絶死絶命の双子の妹にしてツアーにビビり散らかすTSエセ巫女転生者 作:チロチロ
「これで、もう大丈夫です。これからはもっとお身体を大事にしてくださいね」
「う、嘘だろ……? 誰に見せても駄目だったあの傷がすっかり……ありがとうございます、巫女様!」
ガゼフ関連の策を終わらせてからしばらく。
私はいつもの巫女服を着用し、髪の色を偽装し、仮面を被りながら定期業務である神殿での怪我人治療をしていた。
面倒な作業ではあるが、こういう地道な好感度稼ぎ行為により私は傾城傾国を手に入れたり、他の様々な物を得たりしたのだ。
法国の神殿内で変装していれば白金の竜王に正体がバレる心配もないのだし。せいぜい法国には凄腕の治癒力を持つ巫女が居ると噂になるくらいか。それくらい、人間種最大国の法国ならば何の不自然さも目新しさも無いから特に注目を集めることも無い。
死の恐怖は圧倒的かつ絶対的な物として私の中に存在しているし、可能ならばずっと引き篭もっていたい。が、そんな事をしては将来的な破滅は見えている話でしかないし、私はそれを決して許容できない。
時にはリスクを押して行動しなければ生き残れないというのはあの地獄にて散々味わったから。
……仮にこの場所にかの存在が直接ふらっと現れる事があるなんて場合、私はとうの昔に殺されていただろう。──まあ、来るにしても此処ではなく私たちの住居の方だろうが。
だが、白金の竜王は、世界最強の力を持つ割には力押しで行動する事が少ない。
仮にかの存在が本気で秘密を暴こうとしたならば、それは容易な事なのに。
ギルド武器の管理があるとはいえ、操った鎧状態でもそれを止められる──いや、まともな戦いとして成立させる事の出来る人間は私かアンティリーネしか居ないのだし、私たちが白金の竜王が操る鎧の前に出るなど、まさしく秘密を自ら暴露するかの如き愚行。
つまり、繰り返しになるが、かの者が知ろうと思って知れない秘密など無いのだ。
──彼がそういう性格だから助かっていると言うべきか、そういう行動を取る性分だから八欲王から生き延びてしまって残念極まると言うべきか……世界にとってはともかく、私にとっては間違いなく後者だ。
「ご苦労様『万物万能』。いつもありがとうね」
火神の神官長──ベレニス・ナグア・サンティニが私に労いの言葉をかける。
万物万能とかいう実に御大層極まる呼び名は、私の恥ずかしい二つ名だ。
私の持つ、あらゆるマジックアイテムを使用出来るタレント由来の二つ名ではあるのだが、アンティリーネの絶死絶命の方がまだかっこいいだけマシなのではと思ってしまう。
そんな内心を私はおくびにも出さず
「いえ、民を癒す事は私にとっても喜びですから。──面で素顔を晒さず、ともすれば不安を与えてしまっているかもしれない事は心苦しいですが」
なんて、いかにも清廉潔白な巫女が言いそうな発言をする。
「本当に、あなたという人は……私が昔あなたを初めて見た頃からずっとこうだものね──あなたが居るならば、これからも人類は大丈夫だと思わされるわ」
ベレニスはいかにも感銘を受けたかのような言葉を述べる。
……もう随分と長く生き、そして彼女がまだ幼子の頃からこの業務は続けているとはいえ、こうも純粋に信頼されるとやはり少しだけ罪悪感を感じる。
私はそんな殊勝な考えを持ってこんな事をしてはいない。
レベル的に当然ではあるのだが、この国で最も治癒に優れた術師は私である。
治癒術師として最も重宝される信仰系第六位階魔法である『大治癒』は、死や痛みを避けたい私としては習得が必須の魔法だった。
『大治癒』は、ただ使えるというだけならば私が教え込んだ結果アンティリーネも使用出来るし、なんなら私たち姉妹以外でも大儀式を経る事で実現させられる人間は居るが、数十年単位で個人で人々を癒すために使い続けているのは私しかいない。
今世において、この神人としての身体を持って生まれてから病気に罹った事は無いから『大治癒』は未だ自身の傷と他者の傷と他者の病気を癒やすのみの用途に留まっているが、備えておいて損は無いだろう。
この世界はゲームではなく現実世界である以上、魔法の習得はただレベルが高いというだけでは上手くいかない。当たり前の話だが、習得のためには訓練と相応の時間が必要になる。
だからこそ、原作にてアンティリーネはクレリックの職を修めているにも関わらず、第三位階魔法の重傷治癒しか習得せず、まともな信仰系バフ系魔法も何も覚えて居なかったのだから。
法国には六大神の残した文献があるため、どんな魔法があるのか等の情報は手に入れられるからその点では恵まれているし、他の環境ならば更なる時間や手間が掛かっただろうが、それでも習得の時間を0にする事は出来ない。
自力で第六位階魔法を習得した帝国のフールーダは、本当に凄まじい逸材なのだ。
結局何が言いたいのかというと、覚える魔法は私にとって有用な物に絞る必要がある、という事だ。
そのため、習得が必須である死や痛みを避けるための魔法を利用して好感度稼ぎも出来るというならば、それは私にとってまさしく一石二鳥と言える。
……つまり私が人々を癒すのは、このような打算塗れの行動でしかないのだ。
やらぬ善よりやる偽善という言葉がある。
実際、私に救われた人間は多いわけだから、私のこの行動自体は善なのだろうが……
「いえ、そんな事はありませんよ。──本当は、私の力があれば治療に限らずもっと救える方々は多い筈なのに……」
なんて、俯いて悲しむようなポーズをしながら私は発言する。
仮面を被っているために表情を変えずに済むのは楽だ。
──現状あの存在が他の何よりも私に悲しみを齎しているのは事実だから、全てが演技という訳では無いのだが。
「そうね──まったく、あの忌々しい白金の竜王め……! 世界の守護者を気取る癖に我々人類には害悪でしかないではないか……!!」
先程まで歳を重ねた女性が成せる穏やかな表情をしていたベレニスの顔が、一転して怒りに染まる。
そうだそうだー! 一生山に引きこもってろー! 白金の竜王のトカゲやろー!!
……まあ、そんな事を私が言う訳は無いが。
「……あまり怒りを露わにしてはいけませんよ。実際、客観視して考えた場合、私はかの存在の決定には理解を示せる部分もありますから……個人的な意見としてならばベレニス様がそう思うお気持ちはとてもよくわかりますが」
本当にね。
……私心はともかく、白金の竜王のせいで現在の人類はかなり割を喰っているのは事実ではある。
あの白金の竜王さえ居なければ、私とアンティリーネは自由にいくらでも動き回れた。
そうすれば、なんなら人間国家の全てを裏から支配して万全の体制を整える事だって可能だった。
私が傾城傾国を用いればエルフ王を洗脳後に始末してマジックアイテムやベヒーモスを奪い取るのも容易すぎる話だ。
ベヒーモスをエルフ王に吐かせた傾城傾国以外の何らかの手段で支配してしまえば、それを活用して安全に支配領域を広げる事だって出来ただろう。
竜王国の支援など容易な話だし、王国の暗部の抹消も容易い事。
黄金の姫を引き入れる事だって簡単だし、パワードスーツの強奪やらイビルアイを傾城傾国で支配して秘宝の情報を片っ端から吐かせるやら、ザイトルクワエの支配やら聖王国の王冠やら……いくらでも戦力増強手段は思い付く。
そして、それらを成せば人類圏以外にも手を広げる事だって出来るだろう。始原の魔法を使えないならば高レベル竜王だって洗脳は可能だ。──それらのリスクリターンは考慮する必要はあるが。
そうして人類国家を纏め上げ、可能な限り発展させ、アインズ・ウール・ゴウンを両手を広げて歓迎して守護者になって貰って大陸の支配者を人類とするのも容易に可能だっただろう。
死ぬ人間の数だって、今より遥かに少なくなった筈だ。
もっと沢山の人間を幸せに出来ていた筈だ。
しかし、それが出来ない。
私たち姉妹は、六大神の血を引く『あの女』と、八欲王の息子であるエルフ王の娘だ。
つまり、私たちはプレイヤー2人の血を引く存在。禁忌指定も当然の事だと言えるし、私とアンティリーネという、白金の竜王以外の存在が相手ならば大体勝てるような人間が実際に生まれた以上、人間種だけの視点ではなく他種族視点で客観的に考えたら白金の竜王の判断は正しいと言えるが──私を脅かすその禁忌指定は、私にとっては非常に憎らしいものでしかない。
いや、正確に言うならば、私を脅かす白金の竜王こそが私にとっては憎い相手と言える。
だが、無いもの強請り──いや、この場合はある物が消える事強請りとでも言うべきか──をしても仕方が無いのだ。
やるなら、ただ無意味に神にでも祈るのではなく、実際に現実性を持った策を敢行すべきなのだ。
「もう。本当に出来た人なんですから。──ごめんなさいね、そんな窮屈な思いをさせてしまって」
ベレニスは2つの意味における私の仮面を見つめてそんな事を言う。
「必要な事ですから。むしろ、発覚のリスクを考えたらこうして私を民に関わらせてくださるベレニス様方には感謝の言葉しかありません」
「……本当に、良い歳したこのお婆さんを泣かせてくれるわね……」
「? 今、何か仰られましたか? 申し訳ありませんが少々聞き取れなくて……」
バッチリ完璧に聞こえているというのに、我ながらよくもまあしゃあしゃあと言えるものである。
「なんでもないわ。とにかく、これが今日の報酬よ」
「報酬など……私が望んでやらせて頂いている事なのに……」
「ふふ、このやり取り、もう何度繰り返したかわからないわね。……いいから、老い先短い老人の言う事は聞く物よ?」
「……わかりました」
まるで幼子を諭すように話すベレニスからお金を受け取る。
……私の方がベレニスより年上なのだが、何故かアンティリーネ以上に私はまるで少女のような扱いを受けるのだ。
それで何か都合の悪い事が起きた事は無いし、むしろ逆に私にとって良い事ばかり齎してくれたため、好きにしてくれて構わないが……
「じゃあ、またね。絶死絶命にもよろしくお願いするわ」
「はい。ベレニス様も、お気をつけて」
そう言って、私は神殿から転移する。
……それにしても、毎度のことながら演技ばかりだったな。
このようにして、私はベレニスを含めた法国上層部の好感度を高め、同時に彼らが白金の竜王への敵愾心を強く抱くように誘導している。
これは勿論、今後の為の仕込みの1つだ。
私の生存のために掲げた、達成しなければならない大きな目標の1つ
『────』
の為の。
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