絶死絶命の双子の妹にしてツアーにビビり散らかすTSエセ巫女転生者   作:チロチロ

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第7話

 私の人生を決定付ける作戦の決行日にして、人類、いや今この世界に生きるありとあらゆる種族にとって最も大切な日。

 

 

 今この場に居るのは私と、漆黒聖典第七席次であり私の色々な努力を経る事により私に絶対的な忠誠を誓うようになった人物である『占星千里』。

 

 

「エルシオーネ様。現在、陽光聖典はトブの大森林から3里程の距離に居ます」

 

「ありがとうございます。引き続きお願い致します」

 

 

 隊長と占星千里が私の言う事を聞くようにするのは、白金の竜王のせいで基本的にほとんど動けない私が様々な作戦を実行する為には必須事項であった。

 

 私はそんな彼女を通して逐次状況を確認すると同時に、ガゼフに伝言を繋げて今彼らが何処にいるのかを聞き出した。

 

 その結果と過去散々繰り返したシミュレーション結果、各部隊の進軍速度などを鑑みた所、そろそろガゼフ率いる王国戦士隊と法国の誇る特殊部隊である陽光聖典が放った餌である下位組織が鉢合わせるであろうと予測を立てる。

 

 ガゼフ隊の村への救援はギリギリで間に合わないだろうという、原作通りのタイミング。

 

 場所は──どうやらこのまま行くと、彼らは原作とは違ってカルネ村の隣村にて事を運ぶ予定らしい。

 それは、事前想定の範疇に収まっている話だ。

 

 その事を確認してから。

 

 

(レイモン様。今よろしいでしょうか?)

 

 

 私は、かつて漆黒聖典第三席次であり、現在は土の神官長であり、各聖典のまとめ役でもあるレイモン・ザーグ・ローランサンに伝言を繋げる。

 

 

(構わないが……一体何用だ? 『万物万能』)

 

(レイモン様方は今、王国に陽光聖典を派遣していらっしゃいますね?)

 

 

 私は、自身には伝えられていない筈の情報をレイモンに話す。

 彼らがこういった後ろ暗い話を私にしないのは昔からの事で、その理由は想像がつく。

 私のこれまでの清廉な巫女としての演技の結果だろう。

 

 むしろそれは私にとって好都合であった為に、私は今まで何も言わずにいたが……今回だけは話が変わる。

 

 

(……ああ。貴女には受け入れ辛い事かも知れないが……)

 

(──そうですね。ですが、国政についての理解は有るつもりです。今回の要件は、その決定についての異を唱えるのでは無く……これより、一時的に彼らに待機命令を出す事は出来ないかと思ってご連絡致しました)

 

(一時的な待機命令? 作戦中止や撤退では無く? 一体どうして……)

 

 

 レイモンがその疑問を抱くのは尤もな話だ。

 だが。

 

 

(はい。……どうでしょうか。突然の事であり、無理を言っているのは承知しておりますが……)

 

(──神のお告げ、ですか? ……エルシオーネ様)

 

 

 彼は口調を変え、現聖典の統率者としてでは無く、かつて私に救われた一人の人間としての顔を出す。

 ……レイモンもまた、私の『勘』について知らせている数少ない人間の一人である。その事も、今日この時を想定した行動だった。

 

 だからこそ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイモンが私の依頼を承ってから少し。

 私は再びガゼフに伝言を繋げる。

 

 ここまでは万事計画通りに運んでいる。

 今までの私の行動による成果故の予定調和。

 

 問題は、ここからだ。

 

 私は自らの感情の制御に苦労していた。

 何故ならタイミング的に、もし彼らが来ているならば今このくらいの時に──

 

 

(ストロノーフ様。そちらは今、どのような状況でしょうか? 先程から経過した時間を鑑みるに……次の村にはご到着なされたのですよね?)

 

(ああ。村にはどこかの国の兵たちが襲撃しに来ていたようだが、それを此処に居る魔法使いの御仁が救ってくれたようだ)

 

 

 来ている。

 彼らが、来ている。

 

 

 アインズ・ウール・ゴウンが。

 

 

 私は自らの心臓が激しく動くのを感じる。

 身体中から汗が吹き出す。

 

 落ち着け。

 大丈夫だ。

 何度も何度もシミュレーションして来たじゃないか。

 

 私は緊張から思わず息が荒くなりそうになるが……どうにか堪えてガゼフとの伝言を続ける。

 

 

(魔法使いの、御仁……そのお方はどのようなお人なのですか?)

 

(アインズ・ウール・ゴウンと名乗る、誠実だが何やら底知れなさを感じさせる御仁だ。……そうだな、これ程の人物は……まさしく巫女以来だと感じる程か)

 

(なるほど……理解しました。そうすると、やはり……)

 

 

 私はここで間を一拍置く。

 いかにも今状況を整理していますよ、といった風に。

 そして──

 

 

(ストロノーフ様。──今から私が転移にてそちらに伺おうと思うのですが、ストロノーフ様はよろしいでしょうか? もしそうであれば、その魔法使いのお方にも許可を得て頂けるとありがたいのですが……)

 

(何? 今から巫女が此処に? ……いや、そうだな──俺は構わないから、これからアインズ殿に聞いてみよう。少々待っていてくれ)

 

(はい。お願い致します)

 

 

 普通に考えたら、この状況ならば別にわざわざガゼフを通してこんな事しなくても転移してしまっても何の問題も無いだろう。それで怒り出すなどどう考えても意味不明で、怒る方が悪いと認識されるような所業でしかない。

 

 だがここで肝心なのは、私がちゃんとそういう確認をする人間なんだ、危険人物ではなく話が通じる相手なんだと知らせる事だ。

 そうして少し待っていると……

 

 

(許可を得られたぞ。いつでも来て構わないそうだ)

 

(……ありがとうございます。では、早速……)

 

 

 心臓がバクバクする。

 

 落ち着け。大切なのはここからなんだ。

 今までこの時の為に行動してきたんじゃないか。

 作戦を立て、様々な人々の人生を変えて……全ては今、この時の為に。

 

 

 そうして私がガゼフの下へ転移すると──

 

 

 嫉妬マスクを被り、全身を数々のマジックアイテムで覆った存在──モモンガが、そこに居た。

 

 

 落ち着け。

 大丈夫だ。私なら出来る。

 

 彼は村を助けるくらいには良識のある人物──いやアンデッドだ。

 だから、交渉の余地はある。いきなり殺されたりはしないんだ。

 

 ……私はもう何度同じ事を自らに言い聞かせているかわからない。

 

 だが、そうでもしなければ──この恐怖を誤魔化す事が出来ないから。

 

 

 私はモモンガと側にいる全身鎧を身に付けた、アルベドと思しき存在を一瞬見つめ、その後ガゼフの方を向く。

 

 ──勿論、ここに至っては最早ガゼフの優先度は全く高くない。

 だがモモンガは、少なくとも原作ではこういう状況下でガゼフを放り投げるような事を良しとしない人物だったから。

 

 以前会った時とは違い、髪の色や目の色を偽装せず、傾城傾国を着用して転移して来た私に見つめられたガゼフが口を開く。

 

 

「巫女よ。久しぶり、と言う程期間が空いている訳では無いが、壮健で何よりだ。あの時とは随分と見た目が違っているようだが──それが、巫女の本当の姿という事か」

 

「はい。お久しぶりです、ストロノーフ様。そして──」

 

 

 私は『彼』に向かって膝をつく。

 

 

「初めまして──いえ、お待ちしておりました。──『嫉妬マスク』様」

 

「──何!?」

「!?」

 

 

 モモンガとアルベドは露骨に驚愕した姿を見せる。

 ──大丈夫。

 この二人ならば、いきなり襲い掛かって来たりはしない筈。

 

 私は内心ではもうずっと恐怖に震えている。

 思わず涙が溢れ出してしまいそうだ。

 だが、決してそれを出すわけにはいかない。

 

 ──これは、人生を賭した交渉なのだから。

 

 

「私が何を言いたいのか──伝わっていただけると幸いです」

 

 

 周りを見渡しながらこれ見よがしにそう言う。

 

 そこには私の突然の発言と行動に困惑の表情を浮かべたガゼフと、最早状況への理解を放棄しているかのような様子を見せる村長が居た。

 

 他の人間にプレイヤーだの何だのという話を聞かせるわけにはいかないという意図が伝わるかどうか──いくらなんでも流石に大丈夫だとは思いたいが。

 

 

「ああ、なるほど。──理解した。ならば、場所を変えようか?」

 

「はい。その前に──少しだけ貴方様に伝言の魔法を使用してもよろしいでしょうか?」

 

 

 それは一見すると何気ない一言。

 だが、私にとってはあまりにも重要過ぎる提案。

 これが、通れば──

 

 

「──いいだろう」

 

「感謝します。──では」

 

 

 私は早速モモンガに伝言を繋げ──

 

 

(あの、随分と昔の記憶なのでかなりあやふやではあるのですが──先程伝言でストロノーフ様からお聞きしたお名前とその格好から……ひょっとして、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のモモンガさんではありませんか?)

 

(え!? もしかして──知り合いの方でしたか!!)

 

 

 モモンガが露骨に動揺した様子を見せる。

 私をプレイヤーと見たか、口調も敬語になっていた。

 

 それを見て、私は内心で強くガッツポーズを握っていた。

 

 

 賭けに、勝った。

 

 この存在の名前は、正しくモモンガであった。

 

 そして私は、『アインズ』では無く『モモンガ』を知っている。

 その認識を、植え付けることに成功した。

 

 

(やはりモモンガさんでしたか……だとすると、話したい事が山ほどありますし、モモンガさんも聞きたい事が山ほどあるでしょうから──場所を変えてから続きはお話ししませんか? ストロノーフ様や襲撃犯の件もありますし)

 

(あ、はい。わかりました。──いや、まさかこうも早く私を知っているプレイヤーと会えるとは……)

 

 

 私は彼と知り合いだとは一言も言っていない。

 だが、モモンガは自らを知るプレイヤーと会えた驚きからかそれに気づかないらしい。私は自らがプレイヤーだとも言っていないのに。

 勿論、この反応は実に自然な反応だ。一般人そのものの反応だ。

 仮に私たちが逆の立場になったとしたら、私は全く同じような事になるであろう反応だ。

 

 

 つまりモモンガの、疑り深さが消えている。

 

 

 ──だからこそ、このパターンならば……

 

 

(ふふ、わかります。それにも理由はあるのですが、これから全てお話ししますよ)

 

(ああ、ありがとうございます! ほんと、こっちに来てから右も左もわからなくて……)

 

(そうですよね。私も昔は──)

 

 

 そうして、モモンガが側に居たアルベドに着いてこないよう言いつけ、私がガゼフと村長に軽いやり取りをしてから、私とモモンガは伝言にて雑談しながら離れに向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これで、はっきりとした。

 

 モモンガの人格は、原作のそれと変わらない。

 

 そして、その状態で尚且つまだ足元が定まっていない初期のこの時期に彼と関わる事が出来た。

 つまり、それは私が兼ねてより計画していた中でも最善と思われる策を敢行して良いという事を意味している。

 

 物事は初動こそが大事だ。

 原作知識により、誰よりも早く初動を的確に成せる事こそが私の一番のアドバンテージだ。

 

 むしろ、この策は彼が未だNPCへ不信感を抱いている今この時期にしかチャンスが無いのだ。

 だからこそ、私は犠牲を許容してでもどうしてもこの速さでモモンガとの関わりを持ちたかった。

 

 この作戦は、リスクリターンを考えたら間違いなくやるべきだ。

 成功したら私の半永久的な安全は約束されており、完全なる成功とはいかずとも、ある程度までいくだけで甚大なるメリットを齎してくれる策。

 

 性転換により男の気持ちを理解する女であり、原作知識を持つ私でなければいけない手段。

 

 達成したら私だけでなくアンティリーネも、法国も……ひいては人類に絶大なる利を導く戦略。

 

 

 

 

 

 

──私はモモンガを、ナザリックではなく──

 

 

 

『私に、依存させる』

 

 

 

 

 

 

 

 




本編開始。

ストックは完全に無くなりましたが、キリのいいところまで書こうと思ってこの話までは毎日更新出来るよう頑張りました。
これも皆様の誤字指摘、感想、高評価のおかげです。
これからもよろしくお願いします。
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