依頼があればなんでもござれ 万事屋リコリス! 作:森羅万象丸
自然と書いてしまっていました。
── 攘夷浪士に囚われた央国星の皇子を救出せよ。
それがDA上層部からの指令内容だった。
当然ながら救出である以上は、救出対象である皇子を傷つけてはならない。
DAに所属し、リコリスとして裏から江戸を守ってきた少女たちはそれを大前提として任務に当たっている。
しかし彼女は
「ギョエエエエ! 余のチャームポイントがあァァァァ!!?」
血色の悪い顔を更に悪くさせ叫ぶのは皇子ハタ。
彼の額から噴水のように血を流れていた。元々頭に生えていた触角はアスファルトの上で無慈悲に転がっている。
しかしそんな彼の状態は、はっきり言ってマシな方だった。
何せ彼の周囲には銃弾に頭や胸を貫かれ、死体として転がる攘夷浪士たちがいるのだから。
「そんなに騒がないでください。どうせ生えるんですから」
「おい、たきな!! お、おま、なんつーことを!!」
ハタの叫びに無表情で答えるのは、井ノ上たきな。
この惨状を作り出し、救出対象者を傷つけてはいけないという前提を破った張本人であった。
たきなの同僚である春川フキは顔を青ざめるが、たきなは相変わらず動じる様子がない。
「皇子を救出するためです。あそこで私が撃たなければ皇子は攘夷浪士に首を斬られていました」
「いや、そうかもしれんが! 皇子ごと撃っちゃ駄目だろ!?」
経緯はこうだった。
たきなたちは攘夷浪士たちを追い詰めることに成功。しかし最後の手段と攘夷浪士たちはハタ皇子を人質にし、刀を皇子の首筋に当てた。
動けば皇子の首を斬る。ありがちだが実に効果的な悪足掻きにフキはどうすべきかと本部の指示を仰ごうとする── その瞬間だった。
たきなは攘夷浪士たちが所持していたであろう軽機関銃をいつの間にか構え攘夷浪士たちへと銃口を向けていたのだ。ハタ皇子ごと。
「え。ちょっ待っ」
ダダダダダダダダッッッ!!!
フキの制止を聞く前に引き金は引かれた。
攘夷浪士たちは銃弾の雨を受け無慈悲にも倒れ伏したが、ハタ皇子は奇跡的にか、たきなの腕ゆえか、命を失うことはなかった。
触角は銃弾を受けて吹き飛んだが。
「血が! 血がァァ、まるで花火のような綺麗さではないかって言ってる場合じゃないよね、これ!?」
といった経緯で、この惨状が生まれたのである。
「おいたきな! これは最悪打ち首だぞ! どうするんだ!」
「…… わかりました。では」
ブスッ。
たきなはその辺に落ちてた小刀をハタの額に刺した。
「ノオオオオ!!!!」
「何してんの!? おまえ、何してんの!!」
「いや、生えればいいかなーと思いまして」
「お前は脳ミソにキノコでも生えてんのか!? せめてそこに落ちてる触角をさせよ!」
一応、小刀が蓋となって出血は止まったが、新たな痛みにハタはついに白眼を剥いて倒れたのだった。
*
DA江戸支部 司令官室。
ハタ皇子の一件からしばらく、たきなは楠木司令官から呼び出しを受けていた。
「転属… ですか。楠木司令官」
「腹を切れ── と言われんだげマシだと思え。ハタ皇子が痛みのショックにより事件の記憶を一切失ったのが幸運だったな。救出対象者に銃口を向けた事実を知られることはない。とはいえハタ皇子が怪我を負ったことに対する責任は取ってもらう必要がある」
楠木は無表情に淡々と厳しい処遇をたきなに告げた。
当然、たきなとしては納得できないが、司令の命令に逆らうことはできない。
黙って司令の話を聞き続ける。
「お前の配属先は各地にある支部の中でも一際特殊だ。実験的な意味合いもある支部だがその分、学べることも多いだろう。それと配属先にもリコリスはいる。一応、だがな」
何やら気になることもあったが、たきなは深く質問することはなく司令官室を出ていった。
様子を黙って見届けていた秘書は、たきなが司令官室から離れたことを確認すると口を開く。
「本当によろしかったのですか?」
「たきなの行動に問題があったのは事実だ。我々DAの役目は何に変えようとも天人を守ること。それが結果的に地球の未来を守ることに繋がるからな。だが奴はそれを破り救出対象を殺しかけた。その責は重い」
司令の物言いは当然だ。DAの解体どころか、地球と央国星で戦争も有り得たのだから。
「しかし、よりにもよってあのような支部に配属するというのは……」
「お前の懸念はわかっている。まあ良くも悪くも影響が強すぎる男だからな。さて、どうなるか……」
*
江戸の町の一つ、歌舞伎町。
江戸中の汚いモノが集まり煮詰まったような町に制服姿の美少女、たきなはキャリーバッグを引っ張りながら歩いていた。
真っ昼間とはいえ無防備に過ぎるが、彼女は天人を守る盾であり矛でもあるリコリス。
何が起きても基本的には問題ないだろう。逆にやりすぎなところがあるが。
「ここが……」
たどり着いたのは歌舞伎に店を構える小さなスナック。
スナックお登勢と看板を掲げたその店は、夜が営業時間である為、外から見ても客の気配が感じられなかった。
とはいえ話は事前に通っている筈なので、たきなは引き戸を開いた。
「失礼します。井ノ上たきなです」
「ん? なんだいアンタ」
店内には酒瓶の整理をしていた老婆が一人。
たきなの来訪に気づくと訝しげに眉を寄せた。
「あの、DAから配属についての報告がきている筈では……」
「あー、はいはい。楠木のとこの娘かい。確かに話は聞いてるよ。まあ、そこに座りな」
「は、はい」
もしかして店を間違えてしまったのかと心配になったが杞憂だったようだ。
たきなはカウンター前の椅子に座った。
「一応、ここはDAとやらの支部扱いで、あたしは管理者をやってる。名前はお登勢だ。ただ管理者なんてのは、名ばかりみたいなもんだがね」
「名ばかり、ですか? あの…… 失礼なのですが、ここは本当にDAの支部なんですよね?」
「そうだよ。あたしとしてはあんまり良い気分じゃないがね。そもそもあたしは、あんたらみたいなガキに殺し屋紛いの事させる連中のことが気に入らないんだ」
管理者を任されていると言いながら、それにあるまじき発言をするお登勢。
これには流石のたきなも目を丸くする。
「では何故、DAの管理者を……」
「昔、色々世話になってね。まあ大人には色々あるんだよ。それよりもあんた、今日からうちで働くんだろ?」
「は、はい。一応はそういうことに」
「だったら話は早いよ。まず第一の仕事だ」
そういってお登勢は店の引き戸を開く。
「ついてきな。この上にいる天パバカから滞納した家賃を引き出すよ」
「え、あの、私はリコリスなのですが…… 何故そのようなことを? それに、ここには私以外のリコリスもいると聞いているのですが、どこに」
「リコリスだからってなんだってんだい? 仕事を選ぶのは一人前になってからだよ。それにもう一人のリコリスなら上にいる。行ってみればわかるよ」
納得いかなかったが、結局たきなは言われるがまま外に出る。
そして外の階段を上り二階の事務所と思われる、万事屋銀ちゃんの前にたどり着く。
お登勢が扉の前に立ち、たきなは後ろに控える。
「なぜ、リコリスの私が……」
こんな殺しでもなんでもないことをすることになるのだろうか。
前にお登勢がいるのにも関わらず、つい本音を漏らしてしまう。
しかし聞こえなかったのか。特に気にしていないからか、お登勢は構わずインターホンを鳴らした。
ピンポーン。
「…… 出ない」
しかし、しばらく待っても出なかった。
もしかして出掛けているのだろうか?
「お登勢さん。ここは出直した方が良いのでは?」
「いや、あいつはいるよ。この時間は寝てるか、起きてジャンプでも読んでるかだ」
ピンポーン
しかし反応はない。
「……」
ピンポーン。
やはり反応はない。
ピンポーン。
「……」
ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン
ピピピピピピピピ──
「うるせえェェェェ!!! 金ならねーって言ってんだろおォォォ!!」
ドカンッッ!! と勢いよく扉が内側から吹き飛んだ。
それを予期していたのかお登勢はさっと横に避ける。
すると受け止める相手を失った扉は、そのままたきなへと向かい、
「え?」
たきなの体を下敷きにした。
「あり?」
扉を吹き飛ばした張本人である銀髪の男は扉の下敷きになった、たきなを見て頭に疑問符を浮かべたのだった。
*
「井ノ上たきなと言います。改めてよろしくお願いします」
「えーと、坂田銀時っていいます。はい。いやー…… なんていうかねー。うん。いやわざとじゃないのよ。うん」
万事屋銀ちゃんの客間にて。
たきなとお登勢は隣同士になり、銀時と名乗った男は向かい側に座って互いの自己紹介を済ませていた。
銀時は間違ってとはいえ、たきなの頭に小さなコブを作ってしまた気まずさから目を泳がせている。
「たくっ。よく確認もせず、突っ込んでくるんじゃないよ。こんな娘を傷物にして」
「んだババア! 元はといえばお前が避けるからだろーが!」
「何言ってんだい! テメーが家賃を払わねーからいけないんだろーが!」
「あの…… お話の所良いでしょうか?」
「「あん?」」
このままでは二人の口論が無駄に続いてく。
そう悟った、たきなは話題を変えるために割って入った。
「この支部のリコリスは一体どこに?」
「あ、あー。あいつか。あいつなら…… おい、神楽ぁ! いい加減起きろ! 新入りだぞ」
銀時はソファーから立ち上がると襖を開け、隣の和室に向かって叫んだ。
すると和室の押し入れが開き、中から寝癖だらけの赤毛が目立つ少女が出てきた。
「んー、うるせーアルなぁ。もうちょい寝かせろよ」
「アホ。今何時だと思ってんだ。いいから自己紹介しとけ。今日、新しく来たシマリスのバギナだ」
「リコリスのたきなです。最初から最後まで、森羅万象間違ってるんですけど」
「おー、お前アルか。私は最強ヒロイン。通称百億の女、神楽アル」
「「テメーは何処の海賊王の幼馴染みだァァァ!!」」
神楽のボケに銀時とお登勢は同時にツッコミを入れた。
「あなたが、リコリスですか? 失礼ですが、とてもそうには……」
「まあそう思われても仕方がないねぇ。なんせそいつは元々夜兎族の天人。不法入国してきた所をリコリスに捕まって、成り行きでリコリスになったバカだ」
「え? あ、天人!? この人が」
お登勢から告げられた衝撃の事実に、たきなは思わず声を上げた。
ほとんどの天人が人間離れした見た目をしているのに対し、目の前の少女は地球人と全く変わらない容姿をしている。
それに地球人以外のリコリス等、前例がなく、聞いたこともない。
一体何故そんな少女がこの支部にいるのか。
「うちは実験的な意味合いのある支部らしくてね。よく知らんけど」
「そ、そんな適当な理由で天人のリコリスが支部に……」
「おうおう、さっきから新入りの癖して随分と失礼アルな、お前。いっとくけどな、この国は上下間系に厳しい国アル。お前は後輩。私は先輩。つまり私に従う義務が……」
「バカなこと言ってねーで顔でも洗って、髪をまとめてこい、ガキが。これから仕事なんだからよ」
「あ、痛っ!!」
たきなを威嚇する神楽だったが、銀時から空手チョップを頭にくらう。
神楽は、んだよーとブツブツ文句を言いながらも素直に洗面所へ向かって行った。
「なんだい。てっきり閑古鳥が鳴きっぱなしかと思ってたのに依頼が来てたんだね」
「そーういうことだ。わかったら家賃の支払いはもうちょい待てや。がっぽり稼いでくっからよ」
「ふんっ。信用してもいいもんなのかね。まあ、いい。たきな、第一の仕事はお預けだ。こいつについて行って、ここでのやり方を頭に叩きこんでおきな」
「…… ! はい、直ぐにでも!」
仕事の依頼! その言葉を聞いて無表情であることが多いたきなの目が僅かに輝いた。
この男がリコリスの関係者であることは、わかる。
つまり銀時が出向くということはリコリスとして本格的な仕事が出来るかもしれないということ。
たきなはやる気を見せるため大きく返事をした。
「おい、神楽! そろそろ出るから早く着替えろ」
「女の支度は時間がかかるものアル! 待ってろよ!」
銀時は洗面所で髪を直しているであろう神楽に一度催促すると、たきなへと向き直る。
「さてマキマっていったな」
「たきなです。もう、きしかあってないし。何処のヒロインですか」
「たきな。俺の仕事は一筋縄じゃいかねぇ。覚悟しとけ」
さっきまで飄々としていた男の顔つきが変わり険しいものとなった。
その変貌にたきなは少し驚きつつも、熱意を込めて返答をする。
「っ! 望むところです」
「へっ、良い覚悟だ。それじゃあ、お前も準備しな!」
そう言った銀時は、いつの間にか用意されていたヘルメットと黄色の作業服を掲げ、高らかに叫んだ。
「行くぞ。蜂の巣駆除に…… !」
「………………… はい?」
DirectAttack 通称DA・・・ 天人の生命を守ることを絶対とする組織。幕府からは完全に独立しているが協力関係にある。
リコリス・リコイル本編とは違い、基本的に地球人よりも天人を守り、天人に敵対する存在の抹殺を優先としている。しかし、それが結果的に地球を守ることに繋がるとリコリスたちは信じている。
本編同様、一般人に存在を知られてはいない。