評判が良ければ続くかもしれません
石杖綱吉は役者である。
しかもただの役者ではなく、男性でありながら様々な母親の役をやっている役者であり、ママの人として有名になっているのである。
何故そんな奇妙なことになっているのかというと、石杖綱吉が子役時代に、あるドラマで、生まれ変わって女児になった母親の役に選ばれたことが最初の切っ掛けだったと言えるだろう。
完璧に母親の役をやり遂げた石杖綱吉が大人気となり、ドラマはシリーズ化され、数年間続いた。
成長した石杖綱吉が見事な女性の声を出すことが可能であったこともシリーズ化された理由の1つであったらしい。
また石杖綱吉の母親が見たいと思った業界関係者がいたようで、男子中学生でありながら母親の役がまわってきたことに困惑しながらも母親の役をこなした石杖綱吉。
今度は別のドラマで、身長差のある息子を叱る肝っ玉母ちゃんという役だったが、快活な母親の役をこなした石杖綱吉に業界関係者は、石杖綱吉の演技の幅が思っていたよりも広いことに気付く。
それでもやっぱり母親の役を石杖綱吉にやってもらいたいと思った業界関係者は、ある映画の主人公の母親役に石杖綱吉を抜擢した。
映画の主人公が幼い頃に病で死んでしまうが、主人公の心に残る折れない芯となる言葉を遺す重要な役であり、最終的に全てを護りきって宿敵を倒し、死の寸前の主人公の前に現れて、主人公が頑張ったことを褒めて消えていく母親という役。
母親に褒められて子どものように純粋な笑顔で死んだ主人公は、とても良い顔をしていたようで、業界関係者は他者の素晴らしい演技を引き出す石杖綱吉の可能性に更に期待していたようだ。
石杖綱吉の次の役はドラマで、悪役である母親であり、優しく育てられてきた子どもに、その優しさが嘘であったことを伝えて絶望を与えるという役だった。
しかし母親役をやった石杖綱吉の演技が凄すぎて、子ども役の役者がガチ泣きするというアクシデントがあってお蔵入りになるかと思われたが、そのガチ泣きが絶望の表情にベストマッチしていた為に、そのまま使われることになって、視聴者達には伝説の回と言われるようになったようである。
様々な母親の役を役者としてこなし、男性でありながら母親の役なら、右に出るものはいないと言われるまでになった石杖綱吉。
有名になっていたとしても様々な母親の役をやることに躊躇いがなくなっている石杖綱吉は、今日はCMの撮影に来ていた。
CMは親子で作るカレーのCMであり、その母親役に選ばれた石杖綱吉は服を着替えてメイクをしてカツラを被り、エプロンを着用して子ども役の相手を待つ。
料理上手な娘役は誰が選ばれるのかと思っていたら、高校の同級生である夜凪景が現れて驚いた石杖綱吉だが、いつもとやることは同じだと気を引き締めた。
石杖綱吉が娘役の夜凪景と一緒に料理を作る母親の役をこなしていると、料理を作り終えたところで「お母さん」と言いながら夜凪景が石杖綱吉に抱きつく。
「あらあら甘えん坊ね」と言いながら優しく微笑んで夜凪景の頭を撫でる石杖綱吉は、まるで本当に夜凪景の母親であるかのように、誰の目にも見えていたようだ。
夜凪景が本当の母親を思い出してしまう程に、石杖綱吉は母親を演じる役者として完成されていた。
CM撮影は無事に終わり、後は帰るだけとなった役者達。
カツラを取って、メイクを全て落とし、服を元に戻した石杖綱吉が帰ろうかと思っていたところに近寄ってきた夜凪景。
何の用かと思っていた石杖綱吉に「本当に男の人だったのね」と驚いていた夜凪景は「貴方のおかげで、本当のお母さんのことを沢山思い出せたわ、ありがとう」と言って感謝をする。
「それとその」と言いづらそうにしていた夜凪景を石杖綱吉が促すと「お母さんってまた呼んでも良いかしら」と言ってきた夜凪景に「構わないわよ」と女性の声で言って笑った石杖綱吉。
カツラもメイクもしておらず服装も男性のものであったが、夜凪景は、そんな石杖綱吉に優しい母親の姿を見たようだ。
黒山墨字は、石杖綱吉と夜凪景のやり取りを見ていたが、苦々しい顔をしていた。
どんな母親でも母親であるなら演じられる石杖綱吉と、まだ未熟な夜凪景を共演させてみた結果、石杖綱吉に全部喰われたと黒山墨字は感じていたらしい。
今の夜凪景では敵わない役者であると石杖綱吉を認めていた黒山墨字は、まだ原石である夜凪景を磨いて成長させる必要があると考えていた。
それから数日後、ウルトラ仮面に出演することになった石杖綱吉は喫茶店を経営する母親の役をやることになり、迷っていたウルトラ仮面にコーヒーを提供しながら道を示すという役をこなす。
この1回だけの出演で終わりかと思えば、ウルトラ仮面で喫茶店は何回も使われるようになり、準レギュラーとなった喫茶店の母こと石杖綱吉。
その関係でウルトラ仮面役の星アキラとも交流することになった石杖綱吉は、星アキラを友人と呼べるくらいには仲良くなる。
色々な話をした石杖綱吉と星アキラは、最後に自分達という役者についての話をすることになり、真剣に話をした。
星アキラには主役になる才能はないのかもしれないが、脇役として主役を輝かせる才能はある。
その結論に至ったのは、ウルトラ仮面で喫茶店の母親がメインになる話があった時に、普段の主役の時よりも星アキラの演技が良かったからだった。
スターズの役者としてそれで良いのかと葛藤する星アキラに、石杖綱吉は「アキラは本物の役者になりたいって言っていたね、脇役だって大事な本物の役者だ」と大切なことを教えていく。
「脇役がいるからこそ輝く主役だっている。アキラが星アリサの息子だから絶対に主役をやらなきゃいけないって決められてる訳じゃない」と言いながら石杖綱吉は星アキラを真っ直ぐな眼差しで見ていた。
「脇役でも主役でも役者であることには変わりはない。母親しかできない俺とは違ってアキラには可能性がある」と言った石杖綱吉の言葉を真剣に聞く星アキラ。
「だから、アキラは、なりたい自分になって良いんだよ」と言って笑った石杖綱吉に、実の母親には感じたことがない母性を確かに感じた星アキラは「綱吉は本当に優しいお母さんみたいだな」と思ったらしい。
それから役者として一皮剥けた星アキラは、ウルトラ仮面としても活躍していき、脇役として主役を輝かせる役者にもなった。