絶死絶命の双子の妹にしてツアーにビビり散らかすTSエセ巫女転生者 作:チロチロ
「お初にお目にかかります。アンティリーネ・ヘラン・フーシェと申します」
「うむ。私はアインズ・ウール・ゴウン。これからよろしく頼む」
なんてやり取りをモモンガと姉が交わすのを、私は微笑みながら横で眺めていた。
急いては事を仕損じる
という言葉が日本にはあった。
私はこれまで死力を尽くして計画に取り掛かっていたが、アルベドを排除した上でモモンガを完全に落とした以上、これからはゆっくりと事を成すべきだろう。
私は長寿種族であるため、時間はたくさんある。
ボロを出さぬようにゆっくり少しずつ行動するだけでいい。
勿論、私の立ち位置や安全性を盤石にする為には他にも色々とやるべき事はある。
とはいえパンドラズ・アクターを引き込み、アルベドを処理し、モモンガを落とす事に成功した以上既に今現在における安全はほぼ確約されていると言っていいため、下手な事をして予想外の状況を作り出す必要はないのだ。
自発的になんらかのアクションを起こし、好感度を今以上に稼ぎにかかるような真似をする意味は最早ないのだから。
そんな理由で、私はしばらく活動を控えめにしていた。
モモンガは何やらナザリックで精力的に動いているみたいだったが……私はそれに軽くアドバイスのような事というか、主にモモンガのカウンセリングをしながらゆっくりとしていた。
そうして少し経過したところ。
「エルシオーネさん、これでナザリック内のNPCの見極めは完了しました」
「お疲れ様です。これでモモンガさんのお気持ちが少しでも楽になるかと思うと私も嬉しいです」
NPCの見極め。
その基準はモモンガと私の相談により決まったものであり、一般的に見て『邪悪』かどうか、あるいは言う事をきちんと聞くかどうか……など多岐にわたる。
例えばユリ・アルファは合格でナーベラル・ガンマは不合格といった感じ。
「ありがとうございます。……そのため、次はどのような行動に出ようかをエルシオーネさんと相談したいと思いまして。……ご迷惑ではありませんか?」
「ふふ。もう、何度も言ったではありませんか。迷惑に思うなど決してあり得ませんよ」
そう言うとモモンガは表情こそわからないものの、それはもう大層感激したような様子を見せて
「……本当に、貴女という人は……いえ、今は先に進めましょう。──以前お話ししたように、そろそろ法国と接触したいと考えているのですが」
彼が言ったように、私による籠絡に成功した直後モモンガは法国のバックに着くことを私に宣言していて、その前準備込みでナザリックのNPCの見極めを行なっていた。
その仕事を完遂した以上、次なる課題はどのようにして法国と接触するかという話が来る。そうなる事は当然わかりきった話であり、作戦は
「重ね重ねとなりますが、決意していただきありがとうございます。──そうすると……そうですね。まずは私の双子の姉とお会いしてはみませんか?」
私は大きなボールを投げる。
とはいえ、ここまで来た以上は100%受け取られると確信したボールではあるのだが。
「エ、エルシオーネさんのお姉さん……ですか。以前からお話は伺っていましたが……」
「はい。私の心強い味方であり、そして姉である以上は上手く話を持っていく事は容易でしょう。そのためまずは姉から話を通し、それから最高神官長、ひいては最高執行機関に少しずつ手を伸ばしていく事が最大の安全策かと思いまして」
私があまりに無難すぎる、頭を使わずとも誰でも最初に思い付くような単純すぎる策を説明したところ、モモンガは何やら挙動不審になりながら
「は、はい。それはそうなんでしょうけど……」
「? どうしましたか? ……何か問題があるならば他の手段を……」
「い、いえ! 問題はありません!! 大丈夫です、その方針で行きましょう」
「? えっと、それなら良かったです」
──私はいかにも何もわかっていない風を出しているが、モモンガが何を気にしているかなどわかりきった話だ。
つまりはまあ、いつもの演技である。
というわけで、冒頭に戻る。
「君の妹であるエルシオーネ嬢には実に良くしてもらっているよ。だからこそ、私はとても君に会いたいと思っていてね」
「はい! 光栄です」
すっかり堂に入った支配者ムーブをするモモンガ。
とはいえ、私には彼が今どのような気持ちでいるかは手に取るようにわかる。
アンティリーネ。つまり私のただ1人の──いや、考えてみるともう1人いたか──の家族であり、双子の姉を前にしてモモンガは相当に緊張しているであろうという事が。
この場にいるのは私とアンティリーネとモモンガとセバスとパンドラズ・アクターの5名。
選抜基準は……もう今更言う必要は無いだろう。
法国上層部にも、まずはアンティリーネから引きわわせて後に最高神官長、次に、みたいな話は既に通している。
姉や隊長含め、全員に私の行動や結果を語った際には大層驚かれたし、色々言われはしたが……それはまあどうでもいい話だ。
──もっと早くアンティリーネをモモンガに紹介し、武力やタレントを活用してモモンガに私たちの有用性を示したり、NPCへの牽制をしたり等様々な事をしてもらう策も考えてはいた。
とはいえそれは勿論白金の竜王を始めとした竜王の存在を考えたらハイリスクな行いであり、やらないに越した事はない話。
つまり、今に至るまで事が全て上手く運んでいたために両者の接触がここまで遅れる事になったというわけだ。
勿論それは私にとって理想的な展開である事は言うまでもない。
前もってアンティリーネを出さざるを得ない状況というのは、要するに力を示す必要がある状況という事であり……いや、今それを考えても意味はない。
とにかく、重要なのは今私はモモンガとアンティリーネを引き合わせているという事。そのため。
「アインズ様。姉は私が法国において最も信頼している人間であり、彼女も私共々、アインズ様方と法国の繋がりに役立てるよう励む所存です」
「うむ。こちらは君に対して既に大恩ある身。それに加えてアンティリーネ殿の助力も頂けるとあれば、願ってもない話だ」
こんな感じで2人の繋ぎ役をする必要があるわけだ。
最早何もしなくとも私の望むがままになりそうな状況とはいえ、こういった場面においては油断せずに事を運ぶ。
「神様……いえアインズ・ウール・ゴウン様のお役に立てるのであれば、是非私の力をお使いください」
アンティリーネにも何をどんな風に話すべきかといった話は当然してある。
つまりはまあ、このやり取りに関わらず協力は既に約束された話。
私が今やるべき事はそれを極力スムーズに運ぶようにするだけの簡単な仕事だ。
──姉は一見こういった場であっても敬語を使わないような奔放な人間に思えるかもしれない。だが、このようにやろうと思えば礼節を示す事はできる人物である。だからこそ、最初にモモンガに接する役割を与えたのだ。もし彼女が場面に関わらず礼節を弁えない人間であれば、この役は最高神官長になっていた。
……仮に双子の妹としての私がいなければ、彼女は不遜──とまでは言わないが、ここまで丁寧な態度は取らないような性格になっていたのかもしれない。だがまあ、そんなのはどうでもいい話だ。
今ここには私がいて、そして今の性格のアンティリーネがいる。
ただ、それだけの事でしかない。
そうして2人は簡単なやり取りを経た後に。
「詳細までは聞いていないが、君のタレントは確か強力な装備があればある程強くなるものと聞いている」
このやり取りにおいて本題とも言える話にモモンガは入る。
「はい。その通りでございます。……妹は全てをお話しはしていないのですね」
「ああ。君の生命線となる能力である以上、自分の口からは詳細までは話せない、と言われてな。至極当たり前の話だ」
鷹揚に話すモモンガ。私は形式的に
「アインズ様の寛容さに感謝を」
なんて言葉を述べる。
このやり取りも無論、事前の取り決めに則ったものだ。要は、私たちは皆暗記した台本通りに会話しているという事。
忘れたら適宜伝言をすればいい話である以上、絶対に失敗は起こり得ない。
──私のこれまでの行動が、この状況を成立させた。
モモンガが。アインズ・ウール・ゴウンが。
私を通して人類に全面的に味方するというこの状況を。
「詳細はわからないとはいえ、強力な装備が多数あるに越した事はない。──そうだな?」
「はい。とはいえ偉大なる六大神の遺された神器が私にはある以上、それと同等に強力な装備となると、かの八欲王関連の武具くらいしか……」
「これを受け取りたまえ」
そう言ってモモンガが取り出したのは──
「えっ? それは……」
私はそれを見て、思わずモモンガの方を向いて驚きの声を上げてしまった。
後で聞いた話だが、アンティリーネはここでモモンガが何を渡すかを私は事前に知っていると思っていたらしく、この反応を示す私に対して少し困惑していたらしい。
だが……
──具体的に何を渡すかまでは聞いていなかったが……まさかこれをアンティリーネに授けるとは思っていなかった。
モモンガが取り出したのはとある物々しい漆黒の全身鎧。
その鎧は3層構造であり、元の所持者が1日3回使える『受けたダメージを鎧に流すスキル』を利用してどんな攻撃でも3度までは耐えることが出来るよう作られている。
物理的な強固さ特化した作りになっており、それ以外の力は無いが、逆に物理攻撃に対する強さは類を見ない性能。
──ヘルメス・トリスメギストス。
ユグドラシルにおいてワールドアイテムに次ぐレアリティを誇る超級……いや神器級の凄まじい性能を誇る鎧である。
アンティリーネの主要武装の1つである、風の神『ねこにゃん』の遺した鎧とどちらの性能が高いかは要検証ではある。
が、私が見た限りはヘルメス・トリスメギストスの方が明確に優れているように感じる。
神器級のアイテムというのはプレイヤーでもなかなか手に入らない物らしいから仕方ない話ではあるが。
──そんな超級のアイテムを姉に渡すとは……
ねこにゃんの鎧を装備する事によって使えるようになる必殺技であるエインヘリヤルは別のアイテム経由で使えばいい話だし、まさに破格のプレゼントと言える。
そして何より。
それは希少性や性能もさることながら、それ以上に重要な点として、かつてのアルベドの装備であり……
「ああ。何より、君を守るための最適な装備だと思ってな」
──そうか。
いずれそうなるように誘導する予定ではあったとはいえ、モモンガはもうそこまでに至っているのか。
実際、ヘルメス・トリスメギストスは他者を、つまり私を守ってくれるという観点で考えたら、知る限り最高の性能を持つ装備である。
……大層皮肉な話ではあるが。
つまりモモンガは既に、私を守るためならば……いや、こうなった以上、もう大切なのはそれではない、か。
「……お見苦しい姿を見せてしまい、申し訳ありません。──この場で私がすべき事はただ感謝するのみなのでしょう。──ありがとうございます、アインズ様」
そう。
私がすべき事はそんな事についての考察などではなく、私はこれからどうすべきか、彼らをどう誘導すべきかである。
法国を事実上手中に納め、パンドラズ・アクターを味方に付け、アルベドを排除し、モモンガを落とした。
ならば、次にやるべき事は?
答えはあまりにも単純かつ明快すぎる話。
それは、この段階に至るまでにおよそ1年を定めていたモモンガ籠絡作戦と違い、急ぎで行うべき話ではない。
猶予期間は、次の100年までの間──まあ、次なるプレイヤーへの備えの期間も欲しい事、時期のズレや始源の魔法の研究等を考慮すると、余裕を持って大体50〜60年くらいの間に成し遂げたいと思ってはいるが。
とはいえいくら急務ではないとはいえ、いずれ確実に成さねばならない作戦。
──奴を、抹殺する事だ。