アクタージュのママの人   作:色々残念

16 / 22
憑依型カメレオン俳優にも母親だと思われる男子高校生

石杖綱吉が母親の役で参加する舞台の稽古は順調に続いていき、昼休憩に入ると全員で輪になって弁当を食べていく劇団天球の面々と石杖綱吉。

 

会話をしながら仲良く弁当を食べる劇団天球の面々を見て、優しい顔で微笑む石杖綱吉を見た明神阿良也は「演技してない時も石杖は母親に見えるね」と思わず話しかけていた。

 

「よく言われますよ。意識していなくても自然と素が母親っぽいらしいですね」

 

「俺は嫌いじゃないし、良いと思うよ。それが石杖の武器の1つになってるんじゃないかな」

 

「確かに武器にはなってますね。イメージした母親の役に入るのに特に抵抗がないのも、素がこんな感じだからかもしれません」

 

「経験を喰って、他人を喰って役作りする俺とはやっぱり違うよね石杖は」

 

「明神さんの役作りは役者の中でも独特なような気がしますよ。以前、舞台の西遊記で孫悟空を演じる時に、実際の猿から動きを取り入れて完全に獣の動きをしていましたよね」

 

「猿と一緒に暮らそうかと思ったら流石にそれは止められて駄目だったから、仕方なく間近で猿の動きを観察するだけ観察して取り入れた獣の動きは、孫悟空には合ってたと思うよ」

 

「明神さんの孫悟空は野生のリアリズム芝居って感じでしたね。西遊記の舞台も大成功してたみたいで良かったです」

 

会話をしながらも弁当を食べていった石杖綱吉と明神阿良也は、食べ終えた弁当のプラ容器を捨てると、身体を軽く動かしてほぐす。

 

それから昼休憩も終わりとなり、劇団天球の舞台の稽古は更に続いていった。

 

家族にとって、まるで太陽みたいな母親を演じる石杖綱吉は、眩く輝くような素晴らしい笑顔で台詞を言う。

 

明神阿良也と共演する場面でも、太陽のように優しい母親を自然に表現していた石杖綱吉。

 

読み合わせの段階を越えて、格段に質が向上した明神阿良也の芝居に負けることのない石杖綱吉の芝居に、稽古を見ていた劇団天球の面々は喜んでいた。

 

芝居をする時、明神阿良也には、心の中で声が聞こえている。

 

それは劇団天球の皆の声であったり、亡くなった巌裕次郎の声であったりするようだ。

 

心の中の皆の声が、自分が自分だと忘れさせないでくれるからこそ明神阿良也は芝居に飲み込まれることはない。

 

現実と芝居の狭間で危うい演技を見せることもなく、自分を見失うこともない明神阿良也は、憑依型カメレオン俳優として見事に役を演じていく。

 

大袈裟なのにリアルで、動作から感情が伝わってくる芝居を見せている明神阿良也は、以前行った舞台の銀河鉄道の夜を経て、役者として一皮剥けていた。

 

今までとは比べ物にならない明神阿良也に見劣りすることなく、張り合っていた石杖綱吉という役者を劇団天球の面々が認めていることは確かだ。

 

優しくてお茶目で、トロピカルフルーツに詳しい母親を演じていく石杖綱吉。

 

マンゴーやパパイヤにキウイに関する詳しい情報をすらすらと教える母親は、まるで植物図鑑のようである。

 

太陽のような笑みを浮かべながら母親の役を演じる石杖綱吉が、本当に母親のようだと、この場に居た誰もが思った。

 

それは明神阿良也も例外ではなく、芝居をしている石杖綱吉が完全に優しい母親に見えていて、それがあまりにも自然だと思った明神阿良也。

 

まるでそんな母親が現実に存在しているかのように自然で、それが芝居とさえ感じさせない。

 

芝居が上手いというレベルでは表せられない程にリアルで、そこに母親が居ると誰もが思う。

 

そんな役者と共演できることに喜びを感じていた明神阿良也の目には、メイクも衣装もカツラもない石杖綱吉のことが、完全に母親にしか見えていなかった。

 

劇団天球の面々は舞台の稽古で日数を費やしていき、全員が真剣に稽古に取り組む。

 

舞台の公演までは残すところ、あと1ヶ月となり、今日は屋形船を貸し切って全員で宴会をすることになったようだ。

 

飲んで食べて騒いでいる劇団天球の面々を眺めていた石杖綱吉に向かって「楽しんでるか綱吉!」と話しかけてきた青田亀太郎。

 

「未成年ですから酒は飲めませんが、宴会の雰囲気だけは楽しんでますよ」

 

笑顔で答えた石杖綱吉に、完全に酔っぱらってできあがっている青田亀太郎は「船の先頭でタイタニックやろうぜタイタニック!」と提案してきた。

 

「やろうぜやろうぜ」と石杖綱吉の手を引っ張る青田亀太郎を蹴りで押し退けた三坂七生が「ボディチェックの時間よ綱吉!」と言いながら石杖綱吉の身体を触り始めていく。

 

「相変わらず良い腹筋してるじゃないの綱吉!」

 

にやけながら腹筋を撫で回す三坂七生の手から逃れた石杖綱吉は、隅っこに素早く避難する。

 

そんな感じで酔っぱらい達に絡まれながらも再び静かに宴会を眺めていた石杖綱吉に近寄ってきた明神阿良也。

 

「亀と七生に絡まれてたね。大丈夫?」

 

「何故か、また腹筋触られましたけど大丈夫です」

 

「七生は石杖の腹筋気に入ってるみたいだから」

 

「何故」

 

「何でだろうね、俺にもわからないよ」

 

首を傾げる明神阿良也は、本当に不思議そうな顔をしていた。

 

正座で座っている石杖綱吉の近くに横になった明神阿良也は「石杖はさ、子守唄も歌えるのかな?」と聞く。

 

「歌えますよ、歌いましょうか」

 

「是非とも、聞いてみたいね」

 

明神阿良也がそう言ったので子守唄を歌うことにした石杖綱吉。

 

声色を女性の声に変えて歌い始めた石杖綱吉の子守唄を聞いていた明神阿良也は、とても綺麗な声で歌われる子守唄をいつまでも聞いていたいと感じていたようだ。

 

瞼を閉じて子守唄を聞いていると意識が徐々に遠のいていく明神阿良也は、寝てしまいそうになる意識を必死に繋ぎ止めていく。

 

しかし石杖綱吉が歌う子守唄が終わりに差し掛かる頃には、耐えきれなかった明神阿良也は眠ってしまっていたらしい。

 

明神阿良也のその寝顔は、まるで子どものような顔をしていた。

 

貸し切りとなっていた屋形船から降りることになった時に眠っている劇団天球の面々を揺らして起こしていく石杖綱吉。

 

目覚めた明神阿良也は「石杖の子守唄の睡眠導入効果は凄いね」と感心した様子で言う。

 

翌日から本番の公演まで、稽古を続けていく石杖綱吉と劇団天球の面々。

 

日に日に良くなっていく全員の演技が、稽古の成果であることは間違いない。

 

そして遂に劇団天球の舞台が始まる時が来た。

 

稽古の成果を見せていく劇団天球の面々に加えて、石杖綱吉が演じる母親が舞台の上に現れると観客は息を飲む。

 

まるで太陽のような母親の姿、その優しさと美しさに、観客達は完全に魅了されていた。

 

主演の明神阿良也と共演していく石杖綱吉は、自然な母親の姿を見せていく。

 

トロピカルフルーツに妙に詳しい母親に笑ったりする観客も多数であり、石杖綱吉の演じる母親が観客達の心を鷲掴みにしていたことは確かだろう。

 

そんな太陽のような母親が、子どもを庇って亡くなる場面もしっかりと演じた石杖綱吉。

 

大切な母親を失った子ども達を演じた劇団天球の面々の悲痛な演技は観客達の涙を誘った。

 

母親が遺していた手紙を見つけた子ども達が、手紙に書かれていた母親の想いを知り、前を向いていく姿に感動する観客達は多かったようだ。

 

大盛況のまま終わった劇団天球の舞台。

 

カーテンコールで役者達が観客達に頭を下げてから、笑顔を見せていく。

 

笑顔で手を振っていた石杖綱吉は最前列の観客席に朝野市子を発見して、朝野市子と目を合わせた状態でウインクをしてみたりもしたらしい。

 

石杖綱吉のファンサービスは、しっかりとファンに届いたようで、大興奮していた朝野市子。

 

そんな石杖綱吉を見ていた明神阿良也もウインクしてみたりもしたようだった。

 

「石杖、また明日もよろしく」

 

「此方こそよろしくお願いします明神さん」

 

カーテンコールの最中に小さな声で会話していた石杖綱吉と明神阿良也の2人は、観客達の反応を見て、初日の舞台が成功したことを喜んだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。