絶死絶命の双子の妹にしてツアーにビビり散らかすTSエセ巫女転生者   作:チロチロ

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第9話

 私たちは様々な会話を終え、村長とガゼフ、そしてアルベドが待機する家へと戻る。

 

 ちなみに、先程ガゼフを起点に転移した時は髪などを偽装してはいなかったが、村長の家を出る際にはアイテムにて偽装して面を着用してから出た。

 

 転移先が村長の家でなければ、もっと言うならば一般戦士や村人に見られるような場所だったならば最早隠そうが無意味なために変装はしなかっただろうが、せっかく屋内に転移出来た以上、見られる人間の数が少なくなるならそれに越した事は無い。

 とはいえ、最初から変装した状態で転移してはモモンガからの印象が今よりは悪くなっただろうから……まあ、要は優先順位の問題だ。

 

 傾城傾国は着用したままだが、これに関してはモモンガが通称モモンガ玉、アルベドが真なる無を装備している以上は白金の竜王の感知を恐れて外す意味は最早無い。

 これからも、モモンガと共に行動する際には常時傾城傾国を着用して活動する予定だ。

 

 まあ、だからといって白金の竜王からの感知から避けられるようになったという訳では当然無い。

 赤信号はみんなで渡っても普通に怖い。けれど、それはもう仕方のない事だから。

 

 

 それはともかく、私は面を外し、ガゼフと村長の方を向く。

 

 

「話は纏まったのか? 巫女よ」

 

「はい。未だ話し切れていない事は数多くありますが、ひとまずこれから来る襲撃者の本隊についてどう対応するのか、までは纏まりました」

 

「え?」

「……何? これから来る襲撃者……?」

 

 

 村長とガゼフの当然の疑問に答えず、私は

 

 

「あらかじめ謝罪申し上げます。……本当に申し訳ありません、ストロノーフ様──『魔法抵抗難度強化』『睡眠』」

 

「な…………」

 

 

 ガゼフと村長は私の放った魔法に抵抗する事叶わず、眠りに付いた。

 

 ──ここでガゼフと会話をしてしまうと、誇り高いガゼフは私とモモンガに任せず自ら陽光聖典へと挑むと主張する事が想定される以上、どうしてもマッチポンプによる齟齬──具体的には、モモンガには襲撃者が私の所属する法国の部隊とわかっているにも関わらず、そんな彼に善人ぶりながらガゼフを説得しようとする私の姿を見せる事になってしまう。

 それは、避けなければならない。

 

 だから、こうして襲撃者が現れたと伝えたタイミングにて問答無用で眠らせる必要があった。

 

 

 私は自嘲するような笑みを浮かべながらガゼフに近づく。

 

 

「……こうなってしまった以上、私とストロノーフ様の繋がりは解消、ですか。──かつてあなたに託した指輪も……お返しして頂きます。重ね重ね申し訳ありません、ストロノーフ様。──さようなら」

 

 

 私はガゼフの指からかつて預けた指輪を抜き取った。

 可能ならば現在はガゼフが装備している、始原の魔法で作成したという指輪も欲しいのだが……今、それをする訳にはいかない。

 

 

「……いいのか? 君はわざわざ個人としてコネクションを構築する程に戦士長を気に入っているのだろう? ……それに」

 

「──大丈夫ですよ。ありがとうございます。──確かに個人的感情としては残念極まりますが、仕方のない事なので」

 

「……そうか」

 

 

 私にとって、ガゼフにもう役割は無い。

 今後の計画を考えると、私たちがこれから会う可能性が全く無いとは言わないが、会った所で何をすると言う事は最早無いのだ。

 

 だが……個人的には、ガゼフという1人の英雄には期待や憧れなど──思う所が沢山ある。

 

 彼自身には、確かにもう世界や人類単位で何か出来るような力や役目があるわけでは無い。言い方は悪いが、良くも悪くも力や運命に翻弄されるだけで、自らの実力で何かを変えたりする事は出来ない人間だ。

 

 けれど、仮にそうだとしても、ガゼフという1人の人間の輝き──それは、非常に得難く尊い物だから。

 

 だからこそ、こんな作戦を取ったとも言える。

 ……いや、今更何を言おうが、もう終わった話だ。

 

 

 

 

 

 

 そうして再度仮面を被ってから、モモンガとアルベドと共に私は家を出る。

 

 

 周りを見渡し……そうだな、彼女がいいか。

 

 

「『魔法効果範囲拡大化』『魔法抵抗難度強化』『睡眠』」

 

 

 私は見渡す限りの村人とガゼフ傘下の戦士たちを、先程適当に見繕った1人の村人を除いて眠らせた。

 

 

「……え? い、一体……」

 

 

 当たり前の話だが、周りが突然眠った事実に困惑した様子の女性に話しかける。

 

 

「今から私たちは襲撃者の本隊と戦いに行きます。──申し訳ありませんが、皆さまをお願いします。しばらくしたら目覚めますので」

 

「え、し、襲撃者の本隊……? あ、わ、わかりました」

 

 

 仮面越しではあるが、じっと見つめる私の圧に負けた彼女は頷いて了承した。

 まあ圧倒的な力を持つとわかっている仮面を被った2人と全身鎧で固めた1人を前にしたら、普通はこうなる。

 

 彼女1人だけ眠らせなかった理由は、最早説明不要だろう。

 私が今後この村に戻る事が無い以上、信憑性の観点からモモンガ陣営以外の語り部は必要だ。

 

 

 ……これで、モモンガと、彼に命令されたのか先程から黙って状況を眺めるのみのアルベドに私の有用性を示せた筈。

 具体的には、私はただの清廉潔白過ぎる正義漢などではなく、策略を練り、それを実行する能力もある存在であり、必要とあらば多少の謀略を許容出来る人間なのだと。

 

 そしてそれを、モモンガからの心象を悪くせずに成す事が出来た。

 

 100点満点だ。

 だから、こうする事は必要な事だったのだ。

 

 ……それでも私は、一抹の寂しさを感じずにはいられないまま次の作戦へと向かった。

 

 

……本当に、良く似ていますよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 法国の誇る精鋭部隊、陽光聖典の隊長であるニグン・グリッド・ルーインは、現在の状況に少々苛立ちを感じていた。

 

 陽光聖典は、入隊条件として第三位階の信仰系魔法詠唱者である事が必須であり、加えて肉体的、精神的、そして何よりも信仰心が優れている者が選抜される。

 

 計45人にて王国に訪れた彼らは、人類にとって重大な任務──人間種繁栄のために周辺国家最強の男、ガゼフ・ストロノーフを抹殺する──のため、心身を研ぎ澄ませていた。

 

 それにも関わらず、彼は上官のレイモンから突然任務の変更と撤退を命じられたのだ。

 その内容を聞いた時は思わず、レイモンは冗談を言っているのでは? と考えてしまったような荒唐無稽な任務──突如現れた正体不明の強大な魔術師を法国の最重要人物が味方にしようとしているから、不興を買わぬ様、そして王国民から疑われぬように程々に威力偵察をしてから撤退しろ──などという巫山戯たものだった。

 

 

「しかし……一体何者なんだろうな? その魔術師とやらは。そしてその法国の最重要人物とやらは」

 

「わからん。ストロノーフより遥かに強大な力を持つ魔術師などと言われたが……どこまで信じたものやら。ましてや法国の最重要人物とやらがそもそも一体何故こんな場所にいるのか……」

 

「せっかく、ストロノーフが我々の放った餌に食い付いたところだったというのに……」

 

「口を慎め。神官長からの命令だ。我らは黙って従えばいいのだ」

 

 

 雑談を交わす部下にニグンが叱責して気を引き締めさせる。

 

 

 ……部下にはこう言いつつも、部隊で最も不満を抱いている人物は間違いなくニグンだという自覚はあった。

 

 そもそも、殲滅を得意とした彼らが要人暗殺などという向いていない任務を与えられた時点でニグンは物申したい気分が少しあったのだ。

 

 とはいえ、それだけならば上官命令だからと自らを納得させる事は出来たのだが、その作戦が佳境に入り、成功を確信した所で突然の待機命令。

 

 そして挙げ句の果てに、謎の魔術師を味方に付けたいから天使を用いて程々に実力を確かめた上で撤退せよ、などと……

 

 ニグンは信仰深い信徒とはいえ、1人の人間でもある。

 上にも色々と事情があるのはわかっているとはいえ、そんな指令を下されては不満を抱かずにはいられなかった。

 

 なんて、考えていた所。

 

 

「……現れたか」

 

 

 仮面を被った魔術師と、全身鎧の存在、そしてこれまた仮面を被りながらも、何やら神々しさを感じさせる服を身に纏った少女らしき存在がニグンの視界に入った。

 

 あれが魔術師とその護衛、そして法国最重要人物とやらはあの少女といった所か。

 

 

 ──その3人は確かに異様な空気を醸し出す存在ではあった。

 だが、ニグンや部下たちが思わず目を見開いて注視してしまったのは、その3人とはまた更に別の存在。

 

 

「……何だ? あのモンスターは……」

 

 

 部下の1人が声を震わせながら疑問を口にする。

 それは、その場にいた皆の総意であった。

 

 

 陽光聖典が見ていたのは、3人の後ろに立っていた──おぞましき死霊の騎士とも呼ぶべき存在だった。

 

 身長は2メートル以上。身長と同じように、体の厚さも爆発的に増大している。最早どこからどう見ても人ではなかった。

 

 左手には恐ろしく巨大な盾──タワーシールドを持ち、右手にはフランベルジェ。両方とも本来なら両手で持つべき巨大な武器だが、この巨体は片手で容易く持っている。

 巨体を包むのは黒色の全身鎧。血管でも走ってるかのように真紅の文様があちこちを走り、棘を鎧の所々から突きたてて異様さをまざまざと示す。

 兜は悪魔の角を生やし、開いた顔の部分から覗くは腐り落ちかけた人のそれ。ぽっかりと空いた眼窩の中には生者への憎しみと殺戮への期待が煌々と赤く灯っていた。

 

 そして何より──明らかに強大さが伺えるそのモンスターが──

 

 3体、居た。

 

 

 呆けたようにその化け物──デス・ナイトを見つめるニグンたちをひとしきり眺めた魔術師が、陽光聖典を指差す。

 

 

「では──行け」

 

「「「オオオァァァアアアアアア──!!」」」

 

 

 咆哮──。

 聞くものの肌があわ立つような叫び声が響く。殺気が撒き散らかされ、ビリビリと空気が振動する。

 

 3匹のデス・ナイトが駆け出す。

 その動きはまさに疾走。生ある者を──ニグンたちを抹殺せんと駆けてくる。

 

 

「て、天使を! 天使を召喚せよ!!」

 

 

 戦慄からいち早く立ち直ったニグンが部下に命令する。

 そこは流石、歴戦の隊長といった所。

 

 

「「「『天使召喚』!!」」」

 

 

 現れるは神に仕えし天使たち。

 全員が第三位階魔法を使いこなす陽光聖典の最も得意とし、一番信頼する召喚魔法である。

 陽光聖典は、この天使を用いて数々の強敵を打倒してきた。

 凶悪なモンスターに、竜王国を襲うビーストマン──どれも強かったが、天使の圧倒的物量の前には膝を屈した。

 

 

 そうして、彼らはそんな天使をデス・ナイトに差し向け──

 

 

「「「オオオォォォ──ー!!」」」

 

 

 まるでゴミのように粉砕されていく天使の姿を目の当たりにした。

 

 天使の剣はデス・ナイトに一切のダメージを与えているようには見えない。

 それは3体がどれも苦痛を感じないアンデッドが故なのか、そもそも攻撃が全く効いてすらいないのか──彼らにはさっぱり区別が付かなかった。

 

 そして、逆にかのアンデッドの1撃は、天使をまるで羽虫が如く打ち砕く。

 

 ──それは、勝ち目などまるで見えない虐殺であった。

 

 

 そして、デス・ナイトの眼窩の中の赤き光がニグンを捉え──

 

 

「て、撤退! 撤退せよ──っ!!」

 

 

 何だあれは。

 これのどこが軽く当たって撤退しろ──だ。

 

 ガゼフより強大な存在? 一体何を言っているのか。

 どう見てもそんな程度のレベルじゃないだろう。

 

 レイモン神官長の判断は正しかった。

 あんな物、あんなおぞましいアンデッドを3体も操る魔術師を敵に回すなど、愚か極まる話だ。

 一体どこの命知らずがそんな事を望むというのか。

 

 

 願わくば、あの少女がどうにかしてかの強大なる魔術師を味方に付けん事を──それが叶わずともせめて自分に矛先を向けないようにして欲しい──と彼らは心底願い、蜘蛛の子を散らすようにして撤退していった。

 

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