不屈の悪魔   作:車道

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ボスよりの最終通告

 北イタリアでもっとも大きな都市──経済の中心地として有名なミラノのビジネス街に情報分析チームの本部は存在する。

 本部の入っているビルは、表向きには多方面で手広く活躍している総合情報技術(IT)企業の本社として知られていた。

 

 上層階にはイタリア中に散らばっている情報分析チームのメンバーや、支部から送られてくる情報を統括する情報管理部門が入っている。

 最終的な判断はディアボロが行うので厳密には違うが、この場所はパッショーネの頭脳と言っても過言ではない。

 

 その実態を知る者は少ない。下層階では、実際にパッショーネとは無関係の何も知らない職員が通常の業務を行っている。

 しかし一般の職員は決して上層階に立ち入ることはできない。

 

 下手に探ろうとする者の末路は2つに1つだ。情報分析チームの仲間になるか、物理的に首を切られるか。

 この会社の存在意義は表社会で自由に使える金を稼ぐためだが、同時にもうひとつ目的がある。

 

 ネアポリスは兵士となるスタンド使いを集めるための場所だった。

 それと同じでミラノはこれからの時代、絶対に必要になるIT技術者(エンジニア)の諜報員を集める場所なのだ。

 

 

 

 ブチャラティたちがポルナレフから情報をもらって1時間と少し経った頃、情報分析チームの本部の最上階にある一室で、ボルサリーノ帽と仕立ての良い漆黒のスーツを着込んだ1930年代のギャングのような服装の男が一心不乱にパソコンを操作していた。

 

 一見すると古めかしい家具で統一された部屋は、来訪者を古いギャング映画の世界に迷い込んだかのような感覚に陥らせる。

 だがモニターアームによって空中に固定された6枚の液晶ディスプレイや業務用の巨大なコピー機などが部屋の調和を崩していた。

 

 ボルサリーノ帽を被った三白眼の男──カンノーロ・ムーロロは椅子に座らず立ったまま、卓上に設置されたマイクに向かって命令を下していた。

 複数のモニターで流れている情報の数々を流し見ながら、ムーロロは焦燥に駆られた表情を浮かべている。

 

『だ、ダメです! 警備を突破されました!』

「どうにかしてオレがデータを移し終えるまで足止めしろ! 敵は()()()()()なんだ。銃や爆弾を使ってでも時間を稼げッ!」

 

 情けない声で助けを求める部下に、ムーロロは普段の小物のような演技をかなぐり捨てて指図する。

 負傷しているのか黒いスーツと灰色のシャツは、体からにじみ出た赤い血で汚れている。

 

 情報分析チームの構造は他のチームとは異なり、常に同じチームで活動するような仕組みにはなっていない。

 チーム内の人員は、それぞれの専門分野別に更に細分化されている。

 

 任務に応じて、情報分析チームの全体の動きを取りまとめている幹部が専門のチームを組ませる。

 諜報には専門性の高い技術が要求されるため、得意不得意を見極め個性を活かすためにディアボロが一から構築した仕組みだった。

 

「まさか、ボスがブチャラティたちやリゾットではなく、オレにスタンド使いを差し向けるとは……しかも、()()()()()()()()()()()使()()だとッ!? 計算違いにも程があるぞ!」

 

 最先端のセキュリティが施されている社内のネットワーク経由で表示されるはずの監視カメラの映像が届かないことに、ムーロロは自分が追い詰められているのではないかと思い始めていた。

 

 パッショーネに所属しているスタンド使いの能力を密かに調べるのがムーロロに割り当ててられている仕事だ。

 ボスには伝えず秘匿している情報も含めると、彼はパッショーネで一番スタンド使いに関する情報を抱えている。

 リゾットやカルネのスタンド能力をも把握している自分すら知らないスタンド使いが現れたことに、ムーロロは驚き戸惑っていた。

 

 ムーロロはボスと暗殺チームを争わせて、自分の都合のいいほうに味方するつもりだった。

 彼は勝ち残ったほうに恩を売るためだけに、自らの手で内部抗争を引き起こしたのだ。

 

 パッショーネという組織そのものに不満はなかったが、彼は一向に幹部へと昇格できないことにストレスを感じていた。

 誰かのために神経をすり減らして仕事をするなんて馬鹿馬鹿しいという、たったそれだけの理由で彼は組織に混乱をもたらした。

 

 ムーロロが組織のために働いて、見返りに金を積んでも幹部になれなかった理由──それは誰も信じていなかったからだ。

 誰も信じない者は誰からも信じられない。どれほど優れた能力の持ち主だったとしても、信頼に値しない人間は便利な道具扱いしかされない。

 

 ボスであるディアボロは他人の仕事ぶりを評価こそするが、信頼するような性格はしていない。

 だが組織を運営している幹部たちの心情は別だ。信頼の形は人それぞれだが、幹部になるには他の幹部に信頼され許可を貰わなくてはならない。

 

 ブチャラティが北部と比べて経済規模では劣るとはいえ、イタリアで三番目に大きな都市であるネアポリス(ナポリ)の縄張りを100億リラ(6億円)程度の金で譲り受け幹部になれたのは、ペリーコロを含めた幹部たちに普段の働きを認められていたからだ。

 

 仮にサーレーとマリオ・ズッケェロがポルポの遺産を確保して上納したとしても、信頼も何もない下っ端の戦闘員でしかない彼らでは門前払いされていただろう。

 それと同じで、ムーロロのような信頼できない男を上の立場にしようとする幹部など誰一人としていないのだ。

 

(落ち着け……まだウォッチタワーは半分以上残っている。オレの能力なら、この場を切り抜けられるはずだ)

 

 ムーロロは迎撃のためにウォッチタワーを20体ほど侵入者に差し向けていた。

 だがディアボロが送り込んだ刺客は、彼が思っていた以上に手ごわかった。

 

 ウォッチタワーは群体型のスタンドだが、一組のトランプと同化して実体化する物質同化型の特性も併せ持つ。

 非スタンド使いにも見えてしまうというデメリットがあるが、その代わりにイタリア全土をカバーできる非常に長い射程距離と、1体だけでも成人男性を殺せるだけのパワーとスピードを両立している強力なスタンドだ。

 それに加えて、誰にも明かしていない能力も隠し持っている。

 

 取り囲めば、どれだけ優秀なスタンド使いでも対処は難しいだろうとムーロロは慢心していた。

 ウォッチタワーは暗殺向きの能力だが直接戦闘もこなせる。

 しかし、どんな相手にも有利に戦えるわけではない。

 

 相性を考えずに排除しようと動いた結果、ムーロロは20体のウォッチタワーを失ってダメージのフィードバックで負傷してしまった。

 他の組織の襲撃を防ぐために待機していた戦闘向きのスタンド使いは、幹部から言い含められているのか手を出す気配がない。

 

 そんな状況でムーロロの言うことを聞くのは、弱みを握っている非スタンド使いの人間ばかりだ。

 非スタンド使いなど足止めにしか役に立たない。

 スリルを求めて罪の意識もなく組織の命令に背いていたが、生まれて初めての命の危機にムーロロは恐怖を感じていた。

 

 ボスと暗殺チームの抗争にブチャラティチームが参戦したが、組織内の第三者が乱入することはムーロロも予想して行動していた。

 だが承太郎となのはがブチャラティチームに加わったことで雲行きが怪しくなった。

 このまま承太郎たちがボスやリゾットに勝ってしまった場合、SPW財団の手でパッショーネが解体される恐れがある。

 

 ムーロロは様々な情報を操作して、他人の行動を自分の意のままにコントロールできる現在の立場を気に入っていた。

 ボスが誰になろうが自分の立場を脅かさないのなら関係ない。

 だがパッショーネそのものが無くなってしまっては元も子もない。

 

 そこでムーロロは、サルディニア島へブチャラティたちが向かった情報を()()()()()()()()()()()()()()

 ボスには承太郎となのはの能力を、リゾットにはそれに付け加えてディアボロの能力も伝えることで、一番の邪魔者である承太郎となのはを排除させる腹づもりだったのだ。

 

 ムーロロの予想では、ディアボロがブチャラティチームを襲撃している最中に、リゾットが全員をスタンド能力で巻き込んで始末すると思っていた。

 しかし実際にはディアボロとリゾットはムーロロの情報を怪しんで独自の考えで行動した。

 

 ブチャラティチームはともかく、SPW財団の存在は盤上にはなかった。

 彼は今まで上手く立ち回っていたが、当初のプランを急遽変更したことで計画に歪みが生じてしまったのだ。

 

(『亀』に潜ませていたウォッチタワーも、あのガキに見つかって破壊された。

 どうする……どこかの犯罪組織かSPW財団にパッショーネの情報を持ち込んで身売りするしかないか?)

 

 ムーロロは自分の能力は無敵だと思っている。どんな相手でも、その気になれば殺せると信じていた。

 そんなトランプのように薄っぺらい自尊心が、今まさに引き裂かれようとしている。

 

 彼は『亀』の中にウォッチタワーを1体だけ隠していた。

 ジョーカーのカードを通して、潜ませていたウォッチタワーで会話を盗み聞きしていたのだ。

 それが承太郎やなのは、ディアボロのスタンド能力をムーロロが知っていた理由である。

 

 盗聴器のたぐいと違って、スタンドであるウォッチタワーは電波などは発しない。

 バレるはずはないと思っていたが、目を覚ましたなのはによって即座に排除された。

 もっともムーロロは重要な情報は手に入ったので、問題ないと割り切っている。

 

 パッショーネに見切りをつけて、SPW財団や他の国の犯罪組織に移籍するのなら手土産(情報)が必要になる。

 そこで彼は外部と切り離された記録装置に保存されている機密情報を記録媒体(HDD)に保存して持ち出そうとしていた。

 

 麻薬の販売ルートや仕入元、スタンド麻薬を生産している麻薬チームのメンバー情報。

 その他にも様々なパッショーネの資金源となっている仕事に関する情報を抜き出しているのだ。

 

 ガリガリと音を立ててHDDが唸りを上げる。画面上の数字は95%を超えていた。

 あと少しでデータを移し終えられる。そのとき部屋のドアを何者かが乱暴にノックした。

 

「小刻みに音を立てられたらムカつくからノックはするなと言ったのを忘れたのかッ!」

「ム、ムーロロさんッ! 助けてください! 化け物が……ギャアアアァ────ッ!?」

 

 苛立ちを押さえきれずにいるムーロロに助けを求めていた部下の断末魔が扉越しに響き渡る。

 不気味な音が聞こえた後に扉の下から赤黒い血液が染み出してきた。

 ムーロロは咄嗟に残ったウォッチタワーの内、10体ほどを天井に張り付かせて待機させた。

 

 ボルサリーノ帽を深く被りムーロロが扉を注視していると、扉の隙間からスタンドをねじ込まれて無理やり扉がこじ開けられた。

 ゆっくりと開く扉の影から侵入者が姿を見せる。

 

「確認するまでもねーが、おまえがカンノーロ・ムーロロだな。

 てめーがコソコソと隠れているせいで、探すのに余計な手間がかかったじゃねえか。このタコッ!」

「……おまえ、()()()()()()()()()。親衛隊には、おまえのような男はいなかった。ボスが金で雇った暗殺者といったところか?」

 

 チンピラのような口調で立ちふさがっている男をムーロロは知らなかった。

 この土壇場でボスが情報にない新入りを送り込んでくるはずがない。

 そう考えたムーロロは目の前の黒髪の男が外部の人間だと見抜いていた。

 

 ムーロロの予想を聞いた黒髪の男は下唇に人差し指の側面を当てながら、得意げな顔で自分が雇われた経緯を語りだした。

 

「おれの雇い主は太っ腹だぜェ! ()()()()()()()邪魔な連中を始末すれば、最高で1億ドル(120億円)の報酬を出すと言ってるんだからなァ!」

「おい、そいつは殺さずに情報を聞き出せってのが雇い主の意向だろうが。

 こっちも危ねえ橋を渡ってるんだ。おめーが先走って報酬がパーになるのは困るぜ」

 

 ムーロロからは見えない通路側の死角に隠れていた帽子を被った男が顔だけ覗かせながら、スタンドを使って攻撃しようとしていた黒髪の男に制止の声をかけた。

 帽子の男の言葉に水を差された黒髪の男は、つまらなさそうな表情をしている。

 

 部屋の入口付近から動こうとしない二人に怪しまれないようにムーロロはチラリと視線を動かす。

 データの保存はもう少しで終わる。このデータさえあれば、無理に戦わずとも逃げれば未来はある。ムーロロは時間を稼ぐために口を開いた。

 

「ボスの欲しがっている情報を渡せば……オレを見逃してくれるのか?」

「さてな、そこまではおれも知らねえよ。そもそも、()()()()()はてめーみたいな小物じゃあなかったからな。おれらのターゲットは──」

「だからよォ────ッ! おめーは自分が有利になったらペラペラと余計な情報を口に出す悪癖をどうにかしろっての!」

 

 余計なことまで言いそうになった黒髪の男を帽子の男がたしなめた。

 こんなマヌケな奴に負けそうになっているのかとムーロロは眉をひそめる。

 

 当たり前の話だが、スタンド能力と本体の知性は比例するものではない。

 承太郎のようにスタンドと知性が共に優れている例もあるが少数派である。

 使い所の難しい能力を戦術と頭を使ってカバーする者もいれば、単純な力押ししかできない者もいる。

 

 黒髪の男はそれなりの年月を裏社会の人間として生きてきたので己の立場を(わきま)えてはいるが、あまり頭が回るほうではない。

 コンビを組むたびに、帽子の男は精神的に成長しない黒髪の男に頭を悩ませている。

 これでいて純粋な前衛として考えるなら、裏社会でもトップクラスのスタンド能力の持ち主という矛盾した存在だった。

 

「もういい、おめーに任せたおれが間違いだった。続きはおれが話す。

 雇い主が求めているのはブローノ・ブチャラティたちが、どこに向かっているのかについてだ。

()()()()のスタンドなら把握しているんじゃあないか?」

「……ローマのコロッセオだ。そこでジャン=ピエール・ポルナレフという男が『矢』をブチャラティチームに渡すために待っている。

 そのときの会話をスタンド越しに録音した音声データも残している。信憑性は高いはずだ」

 

 ポルナレフの名を聞いた二人は僅かに眉を動かして何かを思い返していた。

 その一瞬のスキを突いてムーロロは動き出した。机の上に置いていた記録媒体を手に取りながら、天井に待機させていたウォッチタワーを黒髪の男ではなく帽子の男に向かわせた。

 

 黒髪の男はスタンド能力の相性が悪すぎて勝負にならない。ならば防御手段のない帽子の男を先に仕留めるしかない。

 しかしウォッチタワーは帽子の男に近寄る前に黒髪の男のスタンドに()()()()()()全滅してしまった。

 

「中々に速いが……しかしィ────ッ! この()に及んで、おれのスタンドを無視して攻撃するとは学習能力がねえのかァ? このマヌケがァ────ッ!」

「いいや、これでいい……逃げるなら、これで十分だッ!」

 

 そう言い残したムーロロは、足元に残していた20体ほどのウォッチタワーを使って窓を開けさせて、ダメージのフィードバックで血を滴らせながら飛び降りた。

 

 咄嗟に帽子の男がスタンドで攻撃してムーロロが手に持っていた記憶媒体を破壊することは成功したものの、追い打ちまではできなかった。

 ムーロロがどうなったのか確認するために、彼らは窓から身を乗り出して下の様子を確認している。

 

「おいおい、このビルは10階建てだぜ。30メートルの高さから飛び降りて助かるわけがねえ。ヤケになって自殺したのか?」

「いや、見てみろ。うまいことスタンドを使って自分の体を受け止めさせたようだ。そのまま車を盗んで逃亡したようだな」

 

 ムーロロはウォッチタワーを地面まで移動させてクッション代わりにすることで、無理やり衝撃を逃して命をつなぐことに成功していた。

 代償として両足と肩の骨が折れて腕も満足に動かせない重傷を負ったが、ウォッチタワーに自分の体を運ばせて車まで移動した。

 

 二人は顔を見合わせてどうするか考えたが、現場では判断できずにムーロロに従わなかったディアボロの息がかかった組織の人間に指示を仰ぐことにした。

 電話で呼び出すと、すぐに下階で待機していた組織の人間が部屋に入ってきた。

 

「手始めにしては悪くない仕事だった。ムーロロを取り逃がしたのは痛いが、あの怪我ではイタリアから脱出するのは難しいだろう。

 ぼくはこれから情報の精査に入る。二人は下の階で待機していてくれ」

 

 セーターを着ているピンク色の髪の気の弱そうな少年──ヴィネガー・ドッピオが二回り以上年上の男たちに命令する。

 一見するとギャングとは思えない様相をしているが、男たちの言う依頼人は彼のことだ。

 

 二人が退出して下の階まで降りていくのを確認したドッピオは、部屋の扉を閉めてパソコンの前に立った。

 そしてマウスを手にして操作しようとしたそのとき、ドッピオは人が変わったかのように感情のない表情で奇妙な声を出し始めた。

 

「とおるるるるるるるるるる。とお~~~~るるるるるるるるるる! ガチャリ! ピー! 

 はい、ボス! 命令通り、ムーロロのオフィスまで着きました。

 え……? 今からボスがここに来るんですか!? はい、わかりました」

 

 机に置かれた固定電話──ではなく右手で触れていたマウスをそのまま耳に当てて、ドッピオは一人芝居のように会話をしている。

 それだけなら頭のおかしい人間にしか見えないが、すぐさま彼の体に異変が起きだした。

 

 まずはじめに瞳の色が変わり、次に体と顔の作りが変わっていく。

 数秒後、そこには少年とは言えない年齢と体格の男──ディアボロが立っていた。

 ディアボロは忌々しいものを見たかのように険しい表情を浮かべながら、保存されていた音声データを聞いている。

 

「そうか……ジャン=ピエール・ポルナレフ。ヤツが生きていたのか。

 もはや再起不能になっているポルナレフは脅威でもなんでもないが……『矢』の真の使い方とやらは気になるな。

 もしかすると、オレを『絶頂』から突き落とす『落とし穴』になるかもしれない」

 

 ディアボロは自分のスタンド能力を知っているムーロロを始末するつもりだが、優先するべきはブチャラティチームと協力者を殺すことだ。

 ミラノからローマまでは直線距離で500キロメートルほどある。

 

 親衛隊はサルディニア島から近い位置に待機させているため、ローマに向かわせるのは手間ではない。

 むしろディアボロたちのほうが急いで移動しなければ、ローマに着く前にブチャラティたちがポルナレフと合流してしまう恐れがある。

 

 ムーロロを追跡していてはブチャラティたちが『矢』を手に入れてしまうかもしれない。

 正体を隠したがるディアボロとしては苦渋の決断だったが、ムーロロの始末は後回しにすることにした。

 

 手早くディアボロは待機させていた親衛隊のメンバーに指令を出す。

 コントロールできなくなる可能性が高いのでカルネは向かわせないが、手を借りたくなかったゲスたちにもディアボロは指令を出した。

 

 メールを送り終えたディアボロは、雇った暗殺者を引き連れて急いでローマに向かえと書き置きを残してドッピオに体の主導権を渡した。

 頭痛で頭を押さえながらもディアボロの書き置きを見つけたドッピオは、足早に暗殺者と合流して空港へと移動したのだった。

 

 

 

 ミラノ郊外にある隠れ家でムーロロは明かりも付けずに誰かと連絡を取っていた。

 ムーロロは優れた人間だが一人でできることは限られている。

 ボスの秘密を知ってしまい裏切り者扱いされているムーロロに付き従う者などいない。

 

 こんな状況で連絡を取れる相手など、元からボスに忠誠を誓っておらず本気を出せば勝てると思っているムーロロの同類ぐらいだろう。

 頼みの綱だったパッショーネの極秘情報も破壊されてしまったムーロロに残された手札はごく僅かだ。

 

 ディアボロが勝てば始末され、ブチャラティたちが勝っても暗躍していたことはバレている。

 どっちに転んでもダメなのなら前提を崩すしか無い。

 善と悪の区別もできていないムーロロは、決して渡してはならない相手に最悪の道具を与えてしまった。




誤字脱字、表記のぶれ、おかしな日本語、展開の矛盾を指摘していただける国語の先生をお待ちしております。

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