絶死絶命の双子の妹にしてツアーにビビり散らかすTSエセ巫女転生者   作:チロチロ

13 / 17
第13話

 

 それから色々な事があった。

 

 

 エ・ランテルに派遣した隊長がカジットを捕らえ、死の宝珠も回収。

 カジットに私が傾城傾国を用いる事でズーラーノーンのアジトを把握。

 

 モモンガに破滅の竜王の情報を知らせて、調査を依頼。

 ついでに討伐して貰う。

 

 モモンガがアゼルリシア山脈を制覇。

 ルーン技術を確保。

 白き竜王オラサーダルク捕獲。

 

 アウラがトブの大森林を支配。

 ハムスターとオーガ、ナーガを捕獲。

 

 ……など。

 

 私が口を出したり、自ら参加したりする事で少し変化はあれど、概ね原作通りの流れとなった。

 

 事前の想定通り、ドワーフとルーン関連はモモンガが非常に楽しんでいたし、勿論私も参加した。

 

 ルーン技術は、この世界に転生してから私も少し触れてはみたが、全く役に立たない化石技術でしかないという大半のドワーフたちと同じ結論に到達した。

 だが、ルーンにはモモンガを楽しませるという重大な役割があるため、一応記憶していた事が役に立った。

 

 まあ、前世で男だった私にはルーンが男の厨二精神を擽る代物であるという事への理解はあるし、何より彼の暇つぶしになるのであればそれは十二分の価値を持つ物ではあるのだろう。

 

 ──このようにしてモモンガからの好感度を稼ぎ、そしてモモンガがあまり楽しまないであろうトブの大森林関連には私は一切関わらなかった。

 

 その効果は明白すぎる形にて現れており、モモンガは既に何をするにしてもまず私に報告してから成すようになり、活動に対して私が参加を表明した際にやたら嬉しそうな反応を取るようになった。

 

 

 ──何が言いたいかというと、つまるところ、私によるモモンガ依存計画は着々と進行しているという事だ。

 

 

 懸念要素はある。だが、そうだからといって今更止まる事は出来ないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのようにして暫く経った所。

 

 

「──そうですか。やはり、王国に異変あり。と」

 

「はい。未だ水面下ではありますが、間違いなく何かしらの勢力が王国の、特に裏社会にて動いているとの情報を掴みました」

 

 

 居住区にてアンティリーネと共に隊長からの報告を受ける。

 

 

 やはり、彼らは既に動いているか。

 

 

 勿論これは予測できていた話だ。

 

 モモンガに色々聞いた結果、細かな違いはあるかも知れないが、ナザリックに所属するNPCの性質は原作のそれとほぼ同じだと判明した。

 

 それを踏まえると、私が帝国やアゼルリシア山脈等の場所でモモンガと関わる裏で、NPC──特にアルベドやデミウルゴス──が王国や聖王国辺りで何かしら動くだろう、と。

 

 法国の工作員が無事に動きを掴めるくらいに異変が──つまり彼らの活動が進んでいるという事は、事実上王国の裏社会は支配完了したと想定しておいた方が良いだろう。

 

 私はかつて、モモンガにカルマ値の低いメンバーは極力人と関わらせず、可能ならあまり外に出すべきでは無いという話はした。

 今のモモンガは『理があるならば』私の言葉をそのまま聞き入れるようになっているため、NPCにそのように指示しただろう。

 

 ──これを『多少おかしかろうと何でも』言う事を聞くようにするのが目下の目標ではあるのだが、今はまだ時期尚早だ。

 

 それはともかく。

 いくらモモンガがそのように言った所で、NPCが勝手によくわからない深読みをして勝手に活動するであろう事は、原作知識のある私には簡単に予測出来る話でしか無い。

 

 原作のようにモモンガがデミウルゴスに世界征服宣言をしたかどうかは知らないが……していようがいまいがNPCの取る行動にさしたる違いは無いだろう。

 

 それに、仮にNPCが言う事を聞いて素直に引っ込んでいるならば、そもそも論として何の問題も無いのだから、私が考えるべきなのは彼らが動くケースのみなのである。

 

 

「やはりって……エルにはこれが予測出来ていたの? ……まあ、いつもの事か」

 

 姉がこう思うのも当然だ。

 私はここ最近、モモンガへの対応しかしていなかったのだから。

 

「ええ。遅かれ早かれそうなると。けれど──」

 

 

 私は一瞬目を閉じてから返答する。

 

 

「それで無辜の民に何か悪影響が出る事は無いでしょうから、今は放置して大丈夫」

 

 

 まあ、嘘ではない。

 私にとってそれが最重要かどうかはともかく、真っ当に生きる民には特に影響が無いだろうというのは事実だ。

 

 彼らは現状まだ裏社会でしか行動していないようだし、人間牧場も恐らく作られてはいないだろうから。

 デミウルゴスが、モモンガが私という人間種のプレイヤー(?)であり人類至上主義の国家に所属する存在と友好的な関係を結ぶ現状で、更には私が転移者ではなく転生者である以上、ナザリックのメンバーが転生する可能性があると知った上で、なお人間牧場を経営しようなどと考える程に愚か者であるならば、最早デミウルゴスについては何も気にする必要などない。

 その時点で彼は警戒に値しない、言うならば私以下の単なる馬鹿でしかないと判明するからだ。

 

 まあ、流石にそんなことは起き得ないだろうが。

 

 

 

「──それに、どちらにせよ止められない以上、私たちは私たちにできる事をするしかない」

 

「エルに止められない? ──という事は神様関連か。……そろそろ私には今何がどうなっているのかを話していいんじゃないかと思うんだけど」

 

 

 これまた当然の問い掛けだ。

 だが──

 

 

「確かに、アン一人に話すというだけならば、許可を得る事は可能だとは思う。けれど──」

 

 私は隊長の方を見る。

 

「アン一人に話すというのは、『隊長』さんや神官様方──多くの方に対して誠実な行いではないと思うから。……いずれ全て話す予定とはいえ、隠し事をしておいて誠実も何もない、と思うかもしれないけれど……」

 

「……ふぅ。いいわよ、エルの好きにして。その結果何がどうなろうと、私のやる事に変わりはないのだから」

 

「──ごめんなさい。アンにはいつも甘えてしまって……」

 

「いいの。その代わり、後でちゃんと全て話すのよ?」

 

「ええ。それは勿論」

 

 

 リスクを考えたらまだアンティリーネにモモンガの話は出来ない。

 話を聞いた結果、私だけに任せてはいられないと勝手に動かれて、その結果NPCと鉢合わせる……なんて事が万が一にでも起きてしまっては困るから。

 

 そして、この先を考えたら法国上層部や隊長たちに少しでも不信感を与えるわけにもいかない。

 彼らにはまだまだ沢山の役割があるのだから。

 

 全ては、私自身の安全のために。

 

 ──本当に、我ながら私は最低の人種だと思う。

 姉を初めとした多くの人々の厚意をこれでもかと利用している。

 

 けれど、それでも私は私自身の事を他の何よりも優先して行動するのだ。今までも、そしてこれからも。

 

 

 私たちの会話に区切りがついた所で隊長が口を開く。

 

 

「では、王国の件は放置しても大丈夫という事ですか?」

 

「はい。ただ……そうですね、少しだけお待ち頂けますか?」

 

「? はい、わかりました」

 

 

 事前に立てたNPC対策はいくつかある。

 まず私は、NPCたちには間違いなく簡単には使えないものの、私には容易に切れるカードを早速用いる事にした。

 

 それは──

 

 

(モモンガさん、今よろしいでしょうか?)

 

(あ、エルシオーネさん。大丈夫ですよ)

 

 

 モモンガと直接やりとりを交わす事だ。

 結局、これに勝る手札など存在しないのだから。

 

 

(ありがとうございます。……現在、王国の裏社会にて何かしらの動きがあるようです。法国が把握していない何らかの勢力による力が働いているようなので、モモンガさんにお伝えしなければ、と思いまして)

 

 

 当然の話ではあるが、私がモモンガに直接『お前の所のNPCが動いてるが何をしているんだ?』などといった事は言わない。

 

 現在私がモモンガと築いている関係性を考慮したら当たり前の話だし、他にも理由はいくつかある。

 

 彼がNPCの行動を把握し、ともすれば命令をしている可能性が僅かながらに存在しているのが1つ。

 まあ、これは現在モモンガが何らかの行動する際は須く事前に私に相談するようになっている以上ほぼ無いとは思うから、重要なのは他の理由である。

 

 ──その1つは、私がこのように伝える事によって、モモンガが自らNPCに何らかの調査を働きかけ、それによってNPCは命令を明後日の方向に解釈して勝手に暴走するんだという事を私を介さずに自分で実感させる、という理由だ。

 

 他にもまだあるのだが、とりあえず今はモモンガの反応を見るべきだ。

 

 

(なるほど……法国やエルシオーネさんが把握していない相手となると確かに厄介そうですね)

 

 

 やはり、モモンガはNPCが王国で動いている事実を知らないらしい。

 シラを切っている可能性も勿論あるが、彼は演技がそこまで上手い人物──いやアンデッドではないから大丈夫だろう。

 まあ、仮にモモンガのこれが演技だとしても、私のこの言い方で何か問題が発生する事はない。

 それも、ちゃんと想定して伝言をしているのだから。

 

 極小確率として、よくわからない第三勢力が本当に動いている可能性もあるにはあるが、そうだとしても今回における私の行動が変わる事はない。

 

 

(はい。現状モモンガさん達は人類圏ではあまり活動していないとの事なので可能性としては低いとは思いますが、ナザリックは王国領に存在している以上何かしらの影響を受けるかもしれないと思いまして)

 

 

 非常にわざとらしくNPCの勝手な行動である事を強調する。

 わかっている側としては白々しいとしか思えないだろうが、モモンガ目線でどう見えるかを考えれば……

 

 

(いつもありがとうございます。本当にいつもエルシオーネさんには助けて頂いて……)

 

(ふふ、それはお互い様ですから)

 

 

 ──結局の所、策に果てなどない。

 どんなに十全に練り上げたつもりでも穴は生じ得る物だし、他に策を講ずる人間が居るならばまた情勢も動く。

 それでも私は自らの安全を確保するため、自らに出来るあらゆる計略を用いるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そのようにして、モモンガに注意喚起してから暫く。

 

 

(エルシオーネさん、どうしましょうか……まさかNPCたちがこちらの指示を曲解して勝手に王国の裏社会を支配し、アベリオン丘陵の亜人を半分近く征服しているなんて……)

 

 

 やはり、こうなったか。

 王国と聖王国近辺で彼らが活動する事は織り込み済みであり、策の範疇だ。

 

 だが私は、さも深刻そうにしながら

 

 

(……そう、ですか……NPCが全て同じと言うつもりはありません。私はセバスさん以外、ナザリックに所属しているNPCと接した訳ではないため、十把一絡に扱うべきではありませんから。ですが……)

 

(プレイヤーの意に反したNPCの行動──現状は前にエルシオーネさんが言っていた魔神戦争と同じ、か。……やはりNPCと相互理解なんて無理なのでしょうか?)

 

 

 そうだ。

 NPCは所詮NPC。

 フレーバーテキストで動く歪な存在に過ぎない。

 

 それは法国に今存在しているあのNPCや、かつての魔神戦争などの歴史がまざまざと示している。

 

 ──そう、思わせる事が出来かけている。

 あと一押しだ。

 

 

(……無理、とは言いません。ただどうするにせよ、時間を要する事でしょうね……)

 

(そうですか……そうですよね)

 

 

 私は決して無理と断言したりはしない。

 それは、モモンガが自身で気付くように誘導する。

 

 そもそも、私はモモンガに全NPCを排除させようなどとは当然思っていない。命令を曲解して意味不明な行動を取らないNPCならば何一つ問題は無いし、何より彼らは重大なる戦力なのだから。

 

 そのため、

 

 

(──そうなるとまずはNPCの見極めが必要でしょうね。理解云々はさておき、セバスさんのようなNPCならば活動において何の問題も無いわけですから)

 

(見極め、ですか。確かにセバスのように振る舞うならばこのような事態にはならないわけですからね)

 

 

 私の発言は正論そのものだ。

 善良な人間による親切で的確なアドバイスでしかない。

 モモンガに不利益を齎すことは一切ない。

 

 危険性が薄く、なおかつ成功率が極めて高いと思われる計画──だからこそ、私はこの『モモンガ依存作戦』を取っているのだ。

 

 

 そして、私はこの作戦におけるキーとなる策の1つを敢行する。

 

 

(……以前おっしゃっていた、モモンガさん自ら作成した唯一のNPC……その方と会う事は可能でしょうか?)

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。