絶死絶命の双子の妹にしてツアーにビビり散らかすTSエセ巫女転生者   作:チロチロ

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第15話

 

 

「ふぅ……」

 

 

 溜め息を吐きながらお湯に浸かる。

 

 ──ここは、法国内深奥にある私に与えられた浴室であり、今こうして風呂に入っている時間は──

 

 

 ここ最近の私の日常において、最も危険で気の休まらない時間である。

 

 

 ……モモンガ、ひいてはナザリックがこの世界に襲来して以来、私は常時ワールドアイテムである傾城傾国をこの身に纏っている。

 それは食事時や寝る時であっても例外ではない。

 

 理由は明白。

 転移阻害他様々なユグドラシル産の手段にて守られたこの区画に住む私を害するために考えられる一番手っ取り早い手段として挙げられるのが、ワールドアイテムまたは始原の魔法を用いた私の住居への奇襲だからだ。

 

 当たり前の話だが、普通に考えたらそれは愚行とかいうレベルを超えた何かである。

 自らの手の内を思いっきり白日の元へと晒しまくる行為であり、成功するかどうかもわからない。

 モモンガの意思に反するとか敵に回すとかいう所の話ではないし、そもそも、そこまで色々と犠牲にして私を殺して何の利益がある? という話が出てくる。

 

 つまり、メリットデメリットがあまりにも釣り合ってなさ過ぎる。

 

 そして仮にそれで私を殺害する事に成功したとしても、この世界には蘇生魔法もあるわけであって。

 

 無論、いくら蘇生魔法があるからといって私は死ぬのは絶対に嫌だ。

 

 だが、私がそのような思考回路を基にして動いているという事は他の者には知りようがない話だし、そもそも知ったとして結局の所は嫌がらせにしかならない話である。

 

 だから、白金の竜王がそれを成す可能性は考える必要が無い程に低いだろう。

 

 

 だが、嫉妬に狂ったNPC──とりわけアルベドがやる可能性がないかと言われたら……あると言わざるを得ないだろう。

 

 

 感情の暴走というのは最も恐ろしい物の1つだ。

 時にそれは理性を超越して人を──いやアンデッドや悪魔をも動かす物である。

 

 為政者が一番危惧しなければならないのは突発的災害と民による暴走。それは有史より続く永遠のテーマなのであって。

 

 

 そのため、私は防具として傾城傾国を可能な限り着用し続けなければならないのである。

 

 だからこそ、傾城傾国を脱がなければならない時間──つまりは入浴の時間こそが最も無防備な時間と言える。

 

 

 傾城傾国はワールドアイテムである所以か、汚れる事も臭いが付着する事もないから衛生面での問題はない。

 勿論、風呂に入ると同時に毎日自らの手による清掃を行い、魔法にて水気を払うというルーティンを定めてはいるが。

 

 ──その特性を活用する事で、下着だけ脱いで傾城傾国は着用したまま入浴する案を割と本気で検討した事もあるが──お蔵入りとなった。

 

 理由としては、当然の話ではあるが着衣したままだとどうしても洗い残しが発生してしまうからである。

 

 それは勿論、私の潔癖性がどうのという話ではない。

 何故なら──

 

 

 私は美しくあらねばならないから。

 

 

 ──見た目というのは『力』だ。

 ゲームでステータスとして定められる事は珍しいと思うが、現実世界ならば見目の美しさとは純然たる能力の1つである。

 

 その有用性は計り知れないものであり、私がこの身体で産まれた大き過ぎる利点の1つだ。私がハーフエルフであり、普通の人間より見た目に優れているが故に優遇された例は数知れない。

 

 勿論、有効活用する手段はきちんと考えなければ、アンティリーネのように見た目で利を得る事があまり無いといった事態に陥るわけだが……前世で男だった事がここでも活かせているという話だ。

 

 だから私は、見た目を美しく保つ為に、そして丁度いいくらいの良い匂いが私からするように保つ為に、風呂の際には断腸の思いで傾城傾国を脱いで、全裸で入浴するという──傍から見たら至極当然の行動をせざるを得ないという事。

 

 つまり、先程の溜め息は、風呂の気持ち良さに思わず出たものなどではなく、身の危険にさらされている事実に対して思わず漏らさざるを得なかったものである。

 

 

 

 そのようにして、内心でビクビクしながら私が入浴していると──

 

 

 

(エルシオーネさん、今いいですか?)

 

 

 モモンガから伝言が来た。

 

 ……今の時刻は午後7時。

 

 今良いかと聞くには少々遅い時間帯だ。そして何より入浴中だ。

 まあ、私が今何をしているかなど知りようもない話だし、こんな時間に伝言をしてくる程にはモモンガが私を頼りにしているという事の現れなのだろうが。

 

 

(今、ですか? まあ、一応大丈夫ではありますが……)

 

 

 私は裸で湯に浸かりながら返答する。

 

 大丈夫では確かにある。

 だが……いや、まあ別にいいのだが。

 

 

(ありがとうございます。出来ればお会いして話したいのですが、構いませんか?)

 

 …………

 

(それは今すぐに、でしょうか? いえ、時間帯を鑑みれば、可及の要件だろうという事はわかりますが……)

 

(やはりこんな時間だとまずいでしょうか? ただ、どうしてもいち早く相談というか、報告したい事がありまして……)

 

 

 申し訳なさそうにモモンガが言ってくる。

 その声色は、普段よりいくらか悲しげで。

 

 ……もしや、あの件か? 

 だとしたら、確かに風呂などより優先度は極めて高い話である。

 

 

(いえ、まずいという事は……そうですね、端的に言うと今入浴中でして。ただあなたがどうしてもと言うならば、今すぐ転移しても構わないのですが……)

 

(え? あ、すみません! 大丈夫です……って、入浴中? 今? それに今すぐ転移していいってつまり……)

 

 

 ……せっかくだし、少し仕返しをしようか。

 別にモモンガが意図してこの時に伝言をしてきたわけではないだろうから、彼が悪いわけではないのだが。

 

 

(……少々恥ずかしいですが、どうしても急な要件だったり、あるいはあなたが見たいと言うのであれば……)

 

(いいの!? い、いやいや! 着替えくらい待ちますよ!!)

 

(ふふ、すみません。ありがとうございます)

 

 

 まあ、意趣返しは出来た。

 

 ──今から多分、私はモモンガをひたすら励ますのだろう。

 

 その前に、少しくらいはこういう事をしても罰は当たるまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました」

 

「い、いえ。むしろ、来ていただきありがとうございます」

 

 

 転移でモモンガと合流する。

 

 彼の反応は非常にわかりやすい。

 

 私の風呂上がり直後で熱った身体。

 そして完全には乾いていない長い髪の毛。

 

 あえて髪を乾かし切っていない理由は最早今更言うまでもないが……男は普段見ない女の濡れた髪というのに色気を感じる物だと私は知っているから。

 かつて隊長で試した際に、その効果はこれでもかと言うほどに保証された。

 

 

 しかしモモンガがそんな私にドギマギするだけでなく、何やら悲しげな雰囲気を宿す事が、明らかに感じ取れる。

 

 

 これは──やはり成功したか? パンドラズ・アクター。

 

 

 そんな風に考える私に気付いてか気付かずか、モモンガは本題に入る。

 これまで以上に暗い雰囲気を出しながら。

 

 

「アルベドについてですが……結論から言うと、様々な理由により封印しました」

 

「そう、ですか……」

 

 

 やはり、その件か。

 随分と予想より早かった。

 

 

 こうなるのは遅かれ早かれだと考えてはいたが、まあ早いに越した事はない。

 

 ──以前にも少し語ったが、原作においてアルベドには、その頭脳に反してかなり甘い点が多々あった。

 

 原作で彼女はモモンガを智謀の王などと謳っておきながら、その実モモンガの事を完全に馬鹿だと思っているかのような行動を取っていた。

 

 まず、ドリームチームなどという明らかに舐めているとしか思えない理由で100レベルチームを作成。更には思惑がバレたと勘違いした際にただ土下座するだけで済ませようとした。

 仮にギルドメンバー殺しの目論みがバレたとして、土下座程度で許されると考えるなど……重ねて言うが、原作でのアルベドは完全にモモンガ……いやアインズを馬鹿にしきっているとしか思えない。

 

 他にもある。

 それこそアインズ・ウール・ゴウンの旗を投げ捨てる事もそうだ。

 

 それをして発見されたらどうなるか考えていないのか? と言いたくなるが……あまりにも自身の在り方に左右されすぎると明らかに不自然な行動を取り得るという例として、私も強く心に留めておかねばならないだろう。

 

 私の、自分の生存を最優先にした在り方もまた、彼女と似たような物と見做す事も出来るだろうから。

 

 あくまでこれらは原作での話で、この世界でのアルベドがどのような行動を取ったのかは知らないが──どうでも良い話だ。

 世の中結果が全て、とは言わないが、今回に関しては彼女が封印されたという事が全てと言ってしまってもいいだろうから。

 

 出来れば封印ではなく処分をして欲しかったが──望みすぎは良くないだろう。仮に彼女の封印が解けたとて、時さえ経ってしまえばやりようはもういくらでもある話だ。

 

 

 ──まあなんにせよ、アルベドは既に終わった人間……いや悪魔だ。

 今はそんな事より優先すべき事項がある。

 

 

「私は間違っていました。取り返しのつかない過ちを犯してしまいました。アルベドを……タブラさんの残した子供を汚してしまった。ただ……それでも、アルベドのやった事、これからやろうとした事を許せなかった」

 

 

 反省、後悔、慚愧……モモンガの言葉にはそういった感情が強く込められているのを感じる。

 

 大人は過去に縋り、子供は未来に現実逃避したがるという。

 アインズ・ウール・ゴウンとはまさしくそれだ。

 

 

「俺はきっと、ナザリックの──アインズ・ウール・ゴウンの主として相応しくないのでしょう。それを、理解しま──」

 

 

 私はそんなモモンガの言葉を遮り──

 

 

「モモンガさん」

 

 

 私は彼の目を正視しながら語りかける。

 

 

「正しさとは時代、立場、その他数々の要因によって変わります。──私たちは人間ですが……仮に神であろうとこの世界に実在し、何らかの行動を起こす時点で矛盾は生じるものでしょう」

 

「──では、どうすれば……」

 

 

 私はモモンガの手を取り、それを両の手で優しく包み込みながら

 

 

「悩み続けながら進めばいいのですよ」

 

「え……?」

 

 

 モモンガは困惑したような雰囲気を出す。

 表情こそわからないが、彼がどのような感情を抱いているのかは最早手に取るようにわかる。

 

 

「不安は決して無くなるものではありません。自分は今間違えていないのか? 自分の考えは揺らがないのか? そもそも考え自体がおかしなものではないのか……枚挙にいとまがありません」

 

 それは、私自身が散々頭を悩ませた事でもある。

 

「ですが、悩み、迷い……そうして出した答えならば、得てして価値を持つ物でしょうから」

 

 

 私は彼に微笑みかける。

 

 

「そして何より……私もモモンガさんも、1人ではないのです」

 

 

 その言葉に対するモモンガの反応は──言うまでもない。

 

 

「自分1人の正しさなど、些細な切掛や時間などでいくらでも変わってしまう物です。明確な1つの答えなど、この世界には……いえ、恐らくどの世界だろうと存在し得ない物で」

 

 

 一瞬、空気を吸って。

 

 

「ですが……一緒に悩んでくれる相手が側にいるならば、進む勇気も湧くでしょう?」

 

「エルシオーネさん……そう、ですね。私──いえ私たちは、1人ではない。その通りです」

 

 

 ……彼は明るさを取り戻した。

 モモンガは失ってしまった人間性を──再び手に入れた。

 

 

「ありがとうございます。エルシオーネさんのおかげでやるべき事、進むべき道が見えました。──そうだ。最初からそうすべきだったんだ」

 

 

 彼は何やら覚悟を決めたような、そんな雰囲気を出す。

 

 

「良かった。モモンガさんの助けになれたならば幸いです」

 

「いつも助けて貰っていますよ。ただ……これからは、俺の番です。──何があろうとあなただけは、守ってみせる

 

「……?」

 

「いえ、ただの独り言です。何にせよ……まずはナザリックに戻り、やるべき事をやってきます」

 

「はい。応援しています。……何かあればまたご連絡ください。いつでも、お待ちしておりますから」

 

「──ありがとうございます。では、また」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──計画通り。

 

 

 傷ついた男(?)の心の隙間に入り込むなど造作もない事だ。

 それが女性経験皆無のモモンガならば尚更の話でしかない。

 

 私はかつて男だったが故に、男の気持ちを理解して落とす術には長けていると思う。隊長の反応を見れば一目瞭然だとは思うが、それで上手くいった例は多々あるし、モモンガに対しても大いに役立っているのは見ての通りである。

 

 ただそれ故に、逆に女の気持ちに対する理解に欠けている部分があるという自覚がある。

 それが、私がアルベドの気持ちを一切理解できない事への一因となっているのかもしれない。

 

 それはともかく。

 私の頭の中を全てわかっている側から見れば私は明確にモモンガを洗脳しにかかっていると見えるだろうが……別に、これだけを見るならば誰かを不幸にするような行動ではない。

 それどころか、モモンガは幸せになってしかいない。

 

 アルベドに関しても、こうなったのは私のせいでもなんでもなく、単なる自滅に過ぎないのだ。

 アインズ・ウール・ゴウンの旗を地面に捨てなければ、私を抹殺しようと企てなければ、あるいはそれに準ずる何かをしなければ、こうはならなかった。

 

 モモンガが設定を書き換えたのが最初の要因であり、そして次なる要因にして最大の原因は封印されるような行動を取ったアルベド自身でしかない。

 

 

 誰がどう見ても。単なる事実として。

 私のせいには絶対にならないのである。

 

 

 ──歴史とは、善と悪の戦いの記録と言い換える事が出来る。

 人間、いや大抵の生物にとって闘争とは本能だ。

 だからこそ、悪も歴史に貢献している──というのは屁理屈や頓知の言い分だが、どうあれ悪というのは必ず生まれる物なのだ。

 

 何が言いたいのかというとつまり、善が悪を打倒し続けるのが歴史ならば、肝心なのは私が常に善に位置する事なのである。

 

 善……そう。一般人な人間が、つまりはプレイヤーが考えるであろう善なる行い、立ち位置。

 私は常にそれを意識して行動している。

 仮に一時の悪行であろうと、それは仕方がないと認識されるであろう範囲内で事を成す。

 

 これから先転移してくるであろうプレイヤーが仮にアインズ・ウール・ゴウン以上の力を持っていようと、このやり方を貫くならばどうにでもなるだろう。

 モモンガを落とすのに成功した以上、ここから100年もあれば私を絶対的な善にするのは十二分に現実的な話なのだから。

 

 

 そう。

 結局の所、私は一体何が言いたいのか、何が重要なのかというと──

 

 

 モモンガは、私の手に堕ちたのだ。

 

 

 

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