異世界トータスに召喚されて九年。奈落の魔王による
辺りには何もない、どこを見ても地平線が見える───否、地平線しか見えない荒野。
先日までここに『国』があったなどと一体誰が信じられようか。
その荒野に、右腕を漆黒の棘で空間に縫い留められているぼろぼろの男……紅がいた。
「ああ……あああ……」
(
─── まだ、足りない。
「あああ……あ゙あ゙……」
超えた死線も、狩った数も、強さも。
「あ゙あ゙……ア゙ア゙ア゙ア゙……ッ」
まだ、足りなかった。
「ア゙ア゙ア゙………ア゙ア゙ア゙ア゙ーーー!!!」
「これ! 静粛にせんか、王の御前であるぞ」
「!? ガッ………」
左肩を抉られる様な衝撃が走る。ミシミシ、ベキベキ、と明らかに骨が折れていく音が耳の奥に木霊する。痛みにのた打ち回りながらも目の前にいる〝敵〟を睨みつけた。
この場には紅の他に十一人居り、そのさらに奥に『王』と呼ばれた女性がいた。
(あれが……
透き通るような白い肌。穢れを知らない純白の髪。すべてを包み込む慈愛に溢れた表情。女性らしい身体つきの、翼の生えた女。
何も知らない者が見れば『天使』か『聖女』だと言うだろう。だが彼らのしてきた行いを知っている者からすれば『悪魔』以外の何者でもない。
南雲ハジメが神エヒトルジュエを殺し、すべてが終わったあの日から、すべてが始まった。
人類と神との最終決戦。その直後、誰もが満身創痍で、誰もが人類の勝利に歓喜していた時、奴らは現れた。
ずっと気を伺っていたのだ。神が死ぬ瞬間を。人類が疲弊する瞬間を。
まず
それを見たウサミミの少女と竜人の姫が、既に限界を超えている肉体に鞭を打ち、目の前の〝敵〟に攻撃を仕掛けた。だが、それに一切目を向けることなく、雷の怪物による腕の一振りで灰塵へと帰す。
次に天使の羽を持つ治癒師が斬り刻まれた。高密度の竜巻によるものだった。
黒髪の女剣士が、輝く聖剣を持った勇者が、屈強な体の拳士が、小柄な結界師が、その体に無数の砲撃を受けて死んだ。
いつの間にかクラスメイトも他の戦士たちも霧散し、一つの痕跡も残さず消えていた。
何が起きたのか分からない。すべての元凶であるエヒトは死んだはず。なのに次々と人が死んでいく。だが自分は偶然、運よく生き延びられた。
目に焼き付いて離れない、あの日の光景。たとえ地獄に落ちても忘れられないであろう敵の顔を───
「パンッ」と手を叩く乾いた音が響いて、意識が現実へと引き戻される。
先程、紅の左肩を蹴り砕いた、人間の腕に寄生した老竜が仲間達へと振り返った。
「さて、一応全員の意見を聞いておこうかのう。何もかも滅んだはずのこの場所で生きており、なおかつ血主を害そうとしたこの人間をどう処すか……若い順から意見をのべてもらおうかの。ほれ!」
「はっ! 僭越ながら殺す以外の選択肢はないかと! 生かす理由がありません!」
「ホホホ。どう処すかというのは、生かす殺すではなく『どのように殺すか?』という意味でしょう。誰か喰いたい者が喰ってしまえばよいのでは?」
「俺はいらんな。串刺しにして晒した方がいいのではないか? とはいえ、見る者がいないか……」
「ではワタシの実験に使わせてくれヨ。今新しい
「惨く殺すならいい方法があるのだよ! 頭部を切開して脳を食べるんだ! これが中々死なないのだよ! 食材と会話をしながらの食事はなかなか乙なものだよ!」
「あらあらおデブちゃんったら、最近すっかりグルメになっちゃって。タラちゃんは?」
「───同じく興味はない。……タラちゃんはよせ」
「オレは……その、なるべく苦しめずに殺した方がいいと思います。いえっ……かわいそうだからとかじゃなくて……血主の御前ですので……っ」
「なんでもいいさ、早く始末しよう。あの人間のうめき声は耳障りだって、風もそう言っている」
「…………ハッ!」
翼の血族、その成者とも呼ばれる上位竜が一同に介している。そのどれもが並の魔物を遥かに凌ぐ強さを持つ化物だ。
(これで……終わりか。目の前に敵が全て揃っているのに、体が動かない。うめくことしかできない)
少しずつ見えなくなってきた目で、精一杯目の前の怪物どもを睨みつける。
(なぜオレが生きてるんだ? なぜこんなに弱いままなんだ? なぜ? なぜ?)
それは自身に対しての疑問。弱いままの自分に。仲間が全員死んだのにも関わらず
(だけど今度こそオレも助からない。なら、もういいのか? あきらめてしまっても。怒るのにも耐えるのにも、もう……疲れた)
全身の力が抜けていく。絶体絶命の状態で生きることを諦め始めたのだ。
(もう楽になっていいのか「お前今、安堵したなぁ?」───!?)
突如、目の前から声が聞こえたかと思うと、首を掴まれ強引に持ち上げられる。
その瞬間、黒棘によって右腕が縫い留められていたため「ベキバキッ」と音を立てながら曲がってはいけない方向へと曲がっていった。
「グア゙ア゙ッ……」
「死にたがっただろ? 今死にたがったよなお前? なあ!?」
ウォルテカムイ。『翼の血族』の№2。
考えを読まれた。暴力的な言動からは想像できないほど聡明で頭の回転が速い。
ウォルテカムイは男の眼を凝視し、獰猛に笑う。
「決めたぜ! お前は殺さねえ! 憎悪の炎に焼かれてっ、自身の弱さに絶望しながらっ、この先も地獄を生きやがれ!! ワハハハハハハ!!」
「待ちたまえよ。その騒々しいゴミを塵に帰すことは僕ら全員の採決で決まったはずだよ。二位だからといって勝手な判断をしてもらっては困るって、風もそう言っている」
「黙れよ一人芝居。死にたがってる奴を殺してやるとか、テメーらいつからいい奴の集まりになったんだ。アァ? こいつは生かす。オレ様の決定だ、位階は関係ねぇ!」
言葉と共に発される〝圧〟に怯む者、汗を流す者、嫌そうな顔をする者と多数いる。だが誰も彼を止めることができない。
「オレ様の意見がお前らより優先されるべきなのは、オレ様がお前らを束にしたよりも強えからだ! 文句があんなら挑んでこいよ!!」
「───あるに決まっているでしょう」
ただ、一人を除いて。
ウォルテカムイの首が飛んでいく。女がウォルテカムイの持っていた剣を取り上げて首を切断したのだ。それはわかる。だがいつ斬ったのか、否、そもそもいつ近づき、どうやって剣を奪ったのかすら全くわからない。ただ気が付いたら、
(過程の、省略? ……いやまさか、時間を───)
地球出身の者であればその可能性に辿り着く者も多いだろう。そして気付いてしまったが故に、その理不尽さに絶望する。
絶対に勝てない。そもそも勝負にならない。もしも仮説が正しければ
あまりにも『理不尽』あまりにも『絶対的』
(この、女が……コイツがッ……!)
「和を乱す物は嫌いと言っているでしょう。また干されたいのですか、あなたは」
血族の実質的指導者。〝竜の神〟より『王』の称号を与えられた化物。
「おー怖っそいつは勘弁してくれ。前回の刑期は長かったからなぁ」
「では黙っていなさい」
理不尽なのはコイツも同じだ。たった今首を斬り飛ばされたはずなのに平然と喋っている。首だけの状態でありながらそれを苦ともしていない。
アルテマティアは痛みで倒れ伏している紅を見つめると、クルリと振り返り血族の面々に視線を向けた。
「みなさんの意見は聞かせていただきました。その上でどうか、わたくしの我儘をお聞きください。わたくしはこの方を───」
慈愛に溢れた微笑み。それを持って翼の王は特大の爆弾を投下する。
「
『!!?』
当の本人である紅と血族全員に衝撃が走る。だが理由は別だ。血族は、今しがた命を狙ってきた敵を同胞に加えることへの驚きである。それに対し紅は、人間である自分を血族に加えるという言葉そのものへの疑問。
「あぁん? 何でだよ! いらねぇよそんなヤッ―――」
首を繋げようとしていたウォルテカムイの顔面に、再び剣が突き刺さる。無論、アルテマィアによって。その様子を尻目にボルギウスは王の真意を問いかけた。
「お考えを、聞かせてもらえますかな?」
「もちろんです。ですが……その前に彼とお話をさせてください」
再度、紅と向き合う翼の王。その姿からは強者の気配など微塵も感じない。むしろ他の血族の方が強いのでは、とさえ思う。
「はじめまして。わたくしは翼の血族・血主、アルテマティアと申します。あなたのお名前を伺っても?」
「………」
もはや喋る力など残っていない。目もどんどん見えなくなっていく。その様子を前に、アルテマティアは紅の身につけていた武具へと視線を移す。
「あなたの武具についた紋章に覚えがあります。かつて存在した王国のものですね。神による支配で栄え続けたかの国は、たとえ神の掌で踊らされていたとしても、美しく活気の溢れた素晴らしい国でした」
「……ッ!」
(美しい。素晴らしい。そう評した国を滅ぼしたのはどこの誰だ)
「わたくしは誠心誠意徹底してあの国を滅ぼしました。あの国が存在した痕跡を何一つ残すことなく消し去ったと───誰一人逃がしはしなかったと自負しておりました」
(そうだ。お前達が滅ぼした。国も人も、他の誰でもない、お前たちがっ)
「ですがあなたは生き残り、そして今日もまた生き延びた」
(そうだ。また生き延びてしまった。それもすべてお前達の───)
「ならばそれは神の采配! あなたは生きることを許されたのです! よくぞ生き延びてくださいました! あなたが生きていてくれてわたくしはうれしい!」
「………………………………………………は?」
こいつは一体、何を言っているんだ。
「その者を血族に迎えることが神の御意思であるというのですな」
「はい。……わたくしはうれしいのです。この方を苦しみから救ってさしあげられることが」
(すく───~~~は?)
何を言っているのか理解できない。理解したくない。ただただ目の前の存在が恐ろしい。
「ティア、ティア~その子たぶん話見えてないわよー」
「血族に迎えるってのはね、そのままの意味よ。人間であるアンタを血族に変えるの。つ・ま・り、アンタを竜にするのよ!」
(………………………………………………は?)
オルト・ゾラの言葉を理解できず、ただ大きく目を開く。その様子にディザス・トロワ、グリュム・ウェルテの二名が嘲笑気味に語った。
「なんだって?『復讐と息巻いておきながら復讐相手のことを何も知らないとは驚きだ』同意だね、驚きの愚かしさ……自分も昔あんな生き物だったと思うと憂鬱になるよ」
「おおかた、我らの事を中位竜が人の姿を得たものとでも思っていたのだろう。大きな誤りだ。貴様らの言う下位・中位竜は我々の血液から生まれたただの───獣」
グリュム・ウェルテの掌から血液が溢れ、形を変える。大量の小さくて醜い、だがそれはたしかに竜だった。
「対して我々血族の『成者』は血主から血を与えられた
そう言って生み出した小さな竜を握り潰し、燃やす。彼らにとって下位・中位竜とは『同胞』なのではないと知らしめる様に。
「喜べ! 貴様は神に選ばれた! 人間よりも遥か上の生物へ進化することを許されたのだ!」
「……あ………え、う…………」
呻くことしかできない。だがその声には怒りと憎悪をありありと込められている。
ふざけるな。お前達が殺した。クラスメイトも国の人々も、たくさんの人を。大切な人、大切になるかもしれなかった人、助けてくれた人、共に戦った人、守りたかった人。 全て! 全て!! お前達がっ!!
奪った!!! 奪ったんだ!! 元人間? オレを竜にするだと? ふざけるな!! お前達に望むことは死だけだ!! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 消えてなくなれ!
「あ! 血族になったらその憎しみ消えてなくなるわよー」
今度こそ、紅の思考は完全に停止した。その様子に自分を疑っているのだと思ったのか、オルト・ゾラは自分を指差して続ける。
「マジマジ! アタシの時そうだったもん」
「彼らの中にも、あなたのようにわたくしへの強い怒りを持った者がいました。ですが今は同じ血族として、わたくしと共に神のために働いてくれています」
一瞬だけ、今も顔面に剣が刺さったままのウォルテカムイに視線を向ける。その視線に、全然反省していないカムイはニヤリと笑い、アルテマティアの視線はさらに冷たいものとなった。
「先程あの愚か者が言っていましたね。憎しみの火に焼かれ、己の弱さに絶望しながら地獄を生きろと。ですが……」
紅の手が包み込むように握られる。力は強くない。だが抵抗することができない。
「わたくしはあなたをその地獄から救いたいのです!」
アルテマティアに嘘はない。本心から紅を救いたいと願い、血族に迎え入れることこそが救いだと本気で思っている。その事実にゾワッ、と全身に鳥肌が立った。
先程、グリュム・ウェルテがしたように、アルテマティアもまた掌から血液を溢れ出させる。だが今度は竜を生み出すのではなく、小さな、それでいて歪な形をした剣を生み出したのだった。
「今からこの血の剣をあなたの心臓に突き立てます。そうすることで血族への変化が始まる」
「や、やめっ───」
紅の身体がふわりと浮かび上がり、それをアルテマティアは優しく抱き寄せた。顔を胸に押し付ける様に。だが紅の中にある感情は焦燥、困惑、怒り、憎悪、そして恐怖だけ。
抵抗したくてもできない。このままでは大切なものを失ってしまう。
「安心してください。あなた自身が変わるわけではありません。ただ、世界の見え方が変わるだけ」
血の剣が背中から心臓へと突き刺さる。すると「ドクンッ」と大きく心臓が脈動し……。
「ぐあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」
身体が裂けるのではと思う程、全力で叫んだ。
「憎しみを忘れ、わたくしと共に神のために生きてください。それがあなたに対してわたくしができる
耳はもう、ほとんど聞こえていない。されどその言葉だけは確かに───
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ッ!!!」
意識が覚醒する。全身から大量の汗を流し、まるで全力疾走でもしたかのように息が切れていた。周囲を確認すれば、シアやユエ、ティオにウィルが心配そうな顔で紅を見ている。
「起きたか。随分と魘されてたが、どんな夢見てたんだ?」
前方からハジメが声をかける。今はウィルを送り届けるため、魔力駆動四輪でフューレンに向かっていた。
「……尋常じゃない魘され方だった」
「はいぃ。流石に起こしたほうがいいかと思ったのですが……」
どうやら予想以上に心配を掛けてしまったらしい。
先程まで見ていた
「いや……大丈夫だ。気に、しないでくれ……」
「「「「…………」」」」
「そうか。ならいい」
明らかに大丈夫ではなさそうな様子に、ユエ達は顔を顰める。だがハジメは「言いたくないならそれでもいい」と何も聞かず話を切った。
その優しさに、心遣いに救われる。
だがアルテマティアは違う。
(あいつは優しかった。数えきれないくらい人を殺しておいて親切だった。それが、気持ち悪い)
『憎しみを忘れ、わたくしと共に神のために生きてください。それがあなたに対してわたくしができる一番の償い……』
─── 違う 一番の償いは死ぬ事だ
(もう一度狩る! あいつが何かする前に! この先、失われるはずのものを守る! オレにはそれができるはずだ!!)
それこそが今ここにいる理由なのだから。
「恰好つけるのはいいが、殺気は抑えろ。周りの被害を考えてくれ」
「………」
ハジメの言葉に、顔を赤く染めて俯いた。
「う、うるさい。オレのことはもういいだろ……」
「よくねぇよ。命がけで先生を助けたシアへの褒美を話し合ってたんだぞ。なあユエ?」
「……ん、シアはよく頑張った。報われないなんてあり得ない」
シアの固有魔法〝未来視〟と、命懸けの行動がなければ、愛子は今頃、頭に穴を空けて帰らぬ人となっていたかもしれない。そう考えれば褒美の一つや二つ、与えられてしかるべきだろう。
「そうだな、オレも気が抜けて反応が遅れたし………シア、何か欲しいものあるか? ハジメが作ってくれるぞ」
「違う、そうじゃない。確かに俺にも恩はあるが、そういう事じゃない」
運転しながらヤレヤレと首を振ると、ハジメはシアに問いかけた。
「シア。紅にして欲しい事はあるか?」
「おいちょっと待て」
「へ? して欲しい事……ですか?」
「ああ。礼というか、ご褒美と言うか……まぁ、そんな感じだ。もちろん出来る範囲で勘弁してやれよ」
いきなりの言葉に、少し困惑するシア。仲間として当然の事をしたと考えていたので、少々大げさではないかと思う。「う、う~ん」と唸りながら、何気なく隣のユエを見ると、ユエは優しげな表情でシアを見つめ、コクリと頷いた。続いて後ろの紅を見ると首を横に振っていたのでスルーする。少し考えた後、にへら~と笑い、ユエに笑みを浮かべて頷いた。
「では、私の初めてをもらっ「却下」……なぜです? どう考えても遂にデレ期キター!! の瞬間ですよね? そうですよね? 空気読んで下さいよ!」
「なにが空気だふざけるな。大体ハジメは〝出来る範囲で〟って言ってただろ」
「十分出来る範囲でしょう! なんですか! 私とはイチャコラできないって言うんですか! 据え膳食わぬは男の恥ですよ! 紅さんにだって性欲あるでしょうがァァァ!! ぐすっ、紅さんのヘタレェ……甲斐性なしぃ……」
「何も泣かなくても……オレにだって立場がある。お前に手を出すなんてことはしない。……それに食欲と同じように性欲も希薄だからな」
遂に来るべき時が来たですぅ! と喜色を表に願いを告げると、言い終わる前に即行で却下され憤慨するシア。今までの不満なども一気に吐き出す勢いで泣きべそかきながら紅を罵倒する。
周りからの非難の視線がすべて紅に向けられている。その視線に溜息を吐いた。
「……シアは本当によく頑張った。それを蔑ろにするのは、私が許さない」
「ユエさぁ~ん」
シアは、頭を撫でながら心を砕いてくれるユエに甘えるようにグリグリと顔を押し付ける。いつの間にかかなり打ち解けている二人。
「シアもここまで言うとるんじゃ。多少付き合っても罰は当たらんのではないか?」
「………」
ユエとティオの言葉に少し考え込むと、シアへ顔を向けた。
「……オレが無理だと判断したことはしない。身勝手だとは思うが、それでも良ければ一日だけ付き合ってもいい」
「紅さん……いえ、なりふり構っていられないので、既成事実が作れれば何だっていいんですけどね!」
「それは却下だ」
「まぁ、取り敢えず好感度稼ぎにデートで我慢します。フューレンに着いたら、観光区に連れて行って下さいね?」
「……それでいいなら、了解した」
にへら~と笑うシア、胃が痛いと蹲る紅、満足そうな顔をしているハジメとユエ、そして影が薄くなってきたティオとウィルを乗せた魔力駆動四輪は目的地である中立商業都市フューレンへと続く街道を疾走するのだった。
「アルテマティア様? どうかしましたか?」
「ッ! ネ、ネビュリムさん!? す、少しお散歩にでも行こうかな~と……」
「だ、ダメですよ! 先生から血主をお守りするように言われてるんですからぁ!」
「! ではネビュリムさんも一緒に行きましょう! それなら護衛の役目も全うできるのでは?」
「ええ!? ちょ、アルテマティアさま! 行くってどこにですか!?」
「そうですね……せっかくですし、まだ行ったことのない街にしましょう」
「では行きましょうか。行先は、中立商業都市フューレンです!」