 

(……本当に前途多難だ)

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

【オルクス大迷宮】

 

 それは、全百階層からなると言われている大迷宮である。七大迷宮の一つで、階層が深くなるにつれ強力な魔物が出現する。

 にもかかわらず、この迷宮は冒険者や傭兵、新兵の訓練に非常に人気がある。それは、階層により魔物の強さを測りやすいからということと、出現する魔物が地上の魔物に比べ遥かに良質の魔石を体内に抱えているからだ。

 魔石とは、魔物を魔物たらしめる力の核をいう。強力な魔物ほど良質で大きな核を備えており、この魔石は魔法陣を作成する際の原料となる。魔法陣はただ描くだけでも発動するが、魔石を粉末にし、刻み込むなり染料として使うなりした場合と比較すると、その効果は三分の一程度にまで減退する。

 要するに魔石を使う方が魔力の通りがよく効率的ということだ。その他にも、日常生活用の魔法具などには魔石が原動力として使われる。魔石は軍関係だけでなく、日常生活にも必要な大変需要の高い品なのである。

 

「魔力がないオレでも使える魔法具は素晴らしい。とても素晴らしい。いつかハジメもこんなのを作れるようになるのだろうか」

「その内なるかもねぇ~」

 

 紅達は、メルド団長率いる騎士団員複数名と共に、【オルクス大迷宮】へ挑戦する冒険者達のための宿場町【ホルアド】に到着した。新兵訓練によく利用するようで王国直営の宿屋があり、そこに泊まる。

 明日から早速、迷宮に挑戦だ。今回は行っても二十階層までらしく、それくらいなら、紅達のような最弱キャラがいても十分カバーできると団長から直々に教えられた。申し訳ない事この上ない。

 

「ハジメ! 大変だ!」

「っ! どうしたの!?」

 

 借りてきた迷宮低層の魔物図鑑を勢い良く閉じる。なにかあったのだろうか。

 

「トイレに行きたい」

「知らないよ」

 

 予想以上にくだらなかった。心配して損した、とため息をつく。

 

「ほら早く行っておいでよ」

「いや場所がわからなくて……」

「通路の行き当たりにあったはずだよ」

 

 呆れてだんだん雑になっていくハジメ。トイレの場所を聞き出した紅は立ち上がり部屋を出ていく。

 

「ちょっと行ってくるわ。留守番よろしく~」

「は~い」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 部屋を出た紅はトイレ……ではなく中庭へと出る。

 

「……この辺でいいかな」

 

 右手に剣を、左手に盾を持って構える。先日の自主練と同じように、否こうして夜に一人で剣を振るのが紅の日課だった。

 自分に才能がないことはこの二週間で嫌と言うほど理解させられた。一生努力したところでメルド団長や光輝のようにはなれないだろう。それどころか魔人族との戦争で死ぬかもしれない。

 

(それでもいい)

 

 もし万が一のことが起きた時、せめてハジメ達クラスメイトの盾になれれば、少しでも役に立って死ねたなら───

 

『それは叶わない』

「っ!?」

 

 突然背後から聞こえてきた声。急いで振り返るとそこにはボロボロのローブを纏った傷だらけの銀髪の男が立っていた。

 

(いつから───)

 

『お前は───』

「っ!」

 

 男から発せられる、あまりにも重たい重圧。なにも喋れない、動くこともできないほどに強大なそれに、紅は言葉を詰まらせた。

 

『お前はすべてを失う』

 

 次の瞬間景色が変わる。宿屋の中庭から巨大な石造りの橋へ。

 

「ここは───」

 

 だが疑問を投げかける暇を許さない。なぜならそこではクラスメイトが骨格だけの体に剣を携えた魔物の大群と戦っていたのだから。

 

(なんだ……これ)

 

 一人、また一人と剣で斬られ、突き刺さられて死んでいくクラスメイト。理解ができない。これはなんだ。

 

『グルァァァァァアアアアア!!』

「ッ!」

 

 咆哮が聞こえた方へと視線を向ける。そこには体長十メートル級恐竜のようなバケモノがいた。

 

「なんなんだよ、こ───」

 

 それ以上喋ることはできない。なぜなら後ろから突き飛ばされたからだ。

 

 なにが起きたのか理解のできないまま衝撃を感じた方を見るとそこには()()()()()()

 

 そう、いた、なのだ。ハジメの姿を目でとらえたその瞬間、火球がハジメの体に炸裂しその衝撃で奈落へと落ちていった。

 

「あ」

 

 理解ができない。

 

「あ。あ」

 

 理解ができない。

 

「あ。ああ。アアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

 

 理解ができない。理解ができない。理解ができない。理解ができない。理解ができない。理解ができない。理解ができない。理解ができない。理解ができない。理解ができない。理解ができない。理解ができない。理解ができない!

 

 動揺。焦燥。絶望。怒り。あらゆる感情が紅を支配し、とめどなく涙があふれる。

 だがかすかに、意識の端にあの男の声を聞いた。

 

 『もうすぐだ』と。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「西村君! ちょっと西村君!? しっかりしなさい!」

「───っ! ハッ ハッ こ、ここは……」

「宿屋の中庭。倒れてると思ったらすごい魘されてたのよ。寝るなら部屋で寝なさい?」

 

(ね、寝てた? ……ならさっきのは夢…?)

 

 未だ息切れが激しいのを無理矢理沈める。

 

「ごめん、ありがとう……ちなみにどちら様で?」

「八重樫よ、八重樫雫。知らない筈がないでしょう」

「い、イヤだなぁ冗談ですよ冗談」

 

 ハハハ、と乾いた笑みを零す紅。そんな彼に対して呆れたと言わんばかりに見つめる雫。

 

「で、もう大丈夫なのね?」

「ああ、うん。こっちの世界に来てから変な夢を見ることが増えただけで、別段問題ないよ」

「……そう。なら部屋に戻って寝なさい。明日から大変なんだから」

「はいお母さん!」

「シバくわよ」

 

 さすがにこの剣道女子にシバかれてはたまらない。紅はおとなしく部屋に戻ることにする。

 

「西村君」

「はい?」

 

 だが名前を呼ばれ、足を止める。戻れというから行こうとしたのに。

 

「明日の迷宮だけれど、あなたと南雲君には町で待っていてもらいたいの。教官達なら説得するわ。だから……」

「足手まといだと? それはごめんなさい」

「違うの、そういう事じゃなくて」

 

 流石に性急過ぎたと思ったのか、深呼吸をする。少し、落ち着いたようで「いきなり、ごめんなさい」と謝り静かに話し出した。

 

「明日私たちが行く場所はとても危険よ。誰がいつ命を落としてもおかしくない。だから」

「戦う力のないオレ達は邪魔だからここで待ってろ、と」

「ち、ちがっそういうわけじゃ……!」

「ああ、ごめんごめん。今のはオレの言い方が悪かった。うん。ありがたい申し出だけど、それは無理だわ」

「……どうして?」

 

 雫から投げられた疑問。どうしてだろうか。改めて問われると少し考え込んでしまう。

 

「オレは周りから何を言われても気にしないけど、それじゃハジメの立場はどうなる。ただでさえ居場所がなくなってきてるのに、待機が許可されたら本格的に居場所を失う。それはできれば避けたい」

「でも死ぬ危険だってあるのよ!?」

「だから守ってください」

「……はあ?」

 

 思わず変な声が飛び出てしまう雫。無理もない。残るのは嫌だけど死にたくないから守ってくれ。要約するとそう言ったのだ。この男にプライドというものはないのだろうか。

 

「あなたね……はぁ、わかったわ。私があなた達を、みんなを守る。最初からそのつもりだったしね」

「わーい。これで楽ができるぞー」

「ちょっと」

 

 態度が急変する紅に思わず突っこむ。最初からこれが目的だったのではなかろうか。

 

「でも守るならハジメの方を優先してほしい。オレもなんだか嫌な予感がする」

「彼なら香織が守ると思うけどね」

「あ、確かに」

 

 ハハハ。クスクス、と中庭に笑い声が木霊する。

 もうあの夢のことは、頭から抜けていた。

 

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