絶死絶命の双子の妹にしてツアーにビビり散らかすTSエセ巫女転生者   作:チロチロ

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第1話

 

 

 

(痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。いたい。いたい。いたい。いたい。いたい。いた……)

 

 

 それは、母と名乗る存在によって私に刻み込まれた記憶。

 

 

 これほどまでの苦痛、ましてや命を賭した戦いなど経験した事があるはずも無い私に、この世界を舐めていた私に下された天誅。

 

 

 まだ肉体が子供であり、前世で愛読していたオーバーロードの世界に転生し、更には法国最強の存在たるアンティリーネの双子の妹で、姉と同じ王族の証を瞳に宿す事、トップクラスに優れたタレントを持つ事を知り、才能豊かな肉体を手に入れたと歓喜していた馬鹿な私に現実を知らしめる痛み。

 

 

 私が愚かだった。

 この世界、ひいては現実を現実と見做せていなかった。

 だから、目に何の感情も宿さぬ母を名乗るナニカにこんな目に遭わされるのだ。

 

 

 私は毎日毎日繰り返される地獄──姉と共に神官たちによって『あの女』と引き離されるまで──を経て、とある結論へと至った。

 

 

 私は何としても死にたくない。

 他人がどうなろうとどうでもいい。

 それは姉のアンティリーネだろうと同じ事。

 

 

 ただ、私だけが。

 死から、痛みから、離れられたらそれで構わないのだと──

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 法都シクルサンテスの聖殿の一区画。

 

 

 そこに居るのは白銀の生地に天に昇る龍が金糸で刺繍されたチャイナ服を着用した、片方が白銀、もう片方が漆黒の色をしている長い髪の少女。

 髪と同様に瞳の色も左右で異なっている。

 彼女は外見こそまだ少女に見えるが、実年齢は少なくとも100歳は超えている。

 

 その人物の名前はエルシオーネ。

 法国最強たる番外席次の1人であり、絶死絶命たるアンティリーネの双子の妹である。

 

 そんな私は、かつて日本と呼ばれる国──こことは違った世界に存在している──に住んでいた、所謂転生者、というやつだった。

 

 転生してからしばらくして、この世界が「オーバーロード」の世界である事を知り絶望した直後、私の肉体が極めて優れた才能を持った物と知り、歓喜したものだった。

 

 これならば、やりようは幾らでもある──どころかむしろイージーモードでしか無いではないか──と。

 

 ──なんと愚かな事だろうか。

 私は当時の自身を思い出すと、そのあまりの愚鈍さに恥しか覚えない。

 

 地獄を知らぬ凡人が、死や痛みが身近な世界とはどういうものなのかを全く理解せずに浮かれていただけに過ぎなかった。

 

 私はそれを、自らの血縁上の母──あれを『お母さん』などとは今までも、そしてこれからも決して呼ぶつもりはない──に身を以って味わわされた。

 

 ──まあ、今それは良い。

 

 

「おはよう、エル。その服──今日って何か儀式でもあったかしら?」

 

 

 挨拶をしてきたのは、私にそっくりの見た目──違いは服装と、髪の長さが私はロングで姉がセミロング、あとは髪と瞳の色彩が姉妹で左右反対なくらいか──をした双子の姉であるアンティリーネだった。

 基本的に、何か無い限りはこの区画に居るのは私たち2人だけだから、それは当然の事ではあるのだが。

 

 

「おはよう、アン。儀式ではないけれど、今日は私にとって重要な事があるから、気を引き締めようと思って」

 

「重要な事? なに? それ」

 

 

 アンティリーネが当然の疑問を呈する。

 

 私と姉はかなり仲が良いと思うし、そうでなければここまで長い時間二人きりで暮らしたりしていない。

 とはいえ、いくら双子の仲良しとはいえ、互いにやる事をいちいち報告し合ったりはしない。私にはアンティリーネに対する隠し事が山程あるし、彼女の方も私程では無いとはいえ、何かしら隠していることもあるだろう。

 だが、別にそれは普通の事に過ぎないのだ。

 

 全てを共有し合うなんて、そんな関係は病んでいると私は思うから。

 

 ……つまり何が言いたいかと言うと、私たちの関係は共依存ではなく、あくまで仲の良い双子、というわけだ。

 

 

 それはともかく。

 私にとって重要な事。

 

 

 それは他でもなく、私自身の身の安全である。

 

 

 私は決して死にたくない。

 

 

 ……まあ、それ自体は生物として当然の思考だろう。

 ただ、私のその願望は、過去の経験により他者のそれより圧倒的に強くなってしまった物だとは自覚しているが。

 

 ここオーバーロードの世界においては、死の危機があまりにも多過ぎる。

 それは素の力が姉とほぼ同じという私であっても例外ではない。

 いくら現地人間種最強であろうと、油断すればあっさり死に得るのだ。

 

 あの忌々しい白金の竜王を始めとする竜王に、100年おきに来るプレイヤーに、何よりアインズ・ウール・ゴウン──自身より強大な存在は沢山存在している。

 

 そのために数々の策を講じてきたが、今日はその中でも成功により力を注ぐ価値のある重大な作戦を決行する日だ。

 

 

「この後ここに『隊長』さんが来るから──そこで見ていたらわかるよ」

 

「あの男が? 一体何を──いやまあ、エルがよくわからない事をするのは今更だから別にいいけれど」

 

 

 なんて言ってから、

 

 

「客が来るなら事前に言っといてよ。着替えなきゃいけないじゃないの」

 

 

 とか何とかぶつぶつ言いながらアンティリーネが自室に戻る。

 

 

 姉は、こう見えてかなりの常識人だ。

 客──特に男が来るというならば、相応に体裁を整えようとするくらいには。

 他にも、彼女は金の力を存分に用いて最新のファッションをやたら取り入れようとしたりする。

 

 暇を持て余した故の趣味のような物だから、誰も何も言わないが──表面上はクールな性格で、気だるげで陰鬱とした感じを出し、いかにも戦いと強者の事以外には基本無関心みたいなキャラをしているアンティリーネがそれをするのは少し驚きである。

 

 それはそうとファッション、か。

 

 私は前世において男であった。

 それにもかかわらず、今世では女として生を受けた──所謂性転換というやつである。

 だが、最早かつて男だったという事は、今の私にとっては単なる残穢でしかない。

 原作でのプレイヤーたちがそうであったように、私も肉体に精神が引っ張られたのだろう。そして、彼らと同様に私もその事自体に最早何も感じない。

 そんな物簡単に吹き飛ばすような──地獄を、知ったのだから。

 

 そんな私ではあるが、アンティリーネと違ってファッションに特に興味を抱いたりはしなかった。好みでは無く実用性と、はたから見た神秘性を装うことを重視した服装を私はする。

 別にそれで何か問題があるというわけではないので、どうでも良い話ではあるのだが──

 

 

「そんな事より。私は今日この日をずっと待ち侘び、何度もシミュレーションして来たというのに、やはり落ち着けないですね──」

 

 

 私は自身が生き残るため、これから起こり得る様々な状況下で何をしたらどうなるか、原作知識──書に記す事など出来るはずが無いため自分の中で反芻記憶するしか無い──をどう活用するか、自分の能力をどう使うか──といった事を何度も何度もシミュレーションして来た。

 

 そうして出た結論が、今の私の職業ビルドであり、身に纏うワールドアイテム『傾城傾国』であり、今日から行う作戦である。

 

 

 私は自身の精神を落ちつかせるため、6大神が伝えたおもちゃである、ルビクキューをいじる。

 

 ご先祖様謹製とはいえまあ、何の変哲もないおもちゃだ。

 翻訳の都合なのかはわからないが、ルービックキューブが言葉を変えてルビクキューと伝わるのは少し面白いな、とは感じるが。

 

 

「それにしても、このルビクキュー。どうしても揃えられませんね」

 

 

 私はルビクキューがとても苦手である。

 このおもちゃとは、最早最初に触れてからどれ程の時が経過したか忘れてしまう程に長い付き合いではあるが、どうしても早く揃える事が出来ない。

 解説書等が存在している訳では無いので、手法はどうしても手探りになる。

 だが、私は必勝法などを編み出すつもりはなかった。

 

 何故なら、そういうのが無く、苦手だからこそ暇つぶしになるとも言えるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、合流したアンティリーネと一緒にルビクキューをいじって精神を落ち着かせていると。

 

 

「エルシオーネ様、ただいま参りました」

 

 

 私が呼びつけた、漆黒聖典の隊長が到着した。

 白銀の生地に天に昇る龍が金糸で刺繍されたチャイナ服──私にとっての正装を纏ったまま、隊長に話しかける。

 

 

「ようこそお越しくださいました『隊長』さん」

 

「エルシオーネ様がお呼びとあらば、いつでも馳せ参じる所存でございます。絶死様も、御壮健のようで」

 

「あーうん。ありがとう」

 

 

 私からの歓迎の挨拶に対して、まるで忠義の騎士かのように隊長は応える。

 相変わらず生真面目な事だ。

 まあ、彼はここに来た際に私が傾城傾国を身に纏うのを見て表情を固くしていたから、それも大きいのだろうが。

 

 それに、そんな彼だからこそ、私は今回の極秘依頼の実行人として隊長を選んだのだ。

 

 ──姉の反応は、まあこんなものだろう。

 挨拶はいいから早く要件を聞かせろ、と直接言いはしないが顔がそれを主張している。

 

 そんな2人の反応を眺めてから、私は要件に入ろうとする。

 

 

「『隊長』さん。本日あなたに来ていただいた理由についてですが」

 

 

 私は一拍を置く。

 これから、私は運命に立ち向かう。

 いや、正確に言うならば、私はこれから私が生き残るための道を作り出すのだ。

 

 

「私個人があなたに頼みたい私的なお話があるのですが、聞いてくださいますか?」

 

 あくまで『私的』を強調する。

 少し、いやかなりわざとらしいとは自分でも思うが、重要な事だ。

 

「エ、エルシオーネ様が私に? 畏まりました! 何でも承ります!!」

 

 

 隊長が頬を赤らめ、何やら興奮したかのような姿を見せながら言う。

 内容など関係ないと言わんばかりの様子だ。

 

 ……漆黒聖典の隊長が私にこのように接するのには当然理由がある。

 

 詳細はまたの機会に語るが、私はかつて、この時を見越して彼がこうなるように行動したのだから。

 

 

 そうして私は本題に入る。

 長きに渡り、シミュレートしてきた作戦の第一歩であり、成功するか否かで今後のあらゆる存在の未来が変わり得るような作戦──

 

 

「リ・エスティーゼ王国に所属する、ガゼフ・ストロノーフ──かの御仁と、秘密裏に接触したいのです」

 




エルシオーネ→アンティリーネ:仲の良い姉。普通に姉として好きだけど、いざという時は自分の命の方が明確に大切。要はまあ割と普通の親愛。

アンティリーネ→エルシオーネ:????
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