不屈の悪魔   作:車道

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食物連鎖の頂点

 吉良吉影が事故死してから一週間ほど経ったある日、わたしはジョセフに連れられて海鳴市を離れていた。目的地は海鳴市と隣り合った隆宮(としみや)市にあるSPW財団の関係者が住む家だ。

 月村家という名はわたしも聞き覚えがあった。わたしの家から直線距離で40キロメートルほど離れているが、海鳴市には月村家が管理する土地が数多く存在している。

 夫婦でそれぞれ重工業会社と建築会社を経営している資産家として有名で、度々(たびたび)全国紙や地方紙にも名前が上がっている。

 

「……で、わたしだけ呼び出したのには、どんな理由があるのかな」

「そうカリカリせんでくれ。わしの口から直接は伝えられないデリケートな話題なんじゃよ」

 

 月村家の用意した運転手が運転する車に揺られながら、わたしはジョセフを問い詰めていた。車内にはわたしとジョセフ、それから透明の赤ん坊と運転手の四人しかいない。

 承太郎や父、月村忍と付き合いのある兄は同乗していない。どうにも怪しい雰囲気と言うか、聞いてはいけない秘密を聞かされに行く気配が漂っていて不安になってきた。

 

「パパやお兄ちゃん、それに承太郎が駄目でジョースターさんは同行してもいい理由も分からないんだけど」

「『岩人間』とこれからも戦う可能性がある以上、杜王町に住むスタンド使いのうちの誰かが秘密を知らなければならないのは分かるのう?

 ()()()()()を尊重して不特定多数に聞かせるわけにはいかない話もある。そこで抜擢されたのが君というわけじゃ」

 

 ハッキリ言って面倒である。『岩人間』が全滅したとは思えないし、ヤツらがどのような存在か知りたい気持ちもある。だが、それとこれとは話が別だ。

 杜王町に住まうスタンド使いは若年者が多い。社会人として成功を収めている露伴ですら、まだ20歳だ。不測の事態が起きたとき、彼らを指揮できるほど経験を積んだ人物がいないのだ。

 消去法で選ばれた身としては、納得はできてもやる気は出ない。このままなし崩しでSPW財団のエージェントにされるのだけは勘弁してほしい。

 

「監視対象に自分たちの秘密を教えるだなんて本末転倒だと思うけどなあ」

「お、見えてきたぞ! 最後に来たのは15年ぐらい前じゃが、あいかわらず大きな家じゃのー」

 

 ジョセフ・ジョースター……そこを突かれると言い返せないからか露骨に話題をそらしたな。

 ため息をつきながら車の窓越しに風景を眺める。ジョセフの言うとおり、青い屋根と煉瓦色の外壁が特徴的な三階建ての大きな洋館が見えている。

 オレもセーフハウス(隠れ家)や純粋な資産として不動産を多く持っていたが、これほどまでに立派な豪邸に住んだ経験はない。物珍しさはあるが、こんなに大きな家だと維持管理が大変だろうな。

 

 どうでもいいことを考えて現実逃避していると、正面玄関の前で停車して運転手が車のドアを開けた。ジョセフを追って車を降りると、薄紫色の髪をした20歳ぐらいの外見のメイドがわたしたちを出迎えていた。

 

「ジョセフ・ジョースター様、高町なのは様でいらっしゃいますね。どうぞ、ご案内いたします」

 

 メイドが丁寧なお辞儀を見せると、そのままキビキビとした動きで客間へと案内しだした。案内された部屋は一見すると地味ながらも、調和の取れた調度品が並んでいる旧来の名家に相応しい一室だ。

 既に待っていたのか、ティーカップに口をつけていた紫色の長髪の少女──月村忍がソーサー(受け皿)にカップを置きこちらを見ると柔らかく微笑んだ。

 

「お久しぶりです、ジョースターさん。なのはちゃんは3日ぶりね。翠屋のほうはもう大丈夫なの?」

「おお、忍ちゃん。最後に会ったときはこんなに小さかったが、ずいぶん大きくなったのお」

「はい、()()()()()()()()パパも仕事に戻れたので、もう大丈夫です。無理を言ってお店のお仕事を手伝ってもらって、ありがとうございました」

 

 実は父が翠屋の仕事を抜けていた期間、兄を通して忍に頼んでウェイトレスの仕事を手伝ってもらっていた。今年の4月の中頃からちょくちょくバイトには来ていたのだが、集中的に手伝ってもらったのは今回が初めてのことだ。

 ジョセフも面識があるのか、わたしの背よりも低い高さに手をかざしている。そういえば15年ぐらい前に来たことがあるとジョセフが言っていたが……仗助の年齢と合致するのが気になるな。まさか月村家の用のついでに不倫して帰ったのか?

 

「こんなに働いたのは初めてだったけど私も楽しめたし、なのはちゃんが気に病む必要はないのよ。ジョースターさんや高町君……なのはちゃんのお兄さんから何があったのかは聞いているけど大変だったわね」

「……それは、わたしの身の上話も含めてですか?」

 

 口調こそ丁寧なままだが目つきと声色が鋭くなっている自覚がある。いかに兄の友人で家族ぐるみの付き合いをしている相手とはいえ、踏み込んだ内容を他人に知られているというのはいい気分ではない。

 わたしは誰かを頼ったり信じることを覚えたが、その範囲は家族に限られている。忍を信用していないわけではないが、秘密を明かせるほど信頼しているわけでもないのだ。

 

「なのはちゃんの事情については……超能力(スタンド)が使えるのと別人の記憶がある、というところまでね。詳しいことは聞かないし調べるつもりもないわ。ごめんなさい、あなたに黙って話を進めてしまって」

「忍さんがわたしのことをどう思おうが気にしません。ただ……わたしの事情を知って、お兄ちゃんとの関係に悪い影響があったら嫌だな、と思っただけです」

 

 無論、忍のことを思いやってではない。兄は家ではわたしや姉をからかったりするが、外では寡黙な性格だと思われている。

 友人が居ないわけではないだろうが、せっかくできた異性の友人との関係を、わたしのせいで台無しにしたくないのだ。

 

「そうね……なのはちゃんは『高機能性遺伝子障害(HGS)』という先天性疾患を知ってる?」

「せ、せんてーせーしっかん……?」

 

 待て待て待て、いきなり漢字だらけの難しい単語を使わないでくれ。普通にやり取りしてるように見えるが、わたしは小学生にもなっていないんだぞ。新聞だって一人では読めないのに高機能ナンタラといきなり言われても理解できない。

 

「英語での病名は『Highly Genetic Disorder』だな。20年ほど前に、いきなり発生した病気のことじゃよ」

「聞いたことはあるけど……もしかして忍さんもHGS患者だったりするってこと?」

 

 困った顔をしているのがバレたのかジョセフが助け舟を出してきた。()()()()()()()()()病気だったので、図書館に保管されていた英語の新聞や雑誌で少し触れられているのを覚えていた。

 詳しい症例は図書館で調べても不自然なくらい見つからなかったので知らないが、何か関係あるのだろうか?

 

「SPW財団では()()()には、わたしたち月村家を含めた一族──夜の一族はHGSに近い『Genetic Disorder(遺伝子障害)』を定着させた一族として扱われているの」

 

 わざわざ表向きと言うからには裏向きの理由があるのだろう。HGSを前置きとして出したのは、わたしに建前を教えるためか。

 忍が目を軽く閉じて息を深く吸い込んだ。客間に沈黙が訪れる。数秒が経過して、伝える覚悟ができたのか忍が口を開いた。

 

「……なのはちゃんは『吸血鬼』が実在するって言われたら信じる?」

 

 そんな一言から説明は始まった。忍の言う『吸血鬼』とは『石仮面』によって人為的に作られた存在ではなく、種族として定着した存在だそうだ。

 『石仮面』で吸血鬼になった者のように日光を浴びるとボロボロと体が崩れたりするわけではない。創作物に出てくる『吸血鬼』のように流水や聖水が弱点というわけでもない。

 200年ほど生きられる寿命と人並み外れた身体能力や再生能力、記憶操作や洗脳、霊感や蝙蝠に変身できるといった空想上の吸血鬼とほぼ同じ能力を持っているのは驚きだが、純血の一族の外見は人間とほぼ変わらないそうだ。

 ちなみに忍は夜の一族としては珍しく身体能力はあまり高くない。そのかわり知性が飛び抜けて高く、特に工学分野に高い適性がある。

 成人すると外見上の成長が停滞したり、人狼(ワーウルフ)のような動物の特徴を持った一族も居るそうだが、事前に『石仮面』やスタンドについての知識があったのですんなり受け入れられた。

 むしろ普通の人間なのに数十発の銃弾を切り裂ける父のほうが遥かに人外だと思う。

 

 ここまでは前置きだ。紅茶を口に含んだ忍が一息ついて次に語りだしたのは『岩人間』に関する情報だった。連中は『夜の一族』と()()()()()()()()だが仲間ではない。

 種族の方向性や考え方が違うので、お互いに不干渉を貫いているそうだ。ここ数百年は交流した記録も残っていないらしく、今回の一件で初めて近場に岩人間が潜伏していたことを知ったそうだ。

 岩人間が何人ぐらい居るのか、どんな社会的地位についているのかは一切不明。分かるのは書物として残されていた岩人間の生態についてだけだった。

 寿命は夜の一族の平均より少し長い240年程度。だが、多くの要素が人間とかけ離れていた。岩人間は人間のように全身の細胞が入れ替わることで成長するのではなく、6年毎に脱皮して変態していく。

 1ヶ月から3ヶ月ほど眠り続ける代わりに、2ヶ月ほど起き続ける変則的な睡眠周期。冬眠中は体表の水分を体内に移動させることで岩のようになる。そもそも人間との間に子供を作れない。聞けば聞くほど人間離れした存在だと思えてならない。

 

「冬眠……岩のようになる……君たちと起源が同じ、ということはやはり……」

「はい、岩人間たちも『闇の一族』に連なる種族です」

 

 話を聞き終えたジョセフは深刻な表情をしている。訳知り顔で話を進めているところ悪いが、わたしの知らない情報で納得しないでほしい。じっと睨んでいるとジョセフが「スマンのお」と謝りながら、闇の一族について語り始めた。

 

 

 

 闇の一族──それは今から1万年ほど前まで栄えていた人類とは異なる進化の過程で生まれた種族である。起源は分かっていない。自然発生したのだろうと思われるが、真相は誰も知らない。

 数千年単位で冬眠こそするが、永遠に近い時間を生きられる人間とは比較にならない寿命や不死身に近い身体能力、高い知性を持った生命体の頂点とも言える存在だ。

 だが、日光を浴びると体が石化してしまうという致命的欠陥があり、地底でひっそりと過ごす温厚な種族だった。そんな一族の現状に不満を抱いていた男がいた。その男の名はカーズ──あの石仮面を作り出した人物だ。

 彼は日光を克服するために石仮面を作り出した。結局、パワーが足りずに本来の用途では役に立たなかったが、カーズは石仮面を人間に使うことで餌としての価値を上げようとした。

 一族はカーズを危険視し排除しようと動いた。だが、稀代の天才であり抜きん出た戦闘能力を持っていたカーズは数人の仲間とともに一族を皆殺しにした──はずだった。

 

 カーズは知らなかったが、闇の一族は他の地方にも存在していたのだ。闇の一族は優れた知性を持っている。カーズたちが何をしでかしたのかは、すぐに発覚した。

 しかし、数多の生命エネルギーを吸収して力をつけているカーズたちに太刀打ちできるほど、一般的な闇の一族は強くはない。このまま静かに暮らしてカーズに怯えて過ごすのは耐えられない。そこで闇の一族は人類と融和する道を選んだ。

 

 温厚とはいえ闇の一族にも派閥は存在する。人間社会の中で生きていくという目的意識は同じだったが、闇の一族の力を大きく残したまま融和しようとする一派と、完全に別の存在となって生きていくことを選んだ一派に分かれた。

 前者が『岩人間』であり、後者が『夜の一族』である。『岩生物』や『獣人』も人間へと近づく過程で意図的に生み出された種族である。これこそが両方の種族に伝わる始まりの記録だ。

 

 

 

「それでカーズという男はどうなったの?」

「60年ほど前に目覚めたが、わしが宇宙に追っ払ってやった。SPW財団の観測員の話だと、今は火星の重力に捕まって静止しているようじゃがな」

 

 左手を見つめながらジョセフは思いを()せている。宇宙空間に追放した割に死んだと明言しないということは、まさか今も生きているというのか?

 真空下では通常の生命体は生存できない。宇宙線といった高エネルギーが飛び交っているので、宇宙服を着ても寿命が十年単位で縮む世界なのだ。そんな生物を対処できたジョセフは、表立って知られていないが世界を救った英雄だろう。

 

「本当は一族の秘密を知った人は記憶を消すか、恋人や友人として秘密を共有しながら共に生きる掟があるのだけど、今回は特例ね。

 SPW財団の人たちには色々とお世話になってるし、なのはちゃんなら絶対に秘密を漏らしたりはしないと信じているわ」

「……わたしにしか話を聞かせられない理由は理解できた。お兄ちゃんにも喋ってはいけないってこともね」

「ありがとう、なのはちゃん。高町君には近いうちに……私から直接伝えるつもり。覚悟ができたら話すから、それまで待っててね」

 

 実は自分たちは普通の人間ではありませんと言われたら、上っ面だけの付き合いでは一歩身を引いてしまうか信じてもらえず馬鹿にされるだろう。

 わたしは自分の出自が特殊というのもあって気にしないし、兄もなんだかんだで受け入れそうな気がするが、伝えるか伝えないかは当人の気持ち次第だろうし、わたしには関係ないことだ。

 ……承太郎との約束で定期的に露伴に記憶を読ませることになっていたはずだが、それはいいのだろうか?

 忍に大丈夫かどうか尋ねてみると考え込んでしまった。わたしも露伴と直接話したことがないので信用に値する人物かどうか把握できていない。ジョセフは少々芸術家気質で偏屈な部分もあるが善人だと言うが……本当だろうか。

 まあ、洗脳や記憶操作も可能なスタンド使いにもかかわらず承太郎が認めているということは悪人ではないだろう。最終的に露伴については後々、個別で呼び出して話をつけるという結論に落ち着いた。

 

「そういえばジョースターさんも夜の一族について最初から知っていたみたいだけど……」

「それはね……ジョースターさんは最初、私たちのことを石仮面で生まれた吸血鬼だと思って乗り込んできたのよ」

「あ、あのときは吸血鬼という情報しか分かっていなかったんじゃよ。実戦経験がある波紋戦士なんてほとんどおらんかったから、わしが出向くハメになったんじゃが……逆にそうなってよかった。

 波紋戦士は良くも悪くも純粋な面があるから、わしが来なかったら俊くんと春菜さんに危害を加える可能性もあったしのお」

 

 困った顔で昔話をする忍にジョセフが慌てた様子で弁明する。どうやら最初の出会いは穏便とは言えなかったようだ。

 月村俊は忍の父親で月村家の当主。月村春菜は忍の母親で綺堂(きどう)家という夜の一族の名家の養子だったそうだ。

 二人とも純血の夜の一族だが、それ以前に国内有数の大企業の社長でもある。危害を加えていたら色々と問題になっていただろう。

 本来なら娘の忍ではなく年長者の両親が『夜の一族』や『岩人間』について説明する予定だったが、ジョセフたちの帰国のタイミングと予定が噛み合わなかったようだ。

 

 日光や波紋を受けても平気ということで疑いはすぐに晴れたが、その後も一族の体質改善や共同研究のためSPW財団と協力関係を築いているらしい。

 夜の一族に属する全ての人々が賛同しているわけではなく、人間を見下していたり迫害された過去がある家の者からは反対意見も出ているとのことだ。

 夜の一族の中でも発言力の大きい月村家や綺堂家が連名で睨みを利かせているが強硬手段に出る家もあるようで、兄が忍のボディーガードをしている理由でもあるそうだ。

 

 おそらく忍が伝えたかった本題はこれなのだろう。兄が関わっている以上、何かあったら協力するつもりではある。しかし……周囲に流されて、どんどん深みにはまっているように思えてならない。

 承太郎と出会ってから運命が急に動き出したと思えるほど様々な情報が飛び込んでくる。……家族に相談して早めに体力をつけるためのトレーニングを始めないといけないな。

 

 

 

 わたしに対しての説明が終わったが、ジョセフと忍はSPW財団関係で話したいことが残っているようで、わたしはサッサと退出することにした。

 聞いていても問題ないと言われたが正直これ以上、余計なことを知って首を突っ込みたくない。わたしは植物のように平穏に……とまでは言わないが一般的な暮らしをしたいのだ。

 

 時間を潰すため客間まで案内してくれたメイド──ノエル・K・エーアリヒカイトに連れられて庭に出ると、大量の猫が放し飼いにされていた。

 わたしも人並みには動物好きである。時と場合によっては平然と殺せるだろうが……少なくとも動物を故意に傷つけるような趣味はない。そもそもイタリア人は動物好きな気質があり、ペットを飼っている比率は日本より多いだろう。

 例えばローマにあるアルジェンティーナ神殿跡はキャット・サンクチュアリ(猫の楽園)と言われるほど猫が多くいる。猫の保護区にもなっていてイタリア人の動物好きがよく分かる場所だ。

 

 月村家で飼われている猫は管理が行き届いているのか美しい毛並みをしている。近くにいる猫に狙いを定めて、そーっと近寄るが逃げもせずこちらを見ている。ずいぶんと人懐っこい猫だな。

 

「あの、どなたですか?」

「──ッ!?」

 

 もう少しで猫を抱きかかえられる寸前、背後から声をかけられた。突然のことで驚いたわたしにびっくりしたのか、妙におとなしかった猫は走り去ってしまった。

 振り返ると、そこには忍とよく似た紫色の髪のわたしと同い年ぐらいの少女が立っていた。見ず知らずの人物にどう声をかけようか迷っているのか、少女は子猫を腕に抱えたまま固まっている。

 

「わたしの名前は高町なのは。忍さんに呼ばれて来たんだけど……あなたは?」

「わたしはすずか……月村すずかです。お姉ちゃんのお客さん……もしかして高町恭也さんの妹さんですか?」

 

 わたしから名乗ると少女──すずかもすぐに口を開いた。兄の名前を知っていて、この口ぶりから判断するに忍の妹なのだろう。(うなず)き返すと、忍の知り合いと分かって少し安心したのか、すずかの表情が(やわ)らいだ。

 

「よかったら……この子を抱いてみる?」

「……いいの?」

 

 おずおずと手を伸ばして子猫を受け取る。猫を不安にさせないように脇と尻を支えて体で固定するように抱き上げると、すずかが微笑んだ。

 正しい抱き方を心がけても嫌がる場合があるのだが、この猫はすんなりとわたしに身を預けた。わたしが猫の扱い方を理解していると知ってか、段々とすずかの態度が軟化していくのがよく分かる。

 

 その後、ジョセフと忍の話し合いが終わるまで、わたしたちはポツリポツリと言葉を交わした。家族のことや趣味、好きなものについてという他愛のない内容だったが新鮮な気分だった。

 思えば同年代の子供と腰を据えてじっくり話すのは初めての経験かもしれない。すずかも幼稚園や保育園には通っていないようで、一族と関係ない同年代の相手と話すのは初めてだったらしい。

 いつの間にか、わたしたちは打ち解けていた。すずかは口数こそあまり多くないが非常に聡明な子供だったのもあって、自然に会話することができたのが大きいだろう。

 

 ジョセフと共に月村家を去るとき、寂しそうな表情をしているすずかに対して、つい「また来るね」と言ってしまったのは余計な一言だっただろうか。

 ……SPW財団関係の用事で、ここに来る機会もあるはずだ。そのついでに会うぐらい別に構わないだろう。だからジョセフ・ジョースター……わたしを生暖かい目で見るのはやめろ!




誤字脱字、表記のぶれ、おかしな日本語、展開の矛盾を指摘していただける国語の先生をお待ちしております。

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