夏が終わり秋も過ぎ、木枯らしが吹き付ける寒い冬がやってきた。案の定というべきか、その間に月村家関連でトラブルに見舞われた。
月村家に伝わるロストテクノロジーに関する情報を忍がSPW財団に提供しようとしていた動きに反発して、月村安次郎という夜の一族の男が襲撃してきたのだ。
危うく月村の屋敷が火事になりかけたが母を除いた家族総出で対応に向かい、なんとか大事にならずに済んだ。
安次郎も根っからの悪人というわけではなかったようで、殺すつもりはなく脅して考えを改めさせる予定だったと言っていたが、不法侵入や殺人未遂の容疑で警察に逮捕された。
かすり傷程度の怪我を何人か負ったが、ほとんど無傷で終わってよかった。今後はこのようなことが起きないように協議していくそうだが、まだ一波乱ありそうな気がしてならない。
それはさておき、わたしは東方仗助の家を訪ねていた。SPW財団の研究員からクレイジー・Dのスタンド能力について実験をしてほしいと承太郎経由で頼まれたのだ。
そのために必要な物品を渡すと連絡したら仗助も相談したいことがあると言い出したので、こうして顔を合わせることになった。
「……金儲けの手段を教えて欲しいだって?」
東方家のリビングに案内されたわたしは、椅子に座って温かい紅茶が淹れられたマグカップに口をつけながら仗助の言葉を繰り返す。
……この紅茶は淹れ方がなってないな。
イマイチな風味の紅茶に眉をしかめていると、わたしが機嫌を損ねたのかと勘違いしたのか慌てた仗助が口早に理由を説明しだした。
「ついこの前、億泰と一緒に中型バイクの免許を取ったんでバイクを買いたいんだけど、
右手の親指と人差指の先をくっつけて円を作りながら仗助がニヤリと笑う。おそらく『金』を表すハンドサインなのだろう。イタリアでは日本とは違い中指から小指までを折りたたむが、ほぼ同様のハンドサインが存在する。
日本の法律では中型二輪の免許は16歳になっていたら高校生でも取れるんだったか。虹村億泰の誕生日は10月だったから、それに合わせて仗助も取りに行ったのだろうが……億泰は以前から普通にバイクに乗っていなかったか?
アイツが乗っていたカワサキの『ZOPHAR』はギリギリ中型二輪免許で乗れる400ccのバイクだったはず。わたしも車を勝手に運転したので無免許運転をとやかく言ったりはしないが……ヤンチャは程々にしておくんだな。
仗助が見せてきたカタログをめくると今年出た新型『ZOPHAR』の定価は60万円ほど。この価格帯のバイクなら中古でも40から50万円ぐらいはするだろう。更に保険料や燃料代、メンテナンス費用も合わせると高校生が維持するには難しい値段になる。
「
「『ホーネット』も悪かねえけどよォ……10万ぐらいの差なら、おれは『ZOPHAR』を選ぶね」
10万ぐらいというが、それだけの金でも稼ぐのは簡単ではないぞ。なにせ暗殺チームの一回での報酬なんて頭数で割れば15万円以下だったからな。
金をやりすぎれば他のチームから文句が出るが、安すぎれば暗殺チームから不満が出る。舵取りに失敗して裏切られるという結果に終わったが、そもそも使い勝手が悪かったり忠誠心の薄いスタンド使いを固めた部署だったので裏切りは想定内だった。
ブチャラティチームに任せたので実際には動かさなかったが、連中を始末させるために用意していたのが親衛隊であり、他にもスタンド使いだけで構成されたチームは数多くある。
そもそも暗殺チーム自体がパッショーネ立ち上げ当初から残っていた遺物であり、人員を追加する予定もなかった。
「それで現状の予算はどれぐらい?」
「……20万っス」
10万円ぐらい足りないのなら、まっとうな手段で稼ぐ方法はいくつか思い浮かぶが想定の半分以下の金額だと……?
これを『ちょっと手が届かない』で済ませられる仗助の面の皮の厚さには呆れてものも言えない。このままでは『ZOPHAR』どころか『ホーネット』すら買えないじゃあないか。
「……ホンダの『スーパーカブ』っていいバイクだよね。なにせ世界で一番売れてるんだから」
「そ、そんなこと言わないでくれよォ。全力で協力するから、この20万を100万……せめて80万まで増やす方法を教えてくださいッ!」
予算内で買えるバイクで妥協させようとするが、当然のごとく仗助は食い下がってきた。両手を顔の前で合わせて頭を下げているが、そう簡単に金を増やせたら苦労しない。
絶対に儲かるという話が回ってきても信じてはならない。その手の話は十中八九、詐欺のたぐいだからだ。ちょっと考えてみれば分かるが、儲け話を簡単に他人に明かすわけがない。
「その20万を頭金にしてローンでも組めばいい」
「おふくろがぜってー認めてくれねーから困ってるんスよ。銀行に預けてある宝くじの金が自由に使えたら、こんなことで悩まずにすんだのによォ」
未成年がローンを組むには保証人が必要となる。仗助の場合は保証人になれそうな親族が母親しか居ないので、まずは親を説得するところから始めなければならない。
仗助の母親がバイクの購入を認める可能性があるなら、わたしに相談したりはしないだろう。仗助には家族を治してもらった恩があるから可能なかぎり協力するつもりだが……どうしたものか。
「なあ……なのはのスタンドは未来を予知できるんだよな。なら、競馬とか競輪で大穴を当ててボロ儲けできねーのか?」
「エピタフの未来予知は何分も先の未来までは見れない。カードゲームや結果を当てる賭け事なら無敵の能力だけど……日本にはカジノがないし非合法の賭場にわたしを連れて行ったら悪目立ちするでしょ」
訓練の成果か精神的な影響かは不明だが、この数ヶ月で予知と時飛ばしの最大時間が1秒伸びた。とはいえ最大で6秒の未来予知が日常生活で役に立つ機会はほとんど無い。
元から予知のタイミングは勘に頼っていた部分が大きいので戦闘では役に立つが、賭け事に応用するには難しい能力である。
オレは能力の検証でエピタフを使ってイカサマをしたことはあるが、あくまで実験であり資金源としたことはない。勝ち過ぎたらイカサマしていると疑われて、胴元の裏社会関係者が出てくるからだ。
仗助のように
「そんな場所知らねえし、もし知っててもなのはを連れてったってバレたら恭也センパイにゼッテー怒られるって。露伴のヤツが破産してなかったら、ミキタカにトランプにでも化けてもらって購入資金の足しにするのによォ」
岸辺露伴はついこの前、漫画の取材で山を6つも買った挙げ句、維持できないということで自己破産した。さすがに借金は残っていないが住む家がなくなったので康一の家で厄介になっている。
前々から変なやつだと思っていたが、取材で自己破産する漫画家なんて前代未聞だろう。本人は破産した際に売ってしまったコレクションを惜しんでいたが、自分の行動自体には一切後悔していなかった。
そして仗助の言っているミキタカ──わたしが遭遇した長髪の自称宇宙人だが、どうやら妙な変身能力を持っているらしい。スタンドが見えないのは確定しているが、自覚のないスタンド使いか夜の一族のような特殊な種族なのだろうか?
仗助は灰色に近い茶色の髪をした年若い双子の姉妹と一緒に歩いているのを見かけたことがあるようだが、基本は一人で行動しているらしい。ふらっと唐突に出くわすことが多く、どこに住んでいるかや連絡先は知らないようだ。
話を聞くかぎりだと相当に怪しいのだが、仗助たちに協力的で言動こそズレているが人格も問題はないと判断されている。岩人間の仲間ではなさそうだが何者なのだろうか。
「仗助のスタンド能力で廃品やジャンク品を直して、それをリサイクルショップに持ち込むのは?」
「できなくはねーけど、おれらは車の免許持ってないから小物しか運べないぜ。それに高校生が何度も売りに行ったら万引きしてきてると思われるかもしれねーし、やる気になれねえんだよなァ」
仗助の言うとおり、まず間違いなく店側から怪しまれるだろう。誤魔化すために複数の店舗を利用するにも肝心の移動手段が乏しい。
こんな髪型をしているが仗助は単細胞な不良ではない。考えられる範囲で可能な手段は模索した上で、わたしに相談しているということか。
「もう大人しくバイトして地道に貯金しようよ。億泰だって、うちでバイトしてるんだしさ」
「……あ? いま、なんつった?」
「億泰が翠屋でバイトしてるって言ったんだけど……もしかして知らなかったの?」
仗助は口をポカンと開けて呆然としている。億泰のやつ、さては恥ずかしいと思って黙っていたな。
「あいつが翠屋でバイトォ……? あいつの顔と髪型じゃあ、あの店の雰囲気ぶち壊しで仕事にならねえだろ」
「ホールじゃなくてキッチンや雑用担当だね。自炊してたみたいだから意外と手際がいいし、すぐに店員のみんなと打ち解けたよ」
元々、億泰はうちの店の常連だったので店員のみんなと顔見知りだったというのも大きいだろう。億泰は髪型や顔からは明らかに不良という雰囲気が漂っていて頭が弱いように見えるが、人懐っこい性格をしていて仕事も教えればちゃんと理解する。
本人は自分のことを不良だと思っているようだが、見た目が不良っぽいだけで内面はそこらの高校生と大差ない。学校をサボったりタバコを吸ったり酒を飲んだりもしない。さすがに無免許運転は擁護できないが、免許をとったし真剣に仕事をしているので父と母も問題なしと判断した。
「億泰のやつ、なんで翠屋をバイト先に選んだんだ?」
「ずっと自炊してたから飲食関係に興味があるんだってさ。あとは何かあったときのために、親の遺産をなるべく残しておきたいってのもあるらしいよ」
億泰は金銭感覚に関しては仗助より遥かにシッカリしている。大学に進学したとしても当面は持つだけの貯金があるのに、真面目にバイトをするぐらいには将来を見据えているのだ。
学力には不安が残るが……そこは周囲の友人に助けてもらうしかないだろう。アホだが物覚えが悪いというわけではないので、真剣に勉学に取り組んだら進学ぐらいはできるはずだ。
「短期のバイトなら、おれもそれなりにやってるけど欲しいものが色々あって金が貯まらないんスよね。都合よく金が湧いてくるようなスタンドがあればいいのによォ~~~」
「……お金が増えるスタンド、か。聞いたことはあるよ」
「マジかよ!?」
お茶請けのごま蜜団子を奥歯で噛み締めながらボヤいていた仗助が、わたしの言葉に反応して机に両手を突けながら勢いよく立ち上がった。
オレの知識を参考にSPW財団が情報を集めたところ、この世界にも同一のスタンドが存在すると判明したのだ。
「そのスタンドの名は『ミラグロマン』……一人歩きしているスタンドで一体化した紙幣を手に入れたら所持金が無限に増えていく能力がある」
「それさえあれば誰でも億万長者になれるってことっスか!」
「
詳しい能力を仗助に説明する。ミラグロマンは印刷されている記番号の下二桁が『13』になっている紙幣に宿る『呪い』のようなスタンドだ。
かつて武器を売って荒稼ぎしていた人物が高額の賠償金を払えずに自殺した際に発生したスタンドということになっているが、それより前から存在したとも言われている。
能力は先の説明通り一度手にして使ってしまったら、元の持ち主に金を返却するか誰かにミラグロマンが宿った紙幣を破壊させないと無限に金が増えていくというものだ。
金が増えるのならいいだろうと思うだろうが、そううまい話ではない。金銭を支払って買い物をすると、どんどん金が増えていき使う速度よりも早く増える紙幣の処理に追われることになる。
呪いの効果には不確かな部分も多く、イタリアでもミラグロマンは関わってはいけない社会の闇として扱われていた。
「そんな危険なシロモノ誰が使うかッ!」
「じゃあ露伴から聞いた話だけど、特定のキーワードを領収書に書いて支払いを踏み倒すって手段もあるよ」
「……そのキーワードとやらを言わねえってことは、それもとんでもないデメリットがあるんだろ?」
「対価として1円につき1日、肉体の時間を奪われるんだってさ」
仗助が実際に試すとは思えないが万が一があってはいけないので、特定のキーワード──『オカミサマ』については黙っておく。
ヘブンズ・ドアーを使って他人を操作すれば無理やり帳消しにできるだろうが、仗助を嫌っている露伴が協力するとは思えない。それに二人ともスタンドの悪用を進んで
オカミサマはミラグロマンとは違ってスタンドではなく純粋な超常現象だ。露伴の体験談によれば6本足のコガネムシのような体格の赤子が無数に現れて時間を奪いに来るらしい。
わたし自身が悪魔や亡霊のようなものだし、幽霊を見たこともある。兄と同じ学校に霊媒師が通っているのも知っているので、オカルトは信じるタイプだ。それにしても露伴は超常現象と遭遇しすぎである。
ミラグロマンとオカミサマがぶつかったらどっちの能力が上か少しだけ気になるが、実験してみる気にはならないな。
「も、もっとこう安全な方法が知りたいんスけど……」
「世の中そんなに甘くない。対価もなしに無条件で金が手に入るなんてオイシイ話、転がっているわけがない」
わたしの無情な回答に仗助はガックリと肩を落とす。結局、金を稼ぐには知識か人脈か権力、もしくはそれらを超越した特殊技能が必要になるのである。
普通の高校生の仗助とは違い、わたしには
「そろそろ本題に移ろうか。SPW財団の仕事を持ってきたよ」
「なんスかこれ?」
「ダイヤモンドパウダーだよ。主に研磨剤として使われてる……って言ってもピンとこないか」
わたしがカバンから取り出した白い円柱状の容器の蓋を開けて仗助が中を覗き込む。中にはきめ細かい粒状の白い物体が詰まっていた。
この容器には10グラムの人工ダイヤモンドの粉末が入っている。多結晶ダイヤモンドと比べると単結晶ダイヤモンドの粉末は安価だが、
「……なるほど、これをクレイジー・Dでダイヤの塊に『直せば』いいんスねェ~~~」
「あ、ちょっと待って。一気に全部は直さないで、この匙一杯分だけにしてね」
仗助は実感がわかないだろうが10グラムのダイヤはカラット数で表すと50カラットになる。研究用なので市場には流さないだろうが、もし成功して数十億円もの価値があるダイヤを作られても困るだろう。
それに実験は複数回に分けて実行する予定である。ダイヤモンドパウダーは金の10分の1程度の値段なので惜しくはないが、使い切られたら再入手する手間がかかる。
匙に乗せた2グラムのダイヤモンドパウダーをクレイジー・Dの手のひらに乗せる。仗助が能力を発動させると、あっという間にカットされたダイヤになった。
しかし、これは……ダメだな。宝石として最低限の価値はあるだろうが、鑑定書がないのでキュービック・ジルコニア扱いされて買い叩かれそうな見た目だ。
「うーん……屈折率はダイヤと同じだけどカットが微妙。これじゃあ、ただの
「んなこと言われても本物のダイヤなんて見たことねえしなあ」
線の引いた紙の上に乗せれば素人でも屈折率ぐらいは確認できる。一部の模造品は屈折率も近いので厳密には当てにできない見分け方だが参考にはなる。重さと透明度と色は申し分ないだけに、おもちゃのようなカットなのが残念だ。
半々の確率でこうなるだろうとは予想されていた。仗助のクレイジー・Dで純粋に『なおす』だけなら関係ないが、再構築する場合は本体の想像力に影響されると推測されていたからだ。仗助の言い分も分かるので、忍経由で預かっていたものを見せるか。
「そう言うと思って見本を用意しておいたよ。これ一つで500万円はするから丁寧に扱ってね」
「ごっ!? ごひゃくまんだとォ────ッ!?」
用意したダイヤの重さは10カラットだが、4C*1基準で最高のグレードの物である。鑑定書付きの本物をジョースター家の私物から引っ張り出してきたらしい。
相場によって変動するが、このクラスのダイヤは本当は五千万円近い値がつけられるはずだ。本当のことを教えて落っことされても困るので、わざと低めの金額を告げたのだが……これでも高すぎたか。
ケースに入ったダイヤをキング・クリムゾンを使って取り出す。素手で触ると手の脂や汗が付着するが、スタンドならそんな心配は無用だ。そのままクレイジー・Dに手渡すと、仗助は冷や汗を垂らしながら引きつった顔で受け取った。
「そんなにビビらなくてもいいのに。もし落として傷をつけてもジョースターさんの私物だから、仗助が受け取れる遺産から差し引かれるだけだし」
「余計に雑に扱えなくなったじゃあねーかッ! 平然とカバンからコレを取り出して手渡せるおめーの金銭感覚はどうなってんだよ!」
高額な取引に慣れているだけで、わたしの金銭感覚は普通だと思うのだが……いや、子供としては普通ではないか。
SPW財団からの報酬として振り込まれている金を使って週に1回はトニオの店で昼食を食べてるし、図書館には置いていない英語やイタリア語で書かれた参考書も買い揃えている。
それでも使う金額は月に数万円程度だが、この歳の子供としては普通ではないだろう。しかし、これでも仗助よりは無駄遣いしていないはずだ。
「ちょっとした興味心なんだけどよォ……ギャングのボスってのをやってたら、こういうのも普通に取り扱ったりするのか?」
「貴金属や宝石でのやり取りもそれなりにあるかな。現金化に時間がかかるけど、
隠し財産として現金をこの手の価値が変動しにくい物に換えて隠す連中も多い。ポルポも遺産の一部を
ポルポは最古参の幹部だったので金を貯め込んでいる。ヤツにとって100億リラは端金だっただろうが、幹部にのし上がる上納金としては妥当な額である。
「……仗助はギャングになりたいの?」
「誰がなるかよ、そんなもん。それだったら、おれはじいちゃんみたいな警察官になるぜ」
仗助はクレイジー・Dの指先で摘んだダイヤを角度を変えながら観察しつつ、そっけなく答えた。分かりきっていたが、日本で平和に暮らしている高校生がギャングなんかになりたがるわけがない。
「そうだな、それがいい。好き好んで裏社会に関わる必要なんてない。まっとうに生きるのが一番だ」
「なに
仗助が手渡してきたダイヤは、わたしが先程手渡した見本のダイヤと瓜二つのカットがなされている。やはり仗助のスタンド能力は本体の想像力に作用されているという仮説は正しかった。
次は宝石の純度を高められるかどうかの実験だ。カバンから不純物の多いルビーなどの宝石を取り出す。それらを仗助に手渡して指示を出しながら、わたしは先程の言葉を頭の中で
裏社会に関わらないのは当たり前のこと。一般人からしてみれば、それが普通なのだろう。ならパッショーネの今後を
命令されたから仕方がなく、というわけではない。承太郎やジョセフはイタリアまで付いて来いとは言わなかった。彼らと色々と話して、わたしがまだジョルノに対してトラウマを抱えたままだと知ったからだ。
なぜ、わたしは時間を割いてまで戦う準備を進めているのか。イタリアはかつての祖国だが、今の故郷は日本の杜王町だ。かつてパッショーネを立ち上げた当時、オレはどんな思いを抱いていたのだろう。
宝石をスタンド能力で組み立て直している仗助を眺めながら、わたしは遠い過去の記憶を思い返す。しかし、どれだけ記憶を掘り起こしても心の中に宿っていたはずの
「助かったぜ。ありがとな、なのは」
「わたしはアドバイスをしただけで何もしてないけどね」
結局、わたしが儲け話を斡旋しなくてもバイクの購入資金は手に入ったので、仗助にグレードを落とした1カラットのダイヤを何個か作らせて月村家を通して売却するという計画は構想だけで終わった。
後日、本命である
一括で貰うと母親に貯金されてしまうと危惧してのことだったが、日本は年収が一定額を超えると税金が余計にかかるのでそれを避けるためでもある。
いくら貰ったのかは聞いていないが、どうせバイクなんて大きい買い物をしたらすぐに母親にバレるだろう。仗助は地頭がいいはずなのに妙なところで抜けている。
浮かれている仗助に軽く手を振って帰路につく。桜色のマフラーを首に巻き白い息を吐きながら歩いていると、曇り空の隙間から雪がちらつき始めた。
足を止め、空を見上げる。今年は記憶通りに物事が起こるか確認するため動けなかったが、来年からは未熟な過去を乗り越えるため本格的に動くことになる。
幸運にも仗助から許しを得て、
運命を変えるためのパーツは杜王町に揃っている。あとは、わたしがうまくコントロールすればいい。決意を胸に、わたしは歩みを進めるのだった。
誤字脱字、表記のぶれ、おかしな日本語、展開の矛盾を指摘していただける国語の先生をお待ちしております。