銀の死神   作:日彗

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トロワ「僕と風の絆は決して揺るがない。風もそう言っている」
 風 「………」


第七話 死神VS風獄竜

 

 風獄竜(ふうごくりゅう)〝ディザス・トロワ〟

 

 翼の血族、()()()()

 

 当たり前だが、それは血族の中でも上から三番目という事である。

 本来、生物が敵う道理などない〝天災〟そのもの。特にこの男ディザス・トロワは『風獄竜』の通り名どおり〝風〟を自在に操る魔法を使う。

 それは一般的な風魔法とは天と地ほどの差があり───

 

「死ね? キミ今死ねって言ったのかい? この僕に? 何様のつもりだい人間風情が」

「ごちゃごちゃと煩いぞボッチ野郎。ああ、ボッチ野郎というのは風と語らってる風を装って、実は一人芝居な痛いお前のことだ。イカれた王の命令でこんなへんぴな場所に派遣させられてる寂しいお前」

「…………」

 

 ディザス・トロワの纏う空気が変わっていく。もちろんこの煽りはわざとだ。

 そしてトドメの一言を突き刺した。

 

「可哀想だから遊んでやる。かかってこい」

 

ブチッ

 

 聞こえない筈の音が聞こえたような気がした。先ほどまで静かだった空間に、突如暴風が吹き荒れる。

 そしてそれは一つの、巨大な竜巻と化した。

 

(チョロ)

 

 ひとまず第一段階は終了。風獄竜(トロワ)の射程圏外へ脱出する。

 だがそれも時間の問題だろう。風獄竜(トロワ)の起こす竜巻の最大範囲はこの階層よりもなお広い。

 

「ブツブツ……」

「ん?」

 

 風獄竜(トロワ)が何か喋っているようだが風が煩くて聞こえない。まあ、最初(はな)から聞く気はないが。

 

「寂しい?僕が?は?何を言っているの?ていうかキミ、だれ?なんで人間風情が僕らの血族についてどうこう言うのかな?知ったかぶりは恥ずかしいからやめた方がいいと思うけどね僕は。だいたいキミ、僕のことを正しく認識できているのかな?できてないよね?できてたらそんな口きけるわけがない。なぜって?僕はディザス・トロワ。翼の血族の第三位階。第三位階っていうのは上から三番目ってこと。分かる?分からない?頭悪いなぁ。じゃあもう少し付け足そうか。風のうわさで聞いたところによれば、一部の人間達の間で僕は風獄竜と呼ばれているらしいよ。僕の風とダンスした人間が、地獄の苦しみを味わうことからその名がついたらしい。心外だね。僕としてはそんな惨いことをしているつもりはないし、当然風も悪くない。むしろ風と上手に戯れることができない、人間の弱さにこそ責任があるんじゃないかな?そう弱いんだ。キミ達人間は弱いんだよ。呆れるほどに、驚くほどに、何度殺してもそのたびに思うんだ。ああどうして人間はこんなにも脆く壊れやすいんだろうって。まあ中にはあの聖教教会の使徒のような連中もいるけれど、あれは人間とは呼べないしね。さてその僕に対して、馬鹿丸出しの挑発をするキミは何かな?聖教教会?違う。ただの狩竜人モドキだ。ハハッ、狩竜人!本当に名前負けもいいところだ。この世界にもいたんだね、そういう恥ずかしい職業の連中が。懐かしいよ、僕と風をどうにかしようとして、特に何ができることもなくゴミみたいに吹き飛んで死んいた。意味不明。道化にしたって面白くもない。まさに無駄死にだ。キミもそうなのかい?同じように無駄死にするために僕と風の前に現れたのかい?自殺行為だということがわからな……おっと何度もごめんよ。そうだね、分からないんだよね。何せキミ達狩竜人は存在自体が無駄だから。僕は人間達の中でとりわけキミ達狩竜人を哀れに思う。風もそう言っている。まったくもって無駄で弱くて愚か。故に先ほどのような誤りだらけの発言をしてしまう。僕が一人芝居をしているとかなんとか。的外れすぎて唖然としてしまったよ。僕に言わせれば、その発言こそがキミのレベルの低さを物語っている。少しでも魔法の知識があれば、僕と風が心で通じ合っていることが見て取れるはずさ。それが分からないのは、何度も言うけどキミが弱くて愚かだから。救えないね……。弱いならせめて強者の怒りを買わない賢さを身につけるべきじゃないかな?それを怠ったが故に滅ぶのさ。足りない頭でも必死に回せば分かったろうに。本当に本当に本当にキミが人間かつ狩竜人であることを哀れに思うよ。だから先ほどの発言、僕に対する無知で失礼な発言を僕は許す。僕に対する侮辱だけは僕の裁量で許そう。風も許すと言っている」

 

 ……長い。だがおかしい。てっきり激昂して襲い掛かってくると思っていたのだがコイツはこんなにも我慢強かっただろうか。

 

「だけどそれ以外は許さない。血主に対する侮辱は許さない」

「イカれたと言ったね? 我が血主に対してイカれたと! 血族の指導者にして『神』の声を聴く者であらせられる我が王を! 人間ごときが侮辱するなど!」

「断じて許さない。断じて殺す。断じてっ。断じてっ。断じて断じて断じて断じて断じて!」

「ほら聞いてごらん……風もそう言っているよおおおおおおお!!!」

 

(なんだ。やっぱりチョロいな)

 

 ディザス・トロワは強い。非の付け所がないほどに。戦闘に関してはおよそ弱点と呼べるものはないだろう。

 だから怒らせた。だから挑発した。未来の紅であれば正面から叩き潰せる相手ではあるが、今の紅は絶好調とは言えない状態にある。

 起きた時からある違和感、それの正体を紅はこの階層に来るまでの戦闘(とも呼べない一方的な蹂躙)で察した。

 

 筋肉痛だ。

 

「……イテっ」

 

 グリュムウェルテとの戦闘の際、未来の力を最大限引き出そうと紅は肉体のリミッターを外し、戦った。

 戦っていた時間は短くとも、肉体の限界を超越した力を振るったのだ。数週間寝込んでいてなお回復しきれていないのも無理はない。

 

 だからこそ策がいる。

 

 目の前には巨大な竜巻。それもどんどん威力と範囲が増していく。もはや人がどうこうできる段階を越えていた。

 だが既に第二段階は完了。

 

(相手にとって不足なし)

 

 これから始めるのは実験である。第三位階を使った性能試験。未来の紅の〝強さ〟をどこまで引き出せるかのテスト。

 第三段階。手を前へかざす。紅の体から銀気が溢れ出した。それを圧縮、練り上げることで瞬く間に複数の剣へと形を変えた。

 

「〝銀気創剣〟」

 

 生まれたのは合計五本の銀剣。それらを掴み、目の前の竜巻めがけて投げる。

 その速度は音速を超え、まっすぐ風獄竜(トロワ)へと突き進む。

 

「はあ。そんなものが届くわけ―――」

 

 ガキィィン!!という甲高い音と共に風が()()()

 

「―――ッ!」

 

 とはいえ竜巻をかき消すには至らず、凍ったのはせいぜい半分といったところ。それでも制御は乱れ、バランスを崩す。だが風獄竜(トロワ)に対するダメージはゼロだろう。

 しかし、

 

「……馬鹿なっ。ああ……僕と風の絆が……」

 

 揺らいだ。

 

―――ゴオオオオッ!!

 

 回転が加速し、凍った風も砕け散っていく。

 

(だが問題ない。十分役目は果たしてくれた)

 

 第四段階。

 

「ゆるッ、許さないぞこのッ塵あくたがああああ!!!」

 

 紅めがけて迫る風獄竜(竜巻)。それを静かに見つめる。

 既に仕掛けは終わっていた。

 荒れ狂う竜巻は、憎き人間を切り刻まんと()()()()()()()()()()()()()

 

(……トン、ネル?)

 

 気付きかける風獄竜(トロワ)だがもう遅い。

 竜巻がトンネルに触れる。瞬間、〝ボギッ〟という音と迷宮が揺れていると錯覚するほどの衝撃が轟いた。

 

(―――?)

 

 先ほどまで竜巻の中にいたはずの風獄竜(トロワ)は宙を舞った。否、弾き飛ばされたというのが正しいだろう。

 

(……何が起きたのか分からない。人間を吞み込もうとして、その直前までいって……()()にぶつかった)

 

 何にぶつかったのか。なぜ風の手綱を失ったのか。

 

「!!? なっ!? あ……ああっ」

 

 そして、なぜ胸に剣が突き刺さっているのか。

 

「ぐああああああ!!!」

 

(まずい! まずい! まずい! まずい! 心臓が傷ついている! 血液の大元が絶たれる! 魔力の流れが止まってしまう!)

 

 叫ぶ。暴れる。理解のできない状態に混乱する。

 

冷痛(つめた)い! 冷痛(つめた)い! 溶かせない! 風が上手く手繰れないいいい!!)

 

 それほどの重傷を負ってなお死なない。血族の、それも彼らのような上位竜(成者)と呼ばれる存在はその異常な生命力が厄介なのだ。

 

「ハーッ、ハーッ! こんなっ…ハズが…ないィ。人間ごときにィ……」

 

 ヨロヨロと立ち上がり胸に刺さった銀剣を握りしめる。

 

「この第三位階たるっディザス・トロワがああああああ!!!」

 

 身体が形を変え始める。竜化しようととしているのだ。

 が、

 

「じゃあ死ね」

 

ドゴゴゴゴォォ!!

 

 紅がトンネルを作るのに使っていた()()()()()()()()()()()()風獄竜(トロワ)めがけて落下させた。

 ただでさえ胸に刺さる銀剣とその凍力で心臓が傷つき、回復が阻害されている状況。そこへ十数本もの柱の重量と注ぎ込まれた銀気によって全身がひび割れ、右腕と下半身に関しては千切れ飛んでいる。

 

「なに…かの、まちがひっ、かぜ…そ、いって……」

「……まだ生きてるのか」

 

 知ってはいたがそのあまりの生命力に呆れる。既に死に体だが放っておけばそのうち回復してしまうだろう。

 

「たぶん、風はお前のこと嫌いだと思うぞ」

 

 紅は足を上げ、風獄竜(トロワ)の頭を踏み潰した。

 

「……実験成功。作戦も恐いくらいハマったな」

 

 「未来でアイツが使った方法なだけはある」と呟く。

 今回の戦いで紅がとった作戦はすべてで六段階あった。

 

 第一段階。ディザス・トロワを怒らせる。理由は単純で向こうから攻めてきて欲しかったからだ。その方が罠を張りやすい。想像以上にチョロかった。

 

 第二段階。柱に銀気をたらふく込める。柱というのはこの階層にある大量の柱の事。その中でも風獄竜(トロワ)がヒュドラとの戦闘で破壊したであろう柱に銀気を込めた。あの竜巻から逃げながら。

 

 第三段階。竜巻を凍らせ、冷静さを完全に奪う。これは風獄竜(トロワ)が銀気を込めた柱に気付かないようにするためともう一つ、()()で突っこんで来てもらうためだ。

 

 第四段階。突っ込んでくるバカを柱で止める。止め方は簡単。銀気を込めた柱をアーチ状に設置してその奥で構える。ただの柱であれば竜巻に触れた瞬間塵と化すだろうが、紅の銀気が膨大に込められた柱だ。それに魔法で操作している竜巻が突っこんだら……結果はこの通り。なにせ銀剣五本で半分が凍ったのだ。柱十数本ならばその比ではない。

 

 第五段階。吹っ飛んだバカに銀剣を突き刺す。トドメだ。いやこれで決着がつくとは紅自身思ってはいなかったがせっかく無防備になるのだから竜最大の急所である心臓を潰しておきたかった。かといって近づくのも面倒だったので投擲したのだが。

 

 第六段階。それでもまだ死なず、竜形に成ろうとした場合それを阻止し、反撃できないほどのダメージを与える。ようするに銀気を込めた柱を再活用する。使えるものは何でも、何度でもの精神だ。

 

 ……それでも死に切らなかったから最後は直接手を、否、足を下したのだが。

 

「………」

 

 今の作戦は紅が考えたわけではない。未来において、未来の紅が共闘していたとある人物の作戦だ。誰よりも竜を知り、誰よりも竜を滅ぼしたいと思っている人物。紅はただ、それを少々アレンジし再現しただけ。

 

「竜を滅ぼすためにも早く出会わなければならない」

 

 そうだ、竜を殺す。殺さなければならない。神殺しは、信頼できる友人にまかせて竜を狩る。

 

「全ての竜を狩り尽くす」

 

 失わないために。

 

「この手で」

 

 奪われないために。

 

「この世から」

 

 二度とあの悲劇を繰り返させないために。

 

「一体残さず」

 

 そのために、受け継いだ力なのだから。

 

 それしかない。そうしなくちゃいけない。けれど……。

 

(できるのか? オレなんかに……未来のオレでもやり遂げられなかったことを)

 

 動悸が激しくなる。それは未来の力を引き出した反動か、それとも―――

 大きく深呼吸をして無理矢理動悸を鎮める。なにはともあれ、大きなケガを負う事もなく第三位階を狩れたのだ。

 

 翼の血族・第三位階。風獄竜ディザス・トロワは決して雑魚ではない。

 その本来の実力は未来の紅ですら〝銀気闘法〟なしでは厳しい相手。

 例えば風獄竜(トロワ)が竜形になった場合、最大八つの竜巻を同時に作り出すことができる。そうなれば今の紅ではなす術なく殺されていただろう。だが……。

 

 結果はこの様だ。

 

 ではなぜこんなにも簡単に倒すことができたのか。怒って冷静さを欠いていたから? それもある。だが一番の要因は奴が全力を出さなかったことだ。

 風獄竜(トロワ)には自分が狩られる結末など想像できなかった。紅の口撃に怒り本気で殺そうとしながらも()()()殺そうとはしなかった。

 それも無理のない事だろう。例えば人は道端のアリを潰すのに全身全霊をかけるか? 風獄竜(トロワ)からすればこの戦いは『アリを潰そうとしたらすっ転んで頭打って打ち所が悪くて死んだ』ようなものだ。本気を出す出さない以前の問題である。

 

――― 「誇り」と「驕り」から生じる『隙』。私はこれを『太陽』『銀気』に次ぐ上位竜第三の弱点と定義する。

 

 そんな懐かしい言葉(こえ)が聞こえた気がした。

 

「さすがに疲れたな……」

 

(とりあえず一度休もう。ハジメの捜索は回復してからの方がいい)

 

 ちょうど目の前にはこの迷宮の()()()()()()()()()もある。ここが【オルクス大迷宮】の最奥、ゴールだ。

 そして、未来の紅達が利用していた隠れ家の一つでもある。

 

「ありがとうオスカー。少し、休ませてもらうよ」

 

 

 翼の血族・第三位階 風獄竜〝ディザス・トロワ〟

 討伐、完了

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 時を同じくして、ハジメ達もまた戦闘の余波を感じ取っていた。

 

「なにが…起きてやがるッ!」

 

 魔物を喰い、手に入れた技能〝気配感知〟〝魔力感知〟の二つが全力で反応する。いや、それらの技能を持っていないユエもまた、下の階層にいるであろう()()に震えが止まらない。

 

「ありえねぇだろ……こんな化物がいるのかよッ!」

 

 周りでは下の階層から伝わる殺気から逃げ惑う魔物達がいる。中には耐えきれず、泡を吹いて気絶するものですら……。

 

(どうする。今の俺達じゃ絶対に勝てねぇ。ユエも戦える状態じゃない。クソッ、感知系の技能が働きすぎて痛ぇ!)

 

 これ以上進むことを躊躇してしまう。それだけ濃厚な死の気配。

 だが信じられないことに、どうやら気配の主は何かと戦っているようだ。

 

(……クソッ)

 

 ハジメは強くなった。この奈落の底にいる化物どもを蹂躙し、喰らえるほど強く。

 それでもまだ思い知らされる。上には上がいることを。本当の意味での化物を。

 

 そして迷宮が揺れた。

 

「今度はなんだ!?」

 

 次から次へと、どうやったらこんな戦いが起こるのか。理解できる限度を超えている。

 と思っていたが

 

「……あ?」

 

 荒々しく痛いくらいに鋭い殺気が消えた。殺気だけではない。気配も魔力も完全に消えている。

 

「……ハジ、メ?」

「何も感じない…どういうこった? 一瞬で、跡形もなく消えた。そんなことがあり得るのか? 今の消え方は気配を消すのとは違う感覚だ。あるとすれば……」

「……転移魔法? もしくは」

「死んだ。何者かに殺された。けどそれは……」

 

 可能性としては転移した、というのを推したい。あの次元の違う魔力・殺気を振りまく化物をさらに圧倒する存在とは、さすがに考えたくない。

 

「まだ足りないって事か……」

「ハジメ?」

 

 地面を睨むハジメ。だがその視線はずっと先を見据えている。

 

「ユエ、先に進むぞ。もっと強くならなくちゃいけねぇ」

「……ん!」

 

 下階層へと進むハジメとユエ。強大な敵だろうと関係ない。進む以外に道はなし。邪魔をするものはすべて――

 

「―――殺す!」

 

 ただ、それだけのことだ。

 




トロワ「なに…かの、まちがひっ、かぜ…そ、いって……」
 風 「ざまあwww」
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