不屈の悪魔   作:車道

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裏切り者のレクイエム その⑤

「生き残るのは、この世の『真実』だけだ。真実から出た『誠の行動』は、決して滅びはしない。おまえの行動が真実から出たものなのか……それともうわっ面だけの邪悪から出たものなのか? それはこれからわかる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()? ()()……」

「いい気になって知った風な口をきいてんじゃあないぞッ! ジョルノ・ジョバァーナ、おまえには死んだことを後悔する時間をも……与えんッ! キング・クリムゾン!」

 

 スタンドに『矢』を突き立てたことでゴールド(G)エクスペリエンス(E)レクイエム(R)を発現したジョルノは、攻撃するべくスタンドを携えてディアボロに近づいた。

 ディアボロはジョルノを迎え撃つべくキング・クリムゾンの能力を発動させた。なぜか近づいてこない承太郎となのはの考えを読めなかったディアボロは、逃亡せずにジョルノから『矢』を奪取しようとしている。

 

「レクイエムとやらが、ヤツにどんな力をもたらしたのかは分からんが……我がキング・クリムゾンの能力は無敵だ。何をしようとしているのか、完全に予測できるぞッ! やはりッ! 真実の頂点は、この我が能力にあるッ!」

 

 ジョルノとGERの動きの軌跡を読んで回り込みながら、ディアボロは太ももから滴り落ちる血液を利用してジョルノに血の水圧カッターを食らわせた。今までのディアボロは時を飛ばしている間に攻撃する手段を持ち合わせていなかったが、なのはが行った攻撃を再現したのだ。

 血の水圧カッターで切り裂かれたジョルノの首から血液が噴水のように吹き出す。更にダメ押しとばかりに血の目潰しを食らわせたディアボロは自身の勝利を信じて疑わなかった。その証拠にエピタフには胸をキング・クリムゾンの拳で貫かれているジョルノの姿が映っている。

 

「未来は我がキング・クリムゾンの動きを選んでくれたッ! 終わったァァァ────ッ!」

「終わったのは、キサマのほうだ。わたしが最初に言っていたことを忘れたのか? こうなった以上、残された道はひとつしかないというのに……」

 

 少し離れた位置からディアボロの行動を眺めていたなのはが、軽蔑(けいべつ)と同情の感情が籠もった言葉をディアボロに送る。過去の自分(ディアボロ)の行いが間違っていたことを自覚しているなのははディアボロを嫌っている。

 しかし、これから彼の身に降りかかる現象を身をもって経験したことがあるため、終わりのない地獄に落とされるであろうディアボロの行く末に、ほんの少しだけ同情もしていた。

 なのはの話に耳を貸すことなくディアボロはキング・クリムゾンの拳を振りかぶる。だが、拳がジョルノの腹部を貫く寸前で、異常を察知したディアボロは動きを止めることとなる。

 

「なっ……なんだッ!? まさか、これは……消し飛ばした時間が『逆行』しているのかッ!」

 

 目潰しのためにジョルノに当てた血が剥がれ落ち、太ももの傷口から流れ出ている血液が戻っていった。続いて止めどなくジョルノの首から吹き出している血が吸い込まれていき、パックリと開いた傷口が何事もなかったかのように閉じていく。

 木から落ちた葉が枝に戻り、カラスが前後逆に進んでいく様子を見たディアボロは、理屈は分からないがジョルノのGERが時間を戻しているのだと理解した。だが、エピタフの予知には変わらずにジョルノの死が映し出されている。

 

「しかし、予知はまだこのディアボロのほうを選んでくれているッ! くらえッ! ジョルノ・ジョバァーナッ!」

 

 なぜ、なのはがエピタフの予知を妨害していないのか考えもせず、ディアボロは確定した未来を盲信する。いや、ディアボロはなのはが予知を妨害しなかった理由を頭の片隅では理解していた。なのはが本当に未来の自分自身だとすると、同じ状況に陥って敗北していることになる。

 キング・クリムゾンではGERに勝てないと理解しているからこそ、なのはは何もしないのだ。それでも、己の敗北という未来を認められないディアボロは目に見えている未来に(すが)って動くしかなかった。

 

 GERの能力で強制的に戻されそうになる体を無理やり押し留めて、ディアボロは再びキング・クリムゾンの腕をジョルノに向けて振りかざす。しかし、ディアボロの足掻きは無意味な行為だった。

 殴りかかろうとした拳が動かせなくなり、キング・クリムゾンの腕の下になぜか別のキング・クリムゾンの腕が見えたことに疑問を覚えたディアボロが振り返る。そこには、どういうわけか目を見開き驚いている自分自身とキング・クリムゾンの姿があった。

 

「オ、オレは夢を見ているのか! 幻覚を見せられているのかッ! いや……そんなはずはないッ! ふっ飛ばした『時間の中』で動けるのは、このディアボロとそこにいるナノハだけのはずだッ!」

「コレが……『レクイエム』ダ! オマエが見テイルモノは確カニ『真実』ダ。オマエの能力が実際に起コス『動き』を見テイル。シカシ……実際に起コル『真実』に到達スルコトは決シテナイ!ワタシの前に立ツ者はドンナ能力を持トウと絶対に! 行クコトはナイ。

 コレが『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』。コノコトはワタシを操ルジョルノ・ジョバァーナさえも知ルコトはナイ」

 

 ディアボロが見ているのは幻覚ではない。時間をふっ飛ばされたことで過去の自分自身を目撃したブチャラティと同じく、時間が逆行している事実にディアボロの精神が追いついていないことで発生した錯覚である。

 混乱しているディアボロに何者かが語りかけた。無機質な男の声の正体──それはジョルノの意思とは関係なくスタンド能力を発動させているGERだった。GERの能力を実際に味わったことで、ようやくディアボロはなのはがなぜ動かなかったのかを理解した。

 そうしている間にも時間は戻り続けて、ついにディアボロは時を飛ばす前の状態まで戻されてしまった。無意識に時を飛ばす前に口走っていた言葉を喋りながら、ディアボロは自分の身に起きていたことを把握した。

 

「オッ……オレはッ! 初めから何も動いていないッ! こんなことが……オレの予知は絶対に起こる『真実』なんだッ! ジョルノ・ジョバァーナッ! ナノハ・タカマチッ! キサマらさえいなければ、オレは勝っていたはずなのに──」

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」

「オマエは……ドコヘも……()()()()()()()()! 特に『真実』に到達スルコトは……決シテ!」

 

 GERに時間を飛ばす直前の状態まで戻されたディアボロはろくに反応できずに、全身にラッシュを食らってしまった。それでもキング・クリムゾンが優れた耐久力を持っていたおかげか、即死せずに攻撃を耐えて反撃しよう動き出した。

 だが、それを見過ごすジョルノではない。『矢』の力でスタンドの枠を越えたGERの性能は全体的に強化されている。特に元より優れていた攻撃速度はキング・クリムゾンを凌駕するほどまでに成長していた。

 

「くおのッ! ガキィガァァア!」

「無駄ァ────ッ! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄アァァァァ!」

 

 迎え撃つべく放たれたGERの拳はディアボロの反撃を許すことなく顔や胴体、手足を打ち抜いた。殴られた衝撃でふっ飛ばされたディアボロは、全身から血を吹き出しながらコロッセオの内部へと突っ込んでいき姿が見えなくなった。

 暗闇に飲み込まれたディアボロの姿こそ確認できないが、時間が飛ばされる様子はない。邪魔にならないように遠巻きにジョルノとディアボロの戦いの行方を見守っていたブチャラティたちは、戦いが一段落ついたと判断して近づいていった。

 

「ありがとう、ジョルノ。おまえのおかげでボスを倒すことができた」

「レーダーにはオレたち以外の反応は残ってねえぜ。何が起こったのかサッパリ理解できてねーけど、ジョルノがボスに勝ったんだなッ!」

「入団して一週間程度しか経ってねえ新入りのオメーが、あのボスを打ち倒すとはな……いい加減、テメーのことを認めざるを得ないか」

「ポンペイ遺跡のときから思っていたが……きみは本当にすごいやつだ」

「一体、何をやったのかオレにはよく見えなかったし分からなかったが、ついにボスを倒したってことだな。……ところで、ジョルノ。余裕があるんなら、オレの怪我を治しちゃくれねーか?

 ジョータローから貰った『紙』に入ってた医療器具を使って応急処置はしたんだが……ショージキ今にも気を失いそうなんだ」

 

 ブチャラティ、ナランチャ、アバッキオ、フーゴ、ミスタの順に次々とブチャラティチームの面々がジョルノに駆け寄りながら言葉を投げかける。数で大きく勝っていたとはいえ、ディアボロや親衛隊、殺し屋たちが強敵だったことに変わりはない。

 承太郎となのは、露伴が引き連れてきた増援がいなければ無事には済まなかっただろう。平然と立っているように見えるが、右腕を失ったミスタはかなりの重傷だった。すぐさまジョルノはGERでミスタの怪我を治療した。

 GERには本来の生命エネルギーを操作する能力も残っている。『矢』を使いレクイエムになったことで、操れる生命エネルギーの総量や生命を作り出す速度も強化されていた。重傷だったミスタはあっという間に完治して、ついでに負傷していた他の面々をジョルノは次々と治療していった。

 

「でも……ちょっと待って。あいつはまだ死んでいない……あたしには、まだヤツが生きているって感じるわッ! 確認しないと安心できないッ!」

「いや、探す必要はない。全てはもう終わっている。前もってレクイエムの能力はナノハたちから教えられていたが、実際に使えるようになって確信した。ヤツはもう()()()()()()()()()()()()

 特にヤツが『真実』に到達することは決して……『死ぬ』という真実に()()到達することは決して……『無限に』」

 

 GERの能力は通常のスタンドの領域を完全に超えている。なのはがディアボロとしてジョルノに殺された世界──『旧世界』でGERの能力から解放されたのは、エンリコ・プッチがDIOの(のこ)したとある方法を(もち)いてスタンドを進化させた影響によるものだ。

 プッチと敵対していた人物の一人によって進化したスタンドの能力が完遂することはなかったが、時間が加速して世界が再構成された影響でGERは一度解除されていた。死に続けていた旧世界のディアボロは時間が加速していたことを覚えてはいない。

 そのため、なのははGERが解除された理由を知らない。GERはスタンドを超えた存在だったが、自分自身に敵意を向けられていない限り相手の動作や意志の力をゼロにする能力は発動しない。プッチは意図していなかったが、偶然にもGERの欠点を突いたのだ。

 逆に言えば、プッチが行ったような特殊な事例を除けばGERの能力を回避することはできない。通常のスタンドでは、スタンドパワーで負けているためGERに太刀打ちすることはできないのだ。

 

「で、でもヤツは生きて……」

「トリッシュが心配するのは分かるが、ディアボロは確実に死に続けているとわたしが保証しよう。なにせ過去の……この世界の日付だと未来の話だが、GERの能力を実際に味わったことがあるからな。ヤツは今頃、終わりのない終わりを味わい続けていることだろう」

 

 心配しているトリッシュを安心させるために、なのはがディアボロの現状を説明する。なのはもトリッシュと同じくディアボロとの魂の繋がりを僅かながらに感じていたが、それは残り香のようなものだ。

 GERによって死を繰り返しているディアボロの肉体はこの世のどこかで死に続けているが、その死を認識できるものはいない。全てをゼロに戻す能力の影響で、死に続けているディアボロを見たものの記憶は即座に失われる。ディアボロは自分が死んだという『結果』すらこの世に残せずに死に続けるのだ。

 一様に集まって話をしているブチャラティチームとトリッシュとなのはをよそに、ポルナレフはタバコに火を付けて口に咥えた承太郎と並んで彼らの様子を眺めていた。

 

「さっきから気になっていたのだが、あの茶髪の女の子は何者なんだ? あの口ぶりからして、ディアボロのことをよく知っているように聞こえるが……」

「知っているもなにも、なのははディアボロとほぼ同一人物だ。厳密には『別の世界』のディアボロだがな」

「うそだろ承太郎! あのディアボロが、こんな女の子になっただなんて冗談だろ? 言ってることが分からねえぜ。イカれちまったのか、この状況で?」

「説明すると長くなるが……そうだな、まずはじじいの隠し子に遺産配分の話をするため日本に行ったところから話すか」

「ジョースターさんに隠し子だとォ────ッ!? おれが承太郎と連絡を取れていなかった間に何があったんだよ!?」

 

 義足で立っているのが辛くなったのかコロッセオの外壁にもたれかかっていたポルナレフの疑問に承太郎が答える。ディアボロが現れた後、話をする間もなくノトーリアスが突っ込んできたこともあり、ポルナレフになのはの素性を説明する時間がなかったのだ。

 混乱しているポルナレフは以前のような軽いノリで承太郎の発言に反応している。すっかり落ち着いたかと思っていたポルナレフの変わっていない一面を見た承太郎は呆れながらも懐かしい気持ちになり、自然と口角を上げて笑っていた。

 そんな場の様子を眺めていた露伴は日が変わろうとしている時間帯だというのに、街灯と僅かにコロッセオから漏れ出る光を頼りに湧き上がってきたイメージをスケッチブックに描いていた。ひとしきり描き終えて満足した露伴はスケッチブックを閉じると、杜王町からやってきた面々に話しかけた。

 

「当初の予定とはだいぶ違う過程を辿(たど)ったが、これで一件落着だな。物語として考えるなら陳腐(ちんぷ)な結果になったかもしれないが、これは現実だ。不幸な結末よりは陳腐な方が断然いい。康一くんと士郎さんも、ぼくの計画に付き合ってくれてありがとう」

「こちらこそ、なのはを手助けするために協力してくれてありがとう。露伴先生が話を持ちかけてくれなかったら、俺一人では手が出せなかったかもしれない」

一時(いちじ)はどうなることかと思ったけど、大きな怪我もなく終わって本当に良かったよ。だけどイタリア旅行中にいきなり露伴先生が現れたときはビックリしたなあ。もし似たようなことを今後するつもりなら、今度は事前に伝えておいてくださいよ?」

 

 強制しなかったとはいえ、露伴が自らの探究心のために危険な場所に友人を引きずり出したことに変わりはない。心を込めて礼を言いながら頭を下げた露伴に返すように、士郎も頭を下げて感謝の言葉を告げた。康一は露伴が珍しく自分から本心を告げたことに驚いて頬を掻きながら笑顔を浮かべている。

 

 こうして様々な思惑が交差しながらも、ブチャラティチームは誰一人欠けることなくトリッシュを守り抜きディアボロを打倒することに成功した。運命は簡単には変えられない。人一人の力で変えられるほど運命は軽いものではない。

 だが、多数の人間が立ち向かえば運命を捻じ曲げることは決して不可能ではないのだ。そして運命を変えられなかった者も、決められた運命に従わずに行動すれば誰かに希望を残すことができる。運命のままに死んでいったリゾットが、なのはの心を成長させたように。

 これから先の『未来(運命)』をなのはは知らない。それでも未熟な過去に打ち勝ったなのはは、見通せない未知に怯えて二の足を踏んだりはしないだろう。もはや、なのはのキング・クリムゾンは(みずか)らの身に降り注ぐ『不幸』を避けるためのものではない。

 孤独でなくなったなのはは、自分の周囲に降りかかる『危機』を排除して『未来』を切り開くためにキング・クリムゾンを利用する。善と悪、どちらにも繋がっている道をなのはは歩み続ける。それでも、なのはが周囲の人間を頼るということを忘れない限り、彼女が悪に堕ちることは決してないだろう。

 

 

 

 

 

 

 その後、ディアボロの死体を確認するためにわたしたちはコロッセオの内部に向かったが、ヤツの死体を発見することはできなかった。ジョルノは直感でディアボロがGERの支配下にあると理解しているため、仕損(しそん)じた可能性はないはずだ。おそらく以前のオレと同じように死に続けているのだろう。

 ついでとばかりにGERを維持したままのジョルノは『ジッパー』で切開された真実の口を通り抜けてコロッセオの地下に潜り、あっさりとノトーリアスを始末してしまった。怨念で動き無限に成長するノトーリアスも、スタンド能力の発動前まで戻すことができるGER相手では手も足も出なかったようだ。

 

 不安要素の確認が終わり、時間的に多少の余裕が生まれたわたしたちはブチャラティとジョルノ、どちらをパッショーネのボスにするか決めようとしたのだが、議論する間もなく決着がついてしまった。どういうわけか、ブチャラティがボスの座に就く気はないと辞退してしまったのだ。

 フーゴとアバッキオはブチャラティの決定が不服だったのか考え直してくれと詰め寄っていたが、やる気のない者をボスにするわけにもいかないため最終的には折れていた。ブチャラティはボスにはならずに、参謀の立場としてジョルノの手助けをしたいと語っていた。

 

 ディアボロの後を継いでジョルノがボスになることは決まったが、いきなりジョルノがボスだと公言したところでパッショーネの幹部たちが納得するはずがない。そこで、わたしは以前から計画していたパッショーネを統括(とうかつ)するための手段をジョルノたちに提示した。

 計画そのものは単純である。まず第一にパッショーネ全体の動きを把握している情報分析チームの幹部を抱え込む。縦の繋がりは強いが意図的に横の繋がりを弱くしているパッショーネの中でも例外的に、情報分析チームだけはチーム間の情報のやり取りを行っている関係で強力な横の繋がりを持っている。

 幸いにも情報分析チームを統括している幹部はディアボロに絶対の忠誠を誓っておらず、現在の立場を脅かさなければすんなりとジョルノの存在を認めるだろう。連中の収入の大半はIT企業の社員扱いで支払われているため、麻薬関係の取引を禁止したところで被害は(こうむ)らない。

 

 その次に穏健派として知られている幹部連中を味方につける。麻薬取引や人身売買をあまり行っていない地域の幹部を筆頭に、あらかじめ目星は付けてある。数は多くないが、大きな影響力を持っていたペリーコロの息子を味方に付けられたら他の幹部連中の説得も容易になるだろう。

 この段階まで来ると、わたしにできることはあまり多くない。幹部の説得にわたしがついていくわけにもいかないため、直接対面して説得するジョルノと補佐としてついていくブチャラティの話術とカリスマ性に全てがかかっている。

 

 かつて、オレは若年(ゆえ)に組織の立ち上げに苦労した経験があるため、パッショーネでは年齢より実務能力を優先する気風を作っている。そのため、ブチャラティやジョルノの年齢はそれほど足かせにはならないはずだ。

 その代わり、実力を示さなければならないが、そこはヤツらが自力でなんとかしなければならない。若くして幹部候補に選ばれたブチャラティはともかく、入団して一週間程度しか経過していないジョルノにボスが務まるかどうか……正直言って不安しかない。

 15歳といえば2年前の仗助や康一、億泰と同い年である。育った環境が違うとはいえ、ついこの間まで表社会で行きていた人間が裏社会の人間をまとめ上げられるとは到底(とうてい)思えない。どうにか、うまいことブチャラティに補佐してもらうしかないだろう。

 

「……そういえば、ナノハ。コロッセオに向かう途中で別れたときに、全てが終わったら伝えることがあるって言ってたけど、あれって何のことだったの?」

「ああ……そうだな、もう伝えても問題はないか。情報が漏れる確率を下げるために黙っていたんだが……ドナテラは生きている。この番号に電話すれば、きっとすぐに出るはずだ」

 

 まだ『紙』に残っていた乗用車を使って空港に移動しながら、『亀』の中でインターネットに繋がっているノートパソコンを操作していると、隣に座っていたトリッシュが話しかけてきた。

 ディアボロが組織の人間とやり取りするために使用していた回線を通して過去の指令の確認をしている途中だったが、ドナテラもトリッシュのことを心配しているだろうから先に連絡しておいたほうがいいだろう。

 連絡用に持ち歩いていた衛星電話を受け取ったトリッシュは、呆然としながらも無言でボタンを操作して登録してあった番号にコールした。5回ほどコール音がなった後、トリッシュは恐る恐る通話相手に語りかけた。

 

「もしもし……母さん、なの? あたしよ、トリッシュよ」

『……トリッシュ? よかった、無事だったのね。怪我はしてない?』

「うん、大丈夫よ。ナノハがあたしを助けてくれたの。ちょっと危ないこともしちゃったけど……でも、怪我はしてないわ。それより、母さんのほうはどうなってるの? てっきり、あたしは死んじゃったものだと思ってたから……」

『実はね、去年の夏頃には病気は治っていたのよ。だけど、あたしが死んだことになってないと未来が変わるらしくて……トリッシュには辛い思いをさせちゃったわね』

 

 目に涙を浮かべながらトリッシュはドナテラと話し込んでいる。スピーカーから漏れ出ているドナテラの声も僅かに震えていた。恐らく、ドナテラもトリッシュが無事だったと知って涙ぐんでいるのだろう。

 二人の邪魔にならないように一旦ノートパソコンから手を離して少し離れた位置に移動して様子を見ていると、話が一段落したのか電話を片手にトリッシュが近づいてきた。黙って電話を受け取って通話を代わったことを告げると、少しの沈黙の後にドナテラが口を開いた。

 

『ナノハ、あの人は……ソリッドはどうなった……?』

「説得はしてみたが受け入れられなかった。すまない、あいつの心を変えることは、わたしにはできなかった」

『……あの人は()()()()()()()変わることはできなかったのね……ありがとう、ナノハ。あたしのワガママを聞いてくれて』

「待てッ! ドナテラ、きみは──」

 

 わたしの言葉の続きを聞くことなくドナテラは通話を切ってしまった。薄々感じていたが……ドナテラはわたしの正体に気がついていたのだろう。だからこそ、ディアボロが変われる可能性を夢見てしまったのかもしれない。

 トリッシュと同じく強く靭やかな心を持つドナテラは、いずれは過去を乗り越えて新たな人生を歩むだろう。それでも、ディアボロとしてではなく高町なのはとして友人になることを彼女は許してくれるだろうか。

 戦いが終わったことで集中力が途切れたせいで一気に強くなった眠気を(こら)えながらノートパソコンのキーボードを指先で叩きつつ、わたしはそう願うのだった。




勝ったッ! 5部編完!

次回からは第一部までの空白期間を補完する幕間が始まりますが、第三部(A's編)のプロットを練りながら執筆するので今までのような定期更新はできないかもしれません。ご了承ください。


誤字脱字、表記のぶれ、おかしな日本語、展開の矛盾を指摘していただける国語の先生をお待ちしております。
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