銀の死神   作:日彗

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第三十五話 束の間の休息

 

 自身がしでかした事に、後悔するなんて考えていなかった。それが正しいと思い、それしかないと決めつけていたから。

 

 紅達がウルから去って数日、落ち着きを取り戻した清水だったが数万の魔物を率いて町を襲ったという前科ができたため、町の端にある小さな小屋へ幽閉されていた。

 幽閉とは言っても拘束したりなどはせず、ある程度の自由は与えられている。

 理由としてはハジメや紅によって未遂に終わったこと、ウルの住民達は清水が黒幕だったと知らないこと、そして何より愛子が強く反対したことが挙げられる。

 

そのため小屋には鍵すら掛かってなく、いつでも脱出が可能だったりするのだが、清水にその気はなかった。

 

「清水君、朝ごはん持ってきましたよ。起きてますか?」

「………先生、俺って一応罪人なんだけど……」

「未遂で終わりましたし、町の方々も誰も死んでいません。それに罪人だからご飯が与えられないなんて、そんなこと許されません!」

「……罪人を幽閉されてる場所に近づくなって言いたかったんだけど……俺に殺されかけたんだからさ」

 

 朝・昼・夜。愛子は毎度欠かさず清水に食事を届けている。殺されかけたというのにそれでもなお〝先生〟であろうとする愛子に、最初は気味悪がっていたが、今では多少の会話が成立できるくらいには心を開いた。

 

「今日のメニューは凄いですよ。見てください! カレーパンを作ってみました! ……朝から揚げ物は重かったですかね……」

「いや別に………作った? 作農師が? 畑で? カレーパンを? なんでもありかよ……」

「カレーパンは畑で採れませんよ!? 材料はあったので厨房を借りて私が料理したんです! 当然でしょう!」

 

 愛子の言葉にカレーパンが畑に実っている様子を想像した清水だったが、それを愛子が否定する。

 

「ま、まあ、それもそっか……あ、普通にカレーパンだ」

「当たり前です! 普通に作った普通のカレーパンですよ!」

 

一つ手に取って口に運ぶ。想像していた以上に普通のカレーパンだった。

全て食べ終え、水を飲んで口直しをする。

 

「ごちそうさま。───その、先生……この間は……すみませんでした」

 

食べ終えた清水は愛子に向き合うと、地面に付きそうなほど深く頭を下げた。

 

「へ? ……あ、頭を上げてください! 急にどうしたんですか!?」 

 

 頭を上げろと言われても、清水は一向に顔を上げようとはしない。清水は清水なりに己の所業を理解している。それが謝ったくらいで済まないことも。だがそれでも、清水は頭を下げ続けていた。

 

「謝って済まない事は分かってる。だけど俺も変わらなくちゃいけないって、アイツらを見て思ったんだ! アイツの歩む先を……あの『綺麗事』を貫いた先を俺も見てみたいって心の底から!」

 

 『アイツ』とは恐らく紅のこと。『綺麗事』とは紅の語っていたことだろう。

 

「強さだけじゃ足りない! あの景色を見るためには今まで通りじゃダメなんだ! 罪を償えというならそうする。尋問でもなんでも受ける。だから、俺にもう一度チャンスをくれ!」

 

 何が彼をここまでさせるのか。彼を突き動かしているのは何なのか。それは愛子には分からない。だがそれでも、教え子がここまで言っているのだ。正しい道へと導くのが教師の務め。であれば

 

「わかりました清水君。では私に協力してください。この世界の、多くの人を救うために。それが君に与える『罰』です」

 

 それは罰というにはあまりにも軽く、そして今の清水にはこれ以上ないチャンスでもあった。

 

(本当にこの人は……)

 

 あまりにもお人好しすぎる愛子に呆れを通り越して尊敬すら覚える。

 

 こうして彼の新たな旅が始まるのであった。続かない。

 

 

 

 

 

 現在紅達は、フューレンギルド支部の応接室に通されていた。

 出された如何にも高級そうなお茶と茶菓子をバリボリ、ゴクゴクと遠慮なく貪るハジメ達に戦慄する紅だったが、部屋の扉を蹴破らん勢いで開け放ち飛び込んできたイルワによって幕を閉じた。

 

「ウィル! 無事かい!? 怪我はないかい!?」

 

 以前の落ち着いた雰囲気などかなぐり捨てて、視界にウィルを収めると挨拶もなく安否を確認するイルワ。それだけ心配だったのだろう。

 

「イルワさん……すみません。私が無理を言ったせいで、色々迷惑を……」

「……何を言うんだ……私の方こそ、危険な依頼を紹介してしまった……本当によく無事で……ウィルに何かあったらグレイルやサリアに合わせる顔がなくなるところだよ……二人も随分心配していた。早く顔を見せて安心させてあげるといい。君の無事は既に連絡してある。数日前からフューレンに来ているんだ」

「父上とママが……わかりました。直ぐに会いに行きます」

 

 ウィルが出て行った後、改めてイルワとハジメが向き合う。イルワは、穏やかな表情で微笑むと、深々とハジメに頭を下げた。

 

「ハジメ君、今回は本当にありがとう。まさか、本当にウィルを生きて連れ戻してくれるとは思わなかった。感謝してもしきれないよ」

「まぁ、生き残っていたのはウィルの運が良かったからだろ」

「ふふ、そうかな? 確かに、それもあるだろうが……何万もの魔物の群れから守りきってくれたのは事実だろう? 女神の剣様?」

「ハジメ、女神の剣ってなんだ?」

 

 ハジメの頬が引き攣る。この反応からして本人は何のことかわかっているのだろうが、何も知らない紅は頭に『?』を浮かべていた。

 

「……随分情報が早いな」

「ギルドの幹部専用だけどね。長距離連絡用のアーティファクトがあるんだ。私の部下が君達に付いていたんだよ。といっても、あのとんでもない移動型アーティファクトのせいで常に後手に回っていたようだけど……彼の泣き言なんて初めて聞いたよ。諜報では随一の腕を持っているのだけどね」

 

 そう言って苦笑いするイルワ。最初から監視員がついていたらしい。ギルド支部長としては当然の措置なので、特に怒りを抱くこともない。

 

「それにしても、大変だったね。まさか、北の山脈地帯の異変が大惨事の予兆だったとは……二重の意味で君に依頼して本当によかった。数万の大群を殲滅した力にも興味はあるのだけど……聞かせてくれるかい? 一体、何があったのか」

「ああ、構わねぇよ。だが、その前に三人のステータスプレートを頼む。ティオは『うむ、三人が貰うなら妾の分も頼めるかの』……ということだ」

「ふむ、確かに、プレートを見たほうが信憑性も高まるか……わかったよ」

 

 そう言って、イルワは、職員を呼んで真新しいステータスプレートを四枚持ってこさせる。

 

 結果、ユエ達のステータスは以下の通りだった。

 

====================================

ユエ 323歳 女 レベル:75

天職:神子

筋力:120

体力:300

耐性:60

敏捷:120

魔力:6980

魔耐:7120

技能:自動再生[+痛覚操作]・全属性適性・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・血力変換[+身体強化][+魔力変換][+体力変換][+魔力強化][+血盟契約]・高速魔力回復・生成魔法・重力魔法

====================================

 

====================================

シア・ハウリア 16歳 女 レベル:40

天職:占術師

筋力:60 [+最大6100]

体力:80 [+最大6120]

耐性:60 [+最大6100]

敏捷:85 [+最大6125]

魔力:3020

魔耐:3180

技能:未来視[+自動発動][+仮定未来]・魔力操作[+身体強化][+部分強化][+変換効率上昇Ⅱ] [+集中強化]・重力魔法

====================================

 

====================================

ティオ・クラルス 563歳 女 レベル:89

天職:守護者

筋力:770  [+竜化状態4620]

体力:1100  [+竜化状態6600]

耐性:1100  [+竜化状態6600]

敏捷:580  [+竜化状態3480]

魔力:4590

魔耐:4220

技能:竜化[+竜鱗硬化][+魔力効率上昇][+身体能力上昇][+咆哮][+風纏][+痛覚変換]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮]・火属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・風属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・複合魔法

====================================

 

 ハジメには及ばないものの、召喚されたチート集団ですら少人数では相手にならないレベルのステータスだ。勇者が限界突破を使っても及ばないレベルである。

 流石に、イルワも口をあんぐりと開けて言葉も出ない様子だ。無理もない。ユエとティオは既に滅んだとされる種族固有のスキルである〝血力変換〟と〝竜化〟を持っている上に、ステータスが特異に過ぎる。シアは種族の常識を完全に無視している。驚くなという方がどうかしている。

 

「いやはや……なにかあるとは思っていましたが、これほどとは……」

「みんな優秀でいいな……」

「……そう言えば、まだ君のは見てなかったね」

 

 ユエ達のステータスを見たからか、震える手を必死に押さえて紅のステータスプレートを掴んだ。

 そこには……

 

====================================

にんfしgh p?歳 男 レベル:ERROR

天職:

筋力:ERROR

体力:ERROR

耐性:ERROR

敏捷:ERROR

魔力:ERROR

魔耐:ERROR

技能:ERROR

====================================

 

「……おや?」

「以前見た時と変化なし。やっぱりか」

「だから言ったのに……」

 

 ユエ達の様な異常な数値が乗っていないことにほっとするイルワだったが、すぐに顔を引き締める。間違いなく新品であるはずのステータスプレートが不具合を起こした。それは、ステータスプレートを阻害する『何か』があるということだ。

 

「……道理でキャサリン先生の目に留まるわけだ。ハジメ君達が異世界人の一人だということは予想していたが……実際は、遥か斜め上をいったね……」

 

 冷や汗を流しながら、何時もの微笑みが引き攣っているイルワに、ハジメはお構いなしに事の顛末を語って聞かせた。普通に聞いただけなら、そんな馬鹿なと一笑に付しそうな内容でも、先にステータスプレートで裏付けるような数値や技能を見てしまっているので信じざるを得ない。イルワは、すべての話を聞き終えると、一気に十歳くらい年をとったような疲れた表情でソファーに深く座り直した。

 

「私としては、約束通り可能な限り君達の後ろ盾になろうと思う。ギルド幹部としても、個人としてもね。まぁ、あれだけの力を見せたんだ。当分は、上の方も議論が紛糾して君達に下手なことはしないと思うよ。一応、後ろ盾になりやすいように、君達の冒険者ランクを全員〝金〟にしておく。普通は、〝金〟を付けるには色々面倒な手続きがいるのだけど……事後承諾でも何とかなるよ。キャサリン先生と僕の推薦、それに〝女神の剣〟という名声があるからね。コウ君には僕の家紋入りの証文を渡そう。ステータスプレートが無くても、それがあれば身分証明には十分だと思う」

 

 イルワの大盤振る舞いにより、他にもフューレンにいる間はギルド直営の宿のVIPルームを使わせてくれたり、イルワの家紋入り手紙を用意してくれたりした。何でも、今回のお礼もあるが、それ以上に、ハジメ達とは友好関係を作っておきたいということらしい。ぶっちゃけた話だが、隠しても意味がないだろうと開き直っているようだ。

 

 その後、イルワと別れ、ハジメ達はフューレンの中央区にあるギルド直営の宿のVIPルームでくつろいだ。広いリビングの他に個室が四部屋付いた部屋は、その全てに天蓋付きのベッドが備え付けられており、テラスからは観光区の方を一望できる。ハジメは、リビングの超大型ソファーにゴロンと寝転びながら、リラックスした様子で深く息を吐いた。

 

「取り敢えず今日はもう休もう。明日は消費した食料とかの買い出しとかしなきゃな」

「じゃあおやすみ……」

「待ってください!」

 

 布団を被って寝る態勢に入る紅。だがそこに待ったが入った。シアだ。

 布団に包まる紅の身体を強く揺さぶる。

 

「なんだ……?」

「観光区に連れて行ってくれる約束、忘れちゃったんですか!?」

「………………忘れた」

「ちょっと紅さん!? 今の間はなんですか!? 実は覚えてるんでしょう! コラー!!」

「わ、わかった、わかったから。じゃあ明後日にしよう。明日くらいはゆっくりしたい」

 

 揺さぶり続けるシアに、等々折れた紅が約束を取り決める。

 

「むぅ……」

「……じゃあシア、明日は私と観光に行こ。デートの下見も兼ねて、ね?」

「うぅ~ユエさぁ~ん……」

 

 シアがユエに飛びつき、それを受け止めたユエは頭を撫でる。その様子は友人というより姉妹だ。

 ユエを盗られたハジメが紅を睨みつけるが無視してもう一度布団に潜る。

 

「俺のユエが取られちまったじゃねぇか。どうしてくれんだテメェ」

「寝ろ。休める時に休んでおかないと大変だぞ。明日突然この世界が滅んだらどうするんだ」

「仮に世界が滅ぶんなら、数時間休んだ程度でどうにかなる訳ねえだろ……」

 

 呆れを多分に含んだハジメを無視して布団に顔を埋める。寝むたいのは本当らしい。

 

「ったく、こいつは……」

「ご主人様も紅には甘いのう」

 

 うるせぇよ。そう呟いたハジメは頭を掻きながら顔を背ける。その様子にティオは口に手を当てて上品に笑った。

 誰が見ても照れ隠しだということは明白であった。

 

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