スターズの社長として仕事をこなしている星アリサは、どんなに忙しくてもスターズに所属する役者が出演している作品には必ず目を通していた。
それがどんな作品であってもスターズの役者が出演しているなら必ず1度は見ている星アリサは、スターズの役者と共演することが多かった石杖綱吉の芝居も良く見ることになる。
母親であるならどんな役でも演じることができる石杖綱吉を見て、星アキラの母親である筈の自分よりも母性に溢れていると感じた星アリサ。
アキラに対して母親らしいことなんて何1つできていない自分が母親失格だと理解している星アリサは、それでもスターズの社長としては正しい判断をしてきたと思っていた。
不幸にならない役者を育てる為にスターズという芸能事務所を作った星アリサ。
役者だった頃の星アリサは、まるで透明な水のように何色にも染まってしまい、放っておいたら2度と戻らないほど黒く濁ってしまうような役者であったようだ。
役者ではなくなった星アリサがスターズという芸能事務所を作った理由は、メソッド演技で壊れてしまった自分のような役者にならないでほしいと星アリサが考えたからかもしれない。
事務所のごり押しと言われようとスターズの役者達は、スターのように輝く道を進んでいた。
若手トップ女優と言われる百城千世子を役者として育てた星アリサは、メソッド演技とは対極の演技を百城千世子に教えており、誰が見ても綺麗に見えるスターズの天使となった百城千世子。
ダブルキャスト演劇で百城千世子側で演出を務めた黒山墨字のおかげで役者として成長した百城千世子が、確実に役者としての寿命を伸ばしていたことは間違いない。
そのことと演劇で起こったトラブルを演出に変えて乗りきったことに関しては黒山墨字に素直に感謝している星アリサ。
演出を務めた黒山墨字にスターズの社長として星アリサは報酬を支払おうとしたようだが、黒山墨字に「金はいらねぇが貸しにしておく」と言われて報酬の受け取りは拒否されていた。
黒山墨字に借りを作りたくは無かった星アリサだったが、金銭で解決できそうにないと判断し、諦めて嫌な男である黒山墨字に借りができたことを認めたらしい。
スターズを去った役者のことも気にかけている星アリサは、海外で活動していた王賀美陸が出演している作品にも目を通している。
以前、百城千世子と夜凪景がそれぞれ主演を演じたダブルキャストの演劇が終わってから、それに参加していた王賀美陸が日本でも活動を再開し、いきなり王賀美陸が主演で映画やドラマが決まったりしていた。
それらの作品にも目を通していた星アリサは、王賀美陸が更に成長していることを敏感に感じ取っていたようだ。
以前と同じままの王賀美陸ではなく、役者として成長している王賀美陸は更に素晴らしい役者となっていく。
それは悪いことではないと星アリサは思っていた。
スターズの社長業を行いながらも時間に余裕があれば、スターズの役者達が出演する作品を見ていく星アリサ。
スターズの役者達と共演している石杖綱吉が演じていた母親を見ていた星アリサは、自然と微笑んでいた自分に気付く。
優しい母親を演じていた石杖綱吉を見ていると穏やかな気持ちになれていた星アリサは「綱吉は、本当に母親のように見えるわね」と思わず言っていた。
元役者であった星アリサから見ても完全に母親に見える石杖綱吉は役者の中でも異質な役者だ。
母親の役だけに特化している役者の石杖綱吉が本気で母親を演じたのなら、現役だった頃の星アリサでも敵わないと、星アリサ自身が1番理解している。
母親だけを演じる石杖綱吉という役者が子役の頃から知っている星アリサは、石杖綱吉という役者のことが嫌いではなかった。
いつも真っ直ぐな眼差しをした石杖綱吉という役者が、星アリサは嫌いではなかった。
初めて出会った時から、何も変わっていない石杖綱吉が嫌いではない星アリサは、スターズの役者と石杖綱吉の共演をNGにさせることはない。
寧ろ石杖綱吉による演技の引き上げを狙って、スターズの役者達を積極的に石杖綱吉と共演させていたりもするようだ。
石杖綱吉と共演した役者は演技が良くなると業界関係者なら誰もが思っていて、密かに引っ張りだこになっている石杖綱吉。
それが石杖綱吉という役者の需要が絶えない理由の1つであることは間違いない。
2時間ドラマで百城千世子と石杖綱吉の共演が決まり、娘と母親を演じることになった2人。
以前石杖綱吉が怪我した時のことを覚えていた星アリサは、現場の確認を怠らせることなく行わせていき、安全であるかの確認がしっかりとできているか厳しくチェックしていく。
チェックが終わるまで現場に入れない百城千世子と石杖綱吉は、待機している間に会話をしていた。
「久しぶりだね、石杖くん」
「そうですね、百城さん」
「石杖くんが入院していた時に何回か病院で会ってから、スケジュールが合わなくて、しばらく会わなかったけど、いつもテレビに元気そうな石杖くんが映ってて安心したよ」
「お互い忙しい身ですから、スケジュールが合わないと会うことも少なくなりますよね。退院してからは撮影が多かったんですが、元気な証拠になったなら良かったと思えてきますよ」
「安全確認のチェック、結構長引いてるみたいだね」
「長引いてるみたいですけど、以前天井から瓦礫が落下してきた時のことを考えると、必要なことですから我慢しましょう」
「じゃあ待ってる間に寄生虫の話でもしようか石杖くん」
「それは普通に嫌なんで止めてくれませんか百城さん」
「まずディクロコエリウムは幼生の状態でアリの食道下神経節に入ると、宿主のアリの行動を支配して、草の先端を噛ませて身体を固定させるんだよ。羊が草を食べる夕方から朝の時間だけね」
「止めてくれませんかって言いましたよね!」
楽しそうに寄生虫トークを開始する百城千世子の側で待機していた石杖綱吉は、嫌でも寄生虫に詳しくなってしまったらしい。
安全確認のチェックを終えた星アリサが戻ってきた頃には、完全に目が死んでいた石杖綱吉。
「千世子?」
何をしたのと言いたげな顔で百城千世子の名前を呼んだ星アリサ。
「ちょっと石杖くんに寄生虫の話を聞いてもらっただけだよ」
悪びれる様子もなく答えた百城千世子は、笑顔だった。