絶死絶命の双子の妹にしてツアーにビビり散らかすTSエセ巫女転生者   作:チロチロ

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第12話

 

 法国上層部12名からなる最高執行機関。

 

 周辺国家最大の国である法国の最高権力者の集まりでありながら、さして広くも豪華でも無い部屋にて会議が行われる。

 

 それは、出世する程人類の為に給金が減っていくという彼らのあり方を示すが如き様相であった。

 

 彼らの目的はただ1つ。

 種として弱き人類が、如何にしてこの厳しい世界を生き抜くか──

 

 

「では、議題に入ろう。まずは、当然だが他の何よりもあの件についてだ」

 

 

 彼らが最も気になる事。

 それは勿論あの件でしかない。

 

 

「神の降臨……か。『万物万能』はその可能性を示唆するのみで直接そう言いはしなかったがな」

 

 

 100年に1度の世界の揺らぎ。

 この世界は大海に浮かぶ小舟が如き存在であり、その波となり得る存在であるプレイヤー……高い確率でそうだと思わされる者が王国領に出現したという事実。

 

 その存在と接触した人物は、直接それが神だとは明言しなかったが……

 

 

「とはいえ、まず確定と言っていいだろう。時期も正しい上に、神以外の理由でよもや彼女と匹敵する存在が唐突にそう沢山出現するなどありえぬのだから。竜王という可能性も、かの存在と彼女が友好的に接する時点で潰える」

 

 

 もし、プレイヤーと思しき存在と接したのが彼女でなければ、この世に秘したる存在、または竜王の可能性を捨てきれなかっただろうが、何よりも彼女が直接動いたという事実が、それがプレイヤーだという事を示している。

 

 

「彼女がかの存在を神と直接宣言しない理由としては、何かしらの契約があるのだろうよ。他言無用を理由に友好を深める事の許可を取るなどの」

 

「まあ、そんなところだろうな。そうでなくば彼女がああして顔を歪めて謝罪しながら口を閉ざす理由はあるまい」

 

 

 彼女が非常に申し訳なさそうな顔をし、繰り返し謝罪しながらも『今詳しくは話せない。将来的に話す時が必ず来るから待っていてほしい』とだけ言ったのは彼らの記憶に新しい出来事である。

 

 

「そうだな……彼女がいち早く神と接する事に成功した事こそが何よりも幸運。それ以上を望むは強欲が過ぎるというもの。文字通り、身を滅ぼす事に繋がりかねん。少なくとも、我らには神の降臨を察知出来なかった以上は下手な事をすべきではあるまい」

 

 

 それは、彼女が居なければ陽光聖典が神と敵対し、滅ぼされたであろう事実がまざまざと示している。

 もし、彼女が陽光聖典を止めなければ……事態は法国、いや人類にとって最悪の結果となりかねなかった。

 

 

「神の天罰が降るが我らだけならばまだしも、事は人類……いや、世界規模の話だ。上手くいっている現状において下手な詮索をして怒りを買うなどあまりにも愚か」

 

「ひとまずは彼女に任せる他あるまい。彼女に匹敵、あるいはそれ以上の力を持つ存在に対しては、悔しいが現状それが最適解なのだろう。彼女が国外に出る事にはリスクはあれど、多少はやむを得まい」

 

 

 神官たちは自らの無力さに対する悔しさを強く顔に滲ませながらそう発言する。

 

 結局、いつも通り彼女頼りなのか。

 我らは何一つ彼女に恩を返せぬのか。

 

 そんな共通した思いを抱いていた。

 

 

「しかし……『万物万能』にも困ったものだ」

 

「我ら法国の、ひいては人類の為とわかってはいるが、これ程までの事態に対して相談無しの独断行動はな」

 

 

 口では非難するものの、彼らの表情は柔らかなものだった。

 

 それはまるで、普段我儘を全く言わない少女が、珍しく我儘を……それも自らのためで無く皆のための我儘を言ったために、一応愚痴は言うものの微笑ましさが勝る、というような表情。

 

 

「とはいえ、神をいち早く補足し、友好を結び、更には同時並行でズーラーノーンの高弟を捕らえ、その秘宝を奪取……それによる利はもはや計り知れん」

 

 

 邪悪な魔法詠唱者によるテロリスト集団ズーラーノーン12高弟の1人、カジット・デイル・バダンテールと死の宝珠の奪取──それが齎すものはあまりにも甚大。

 

 かの者を捕らえた漆黒聖典隊長によると、カジットは100ものアンデッドに加え、あの強大なスケリトルドラゴンを2体使役していたという。

 勿論、それは奴自身の力も多少はあったのだろうが、それ以上に秘宝の力が大きい。

 

 隊長を推挙したのも『万物万能』だ。恐らく、隊長でなくば被害なくカジットを捕らえるのは不可能と判断したが故の采配。

 

 そんな超級の宝物を法国が手に入れ、更には彼女が法国の奥地にてカジットに傾城傾国を用いる事でズーラーノーンのアジトを端から吐かせる事に成功。

 アジトへの襲撃自体は慎重を期して未だ行ってこそいないが、いずれは成されるだろう。

 

 厄介なズーラーノーンの力を大きく削げる機会が突然飛び込んで来たのだ。これを喜ぶなと言う方が無理がある。

 

 更に──

 

 

「ついでに『疾風走破』の裏切りもな」

 

「実に嘆かわしいものだ。まさか名門クインティア家から裏切り者が出るとは……兄の『一人師団』も哀れなものよ」

 

 

『一人師団』クアイエッセ・ハゼイア・クインティア。

 

 最強のビーストテイマーであり、英雄級の実力を持つ上、殲滅という点では他の漆黒聖典の追随を許さない。

 英雄級の存在でなければ倒すことが困難なモンスターを最低でも十体は使役でき、下手な戦場であれば、彼一人で戦局を左右出来るほどに強力な存在。

 

 そんな彼は六大神の1人であるスルシャーナの信徒であり、その信仰深さは漆黒聖典の中でも指折り。

 

 そのような人物の妹が裏切りなど……彼の嘆きは一体どれ程の物なのか。

 

 それはともかく、クレマンティーヌ程の実力者による裏切りが齎す害は実に甚大になった事だろう。それを、彼女は未然に防いだ。

 

 

「それにしても……あまりにも彼女の成した結果は偉大過ぎる。普通に考えて、どんなに優秀な人物だろうとこれら一連の出来事を予測などできはしないだろう。──まるで、彼女にはこれから何が起きるか事前にわかっているかのようだ」

 

 

 それに反応するは土の神官長レイモンとこの場の、つまり法国の頂点である最高神官長。

 だが、彼らは口を固く閉ざす。

 

 その代わりに

 

 

「やはり、彼女には限定的な未来が見えるというのは確定か」

 

「そうだな……出来れば本人から伝えて貰いたかった物だが」

 

 

 この場に居るのは法国、ひいては人類のトップであり、相応の頭脳の持ち主。

 今まで明言こそしなかったが、万物万能が未来、あるいは近しい何かを見ているという事に彼らは既に勘付いていた。

 

 

「信用されないと思うのは至極当然だろうよ。実際、彼女の残した圧倒的過ぎる実績なくば、我らとてこの答えには行き着くまいて」

 

「その通りだ。まさか陽光聖典によるストロノーフ襲撃と神の降臨時期や場所が重なり、同時に『疾風走破』が裏切り、それがズーラーノーン高弟と秘宝の確保に繋がるなどと……ただ聞いただけでは世迷言としか思えんだろう」

 

 

 こうして箇条書きにして述べるとわかりやすいが、この短期間にてあまりにも多くの事態が起きすぎている。

 これら全てを察知して事前に対処するなど……通常の手段ではまず不可能。

 

 だからこそ、彼女には未来を知る術があると確信しているのだ。

 

 

「しかし、彼女の口から直接言われたならば私は信じたのだがな」

 

「私も同じだ。もし、根拠は無いがただ信じてくれなどと彼女に言われた日には……喜んで従うだろう自分の姿が目に見える」

 

 

 神官たちは思わずその光景を幻視してしまい、顔を歓喜の表情に綻ばせる。

 

 

「彼女は人類の守護者にして、まさしく現代における聖女。そんな彼女に頼られたとあらば……」

 

「最早全てを放り投げてでも望みに応えようとするであろうな」

 

「この場に居る者は皆、彼女の永年に等しき献身をその目にしているが故に」

 

 

 彼らがまだ若かりし頃、いやこの世に生まれるより前からずっと、面で顔を隠し、髪色を偽装して神殿にて人々を癒やし続ける彼女の姿。

 それを見て何も感じないなど最早人ではない。

 

 

「聖王国の小娘が聖王女などという巫山戯た名で呼ばれている事を知った時は、改名を求めていきり立つ貴殿を宥めるのに苦労したものだ。……気持ちは私も同じだったから尚更、な」

 

 

 最高神官長が大元帥を見つめて少々呆れたようにしながらそう漏らす。

 ……だが立場さえなければ、聖王国に自ら乗り込み、その不敬を正したかったと最も望んでいたのは最高神官長自身だと確信している。

 

 そしてその確信は、この場に居る全員が自分こそがそうだと見做している事だった。

 

 

「聖王国の民は本物の聖女というものを知らぬからそのような事を言えるのだ」

 

「うむ。あの小娘に、幼少期に地獄の苦しみを与えられながらも一切の憎しみを宿さず、それどころかあれ程の力を持ちながら一切の私利私欲を持たずにその一生を人々の為に尽くし続け、一切の名誉も報酬も求めない……そのような事が出来るものか」

 

 

 母親から虐待じみた教育を受け、母の抱くエルフ王への憎しみを引き継がせようとされたにも関わらず、憎しみどころか歪みを一切見せずにただひたすらに人々に尽くし続ける。

 過大なく人間種最強の、全てを覆し得る圧倒的な力を持ちながら。

 

 これを聖女と呼ばずして何と呼ぶというのか。

 

 

「他の誰にも到底成せる事ではない。……これは不敬かもしれないが、六大神の中に彼女が混じっていたと言われたとしても、私は納得するぞ」

 

「いや、私とてその気持ちは同じ。彼女程人類に貢献した存在など、それこそ神々しか居らぬが故にな。ましてや傾城傾国をその身に纏いし時の神々しさ……彼女に対しては神人というより神の生まれ変わりという言葉の方が私にはしっくり来る」

 

 

 それは、この場の全員に共通する意見。

 

 

「まさしく。……だがやはり、どこまで行っても彼女頼りの現状を早く改善したいものだな……」

 

「ああ。とはいえ出来る事からする他あるまい。ひとまずは神を迎え入れる準備を秘密裏に進め、同時にエルフへの本格的な侵攻計画、破滅の竜王対策──そして、我らが最終目標である白金の竜王討伐計画──やるべき事は多く存在する」

 

「だな。では、次の議題だが……」

 

 

 こうして、彼らは人類の為に議論を交わし、様々な出来事に対する対策を練り続ける。

 

 全ては、人類が今後も生き残るために──

 

 

 

 

 

 

 




エルシオーネが周囲からどう見えるか回
まあこうなりますよね
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